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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

したたかな女子高生

2018年08月29日(Wed) 07:59:44

洋太の血を吸うようになってひと月後、俺は洋太の彼女、美緒の首すじの咬み応えを知った。

「俺は美緒の履いているタイツの舌触りを知っている」
「俺は美緒の着けているショーツのブランドを知っている」
「俺は美緒の唇の柔らかさを知っている」

事後報告をするたびに、洋太は頬を赤らめ、ドキドキと昂ぶりながら頷いてくれた。
半月が経ち、俺は思い切って洋太に告げた。
「俺は美緒のあそこの締まり具合を知りたい」
洋太はちょっとだけ考えて、彼女がいいなら・・・と、応えてくれた。

「美緒はOK。いつもの公園でやるから、観に来ない?」
俺は美緒のいろいろなことを知ったけれど、
洋太はなによりもいちばん大事な、美緒の気持ちを知っている。
美緒は人間のお嫁さんになって、吸血鬼を彼氏に持ちたいのだと――

祖母への夜這い。

2018年08月27日(Mon) 22:29:44

14歳の孫が56歳の祖母に夜這いをかけた。
祖母は孫の成長をよろこんで、そのまま孫の欲望を受け入れた。
祖父は目を覚ましていたが、終始眠ったふりをしていた。

翌朝祖母は娘に訊いた。
「あの子にはあなたが教えたの?」
エエ私が教えましたと答える妻に、夫は内心仰天したけれど、娘婿の顔色を察した祖母は、
「よくやったわね、秀一さん(婿の名)にも感謝しなさいよ」
と娘にいって、彼の反発に機先を制していった。
クラスに気になる子がいるので練習したかったという孫のため、
祖母と母とは代わる代わる、彼の練習に手ほどきをして、
夫たちは賢明にも、終始見てみぬふりを決め込むのだった。

ひと夏が過ぎて、都会に戻った孫は、秋には気になるあの子を誘い出し、
首尾よく本懐を遂げたという。

駐在の妻の務め

2018年08月26日(Sun) 10:04:04

この村には、淫らな風習が存在した。
歴代の駐在はだれもが例外なく、この風習にまみれることになった。
そのほうが、村の治安を守るには好都合だったから。
彼らは長老たちに面会して自分の妻を差し出すと約束をして、妻の説得にかかった。
駐在の妻たちはだれもが最初は拒みながらも、職務に忠実でいたいという夫の願いをかなえないわけにはいかなかった。
そして、ひと月以外には、どの駐在の妻も、長老たちに抱かれ、愛人のひとりに加えられていくのだった。

わたしがこの村に赴任して半月。
喪服を着て長老の元に出かけていった妻は、夜遅くに戻って来た。
「操を亡くするわけだから、喪服を着ていきます」
その日の妻の装いは、せめてもの抗議のつもりだったらしい。
けれどもわたしは知っていた。
彼らは正装した婦人を汚すのが好みだったのを。
妻の礼装は、これから自分たちの奴隷になると決意した婦人の心づくしだと勘違いをされる羽目になったのだ。
長老たちの心証が良くなるのであればそれでもかまわない、と、わたしはあえて妻の意思を変えさせようとはしなかった。
予想以上の歓待に困り果てながらも、さいごには雌になって奉仕に耽ってしまった・・・とは、妻の帰宅前に電話を寄越した長老の弁。
「奥さん、ええ身体しとるのお」
長老は飾り気のない言葉で妻を賞賛し、わたしは「恐縮です」とだけ答えるのが精いっぱいだった。

翌朝。
長老が駐在所を訪ねてきた。
お目当ては妻だという。
夕べの奉仕の熱心さが忘れられず、顔を見に来た、というのだ。
「顔を見に来た」というのはつまり、「貸しなさい」ということなのだと、教えられずにも察することができた。
「行ってきなさい」というわたしに、
「では、そうさせていただきますね」と、悪びれなくなった妻。

ふたり連れだって駐在所から遠ざかる後ろ姿が、それまでとは距離感が違っていた。
露骨に手をつなぐわけでもなければ、肩に腕を回しているわけでもない。
すこし離れて並んで歩いているだけなのに、この距離感の親密さはなんなのだろう?
わたしが初めて居心地の良い嫉妬に充たされたのは、ふたりの後ろ姿を目にしてからだった。


あとがき
しっくりとくる後ろ姿。ふたりでいるときのたたずまい。
案外そういうふつうの風景のほうが、ふたりの関係を雄弁に語るのかも知れないです。

女装する夫たち ~隣家のご主人編~

2018年08月26日(Sun) 09:52:01

引っ越してきたばかりのお宅から出てきたご主人は、わたしよりも若かった。
おまけに、ミニのワンピースが良く似合う、スレンダーな体格の持ち主だった。
「どう見ても出来損ないのバーのマダムだね」
自分で化粧をしておきながら妻は、わたしの女装をそんなふうに評した。
けれども、初めて脚に通した網タイツのきわどさがツボにはまってしまったので、
わたしは妻の酷評も鼻を鳴らして軽い不満の意を表しただけだった。

ヒョウ柄のワンピースに、黒の網タイツ。
たしかにこの格好では、夜歩きするしか手はなかった。
こういうものの似合う女性が、ちょっとうらやましくなった。

隣家のご主人は、女装が初めてだと言った。
奥さんの服を借りてきたのだと言っていたが、センスの良い服だと思った。
肩幅がちょっときつい・・・というご主人のため、
わたしは胸の釦をはだけるようにとすすめた。
ちょっとためらうご主人の手を払いのけて、
胸もとのブラが露出するまで、ぐいいっとはだける。
スレンダーな体格は、そんな辱めにも耐えて、色っぽくみえた。
「このほうが、血が撥ねても服に着かないからいいですよ」と、わたしがいうと、
「そんなものでしょうか」と、少しカルチャーショックを受けているようだった。
もの慣れない感じがいっそう、初々しさをかもし出していた。

今夜の公園で待ち受けているのは、女房の浮気相手だった。
知らないうちに寝取られていたのだ。
抗議を申し込もうにも、もともとわたしの女装癖を知り抜いている相手だった。
2人の交際を認めると妻に告げると、妻はそうこなくっちゃ、と言わんばかりに、
公園であのひとが待ってるの、と、いった。
「和解のしるしに、女になって犯されてきてくれない?」
女房の言いぐさは突飛だったが、そうするのがいちばん適切なような気がした。
わたしは手慣れたメイクを施した。
服は自分のものではなく、女房のよそ行きのワンピースをねだった。
この間新調したばかりのものだったから、最初は「いやよ」と言っていたが、
夫婦にとっての重要な儀式なんだから・・・というと、渋々だったが貸してくれた。
背中のファスナーをきっちり引き上げると、少しだけサイズの小さい妻のワンピースはまるで拘束具のように、
わたしの身体を心地よく締めつけた。

闇の支配する公園のなか。
連れの女性――隣家のご主人――の声が洩れた。
わたしもほぼ同時に、声を洩らしていた。
働き盛りの血液をたっぷりと抜かれ、へろへろになってしまったわたしは、その場に倒れ込んで、
たくし上げられたワンピースの股間の奥、女房を狂わせた一物をぶち込まれてしまっていた。

ちく生。
これでは女房のやつがマイッてしまうのも、無理はない――

潔く負けを認めたわたしは、闇夜をいいことに、妻になり切って男の愛撫を受け容れていった。

女装する夫たち

2018年08月26日(Sun) 09:38:10

上半身を締めつけるブラジャーにスリップ。
身の丈に少し寸足らずなワンピース。
頬をかすめ肩先に流れるふさふさとしたウィッグ。
足許を引き締め、なまめかしく映えるストッキング。
妻が入念に刷いた化粧に要した時間は、あきあきするほど長かった。
さいごに唇に朱を刷かれたときだけ、不覚にもちょっとうっとりした。
妻に促されて鏡を覗いたとき。
男であるわたしはきれいさっぱり掻き消えていて、女の顔をした見知らぬ別人がそこにいた。

玄関を出るときは、さすがにためらったけれど。
「いってらっしゃい」
妻は感情を殺した声でそういって、玄関に敷かれたじゅうたんのうえに腰をかがめ、床に指をついて送り出してくれた。
こんなこと。
結婚して20年以上にもなるのに、初めてのことだった。

外は静かな闇に包まれていた。
それでも街灯の明るさがいつになく眩しかった。
きっと後ろめたい格好をしているから、なおさらそう感じるのだろう。
穿きなれないパンプスに戸惑いながら、脚をもつれさせるようにして、近所の公園に向けて歩き出した。

「お隣の柴川さんですね?」
隣家から出てきたワンピース姿の女性が、わたしに声をかけてきた。
だれだろう?と目を凝らすが、心当たりがない。
たしかお隣は、わたしと同年代のご夫婦の二人暮らしのはず。
美人な奥さんの妹だろうか?
それが女装したご主人だとわかるのに、ちょっと時間がかかった。
念入りに刷いた化粧と、もの慣れた感じの立ち居振る舞いが、女の雰囲気を漂わせていた。

「お宅も今夜はお出かけですか」
「エエ、そちらもお出かけなんですね」
「公園まで、ごいっしょしましょうか」
昼間であれば、すぐにそれとわかるレベルの女装のはず。
連れができたのは心強かった。
わたしたちが目指す公園は、吸血鬼の出没するスポット。
そう。わたしも隣家のご主人も、そのなかのだれかに呼び出しを受けたのだ。
わたしは棲みついていくらも経たないこの土地の風習に従って、吸血を受けるため。
隣家のご主人もきっと、そういうことなのだろう。

「うちはすこし、事情が違うんですよ」
ご主人は意外なことをいった。

長らくね。
女房が吸われているのに気づかなかったんです。
それが、ふとしたきっかけでわかってしまって・・・
こんなこと、知らずに済ませればよかったのですが。
でもわかってしまった以上、どうしようもありません。
女房を吸い殺されたくなかったら、夫婦ながら吸われつづけるしかないのですよ、ここでは。

「奥さんとその方との仲を、認めに行かれるんですね」
「まあ・・・そういうことですね。無条件降伏というやつです」
ご主人はあくまで、淡々としていた。
「あなたのお相手は誰ですか、もし差し支えなかったら」
そういうご主人に、わたしは彼も知っているであろう近所の男性の名前をあげた。
父と同じくらいの世代の人で、地域の長老格だと聞いている。
ご主人は表情を和らげた。
「ああ、あの方だったら・・・」
聞けば、若いころに夫婦ながら吸血鬼に血を吸われて、半吸血鬼になった人だという。
「ご自分の奥さまを寝取られていらっしゃるから、自分が寝取る人妻の旦那の気持ちも、ちゃんとわかる人ですよ」
風変わりなほめ方だったが、おそらくきっと正しい見解なのだろう。

