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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻と母親の血を吸った男たちに、「エエ女にありついた。」と言われた場合。

2018年09月18日(Tue) 05:59:21

吸い取ったばかりの血を、口許からまだしたたり落しながら。
そのごま塩頭の男は、露骨に嬉しげな声をあげた。
「久しぶりに若い女の血にありついた。
 やっぱり若いひとはエエの!
 なんといっても、活きがエエ。匂いがエエ。
 それになによりも――あんたの嫁はエエ身体をしておるの」

吸血鬼の棲む田舎町だった。
それと知りながらも、都会暮らしのできなくなったわたしたち夫婦はその村に移り住んで、
予定通りと言われても仕方のないくらいすんなりと、
妻を襲われ生き血を吸い取られてしまっていた。

襲った女性は、決して死なせないという。
その代わり、女性がセックスを識る身体の持ち主の場合は、例外なく犯されるという。
そのうわさがほんとうだということは、
先に襲われて昏倒したわたし自身が、尻もちをついたまま見届ける羽目になっていた。

「ご主人、悪く思わんでくれ。
 わしらはこういうたしなみのないモンぢゃから、
 モノにしたおなごのことは、なんでもかんでも欲しがってしまうのぢゃから」
男の言いぐさは、もちろんなんの慰めにもなっていなかったけれど。
いちど股間に受け容れてしまった逸物の名残りを忘れかねた妻は、
わたしのかたわらで恥ずかしそうに寄り添いながらも、
まんざらでもない顔つきになっていた。
そしてその翌日から、
吸血鬼の誘いを受けた妻が断りかねて、小ぎれいに着替えていそいそと出かけてゆくのを、
車で送り迎えするようになっていた。

両親が村までわたしたちの様子を見に来たのは、それからひと月後のことだった。
こういう村だから来ないほうが良い・・・と、たしかに言ったはずなのだが、
ふたりともわたしの忠告を聞き流してしまったのだろうか。
果たして――かつて評判の美人だった母は、吸血鬼の目に留まってしまう。
五十代半ばになりながらも、母の容色はまだ衰えていなかった。
相手の吸血鬼は、妻の愛人となった男の兄だった。

母がどんな経緯でモノにされて、父がどんな経緯で納得させられてしまったのか、
その場に居合わせなくてもおおよその察しはついた。
夕方出かけていったふたりは深夜まで戻らず、
足音を忍ばせてわたしたちの家に戻って来ると、夕食も取らずに階上の寝室へと向かっていった。
階段を昇る母の後ろ姿だけは目に入ったが、
真っ白なロングスカートのお尻には泥が撥ねていて、
肌色のストッキングは見る影もなく破けていた。
視てはいけないものを視てしまったわたしは、
妻に手を引かれるままに足音を消してその場を立ち去り、
「視なかったことにするのよ、私のときみたいに」
と囁く妻に、意味もなく頷き返していた。

永年連れ添った妻をモノにした男は、父に言ったそうだ。
「エエ女ぢゃ、久しぶりにエエ女の生き血にありついた。
 落ち着いた味わいの、熟れた血ぢゃ。
 それに、あんたの嫁は身体もエエの・・・」

それからは。
嫁姑と連れだって、小ぎれいに装って出かけて行った。
男ふたりは家に残って、
村はずれの納屋に連れ込まれて、いけないことをされている刻限に、
黙々とコーヒーを飲んだり将棋を打ったりしていたけれど、
そのうちにどちらから言い出すともなく、妻たちのあとを追って家を出て、
お互い別々のところから、自分の妻がどのような目に遭わされているのかを、気づかうようになっていた。

都会妻が納屋で辱められるシーンを視るのは、
屈辱でも拷問でもなくて、むしろ特権なのだとわかり始めるのに、さして時間はかからなかった。

近親婚の多い村では、ほかの血は貴重だという。
他所の女が来るとてんでに手を出してはらませて、生れた子供は村の子供としてたいせつに育てるという。
その年のうちに、ふたりの都会妻は妊娠して、
父には恥掻きっ子と初孫が、
わたしには齢の離れたきょうだいと初めての子供ができたのだった。


あとがき
自分の妻や母親を襲った男に、「エエ女にありついた♪」と言われたときには、
いったいどんな顔をして応対するのが正しい礼儀なのでしょうか?
とくに配偶者や母親がまんざらではないという顔つきをしていて、
今後も関係が継続していくと見込まれるときには、慎重に配慮する必要がありそうですね。^^

