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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

前作の、多少誤解を交えた要約 ~一期一会~

2018年05月29日(Tue) 07:55:31

人間と吸血鬼が共存する街に、一人の学校教諭がいた。
教諭の教え子の一人は吸血鬼で、教諭の夫人に恋をしていた。
想いが高じて病になった彼のため、教諭は夫人を見舞いにやらせたが、
それは結果的には、最愛の妻に対する教え子の道ならぬ恋を成就させることになった。
有夫の婦人を吸血の対象とするとき、彼らはほとんど例外なく、肉体関係まで結んでしまうからである。
教諭夫人は、夫の身体しか識らなかった。
そして、夫に命じられるままにその教え子のために献血に応じ、その流れで凌辱を受けてしまう。

教諭夫人は、自分のことをものにした教え子に付き添われて帰宅したが、夫にすべてを告げた。
夫人は涙ながらに、
「操を奪われて悔しゅうございますが、若い男の身体を識ってしまった身です、どうぞ離縁してくださいまし」
と願ったが、教諭の容れるところにはならなかった。
教え子が彼からその妻を奪う意思を持っていないこと、恩師の名誉を守ろうとしていることを確かめると、
教諭は二人の仲を許容して、むしろ逢瀬を重ねることをすすめたのだった。
教え子の性癖を薄々知りながら、みすみす夫人を見舞いにやらせてしまった以上、
ふたりを結び付けたのはむしろ自分自身なのだと自覚していたからである。

夫人にも、いなやはなかった。
さいしょに挑まれたときには、うろたえながらも夫の教え子の衝動を食い止めようとした彼女だったが、
破れた洋服を気にかけて夜の闇を待つあいだ、すっかり打ち解けたセックスを交し合ってしまっていたのである。
教え子でもある吸血鬼は、恩師が離婚することを望んでいなかった。
同時に、彼女のことを、恩師の妻のまま辱めつづけることを願っていた。
教諭は、いびつな愛に目ざめた二人の願望を、好意的にかなえたのだった。

教諭が二人の逢瀬を三日に一度に限ったのは、過度の失血が夫人の健康を損ねることを気づかったためである。
そして彼の教え子は、許された権利を遠慮なく、限度いっぱいまで行使した。
事前に来訪が告げられているときには、教諭は妻と教え子とを二人きりにさせてやるためにわざと外出することが多かったが、
吸血鬼が衝動のままに息せき切って前ぶれなく現れたときには、そうはいかなかった。

教諭夫人は夫の目のまえで息荒く抱きすくめられ、装った清楚な衣装もろとも辱められていった。
吸血鬼に接するときに彼女が身なりを整え清楚な服装で装ったのは、決して相手の気を引くためではなく、
自らの品格を守ろうとするためだったが、むしろ逆効果だった。
初めての来訪のときスーツ姿で訪れた夫人の、ひざ下丈のスカートから控えめに覗くストッキングに包まれた脚に吸血鬼は欲情し、見境なく襲いかかったのだ。
さいしょの逢瀬以来夫人は、「品格を守るため」と言いながら、若い愛人の気を引くために装いはじめている自分に、気がついてゆく。

やがて夫人の衣装は少しずつ入れ替わって、
真っ赤なスリップや黒のストッキング、
ときには濃紺のストッキングで娼婦のように毒々しく染めた足許を、
ほんのすこしだけためらいながらも、夫の教え子のまえにさらすようになってゆく。

お茶を嗜む教諭夫人は、情事の現場と化した離れの茶室で、情夫にお茶を振る舞った。
そして、求められるままに着物をはだけて、わが身をめぐる生き血も、同じくらい熱意をこめて振る舞っていった。
一期一会。
ふたりは時には教諭を交えて愛し合い、今しかないひと刻をせつじつに過ごしたのだった。

やがて教諭の教え子たちが成長すると、交代で母校に勤めるようになった。
彼らは教諭夫妻が二人きりでいられる時間を作るため、
身代わりに自分の妻たちをかつての幼馴染に引き合わせることになる。
吸血鬼はクラスメイトたちの若妻の生き血に酔い痴れて、
一人また一人と、こぎれいな装いを持ち主の血潮で染めていった。
若妻たちは、いちど首すじにかぶりつかれてしまうと、唯々諾々と彼の意のままになって、
家事や育児の合間を縫って、彼専用の娼婦へと堕落していった。

それでも教諭夫人との交際は絶えることがなく、
彼女が奥ゆかしい老婦人となってのちも、
夫の目を憚り、ときにはあべこべに見せつけながら、
奥深い情を交し合いつづけたのである。


あとがき
要約というには長すぎますね。^^;
前作では、夫は不慮の災難の用に妻を襲われていますが、
本作では、ある程度見越したうえで愛妻を吸血鬼にゆだねる感じになっております。

一期一会

2018年05月29日(Tue) 06:24:44

ある若い吸血鬼が、人妻を愛するようになった。
相手は、自分の恩師の奥さんだった。
この街では人間と吸血鬼とが共存していたので、
その吸血鬼も、人間の学校で人間の先生から教えを受けていたのだ。

吸血鬼はわきまえのある青年だったので、自分の想いを押し隠すことにした。
けれども先生は、教え子の自分の妻に対する想いに感づいていた。
奥さんもまた、彼の想いに気がついていた。
やがて病を得た青年のもとに、先生は奥さんをお見舞いに行かせることにした。
「ユウトくんの見舞いに行って来てほしい」
夫にそう告げられた奥さんは、自分の身に何が起きるのかを薄々知りながら承知した。
彼女は夫を愛していたし、夫の判断を信用していた。
きっとそうすることが、いまの自分たちにとってベストなのだろうと。
「一期一会だよ」
夫はいった。
まるで謎をかけるように。
訪問先にはどんな一期一会が待っているのかと思いながら、
奥さんは行儀よく脚に通したストッキングのつま先を、地味な革製のパンプスに収めていった。


奥さんは身なりを整えて、夫の教え子のもとに出向いた。
吸血鬼の家は広い棲み処で、彼はその家で独りで暮らしていた。
奥さんが身なりをきちんとしたのは、恩師の夫人としての体面を整えるためだった。
決して、若い吸血鬼の気をそそるためではなかった。
夫もまた、そうすると良いとすすめてくれた。
身なりのきちんとした女性のほうが、そうでない女性よりも、乗じられることが少ないだろうからと。
しかし結果は逆だった。
奥さんのきちんと装われたスーツ姿に、
ひざ下丈のスカートから控えめに覗いた、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
吸血鬼は欲情してしまった。
彼は奥さんの首すじにかじりつき、思うさま血を吸い取ると、
奥さんの穿いていた肌色のストッキングを牙でびりびりと咬み破り、
相手が恩師の夫人であるというわきまえを忘れて、彼女を犯してしまった。

「あれ!何をなさいますの!?いけません、お止しになって・・・」
奥さんはうろたえながらも夫の教え子を落ち着かせようとしたけれど、
失血で弱った手足は思うようにいうことをきかず、
たちまちねじ伏せられて、力ずくで凌辱されてしまった。
永年連れ添った夫しか識らない身体だった。
彼女は泣きながら犯されたが、
しかし識ってしまった若い男の身体に、四十代の熟れた肢体は敏感に反応してしまった。
さいごは不覚にも、別れぎわぎりぎりまで、肌を合わせてむさぼり合ってしまっていた。
これが一期一会というものなのか。
ひくひくと喘ぎつづける身体の芯の火照りにとまどいつつも、
これでいいのだろうか、こんなことでよかったのだろうかと懊悩しながら、
身に降りかかる嵐のまえ、どうすることもできなくなっていった。


