fc2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

祥太の母

2017年04月23日(Sun) 08:12:40

祥太が女子の制服で登校するようになって、さらにひと月が過ぎた。
初めてセーラー服でくぐった教室の玄関の向こうからは、予期した通り「おお~」という声があがったけれど。
冷やかすような声はひとつもなくて、「よく思い切ったね」という無言の称賛さえ伝えてくるものもいた。
男子校なのに、女子の制服も採用したこの学校で。
数はまだ少なかったけれど、自分の内面に目ざめた子たちがクラスで決まってなん人か、
半ズボンばかりだった教室のなかに、スカート姿を交えるようになっている。

ユウヤとの関係は、すでにクラス内で無言の承認を受けていた。
もちろん、育ち盛りで大量の血液を必要とするユウヤは、ほかの生徒を相手にすることも多かったけれど、
祥太は嫉妬しなかったし、それが祥太の身体を気遣うユウヤの形を変えた愛情だということも自覚していた。
そんな祥太をある日の放課後、ユウヤはやはり放課後の教室の片隅で抑えつけていた。
セーラー服の襟首に血が撥ねないようにするのは、相手が取り乱さないという前提あってのこと。
すんなりと伸びた首すじに、ユウヤは深々と牙を食い入れて、
その深さが自分に対する執着の深さだと察した祥太は、本物の女子のような淑やかさで、ユウヤの狂態を受け止めてゆく。

「あのさ、頼みがあるんだけど」
「なあに?」
祥太の問いにユウヤは、直截にこたえた。
「きみのお母さんと、仲良くなりたい」
飛び火するって、ほんとうなんだ――祥太は素直にそう思った。
だれかの血を吸って気に入ると、血を分けた親族のことも気になっていくという、ユウヤから教わった彼らの習性。
そういえば、ユウヤは自分の母親の血を好んで吸うといっていたっけ。
それに、こんなことも言っていた。
襲った女性がセックス経験者の場合、ほぼ例外なく性交渉も遂げてしまうと。
みなまで言わなかったけれど、ユウヤは自分のお母さんまで姦っちゃってるんだ。
そのユウヤが、母さんのことを狙っている――
ふつうなら嫌悪しなければならないユウヤの感情に、祥太はなぜかゾクリと胸を震わせた。
「か・・・考えてみる」
「いい返事を期待しているよ」
「そうだね」
「それとさ」
ユウヤはなおも、油断ならないことを言った。
「きみの母さんには、うちのパパもご執心なんだ」

どうしようか?悩む家路は短くて、けれども祥太の結論も速かった。
本人にそのまま、訊いてしまおう。
そんなふうに思えたのは、彼が母親のサバサバトした性格をよく知っていたから。

「アラ、そんなこと言われたの?」
いちぶしじゅうを告げられた母さんは、大きな瞳を見開いて、さすがに驚いていたけれど。
祥太の話を、意外にまじめに受け取ってくれた。
「父さんに相談しようかな――でも、いいって言うわけ、ないよね?祥太が父さんならどうする?
 男ってこういうとき、どういう行動取るものなのかな・・・」
母さんもさすがに、すぐには決めかねたらしい。ちょっと言葉を途切らすとすぐに、
「ちょっと考えとく」とだけ、いった。
息子のまえでそれ以上の動揺を見せるのは適切じゃないと、きっとそう思ったんだろう。
でも、そこははっきりとした母さんのこと、「返事は必ずするから」と付け加えることも忘れなかった。

「ユウやくんだけなら、遊びに連れてきてもいいよ」
母さんが祥太にそう告げたのは、ある日の登校前の事だった。
「えっ?そうなの?」
出勤前の父さんに声が届かないよう、とっさに声をひそめると。
「父さんのことは気にしないでいいから」とだけ、母さんはいった。
気にしないでいい・・・って、どういうこと?
こんどは祥太が悩む番だった。
父さんは母さんが吸血鬼に咬まれるのを認めてくれた?
それとも、母さんは自分のなかだけで、物事を処理しようとしているの?
考えもまとまらないままに、祥太はその日の放課後、ユウヤを家に誘っていた。

ごくり。
生唾を呑み込みながら、つい覗き込んでしまっている。
祥太の勉強部屋のなか、母さんと2人きりにしてあげたユウヤは、
いつもクラスの子たちにするように、母さんのこぎれいなワンピース姿にも、衝動的に抱きついていった。
首すじを咬まれる時、母さんが声をこらえながら立ちすくむのがみえた。
チューッと音をたてて吸い出される、母さんの血――
忌まわしい光景のはずなのに。スカートのなかで一物を逆立ててしまっているのはなぜ?
ふさん着のデニムのスカートのなか、昂ぶり逆立つものが暴れるのを、祥太は抑えることができなくなっていた。
貧血で堪えられなくなった母さんが畳のうえに突っ伏して、
うつ伏せになった母さんにのしかかったユウヤが、母さんのふくらはぎに咬みついて、
肌色のストッキングをむぞうさに咬み破ってしまったところで、祥太の昂ぶりは頂点に達してしまった。
スカートの裏地に生温かい粘液をほとび散らしてしまいながら。
自分の醜態さえも気にかけないで。
祥太はただただ熱い視線で、吸血鬼のクラスメイトの腕のなかで悶えつづける母さんの横顔を、見つめ続けていた。

女の生き血を欲しがる吸血鬼の親友に、自分の母親を差し出してしまった。
禁断の領域を一歩踏み越えてしまったところに、もはや罪悪感も自己嫌悪も雲散霧消してしまっていた。
新調したばかりの母さんのワンピースを、「祥太のお母さんを初めて汚した記念に」と、戦利品としてせしめていったユウヤ。
さすがに下着は恥ずかしいからと回収した母さんは、ブラやスリップ、ショーツにストッキングを洗濯すると、次の日祥太に持たせていった。
「これ、ユウヤくんに渡してあげて」
汚れものを外に出すのだけは嫌だという主婦らしい感覚を母さんが捨てずにいるのが、むしょうに嬉しかった。
その翌日、ユウヤはもっと刺激的なことを、祥太に囁いていた。
「ちょっと小さかったけど、お母さんのワンピース俺でも着れるんだよね」
祥太の母親に執着していた父親のため、ユウヤは「身代わりになってあげる」といって、祥太の母親の服を身にまとい、父親の相手をしたという。
「母さん、ユウヤのお父さんに、もう間接的に犯されちゃっているんだね」
そういうことになるね・・・ユウヤの宣告に、祥太はくすぐったそうに笑い返した。

いよいよ母さんを、ユウヤの家に連れ出す日。
祥太は唖然として、母さんを見つめていた。
若いころ着ていたという超ミニのワンピース姿もさることながら、
もっとびっくりだったのは、母さんの隣に父さんまで立っていたから。
「いちど、ごあいさつをしなくちゃって、父さんも仰るの。あなた、ちゃんと紹介して頂戴ね」
いつものしつけに厳しい母さんの顔が、そこにあった。

1時間後。
ユウヤの家は、たいへんなことになっていた。
自分の妻が襲われるのを見るに忍びなかったらしい父さんは、さきに私の血を吸って意識をなくさせてほしいと願い、
ユウヤの父さんはまず、祥太の父親を咬んでいた。
けれども祥太の父親の希望は半分しかかなえてもらえなかった。
人妻を犯すシーンを夫に見せつけたがるという、けしからぬ趣味を彼は持っていたから。
倒れた父さんの首すじを、ユウヤの母さんがチロチロと舐めつづけながら、囁きかけていた。
「奥さま、きれいなショーツをお召しになっていらっしゃるのね。お洒落なひとは、そういうところから心がけが違うわ。
 えっ?いつもはそんなことないんですって?だとしたら・・・主人のために特別なのかしら。ありがたいことですわ。
 お肌も白くて綺麗・・・主人が執着するわけだわ。いつもああやって、人妻を狂わせてしまうんですのよ。
 いちど狂っちゃうともう、大変・・・お留守の時はお宅にかけるより、うちに電話するほうが奥さまつかまると思うわ。
 私ひとりで主人の面倒を見れるわけではないですから、むしろ助かるんですけどね」
祥太とユウヤは、そんな親たちのようすをかいま見ながら、ユウヤは祥太のスカートの奥に手を這わせてゆき、
祥太はそんなユウヤの欲望に応えるために、あらわになった素肌を彼の逞しい肢体へとすり寄せていった。

ともだち。

2017年04月22日(Sat) 15:23:35

この学園に潜入して、ひと月ちょっとが経った。
ミサキユウヤは、吸血鬼。
生まれつきではないはずなのだが、吸血鬼になる前のことは、あまりよく憶えてはいない。
記憶というものにあまり重きを置かなくなったのは、血を吸う性のせいだとは、なんとなく感じている。
身近な人間の脚や首すじを咬んで血を吸うなどというおぞましい行為など、いくら克明に憶えていたって仕方ないから。
それでも忘れられないのは、親たちからこの学校に転校になると告げられた時、
「安心をし。こんどの学校、吸血鬼を受け入れる宣言をしているんだって。
 クラスのお友だちの血を、好きなだけ吸えるんだよ」
と言われたこと。
ずっと人目を忍んでしてきた行為を、これからはもうおおっぴらにすることができる。
子どもらしい素直な歓びがある一方で、なにかにつけ疑いをさしはさむことを忘れない本能も、捨て去ることができずにいた。
――まてよ、そんなうまい話あるのか?
というわけで、当分は自分の正体を隠して、目立たない存在として新しいクラスにとけ込むことに腐心した。

転校生が注目を浴びるのは、最初の1~2カ月である。
目新しいうちこそいろんな人に声をかけられるけど、
もともとそんなに取り柄のあるわけではなくスポーツマンでもない彼が、人から忘れられるのは早かった。
意図してそう心がけた結果とはいえ、本人が寂しがるほどに。
――どこに行っても、居場所は教室の隅か日陰の廊下なんだな。
そのほうが、居心地はいいんだけど、と、自らを慰める。

その代わり――放課後の、だれかと2人きりになるほど遅い時間の教室は、彼の支配下に入ることになる。
その日の獲物に選ばれた少年は、なにも知らずに彼といっしょに2人きりになって、
むき出された飢えた牙を目のまえに、どうすることもできなくなって、咬まれていった。
軽度のマインドコントロールを心得ていたユウヤは、標的と決めた男子1人だけが教室に残るよう、周囲を仕向けることができたのだ。

――どうして親は、わざわざ男子校など選んだのだ?
吸い取ったばかりの血で口許をネットリさせながら、ユウヤはほんの少しだけ心で愚痴る。
それはやっぱり、どうせ支配するのなら、可愛い女の子のほうが良いに決まっているではないか。
ああ、そうだった。
ここは、吸血鬼を受け入れてくれるって宣言した学校だったっけ。
用心深くいまだに正体を隠している彼にとって、それはまだあまり実感できるありがた味を伴わないメリットだったけど。

血を吸った同級生の記憶は、その場で消すことにした。
うわさが広まるのを防ぎたかったのだ。
口封じに血を吸い尽してしまうという発想は、彼にも彼の家族にもない。
そこまですることはないじゃないか――そんな発想の持ち主である彼らにとっては、吸血鬼を受けれる街は、別天地のはずだった。
記憶を消された同級生は、翌日ほんのちょっと蒼い顔をして登校してきて、
でも仲間に向かってユウヤの存在に対して警告を発することはなかった。
そしてその日は、貧血気味の「お得意様」を除いた別のだれかと、帰りは2人きりになるよう仕向けていく。

