淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
K学院中学校 2年E組 水越奈美の場合
2018年03月08日(Thu) 07:04:15
俺が狙った水越奈美は、一見地味な子だった。
仲良し七人組の女の子のなかではいちばん目だたない子にみえた。
でもどういうわけか、その子の面影はほかのだれよりも、俺の目をとらえて離さなかった。
どことなくノーブルで聡明そうな目鼻立ちが、俺の目のまえで血を吸われて堕ちていったお袋と、どこか似通っていたからかもしれなかった。
その子はもしかするとほんとうに、7人の仲良しグループのなかではいちばん目だたない子だったかもしれないけれど、
そんなことはまったく苦にしておらず、むしろ周りの子たちの引き立て役を、すすんで買っているようにもみえた。
きっと――友達の輪の中の居心地がとても良くて、
その中でちゃんとした自分の役割を自覚し、それに満足していたのだろう。
俺は喉の渇きをこらえながらその子の帰りを見送って、
彼女もなんとなく俺の視線に気づきながらも、わざと気づかないふりをして、
セーラー服のスカートの裾をひるがえし、通り過ぎていった。
そのうちに。
見境なく襲われることはないと踏んだのだろう。
ぐうぜん目が合ったときに、彼女は、きちんとした礼儀正しい会釈を投げてきた。
俺はいつになくどぎまぎとしてしまって、あわてて会釈を返すのが、精いっぱいだった。
心の中の危険な火がともったのは、たぶんきっと、そのときだった。
けれども、負け惜しみで言うわけではないけれど、決して喉の渇きに負けたからではなかった。
彼女の会釈に気合い負けしたわけじゃないというのは、もしかすると負け惜しみかもしれないけれど。
その日の夕方、奈美はいつになくお友だちと離れて、ひとりで家路をたどっていた。
いつも友だちに囲まれていて、ほかのだれよりもそういう機会が多い子で、なかなか近づくチャンスがなかったから、千載一遇の好機に俺の胸は不吉に踊る。
俺は相手が怯える想像にワクワクしながら、奈美の前に立ちはだかった。
案の定、奈美はビクッと立ちすくむと、細い目を驚いたように見開いて、俺を見つめた。
なにか言葉を口にしようとしたけれど、何と言っていいのか言葉を選んで逡巡している様子が、ありありとわかった。
俺は少女が言葉を探し当てるまで、意地悪く待ってやる。
「あの・・・あの・・・っ」
奈美はやっとの思いで、上ずる声を抑えかねながら俺に話しかけてきた。
「き、吸血鬼さん・・・なんですよね・・・?」
とつぜん訪れた危機に、とっさに思いつく言葉がなかったのだろう。
頭の回転が遅めなぶきっちょさが、むしろほほ笑ましくて。
俺は余裕しゃくしゃく、ゆっくりとうなずいてみせる。
「喉・・・渇いてるんですか・・・?」
少女はさぐるような視線で、俺を見る。
どんなに対等にやり取りをしたところで、お前はしょせん、掌の上に載った獲物・・・そんな余裕に、俺は物騒な満足感を満喫する。
「そうだから、あんたを呼び止めた」
「ああ・・・やっぱり・・・」
奈美は切なそうに、目を瞑る。
いままでガマンしてくれてたんだ・・・そう呟いたように俺には聞こえた。
その呟きに呼び覚まされるように、人間らしい気持ちがほんの少しだけ、戻って来た。
「あした、期末テストなんです。だからきょうは、襲わないで。
見逃してくれたら、あしたは必ず逢いに来るから。」
奈美は俺と目線を合わせるのさえ怖れるように、とぎれとぎれに、でもしっかりとした声色でそういった。
どうして俺は道をあけてやったのだろう?
この少女をセーラー服のうえから抱きすくめてやりたい。
襟首の白線に血がふきこぼれるほど、ガブリと強烈に食いついてやりたい。
そんな想いにゾクゾクしていたはずなのに。
「せっかく見逃してやるんだから、赤点取るんじゃないぞ。」
捨て台詞のようなからかいにさえ、セーラー服の後ろ姿は素直に肯きかえしてきた。
翌日。
あてにならないデートの待ち合わせに行くような気分で、俺は夕べあの子を通せんぼした四つ角に立っていた。
奈美は約束の時間に五分とたがわずに姿を現して、おずおずとこちらのほうを窺っている。
ぎらりとした目線を投げてやったら、ビクッとしてたじろいだけれど。
逃げようとはしないで、踏みとどまった。
真面目な義理堅さに、親からちゃんとしたしつけを受けた子なのだと感じさせた。
年ごろになった自分の娘が吸血鬼なぞに狙われて、今頃親どもはどんな気持ちでいるのだろう?