長い時間が過ぎた。
教え子は恩師の奥さんに恥をかかせるつもりはなかったので、
彼女の洋服が破れて素肌をあらわにしてしまっているのが闇に紛れる刻限になってから、彼女を家まで送っていった。
ただし暗くなるまでにはまだ決して短くはない時間が必要で、
そうなるまでの間ふたりは、お互い恥を忘れてまぐわい合っていたし、
彼はもとより、彼の考えを聞かされた奥さんも、いつか相手の男と気持ちをひとつにして、
知らず知らず、これ幸いと脚を開いて刻を過ごしてしまったのである。

家に着くと奥さんは我に返り、自分のしでかしてしまったことを取り返しのつかないことだと感じた。
ふたりの男のまえ、奥さんはすべてを打ち明けて、
私は当家の名誉を汚してしまった、
もうあなたの姓を名乗りつづけるわけにはいかない、
どうか自分のことを離縁してほしいと夫に願った。
教え子の吸血鬼は、ただ頭を垂れるばかりだった。
先生は奥さんを愛していたし、教え子にも悪気がまったくないことを知っていた。
なによりも、彼らが人妻の血を吸うときは、ほとんど例外なく肉体関係を結ぶことも、薄々は聞き知っていた。
けれども真面目な教え子であった彼に限って、自分の妻に非礼をはたらいたりはしないだろうと思って、妻を見舞いに行かせたのだった。
先生は奥さんに言った。
いちばんに責められるのは、彼の習性をそうと知りながらきみを行かせたわたしにある。
きみがもし彼を愛してしまったというのなら、ぼくに止める力はないけれど、
そうではないというのなら、このまま家にいなさい、と。
また、教え子の吸血鬼にも訊いた。
きみは家内のことを愛してしまったのか、それともたんに、生き血と女の身体をむさぼりたいという本能のままにし遂げてしまったことなのか、と。
教え子はいった。
奥さまに罪はない、すべては自分の忌むべき本能のせいなのだ、と。
それからこうも言った。
自分は劣情の塊である、だから奥さまを襲ったのも、犯したのも、その忌むべき本能にしたがったまでなのだ、自分はたんに女の生き血と肉体が欲しくて、奥さまに挑みかかったのだと。
妻と教え子と、どちらも愛している恩師は告げた。
きみたちの関係が、割り切れるものだというのなら・・・
(妻を指して)きみはここに留まりなさい。
(彼を指して)きみはここに通ってきなさい。


それ以来。
教え子は卒業してからも、恩師の家に通い詰めた。
奥さんひとりで彼の必要とする血液すべてをまかなうことはできなかったが、
彼にはほかにも獲物がいたので、彼女の健康は保たれた。
けれども彼は三日にあげず恩師の家にやってきて、その妻の身体を欲しがった。
恩師は教え子の求めにこころよく応じて、
やって来た彼に家のなかで一番良い部屋をあてがった。
そして、彼の待つ部屋に行くよう妻に促していた。
奥さんもまた小ぎれいに装って、夫の教え子の待つ部屋へと足を運んだ。
彼女が身なりを整えて、きちんとした服装で教え子の前に出たのは、
教諭夫人としての品格を保とうとしたからであって、夫の教え子の気を引くためでは決してなかった。
永年習っているお茶の作法とどうように、彼女は夫の教え子をもてなそうとしていた。
どんな服装を身に着け、どの部位を彼の植えた唇にあてがい、
どんなふうに教諭夫人としての品格を辱められまいとして、
どんなふうに衣裳を剥がれて辱められてしまうのか。
いつも茶室で振る舞うお濃茶の代わりに、われとわが身をめぐる血潮を振る舞うことで、
彼女は彼女なりに、しんけんに刻を過ごそうとした。
それが、(半ば許されていることとはいえ、)夫を裏切る刻であったとしても。

それでも、せっかくやって来た彼のことを少しでも愉しませてやろうという心遣いから、
身に着ける下着はいままでの地味なものからセクシィなものへと換えられていって、
脚に通すストッキングは、より薄っすらとなまめかしいものへと変えられていった。
それまでと変わりなく装われた清楚で気品に満ちた服装もまた、
清楚なものを汚したいという、品格というものを貶めたいという
そんなけしからぬ訪客の願望をかなえてやうために、袖を通されるようになっていった。

地味で清楚な服装のなかに、それを辱める愉しみを見出しながら、
彼は彼で、奥さんの服装の変化に敏感になっていた。
三度に一度はまとわれるようになった真紅のスリップや、
週に一度を限度に脚に通される黒のストッキングや、
それこそ月に一度あるかないか、
しつようなおねだりにほだされて羞じらいながら脚に通される濃紺のストッキングや、
そうした彼女にまとわれた衣装をまえに、
彼は恥知らずなよだれを口に含み、吸い取った血潮を見境なくまき散らしながら、
教諭夫人が浄いものとしたがった一期一会を、淫らで荒々しいものへと、塗り替えていった。


奥さんが自宅に夫の教え子を迎え、献血に応じるようになってひと月ほど経ったころ、
彼女は夫にいった。
あのひととのお付き合いが、あくまで身体だけが目的のものだとしたら、何と虚しいことでしょう?
もちろん、四十代の女の熟れた血液を彼が望んでいることは、
今の妾(わたし)にはとても嬉しいことだし、
これからも応えつづけてあげたいけれど。
やはり男女の関係というものは、愛情という裏打ちがあるべきだと思うのです。
このような心は、貴方に対する裏切りになるでしょうか?
やはり、妾は貴方にふさわしい妻ではいられないのかもしれません、と。
夫はいった。
きみのいうことはもっともだ。
でも、いまのきみたちの関係が、たんに獣のような劣情だけで成り立っているとは、ぼくは思っていない。
きみたちはきちんと、愛し合っている。
少なくともきみは彼を迎えるときに、ほかの誰に対するよりも心を込めて接しているし、
彼もまた、ここに来るのを心待ちにしているのだから。
彼のきみに対する気遣いは、ふつうの我々人間たちの気遣いとは違っていて、
礼を尽くして装われたきみの服を念入りに辱めたり、
ぼくの目のまえできみを抱いてなん度も果たしてしまったり、
そういうことで、自分は今貴方から頂戴した獲物を愉しんでいると、ぼくに精いっぱい伝えようとしているのだろう。
それになによりも、きみのことをあれほど辱めて愉しんでおきながら、
毎日ここに現れないのは、きみの健康を損ねないために気を使っているのだから。

たしかに彼は、恩師の夫人との逢瀬を日々、心待ちにしていた。
三日に一度以上の吸血は控えていたし、どうしてもこらえきれないときには先生の家にやって来て、愛し合う行為だけを遂げていった。
そういうときは、先生は気を利かせて外に用事を作ったりするものだったが、
前ぶれのない来訪の時にはそういうわけにもいかず、
彼は恩師の目のまえで奥さんを押し倒して、
奥さんもまた、彼の激しすぎる好意に、ぎごちなく身体を合わせて応えていった。