咬まれた痕は咬まれた者にしか見えないから、彼が同級生たちに加えた犯罪の痕は、まだ当面気づかれることはないだろう。
濃紺の半ズボンに同色のハイソックスという、男子としてはマイナーなスタイルの制服も幸いした。
首すじでは目立つので、ハイソックスを引き降ろしたふくらはぎに咬みつくことで、
彼の痕跡はさらにしばらく長く、人目に触れずに済むはずだ。
もっとも――ハイソックスに独特な嗜好を持っていた彼はしばしば、衝動のおもむくままにそのまま咬みついて、
よだれをたっぷりしみ込ませながら痕を残してしまうのだが。

その日はしまった――と思った。
体育大会の翌日の事だった。
クラス一丸でがんばったすがすがしい記憶を振り払うことができなくて、その日はだれにも咬みつくことなく家に帰ったのだ。
貧血気味で迎えたその日、彼はだれかひとりを教室に残すためのマインドコントロールを取ることができなかった。

――母さんに頼んで、血を吸わせてもらおう。
脳裏に拡がりつつある眩暈を抱えながら、ユウヤはひっそりとそう思った。
母さんも吸血の習慣を持っていたが、同時にまだ体内にいくらかの血を残していた。
その点はユウヤも同じだったから、彼らは外部で獲物にありつけなかったときには、
お互いの血を吸い合いうことで当座の飢えをしのいでいたのだ。
この学校に来てから、しばらく母さんの血を飲んでいない。
女の柔肌に牙を突き立てるのは、実の母親が相手でも、ちょっとドキドキする。
ユウヤもまた、本来は青春真っただ中の中学生なのだ。

ふと顔をあげると、教室の入り口から中を覗き込んでくる生徒の姿が目に入った。
同級生の越川翔太だった。
「忘れ物?」
ぞんざいに投げた言葉に、祥太はううん・・・とかぶりを振って応えてきた。
そしてこちらに歩み寄って来ると、信じられない言葉を口にした。

もしかして、喉渇いてるんじゃない?

え・・・?
空とぼけようとして外した視線を、祥太は追いかけるようにまわり込んだ。
「朝からずっと具合悪そうにしてたけど、血が欲しいんだよね?」
祥太の質問は真正面過ぎて、応えを躊躇して黙りこくってしまった。
陰にこもった態度は相手を警戒させるから、よくない。
父から教わったことは、まだまだ付け焼刃に過ぎなかったと、いやというほど自覚する。
「だいじょうぶだから。知ってるだろ?ここは吸血鬼を受け入れているって」

祥太のことは、つい3日ほど前に一度、咬んだはず。
ほかの少年たちと同じように、ちょっと戸惑って、なんなく金縛りにかかって、唯々諾々と首すじを咬まれていったはず。
そのあと靴下を引きずりおろすつもりが、性急な衝動のままに舌を這わせて、ハイソックスをよだれまみれにしてしまったのが、いつもと違うところだった。
「ハイソックス咬み破るのが好きなんだよね?
 きょうはなんとなくきみに咬まれそうな気がしたから、新しいのおろして履いてきたんだ」
スッと差し伸べられた脚は、男子にしてはなだらか過ぎる、すらりとしたシルエット。
ひざ小僧のすぐ下までお行儀よく引き伸ばされた濃紺のハイソックスが、教室の窓から射し込む陽射しを照り返して、
真新しいリブをツヤツヤと輝かせている。
しぜんと口許を近寄せてしまい、気がついたら祥太のハイソックスに、じわじわとよだれをしみ込ませてしまっていた。
祥太はクスクスと笑いながらも、彼の行為を受け容れてくれた。
「なんか、くすぐったいな。あと、なんか、やらしいよね?」
行為の本質が伝わるのだろうか?
ユウヤはもういちど舌を這わせて、ナイロン生地のしなやかな舌触りを愉しむと、おもむろに咬みついていった。
牙の切っ先にまでよだれが伝い落ちるほど、喉の奥がはぜるほど、人の生き血に欲情していた。

あー・・・
祥太のあげるうめき声もかえりみず、ひとしきり血を吸い取ったあと顔をあげると、祥太は額を抑えて机に突っ伏していた。
だいじょうぶか?と声をかけ気づかうつもりが、もうどうしようもない衝動のまま、
座った姿勢を崩しそうになる祥太にのしかかって、教室の床の上に引きずり倒す。
そのまま身体を重ねていって、牙の切っ先で長髪になかば覆われた首すじをさぐっていった。
あ・・・
ユウヤの下で、祥太が再び声をあげた。
祥太はユウヤの邪魔をしないよう彼の二の腕に手を添えながら、いった。
「勃(た)ってるね?」
え・・・
ふとわれにかえると、おそろいの半ズボンのなかで、股間の一物が勃起しているのに気づいた。
そうなんだ。こうしているときにいつも感じるのは、この羞ずかしい劣情なのだ。
でも、待てよ。
身体を重ねた相手の変化を感じ取ったユウヤは、ニッと笑ってこたえていた。
「きみだって、勃ってるじゃないか」

「いいから咬んで」
言われるままに牙を埋めた首すじから、十代の少年の新鮮な血液を、じゅうぶんに摂取していく。
胸の奥の空しいすき間を暖かなものが埋めていくのを感じながら、
一方で股間の昂ぶりが一層熱を帯びるのも、感じないわけにはいかなかった。
2人の少年は、かたや血を吸う行為に、かたや吸われる行為に、しばらくの間熱中し続けていた。

きみ、血を吸った子の記憶を消そうとしたよね?
ぼくもだから、危うく忘れかけそうになったんだ。
でも・・・きみに咬まれるのがなぜか、ひどく愉しく思えて・・・忘れることができなかったんだ。
忘れちゃいけないって、そう思って、きみの行動に注意してたら、いつも違う子を狙って2人きりになろうとしているのに気がついて。
目をつけた子だけじゃなくって、順番に咬んでいるのは、弱らせちゃいけないって思っているんだなって思ったら、なんか怖くなくなっちゃって。
体育大会の帰り、だれにも声をかけないで帰ったから、ちょっと心配であとを追いかけたんだけど、
きみはいい顔をしていてさばさばと帰っていったから、みんなと頑張れていい気分でいるのを壊しちゃいけないと思ってあきらめたんだ。
ぼくで良かったら、時々声かけてね。獲物をつかまえられなかった時なんか特に・・・

血を吸われるのが快感で、記憶を抱え続けた子。
そんな子が、クラスにいたんだな。
ユウヤはいままでにない安ど感を、覚え始めていた。けれどもまだ、1日のブランクは埋め切れていない。
浅ましいと思いながらも、ユウヤはいった。
「もう少し、きみの血を吸ってもいい?」
祥太はくすぐったそうに笑って、いいよ、と、こたえた。
屈託のない、眩しいような笑みだった。
ユウヤは祥太の顔に唇を近づけて――気がついたら唇を重ね合わせていた。


かなりの貧血で緩慢になった足取りは、親に気づかれるほどだった。
「ショウ、疲れてるみたいだよ。早く寝たら」
気づかう母親がかけてきた声さえ、「憑かれている」って聞こえちゃうほどに。
ユウヤの支配を受け入れることにした少年は、思い切って口火を切った。
「うちのクラスに吸血鬼がいるんだ。ボク、今度から彼に血を吸わせてあげることにしたから」
母親は大きく目を見開いて息子を見、そして張りつめた視線をフッと、意図的にゆるめた。
「学校が開放されるって、そういうことなんだね」
あなたはそれでいいの?と問いかける母親に、ウン、と応えたときの顔つきを見て、
母親はちょっとだけ逡巡し、それから仕方ないかな、という笑みを浮かべて、いった。
「自分で決めたんなら、そうすればいいよ」

もうひとつ、お願いがあるんだけど・・・
祥太はちょっとだけおずおずとした声色になって、母親の顔色を窺った。
なにか出費を伴うおねだりをするとき、この子はいつもこうだから。
そう思いながら促す母親に、祥太はいった。
「うちの学校さ、四月から女子の制服も採用したでしょ?ボクこんどから、女子の制服で登校したいんだ」
ユウヤの彼女になってあげたくて・・・
うつむきながら、新たに自覚した欲求を告げると、母親は「わかった」とだけ、いった。
「父さんには私から、話をしておく」

その週の週末、祥太は母親に伴われて、入学の時制服を作ったお店に、採寸に出かけていった。

受け容れた吸血鬼の感化? 女装教諭、教壇に立つ

2017年04月21日(Fri) 07:51:28

吸血鬼受入れ宣言を出した市内の名門男子校で、このほど女装の教諭が登場し話題となっている。
同校の教諭たちのほとんどが吸血鬼を受け入れ、そのほとんどが夫人ともども吸血行為に応じていることは本誌でも折々報じてきたが、こうした傾向が同行の風紀を崩壊させる作用を持つ一方で、「一種不可思議な解放感(同校高等部3年生)」を生み出しているのもまた、確かなようである。
女装して教壇に立つようになった教諭は、3名同時に登場した。
この3名の教諭は、一時過剰な献血行為による死亡が伝えられたもののほどなく蘇生、帰宅のうえ復職を果たしている。
3名はGW明けから女装して教壇に立つことを予告、学校側はこれを受け容れ、校内の集会で生徒全員に告知された。
予告通り3名の男性教諭は爽やかなワンピース姿で登校、生徒の注目を浴びた。
生徒たちの反応はいちように好意的で、「種々の障害を乗り越えて長年の欲求を果たした先生は、尊敬に値する」「とにかく理屈抜きで、カッコイイ。夢を実現する力をもらえた」「生死の境目を乗り越えたかいがありましたね」(いずれも学園の裏掲示板より転記)と、肯定的な書き込みが目立っている。
3名はいずれも、「吸血に応じる時には、いつも女装している」と回答。吸血鬼と女装との関係は十分に明らかにされていないが、女装教師の誕生が吸血鬼の希望によるものとも、3名が自発的に希望し、学校側に吸血鬼の口添えが伝達されたともいわれている。