そんな話をしているうちに、公園に着いた。

女装のワンピース姿のまえに黒い影がふたつ、ゆらっと漂うように揺れて、立ちはだかった。
わたしたちは立ちすくんだまま、それぞれの相手に抱きすくめられてゆく。
「お名前は?」
相手の男が訊いて来たのに答えて、わたしは妻の名前を名乗った。「浩子です」
「浩子は夫を裏切って、私のものになると誓えますか」
「ハイ、誓います。主人に貴男と私の関係を認めてもらいます。主人もきっと・・・よろこんでくれるでしょう」
「それはなによりだ」
では・・・と男は囁いて、口許から尖った歯をむき出した。
傍らでも、同じような儀式が終わったらしい。
「ひっ!」
と叫んだのは、ほぼ同時だった。
ふたりの吸血鬼は、各々の獲物の首すじに食らいつき、力ずくでむしり取るようにして、血を啜った。
働き盛りの血潮が身体から抜けて、吸血鬼の喉を鳴らしてゆくのを、わたしは声を呑んでいつまでも聞き入っていた。

「血を吸った人妻は、犯すことになっています」
仰向けに倒れたわたしにのしかかっていた男が、宣告するようにそういった。
「お願いします」
わたしが身体をくつろげると、男はわたしの穿いているストッキングをむしり取るように引き破った。
そして、黒々と逆立った一物を、わたしの股間へと埋めてきた。

これを・・・妻も埋め込まれてしまうというのか。
肉薄してくる怒張の強烈さに声を洩らすまいとしながらも、
わたしは妻の相手となる男の身体の佳さを体感せずにはいられなかった。

「寝取る男と寝取られる夫・・・仲の良い方がよくはないですか」という男に、
「まったく同感です」と応えるわたし。
「ではいましばらく、愉しませていただきますよ」
「お願いします」

ワンピースを下草だらけにしながら転げまわった夜。
わたしは妻を愛人にしようとする男の希望を、歓んで容れたのだった。

披露宴のホテルにて

2018年08月26日(Sun) 09:12:01

披露宴の時間が迫っていた。
ここはホテルの一室。
姪の結婚式に一家で招待されて、遠方から来たこともあってあてがわれた部屋だった。
礼服に着替えて隣室の息子の部屋のドアを開けると、
そこでは妻の弘美がベッドの上で、息子の康太とセックスの真っ最中だった。
「オイ、そろそろ好い加減にしないと、遅れるぞ」
私の声に弘美は振り向きもせずに肯きかえしてきて、
「わかってる・・・もうちょっとで、お、わ、る、か、らっ・・・」
と、返してきた。
息子のほうは返事をする間も惜しんで、妻との行為に熱中している。

はぁ・・・はぁ・・・
せぃ・・・せぃ・・・

せめぎ合う声にならないあえぎ声がふた色、部屋に満ちた。


30分後。
弘美と康太はおなじ部屋から、それぞれ着かえを済ませて姿を見せた。
「ちょっと・・・」
ジャケットの襟を直してやるその姿は、母親そのものの仕草だったが、
すべてを知っているわたしの目には、愛人に対する気づかいのように映る。
康太はさっきから、すこし前を歩く弘美の足許に、視線を集中させていた。
「きれいだね、母さんの脚」
康太は母親に聞こえないよう声をひそめて、わたしに囁いた。
てかてか光る肌色のストッキングに彩られたむっちりとしたふくらはぎが、
ホテルの廊下を颯爽と歩みを進めてゆく。
康太は披露宴の済むのを待ちかねているに違いない。
新郎新婦が新床を共にするのと同じ刻限、彼はわたしの妻を礼服姿のまま犯しているに違いないのだから。


弘美と康太の関係を知ったのは、長期の出張から戻ってすぐのことだった。
弘美は康太のことを「あなた」と呼び、康太は弘美のことを呼び捨てにしていた。
「おい、母さんを呼び捨てにするなんて」
わたしがそう咎めると、彼は羞ずかしそうにしながらも、
「でももう、そういう関係なので」
といった。

大学から戻ったときにムラムラとしていて、居合わせた妻に挑みかかったのがきっかけだった。
「母さんとはどうなんだ」
わたしが訊くと、
「いい身体しているよ、あと優しいし」
と、てらいもなく言ってのけた。
弘美は聞こえないふりをして、台所で洗い物をしていた。
「さいしょからさっきみたいに、仲良くなっちゃったのか?」
多少の嫉妬と悔しさを込めて、わたしは訊いた。
風呂あがりのあと、夫婦の寝室で乱れ合っている2人の痴態をふとのぞき見してしまったのを、それとなく告げたのだ。
「ううん、さいしょのときはすごく暴れた」
「終わったあとは、ぼくにわからないようにちょっと泣いたみたい」
「そのつぎに母さんを抱いたのはいつ?」
「その夜すぐに」
「母さんどうだった」
「”どうしても我慢出来ないの”って訊かれた」
「我慢できないって答えたんだな」
「ウン、そしたら、絶対内緒にするんだよ、外では人に迷惑かけないようにって」
母親らしい訓戒を垂れたあと、弘美は目を瞑り、すべてを息子にゆだねたのだった。

それまでは身なりにあまり気を使わなかった弘美が、
出張から戻って来てからはいつも、こぎれいに装うようになっていた。
たまたま康太が帰宅したとき、弘美も法事から戻ってきたところだった。
黒一色の礼服にひざ小僧の透ける黒のストッキング姿。
息子が欲情するのも無理はなかった。
それ以来。
弘美は康太の奴隷に堕ちていった――

披露宴が滞りなく済むと、康太は弘美の手を引くようにして、そそくさと会場をあとにした。
「若い人同士の二次会があるみたいだけど」
わたしがそう言っても、康太の耳には入らなかった。
「母さんのほうが良い」
そう告げると、今夜の弘美はぼくが独り占めにするからね、と、わたしに宣言した。
「好きにしなさい、わたしはちょっと出てくるから」
久しぶりの都会だった。顔を出したい店のいくつかを頭に描きながら、
わたしは妻と息子の二人きりの時間をつくってやろうとしていた。

どうしてこんなに、妻と息子の情事に協力的なのか?
応えることは難しい。
けれども息子は言っていた。
「(さいしょのときは)すごく暴れた。ぼくにわからないよう、ちょっと泣いた」
それでじゅうぶんだった。
弘美はわたしの妻として操を守ろうとして、果たせなかった後はちょっと泣いてすべてを入れ替えた。
涙の乾いたあと、弘美はわたしの妻から康太の愛人に変わったのだ。

長く絶えていた夫婦の営みが復活し、以前よりも熱っぽくなったのも、それ以来だった。
夫婦としての義理を果たしながら、息子との愛の時間もそれ以上に頻繁につくった。
「母さんはもう、貴男の持ち物なんですからね、しっかり愉しませてちょうだいね」
母親に背中を押されて、寝室に入っていく息子の後ろ姿。
ちょっとだけ愉しむつもりだった覗きが、いちぶしじゅうを見届ける結果になった。
これで良いのだ、と、思う。
息子は結婚するまで、母親を相手に性欲を満たし、
わたしはそんな息子の成長を慶びながら、妻の痴態を覗くという隠微な歓びにもめざめていった。

虎口に出戻る。

2018年08月21日(Tue) 07:44:18

命からがら都会の家まで逃げ延びることに成功したのは、わたしと妻だけでした。
その村に出かけていったもの全員が、囚われの身になってしまったのです。
囚われの身というのは、不正確かもしれません。
「囚われた」夫婦3組のなかの1組だった両親からは、手紙と電話で、
自分たちの意思でこの村に転居すると連絡がありました。
おそらく本音でOKしたのだ。ふたりとも、洗脳されてしまったのだ――と、
父の語気からすぐにわかりました。
電話をかけてきた父は、むしろ落ち着いた声で、母さんの浮気を認めてやることにした、と告げたのです。
従妹の嫁いだその村は、吸血鬼の棲む淫らな風習に彩られた土地でした。

都会で挙げられた従妹の披露宴には、新郎側からはほとんど出席者がありませんでした。
田舎のものなのでかえって恥を掻くから遠慮したい・・・という彼らのために、二度目の披露宴が村で挙げられたときのこと。
招かれたのは新婦の両親である伯父夫婦、わたしの両親、そして兄夫婦とわたしたち夫婦の8人でした。
あとから聞いた話では、当初兄夫婦までは招かれる顔ぶれに入っていなかったのですが、
都会の披露宴で兄嫁を見初めた新郎の兄が、とくに加えるようにと希望したというのです。
なにも知らない4組の夫婦は村に招かれ、お座敷での婚礼の席上吸血鬼と化していた村人たちに襲われたのでした。
年輩の男に組み敷かれた妻を救い出すのが、精いっぱいでした。
男は後じさりする妻の足首をつかまえて、ふくらはぎにヌメヌメと唇を這わせようとするところでした。
一瞬唇が吸いついて、すぐにわたしが引き離しました。
男はわたしを押しのけて妻に迫り、なおも首すじを吸おうとしましたが、わたしに蹴られてたじろぐところを危うく救い出したのです。
わたしはともなく、パンプスだった妻がよくあそこまで走れたものだと思います。
ほかの三組の夫婦と違い車で来ていたのが幸いしました。
宿に戻るとすぐにわたしたちは車に乗り込み、都会の自宅をめざしたのです。
男はしつようにあとを追いかけてきて、どうしても奥さんと話をしたい、といいました。
耳も貸さずにアクセルを踏んだのは、いうまでもありません。
都会も間近になったとあるドライブインで休憩をしたとき。
妻の穿いているストッキングに、あの男の粘り気のある唾液が沁みついているのを発見して、
むやみに嫉妬したのを憶えています。

3組の夫婦の転居届は、すべてわたしが手続きを済ませました。
彼らからの要望だったのです。
兄の手紙は、理解に苦しむものでした。
あの都会の披露宴の席で自分の妻が吸血鬼の目に留まり、村での婚礼の席で首尾よく征服されてしまったことを、
むしろ嬉し気に書いて寄越したからです。
父もまたかの地で、複数の男性を交えて痴情に耽る母のことを、むしろほほ笑ましく見守っているという文面でした。
父の手紙には、「私たちに義理立てして、わざわざ再訪する事は無い」と、再三書かれてありました。

ところがどうしたわけか、それからひと月と経たないうちに、
わたしの脳裏にべつの感情が芽生えてきたのです――
やはりほかの親類たちと同じように、あの村に行った方が良いのではないか?と――
父の手紙には、あのとき妻を逸した吸血鬼が、いまだに不遇をかこっていると、ごくひかえめにしたためてありました。