ねん挫。

2018年09月18日(Tue) 05:32:02

広い校庭のなか。
ふたつの人影が、全速力で走っている。
さきを走るのは、制服姿の少女。
あとから追いかけるのは、黒衣の吸血鬼。
(このブログのなかでは、見慣れた光景である)

吸血鬼は少女の血を吸おうとし、
少女はそうはさせまいと懸命に走っているのだ。

そのうち少女のほうがあっ!と声をあげ、
その場にまろび伏した。
足を痛めたらしく、足首を抑えて痛がっている。
吸血鬼はそのまま少女に駆け寄ると、ひと言「大丈夫か」と声をかけ、
少女の足許にかがみ込むと、やおら黒タイツを穿いた脚に咬みついた。

キャッ!
少女はさらに声をあげ、抗おうとしたが、ねん挫をしてしまった激痛に耐えかねて、抵抗の力を喪った。
卑怯だわっ!卑怯だわっ!
少女は血を吸い取られながらも、切れ切れな悲鳴交じりの叫び声で、相手を非難しつづけていた。

ひねった足首を丁寧にほぐし、入念にようすをみると、吸血鬼は言った。
「とりあえず応急処置はしたけれど、だいぶひどくひねっているから、医者に診てもらうしかない」
咬んだ傷口から少女の血液に織り交ざった毒液は、痛み止めの役目を果たしていた。
それでも少女は恨みがましく吸血鬼をにらみつけていたけれど、
自分に背中を向ける吸血鬼に大人しく負ぶさって、素直に背負われていった。
「自分の血を吸ったやつにおんぶするなんて!」と、奇妙な怒りかたをしながら。

そのあいだ。
校庭を見おろす位置にある職員室からは、だれも出てはこなかった。
無責任な学校!といいたいところだが、
この学校は吸血鬼に開放されており、生徒はもちろん女性教師の血まで吸い放題となっていたのだ。

翌日。
放課後の行程を、おなじ少女が軽くびっこを引きながら、重たい鞄を下げて歩いていた。
クラブ活動を終えて、家路につくところだった。
目のまえを黒衣の男が遮ると、少女は恨めしそうな目で相手をにらんだ。
「大丈夫か」
気づかう相手に、「どうにか歩ける」とぶっきらぼうに少女が応えると、
差し伸べられた手に重たい鞄を預けていった。

すこし距離を置いてとぼとぼと歩くふたつの人影が、
少女の家の間近にある公園のまえで立ち止まり、
どちらからともなく、中へと入っていった。
「少し休む」
少女はベンチに腰掛け、男はそのベンチに鞄を置いて、さりげなく距離を取った。

きのう黒タイツを破かれた少女は、真っ白なハイソックスを履いていた。
その足許をじっと見下ろしながら、少女は吸血鬼のほうは振り向かずに言った。
「きのうのお礼なんか、言わないからね」
それはそうだ。
そもそも吸血鬼に追いかけられなかったら、しないで済んだねん挫だもの。
「足、軽く済んで良かったな」
ハイソックスに隠れた足首に巻かれた包帯の薄さに目配りしながら、吸血鬼はいった。
「ウン、軽く済んだ」
少女は足許を見おろしながら、いった。
それからもうひと言、ためらいながらつけ加えた。
吸血鬼のほうには、目もくれないで。
「脚、咬んでもいいよ」

吸血私娼窟~息子たち~

2018年09月08日(Sat) 06:22:26

ぼくのママを抱いたんだろう?
ツヨシの眼差しはまっすぐだった。
洋司は無言で肯いた。
どうだった?
よかったよ
つい正直に応えてしまってから、しまったと思った。
ああやっぱり・・・と、ツヨシはかなり無念そうな顔をしたから。

きみは自分のママのことを抱かないの?
ツヨシは訊いた。
ボク、視ているだけでじゅうぶんだよ。
ふーん、そんなものなのかな。
感じ方は、人それぞれじゃない?
それはそうだよね。
これからも、ぼくのママを抱くつもりなの?
ツヨシの目つきは、せつじつだった。
どう応えたものかと、洋司はちょっぴり迷った。
迷ったあげく、訊いてしまった。
ツヨシのパパにも迷惑だよね。
洋司の問いは、ちょっとした反撃になった。
ツヨシは洋司から目をそらして、口ごもりながら、いった。
あの人は、ママのことを吸血鬼に譲った人だから。。
そういう言い方は良くないよ。
そうだね、ところで、ぼくがきみのママを抱いたって言ったら、怒られる?
こんどはツヨシの言葉が、洋司への反撃になっていた。
お互い、対抗意識を自覚しないまま、やり取りを深めていた。
ウウン、そんなことないよ。で、どうだったの?
洋司はつとめて事務的に応えた。
ウン、よかった。
ツヨシの答えは、実感がこもっていた。
なら、よかった。
洋司の相づちにも、共感が込められていた。
あっさりしてるんだね。
たいせつな母さんを犯されたんだ。せめて悦んでもらわなくっちゃ。
ツヨシはちょっと考え込んでから、いった。
そういう考え方もあるんだね。勉強になったよ。
勉強って・・・
洋司は笑いかけたが、ツヨシのしんけんな目線に打たれて、それ以上の笑いを引っ込めた。
そしてただ、「視ているだけっていうのも、案外いいよ」とだけ、いった。
そういうものなんだね。
ツヨシは案外、素直だった。
こんど、ぼくもやってみるよ。ガマンできるかどうかわからないけど・・・
そうだね、おススメだから。
そうなんだ。おススメなんだ。
ふたりは初めて、笑いあった。