「このストッキング、妻とおそろいなんですよ」つややかな光沢を帯びたストッキングの足許を自慢げに披露するのは、谷口都教諭。(校内では女性風に美彌子と改名済み)
自身の血を吸った吸血鬼がストッキング・フェチだったと明かす谷口教諭は、「それがわたしにも伝染ったんです」と明かす。
やがて夫人の奈々枝さんを紹介する仲となり、親密さは一層増したという。
「わたし抜きで妻だけがデートに誘われることもありますが、むしろ誇らしい気分」という美彌子さん。「でも、女装しているときだと、女同士のような嫉妬を感じることも」と、複雑な胸中もかいま見られた。
「男性として勤務したときの習慣を徐々に忘れつつある」というのは、永村涼介教諭。教諭の事務机には教科書や参考書、出席簿などとともに、数々の香水や化粧セットが並ぶ。「女子生徒から最新の口紅を教わることもあるんです。エエ、もちろん校内でお化粧は禁止で、みんな校則は厳守しています。みんないい子ですからね」教諭によると、「学校を出たときの生徒たちのお洒落のセンスは、ここ最近ですごく進歩している」という。受け持ちのクラスの生徒の3割は吸血体験を済ませているというが、センスの向上は彼女たちの存在が大きいらしい。
しかし、ここは男子校のはず――と記者が水を向けると、永村教諭は明るく笑った。「ご存知のうえでわざわざ、お尋ねになるんですね?当校は先月から生徒たちの女装が解禁になりました。女子の制服も正式に採用され、生徒のうちまだ約2~3割ですが、女子の制服で登校するようになりました」放課後の女子率は、さらに高いという。
男性時代の記憶が薄れつつ問いいながらも、その一方で無類の愛妻家と呼ばれる谷口教諭。校内では奥さんの元美さんと似通った名前の「里美」で通しているという。
「勤務を終えると家内を伴って、お邸に伺うんです」と明かすのは、二村祥太教諭。まだお嬢さんが小さい家庭内では、夫婦ともどもの献血は子供の眼の刺激が強すぎると、「儀式」の時には必ず相手方を訪問するという。
相手方は、受け持ちのクラスの男子生徒の家庭。早い段階から吸血鬼化した一家で、二村教諭の血を最初に吸ったのも教え子だったという。
「一種の家庭訪問ですかネ」と、二村教諭はイタズラっぽく笑った。
「彼がわたしの血を吸うときには、いつも女装するようにしています。そのせいか、さいしょのうちは同性のクラスメイトだけに性的関心を示す子だったのが、女性にも関心を向けるようになったんです。女性体験も、このほど済ませました。家内が相手をして満足してもらったのです。先にお父さんが、“お手本”を見せつけてくれましたけどね」
「いまではどうやら、お父さんのほうが家内にご執心で。(笑)時々二人きりでデートしているんですよ。私の化粧の仕方や服装のセンスは家内の伝授です。だから息子さんが家内を放さないときには、わたしがお父さんとデートすることもあります。あっ、ここは書かないでね」
教室では語ることのできない、奥さんを交えた“良好”な関係をたんたんと語ってくれた。
奥さんを教え子やその父親に犯されてしまうのに、悔しくはないの?という記者の問いには、笑って答えなかった。しかし、その表情からは両家の間に流れる空気の穏やかさを感じずにはいられなかった。

街の意識調査

2017年04月20日(Thu) 08:03:07

当市に所在する名門男子校が吸血鬼受入れ表明をしてから、約1か月。
このほど市による校内の意識調査が実施された。
その結果、同校に在籍する25人の教諭のうち20%にあたる5人が、すでに献血行為を体験したことが判明した。
また、5人全員が「夫婦双方で献血行為を行っている」と回答。
既婚の女性が吸血の対象となった場合は、例外なく肉体関係を伴うとされていることから、
同校の教諭夫人たちの貞操が危機にさらされている現状が明らかとなった。


当市に所在する名門男子校が吸血鬼受入れ表明を射てから、約3か月。
このほど市による校内の意識調査が実施された。
前回の調査対象となった教諭は25名であったが、今回は22名と3名減少した。
これは、過剰な献血行為によって死亡者が出たためである。
もっとも先週の報道で知られるとおり、3名の教諭の未亡人は記者会見の席上「現在置かれている境遇に満足している」と表明、注目を浴びた。3名の教諭宅には引き続き同じ吸血鬼が出入りしているといわれ、「夕方来て明け方に帰っている」(被害教諭宅の近所に住む男性、40代)」という証言もあることから、遺族との間に円満な交際が成立している様子がうかがわれる。
今回の調査では、22名のうち約半数に当たる10名が献血行為を体験したと回答。うち8名は「日常的に献血している」という。
また、前回の調査同様、献血行為経験者の全員が「夫婦双方が献血行為に応じている」と回答。前回同様の傾向を示している。


一時死亡が伝えられた市内の名門男子校教諭3名が全員蘇生して復職していることが市の調べで明らかになった。
3名の教諭は、同校が吸血鬼受入れ表明を出した直後から献血行為に協力するようになり、1か月後に同校教諭を対象に実施された調査において夫婦ながら献血行為を行っていると回答。その後過剰な献血行為が原因で死亡したと報道された。
その際記者会見に応じた3名の教諭の夫人たちはいずれも「現在置かれた境遇に満足している」と表明、周囲の驚きをかっていた。
教諭夫妻の交際相手である吸血鬼は、教諭の死亡後も教諭宅への訪問を継続しており、その夫人や娘を吸血の対象としているといわれていた。
被害教諭の夫人たちが夫の仇敵であるはずの吸血鬼との交際を継続した結果、夫たちの帰宅が実現したようである。
復職した3名はいずれも30代から40代の男性教諭。記者会見に応じた夫婦三組はいずれも「(自身の・夫の)帰宅が実現してとても嬉しい」と表明。夫人が吸血鬼との交際を受け入れて以後も、夫婦仲が円満であることをうかがわせた。その一方で教諭たちはいずれも「妻と吸血鬼が交際を継続することを希望している」とも表明。
同校では教諭たちが夫婦で献血行為に応じていることから、その夫人たちの貞操の危機が懸念されていたが、ここで吸血鬼と教諭の家族たちが平和裏に共存している姿が明らかとなった。
昨今、同校の教諭に限らず、夫婦ながら献血に応じる家庭が市内で急増している。
しかし、一時的にせよ死亡例も報告されていることから、市民課では吸血鬼と交際する場合には注意するよう市民に対し警戒を促している。


当市に所在する名門男子校が吸血鬼受入れ表明を出してから半年が経過した。
このほど市による校内の意識調査が実施された。
調査対象となったのは、同校に在籍する26名の教諭。
前々回と人数が同数になったのは、一時死亡が伝えられた3名の教諭が蘇生して従来通り勤務を続「けていることが判明したため。
今回の調査では26名全員が「日常的に献血行為に応じている」と回答、調査開始以来初めて献血経験100%を達成した。
これで、同校に勤務する教諭の夫人全員の貞操が吸血鬼によって獲得されたことが判明した。
乗田恭作校長は同日、「教諭たちが本校の方針を理解し身をもって実践したことに深い意義を感じる」と表明した。


当市に所在する名門男子校が吸血鬼受入れ表明を出してから1年半が経過したが、
このほど市による校内の意識調査の結果が公開された。
同校に在籍する27名の教諭を対象としたアンケートによると、全員が夫婦ながら日常的に献血していると回答。
先月の調査では1名が未経験と回答しているが、4月に他県から転入した教諭が1名いることから、同人が新たに献血に応じたためと思われる。

わたしはおかま。

2017年04月20日(Thu) 05:35:28

わたしはおかま。
女の人が穿くストッキングが大好きで、
それがきっかけで、こんなふうになった。
わたしはおかま。
醜いおかま。
分は心得ているから、お出かけするのはいつも真夜中。
こんなふうだから、結婚もあきらめて、もう四十過ぎになるけれど、決して後悔してない。
真夜中に出歩くわたしは、もうひとりのわたし。
女の姿をしているわたしと、ほんとうのわたしは、寄り添うようにして、
ふたりきりの真夜中のデートを愉しんでいる。

そんなわたしの目の前に、黒い影が立ちはだかった。
ビクッとしたわたし。
逃げようとするわたし。
でも、おぼつかない足取りを強いるハイヒールは、わたしの動きを封じていた。
うしろから抱きすくめられて首すじを咬まれたとき、相手の正体をやっと察した。
そういえばこの街では、夜は吸血鬼が出没するのだと、薄ぼんやりと思い出していた。
その夜のわたしのお相手は、わたしの血をたいそう美味しそうに、チューチュー音をたてて吸い取っていった。

目まいを起こしてわたしがその場にうずくまると、
男はそれでもしばらくの間、わたしの血を美味しそうにチュウチュウとやって、
それからおもむろに、わたしのスカートをたくし上げ、太ももにまで咬みついてくる。
わたしは思わず、願っていた。
やめて。やめて。このストッキング高いのよ・・・
男の唇が容赦なく、わたしの足許に吸いつけられる。
這わされた舌が、それはしつっこく、わたしの足許をねぶり抜いて、
それからおもむろに、囁いてきた。
あんたの穿いてるストッキング、いい舌触りだな。

もう少し舐めさせてくれという男の願いに、わたしは無言でコクリと肯いていた。
貧血でけだるくなったというのも、もちろんあったけど、
かたちは違っても、男がわたしの足許に魅せられていると、わたしのなかの女心が囁いたから。
そして近場のベンチに腰かけて、貧血にあえぐ上背を、背もたれにしなだれかけながら、
男の求めるまま、薄々のストッキングを穿いたふくらはぎを、好きなように吸わせてしまっていた。

ぴちゃ・・・ぴちゃ・・・くちゃ・・・くちゃ・・・
情けない音にしどろもどろになりながら、男がむしょうにわたしの脚を咬みたがっているのが伝わってきて、
どうしても咬みたいの?って訊いていた。
薄いナイロン生地越しにしつように這わされてくる相手の舌先から、わたしが抱えているのと同じコアな欲求を感じたから。
男は恥も外聞もなく、せわしない舌づかいで応えてきた。
でも、やっぱりストッキングを破かれるのは気が進まなくて、わたしは切り札を使うことにした。
男だって、気づいてる・・・?
おそるおそるの問いかけに、男はいった。
あんたが女のかっこうをしている限り、俺にとってはレディだから。
それ・・・わたしがいちばん聞きたかった言葉。
じゃあいいわ、咬ませてあげる。
わたしの唇は、しぜんに動いていた。

クフフ・・・ククク・・・
含み笑いの下、わたしの穿いているストッキングがむざんに破かれていくのを見おろしながら。
わたしは思わず、呟いている。

いやらしい。

すまないね。
男はそういいながらも、ストッキングを咬み破る行為に熱中しつづけて、
わたしはただ、本物の女のように恥じらいながら、男の行為を許しつづけた。

それ以来。
わたしの夜道歩きは、頻度を増した。
三日にいちどくらいにするんだよ。
男の言いぐさにもかかわらず、毎晩のように、真新しいストッキングを脚に通して、
男の欲求に応えつづけた。
血を吸われるのも、ストッキングを咬み破かれるのも、さいしょは気が進まなかったけれど、
尽くしたい一心の女心が、わたしの心のなかを塗り替えていった。
男は毎晩尽そうとするわたしのことを気遣って、血を吸う量を加減してくれた。
わたしは男の気遣いに応えるために、毎晩真新しいストッキングを穿きつづけた。
穿き古しでもかまわないのだぞ。
男はそういって気遣ってくれたけど。
女の心意気ですからね・・・と囁き返すと、嬉し気にニマリと笑って、なめらかなナイロン生地の舌触りを愉しみつづけた。
せっかく穿いてきたんですもの。気の済むように愉しんでくださいね。
わたしたちはいつか、心を通わせ合っていた。
化粧が上手になり、しぐさも女らしくなって、
気づいたときにはもう――夜だけは完璧なレディに生まれ変わっていた。

わたしはおかま。
醜かったおかま。
それがいまでは、昼間街を歩けば人も振り返るほどの、魅惑的なレディになっている。
血を吸わせ、コアな欲求に応えつづけたお礼にと、吸血鬼がわたしにかけてくれた魔法。
わたしは今夜も、最高の装いで、彼をもてなすために出かけてゆく。

一対多数の関係。

2017年04月17日(Mon) 08:10:51

吸血鬼に献血を始めるようになったのは。
妻が作った愛人が、たまたま吸血鬼だったからです。
ふたりの関係を終わらせようとして訪れた相手の男の家でわたしも咬まれ、血を吸い取られて理性をなくし、
その場でくり広げられた愛の劇場を、さいごまで見物させられる羽目になっていました。