「やっぱりぼくだけ、行ってくるよ」
そう言い出したわたしを、妻は強いて止めようとはしませんでした。
両親が貧血になって身体を壊さないか気になるから・・・という口実に、手向かえる反論を持ち合わせていなかったからかもしれません。
さいしょは一回だけのつもりでした。
わたしは妻を狙った吸血鬼と面会し、身代わりに血液の提供を申し出ました。
男は意外に紳士的でした。
あのようなやり方で突然迫られたら、どんなご婦人でも身の危険を感じて逃げるでしょう、あさはかでした、といい、
わたしの好意を素直に感謝し、くつろげたワイシャツの襟首に尖った歯をあてがって、そっと吸血していったのです。
意外なくらい、ひっそりとした吸血でした。
父は「もうあまり来ないほうがよいのではないか」とわたしをたしなめ、
母は真逆に「こんどは佳代子さんも連れてらっしゃいよ」と、積極的なことをいいました。
連れてきたら犯されてしまうんでしょう?というわたしの問いに、
母はあっさりと「ええそうよ」といい、
でも芳子伯母さんは吸血鬼にモテモテになって若返っちゃってるし、伯父さんもそんな芳子伯母さんに満足しているし、
真菜子さん(兄嫁)はご執心の吸血鬼と夫婦どうぜんに暮らしているけれど、
お兄さんとも一緒に暮らしていて、男どうしもうまくやっているみたいだし・・・と、
やはりわけのわからないことを口走るのでした。

一回だけのつもり、と、書きました。
そうなんです。そのはずがいつの間にか回を重ねて、わずかふた月のあいだに、6回も通い詰めてしまったのです。
妻が思い詰めたように、言いました。
「こんど行くなら、私もいっしょに連れて行って」

あのとき私に迫った方は、不自由しているそうね。
もうちょっとで私に咬みつけたのに、貴方に邪魔されて、果たせなかった。
なのに貴方とはすっかり仲良くなって、打ち解けて下さっているそうね。
それなら私も――もういちど、よそ行きのストッキングを穿いて、あの方の唾液に濡らされてみたいの。

一週間後。
わたしは妻を伴って、あの村に来ていました。
都会の女たちをことごとく呑み込んでゆく、忌まわしい村に。
そのくせ妻を奪われる夫たちを惑乱させて、むしろ奪わせてしまうという、忌まわしい村に。

その晩。
あの婚礼の夜の情景が、再現されました。結論だけは真逆になって。
男にすっかり血を抜かれて手も足も出なくなったわたしのまえで、
妻はあのときと同じ薄茶色のスーツを着て、足許をてかてか光るよそ行きのストッキングに包んでいました。
男の唇は、今度こそあやまたず妻のふくらはぎに吸いついて、這いまわって・・・
なまめかしいストッキングがチリチリになるまで、いたぶり抜いていったのです。
都会の装いもろとも辱められてゆくことに、さいしょのうちこそ悔し気に身をすくめていましたけれども。
妻の態度が打ち解けて、甘くほぐれてゆくのに、時間はかかりませんでした。

いちど逃れたはずの虎口はわたしを捕えつづけて、
結局妻の手を引いて、舞い戻る羽目になってしまったのです。
けれども、後悔はありません。
都会の装いに身を包み、セイジさん、セイジさん・・・と、わざとわたしの名前を呼びながら犯されてゆく妻。
すべてを喪うのと引き換えに得たいまの歓びを、たいせつにしていきたいと願っているのです。


あとがき
妻を襲われかけて危うく難を逃れたのに、なぜか違う結論を観たくなった夫。
都会の装いを着乱れさせ、ストッキングを男の劣情に満ちた唾液で濡らされながら、堕ちてゆく妻。
そこを描きたかっただけなんですけどね。 つい長くなってしまいました。

嫁の浮気帰り

2018年08月21日(Tue) 06:59:48

「お早う。瑤子さんまだ帰ってないの?」
リビングに降りてきたぼくを気づかわしそうに見あげる母は、なぜか紋付を着ていました。
「ウン、まだだよ」
ぼくはつとめて平静に、こたえました。
「かかっているのかねぇ・・・」
思わず露骨なことを口にする母を、「静枝」と父がたしなめます。
「だってねぇ・・・落ち着かないじゃないの」
母の気づかいは、却って気づまりでした。
そう。
妻の瑤子は夕べ、ぼくの親友の良太のアプローチを受けて、浮気に出かけたのです。
「瑤子が良いといったら」といって、ぼくが与えたアプローチのチャンスを、
女たらしで有名だった良太は、逃さずモノにしたのです。
ホテルに出かけていった瑤子は、夕べひと晩家には戻りませんでした。

やがて家の玄関がガタガタと音を立てて、瑤子が帰ってきたのがわかりました。
きっかり6時。
良太と約束した通りの時間でした。
ぼくが妻を貸すと約束した刻限ぎりぎりまで、良太は瑤子のことを弄んだのです。

リビングに顔を出した妻は、ぼくと両親の三人が三人とも起きていることに意外そうに目を見開いて、
それから後ろめたそうに視線をそらします。
「やあ、お帰り。お疲れだったね」
父がフォローのつもりでかけた声にも、瑤子はますます身を固くします。
「さあさあ、シャワー浴びてくると良いですよ」
母の言葉ももちろん、逆効果。
「あの・・・疲れていますので・・・寝(やす)ませていただきますね」
しいて浮かべようとした笑みは中途半端に引きつって、すぐに廊下へと取って返していきました。
きっと、シャワーを浴びてそのまままっすぐ寝室に向かうのでしょう。
「疲れているんですって」
小声で耳打ちしてくる母を父は目でたしなめました。
「ちょっと・・・わたしたちは出かけてくるから」
場を取り繕うようにそういうと、父は母を連れてそそくさと、さっき瑤子が帰って来たばかりの玄関を出ていきました。

遠くからシャワーの音が聞こえました。
シャワーの音が終わると、脱衣所で身づくろいをする気配がして、やがて階段をあがっていきました。
リビングから覗く廊下に一瞬映った瑤子の姿――驚いたことに瑤子は、夕べでかけて行ったときのスーツを着けていました。
うっかり着替えの用意を忘れてシャワーを浴びてしまった・・・と後で聞きましたが、それくらいうろたえていたのでしょう。
わたしは黙って、瑤子のあとを追って夫婦の寝室に入りました。
鍵を閉めるスキを与えずに。

わたしと向き合った瑤子は、洗い髪を波打たせ、白い顔をしていましたが、
わたしが近寄りキスをすると、恐る恐る応じてきました。
いままでの積極的な瑤子にはみられない振る舞いでした。
良太と2人きりの部屋でも、こんなふうにキスに応じたのか――
その場の空気を想像すると、ぼくは欲情を感じて、瑤子をスーツ姿のまま押し倒していったのです。
「良太さんも・・・こうだった」
瑤子の囁きは、良太がキリッとしたスーツ姿のまま弄んだことを告げていました。
ぼくは、その囁きを封じるように瑤子の唇をキスでふさぎ、
夫婦の刻は、いままでになく熱っぽく、過ぎていきました。

お昼近くになって、リビングに降りてゆくと、ちょうど両親が帰ってきました。
わたしたちに気を使う最善の方法は家からいなくなることだ――と決めていて、夫婦で出かけたはよいものの、
行き先に困ってしまい、けっきょくホテルの喫茶室でお茶をして帰って来たというのです。
「夕べのことは忘れさせてやりましたから、もうだいじょうぶ」
ぼくはわざと明るい声で、両親にそう告げました。
「忘れさせたといってもねえ・・・」
母がにこやかにぼくと瑤子とを等分に見比べて言いました。
「瑤子さん、すぐにまた思い出しちゃうわよ」
ホホホ・・・と笑い声を残して台所に向かう母を追って、
「お昼私が作りますから」
と、いつもの主婦の顔に戻った瑤子も台所に向かいます。

残された男2人は、苦笑を交し合うしかありませんでした。
「思い出しちゃうだろうね」
父が気の毒そうにぼくの顔を観ました。
「きっと、そうでしょうね」
ぼくも正直に応えました。
良太のいままでの所行を知っている以上、公平に見てそう観念するしかありませんでした。
妹のときも、兄嫁のときも、良太が飽きるまで二人の関係は続いたからです。
捨てる権利はもっぱら、良太のほうだけにあったのです。
「でも、気持ちよく送り出してやりますよ」
ぼくは胸を張ってこたえました。
良太が手を出すのはいい女ばかり・・・その好みのうちに瑤子が含まれていたことが、
瑤子を弄ばれたのとは別に、なぜかくすぐったいほど嬉しかったのです。

父は穏やかにほほ笑みながら、いいました。
「女はいちど覚えた男の味は、忘れないものだよ――母さんだって、そうだったんだから」


あとがき
幼なじみの悪友に妻を抱かれたあくる朝。
家族仲良く不器用に気づかい合いながら、嫁の朝帰りを出迎える――
あり得ない風景ですが、ちょっと描いてみたくなりました。^^

歳月。

2018年08月20日(Mon) 07:18:35

子供のころ。
真っ白なハイソックスを履いて公園にいたら、吸血鬼に襲われた。
ハイソックスを真っ赤に濡らしながらチュウチュウと吸血されていくうちに、ゾクッときて。
仲良くなった吸血鬼に、毎晩のように逢うようになっていた。

ぼくがハイソックスを脱いで家に帰るのを見とがめた母さんが、夜中にぼくのあとを尾(つ)けてきて、
あっさりと吸血鬼の餌食になった。
あちこち咬み破られてずり落ちたねずみ色のハイソックスをずり上げながら、
肌色のストッキングをびりびりと破かれながら血を吸い取られて、ウットリとなってゆく母さんのことを、
薄ぼんやりと眺めていた。

母さんは、毎晩逢うのはお止しなさい、身体に悪いから。
ふた晩にひと晩は、私が身代わりになるから――と言ってくれた。
母親らしく気遣ってくれたのだけれども。
吸血鬼の恋人にされてしまった後の乱れ髪や、はだけたブラウスから覗く吊り紐の切れたブラジャーについ目が行って、
目のやり場に困っていた。

それ以来。
母さんが貧血を起こしているときは身代わりにぼくが、
母さんの洋服を着て、ねずみ色のストッキングを脚に通して、吸血鬼に逢うようになっていた。

そのころの父さんは、ストッキングみたいに薄いスケスケの紺のハイソックスを穿いて勤めに出ていた。
ぼくは母さんの服を着ないときには、父さんのハイソックスを穿いて吸血鬼に逢っていた。
浮気がばれるのを恐れた母さんは、父さんの帰宅時間を吸血鬼に教えた。
勤め帰りの父さんは、スケスケのハイソックスをびりびりと破かれながら吸血されて、吸血鬼と意気投合してしまった。
うちの家内を紹介してあげると、彼を家にあげてやって、
母さんは父さんとは別のベッドで、ひと晩吸血鬼にかしずく羽目に遭っていた。
おかげで――母さんの浮気は、いまにいたるまでばれていない。

妹が中学にあがって、黒のストッキングを穿くようになったとき。
ぼくは母さんの言いつけで、妹の制服を着て吸血鬼に逢いに行った。
こうしてぼくは、夜だけは人妻になったり女学生になったりして、愉しむようになっていた。
妹が下校途中に襲われたのは、入学してから三か月後、冬服から夏服に切り替わる直前のことだった。
やつにしては、よくガマンしたほうだと思う。
吸い取られた生き血で冬服を濡らしながら、妹はべそを掻きながら、チュウチュウと吸血されて、
うら若い血液を奪われていった。
母さんの血が気に入ったんだもの。妹の血が好みに合わないわけはなかった。