彼は恩師とその妻にいった。
私は奥さんのことを愛している、さいしょからずっとその気持ちに変わりはなかった。
でも先生から奥さんを奪ってしまうことは、ぼくにはできない、
だからぼくは、奥さんのことを、先生の奥さんのまま愛し抜きたいと。
彼が望んでいるのが独占ではなく共存だと知って、心優しい夫妻は安堵しかつよろこんだ。
夫は、いつでも君が来ることを望んでいるし、妻を抱くためだけに来てもらってもかまわない、それはぼくにとって不名誉なことではなくて、むしろ悦ばしいことなのだからといい、
妻もまた、貴男がいらしてくださるのなら、妾(わたし)、いつでも夫を裏切りますわといって、控えめな目鼻立ちを和めて笑った。
言葉の露骨さとは裏腹の、穏やかなほほ笑みだった。
そして彼女は、その言葉と態度どおりに、夫に対しても客人に対しても礼節を忘れることなく接し、いよいよのときだけは恥を忘れて乱れ果てた。

身体ばかりか心まで通じ合ったふたりは、
恩師の目のまえで、
夫の目のまえで、
見せつけるようにして愛し合い、
永年連れ添った妻が肉体を征服されるところを目の当たりにする羽目になった恩師は、
教え子が逞しく成長したことを、いやというほど思い知らされるのだった。


やがて時が流れて、先生の奥さんと教え子の吸血鬼の関係は、だれもが知るようになった。
奥さんが教え子と深く結ばれて愛し合うことに、先生は満足していたけれど、
時には奥さんと二人きりで過ごしたいという、夫として当然すぎる気持ちも持つようになっていた。
道ならぬ愛を許されたふたりもまた、先生のそうした意を汲んで、少しずつ逢瀬を控えるようになった。
一定量の血液を必要とした吸血鬼が、最愛の人妻を夫のもとに帰すことができたのは、
かつてのクラスメイト達のおかげだった。
先生の教え子たちは全国に散らばっていたが、何人かは戻ってきて、先生の“窮状”を知った。
彼らはかつての同級生だった吸血鬼と個別に会い、恩師夫妻のふたりだけの時間を作るため、奥さんの身代わりに自分たちの妻を差し出すと申し出た。
ありがたい申し出に、吸血鬼にもいなやはなかった。
彼は同級生の娶ったうら若い新妻たちの首すじに、つぎつぎとかじりついていって、
養分と活力豊かな20代30代の血液にありついた。
もちろん、親友の妻といえどもそこには見境はなくて、
若妻たちは一人、また一人と犯され、吸血鬼の奴隷に堕ちていった。

先生の弟子たちは身内の秘密を守りながら連絡を取り合って、
恩師の妻の身代わりに自分の妻をあてがっても差支えのない者たちが、
まるで当番のように交代で母校に赴任して、
かつての幼馴染に、自分たちの妻の若い血液と肉体を提供しつづけた。
自分の妻の容姿に自身のない者は、
「俺の女房なんか、頭数だけだよね?」
と、吸血鬼に問いかけたが、案外そうした妻たちにこそ、彼は執着していった。
地味で清楚な婦人に魅かれる彼の習癖に、代わりがなかったからである。
なん人もの若妻たちが、夫以外の男の身体を覚え込まされ、
家事や子育ての合間を縫って、彼専用の娼婦として奉仕を続けた。

吸血鬼は母校の教諭夫人たちを、かつて恩師の奥さんにそうしたように押し倒し、血を吸い取り、犯していった。
そんな彼の習癖をただの病気と割り切って、かつての幼なじみたちは、
自分の妻たちが身に着ける清楚な衣装が、持ち主の名誉もろとも汚されるのを、
貞淑だったはずの自分たちの妻が、不倫の恋に酔い痴れるのを、
見て見ぬふりをし続ける。


齢を重ね、還暦近くなろうというのに、
それでも吸血鬼の恩師宅通いはつづけられた。
楚々とした着物に身を包み、永年習った作法でお茶を振る舞ったあと、
狭い茶室のなか、われとわが身をめぐる血潮を、お濃茶以上にたっぷりと振る舞って、
着物の下前をめくりあげられ、襦袢をたくし上げられて、
昼日中からまた、あられもない声をあげてしまう。
夫がそれを傍で聞いて、愉しんでいることまで知り尽くしながら。

青田君の奥さんと、うまくやっているのね?
エエ、二人は愛し合っているんです。
笹岡くんがもらったばかりの、新婚の奥さんまでものにしちゃったんですって?
エエ、あのひととも愛し合っているんです。
そのうえ、妾(わたし)とも?
ハイ、二人は愛し合っているんです。
「ふたり」と告げたときの情夫の微妙な口吻に気づいた彼女は、ふと笑いかける。
そこには夫も入っているのだ と。
「ふたりって、どのふたりのこと?」
わざと聞かれた問いに男は答えずに、いった。
一期一会 ですよね?
私は目のまえの獲物に専念するし、いま抱いている女(ひと)を愛し抜くことしか考えません。
青田くんの家では、青田夫人とその娘さん、
(うっかり口走った秘密に、あらあら・・・とクスクス笑いが続いた)
笹沼くんの家では、彼の奥さんやお母さん、
(まあまあ・・・と、教諭夫人はふたたび笑いこける)
この家では、貴女――
さあもういちど、と口づけをねだられて。
奥さんは「主人が視ててよ」と、いちどは拒んだが、
強引に押しつけられる唇に、唇で応えていって、
物陰から覗く夫の困ったような視線にもおかまいなく、またなん度めかの“一期一会”を重ねていった。

2018年05月28日(Mon) 22:29:50

さいしょのうちは、どうしてこんなにしつっこく、ひとの身体のあちこちに喰いつくんだろう?と思っていた。
やつと逢っているときは、首すじだけではなく、
肩、胸、二の腕、わき腹、太もも、ふくらはぎと、それこそありとあらゆる部位に喰いついてくるのだ。
わざと苦痛を与えるためか?
そう思ったときもあった。
けれども、どうやらそうではないらしいことが、最近分かってきたような気がしている。
やつらはただ、「噛みたい」のだ――と。

やつらは牙をとても大切にしている。
なぜって、それが人の心をも支配できる最強の武器だからだ。
いつも入念な手入れを欠かさない。
そして、ひとの女房を誘惑するときには、
――美女の素肌を噛む前に、手入れは欠かせないのだよ。
などと、もっともらしいご託まで並べ立てる。

仲間同士では、自分の牙が今月、幾人の美女の素肌に埋め込まれたのかを自慢し合っていた。
「わしは青沼の女房をモノにした。ついでにやかましいことをいう姑まで、奴隷にしてやった」
「わしなんか、隣家の嫁入り前の姉妹を3人ながら、ちょうだいした」
「くそ!俺が貧血にしてやったのは、勤め帰りのOL1人だけだ」
「ははは、そいつは残念だったな」
指折り数えて、競争相手よりも少なかった日にはたいそう悔しがって、
喉が渇いているわけでもないのに人間の女たちに襲いかかる。
そんなのの巻き添えにあったのでは、まったく迷惑極まりないのだが・・・
けれども、彼らの自己満足を満たすため、頭数かせぎに集められた女たちのなかに、
わたしの母や姉、そして妻までもが含まれていた。

自分の血でびしょ濡れになったワイシャツとスラックスにしみ込んだ、薄気味の悪い温もりを感じながら。
目のまえで妻が、わたしのときと同じように、色鮮やかな紫のワンピースを血塗られながら、噛み続けられていった。
あたかも、ひとの服を持ち主の血で彩るのが愉しくてしようがない――はた目にも、そんなふうに映った。
事実そうなのだ・・・と、妻を噛んだ男はいった。