妻の相手は手練れの男で、愛人は妻だけではありませんでした。
さいしょのうち、妻はそのことが不満だったようですが、
彼の旺盛な食欲を考えると、ひとりで相手をするのは無理だとわかったのでしょう。
そこはあきらめることにしたようでした。
でも、妻はわたしに訴えました。
一人対多数なんて、なんか嫌。私も多数の中に入りたい――と。
そう、彼女自身も、多数の愛人と関係を持つことを望んだのです。
首すじに妻と同じ咬み痕をつけられてしまったわたしは、唯々諾々、妻の希望をかなえてやるしかありませんでした。

相手と言っても、吸血鬼というわけにはいきません。
しかし吸血鬼は、かっこうの相手を、妻のために用意してくれました。
そう――それは、自分が寝取った人妻の夫たちだったのです。
以来妻は、法事の手伝いに行くと称して、黒ずくめの礼服姿で、街はずれの荒れ寺に出入りするようになっています。
そこで、自身の貞操の喪を弔う行為に熱中しているのです。
わたし自身も――さいしょのうちこそためらいはあったものの――妻に帯同してお寺詣りをし、いっしょに妻の貞操を弔うことにしています。
そこに集う男たちは、妻を汚す忌まわしい存在であると同時に、わたし自身の裏返しのような存在でもあるのですから。
その場所は、多数の男を相手にする人妻が集う場所でもあると同時に、
妻を吸血鬼に寝取られた夫たちが、愛人自慢をする場でもあったのです。

いちずな妻

2017年04月17日(Mon) 08:03:21

「ねえ、どうしてもあたし一人というわけにいかないの?」
妻の真悠子はいちずな顔つきになって、相手の男に話しかけていた。
男は真悠子から吸い取った血を、まだ口許にしたたらせていて、それを指先でもてあそんでいた。

夫婦ながらこの男に襲われたのが、ひと月ほど前のこと。
さいしょに咬まれた俺は、意識をもうろうとさせながら、いちぶしじゅうを見届ける羽目になっていた。
妻は俺の時と同じように首すじを咬まれ、キャッと叫び声をあげ、クラッと目まいを起こしてその場にひざを突いていた。
じゅうたんに伸びた脚を包んでいた肌色のストッキングが、男の好色な唇にくまなく舐め尽されたうえ、みるかげもなく咬み破かれてゆくのを、俺は歯噛みをしながら見つめるばかり。
妻は身体じゅうの血を舐め尽されたうえ、俺の目の前で犯されていった。

それ以来。
のぼせあがってしまった妻は、すっかり吸血鬼の虜になっていた。
呼び出されるままに夜中に出かけていって、公園の片隅で抱きすくめられ、
よそ行きのスーツを草切れだらけにさせ、ブラウスを惜しげもなく血浸しにして、
ことのついでにスカートの奥は、半透明の粘液で、これまた惜しげもなく浸していったのだ。
帰宅した妻に息荒く迫って、愛人相手のセックスにまだ火照った身体を抱いてしまったとき、
俺は無言でふたりの関係を認めたことになってしまっていた。

妻は嫉妬深い女。
俺がなんどかしかけた浮気は、いずれも血みどろの修羅場で幕切れになった。
そんな妻のことだから、吸血鬼が夜ごとに相手を変えて夜の街をさまようことに、我慢がならなかった。
けれども、吸血鬼に毎晩抱かれてしまったりしたら、そこに待つのは死――
そう、ひとりの身体にめぐる血液の量では、彼らを救うことはできないのだ。
奥さんに逢うのは三日にいちどにする。
そんなヌケヌケとした宣告だけは、俺自身も納得して受け止めていた。
しかし、理屈では納得した妻は、やはり納得し切ってはいなかったのだ。

ひとつだけ、方法がある。あんたが吸血鬼になることだ。
男は怖ろしいことを提案した。
周りの人間どもの血を吸って、その血で自らの身体を満たすがよい。
わしはお前を毎晩抱いて、お前の身体だけから血を啜り取る。
「いいわ、それ、すごく、いい」
妻は声をはずませて俺のほうをふり返ると、伸びた犬歯をガーッとむき出しにした。
・・・・・・。
・・・・・・。
俺の体内の血液は、最愛の妻によって一滴残らず吸い尽された。

「よかったじゃない。あなたもよりどりみどりで」
自分が吸血鬼になることで、吸血鬼を独占することに成功した妻は、今夜もニッと笑って白い犬歯をむき出しにする。
妻が自宅に引き入れるのは、男。
そしてその数日後、なにも知らないその男の妻が、憤然として玄関に立ちはだかる。
そちらの面倒を見るのが、俺の仕事。
夫の浮気相手の女に面会を求める人妻は、そろいもそろってこぎれいなスーツでばっちりとキメていた。
どこか釈然としないものを感じながらも、
うつ伏せに倒れたスーツ姿のふくらはぎに這い寄って、ストッキングに包まれた脚に唇を吸いつけるときには、すべてを納得してしまっている。
人の女房を寝取った亭主はその見返りに、目のまえでの夫婦交換を強要されて、自身も妻の牙で、理性を喪ってゆく――
「こんな生活も悪くはないわね」
妻はそううそぶきながら、次の獲物の物色を始めていた。

期限付きの吸血鬼

2017年04月17日(Mon) 07:38:34

俺は薄ぼんやりとした頭を抱えながら、目のまえで妻の佳菜美が吸血鬼に血を吸い取られてゆくのを、ただぼう然と眺めていた。
スーツ姿の妻は、自宅の畳のうえにあお向け、大の字になって、すでに意識をもうろうとさせている。
胸元をはだけられたブラウスのえり首にはバラ色のしずくを散らし、唇はただ切なげにあえぎつづけて、
精液に濡れた花柄のロングスカートはまくりあげられて、
肌色のストッキングに包まれたむっちりとした肉づきの脚を、太ももまで惜しげもなくさらけ出していた。

気前よく、自分からすすんで血を吸い取らせている――そんな錯覚に襲われたのは、なぜだろう?
近い記憶では、ついさっきまで自分自身が、そうしていた。
ある程度まで血を吸い取られてしまうと、血を吸われること自体がひどく快感になってしまって、やめられなくなるのだった。
きっと佳菜美も、そうにちがいなかった。
やつは佳菜美の血を、俺のときよりも美味そうに味わっている。
そして俺のときと同じように、佳菜美の血も吸い尽してしまうに違いなかった。
予想通り、佳菜美の体内をめぐる血液を、一滴余さず吸い取ってしまうと、
やつは初めて佳菜美の胸元から顔をあげ、
こっちをみてにまっと笑った。
とても満足そうな笑みだった。
俺も思わず、にまっと笑い返していた。

30分後。
佳菜美はけだるげに体を起こし、身づくろいをしていた。
乱れた髪を手ぐしで整え、頬に着いた血をタオルで乱暴に拭って、
吊り紐の切れたブラジャーを自堕落な手つきではずすと、くずかごのなかに放り込み、
くまなく唇を当てられて咬み破られてしまったパンストを脱ぎ捨てると、これもくずかごのなかに放り込んだ。
血がないのに身体が動いている――ということは、俺たちはその場で吸血鬼になってしまったのか?
「お察しのとおり」
俺と同年輩の吸血鬼は、またもにまっと笑った。
悪戯をしかけた悪童が、自分のしかけた悪戯がばれて舌を出すときみたいな、そんな笑いだった。
お前の女房は寝取ってしまったからな――そう言いたげな得意そうな笑みに、俺はむかっ腹を立てた。
「あんたがたは、他人の血がないと生きていけない。
 生き延びたかったら――そうだな――知り合いや親せきを一人ずつ家に招んで、血を吸うんだな。
 まず手始めは、息子と娘から血をもらうことだな」
「冗談じゃないわ!よりにもよって自分の子供からだなんて!」
妻は猛反発したし、俺も相手を罵った。
「そんなことないよ」
ふすまの向こうからの声に、俺たちはビクッとしてふり返った。
「僕たちの血でよかったら、吸いなよ」
半ば怯えた顔つきが、それでもはっきりとした意志を言葉にしてつむいでいた。
「小父さん、父さんと母さんを死なせないでくれて礼を言うよ。どういうつもりか知らないけどさ」
吸血鬼は、ふふんと笑った。
「親に似ずにいい子たちだな。せいぜい助けてもらえ」
やつはそう言い捨てて、スッと姿を消した。
妻の佳菜美のほうをかえりみると、もう顔つきが変わっていた。
もの欲しげな表情に、「若い子の血が欲しい」って、書いてあった。
「あなた、正美の血をもらうといいわ。あたし、勝哉のをもらうから」
妻に仕切られるまま、初めての吸血行為が、ぎこちない近親相姦のように始められた。
息子の勝哉は佳菜美の腕のなかで、
観念したように目を瞑った娘の正美は俺の腕に抱かれたまま、
うら若い血液で干からびた親たちの血管を浸してくれていった。
「あたし、父さんのために友だち家に招ぶからね」
腕のなかの正美のささやきに、俺は浅ましくも、「頼むね」と、言いつづけていた。

「あの子たちがまじめで、よかったわね」
「まったくだ。さすがに実の娘とセックスするわけにはいかないからな」
ホホホ・・・佳菜美がいやな笑いかたをした。
「あなた、怒るかもしれないけれど――あたしが家に招ぶ第一号は、浮気相手にするわ。奥さんがあたしに会いたがってるの」
浮気相手の妻が面会を要求する。
妻の言いぐさはさりげなかったが、それは修羅場じゃないかと、俺は思った。
「修羅場じゃなくしてしまいましょうよ」
自分のしたことを棚にあげて、妻はしゃあしゃあと俺を誘惑した。
あのひとの奥さんって、美人なのよ・・・と付け加えることを忘れずに。

翌日はたしかに、修羅場だった。それも一方的に、向こう夫婦にとって。
こういうときのつねとして、相手の奥さんはこぎれいなスーツでキメてきていた。
「たしかに美人だな」
俺は浮気妻をふり返って、にんまりとした。
「気に入って良かったね」
佳菜美は自分の亭主が浮気相手の妻に舌なめずりするのを、他人事みたいに笑って受け流した。
十数分後。
妻はいつもの浮気セックスに励んでいたし、
俺は俺で、ダンナのまえで人妻を抱くという素晴らしい経験を、満喫してしまっていた。
パンストを破られた脚をばたつかせて泣きじゃくりながら犯されていった女は、俺が首すじからそそぎ込んだ毒液にほだされて、
ものの数分もすると、もっと・・・もっとお!って、よがり狂っていた。

娘の同級生を襲ったのは、つぎの日のことだった。
「制服汚しちゃダメよ」
娘はそういって友だちに催眠薬入りのジュースを飲ませて眠らせると、
彼女の履いている紺のハイソックスをずり降ろして、ふくらはぎをあらわにした。
「ここなら目だたないから。一回血を吸ったら、いうこと聞くんでしょ?」
そういえば。
あのあと吸血鬼にも血を吸われてしまった娘は、毎晩のように制服に着替えると、どこかへと出かけてゆくようになった。
「処女の血って、人気あるみたい」
うつろな声色の呟きをうっかり聞き流しにして、俺はむき出しのふくらはぎに唇を吸いつけていた。
ピチピチとした生気を帯びた生硬な素肌が、俺の牙を妖しく疼かせた。