こんど、うちへおいでよ。うちに来て、ぼくの前でママのことを誘惑してみてよ。
ママが堕ちたら、抱いてもいいから――遠慮しなくていいからさ。
こんどは、視ているだけにするから――

ツヨシの顔を見て、洋司は無邪気に笑い返した。
ウン、ぜひ、行くね。
そして、忘れずにつけ加えた。

ガマンしなくても、いいからね。


9月3日構想 8日脱稿

あとがき
妄想が複数からまり合うと、お互い邪魔し合うわけではないのですが、どれもこれもモノにならなくなって困ります。
ひとつひとつの妄想は、お話にするほどのパワーがないのかもしれません。
ただ、ほんのささいな表現とか言葉とかしぐさとかが、わたしのことを魅了してやまないから、そこから動けなくなるのです。
いまがちょうど、そういうときなのかも。

悩み。

2018年09月06日(Thu) 08:00:53

ぼくには吸血鬼の幼馴染がいます。
中学生のころから、血を吸わるようになって、
社会人になったいまでも時々家まで訪ねていっては血を分けてあげている間柄です。

お互い適齢期になりましたが、彼にはお嫁さんになってくれる女性がいません。
彼は処女の生き血を吸いたがっているのですが、
血を吸わせてくれる若い女性がなかなか見つからないのです。
一方で、ぼくには彼女ができて、来年の春には結婚の予定です。
それで、処女の生き血を欲しがっている彼のために、自分の彼女を紹介してあげることにしました。

彼女の名前はキヨミさん、22歳のOLです。
ぼくはキヨミさんに事情を話して、親友の彼に処女の生き血を吸わせてあげたいと頼みました。
彼女はこころよく引き受けてくれて、3人で会うことになりました。
未来の妻になる彼女を連れて、親友の家に遊びに行ったのです。

彼はぼくの彼女の首すじを咬むのを遠慮たので、脚から血を吸うことになりました。
ストッキングが破れてしまうことを気にする彼女に、それが彼の好みだと告げると、
それなら仕方ないわね、と納得してくれました。
彼がキヨミさんの足許に唇を吸いつけて、キヨミさんの履いているストッキングを破りながら吸血する光景を、
ぼくはなぜかゾクゾク昂奮を感じながら見守ってしまいました。

キヨミさんは、時々なら彼と逢っても良いと言ってくれました。
ストッキングを破かれた以外は、とても紳士的だったとも言いました。
ただしぼくが必ず同席するという条件付きでした。
彼はもちろん、ぼくもキヨミさんの好意に感謝しました。

けれどもぼくは、キヨミさんにたいせつなことをひとつ、告げていません。
彼はセックス経験のあるご婦人から吸血するときには、必ず性的関係を結ぶ習性をもっているのです。
ぼくとキヨミさんとの結婚を、彼は心から祝ってくれています。
けれども、これからも彼をキヨミさんと逢わせると、いったいどういうことになってしまうのでしょうか。

キヨミさんは、ぼくの同席が絶対条件だといっています。
ぼくは彼とキヨミさんがどんなふうになってしまうのか、さいごまで見届けなければならない義務を負ことになりそうです・・・

夫婦の生き血と地酒

2018年09月05日(Wed) 07:30:12

あー、地酒が旨いや。
引っ越してきたばかりの田舎町の夜、そんなのん気なことをほざいていたら。
せっかくだから、嫁さんも呼んだら?
と誘いをかけてきたのは、馴染みになったばかりの白髪頭の村の衆。
さっそく妻を呼び寄せた。
妻も呑ん兵衛だったから。