撥ね散らかされる血。
洩れる悲鳴。
振り乱される髪。
血塗られてゆく衣裳。
裂け目を拡げるストッキング。
こたえられない噛み心地――
それらすべてが一体になって、彼らにサディスティックな悦びを与えるのだと。

きみたちは、サディストなのか?
わたしは訊いた。
たぶんそうだね。
男は応えた。
でも、噛まれる側に立っているあいだは、マゾヒストだったな――と。
そう。
彼もまた、吸血鬼になるまでは、わたしと同じふつうの市民だったのだ。

女房が噛まれたときにはひどく悔しかったけれども、
嗜血癖が芽生えてきてしまうともう、頭の中身がすっかり入れ替わってしまって、
噛まれている女房を視ているだけで自分が噛んでいるような気になって、
そのときにはもう、意識は吸血鬼の側に飛んでいたっけな――
さいごのころには、女房を噛んでもらいたくって、しぶるあいつを促して、夫婦でお邸に通ったものだよ。
マゾヒストはある意味、最良のサディストになり得るのさ。

たしかに。
相手のツボを知っているものほど、よく相手を支配できるのだろう。
妻を噛んでいる憎いやつは、吸血の本能を植えつけられたとき、すすんで女房を仇敵の欲望にゆだねて愉しんだという。
彼のいびつな歓びを、果たしていまのわたしは笑い飛ばすことができるだろうか・・・?

きょうも妻は、家のなかを悲鳴をあげながら逃げ惑い、部屋の隅っこに追い詰められて、
身じろぎできないほどに強く強く抱きすくめられた腕のなか、きゃあきゃあと声をあげ、噛まれてゆく。
貧血を起こしてひっくり返ったわたしは、目を血走らせ、股間を逆立てて、ふたりのようすから目を離せなくなっている。

どうやらマゾの境地を極めたようだな。
犯されて放心状態になった妻の上におおいかぶさって、
乱れたワンピースの裾から覗く太ももの奥に、どす黒くたぎった熱情の限りをそそぎ込んでしまったあと。
やつはわたしの胸の奥を見抜いたようにいった。
ここからは、あんたもサディストになる番だな。
どうやらそういうことらしいね。
気がつくと、身体じゅうの血のほとんどは、やつの牙に啜り取られたあとだった。
虚ろになった身体に淫らな夜風が吹きつけるのが、ひどく心地よい。
自分の身体が人の生き血を欲し始めた――わたしはありありと、そう感じた。

兄夫婦と姪を狙おうと思う。
わたしはやつに、宣言した。
口にしただけで、兄の一家の運命を握ったような気分になった。
さいしょから独りで狩るのは大変だぞ。おれが手伝ってやる。
もっともらしく囁く男の本音を見抜くのは、かんたんだった。
目あては娘のほうか?女房か?
どっちもだ。
男は嗤った。
わたしも嗤った。
お前の妻に手引きをさせろ。だんなはお前の妻に気があるんだ。
知ってる。
せっかくだ。武士の情けでいちどくらいは、抱かせてやるか。
やつとおなじ語調になったわたしに、男はいった。
3人とも、さいしょは俺が噛んで大人しくさせる。そのあとは、好きにやるとよい。
兄嫁は、あんたに先にやらせてやるよ。
ずうっと前から、執心だったんだろう・・・?

わたしは嗤った。
やつも嗤った。
嗤った口許から同じように尖った牙が閃くのを、互いに確かめ合いながら。

部活帰り

2018年05月25日(Fri) 09:06:18

あぁ~、美味かった♪
咬んでいた首すじから顔をあげた吸血鬼は、ニンマリと笑う。
「冗談じゃないわ!とてもメイワク・・・」
いつも気の強い菜々美は歯ぎしりして悔しがったが、
失血のために語尾は弱く震えていた。
声の弱さが悔しかったのか、こちらをギュッと睨みつけてくる少女に、吸血鬼はいった。
「助かった。すんでのところ、くたばるところだった。あぶないところで、あんたの若い血にありつけた。礼を言う」
「礼なんか言ってほしくない」
少女は言い返した。
「なあ、頼むから・・・もう少しだけ恵んでくれないか?死なせたりしないから」
「イヤだって言っても、どうせやるんでしょ?」
少女はあくまでも恨めし気に、男を見あげた。
「物わかりのいい子だな」
男はふたたび少女のうなじを咥えると、さっきしたたかに血を啜り取った傷口を、強く吸った。
「あうっ・・・」
菜々美は仰向けに倒れたままのけぞって、目を瞑り、歯を食いしばる。
苦し気にうつむいて両手で顔を覆う菜々美に、男は
「すまない、だいじょうぶか」
と、口ではいいながら、言葉だけの気遣いを自分で裏切るようにして、
少女の足許にそろそろとにじり寄る。
血に飢えた状態の自分のまえで逃げもせずに身体を横たえているのは、
血をいくら吸っても文句は言わないという意思表示――
そんなふうに自分に都合よく誤解してしまう習性を、どうすることもできなくなっている。
「あッ!やだ!やめてッ!」
鋭い声を発したセーラー服姿の足許に、男はハイソックスのうえから唇をなすりつけた。
部活帰りの少女は、所属している球技サークルのユニフォームのライン入りハイソックスをそのまま履いている。
白地に赤と黒のラインが入ったハイソックスに魅入られるように、
男は唇を這わせ、舌をふるいつけて、あぶく交じりのよだれをなすりつけながら、
菜々美の履いているハイソックスの舌触りを愉しみ始めたのだ。
「イヤッ!やらしいッ!は・な・し・て・・・っ」
叫び声の語尾がまたも、弱く縮こまった。
這わせた唇の下、バラ色のシミをナイロン生地に広げながら、男はふたたび菜々美の血を愉しみはじめている。

「このあたりの吸血鬼、やらしいよ。襲われちゃうと、ハイソックスの上から脚に咬みついてくるんだよ。
 女の人の履くストッキングやハイソックスが好きで、よだれで汚して咬み破って愉しむんだよ。
 あたしも何度か襲われたけど、血を吸われるよりハイソックス破かれる方がやらしくって嫌だな」
親友の朋美がいつか、そんなことを言っていたっけ・・・
失血でぼうっとなった頭でそんなことを考えながら、
ハイソックスごしに突き入れられてくる牙が痛痒いと、菜々美は思った。

「こないだも、先生の脚を咬んでいたよね」
男はこたえずに、もう片方の脚にもとりついてゆく。
菜々美は知らず知らず、男の動きに逢わせて、彼が吸いやすいように脚の角度を変えてやりながら、なおも言った。
「このハイソックス、ユニフォームなんだけど」
「知っている。ライン入りのやつって、いい感じだよな。学校出ていくところからつけてきたんだが、目だっていたよ」
男はそういうと、菜々美の穿いているハイソックスの、いちばん肉づきのよいふくらはぎのあたりに唇を這わせた。
「あっ、もう・・・やらしい」
菜々美は悔し気に唇をかんだが、さっきまでより従順になったのは、失血で身体の動作が緩慢になったせいだろうか。
「部活のみんなを裏切っているような気がして、なんか嫌だ」
菜々美は言いにくそうに言った。
「あんたはなんにも悪くはないさ」
男はわざとクチャクチャと音を立てながら菜々美のハイソックスに舌を這わせ、舐めまわしながらずり降ろしていった。
「悪いね。でも、あんたを辱めることができて、楽しいよ」
男の言いぐさを耳にして、菜々美はプッと頬をふくらませ、つぎの瞬間、パシィッ!と男の頬に平手打ちを食わせていた。
「これでおあいこにしてあげる」
少女は貧血になった頭を苦し気に振りながら、あとも振り返らずに立ち去った。