それ以来。
ぼくたち兄妹は、おそろいのセーラー服を着て、連れだって公園に通うようになっていた。

齢の離れた兄さんが、義姉さんを連れてこの街に戻って来たのは、それから数年後のことだった。
ぼくはさっそく、義姉さんの服を着て、吸血鬼に逢った。
義姉さんは、てかてか光るストッキングを好んで穿いていた。
ぼくの脚に通された義姉さんのストッキングは、吸血鬼をいたく魅了した。
いつも以上にびりびりと破かれてしまう光景を、義姉さんが襲われる想像と重ね合わせて、
ぼくはいつも以上に昂ってしまっていた。

家への出入りが自由になっていた吸血鬼は、
父さんの親友という触れ込みで(父さんもそう認めていた)一家の団欒の席に現れて、
兄さんを強い酒でたぶらかすと、その目の前で義姉さんを襲った。
義姉さんが血を吸い取られ、犯されてゆくのを、
兄さんは男の目になって、昂ぶりながら愉しんでいた。
ぼくも男のめになって、昂ぶりながら愉しんでいた。

それ以来。
兄さんは義姉さんが誘いを受けるとこころよく送り出して、
代わりにぼくに義姉さんんの服を着せ、ベッドに引きずり込むようになっていた。

吸血鬼に純潔を汚された妹は、責任を取ってほしいとぼくに迫って、
ぼくと妹は、うちうちに結婚式を挙げていた。

男になったり、女になったり、とてもめまぐるしい日常だけど。
そんな日常を、ぼくはすっかり愉しんでしまっている。

兄さんの娘の由佳が中学にあがるころ、
ぼくは兄さんに、由佳ちゃんの服を着たいと言った。
兄さんよりも義姉さんのほうが、積極的だった。
結婚してから吸血鬼に逢うようになった義姉さんはかねてから、
処女のまま吸血鬼に抱かれる経験をできなかったのを残念がっていた。
処女のうちに血を吸われた妹のことを、羨ましいと言っていた。
兄さんのまえで、「このひとに出会う前に抱かれたかった」なんていうので、
兄さんも微妙にくすぐったそうな顔をして、義姉さんの告白に耳を傾けていた。

由佳ちゃんが吸血鬼に襲われて、高校の卒業祝いのときには女として愛し抜かれてしまったあと。
義姉さんはまな娘におめでとうと言って、由佳ちゃんも照れくさそうに、頷いていた。

それ以来。
ぼくは義姉さんの服を着るのと同じくらいの感覚で、
由佳ちゃんの服を着て、兄さんに逢うようになっていた。

乳色の肌に、網タイツ。

2018年08月17日(Fri) 04:00:31

乳色の肌、栗色の巻き毛、太い眉に大きな瞳。
まるでハーフのような彼女は、体格も良い。
ぼくの若妻、23歳のメイは、デパートに勤めている。

勤め帰りにどこかのレストランで食事をして帰ろうと待ち合わせ、合流したまさにそのとき。
ふら~っと現れた、いびつな黒い翳。
あーっ、なんてことだ・・・
目のまえでにやにやとほくそ笑んでいるのは、ぼくの馴染みの吸血鬼。

ひと月前に初めて襲われて、貧血で家に戻ったぼくを、
メイは心配そうに介抱してくれた。
吸血鬼と共存するこの街では、決して珍しくはないアクシデント。
傷口の血を拭き取りながら、メイはいった。
「だいじょうぶ?でも、これからもきっと襲われるよ。きつかったら、あたしもいっしょに吸われてあげるから」
冗談じゃない。
ぼくは強くかぶりを振った。
人妻を襲うとき、やつらは必ず犯すのだから。

「Hai、セイタ。この子はユゥのワイフかね?可愛いナイスバディだね」
ああ、なんてよけいなことを・・・
目を合わせずにしいて無視しようとしたぼくの意図をまるきり無視して、
やつはしゃあしゃあと、ぼくたち夫婦の間に割り込んできた。
How do you do?
How do you do?
好色なしわがれ声と若い女の張りのある声が、折り重なるように同じ言葉を発する。
やつはほんとうに、英語圏の人間なのか。
ドラキュラというのはてっきり、ドイツ語だとばかり思い込んでいた。(これまた間違い)
なんて素晴らしい、輝くような肌をしているね。いちどユゥのことを噛んでみたいね
――と、やつは得意満面。
セイタの血だけじゃ足りないときなら、私相手するわ
――と、メイはちょっぴり気づかわしげ。
そんなに眉を寄せて、シンコクそうな顔をしないで。
やつは女の子の困った顔つきが、大好物なんだから!

やつがぼくにすり寄って来るときは、100%間違いなく喉が渇いているときだった。
所かまわず人の首すじに食らいつくのがつねなのに、やつはいつになく遠慮をした。
「どこか近場の公園に行こう。ユゥのワイフに恥を掻かせたくないからね」
そして、オレンジ色のミニスカートから覗く、網タイツを穿いたメイのむっちりとした太ももに、もの欲しげな視線をからみつけていった。

十分後。
貧血を起こしたぼくは、公園のベンチに持たれて、ぐったりとなってぶっ倒れていた。
視界の彼方では、首すじを咬まれたメイが、
ちょっと切なげに口を半開きにして、やつのしつような吸血に耐えている。
のしかかってくる男を前にぺたんと尻もちを突き、傾きかけた上半身をかろうじて両腕で支えていたが、
やがてくたりと力を抜いて、芝生のうえに倒れ込んだ。
地面に投げ出された脚を包んだ網タイツは、ところどころ破れて、吸い残された血を滲ませている。

冒されてゆく乳色の肌に、ぼくは不覚にも欲情していた。
最愛の妻をこれから犯されてしまうというのに、ズボンのなかに隠した股間を熱くしていた。
「それでいい、自然な感情だ」
やつはぼくの恥ずべき衝動を肯定すると、ズボンの上に掌を置いて、ギュッと握りしめる。
それからふたたび、夢見心地になってしまったメイに取りついて、豊かな胸もとに咬みつくと、
夫婦のベッドのうえで洩らすあの悩ましい吐息を勝ち取っていた。
結び合わされる唇と唇。
せめぎ合う吐息と吐息。
突っ張る腕。立膝をする網タイツの脚。
むき出しの二の腕にも、網タイツのふくらはぎにも、身体のこわばりを映してしなやかな筋肉が盛りあがる。
やつはメイの発育のよい身体を、思う存分、愉しんでいった――

2人で公園を出るとき。
メイはさすがにべそを掻いていた。
すがって来る身体がひたすらいとおしくて、ギュッと力を込めて、横抱きに抱きしめていた。
豊かな肉づきが確かな手ごたえで、応えてきた。
「家に戻ったら、やり直そうね」
メイの言葉に、ぼくは無言で肯きかえす。
守ってやれなかった後ろめたさと、密かに愉しんでしまった後ろめたさ。
守ることのできなかった申し訳なさと、密かに愉しんでしまった申し訳なさ。
お互いの葛藤は、沈黙のうちに処理することにした。

きっとこのあと、いつもより濃密な夫婦の交わりで、ぼくたちはすべてを忘れようとする。
きっとこのあとも、メイは襲われつづけ、ぼくは愉しみつづけてしまうだろうけど。
日本人の両親を持つメイは、ルックスのとおりの混血だった。
実の父親は吸血鬼だったという。
血が血を呼んだのね、Sorry,Seita.
照れ隠しに発した英語の発音は、やけに正確だった。


あとがき
今夜のヒロインは、ちょっと異色な容貌の持ち主ですね。^^
彼女の日本人離れした容姿と立派な体格とは、なぜかありありと想像することができました。^^

義母のスカート

2018年08月16日(Thu) 08:07:11

妻が言った。
「母のスカート、穿いてみたら良い感じだったので、借りてきちゃった♪」
その時の妻の顔――なぜか白い歯しか思い出すことができないのは、なぜだろう?
女の姿になると、男モードで過ごすときの記憶が、あいまいになるのかもしれない。
妻のいない夜。
”彼”は女の姿となって、”彼女”となる。
結衣は女装子。

結衣の妻は、薄々感づいているようだ。
けれども決してそんなことは、口にしない。
なにかのときに、「人に迷惑かけなければ、たいがいのことは許されるよね?」と、真顔で言った。
あれはもしかすると、そういう意味だったのかもしれない。
そのあと妻は、私は貴方に迷惑かけるけど♪と笑って、はぐらかしてしまったけれど。

結衣には彼氏がいる。
けれどもそういう表現をするのは、妻に悪いと思っている。
でも厳密には、彼氏ではないのかもしれない。
彼は結衣の血を吸うだけで、まだ犯されたことはないのだから。

その男と初めて出逢ったのは、女の姿になって歩いた真夜中の公園だった。
女の生き血を求めてさまよっていた彼は、怯える結衣を追い詰めた。
「見逃してください!」と懇願する結衣に、
「救ってほしい」と彼は呟いた。
聞けば、夜明けまでにだれかの血を吸わないと、灰になってしまうというのだ。
重い事実を聞かされて逡巡したすきに、男は結衣の間近に近寄って、うなじを吸おうとしていた。
結衣は思わず願った。
「お洋服だけは汚さないで!」
男はみじかく「わかった」と応えると、「もう少し首すじをくつろげて」と、結衣に注文した。
結衣が目を瞑っておとがいを仰のけると、男は結衣の首すじを咬んで、血を吸い始めた――
魔法にかけられたみたい。
そう思ったときには男は、結衣の血を吸い終えていた。
「もういいの?」
しぜんと女声になって訊ねる結衣に、男は「ありがとう」とだけ、いった。
それ以来。
結衣は深夜の女装外出のときに男と密会を重ね、
請われるままに、ストッキングを穿いた脚を咬ませることまで許してしまっている。

義母のスカートは、ロング丈の花柄だった。
古風だけれども、よく見るとモダンな柄だと結衣は思った。
いまとむかしは、そんなにへだたっていないのかも知れない・・・結衣はなんとなく、そう思った。
今夜、妻は出張で家にはいない。
そして、義母からもらってきたというスカートがなぜか、妻の出かけた後のリビングの背もたれに、そっと掛けてあった。
自分の留守中に、だれかが身に着けるのを予期しているかのように。

考えすぎに違いない――結衣は自分の胸の奥に沸いたそんな想いを打ち消すように、
伸ばしかけた指先をなん度も引っ込めた。
けれども、義母のスカートをまというという背徳感の誘惑に、打ち勝つことはできなかった。
婦人用の衣装のなまめかしさの前には、結衣はか弱い女に過ぎなかった。
気がつくと、結衣の指先はスカートのウェスト部分をつまみ上げ、
ストッキングをまとった両脚を、スカートのなかへと入れていた。