俺の父や兄は、妻の佳菜美が。
母や兄嫁は、俺自身が。
佳菜美の父と義弟は、妻の佳菜美が。
義母と佳奈美の妹とは、俺自身が。
そう、男は女の、女は男の血を欲しがるものなのだ。
そんなふうに俺たちは、周囲の男女を次々と、毒牙にかけた。
自分自身が灼けつくような渇きから、逃れるために。
そしてあっという間に、ひと月が経った。

「だいぶおおぜい、餌食にしたようだな」
吸血鬼はにんまりと笑った。
抑えつけた佳菜美から吸い取った血を、口許からしたたり落しながら。
「よくやった。褒美にお前たちを、もとの人間に戻してやるよ」
そういうとやつは佳菜美の首すじを咬み、俺の首すじにも咬みついた。
咬まれた牙から注入されたおびただしい液体が、俺にもとの生気を取り戻させた。
「どういうことなんだ」
「あとは俺と仲間とが、引き継ぐことにする。
 なにしろ、人間どもは警戒心が強いからな。
 見ず知らずの人間や、行きずりの人間を襲って血を吸うのは、結構難儀なのだよ。
 だから、お前たちを利用した。
 お前たちだったら、気を許して一人で家に来るやつがいるからな。
 これで、お前たちの周囲の人間は、全員俺たちの奴隷となるのだ」
そういうことだったのか――かすかな後悔が胸をかすめる。
そんな俺の胸中を察したのか、妻が言葉を添えた。
「あなた、毒を喰らわば皿までも よ」

こんどは血を吸われる愉しみが経験できるのよ。
あたし、たっぷり抱いてもらうの。あなたも好きなひとを選ぶといいわ。
あたしたちも、愉しんじゃいましょ。
そういえば、あたしの浮気相手の奥さま、言ってたわ。
貴男に血を吸ってもらえるのなら、亭主のしていることに目をつぶってもいいっていってくれてるの。

気丈な姑 6  吸血鬼の遠い記憶

2017年04月13日(Thu) 08:00:19

「イヤです!血を吸われるなんて・・・お義父さま、お義母さま、どうか堪忍してくださいッ!」
うら若い白い頬に血の気をのぼせ度を失って訴える少女に、大人たちは諭すように告げた。
「なあ初枝さん、堪忍していただくのはこちらのほうですぞい。
 あのお方を慰めることができるのは、もはやあんたのうら若い血しかないのですからの」
朴訥な父はとどめを刺すようにそう告げたし、
「初枝さん、世の中きれいごとでは済まないことがあるのですよ。
 当家の人になってくださるのなら、ここをこらえていただかないと」
そういう母は、いつの間にか初枝の背後にまわり込んで退路を断っている。
母の頬は鉛色で生気がなく、首すじには赤黒い痣がふたつ、くっきりと浮かんでいる。
「もう遅いのじゃ。お招きしておるのでな。初枝さんの血を吸うのを、愉しみにしておられたのじゃ。
 当家の嫁として、粗相のないようにしてくだされや」
父の顔色も蒼く、首すじには母のそれと同じ間隔を置いて、ふたつの痣。
そしてそのまがまがしい記憶をいまだに消せずにいる俺も、同じ痣をふたつ、首のつけ根に疼かせていた。

つぎの記憶は、自分の嫁になる少女が、黒衣の男に立ったまま抱きすくめられているところ。
「ああっ!」
涙声の悲鳴を呑み込んで、唇をキュッと噛みしめるのと。
抱きすくめた初老の男の口許から覗いた牙が、彼女の首すじに突き立つのとが、同時だった。
黄ばんだ犬歯が、その尖った切っ先を白い素肌に埋め込まれてゆく光景は、いつ思い出してもどきりとする。
「諦介さん、たすけてえっ」
自分を呼ぶ叫び声に、思わず耳をふさいだあの日。
けれどもつぎの記憶はさらに鮮明に、俺の脳裏に灼きついている。

黒のストッキングの足許に、俺と両親の血を吸ったその男は舌を這わせて、
薄黒く上品に透けたふくらはぎを、舐めくりまわす。
その有様を無念そうに見おろす少女の目線は、すでに理性を喪いかけて宙を迷っていた。
白い首すじにしたたるバラ色のしずくが、ピンク色のブラウスのえり首を浸そうとしているのに、
もはや彼女はそんなことなど意に介していないのだ。
男の卑猥な唇は、薄手のストッキングがくしゃくしゃになるまでいたぶり抜いて、
しまいに牙を突き立てて咬み破っていった。
少女はふらふらと身を崩し、その場にあお向けになって、
あお向けになった少女のうえに、彼女の未来の夫からすべてを譲り渡された幸運な男がのしかかり、
ねだり取った花婿の権利を、無垢な肢体に行使してゆく。
太ももまでめくれ上がったスカートの奥に、逞しくそそり立つどす黒い魔羅が忍び込んでゆくのを、
鋭利な牙が初枝の首すじに埋め込まれるのを見たときと同じくらいドキドキしながら、
とうとう視線を外すことができずに、さいごまで見届けてしまっていた。
そそぎ込まれた精液は、彼女のスカートの裏側を濡らしただけで、身体の秘奥を侵すことがなかったのは。
たんに、処女の生き血をもっと吸い取りたいだけだったのだと、容易に想像することができた。

三か月後に決まっていた祝言の日取りを俺はもう三か月伸ばして、
やつが初枝の身体からむさぼり取る処女の生き血の量を増やしてやることにした。
いぶかる初枝の両親がすべてを納得するのに、時間はかからなかった。
一人でも多く支配して、享受する血の量を確保したかったあの男の手で、
初枝の両親もまた、うちの両親と同じ運命に堕ちてしまったのだから。

それからどれほどの年月が流れたことか。
「黒のストッキングがお好きなの?いつものことながら、いやらしいわね」
軽い非難をこめた目で、女は俺を上目づかいで睨みつける。
その目線にかすかな媚びがあるのを、俺も、彼女の亭主も、見逃してはいなかった。
「いいわ。穿いてきてあげる。今度のあなたのお宅の法事、お手伝いに伺うわ」
女は亭主のまえ、気前よく咬み破らせてくれた肌色のストッキングを穿いたまま、
これ見よがしに亭主に見せつける。
「ね、黒のほうが、目だつわよね?」
不承不承に頷く亭主は、チラッと俺のほうを窺い目線を交えると、
「わたしも心配なので、伺うよ」
と、言ってくれた。
きっと、失神した女房をかばって自宅に連れ帰る役目を、引き受けてくれるつもりなのだろう。

この夫婦は、このあいだモノにした若夫婦の、婿さんの側のご両親。
嫁の不倫を咎めようとして俺の邸に上がり込み、返り討ちに遭ってしまった、おっちょこちょいな女だった。
その実、悪賢い嫁が口うるさい自分の姑を堕落させるために仕組んだ罠だったということに、いまだに気づいていないけれど。
俺の褥で弄ばれて、汚され尽したあとなのに、
いまだに元教師らしい凛とした潔癖さを失くしていない。
「そこが好ましい。そこに惚れた」
よりにもよって亭主にいうことではなかったけれど、いわずにはいられなかった。
あんたの女房は良い女だ と。
亭主をまえにぬけぬけと、女はいった。
「ねえ、今度から悠子って呼んで。ほかにそう呼ぶのは、ダンナだけなの」

五十に近い齢を感じさせないうら若さを秘めたこの女は、いま俺を癒すだけではなく、救おうとさえしている。

気丈な姑 5

2017年04月12日(Wed) 08:15:56

「お待ちになったかな」
「ううん、そうでもないわ。私もいま来たところ」
ほんとうは、30分待った。
きっと、前の訪問先で、お相手とほんの少しばかりよけいに名残を惜しんできたのだろう。
その証拠をさりげなく、私は指摘してやる。
「お口」
真新しいハンカチで拭った彼の口許は、だれかから吸い取った血でまだ濡れていた。

ショルダーバッグをひるがえして、すすんで腕を差し出して、
若い恋人同士みたいに、腕を組んで歩く。
あとから尾(つ)けてきているにちがいない主人はきっと、
嫉妬のほむらを燃やし、そのぶん目はうつろになって、私たちの後ろ姿を追っているに違いない。
ああ、いじましい。(笑)

すれ違う街の人たちの目も、もう怖くはない。
「アラ悠子さん、お出かけ?」
わざわざ見え透いたにこやかさで話しかけてくる、女の知人。
そう、あなたがなにを言いたいのかは、わかっている。
「また浮気?見かけによらず、あなたふしだらなのね」
そう仰りたいんでしょ。
でももう、なにも怖くない。私は平気。

さいしょは自由奔放に振る舞って私の一人息子をキリキリ舞いさせている嫁への、対抗心もあった。
嫁の浮気を叱り飛ばしたのは、恥を掻かせてやりたかったからだけど、その裏側には嫉妬もあった。
あなたは若いうちから勝手なことをしているのね。
私は学校の先生だったから、みんなの模範にならなければならなかったし、
浮気はもちろん、好きなことも我慢しなければならなかった――
でもそんな私の目論見は、嫁の浮気相手が吸血鬼だという未知の事実のおかげで、すっかり狂った。
嫁に恥を掻かせるはずが、恥を掻いたのは私だった。
私は嫁の目の前で犯され、夫以外の男の身体を初めて識った。
むぞうさに遂げられた禁断の行いは、それまでの私のかたくなな倫理観を、いともあっさりと突き崩したのだ。

美那子さんが貧血のときは、私がデートの相手をする。
吸血鬼にとって、四十女の私はきっと、第二志望。いや、すべり止め?
それでも私は、いい加減で日和見な主人にこれ見よがしに、彼とのデートに応じていった。
――美那子さんより罪は軽いわ。もう子供を産む齢ではないんだし。
でもそれは、「もう若くない」ということの裏返し。
きっと美那子さんも気づいているし、一番傷つくのは私自身。

吸血鬼とのデートは、案外危険も少なく、いやらしくもない。
いえもちろん、さいごは彼の家でファックされてしまうのだけれど。
そうなる前は、映画館通いに、美術館めぐり。
彼は高い教養と良い趣味の持ち主で、いざなわれる映画はどれも古典的な名作だったし、
美術館での彼の博識ぶりは、もと教師の私も知らない奥深い世界をかいま見させてくれた。
だから、私たちのデートをつけ回す主人は、行き先が意外なくらいまっとうなのに、ちょっと拍子抜けするのだという。
「若い人にはわかってもらえない話を、貴女は理解し楽しんでくれる」
そういう彼の横顔も、どこか誇らしげで楽しげだ。
そしてそんなふうにして――さりげなく触れられたくもない私のコンプレックスを、あのひとはさりげなく、覆い隠してくれる。

2人ともに気づかれているのも、主人のほうでも気づきながら。
主人は妻の浮気現場を抑えようと、ばか律儀な尾行をつづける。
それが妻へのIの証しだと、いわんばかりに。

夫の尾行を黙認する私たち。
そして、私の浮気を黙認する夫――
不思議な黙契は十数歩の距離を置きながら、つかず離れずの関係を保っている。

さいごはもちろん、ファック、ファック、ファック。
こんな下品な言葉、自分で口にするなんて、思いもよらなかった。
息子さえ結婚している齢になった私が、唯一堕落したと認めざるを得ないこと。
夫以外とのセックスこそ、最大の堕落 ですって?
必ずしも、そういうものではないでしょう。
私が身をもって彼に尽くしている証しだし、
彼が私を支配するのと裏腹に、私は自身の血液と柔肌で、彼のことを守っている。