「菜々美、行こ行こ」
おどけた顔で誘いをかけてきたのは、チームメイトの志保だった。
彼氏のいる志保はいつも帰りが別々で、部活のとき以外あまり口をきいたことがない。
けれども志保の顔つき言葉つきはひどく親しげで、菜々美はつい釣り込まれてあとについていった。
同じサークルの由紀も、だまって菜々美のあとをついて来た。

「メイワクなんですけど」
三人の前に立ちふさがった人影が、きのう自分の血を吸った吸血鬼だと知って、菜々美は露骨に顔をしかめた。
「まあまあ、堅いこと言わないで」
そう言ったのは意外にも、男のほうではなくて志保だった。
志保は菜々美の腕をつかまえて、身体を息苦しくなるくらい、近くにすり寄せてくる。
「この人たちさー、ハイソックスとか好きじゃない。
 だからあたしたち、部活のときのハイソックスをこの人たちにサービスしてあげてるの」
「ええっ!?」
思わず声をあげる菜々美に、あとからついてきた由紀もいった。
「だいじょうぶだよ。みんなを裏切るなんて、そんなことないから。
 菜々美はおくてだったけど、みんなしてるんだからね」
いったいどこでそんな話を聞いたのよ?と、菜々美は志保をまともに見た。
気がつくと由紀は、菜々美のもう片方の腕をしっかりと抑えつけている。
ふたりで菜々美の前後を歩いていたのは、逃がさないようにするためだったのか――
「どっちかって言うと、あたしたちが菜々美のこと裏切っちゃたかな~?」
志保が菜々美の顔をのぞき込む。
「割り切って、いっしょに愉しも♪」
志保の声を合図に、黒い影がもうふたつ、物陰から音もなく姿を覗かせる。
「さ、菜々美もあたしたちみたいに、吸血鬼の小父さまに若い血を愉しんでもらおうね」
由紀は菜々美の腕を抑えつけた手に、ギュッと力を込める。
志保も菜々美の腕をつかまえながら、お姉さんが妹に言い聞かせるような口調で言った。
「菜々美も恥ずかしいのガマンして、このひとのこと愉しませてあげようね。
慣れたらどうってことないから」
男は菜々美の前に立ちはだかると身をかがめ、ライン入りのハイソックスの足許に唇を近寄せてくる。
「ダメッ!イヤッ!あッ!」
ひと声叫ぶと、菜々美は黙りこくった。
両側からチームメイトに抑えつけられたまま、
足許に吸いつけられた唇がハイソックスを咬み破って血を吸い取ってゆくのを、
どうすることもできなくなっていた。
「あっ・・・あっ・・・あっ・・・」
怯えた震え声がじょじょに弱まって来ると、志保と由紀は菜々美の両側から頷き合って手を放す。
「あとはお2人で、うまくやってね」
そういってほほ笑む二人の背後にも、ひとつずつの人影がまとわりついて、
首すじに、足許に、思い思いに唇を這わせてゆく。
「あ、あなたたち・・・っ!?」
怯えた顔の菜々美にとどめを刺すように、志保が言った。
「彼氏には、ナ・イ・ショ。よろしくね」

三人の女子生徒は三人ながら、うら若い生き血をチュウチュウと音を立てて吸い取られて、
ひとり、またひとりと、その場に姿勢を崩してゆく。
「イヤだ、ほんとうに・・・」
「うひひ・・・クヒヒ・・・」
「好い加減にしなさいよね・・・」
「キヒヒ・・・ククク・・・」
せめぎ合う声と声だけが、夕闇の迫る路上にいつまでも繰り返されていった。


「学校のみんなを裏切るようで、嫌だ」
菜々美はやはり、駄々をこねていた。
セーラー服姿の学校帰り。
志保や由紀が学校指定の紺のハイソックスを履いたをためらいもなく咬ませてしまうのを目のまえに、
菜々美は往生際悪く脚をすくめて後ずさりした。
すぐ背後は、体育館の壁だった。
逃げ場を失って立ちすくんだ足許に、男はいつものように恥知らずな唇を吸いつけてくる。
「恥知らずッ!」
菜々美は相手を罵ったが、男は聞こえないふりをして、クチャクチャと音を立てながら、
菜々美のハイソックスをひとしきり舐めまわし、それから言った。
「わしに吸われると知っていながら、新しいのをおろしてきなすったね」
図星を突かれて菜々美は言葉に詰まり、口ごもりながら言った。
「恥掻きたくないもん」
「じゃあぞんぶんに、辱めてやる」
「しつこくしないでね」
「わしを愉しませるために、あんた来てくれたんじゃろ」
またも図星を刺された菜々美は、視線を宙にさ迷わせ、頭の上に広がる青空をじっと見つめると、
ちょっぴり唇を強く噛んで、それからいった。
「わかったわ。じゃ、お願い」
菜々美は気持ちを固めたようにもういちど「お願い」というと、
男がむしゃぶりついてくる足許を見おろした。
ひざ小僧の下まできっちりと引き伸ばしたハイソックスは、
よだれにまみれ、しわくちゃになってずり降ろされて咬み破られて、
ぬらぬらとした血のりとよだれとにまみれていった。
菜々美は、辱め抜かれてゆく足許から、決して目を放そうとはしなかった。

クラスメイト二人はもう、セーラー服をはだけられて、おっぱいまで吸わせてしまっている。
菜々美もまた、「それだけは嫌」と言いながら、
自分からセーラー服の胸当てをはずして、男のなすがままになっていった。

2018.5.20 構想
2018.5.23 加筆

保健部員の女子

2018年05月23日(Wed) 07:01:14

「きみ、だいじょうぶ?」
白いハイソックスの足が立ち止まり、気づかわしそうに声をあげた。
歩みを止めた腰周りに、アイロンのきいたプリーツスカートがゆさっと揺れる。
少女の足許には、同じ学校の制服を着た男子が一人、蒼い顔をして樹にもたれかかっている。
「貧血なの?あたし保健部員なんだけど、いっしょに養護室に行こうか?」
少年はかすかに顔をあげたが、少女と目線を合わせるのさえ、たいぎそうだった。
動いた目線の先に、少女の脚が触れた。
照りつける陽射しの下。
しっかりと立つ一対の発育のよいふくらはぎ。
真っ白なハイソックスに浮いた太めのリブと、ふくらはぎに走る二本の赤いラインとに、
少年の目がくぎ付けになる。
けだるそうな瞳に、獣の光が宿った。

歩ける・・・?と言いかけて半歩踏み出した少女の脚が、こわばった。
やおら伸びてきた腕が彼女の脚にツタのように絡みついて、
少年が少女の足許にすり寄るのと、スカートの下のふくらはぎに素早く唇が吸いつけられるのとが同時だった。
「えッ!?何を・・・!?」
少女の叫び声が、唐突に中断した。
「――――っ!」
咬まれた!と思った途端、強い眩暈にくらくらとした。
真っ白なハイソックスに赤黒いシミがほとび散って、
うごめく唇の下、脛の周りからしわくちゃになってずり落ちてゆく。
――いけない、立ってなきゃ。
逃げ出すよりも、尻もちを突くよりも、なぜか彼女はそう感じて、
少年がもたれかかっていた樹の幹に手を置いて、かろうじて身を支える。
意識の消える直前、
吸い取られてゆく14歳の血潮がハイソックスになま温かくしみ込むのを、彼女は感じた。