自前の城のブラウスと合わせて、姿見の前に立つ。
似合っていると、結衣は思った。
もはや、羞ずかしいことをしているという意識は、きれいに消し飛んでいた。
姿見の前、玄関までの廊下。
身に着けたロングスカートをさわさわと波打たせながら、できるだけゆったりと足どりで、歩みを運ぶ。
それだけのことなのに。
結衣の胸は高鳴り、抑えきれないときめきが渦巻いた。

「似合っている」
傍らで声がした。
自分自身の呟きかと思って振り向いたら、男が佇んでいた。
「どうして??」
家に招いたつもりはなかった。
「つい、迷い込んでしまった。許せ」
結衣は顔をあげ、男をまっすぐ見あげて、いった。
「歓迎します――」

いつものように、結衣を仰向けにすると、男は結衣の首すじを咬んだ。
いつもは公園の芝生のうえなのに、今夜は自宅のじゅうたんの上――
お洋服が汚れるのを怖がらないで済むことが、むしろ結衣の気分をくつろげている。

コクコクと音を立てて血を吸い取られてゆきながら、
結衣は吸血鬼に襲われた娘になり切って、陶然として自宅の天井を見あげていた。
吸血鬼が自分の血を愉しんでいるという事実が、抱きしめたいくらい嬉しく感じた。
貧血をものともせずに、結衣は男のためにけなげに応えつづけた。
男は結衣の身に着けた義母のスカートをまさぐり、結衣のお尻をなぞった。
じわっと拡がる淫らなときめきを圧し殺しながら、結衣は耐えた。

ここで横たわって、侵入してきた吸血鬼に淫らな振る舞いを許しているのは、結衣?お義母さま?
それとも妻?
妖しい幻想に怯えながら、結衣は応えつづけてしまっていた。
男は結衣の足許に取りついて、いつものようにふくらははぎを咬み、
クリーム色のストッキングを無造作に咬み剥いでゆく。
彼自身の嗜虐心を満足させるように。
結衣は彼の嗜好を好意的に受け容れて、
表向きは嫌がりながらも、足許の装いに加えられる凌辱を、知らず知らず愉しみはじめてしまっていた。

男が呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている・・・」
考え深げなまなざしで、スカートの花柄を見つめる男。
男のまなざしの向こうに、妻や義母がいるのを、結衣は直感した。
「家族には手を出さないで」
結衣の願いを男は容れてくれて、本来なら求められたに違いない要求を、完全に封じ込めることに成功していた。
男は男なりに、結衣を尊重し愛してくれているのだった。
男はもういちど、呟いた。
「このスカートは、なにかを知っている」

その「なにか」を聞いてしまうのは怖い、と、結衣は思った。
そしてなんの脈絡もなく、義母のスカートを夫にゆだねた妻は、いまごろどうしているのだろうか?と思った。
ほかの男に逢っているのかも――という妄想は、さすがにかき消していたけれど。
そうであるほうがむしろフェアなのかも・・・と思い直したりしていた。
愛し合夫婦が違う屋根の下、別々の相手と夜を更かしてゆく。
そんな夜が現実にあったほうが良いのか、良くないのか。
それはまだ、結衣の意識の向こう側の世界に過ぎなかった。

男はふたたび結衣を抱きしめて、こくこくと喉を鳴らして、
結衣の血を美味しそうに飲み耽っていった。

夜明けの路上で獣に出遭ったら

2018年08月14日(Tue) 06:46:15

その吸血鬼は、かなり兇暴なやつだった。
道行く女性を見境なく襲っては生き血を吸い、路上で犯すのがつねだった。
街が吸血鬼に汚染され始めたころのこと、
ようやく吸血鬼どもの判別が、人間のなかでできつつあった。
情のある吸血鬼や、咬まれて半吸血鬼になった者のなかには、
いちどは犠牲者として咬まれながら心を通い合わせるようになった者や、
家族のために忍んで献血を習慣に取り入れる者も出始めていたけれど。
この兇暴な吸血鬼の相手を好んで買って出るものは、さすがにいなかった。

夜明けの路上で、本庄佐恵子(42)はその吸血鬼に追い詰められていた。
若作りの花柄のワンピースに、てかてか光るエナメルのパンプス。
兇暴な吸血鬼の嗜虐心をあおるには、じゅうぶん過ぎるいでたちだった。

袋小路に追い詰められた女は言った。
「こんなおばさんの血なんか吸ったって、美味しくないわよ!!」
投げつけるような罵声だった。
これから凌辱されようとしているのだから、彼女の言動は当然だった。
男はそれでも目の色を変えて、女に取りつこうとした。

手首を取られ、振り放し、
肩をつかまれ、振り放し、
抱きすくめられて、もがいた。

咬もうとして押しつけた唇をかろうじてうなじから引き離そうとしたとき、
のしかかってきた体重を受け止めかねて、
脚がもつれて路上に倒れた。
男は女を抑えつけて、こんどこそ首すじを咬もうとした。
女はとっさに叫んだ。
「けだものの餌食になりたくないっ!!」
男の動きが熄(や)んだ。

男は抑えつけた獲物をまじまじと見つめ、
女は必死のまなざしで睨み返す。
やがて男は抑えつけた腕から力を抜いて、
這いずったまま後ずさりしようとする女を、もうそれ以上追い詰めなかった。

助けを求めて声をあげ走り去る女をしり目に、
男は重い顔をして起ちあがり、去ってゆく。


佐恵子が男とふたたび出遭ったのは、その翌日のことだった。
兇暴な吸血鬼はふたたび女のまえに立ちふさがったが、
瞳の色が暗いのを女は敏感に見て取った。
「どうしたのよ?よほど切羽詰まっているんでしょう?」
女は訝しげに男を視た。
「すこしだけ、解消した」
「どういうことよ」
男は言った――
吸血鬼と共存することを決めた街が、飢えた同族のために作った施設がある。
金に困った女が自分の血を売るための施設。
そこではどんなにがつがつと啖(くら)っても、文句をいうものはいないのだと。
「その人たちだって、怖いはずよ」
男を咎める目線の強さを変えずに、女は言った。
「そうだと思う」
男は言った。
でもそれがわかるのは、われに返ったあとのことなのだ、と。
満たされているときには、人並み程度には行き届く思いやりというものも、
飢えてしまえば見境がなくなる。
吸い取った血潮をあごからしたたり落すとき、時々虚しくなってくるのだ、と。
「あなた、この街に来て間もないの?」
女の問いに、男は素直に肯いていた。

じゃあ、今朝は私が襲われてあげる。
だって、あなたみたいな乱暴な人と通り合わせたほかの女の人がかわいそうだもの。
どうせあなた、私をやり過ごしたところで、きっとまただれかを襲うんでしょう?
それにその施設――知ってるわ。募集かけてもまだあまり人が集まらないって。
うちの主人、市役所なの。
さいごの告白は、小声になっていた。

俺の流儀は心得ているんだな?
好きになさいよ。
声色を陰湿に翳らせる男にむかって、女はうそぶいた。
あんた、やけになったりしてないよな?
余計な心配しないで。
女は薄い唇を噛みしめて男を見あげると、自分から路上に腰を落とし、姿勢を崩していった。

きのうの夜明けと、おなじ体位だった。
でも、きのうは袋小路だったのに、きょうはそこそこ広い道だった。
住宅街の真っただ中。
女は咬まれ、犯された。

まだ薄暗い町並みに人の行き来は少なかったが、まったく途絶えているわけではなかった。
通りかかった新聞配達や早朝勤務のサラリーマン、ごみ捨てに出てきた近所の主婦など、
時折姿を見せるそうした人々は、凌辱される佐恵子を目にしては意図的に視線をそらし、
けれども男どものいくたりかは、歩調を変えずに立ち去るまで、
ふたりの様子から目を離せないでいるものもいた。

男は好んで女の脚からストッキングをむしり取る癖があったが、
息荒く迫って来る男を満足させるため、
女は身に着けているワンピースまで、気前よく引き裂かせていった。

「気が済んだ?」
栗色の髪を振り乱した女が蒼ざめた顔をあげ、男に薄笑いを向けたときにはもう、通学時間帯にかかり始めていて、
路上でくり広げられる痴態に、かなり遠くを歩いていた男子高校生が、目のやり場に困っていた。
市役所勤めだというこの女の亭主もきっと、そろそろ出勤する刻限だろう。
「いいの。あたし浮気してきた帰りだから。悪い奥さんは、罰として兇暴な追い剥ぎに遭ったの」
そういうことにして、と女は言い捨てると、路上から起ちあがった。
裂けたワンピースを繕おうとしたが、無理に押し拡げられた襟首から覗く下着を押し隠しかねていた。
「送る」
男はぶっきら棒にそういうと、女を抱きかかえ、お姫さま抱っこしたまま家の道順を訊いていた。

「ここまでで良いわ。これ以上恥かかさないで」
家の近くまで来ると女は、自分の足で歩くといった。
顔見知りだらけのご近所で、主婦が他の男にお姫さま抱っこでご帰館あそばすわけにはいかなかったから。
男は女をおろすと、女はあとも振り返らずに家の門をくぐった。
ちょうどはち合わせるように、夫らしい中年の男がスーツを着て、玄関のドアを開いた。
派手に裂けたワンピースをまとった妻の凄まじい帰宅姿を、
夫はびっくりりしたような顔をして迎え入れたが、
女がちょっと囁くとこちらを見て、律儀すぎる会釈を送って来た。
「危ないところを助けてもらって、ここまで送ってもらったの」
きっとそんなふうに言い繕ったに違いない。
夫はそれから30分も遅れて出勤していき、
妻は入れ違いに、まだ外にいた男に目配せをして、家のなかへと誘い込んだ。
出勤姿の夫は、すべてを聞かされていたのだろうか?
曲がり角のところで立ち止まり、妻が自宅に吸血鬼を引き入れるところを見届けると、
もういちど、男に対して律儀すぎる会釈を送っていった。


佐恵子が勤めに出るようになったのは、それからすぐのことだった。
勤務先は、夫が担当する吸血鬼保護施設。
血を吸わせてくれる人間にめぐり会えなかった吸血鬼の救済施設であるここには、
数少ない女性が待機していて、来客があるとあてがわれた部屋に客人を案内し、
そこで自分を好きなようにさせるのだった。

だれもが、ガツガツとした客だった。
ふつうの主婦という属性は、ここでは意外なくらい受けが良かった。
待機している女性たちは、夫に内緒で来ているものもいたが、だれもがふつうの主婦だった。
けれども市役所の職員を夫に持った佐恵子は、
「堅い職業のお宅の奥さん」という名目をさらに人気が高く、ご指名が絶えなかった。
「おばさんの血なんか美味しくないでしょう?」
と、さいしょのころからの言いぐさを絶えず口にしていたけれど、
だれもが彼女の熟れた血潮に癒されて、
ついでによそ行きの小ぎれいなスカートの奥のもてなしに満たされて、
良い気分になって施設から出ていくのだった。