一時間後。
あー、あんたらの血は旨いや。
ぶっ倒れた俺たち夫婦を見おろしながら、そんなのん気なことをほざいていた。
この村が吸血鬼の棲む村だと初めて知ったときには、もう遅かった。
男が俺の首すじに埋めていた牙を引き抜くと、
吸い取ったばかりの血がたらたらと垂れた。
それからやはり首すじから血を流している妻のほうへと這い寄って、
淡いグリーンのスカートから覗いたふくらはぎに、ぬるりと舌を這わせていった。
肌色のストッキングを波立てながら、ぱりぱりと音を立てて咬み破って、
キウキウと音を立てて、妻の生き血を吸い取った。

 すまんのう。しきたりでの。
 初めてモノにした人妻さんとは、仲良くなることになっとるんじゃ。
 あんたの前じゃ気の毒じゃから、向こうに連れてってからするでの。
男は申し訳なさそうにそういいながら、
傍らで大の字にぶっ倒れている妻の腕を引っ張って、
半開きのふすまの向こうへと、さも重たそうに、引きずっていった。
全身から血を抜かれた俺は、身じろぎひとつできないままに、
処刑場に引かれてゆく妻の足許を見送っていた。

ようやく血の気が戻って這い寄った、ふすまの向こう。
妻はとっくによみがえって、素肌をピンク色に染めて、男とまぐわい続けていた。
はあっ、はあっ、はあっ・・・
せぃ、せぃ、せぃ・・・
髪を揺らし、腰を振り、目もとを蒼白く輝かせながら。
さいしょは強いられていたはずのセックスを、恥を忘れて歓びはじめていた。

朝になって、ふすまの向こうから男に伴われて現れた妻は、
はだけたブラウスを気にかけながらも、男のほうをふり返り、
ぱしぃん!と一発、平手打ちをくれた。
 帰りましょ、あなた。
女はそういって俺を引き立てるようにして起こして、そそくさとパンプスにつま先を突っ込んでいった。

それ以来。
週末には男の家に夫婦で招ばれて、酒を酌み交わす日常が始まった。
酔いつぶれたぶっ倒れた俺の目のまえをはばかって、
妻はふすまの向こうへと引きずられていって、
俺はそろそろと這い寄って、妻が地元の男と仲良くなるのを、見物して愉しんでいた。
別れぎわにはいつも、妻は男の頬ぺたに平手打ちを食わせて、
 帰りましょ、あなた。
といって、俺の手を引いて家路をたどるのだった。

妻は絶対、怒っていない。
その証拠に、男の招きを受けると必ず、小ぎれいな服に着替えて、
肌色、黒、ねずみ色と、色とりどりのパンストを脚に通しすのだった。
――男の舌を愉しませるために。

あんたら夫婦の血は、やっぱり旨い。
男は今夜もほくそ笑んで、俺に囁く。
あんたの血はマゾの味がするな。そこを見込んで誘ったのじゃよ――と。

吸血私娼窟~幼馴染の母親~その後

2018年09月03日(Mon) 05:23:00

洋司が噛んだのとおなじチューイングガムは、苦かった。
身づくろいをしている母親、美代子の傍らで。
ツヨシはかたくなな顔つきで、ひたすらガムを噛んでいた。
「洋司のママも、きょうだったよね」
息子の言いぐさに「さあどうだったかしら」と美代子は受け流したけれど、
顔にはありありと「そのとおり」と、書かれてあった。
「あなたも、ここに来る権利あるんだからね」
ニッと笑った母親から目を背けて、ツヨシは黙って母の部屋から出ていった。
「お次のかた――」
息子に聞こえるようにあげた声には、事務的な響きがあった。

きょうは、知ってるひとばかり来るんだから。
夫の腕のなか、美代子は軽く拗ねてみせる。
診療を終えてまっすぐここに来たのだろう。
4時半という時計の針が、美代子にそれを教えてくれている。
「4時終了なんて怠け過ぎじゃない?」
そうたしなめる若い妻に「親父の代からの方針なんだ」と答えたのは、もう十年以上も前のことだった。
「ほかにだれが来たの?」
そう訊く夫に憶えきれないほど来たわよといって、美代子は元同僚の医師の名前をひとりだけ告げた。
「あいつか・・・」
夫は苦い顔をしてすこしのあいだ黙りこくったが、
「でもあいつも、奈穂さんをだれかに奪られたってことだよな?」と、妻に同意を求めた。
「なによそんなこと」
お互い様だっていうことで自分を納得させようとする夫を笑い飛ばしながら、
今日はもう一人予約が入っているの、と、彼をドキリとさせるのも忘れなかった。