「ちわす」
養護室のドアが開かれ、虚ろな声が白衣の後ろ姿に投げられた。
生気のない男子の声に、養護教諭の辰野千栄はゆっくりと振りかえる。
枯れ木のようにか細い、顔色のわるい少年が、自分よりずっと体格の良い少女を、お姫さま抱っこしている。
少女のハイソックスを濡らす赤黒いシミを目にして、辰野教諭はなにが起きたのかをすぐにさとった。
「また、やり過ぎたのね?」
しょうがない子ね・・・という顔をして辰野教諭は少女をベッドに寝かせようとする少年を手伝った。
「そういうときは我慢しないで養護室に来なさいって言ったでしょう?」
優しく咎める教諭の言葉に、少年は素直にうなだれた。
「最近、先生顔色悪いじゃん」
「余計なこと気にしないの」
といいながら、教諭は自分の足許に目線を落とす少年の気配を敏感に感じ取る。
「まだ足りないの?」
「うん」
薄茶のスカートから覗いた辰野教諭のふくらはぎは、肌色のストッキングに包まれている。
少年は教諭の足許にかがみ込んで、教諭は少年の頭をいたわるように抱いた。
さっき少女のハイソックスを咬み破った牙が、教諭のストッキングをも獰猛に裂いた。
「あっ、痛ぅ。・・・手かげんしなさいよ」
教諭は教え子を咎めながらも、自分の足許に不埒をはたらく少年の吸血を許した。

「この子はね、3年A組の青沼輝子。あなたの一こ上よ。顔知らないのも無理ないね」
「あおぬま、てるこ・・・」
放心したようにつぶやく少年の掌をとって、辰野教諭は少女の名前を彼の掌になぞった。
「あお、ぬま、てる、こ。わかった?」
無言で肯く少年に、
「好きになっちゃったんでしょ」
と、辰野教諭はイタズラっぽく笑って顔をのぞき込む。
軽くウェーブした栗色の髪が白衣の肩にさわっと揺れたが、
少年の目線は蒼ざめた顔でベッドのうえに横たわる少女にくぎ付けになっていた。
「送ってってあげたらあ?一人じゃ歩けないわよー。
それに、このごろ暴走族が出て帰り道が危ないの」
教諭ののんびりとした口調に、少年は感謝するように頭をさげた。

「歩けるからいいよ」
輝子はすっかり、気の強さを取り戻していた。
「上級生を襲うなんて、いい度胸してるよね」
と、えらそうに先輩風を吹かせたのは、貧血がおさまらない自分を引き立たせるためだった。
少年のほうもそれと察しているのか、黙って輝子の傍らに寄り添って歩いている。
背後の気配にギョッとして少女が振り向こうとするのを肩を抑えて制すると、
「やべ。このごろ出没している暴走族。振り向くんじゃないぞ」
下級生の命令口調に、何よ、と言いかけた輝子は黙り込んで、少年に命じられた通り前だけを向いた。
少年はそれに反して後ろをちらと振り返り、バイクにまたがる獣たちのほうに目を投げた。
獣の影はギョッとしたように身体をこわばらせ、ブルン、ブルンと負け犬の遠吠えのようなエンジン音を轟かせ、一目散に去っていった。
「強いんだね」
輝子は白い目で、下級生の少年を見あげた。
少年はわざと輝子の目線から目をそらして、
「気持ち悪いんだろ」
とだけ、いった。
語尾が寂し気に震えるのを、感受性豊かな少女は聞き逃さなかった。
「うちに寄ってく?」
「やめとく。きみの母さんまで咬むわけにいかないだろ」
少年はさりげない口調で輝子を立ちすくませるようなことを言うと、輝子の家のまえできびすを返した。

「咬まれちゃったんだね」
玄関で迎えた母の陽子が、くったくのない笑みを浮かべて娘に言った。
「えっ!?」
血に濡れたハイソックスの足をすくませると、「靴下濡れてるじゃない」
母親はそういうと、くったくのない態度を変えずにいった。
「さあ、脱いだ脱いだ。母さんが洗っといてあげる」

「あの学校、吸血鬼がいるんだよね。昔から。
 母さんもね、学校帰りに外国人の兵隊に襲われて乱暴されそうになった時、
助けてもらったことがあるの」
え・・・?輝子は意外なことを言い出した母親の静かな横顔をふり返る。
「あのころは外国の兵隊がいばっていてね、法外なことをしでかしても、
 大人も怖がって、手出しできなかった。
 なのにあの人ったら、一撃で目くらましをかけてね、母さんのこと逃がしてくれたの。
 同じ制服を着ていたから、どうしてもお礼を言いたくて校内を探して――
 そうしたら女子の先輩が教えてくれた。あんたの彼氏の友だちだよって。
 それが、お父さんの友だちの――あんたも知ってるでしょ――兇野さん。
 感謝のしるしに、何度も血を吸わせてあげたし、父さんも賛成してくれたの。
 抱かれちゃったことだって、あるんだから」
意外な話に意外な話が積み重なって、目を白黒させているいとまもないほどだった。
それでも輝子はいった。
「家に呼んだけど、入ってこなかった。母さんのことまで襲っちゃうからって」
「こんどはちゃんと、家に呼びなさいよ」
母親の顔が少女のように若やいだように、輝子は感じた。

次の日――
後者の裏手のあの樹のまえで、輝子は少年をまえにおずおずと紙包みを手渡していた。
「これ、よかったら」
紙包みの中身は、昨日少年に咬み破られたハイソックス。
その子とおつきあいしたかったら、そうするんだよ、と、母親はいっていた。
少年が紙包みを受け取るのを「ありがとう」といって、輝子はそわそわと目をそらす。
「たまになら、献血してもいいからさ。あたし、保健部員なんだし」
ちょっとすくんだ足許が真っ白なハイソックスに包まれているのを、少年はもの欲しげに見つめ、
そんな少年の横顔に、少女はドキドキとして見入っていた。

差し伸べられた脚に、唇が吸いつけられてゆく。
しなやかなナイロン製の生地越しにヌルっと這わされる唇に、少女は「やらしい」と呟いたが、自分から脚を引っ込めようとはしなかった。
赤黒くただれた唇は、少女の履いているハイソックスのうえをもの欲しげに這いまわり、
ひざ小僧の下までお行儀よく引き伸ばされたハイソックスを、しわくちゃにしてずり降ろしていった。
このひとのためなら、堕落しても良い――
咬まれた傷口から処女の生き血を抜き取られてゆくのを感じながら、
輝子は自分から、姿勢を崩していった。


あとがき
登場する人物名・団体名は、すべてフィクションです。
このお話に限らないけど。

悪い予感・良い予感

2018年05月08日(Tue) 07:54:35

なんの前ぶれもなく、ハイヒールのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子は、いやな予感がした。
一時間後、夫の辰夫が吸血鬼に襲われて血を吸われ、
命を落としたという連絡が入った。

あわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
手早く拭き取ったあとにかすかに残ってしまったシミを気にしながら、
晴子は、いやな予感がした。
お寺に向かう途中、彼女は吸血鬼に襲われて、
漆黒のブラウスを目だたないシミで濡らす羽目になった。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
晴子は、いやな予感がした。
しめやかに終えられたお通夜の席で。
弔問客を送り出し独り本堂に残った彼女は、再び吸血鬼に襲われた。
変態!変態ッ!と、罵りながら。
穿き替えた黒のストッキングを卑猥な舌でいたぶられ、飢えた牙に裂き散らされるのを、
我慢して耐え忍ばなければならなかった。