時には道ばたの草むらのなかでさえ乱れてしまう私たちを、
主人は邪魔だてもせず、遠くからじいっと見守っている。
最愛の女性が他の男に肌を許すのを。
自分がプレゼントしたスーツで装った妻が、それが礼装フェチの愛人のための装いで、
夫の好みの服を愛人に辱めさせてしまうのを、じっと遠くから視て・・・そして昂っている。
二等辺三角形の一辺だけが異様に近いこの距離感で。
私たち3人は3人ながら、それぞれの歓びに目ざめてゆく。

夫が恋し手に入れた女は、
夫が買い求めた服もろともに弄ばれて、
買い求めた服と、その服を着た妻とが、同時によその男を満足させる姿を見せつけられる。

「ただいま」
素知らぬ顔をして、帰宅する私。
「おかえり」
素知らぬ顔をして、出迎える主人。
「楽しかった?」
おずおずと訊いてくる主人に、私はいけしゃあしゃあと、応えてゆく。
「エエ、とっても。あなたもきょうは、楽しい一日だったかな?」

ブログ拍手♪ 「気丈な姑」シリーズに、連続拍手をいただきました。

2017年04月12日(Wed) 07:32:53

おお、すごい!
昨日あっぷした「気丈な姑」シリーズに、連続拍手が。
最多は「気丈な嫁 4(いまのところ最終話)」の5つです。
万年閑古鳥な「妖艶な吸血」では、驚異的な数字です。

個人的には、「2」が好きなんですけどね。
吸い取った血で持ち主の服を汚したいというお相手の吸血鬼の好みに合わせて、
机上で潔癖なお姑さんがキチンとした服装ででかけてゆく みたいなくだりが。^^
ほんとうは、「もっと若いうちにお逢いしたかった」という奥さんのひと言にご主人がトドメをさされるところがメインだったんですけどね。
でも、テーマ性らしいものが一番あるのは、やはり「4」かな。

拍手の主の慧眼に、拍手♪

気丈な姑 4

2017年04月11日(Tue) 08:19:25

息子・貴志の独白。

男にとって、致命的な経験を、ぼくは二回も遂げてしまった。

ひとつ目は、自分の妻となる女性が他の男の誘惑を受けて、目のまえで処女を捧げてしまったこと。

相手は吸血鬼で、いっしょに血を吸われたぼくは、婚約者の美那子ともども、すぐに彼と仲良くなってしまった。
彼に処女の生き血を吸わせてやりたい一心で、ふたりは結婚前を生真面目な交際で通し、
ぼくは美那子を彼の邸に連れ入ていって、彼女が処女の生き血を吸い取られウットリとなってゆく有様を、息をつめて見守っていた。
ふたりはやがて、ぼくに黙って逢うようになったけれど、
むしろそうした事実を知ることで禁断の昂ぶりに目ざめてしまったぼくは、ふたりの関係を黙認しつづけたのだった。

挙式前夜にお祝いをしてくれるといって招ばれた彼の邸で、美那子は初めて彼に女として抱かれた。
デートの時によく着て来たピンクのスーツ姿のまま猿臂に巻かれ、
ストッキングを破かれ、ショーツをむしり取られ、
吊り紐の切れたブラジャーもそのままに、はだけたブラウスのすき間から覗くピンク色の乳首を舐められながら、
彼女はぼく以外の男と接し、両脚をゆっくりと、開いていった――


ふたつ目の致命的な体験は、母の悠子のことだった。
しつけに厳しい毅然とした母は、嫁の浮気について優柔不断なぼくよりも、ずっと峻厳な態度を取った。
そして堂々と彼の邸を訪れて、浮気の現場を抑えると、ふたりに対してしてはならない叱責を浴びせてしまったのだ。
結果はもちろん、淫らなものにすり替えられていた。
母はその場で、嫁の血を吸い取ったその唇を素肌にあてられ、苦悶しながら血を吸い取られ、奴隷に堕とされた。
吸血鬼はセックス経験のある婦人を相手に選ぶとき、例外なく性的関係を結ぶという。
ぼくの母だからということで、斟酌はなかった。
嫁の見ている前で母は、時折洩れてしまうはしたない声を悔しがりながら、婦徳を穢されていったのだ。

知ってる?あなた・・・
寝物語に聞いた、妻の情夫と母との不倫。
その不倫を、あろうことか父までもが、真面目な交際として認めているという。
ぼくは思わず、ほっとしていた、
これでもう、母さんに叱れずに済む。

けれども、自分を生んだ女が、父親以外の男のものになるということは、
人知れずぼくの心の奥に、居心地のよい闇を作った。
それは、自分の妻を犯され次代を奪われる脅威に直面するのと同じくらいの深さを持った闇だった。

もしかしたら母は、嫁に負けないくらいの体験をぼくに突きつけることで。
いまでも嫁と、張り合っているのかもしれない。

気丈な姑 3

2017年04月11日(Tue) 08:05:34

知ってる?あなた。お義母さま、長いのよ。
ベッドのなか、傍らで寝ていた妻の美那子が、ちょっと意地悪そうな笑みをたたえて、ぼくに囁いた。
え?どういうこと?
お義父さまも、ふたりの仲を認めていらっしゃるんですって。お洒落なご夫婦ね。
ますます話がみえなかったぼくに、美那子は一連の話を語って聞かせてくれた。

きょうのヒロインは、貴志くんのお母さんの悠子さんです。
悠子さんは長年連れ添った近田さんと、おしどり夫婦で知られていました。
息子の貴志くんは結婚前に知り合った吸血鬼の小父様と仲良くなって、
未来の花嫁である美那子さんの生き血を吸わせてやるようになりました。
結婚してからも、小父様が美那子さんを愛人のひとりに加えることに賛成をして、
ふたりの逢瀬に協力的になるくらい、理解のある夫です。
吸血鬼が人妻の生き血を狙うとき、ふつうは夫が最大の障害になるのですが、
貴志くんは立派な紳士だったので、むしろ最大の協力者になっていたのです。
でも母親の悠子さんは、そんな息子にがまんがなりませんでした。
そうです。吸血鬼が人妻の生き血を獲るのに、姑が最大の障害になったのです。
悠子さんは身持ちの正しい姑として、吸血鬼を𠮟りにいらっしゃいました。
でも、吸血鬼は惚れっぽいので、五十手前の悠子さんにまで、ときめいてしまったのです。
そして吸血鬼のお邸を訪問した悠子さんは、貞淑なご婦人のままそのお邸を辞去することはできなくなったのでした。
めでたく結ばれた二人は逢瀬を重ねましたが、
悠子さんのご主人は息子の貴志くんと同じくらい穏やかな紳士だったので、
永年連れ添った妻と情事を重ねる吸血鬼を許してあげたのです。
血を吸い尽さない代わり、貞淑だった四十路妻を吸血鬼の愛人の一人として捧げることに同意したお義父さまは、
最愛の妻が吸血鬼に生き血を愉しまれ、犯されてゆくいちぶしじゅうを見届けたのでした。
着ているよそ行きのお洋服をくしゃくしゃに着崩れさせながら、はしたない喘ぎ声をあげる奥様をまのあたりに、
いつかお義父さまも、覚えてはならない歓びに目ざめてしまったのでした。

どお?このおとぎ話、ウケるでしょ?

妻の笑みには毒気がなかった。
だいじょうぶよ。私たちはみんなお仲間。
わたくしの母の生き血も、少しでも若いうちにあのひとに愉しませてあげたかったから、
父には内緒で連れ出して犯していただいたのだし、
父もそんな母と娘を、内心好もしく思っているんですって。

それに――あの小父様ご自身もお若くてまだ真人間でいらしたころに、奥様ともども血を吸われて、
自分の血を吸った相手に、奥様を愛人として差し出して、末永く三角関係を愉しんでいらっしゃるんですってよ。

わたくしたち・・・まだ序の口ですわね。
妻はそううそぶくと、再び眠りに入ろうとする。
「やだ!眠いのにっ」
目ざめてしまったぼくは、ギュッと目を瞑る妻を抱きすくめ、股間を熱く逆立てていった。

気丈な姑 2

2017年04月11日(Tue) 07:50:13

息子さんの挙式のときからね、貴女にひと目惚れしていたんですよ。
貴女がお嫁さんの浮気の件で私を叱りに見えたとき、
あのときとおなじスーツを着てきたのに気づいて、夢かと思ったくらいです。
気がついたら貴女に迫って、咬んでいました――。
そんな口説き文句を、いけしゃあしゃあと囁く彼は、わたしよりも年上の吸血鬼。

「いいじゃないの、少しくらい。
 美那子さんがするよりも、罪は軽いわ。もう子供を産む心配は、ないんですから」
浮気は夫に対する裏切り行為なのだと、日ごろから嫁を非難するときには必ずついてまわったあのふた言目は、すっかり忘却の彼方らしい。

「いつでも吸わせてあげる」
と、妻は男を家に誘い、わたしのまえで抱かれていったし、
「切羽詰まってるらしいの、あなたもいらして」
と、わたしの血まで栄養補給に提供させられた。

「喉が渇いているんだって。行ってあげなきゃ」
と、夜中もいとわず彼の邸を訪問するときは、必ずこぎれいなよそ行きの服に着替えていった。
「きれいなブラウスを、持ち主から吸い取った血で濡らすのがお好きなんですって」
そんなフラチな嗜好までこころよくわきまえて、よそ行きのブラウスを気前よく汚させる女。
「ストッキングを穿いた脚を咬むのがお好きなの。破いて愉しむんだって。いやらしいわよねぇ」
のろけ話をするような嬉々とした口調でそんなことまで夫に語り、
やはり気前よく真新しいストッキングを脚に通して出かけていって、ためらいなく咬み破かせる女。
そんな女に、いつの間になってしまったのだろう?