重たげに垂れさがる制服のスカートの下から覗く脛は、真っ白なハイソックスで覆われている。
きっと、友だちから教わったのだろう。
思ったとおりの、良い子だった。
「きのうはほかの子を襲ったの?」
俺が無言でかぶりを振ると。
「だったら――喉、すごく渇いているんでしょう?」
怯えた上目遣いに引き込まれるように。
気がつくと俺は、奈美のことをギュッと抱きしめてしまっていた。
「恥ずかしいから、人目の立たないところでしてね」
奈美はことさら笑顔を作って、なんとかいつもの素直で穏やかな自分を手放すまいとしていた。
俺は手をつないで、少女を強引に公園に連れ込んでいた。
「お嫁に行けなくなる公園」
年ごろの少女たちのあいだでは、そう呼ばれているらしい公園だったけれど。
「無茶なことはしないから」
という俺の囁きを、彼女は疑うことなく本気にしてくれた。
「怖くしないでね。痛くしないでね・・・」
少女は俺がむき出しにする欲求に怯えながらも、俺の患いを自分の血で取り除こうとして、
まるで看護婦のように懸命になってくれているようだった。
いよいよ俺が彼女のおとがいを仰のけて、首すじに唇を近寄せると。
「キャー」
怯えながらも小声で悲鳴をあげるふりをした奈美は、
セーラー服の襟首を俺につかまれながら、素直に首すじを咥えられていった。
柔らかくて温かなうなじの感触が、飢えた唇をゾクゾクと昂らせる。
俺は夢中で奈美の首すじを咬んで、嗜虐的な牙をその柔らかな皮膚にずぶりと埋め込むと、十代の少女の純潔な血潮に、もう無我夢中で、酔い痴れていった。
「もっと・・・いいよ」
貧血で顔を蒼ざめさせ、吸い取られた血潮で頬を濡らしながらも、奈美は俺のことを促した。
まだ足りていないと顔に書いてあるのだろう。
俺は遠慮なく、少女の足許に唇を吸いつけた。
じっと見下ろす視線を頭上に感じながら、舌をチロチロ這わせながら、
ハイソックスの生地のしなやかな舌触りを愉しんでやった。
「あぁ」
ハイソックスを咬み破りながら吸血を始めたとき――少女は初めて咬まれたときよりも、羞ずかしそうにした。
靴下を破られながら吸血されることのいやらしさを、本能的に感じ取ったみたいだった。
失血による息遣いの乱れを抑えかねているのが、抑えつけた両肩から、セーラー服を通して伝わってくる。
満足のゆくまで少女の血を味わうと、俺は奈美を放してやった。
「喉渇いたら、ガマンしないで声かけてね。できれば明るく・・・」
蒼ざめた頬に浮かぶ笑みは、いつもの穏やかさがそこなわれていなかった。
もしかすると俺はこの子のことを、犯さずに吸いつづけるのかもしれない。
静かに遠ざかってゆくセーラー服姿の後ろ姿を見送りながら、俺はふとそんなことを想っていた。
あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。
2018.2.28構想 2018.3.8脱稿
K学院中学校 2年E組 仁藤真奈美と安西優子の場合
2018年03月08日(Thu) 06:51:25
クラスでも一、二を争う美人と自負しているあたしたち。
あたしと優子はいつも、学園祭の時だけ訪れる男子の注目の的になる。
そんな二人の初体験は、
あたしたちにはおよそふさわしくない年配の小父さまたちに汚される、
無理強いなものだった。
学園祭には、家族と招待客しか招ばないはずなのに、
それとも同級生の誰かに、家族が吸血鬼化した子がいたのだろうか?
空き教室で2人だけでいたあたしと優子の目のまえに現れたその2人は、
ひと目見ただけでそれとわかる、吸血鬼だった。
あたしも優子も立ちすくんでしまって、
おそろいの夏用のセーラー服姿を抱きすくめられて、教室の床に押し倒されて。
2人肩を並べて泣きじゃくりながら、首すじを咬まれていった――
泣きじゃくった涙が随喜のそれに変わるのに、十数分とかからなかったらしい。
あとでそれをあのひとたちから聞いてあたしたちは、
「・・・恥ずかしい」
と、そのひょう変するまでの時間の短さを恥ずかしがった。
「あまり苦しめたくなかったのだ」
あのひとたちは弁解するようにそう言ってくれたし、今ではそれを信じるつもり。
だってそのとき、最悪の展開を予感したあたしたちは、
「お願い、犯さないで!まだ処女でいたいの」
って、訴えて――彼らは聞き入れてくれたから。
その代わりあたしたちは、不思議な約束をさせられていた。
こんど校外で逢うときは、ハイソックスを履いてお出で と。
三つ折りソックスが義務づけられていたあたしたちは、
下校すると途中で靴下を履き替えて、吸血鬼の棲み処へと訪ねていった。
ほかの子たちと違うソックスを履いて道を歩くことに、周囲の目を必要以上に気遣いながら。
きっとあのときの落ち着きのなさ・・・一生忘れることはないだろう。
処女のまま生き血を愉しみたかったのか、
白のハイソックスをずり降ろしながら、いやらしい愉しみに熱中したかったのか、
あたしたちはしばらくの間、犯されずに済んだ。
夏に香織ちゃんが襲われて犯されたって聞いていたから、
そのうちあたしたちもきっとそうなるって思っていたし、
どうしてあの子たちは吸血鬼さんに振り向かれないのって思うようなパンクな子たちもクラスにいたから、
セックスを識っている子は周りにふつうにいたけれど。
やっぱり大人の女になるのは、まだ怖かったから。
冬になってもまだ、あたしたちは幸い、処女のままだった。
香織ちゃんが初めて襲われたその場で女にされちゃったことは本人から聞いて知っているし、
順子がバレンタインのプレゼントに処女を差し出したことも自慢されたけど、
やっぱりあたしたちは、まだ怖い。
でも――小父さまたちは、あたしたちに囁きつづける。
こんど夏服になったら、黒のストッキングを履いてお出で。
そうしたらきみたちのことを、一人前の大人の女にしてあげる。
自分から言い出すのは、羞ずかしいだろうから、それを合図にしようね。
いけない囁きはあたしたちの耳たぶを焦がし、鼓膜の奥底にまでしみ込んで、
あたしたちはいつのまにか、うなずき返してしまうようになっている。
三年生の夏――あたしたちはきっと、黒のストッキングをずり降ろされながら、
太ももの奥に「イヤってほど痛い(by香織ちゃん)」というモノを、突き刺されてしまうに違いない。
あとがき
登場人物や団体名等はすべてフィクションです。
2018.2.28構想 今朝脱稿