あの男も、時折施設に現れた。
「なんだあなた、まだなじみができないの?」
女は男をからかったが、無言で挑みかかって来る男に唇を重ねて応えてやって、
ストッキングを破かれ、ブラウスをはぎ取られていった。
ときには男の気分を引き立てるため、わざわざ路上に出ていって、
衆目のまえ裸身をさらしていった。


女は知っていた。
男は以前のように切羽詰まって来ているわけではなく、自分に逢いに来てくれているのだと。

道行く女性たちが不意打ちに遭うのを予防するために、夫が作った施設。
そこで働く道を択んだのは、おなじ女性の名誉を少しでも守りたかったから。

こんな施設を作った夫への面当てもあったけれど、
夫は快く許してくれて、それまでまるで意に介していなかった妻の健康管理に心を砕くようになっていた。
勤務の最中に差し入れを持ってきたときには折あしく男と真っ最中で、
妻を初めて犯した相手の男っぷりのよさをしたたかに見せつけられる羽目に遭っていたけれど。
特に苦情を言うでもなく、たったひと言「妻をよろしく」と言って立ち去っていった。
そんな夫の態度に、女は伝法にも、ちッと舌打ちをしたけれど。
男は夫の後ろ姿に手を合わせ、拝むように頭を垂れた。

施設が健全にまわり始めると、男は女を身請けするようにして、棲み処のアパートに引き取った。
かねて夫と打ち合わせていたように、女を自分専用の通い妻にするために。
女は、浮気相手と手を切っていた。
詳細はここでは略するが、浮気相手も自分の妻ともども、男に隷属する立場に堕ちていた。
浮気相手の妻は単なる性欲のはけ口としてあしらわれたが、
女は男の本命として長く愛された。
かつて、なん人もの女たちを路上に転がし辱め抜いていった男は、
こうして市役所職員の妻を堕落させたが、
彼女から獲た血潮の暖かさは、逆に男を清めたのかも知れなかった。


あとがき
このお話に登場する施設・登場人物は、すべて架空のものです。

女装子お見合い倶楽部

2018年08月10日(Fri) 07:29:55

どうしても結婚したいと思った。
相手は、男でも良いとさえ思った。
せめて、女の格好をしているのなら。
そんな不純な想いを抱いて訪れた場所――
それは、
「女装子お見合い倶楽部」
という場所だった。

なんの変哲もない雑居ビルの二階に、それはあった。
得体のしれない世界に踏み込むことをためらう気持ちよりも、
嫁さんが欲しいという欲望のほうがまさって、
気がついたらノックをして、部屋の中に入っていた。

応対してくれたのは、穏やかそうな初老の男の人だった。
案外ノーマルな人だな、と、思った。
「いらっしゃい。こちらは初めてですね?どんな方がご希望ですか?」
名前も連絡先も訊かれなかったことに、すこし安堵した。
男の人は、そんなぼくの想いを見透かすように、
「お名前、ご住所、ご職業とかは、ご本人に入って下さればそれでよろしいです」
押しつけがましくない口調だった。
そして、お差支えあるかもしれませんからね、と、当然のようにつけ加えた。

年齢40歳くらいまで。(ぼくの年齢もそれくらい)
女性として日常を送っている人。
学歴、職業は不問。
容姿、スタイルは特に問わないが、古風な感じの人が好み。
独りで生きていける人。

自分で書いていて、かなり偏った手前勝手な条件だなと思った。
「かしこまりました。ご希望に合いそうな方とのアポイントを取らせていただきます」
初老の男性に言われるままに、携帯の番号とメールアドレスだけを教えて、その日は終わった。
アポイントが取れたのは、数日後だった。
仕事中に携帯が鳴ったらどうしようと内心どきどきしていたのを見透かすように、
それは無表情なメールでやって来た。
「お見合い相手のかたをご紹介します。ご都合のよろしい日時は・・・」

名前:ゆう子(仮名)
年齢:39歳
婚歴:未婚
職業:パートタイマー(某企業にて、女子事務員として勤務)
家族:両親と兄夫婦とは別居、日常的な行き来はあり。家族は本人の女装癖を認知している。
性別:男(男性器あり)

住所や電話番号、勤務先、年収・・・そういったものは書かれていなかった。
こちらが明かさなかったのだから、当然と言えば当然だった。
年収くらい情報交換しても良かったかな?という考えは、浮かんだ途端に消えていた。
ほんとうによい人なら、自分が養えばよい、と思った。

初対面の日は、あっという間に来た。
「初めまして・・・」
あらわれたそのひとは、白っぽいワンピースを着ていた。
肩まで伸びた黒髪に、良く似合っていた。
顔や顔の輪郭が少しだけかっちりとしていたけれど、
それは彼女の容姿を損なうものではなかった。
でも、女性のなだらかさとは少しだけ、異質なものがあると感じた。

女のかっこうをした男と、いまお見合いをしている。
その事実に今さらながらがく然となり、それが態度に現れた。
ゆう子さんはそれでも、不快そうな態度を表に出さなかった。
無理なら遠慮しないで、そう仰ってくださいね。
低くて落ち着いた響きのある声だった。
男が女のまねをするような、不自然な猫なで声などではない。
長い時間に身についたものだった。
ぼくは不覚にも、うろたえた。
自分の覚悟のなさが、恥ずかしかった。
気がつくと、いっさいがっさいを、白状していた。

女性にはまるきりもてなくて、結婚願望ばかり高かったこと。
それでもどうしても結婚したくて、女の格好をしていれば男でも良いと思ったこと。
女装の人と面と向かって話すのは初めてで、慣れない状況に戸惑ってしまっていること。

ここまでで、ご遠慮しましょうか――?
ゆう子さんはちょっと寂しげだったが、淡々とした語調で断りやすい雰囲気を作ってくれた。
そのとき自分自身をかなぐり捨てることができた幸運に、いまでも心から感謝している。

ごめんなさい。そうじゃないんです。
でも、初めてなので戸惑ってしまって。
少し、時間を下さい。
できればもう少し、あなたと一緒にいさせてほしいんです。

できればもう少しで良いから、あなたのまとうその落ち着いた空気といっしょにいたい――そんな失礼なことまで、口にしていた。
いつも浮ついていて自分勝手な自分にとって、彼女のまとう空気感が、とても新鮮だったから。
「人助けだと思って」とまで懇願したぼくに、「だいじょうぶですよ」と、ゆう子さんは笑って応えてくれた。

それからなにを話したのか、じつはあまりよく憶えていない。
ゆう子さんの行きつけの喫茶店に行って、おなじ紅茶を飲んで、言葉少なにお互いのことを話したような気がする。
なぜかお互いに聞き役になっていて、そのために会話がしばしば途切れたけれど、
なんとか言葉をつなぎたいという焦りはみじんも感じなかった。
聞いてはいけないようなことまで、聞いてしまっていた。
夜の営みはどうすればよいのですか?とか。
ゆう子さんは静かに笑って、応えてくれた。
初対面の女性に、そんなこと訊いてはいけませんよ、と、優しくたしなめながら。

どんなことをすれば良いかなんて、考えることないと思うんです。
お互い、愛したいように愛すれば良いと思うんです。
でも、私の考えだけをいうのであれば――
もしもあなたを好きになったら、女として愛します。

女として愛します。

そういったときのゆう子さんの目に帯びたものが、ぼくたちのすべてを塗り替えていた。

「男のお嫁さんをもらうから」
思い切って打ち明けたぼくの話に、両親はもちろん驚いたけど。
「陽(ぼくのこと)が良ければ、それでいいんじゃない」と、あっさりと結婚を許可してくれた。
孫の顔だけは見せられない――とわびるぼくに、「孫はあんたとちがって優秀な兄さんや姉さんができの良い孫を作っているから良いよ」と、いつもながらのひどい言葉で、ぼくのことを安心させてくれた。

ゆう子さんは貞操堅固なひとで、いままで異性とも同性とも未経験だといった。
新婚初夜のベッドのうえ。
はからずも40にもなって、ぼくは処女の花嫁を得たのだった。
愛したいように愛すれば良い。
彼女のことばは、いまではぼくの日常になっている。
夜遅く勤めから戻るぼくをねぎらうために、
ゆう子さんは小ぎれいな服を身に着けてぼくを迎え入れて、
夜遅くまで。
朝早くから。
全身に愛をこめて、互いに互いを愛し合っている。


あとがき
珍しく純愛もの?になってしまいました。
(^^)

ハイソックスの記憶

2018年08月07日(Tue) 08:02:44

いけ好かない・・・
まだ少年だったころ、
半ズボンの下に履いたひし形もようのハイソックスの脚を咬まれながら、
ぼくはそう思って歯がみをした。

くそったれ。
バスケ部の部活のあと、体育館で襲われて、
ライン入りのハイソックスの脚を咬まれながら、
ぼくはそう呟いて歯がみをした。

悔しい、ちく生。
新婚初夜のベッドのまえ、
肌の透ける紳士用の長靴下の脚を咬まれながら、
ぼくはそううめいて歯がみをした。

つぎは、部屋の隅で怯えている新婦の番だった。
彼女は、もっともっと誘惑的な、白のストッキングの脚をテカらせていた。


あとがき
成長とともにハイソックスの種類を変えながら、ずっと吸血鬼の相手をしつづける少年。
行き着く先は花嫁の寝取られだった――ということも、案外ちゃんとわかっていたのかも。^^
いつもと同じように口を尖らせながら、純潔を汚される新婦のあで姿から、目が離せなくなるのでしょうか。

親友の愛妻物語~ひとまずの決着~

2018年08月06日(Mon) 08:13:57

おはようございます。柏木です。

明け方から描きつづけた親友物語、「【小話】アウトドア派」に始まり前作までは、一連のお話です。
さいしょは「アウトドア派」の小話だけで終えるつもりだったのですが、
後日談を描きたくなってついずるずると続けてしまいました。 (^^ゞ

今回は吸血鬼ではなく、ふつうに生身の男です。(笑)
吸血シーンも入れようか?と思ったのですが、それなしでもイケそうだったので、あえて入れませんでしたし、
輪姦バージョンも作ろうか?と思ったのですが、あくまでぶれずに行くことにしました。
三人の存在感がかなりリアルに想像できたので、ひとつの矛盾しないお話にしてみたかったのです。

アウトドア派と称する親友に誘われて妻同伴でドライブに行ったら、
親友の正体はアウトドアで女を犯すのが好きなやつで、奥さんを犯されてしまうのですが、
旦那は妖しい歓びに目ざめるわ、奥さんは相手の男と身体の相性がバツグンなのを確かめてしまうわで、
けっきょくヒロインを夫と間男が仲良く共有することで折り合う――という、いつもながらの話ですが、
それぞれ短く分けたのは、描きたい視点が異なったためです。