とどめのひと言は、家にあげた情夫と組んづほぐれつしたあとに、彼の腕のなかで呟いた言葉。
「もっと若いうちに、お逢いしたかった。
 そうすればもっと美味しい血を差し上げられたし、もっと若い身体で抱いてもらえたのに」
わたしは夫として、引退したほうがよいのか。それとも、かなわぬと知りながら妻を堕とした相手と闘うべきなのか?
思い詰めかけたわたしの気分をほぐしてくれたのは、意外にも彼のほうだった。
「あんたにはつねづね、感謝している。佳い奥様をおもちで、羨ましいですよ」
同性としての賛嘆の念が、瞳の奥の深い輝きにこめられていた――

妻もまた、わたしには少し、気を使っているらしかった。
遣っている最中は、つい言葉のやり取りも過激になるというもの。
「俺だけのものになってくれ」という彼に、
「とっくになっているじゃないの。あたしは一生あなたのもの」
夫のわたしが聞いていると知りながら、そんなことを口走りつつも、
「でもあのひとに、感謝してね。あのひとあってのあたしだし、あたしあのひとのこと心から尊敬しているの」
夫とは絶対別れない・・・愛人の切なる願いを無にしてまで、そう宣言していた。

種明かししてあげようか。
あるとき妻は、意地悪い笑みをたたえながら(それが、わたしに戯れかかるときの、昔からの彼女の癖なのだ)、こちらへとやって来て、囁いた。

ほんとうはね。最初からあなたと別れる気はないの。
彼にもその気はないの。
だって彼、なん人もの血を吸わないと生きていけないでしょ。一夫一婦ってわけには、いかないのよ。
だから、人の妻を餌食にするのがお得意なわけ。
あのひと、言ってたわ。
悠子を近田夫人のまま犯しつづけたいって。
あたし、あのひとの趣味に合わせることにしたの。
身を近寄せる妻の息遣いが、いつになく色っぽい。
いつのまに、彼女はこんな面を持ち合わせるようになったのか。
わたしは彼女をその場に押し倒し、ふたりは久しぶりに夫婦らしい交歓をともにする。

いままで黙認してたけど。こんどはっきり彼に言おう。
永年連れ添った愛妻の悠子を紹介します。
末永い交際を、どうぞよろしくお願いします――と。

気丈な姑 1

2017年04月11日(Tue) 07:30:22

息子の嫁の浮気相手に、妻は文句を言いにでかけていった。
それが、真人間だった妻を視た最後になった。
嫁の情夫は、吸血鬼だったから。

不幸中の幸い、相手の吸血鬼は人情味のあるやつだった。
いきなり奥さんが無言で帰宅したりしたらこたえるだろうからと、
ちょっとした貧血程度になるまでで我慢してくれた。

帰宅してきた妻は、ちょっときまり悪そうで、
その日一日は黙りこくっていたし、
妻のご機嫌がうるわしくないと感じ取ったわたしも、彼女との接触をなるべく避けていたのだった。
きまり悪かった理由は、あとでわかった。
セックス経験のあるご婦人を相手に選ぶとき、吸血鬼は例外なく性的関係を結んでいくという。

それ以来。
妻はなん度も、出かけていった。
「また美那子さんと逢っているらしいの。私説教してくるわ」
そういうときの妻はいつになくウキウキとしていて、
よそ行きの服で若作りをして、それどころか前日にはふだん行かない理容室で髪をセットまでして、出かけてゆくのだった。

「父さんは行かないの?僕は美那子のときにはいつも、お邪魔しているんだよ」
嫁の浮気の現場をのぞき見する愉しみを、くったくなく語る息子。
そういう息子の首すじには、嫁がつけられたのと同じ咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いていた。
そしてわたしの首すじにも、いつか同じサイズの咬み痕が、どす黒い痣になって、くっきりと浮いているのだった。

たしか数日前――「あなたも叱ってあげてくださいな」。そういって妻が連れてきた、嫁の浮気相手。
彼と酌み交わした酒はいつか意識を迷わせて、いつの間にか正体を告白されていて、
わたしは彼の正体を理解をもって接し、献血にも応じてやって、
妻がすっかり慣れっこになっていた献血をわたしのまえでするのさえ、咎めもせずに見守っていて、
吸血鬼がセックス経験のあるご婦人に対していかに振る舞うものなのかまで、いちぶしじゅうを見せつけられてしまっていた。

「きょうも叱ってあげてくださいな」
先日と同じように、妻が連れてきた吸血鬼。
わたしの血を先に吸って酔い酔いにしてしまうと、
おもむろに妻に迫って、首すじを咬んでゆく。
日ごろ几帳面だった妻なのに。
花柄のロングスカートをしどけなくたくし上げられ、太ももを咬まれ、穿いていたストッキングまで破かれてしまうのを。
「いやだわ、やらしいわ」とか言いながら、
自分よりも年上の男の痴戯を、面白そうに見おろしつづけていた。
彼の帰り際、「また来てね」と、妻は小手をかざしてバイバイをした。

「また来てね」「またいらしてね」「また咬んでね」
「また、主人のまえで抱いて頂戴ね」――
妻の要求はエスカレートしていったが、彼は妻の要望に、律儀に応えつづけていった。
そしてわたしも、とがめだてひとつせず、嫁の不倫相手に犯されてゆく妻の痴態を、ただの男として愉しみはじめてしまっていた。

あんた、糖尿だね?

2017年04月09日(Sun) 09:53:23

「あんた、糖尿だね?」
貧血を起こしてぶっ倒れたわたしの顔をのぞき込んで、やつは言った。

自宅に侵入した吸血鬼に手もなく首を咬まれたわたしは、ものの数分間でギブアップして、
リビングのじゅうたんの上に、寝そべってしまったのだ。
「血を吸わせてもらったお礼に、ちょっと毒素を抜いておいた。
 あしたの人間ドックの結果、ちっとはよくなっているかもな」

自分の血を吸った相手に、わざわざお礼を言うのも変だな・・・と思っていると、
物音を聞きつけて、妻が入ってきた。
「どうしたんですか?えっ!?どなたですか!?」
あわてる妻もまた、わたしとまったく同じようにしてやつの猿臂に巻かれ、首すじを咬まれてしまった。

四十路女の熟れた血潮を、たっぷりとたんのうさせていただいた――あとで聞かされた、やつの言いぐさ。
たしかにやつは、妻の生き血を見るからに美味そうに、呑み耽っていった。

妻の場合は、それだけではすまなかった。
生き血を恵んでくれたご婦人とは、やたらと仲良くなりたがる・・・
巷のうわさをわたしは、直接見る羽目になっていた。
なにしろ、ひどい貧血で、身じろぎひとつできないでいたのだから。
そのあいだ妻はずうっと恥じらいつづけ、「あなた視ないで」と、苛立たしそうに言いつづけていた。
ワンピースのすそを腰までたくし上げられたまま、妻はなん度もイカされていった。
やつは欲望を果たしてしまうと、はだけたワンピースから覗いた胸の谷間から顔をあげて、
「ご主人すまないね」とわたしに向かってわびながらも、もういちど妻の首すじに唇を吸いつけて、咬みついていった。

妻はまだ、意識があった。
咬まれてゆくふくらはぎを見おろしながら、
穿いていたストッキングを舌でいたぶられ、チリチリに咬み破かれてしまうのを、妻は悔しそうに見守っていたが、
股間に荒々しく手を入れられて、破けたストッキングをつま先までずり降ろされて、ポケットのなかへとせしめられてしまうを、
もう無抵抗で受け容れてしまっている。

「ありがとう。時々吸わせてくだされや」
リビングであお向けになったままのわたしたちに、吸血鬼はねぎらうような声色で言い捨てて、忽然と姿を消した。


今夜も妻は、きちんとした服装に着替えると、やつの棲み処へと出かけてゆく。
「いいの。自分の役割わかっているから」
一本気で勝気な妻は、きょうもわたしの制止を振り切って、面と向かった化粧台から振り向こうとはしなかった。
しょせん私たちは、栄養源。それでもいいの。
家庭を壊したくはないし、彼もそれは望んでいない。あくまでご主人の顔を立てたいっていうの。
私もちょっとの貧血なら耐えられるし、なによりも――血をあげればその見返りに、愛してくれるから。

慰みものにされて咬み破かれてしまうと知りながら、ストッキングはいつも真新しいものを脚に通して。
「履き古しなんかだったら、恥かくから」
さいしょに襲われたとき、たまたま履き古したストッキングだったことを、彼女はまだ悔やんでいるらしい。
初めて咬み破いたストッキングは宝物なのだといって、恥じて回収したがる妻の求めに、やつは応じてくれないのだという。
そんなたわけた話まで聞かされながら、わたしもまた首すじの咬み痕を日々新たにし続ける日常。
しょせんわたしのほうは、栄養源なんだろう?ほんとうの目当ては、家内だろう?
問い詰めるわたしをまえにやつは、夫婦ながら血を吸うのが趣味なのだとしゃあしゃあと応えたものだ。
そういえば。
人間ドックの数値は、年々改善のきざしをみせて、担当医がいぶかるほどになっている。

考えてみれば。
すっかりご無沙汰だった夫婦の営みは、
やつの来訪を機に復活し、特に妻がやつの棲み処から戻ったあとは、迷惑がられるほどに強くなってしまっていた。

吸血鬼の棲む街☆裏のタウン情報

2017年04月08日(Sat) 11:04:49

吸血鬼を迎え入れる家庭が密かに急増? 世帯の6割が「歓迎」

当市に吸血鬼の出没が報告されて、はや一年を迎える。
その後、市街地・郊外を含め昼夜を問わず吸血鬼が街出没するようになり、
道ばたの草むらで吸血鬼と人間の恋人同士による和気あいあいの吸血シーンを目にすることも珍しくなくなっている。
本誌はかねてから、当市に居住する10代から50代の男女を対象に意識調査を継続してきたが、このほどその結果の一部が明らかにされた。
もっとも注目されたのは、実際に吸血鬼と接触を持った人たちの受け入れ度。
調査を開始した昨年5月のデータでは、「迷惑に思う」が90%。「仕方なく受け入れている」が10%。
それが夏を過ぎた頃から好意的な見解がにわかに増加して、初めて「好意を持って受け入れている」が5%と低率ではあるが出現した。
さらに年末になると「迷惑に思う」は65%に減少。20%は「仕方なく受け入れている」だったものの、10%が「好意を持って受け入れている」となり、「歓迎する」が5%と初お目見え。
このほど公開された4月の統計ではその傾向がされあに拡大。
「迷惑に思う」はわずか8%にとどまり、「仕方なく受け入れている」も15%。そして「好意をもってけ入れている」「歓迎する」を合計すると、じつに77%の高率を記録し、吸血鬼と人間との関係性が様変わりしているところを見せつけた。
このうち、「迷惑に思う」と回答した8%のすべてが、吸血されて一週間以内であった。
なん度も吸血されるうちに親しみが生まれ、受け入れ度が高まることを示している。

特に夫婦ながら同じ吸血鬼を受け入れているケースが目立ち、「妻が吸われているところを視ると昂奮を感じる」という意見が多く見られた。
限定公開されている当サイトならではの、人々の本音を反映したものといえよう。
吸血鬼筋によると、配偶者の受難の光景を目にして性的昂奮を覚える男性は、「無類の愛妻家がほとんど」。
その情報が拡散したこともあって、愛妻家を自称する夫、夫に愛されていることを自覚したい妻が、すでに吸血鬼を受け入れている知人を介して相手探しをするケースが増えているという。

                  ―――

「なかなか刺激的な記事だね」
ぼくの背後で吸血鬼が笑う。
パソコンに向かうぼくの後ろで、やつに抑えつけられ血を啜られているのは、妻の裕子。
そう、ぼく自身が、吸血鬼を「好意をもって受け入れている」夫の一人なのだ。
さいしょはもちろん、抵抗があった。
けれども、夫婦ながら血を啜られつづけているうちに奇妙な愛着がわいて、
いつの間にか三日に一度と決められていた訪問が待ち遠しくなり、
こちらからお願いをして二日に一度――夫婦で血液を提供する場合、健康を損なわないぎりぎりの頻度――まで頻度を上げてもらい、
さらに今では、彼を居候の一人として養うまでになっていた。
「あんたが妙なサイトを立ち上げてくれたおかげで千客万来、わしらは大助かりぢゃ。心から感謝するぞ」
男は感謝のしるしに・・・と、自分のものにしてしまった人妻に、劣情に熱っぽく濁った粘液をありったけそそぎ込んでゆく。
なにが感謝のしるしなのだ?
いや、やっぱりこれは、感謝として受け入れるべきものなのだろう。
だってぼくは――マゾになってしまったから。
そんな自問自答をしながら、ぼくは部分的には真実も含まれる記事をつぎとぎと、アップしていく。