地域の風習で土葬に付された夫の墓に詣でるために出かける間際、眼鏡を割ってしまった。
晴子は、いやな予感がした。
コンタクトなしで詣でたお墓の前で、彼女は吸血鬼に襲われて、犯された。
焦点の合わない視界の隅に、墓からよみがえったばかりの亡夫の辰夫の姿が映ったが、
夫は犯される妻の様子をただ、昂ぶりながら見つめているだけだった。

カーテンを開けたら、そこには晴れやかな朝の風景が広がっていた。
晴子は、良いことが起こりそうな予感がした。
夫の仇敵である吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されてしまったのに。
夫の仇敵であるはずの吸血鬼のまさぐりに反応して、感じてしまったのに。
女は立ち直りが、早いのだ。
彼女は服を喪服に着替え、きのうと同じように夫を弔うためにお墓に出かける。
セットしたばかりのセミロングの髪を緩やかに揺らし、軽くハミングをしながら。

自分の仇敵であるはずの男が妻を犯すのを、夫はむしろ昂ぶりながら見守っていた。
晴子を救い出そうとする行為が、彼女の歓びを奪うのをわきまえているかのように。
そんな貴方に感謝♪
晴子はそう呟きながら、夫の墓前に花を供える。

背後に立った翳に晴子は振り向いて、晴れやかにおはようございますと挨拶をした。
翳の主は挨拶を返さずに、やおら晴子を抱きすくめた。
きょうは眼鏡をかけているんですよ、という晴子に、それでかまわない、と、翳は返した。
吸血鬼なのに、お陽さまが出た後も人を襲うのね、という晴子に、その通りだ、と、翳は返した。
首のつけ根に食い込んだ牙が太い血管を食い破り、喪服の襟首と真珠のネックレスを濡らすのを、晴子は感じた。
全部吸い取ってもかまわないわ。
でも少しだけ、主人の分も残しておいてくださらない?
女の言いぐさに翳は頷き、応えの代わりに女の頸動脈を食い破った。

墓前で発見された皎(しろ)い肢体は、喪服を心地よげにくつろげて、黒のストッキングに伝線を幾すじも走らせていた。
快楽に酔い痴れた後のような惚けたような笑みを湛えて、それでも口許は淑やかに閉ざしていた。
尖った犬歯を押し隠す賢明さを、彼女は冷たくなった後も忘れずにいた。


なんの前ぶれもなく、パンプスのかかとが取れた。
転びそうになるのをかろうじてこらえながら、
晴子の母の詩乃は、いやな予感を覚えた。

報せをきいてあわただしく昼食を済ませようとしたら、ブラウスにケチャップが撥ねた。
晴子の妹の乃里子は、いやな予感を覚えた。

お通夜に出るため家を出る間際、ストッキングを伝線させてしまった。
辰夫の母の光江は、いやな予感を覚えた。

同じお寺の本堂で、深夜。
弔問客を送り出し、通夜を守ろうとした3組の夫婦は、吸血鬼たちの不意の来訪を受ける。
夫たちの血は、辰夫と晴子の生命を奪った吸血鬼が吸い取った。
そして、晴子の母の詩乃、妹の乃里子、辰夫の母の光江の順に、首すじを咬んでいった。

詩乃は、おろしたばかりの新しいパンプスを穿いて帰宅できなくなることを残念に思った。
永年連れ添った夫が血を抜かれながらも、嫉妬と羨望に満ちた目で身体を開いていく妻のことを見つめている事実よりも、
新しいパンプスをもう一度穿くことのほうが、彼女にとっては重要だった。

乃里子は、喪服が間に合わずに着けてきた白のブラウスに血が撥ねるのを厭わしく思った。
さっきのケチャップと一緒じゃない――ぐったりとなった夫が、恥を忘れて痴態に耽り始めた妻のことを目の当たりにしている状況よりも、
新調したばかりのブラウスに撥ねた血がクリーニングでも消えないことのほうが、彼女にとっては重要だった。

光江は、恥知らずな唇が自分の穿いている薄墨色のストッキングをよだれで濡らしていくことを恥ずかしく思った。
出がけに伝線させたストッキングは今ごろ、平穏を保った自宅の屑かごに放り込まれたままになっている。
そのほうがどれほど良いことか――
長年連れ添った夫の前、初めて識る他の男の肉体を味わい尽してしまったことよりも、真新しいストッキングで装った脚を辱められることのほうが、彼女にとっては重要だった。

弔いは済まされたが、弔われた者たちはすでに墓場から抜け出していた。
お義兄さま、意外にいい男じゃない。時々浮気するから、貸してね。
晴子の妹の乃里子は夫と姉の前、そういって肩をすくめてみせたし、
あなたの不始末を、私からも辰夫さんにお詫びしないとねえ。
晴子の母の詩乃は夫と娘の前、もっともらしくうなだれながら、2人の顔色を窺ったし、
息子とデキちゃったなんて、恥ずかしいですね。でも、家族で仲良くしなければなりませんね。
辰夫の母の光江は夫と息子の前、そういってふたりの顔色を見比べた。

ひと晩、妻たちのあで姿を見せつけられた夫たちは、なにも言わなかった。
彼らは故人を弔うために集まった女たちのなかから、喪服の似合うご婦人たちを選び抜いて、
半吸血鬼となった自分たちのため、いっしょに身内を弔ってくれないかと誘いをかけ始めている。
妻たちはそんな夫たちの所行を苦笑しながら見守り、
夫たちは浮気に走る妻たちの所行を苦笑しながら、見て見ぬふりを決め込んでゆく。

「すみません、靴のかかとが取れてしまって・・・」
弔問客の1人で40代の綺麗なご婦人が、顔いろの蒼い傍らの男性に、肩を貸してほしいと頼んだ。
彼女の夫はなにも気づかずに、顔いろの蒼い婦人たちに伴われながら、同じ色の喪服姿を埋没させてゆく。
肩を貸してほしいと頼まれた男性は、こころよく肩を貸してご婦人がわが身を支えるのを助けながら、訊いた。
「故人とはどのような関係で?」
「晴子さんの高校時代からの友人なんです。彼女、まさかこんなことになるとは」
「ご主人のことはご存じないのですね」
「エエ、結婚式にも都合で出られなかったものですから、お顔も存じませんの」
「ご夫婦とも、首すじに咬み痕がついていたそうですよ。もしかして吸血鬼にやられたんじゃ――って、地元の人たちは言っているんです」
「まさか、吸血鬼なんて」
「そうですよね?でも、吸血鬼に血を吸われると、気持ちよくなっちゃって、やめさせることができなくなるというんです。じつは私の妻も吸血鬼に襲われましてね・・・まあおかげさまで、いまでも元気で、ぴんぴんしてるんですけどね」
「また、ご冗談を」
「ご当地かぎりの話なんですよ。だから奥さまも内緒にしておいてくださいね。
吸血鬼の彼も、気の毒なんです。
毎晩のように、若い女の生き血を吸わないといけないので――
だからわたしも、彼が妻の血を吸うのを、見て見ぬふりをしてやっているんです」
「まあ、そうなんですか?」
「それよりも、これから先歩けますか」
「そうなんですの。主人は先に行ってしまいましたし、どうしましょう?」
かかとの取れたパンプスを手に、これ以上歩けないとご婦人は途方に暮れた。
彼女にはまだ、悪い予感を自覚していなかった。
男は言った。
「お墓に行くのはあきらめて、お寺でゆっくりしていきませんか?そこまでなら、彼女のご主人を差し置いてで恐縮ですが、お姫さま抱っこしてあげますよ」