以下はねたばれになりますので、よければ本編を読んでから御覧下さい。


「だれのため?」では、
夫のためだけに生きたいから、貴男(アウトドアの男)とは結婚できません。
と、アウトドアの男のまえ、奥さんが生真面目に宣言するところを描きました。

夫は、「きょうは、このあたりで・・・」と、
やんわりとこれ以上のプレイの継続の中止を促し、アウトドアの男は素直にそれに従います。

奥さんは怯えたように夫の背中に隠れますが、アウトドアの男は奥さんに、「来週またチャンスを下さい」といって、
あくまで奥さんをモノにしたいという意思表示をします。
夫婦連れだって翌週男の自宅を訪れたのは、彼の意思表示への無言の返答でもあるわけです。
家庭訪問した土曜日はインドアだったから来週は・・・という男に対して、「明日でもOK」と応える奥さん。
粋な応対ですね。
さいしょのドライブの帰りでは夫の隣の後部座席に座っていた妻が、今回は助手席に位置を移している・・・というあたりは、描いている本人が萌えていました。(笑)


「気に入ったところ。」
では、奥さんが男をどのように気に入ったのか?を描きました。
夫に促されてそれ以上の追及をやめたところと、手の甲への接吻です。
時には退くことも、お相手の気を惹くことにつながるのかもしれません。

さいごの一行で、奥さんの心がかなり彼に傾いているところを添えてみました。


「来週の予定。」
では、さいしょの日の帰り道から、帰宅後の夫婦の語らいを描いています。
感情をあらわにした修羅場にせずに、抑えたトーンでお互いの意思を確認し合う。
そんなシーンにしてみました。


「言葉と振る舞い。」
文字通り ですな。^^
言葉ではあくまで貞淑な人妻を装いながら、腰ではしっかり応えちゃってる。(笑)


さいごのまとめが、前作です。
こんどはアウトドアの男目線で描いてみました。
ひとつの行為がひとそれぞれの目線からどう見えるのか?というのは、私にとって永遠のテーマかもしれませんね。

今朝は珍しく、この記事も入れて9つもあっぷしてしまいました。
もしかすると、新記録化もしれません。
ここまで読んで下さった方、ありがとうございました。

親友の愛妻をゲットした幸運な男のひとり言。

2018年08月06日(Mon) 07:49:55

親友の奥さんに、恋をした。
かわいいというよりは、美人。
上品で落ち着いた物腰に、思わずグッと来た。
母と似ている、と、思った。
そうだ――俺はもしかしたら、母を犯したかったのかもしれない。

旦那である親友とは、もうながいつきあいだった。
書斎の人である親友と、アウトドア派の俺とでは、住んでいる世界が違ったけれど、
それでも仲の良いことに、なんの差し障りもなかった。
むしろ、違うからこそ良かったのかもしれないし、いまでも良いと思っている。

なにも知らない善良な男の妻を寝取るのは、少しばかり心苦しかった。
なん度も想い切ろうと思ったけれど、奥さんを見るたびに想いは募り、もうどうにもならなかった。
俺は本来、女に対して臆病なほうではなかった。(そのへんは親友は正反対だった)
彼が結婚したのに俺がまだ独り身でいるのは、たんにいろんな女を愉しみたかったから。
俺がアウトドア派を自称していることを彼は良く知っているけれど、
どんなふうにアウトドア派なのかまでは、まったく知っていなかった。
それで俺は、この夫婦をドライブへと連れ出した。

奥さんは、空色のブラウスに緑のスカート。
爽やかないでたちだったが、アウトドアにはそぐわない服装だった。
この服を着た彼女を、およそ似つかわしくない草むらの中で泥まみれにする想像で。
俺はちょっとだけ、胸を痛めた。
奥さんを愛しているらしい親友に対しても、胸を痛めた。
それでいながら、奥さんをひと目見たとき後戻りできないと考えた。
ほんとうは、後戻り「できない」ではなく、「しない」に過ぎなかったのだけれども。

惨劇?は、ごく短時間で済んだ。
「俺は奥さんに恋をした。悪いがちょっとだけこらえてくれ」
俺は親友をふり返ると手短かにそういって、みぞおちに一発ぶち込んだ。
ついでに唇が切れる程度のパンチを一発お見舞いして、彼を草むらのなかに沈めた。
つぎに草むらに沈むのは、奥さんの番だった。
あっと叫んだ奥さんは、立派なことに、殴り倒された夫のほうへと駆け寄ろうとした。
けれども俺の魂はそのときにはもう、獣の魂と入れ替わってしまっていた。
手足をばたつかせて暴れる奥さんを抑えつけて、想いを遂げてしまったとき。
親友は恨めしそうに俺を睨んでいたけれど、
不覚にも射精をしてしまった痕が股間にしみ込んでしまっているのを、俺はしっかりと見届けていた。
脅かして黙らせる手は、いくらもあった。
けれども俺は、いちばん口走りそうにない言葉を、親友に向かって口走っていた。
――すまないが、もう少しだけ、目をつぶっていてくれ。
俺は奥さんをもう一度犯し、そのいちぶしじゅうを彼は、手出しもせずに見つめつづけていた。

俺が奥さんを放すと、奥さんは目を伏せて、旦那の後ろに隠れた。
もっともな振る舞いだった。
まだセックスに狎れていない新妻の反応はぎこちなかったけれど、
じゅうぶんに相性が良いらしいことを、お互いの身体で確かめ合ってしまっていた。
でも、それとこれとは別だった。
俺は彼女を、じゅうぶん過ぎるほど、怯えさせてしまったのだから。
――きょうはこれくらいで・・・
妻よりもひと足早く我を取り戻した親友は、俺たちふたりの間に立って、そういった。
お互いを取りなすような穏やかな口調だった。
きっと、そうでも言うしかなかったのだろうけれど。
俺は救われたような気になった。
いつもの趣味で、服を破ってしまった奥さんが、まだ恨めしそうな目で俺を見る。
俺はとっさに、できるだけ彼女をこれ以上傷つけないよう言葉を選んで、ふたりを家の玄関まで送ると約束をした。

だまって車から降りていったふたりの後ろ姿を胸にハンドルを握る俺は、
身体の満足を忘れてしまうほどのかなりの後悔を覚えた。
いままでいろんな女とセックスをした。
そのなかには人妻も、結婚を控えた女もいたけれど、きょうのような後悔はなかった。
訴えられても仕方がないと思った。
けれども最悪のことは回避できるだろうとなんとなく思えたのは、
親友の人となりをよく心得ていたからなのか、
それともたんに俺がしたたか者である証しに過ぎなかったのか。
親友は穏やかだが、決して意気地なしではなかった。
意気地なしではなかったけれど、穏やかに事を収めるすべをよく心得ていた。

親友と奥さんが連れだって、ふたたび俺の前に姿をみせたのは、翌週末のことだった。
来てくれる・・・ということは、月曜の夜の電話で親友から聞かされた。
どちらかというと、受話器の背後に気遣いをするような固い声色に、
車を降りた後の夫婦がどういう修羅場を演じたのだろうか?と悪い想像だけが先に立った。
約束どおり二人が家に来たときには、小躍りするほど嬉しかった。
なにしろ、惚れた女が目のまえにいるのだから。
奥さんはいった。
わたしは主人だけのために生きます。だから、貴男とは結婚できません。

いったいどこまで夫婦で話し合ったのだろうか?
たった一度犯されただけの間柄の男のために、夫と離婚する女はそうはいない。
妻としての務めが果たせなかった・・・とか、そんな想いを抱きそうなくらいに真面目なのだろう。
奥さんの真面目さと、かりそめにも結婚まで考えてくれたこととが、素直に嬉しかった。
俺は真面目な女が好きなのだ。
その真面目な女(ひと)に、俺はこうも言わせてしまった。
――主人も愉しめるように抱いてくれるのなら・・・貴男に抱かれてもいい。
本来は、夫の前でほかの男にそんな科白を吐ける女ではなかったはず。
俺がこの女(ひと)のなにかを、塗り替えてしまったのか。
せめてもの礼儀を示そうと、俺は彼女の手を取って、王子が王女にするように、
手の甲に接吻をした。
彼女は意外なくらい優雅にそれを受けてくれて、小声で「ありがとう」と言ってくれた。

それでもこの女(ひと)が、自分らしさを失くしていないことを、俺は数分以内に思い知る。
「いけません!なにをなさるんです!?」
「あなたは・・・あなたは、無作法ですっ!」
「し・・・失礼なっ!」
奥さんはあくまでも気丈に頑張り、あくまでも女の操を守り抜こうとした。
突っ張る腕をへし折って、
抗ううなじを引き寄せて、
こぎれいなワンピースを引き裂いて、
ストッキングをふしだらにずり降ろして、
俺は親友の目のまえで、その愛妻を犯していった。

激しい身じろぎに衣擦れを身体のあちこちに作りながら、
きちんとセットした髪を振り乱しながら、
歯茎を舌で拭われながら、
たくし上げられたワンピースの奥深くを、辱め抜かれていった――

夫を愉しませるため。
そんなふうに割り切った女は、
「主人に抱かれるつもりで貴男に抱かれる」という思い込みを満面に泛べていたが、
やがて互いの身体の相性の良さを否応なく思い出さされて、
夫の前で自分のほうから、腰を激しく振り始めていた。
――すべてあなたのせいなのよ。
声で言わずとも、迎え入れた膣がそう呻いていた。
――わかっているとも。
俺は激しい射精で、女の非難を塗り消していった。

親友の目が、俺に訴えた。
――わたしの妻も、ほかの女と同じようにあしらうのか?
俺の息遣いが、彼に応えた。
――違うね、本気で惚れたんだ。
親友の目が、また注がれた。
――彼女と結婚したいのか?
俺の息遣いが、また応えた。
――違うね、彼女の意思を尊重して、きみの妻のまま犯しつづけるんだ。
親友の目が、なお追ってきた。
――ぼくたちは、共存できるというのか?
俺の息遣いが、さらに応えた。
――それがきみの望みでもあるんだろう?
親友の目に、歓びの色がよぎった。
――そういうことなら・・・妻を愛し抜いてくれ。夫としてお願いする。
俺の息遣いが、なお荒くなる。
――よろこんで、そうさせてもらうとも。
深く深く沈み込んだ一物を受け止めかねて、俺の下で組み敷かれた女(ひと)が、切なげなうめき声を洩らしていた。


結婚は、しなくちゃダメですよ。私が信用できる娘さんを紹介するから。
あなたみたいな立派なモノをお持ちの殿方が独身でいらしたら、周りの人たちが困りますから。
おすすめの子がいるの。逢ってみない?
そういって奥さんが紹介してくれたのは――奥さんの妹だった。

あたしといっしょで、堅物なの。
だから、さいしょはきちんとお付き合いしてみて。
いきなりドライブに誘って犯したりしたら、ダメよ。
そういうと彼女は、イタズラっぽくフフッと笑う。
結婚しても私のことが忘れられなかったら、いつでもいらしてね。
主人といっしょに、待っていますから――