「知人を介して・・・か。言い得て妙だの」
失神した裕子をそのへんにころがしてしまうと、男は興味津々、ぼくのPC画面をのぞき込んでくる。
「おかげであんたのご両親も、お兄さん夫婦も、わしらに献血してくださるようになったんだからの」
ぼくの頭のなかで、どす黒い悪夢が旋風のようによみがえる。
法事と称して呼び出した肉親の女性たちは、だれひとり洩れることなく吸血鬼の餌食にされ、犯されていった。
居合わせて夫婦ながら血を吸われた夫たちもまた、惑溺の彼方に。
吸血鬼がその鋭利な牙から分泌する淫らな毒に理性を冒されてしまうと、
夫たちは彼らに若い女の生き血を吸わせるため、自分の妻や娘を悦んで差し出すようになる。
いまでは彼らの欲望を満たすための奉仕を、当番制で代わる代わる務めるために妻たちが着飾って出かけてゆくのを、止めるものはいない。
そう。たしかにぼくの周囲に限っては、「好意を持って受け入れている」「歓迎する」といった人たちばかりになっているのだ。
そしてきょうも――

コン、コンと控えめな音でノックされるドアを、ぼくはおそるおそる開けた。
ドアの向こうには、来月結婚する親友の和樹が、彼女の舞を伴って、恥ずかしそうなニヤニヤ笑いを泛べている。
「ブログ、読んだよ。吸血鬼に奥さんや彼女の血を吸わせるのって、愛している証拠なんだって?」
彼女のほうにせがまれちゃってさあ・・・と、言わない約束になっていた事実をぼろっと口にして、彼女にブッ叩かれた。
「やだ!もう!言わないって言ったじゃんっ!」
活きの良い若い声が玄関先ではじけるのを、やつが聞き洩らすはずがなかった。
若さは強さでもある。
貧血から目ざめた裕子のうえに、またも馬乗りになっていた男を指さして、ぼくはいった。
「このひと、女房の彼氏なんだけど、和樹がヤじゃなかったら――」
「そうね。相手のいるひとのほうが安心かも」
結婚を控えた女子らしい慎重さで、舞はやつを値踏みした。
未来の夫の親友が妻を犯されている現場に居合わせているというのに動じないのは、
いまどきの子だからなのか。それとも、可愛い顔に似合わずドライな感情の持ち主だからなのか。
あやまった値踏みだとも知らないで、舞は「この人と吸血体験する」と、和樹にいった。
和樹もひと目みて、やつのことが気に入ったらしい。
「舞がよければ」と、異存はないようだ。
もちろん、和樹も自分の選択がおおいに誤っているとは夢にも思っていないし、
ぼくはぼくで、みすみす罠に堕ちようとしている親友に警戒するよう忠告することを故意に怠ってしまっていた。

「さあ、お嬢さん、くるんだ」
先に血を吸われてめろめろになってしまった和樹をまえに、舞はさすがに怯えた声で彼氏をふり返る。
「いいのかな・・・和樹?」
不安げにゆがむ口許のすぐ下、柔らかい首すじに、やつの淫らな牙が、容赦なく突き立った――

あとは、ぼくの前でまだ結婚前だった裕子がもてあそばれたときと、まったく同じ再現だった。
結婚を控えた彼女が処女を散らす光景をまのあたりに、禁断の歓びに目ざめてしまった親友は、称賛の声をあげる。

試合のあとの交流

2017年04月04日(Tue) 07:40:46

サッカーストッキングの脚をさらして街を歩くのが、いつになく恥かしかったのは。
行き先と、そこで待ち受けることがぼくの脳裏を離れなかったから。
「よう」
途中でチームメイトに声をかけられてビクッとして、飛び上がってしまったのもそのせいだった。
チームメイトのタツヤは、サッカーストッキングだけでなく、全身ユニフォーム姿。
彼女のチカさんも、いっしょだった。
「これから行くの?俺、もう済ませてきたぜ」
やつの声色は、ちょっと自慢めいていた。
どうしてこんなことが、自慢の種になるのだろう?
タツヤの履いているサッカーストッキングのふくらはぎは赤黒く濡れていた。
チカさんのハイソックスは紺色だったから目立たなかったけど、やっぱり同じことになっているらしい。
そしてぼくも――吸血鬼の待ち受ける邸に出向いて、彼らと同じように咬まれてしまうのだ。

吸血鬼チームとの親善試合に負けたあと。
グラウンドの隅に集められたぼくたちは。
もういちど、親善を深める羽目になっていた。
負けたチームの子の血を吸うのが、彼らの愉しみだったから。
どさくさまぎれに、応援に来ていた女子たちも、やつらに食われてしまったのだ。
チームメイトの彼女も大勢来ていたが、そういう子は特に狙われた。
わざわざ彼氏のまえに連れてきて首すじを咬んで、それから地べたに転がして犯してしまうのだ。
ぼくの彼女の好子もまた、そのなかに含まれていた。

そんな体験を済ませた後で、どうしてユニフォームなんか着て、ヤツらに会えるというのだろう?
だのにヤツは、連絡を取ってきた。
ぼくの血を吸ったあと、すぐそばに好子を転がした相手だった。
「好子さん、身体空いてる?もし無理だったら、ヨウタだけでも来てよ。試合のときのストッキング、必ず履いてきてくれよな」
負けたチームの選手の脚に咬みついて、ストッキングを両脚とも咬み破ってしまうのが、
彼らはたまらなく、楽しいらしい。

「そんなにしかめっ面するなって。愉しんで来いよ。好子も連れてくればよかったのに」
ぼくは黙って、彼らとすれ違っていった。

「よくきたね。あがってよ」
彼女を連れてこなかったことを咎めもせずに、ヤツは朗らかに笑ってぼくを家にあげてくれた。
家人はだれも、いないらしい。
「お袋も妹も、病院行ってる。貧血症なんだ」
どういうことなのか、すぐわかる。
それときみは、セックスをしたことのある女とはだれでも、エッチをするって言ってたよね?
「聞きたいことが顔に書いてある」
ヤツはふふっと笑った。
「図星だよ。お袋はオレにとって、初めての女なんだ。恥ずかしいけどね」
照れくさそうに笑う顔つきは、話の内容はともかく、十代の普通の男子そのものだった。
若干、顔色が悪いのを覗けばの話。
「顔色が良くないぜ」
ぼくはさりげなく、指摘してやった。

「あんまり顔色が良くないとね、周りからヘンに思われるから。
 来週、親戚の結婚式に招ばれてるんだ。
 おやじの弟がお袋に執心でね。
 着飾ったお袋を抱く代わり、娘を襲わせてくれるっていうんだ。
 奥さんも来ればいいのにって言ったけど、どうなるかな・・・
 この間襲わせてもらったときは、ちょっとうろたえていたけどね。
 でも娘のことは叔母さんも賛成みたいだから、いずれ会えると思うけど」
親戚の家庭を崩壊させたことを、さりげない口調で語る彼。
しょせん彼とぼくとでは、役者が違うのかも。
「それで、正体をごまかすために血が要りようで、ぼくを呼んだんだな?」
「すまないね」
そのときだけは、彼は本気ですまなさそうな顔をした。

「いいよ。咬めよ。好きにすればいいさ」
ほとんど捨てばちになってあお向けになったぼくの足許に、
ヤツはそろそろと這い寄ってきた。
ぞくり・・・とした。
獣じみた熱い息が、サッカーストッキングを通して脛にふりかかる。
あ・・・と思ったときにはもう、咬まれていた。
ちゅ、ちゅうううう・・・っ
勢いよく血潮を吸いあげられて、ぼくは絶句した。
きのう呼び出された好子さんも、こんなふうに吸われたのか・・・
どす黒い衝動が、ストレートに股間を衝(つ)いた。
ぼくは思わずうめき声をあげ、のけぞっていた・・・

・・・・・・。
・・・・・・。

試合と練習のときにしか着ないユニフォームを身に着けて、
きょうもぼくは、街を歩く。
傍らに寄り添う好子さんとは、いまでも仲の良い恋人同士。
でも、だれもいないヤツの家の玄関をくぐると、ぼくたち二人はふたりとも、ヤツの奴隷になり果ててしまう。

先にぼくが、サッカーストッキングのふくらはぎを咬まれて血を吸い取られ、制圧されてしまって。
そのすぐかたわらで好子さんが、いつも学校に履いて行く紺のハイソックスのふくらはぎに、唇を吸いつけられてゆく。
もーろーとなっているぼくのすぐかたわらで。
ヤツは好子さんの制服を脱がせて、プリーツスカートの奥深く、たくましい腰を突き入れてゆく。
――もういちど、あの試合のあとの風景を視たいんだ。
そんなぼくの願いをかなえてやる・・・というずるいやり口で。
ヤツは公然と、好子さんをモノにする。
全身全霊こめてぶつけられる絶倫な精力に屈した好子さんがうめき声をあげるのを、
ぼくは制止することができない。
ぼくもさっき、彼女にお手本を示すようにうめき声をあげてしまっていたから。
これ見よがしに彼女を犯されて。
ぼくはその衝撃と昂奮さめやらぬまま、彼女を連れて家路をたどる。
気がつけば、途中で見かけたチームメイトに、堂々と声をかけることまで、できるようになっていた。
きょう出会ったテルカズは、血を吸われ始めたばかりのはず。
あいつ、きのうの試合のあと彼女を抱かれて、それを血走った眼で見つめていたっけ。
「よう。これから行くの?俺もう済ませてきたぜ。彼女も連れてくれば、よかったのに」

先生の奥さんと娘

2017年04月04日(Tue) 07:07:18

若かった。
先生はセーラー服姿の僕の妹に、目の色を変えてのしかかっていったし、
おなじ部屋のなか、
僕は先生の奥さんに馬乗りになって、紺色のストッキングをずり降ろしていた。

妹を相手に三回も果ててしまった先生は、
奥さんのまえなのにまだ息をゼイゼイさせたまま、
「きみの妹さん、もう処女じゃないんだね?」
と、教育者らしく咎めるような声でいった。
僕はしらじらとした声になって、こたえた。
「だって、僕が穴開けちゃいましたからね。ですから僕は自分の女を、先生に紹介したことになるんですよ」
「兄妹で・・・そいつはけしからん」
お仕置きをしなくちゃな・・・と言いたげに、先生はもう一度妹にのしかかっていったし、
僕もまたもういちど、先生の奥さんのライトブルーのワンピースをめくりあげていった。

その後妹はOLになって、勤め先のエリートサラリーマンと、しれっと結婚した。
同時に先生との関係はなくなった。
僕も結婚していたけれど、時折外商のついでに先生宅に顔を出して、
先生がいてもいなくても、奥さんを誘惑しつづけた。
先生はそんないけない僕をとりたてて咎めだてもせずに――まったくそういうときの先生は、およそ教育者らしくなかった――だまって部屋をあけたり出かけたりしてしまうのだった。

「恥かきっこなんですよ」
定年退職近くなった先生が、照れながら周囲に見せびらかす自慢の娘は、ほんとうは僕と奥さんとの間の子。
その事実は、もちろん僕たち三人しか知らない。
娘さんが中学にあがるころ。
先生はおよそ教育者らしからぬ顔つきで、僕にむかって耳打ちをした。
「こんどはうちの娘をお願いできるかな?きみ、近親相姦は得意だったよね?」