顔いろの蒼い男は、不運なご婦人を抱きかかえた。
事情をよく心得ている地元のものの目には、
吸血鬼が獲物のご婦人を抱きかかえて、血を吸うためにねぐらに戻るところにしか見えなかったけれど。
ご婦人は、これからわが身に降りかかる災難など夢にも思わずに、行きずりの男に感謝の言葉を口にした。
数分後には、自分の血をしたたらせた口許から、おうむ返しに感謝の言葉を受けるとも知らないで。

両腕にずっしりとくる重みが、これから獲られる血の量を想像させて、
男は唇の奥に隠した牙を疼かせながら、良い予感にうち震えていた。
女は男の良い予感を予知することができないで、折れたパンプスのかかとのことを、いつまでも気にしていた。
パンプスを穿いて帰宅するチャンスがもうないことなど、まるで予想をしていなかった。

亡き妻になりきった夫

2018年05月04日(Fri) 06:17:47

「私が死んだら、女になれば?」
妻はそう言って、せせら笑った。
結婚後すぐにわたしの女装癖を知った彼女は、わたしのことを冷ややかに嗤った。
それ以外は、ごく円満な夫婦だった。
見栄っ張りな彼女はだれから見ても幸福な夫婦を演じ切ろうとしていた。
賢明でもある彼女は、わたしに対する内心の軽蔑を抑え込んで、
少なくとも家庭という共同経営者としては強調し合える、理想的なパートナーだった。
彼女が穏やかでさえいてくれる限りでは、わたしにとって彼女はどこまでも、最愛の妻だった。
しかし、わたしたち夫婦の間に、子どもを授かる日はついに訪れなかった。

四十手前という若すぎる死期を覚ったとき。
病床を訪れた裕福そうな老紳士をわたしに引き合わせて、
「この人よ。20年前、私が処女を捧げたのは」
妻はそう言って、またせせら笑った。

貴方とお見合いをしているときも、しょっちゅう逢ってたの。
結婚も、彼に相談して決めたわ。
それから――結婚してからも、よく逢ってたの。
怒った?
優しいのね?
こんな悪い奥さんでも、怒らないでいてくれるのね?
じゃあ私から、ご褒美をあげる。
あなた、私がいなくなったら、女になればいいわ。
女になって、この男(ひと)に抱かれるといいわ。
もしそうしてくれるなら、私の服をぜんぶ、貴方にあげる。
私がいなくなったら、どうせそうするつもりだったんだろうけど――
貴方が気に入っていた青紫のスーツも、濃い緑のベーズリ柄のワンピースも、
これからは好きに着られるのよ。
ちょうどサイズも、あつらえたようにぴったりだし。
どお?
女になって、貴方の奥さんを犯しつづけた男に抱かれるなんて。
あなたそういうの、好きそうじゃないの――

妻がいなくなってから、男はしばしばわたしたちの家を訪れて、
わたしとはひと言も言葉を交わさずに、静かにお線香をあげていった。
そんなことが三度続いたあと、
わたしは意を決して、線香をあげに訪れた彼のことを、妻の服を着て出迎えた。
彼はちょっとびっくりしたようにわたしを見つめ、ただひと言、
「加代子さんにそっくりですね」
とだけ、いった。
わたしにとっては十分すぎる、褒め言葉だった。

さいしょに選んだ服は、洋装のブラックフォーマル。
わたしは妻を弔うためにその服を着て、初めて男性の抱擁を受け容れた。
息荒く迫る男のまえ、乙女のように心震わせて目を瞑り、
お仏壇の前で彼に抱かれて、いっしょに妻のことを弔った。

喪服のスカートの裏地と黒のストッキングとを、彼の精液で濡らしながら、
不覚にも、昂ぶりの絶頂を迎えてしまっていた。
抱きすくめる猿臂の主を、逞しい背中に廻した腕でギュッと抱き返しながら、
妻のことを日常的に犯したという一物を、未経験の股間に迎え入れた。
「加代子が狂ったの・・・わかります」と呟いて、
無条件の奉仕を誓ってしまっていた。
男はわたしの頭を抱いて、「あなたは加代子だ」といい、
わたしは彼の耳もとで、「はい、わたくしは加代子です」と囁き返していた。
せめぎ合う息遣いを思いきり昂らせて、
わたしたちはなん度も果て、愛し合った。
同じ女性を愛した男性同士――わたしは最愛の加代子になり切って、
これからもあなたの最愛の加代子でいつづけると、男に誓っていた。

つぎはおめかしをして、都会に出かけよう。
こんどは喪服ではなくて、あの花柄のワンピースにしないか。
きみはご主人が結婚記念日にプレゼントしたというあの服を着て、
いっしょに映画を見て、お食事をして、ホテルにまで行ったのだよ。
あの日が戻ってくることを、わしは心から望んでいる――
妻の愛人はわたしの耳もとでそう囁いて、
わたしはただ、「加代子になって貴男に逢います」と、囁き返していた。

わたしは妻になり替わって彼の愛人になり、加代子という名前でこれからを暮らす――


あとがき
言ってるそばから、”魔”が降りてきました・・・。
^^;

すっかりご無沙汰になっています。(管理人のつぶやき)

2018年05月03日(Thu) 22:22:45

柏木です。
このところ、すっかりご無沙汰になっております。

どうしたものかこの1・2か月というもの、ぱったりと筆が進まなくなりました。
描きかけたものはじつはいくつとなくあるのですが、どうにもさいごまでお話が続きません。
どうやら柏木の身辺から、”魔”が遠のいているこのごろです。

こういう描きものは妄想の起きやすい夜のほうが進みがち・・・と思いきや、
(ココに以前からお越しの方はご承知かもしれませんが)
私の場合は起き抜けがもっとも妄想のほとばしる時間帯です。
そんな妄想が湧いてくることを、「”魔”が降りてくる」としばしば表現させていただいています。

いちど”魔”が降りてきますと、時には突き動かされるようにキーを叩きつづけて、
そのキーを叩くスピードよりもはるかに速く、
私の頭のなかで登場する人物たちが、私の思惑を超えて勝手にものを考え、話し、行為を遂げてゆくのです。
たいがいのお話が、かなり長いものも含めて、おおむね30分から1時間くらいのあいだに、一気に描き進んだものです。
(よって、時にはつじつまの合っていないお話もあるかもしれません・・・汗)

ところがこのところは、”魔”の降りてくることがほとんどなく、
かりに降りてきたとしても、見えたり聞こえたりするものがかすかで、しかもすぐに遠のいてしまって、
下書き――”魔”の動きが活発な時には、下書きをすることさえまれなのですが――を書きとめているうちに
”魔”の気配がだんだんと遠くなってしまって、結末まで至らない・・・そんなことがしばしばなのです。

もともとこのブログは、私のなかで沸き起こる妄想を止めることができずに、
「いっそ、妄想をすべて吐き尽してしまうまで描いてしまおう」という意図のもとに立ち上げたものです。
以来13年間の間に、3000以上のお話が、つむぎ出されてきました。
この流れがこのまま終わるとはとても思えないのですが・・・いまは大きな休止の時期なのかもしれません。
時折こちらにお見えくださる読者の皆さまには、良いお話を提供できず心苦しい限りなのですが、
事情をお察しの上、いましばらくお待ちくださいますよう、お願い申し上げます。