言葉と振る舞い。

2018年08月06日(Mon) 06:53:22

親友に、妻同伴でドライブに誘われて、
だれもいない草むらのなかで妻の貞操をプレゼントする羽目になったあと。
わたしたちは意外にも、円満な交際をつづけている。

毎週週末になると、わたしたち夫婦は連れだって、彼の許へと訪れる。
その日の彼の気分によって、ドライブになったり屋内でのプレイになったりするけれども、
どちらの場合でも必ず、彼はわたしのまえで妻を襲って、服をびりびりに引き裂いてゆく。
妻は彼のことを罵り、目いっぱい抗い、わたしに助けを求めながらも、
さいごは力づくで抱きすくめられ、犯されてゆく。
「ひどい!なんてことなさるの!?」
「だめ、ダメ、ダメッ!・・・」
「あなた、あなたあっ。助けてぇ・・・っ」

最後のひと言は、ぼくのリクエスト。
「そう言われると昂奮する?」って訊かれ、思わず強く頷いてしまった。
「正直でよろしい」
妻はいつものように、フフッと笑った。

いちどモノにされてしまうと。
妻の態度が少しだけ変わる。
それまではわたしだけの貞淑な妻として振る舞って。
女の操をひたすら守り抜こうと努めるのだが。
股間の一物を突きさされてしまうと、「アアーッ!」とひと声叫んで、そこから先は娼婦になる。
娼婦になりながらも、男を罵ることはやめようとしない。
「なんて無作法な!主人の前なのにッ!」
「貴方、視ないで、視ちゃダメッ!」
「く・・・悔しい・・・悔しいッ!」
悶え、呻き、歯がみをしながらも。
妻の股間は相手を受け容れ、応えはじめている。
強引な上下動に支配されながら、
そのうち自らも積極的に腰を振って。
スカートの奥にくり返し突き入れられる一物を、みずから咥え込んでゆく。
息遣いも荒く、大汗を掻きながら、妻は目の前の夫を裏切って、快楽のるつぼへと引きずり込まれてゆくのだった。

言葉で罵りながら、身体で応える。
妻はふたりの男に、同時に礼儀を尽くそうとしている。

来週の予定。

2018年08月06日(Mon) 06:43:01

さいしょのドライブの後、帰宅そうそう妻はいった。
「来週、行くつもりなんでしょ?」
え・・・?問い返そうとするわたしの機先を制するように、妻はいった。
「貴方も、しっかり愉しんでいたみたいだし」
ズボンのなかで昂り過ぎてしまった痕跡に妻はチラと目をやると、なにも気づかなかった顔をして、
「そういうの、恥ずかしがることないから。あのひと、貴方の親友なんでしょ」
そう言い捨てると、妻はさっと髪をひるがえして、そそくさと浴室に向かった。

男まさりな気性の妻だった。
もしも浴室で1人になってそこで泣いたとしても、涙をシャワーできれいさっぱり洗い流すはず。
そのあとは、なにごとも起こらなかった顔をして、いつものように台所に立つのだろう。


いつもどおりにお互い振る舞った夕食のあと、台所を片づけ終わってリビングに戻って来た妻はいった。
「よけいなことは言いっこなし。彼はきちんとした人だとか、守れなくて済まなかったとか、聞きたくない」
尖った口調と怒り顔とをおさめると、彼女はわたしをまっすぐに見て、またいった。
「来週行くの、気が進まない?気が進む?」
「気が進む」のほうに黙って頷くわたしに、妻はなおもいった。
「男らしくないなー。負けを認めなさい負けを。自分の考えをちゃんと口に出して言ってみて」
わたしはこたえた。

来週末――きみが彼に襲われるところを、もういちど見たい。

妻は一瞬目を丸くし、肩をこわばらせたけれど。
すべてをのみ込むように頷くと、いった。
「それでいいわ。あたしも愉しむから」
お茶淹れるわね・・・そういって妻が、髪を揺らして起ちあがるのといっしょに、わたしもトイレに起った。
股間の昂ぶりが収まらなくて。
重症ね・・・心のなかで妻が、フフッと薄笑いする。
このひと、女の操をなんだと思っているのかしら。
いたってノーマルな妻のことだから、きっとそうも言うだろう。
けれどももっと間違いなく、言われそうな囁きがある。

貴方のそういうところ、結婚するころからなんとなくわかっていたの。

気に入ったところ。

2018年08月06日(Mon) 06:20:41

私が彼を気に入った理由(わけ)・・・?
そんなことが気になるの?
妻は意外そうにわたしを見て、「そうねぇ・・・」と頬づえを突きながらちょっとのあいだ考えた。

まずね、さいしょのとき。
貴方が「きょうはこれくらいで」って言ったとき、素直に収めたでしょ?
止め処がなくなる人だったら良くないなあって思ったの。

それからね、二度目のとき。
私が貴方のためだけに生きるって言ったとき、手の甲にキスしてくれたでしょ?
この人、私のことをレディとして扱う気なんだなって思ったわ。

それとね、いまだから言うけれど・・・
さいしょに力づくでされちゃったとき、セックスそのものは貴方よりも上手だったから。

妻はわたしの反応を愉しむように意地わるそうな目をして、フフッと笑った。
どこまでが挑発?どこまでが本音?

そういえば、妻が煙草をくゆらすようになったのは、彼から吸わされてからのことだった。

だれのため?

2018年08月06日(Mon) 05:58:20

アウトドア派を自認する親友に誘われて、妻を伴ってドライブを楽しんだ。
見返りに、妻の肉体を愉しまれてしまうなどとは、つゆ知らず。

犯された後の妻は、目を伏せて、服の裂け目を気にかけながら、わたしの後ろに隠れるようにまわり込んだ。
嫌われちゃったかな?
親友は、ちょっと気づかわし気にわたしと妻とを等分に見比べた。
きょうは、このあたりで・・・
わたしがそういうと、親友は意外に素直に応じてくれた。
帰りは玄関まで、ぼくの車で送ります。
服の裂け目をしきりに気にかけている様子の妻を見ながら、彼はいった。
でも、きょうみたいなチャンス、良かったらまた作ってくれないかな?
彼の目線は、わたしのことを通り越して、まっすぐ妻へと向けられていた。
妻は彼の目線を避けるようにうつむいたまま、かたくなな声でこたえた。
主人と話してから決めます。
小さいけれど、きっぱりとした口調だった。「私の夫はあくまでこのひとですから」と言いたげな目つきをしていた。

翌週の週末。
わたしたち夫婦は、彼の家を訪れた。
開口一番、妻はいった。
私は、このひとのために生きますから。だから――貴男とは結婚できません。
でも、このひとったら・・・変態なのよね?
意地悪そうにわたしをふり返る妻の目は、笑っていた。
このひとも愉しめるように抱いてくれるなら――貴男に抱かれてもいい。
男に注がれる上目遣いの目線に、かすかな媚びを含んでいるのを、わたしは見逃さなかった。


きょうはインドアだったわね。
彼の車の助手席に腰かけた妻は、わたしのほうをかえりみて、イタズラっぽく笑った。
身に着けた花柄のワンピースはみごとなまでに引き裂かれ、豊かなおっぱいがまる見えになっている。
車で玄関まで送ってくれるという彼の言を信じて、思うさま破らせたのだ。
屋外レ〇プに長けた彼にとって、襲ったご婦人の服を引き裂くのは、むしろ礼儀の一部になっているらしい。
まったくもってけしからぬ礼儀作法ではあったけれど。

インドアでも、愉しんでもらえたかしら?
傍らの男を上目づかいで見る妻の薄い唇が、媚びるように笑った。
来週はドライブにしましょう。そういう彼に、
明日でもいいわよ?と、応える妻。
そういえば先週は、わたしと並んで後部座席に座っていたっけな。
わたしは1人の後部座席でそんなことを薄ぼんやりと思っていた。


抱かれる前に、妻は男にいった。
それと、先週のストッキング、返してください!
妻は口をとがらせて男に主張した。
こと果てたのち、放心状態になっていた妻の脚からストッキングを引き抜いて、ポケットにねじ込んだのだ。
彼は、ストッキングフェチだった。
きっとコレクションに加えるんだろうな・・・わたしは淡々と思っていたが、
妻は引き裂かれ汚されたストッキングが他の男の手許にあるのが我慢ならなかったのだ。
男はいった。
あれは戦利品です。
妻は不平そうに鼻を鳴らしたが、もうそれ以上なにも言わなかった。

助手席の妻は、ノーストッキングだった。
だって、男のために、またもやせしめられてしまったから。

あなた~、大変よ~。奥さんのお洋服代とストッキング代、がんばっていっぱい稼いでね~。
妻が内助の功にいっそう精を出しはじめたのは、それからのことだった。

【小話】アウトドア派

2018年08月06日(Mon) 04:13:19

その親友は昔から、口ぐせのように言っていた。
俺、アウトドア派だから。
インドア派のわたしは彼と外で行動することはなかったが、
お互いそんなことでも、仲の良さは変わらなかった。

わたしが結婚してすぐのころ。
俺、アウトドア派だから。こんど、奥さん連れてドライブに行かないか?
明るい性格の彼だったから、見合い結婚の妻は乗り気だった。
わたしもたまには外もいいかなと思った。
ふたりはよろこんで、彼の誘いに応じた。

親友がアウトドア派だということを、つくづく思い知った。
彼はもっぱら外で、女性を襲うのが好みだった。

それ以来。
わたしも妻もアウトドア派に転向して、
週末の彼とのドライブを、楽しみにするようになっていた。

【小話】男の看護婦

2018年08月06日(Mon) 04:07:18

看護婦募集のポスターを見て、その小さな医院を訪れた。
男だけれど、応募して良いかと訊いてみた。
男だけれど、白のストッキングが穿きたいのだと。

先生は言った。
うちが募集しているのは看護婦です。
たとえ男性でも、女性のナース服を着て、白のストッキングを穿いていただきます。
着用するストッキングは薄地のものにかぎるので、すね毛はきれいにしていただきます。

看護婦が増えてから、医院は患者が増えて繁盛した。
みんな、男の看護婦が目あてだった。
医院が繁盛したのは、わたしが働きものだからだと思っている。
夜も看護婦の服を着て、患者ではない来院者の応対をしているのだから。

【小話】女医さん

2018年08月06日(Mon) 04:05:05

都会から、女医さんがやって来て村に棲みついた。
評判の良い女医さんだった。

さっそく、村の男衆が夜這いをかけた。
翌朝、ほかのものが男に尋ねると、
少し妙な顔をしていたが「良いよ」とこたえた。
つぎの夜は別の男衆が夜這いをかけた。
そのつぎの夜も、また別の男衆が。
評判は上々だったが、みんな心持ち妙な顔をして語るのだった。

昼間には女医さんは涼しい顔をして診療をつづけ、
夜には黙って男衆の来訪を受け容れた。
だれもが悦んで患者になり、だれもが悦んで夜這いをかけた。
女医さんは、男だった。