それはだれ?
問いを重ねる夫を「業務上のヒ・ミ・ツ♪」と受け流した美代子は、
「次の方~♪」
と、夫を無視して声をあげた。
入って来たのは、美代子を初めて犯した吸血鬼だった。
「美代子は元気なようだね」
部屋の隅に夫がいるのを認めた吸血鬼は、すぐに声をかけてきた。
「そのせつは、どうも・・・」
へどもどとわけのわからないあいさつを返す夫に慇懃なお辞儀を返しながら、吸血鬼はいった。
「初めての日にご主人が客として来てくれるというのは、美代子が愛されている証拠だね」
そういうものなのか?と自問する夫を見抜いて、
「だって気になるだろう?」
「エエもちろん」
「でもあなた、もうお時間よ。これがさいごのお客様――今夜は帰らないから、ツヨシと一緒に晩ごはんを済ませてね」
さいごに投げられた所帯じみたひと言が、かえって夫の胸にどす黒くしみた。

夜道を帰りながら夫は思う。
きっとこれからも、妻のこうした振る舞いを許しつづけてしまうのだろうと。
そして、妻と息子との関係も、このまま許しつづけてしまうのだろうと。
今夜は妻を犯した息子と、家で食事を摂る。
きっとお互いに、美代子の帰宅が遅いことさえ話題にもせずに・・・

さっきはさりげなくそうしたけれど。
あとの客に譲った行為――それは妻をほかの男に公然と譲る行為だったのだと初めて気づくと、
夫は独り苦笑して、自分が来た道をもう一度、ふり返った。
闇に包まれた道の彼方、艶めかしい夜が更けてゆくのを見届けるように。

吸血私娼窟~幼馴染の母親~

2018年09月03日(Mon) 05:02:53

アラ、洋司くんじゃないの。ひとり?
声をかけられて振り向くと、通りかかった大きな屋敷の玄関のまえで、美代子がニコニコしてたたずんでいた。
美代子は洋司の親友、ツヨシのお母さんだった。
病院の院長先生の奥さんで、ふくよかな色白の美人。
いつもこぎれいな格好をしていて、洋司はこの親友の母親にひそかに憧れを抱いていた。
もちろんそんなこと、ツヨシにはおくびにも出さなかったけれど。

でも、どうしてこんなところにいるんだろう?
ツヨシの家はここからはだいぶ、離れているはずだ。
変な顔をしている洋司に気がつくと、美代子はいった。
「小母さんね、ここに遊びに来ているの。洋司くんも寄っていかない?」
そういわれて、洋司はとっさにしり込みをした。
見あげると、色付きのガラス窓が周囲の住宅街とは不釣り合いにお洒落で、建物のたたずまいも不自然に洗練されていた。
得体の知れない妖しい雰囲気を、洋司は直感的に感じていた。
「ああ、ここね・・・」
ツヨシのお母さんはちょっと苦笑いをした。
大人の秘密を覗いてしまったような・・・どこかただれた匂いが、彼女の笑みから感じ取られた。
いつも優雅ですこし世間ばなれした美代子小母さんがこんな表情をするのを、洋司は初めて見た。

「知ってるわよね?ここ、私娼窟って呼ばれているのよ。
 あなたはまだ、知らなくても良いか。
 大人の男の人と女の人とが、いけないことをする場所なの。
 でも洋司くんだったらいいわ。
 あなたも、咬まれちゃったんでしょう?」
耳もとに口を寄せて囁く美代子のひそひそ声が、柔らかな呼気となって洋司の耳たぶをくすぐった。
洋司は思わず美代子を見あげた。
美代子の首すじには赤い斑点がふたつ、綺麗に並んでいる。
それは、つい数日前、洋司がつけられたのとおなじものだった。
学校帰りが遅くなった夜8時ころ、洋司は一陣の黒いつむじ風のようなものに巻かれた。
目まいを覚えてその場に尻もちを突くと、つむじ風は人影となって、洋司の首すじを咬んでいた。
うなじに突き刺さる尖った異物が柔らかな皮膚を破り、どろりとほとび出た血潮を吸い取るのを感じたときにはもう、身体じゅうが痺れていた。
30分後。
洋司はふらふらと起ちあがり、家に戻った。
出迎えた洋司の母親は、息子が連れてきた黒い影をけげんそうに見つめた。
一時間後、洋司の家族は全員、生き血を吸い取られていた。

美代子にも、そんなひと刻が訪れたというのだろうか?
くったくなげに笑う白い顔を見つめる洋司の視線に、熱がこもった。
――できれば美代子小母さんのことは、ぼくが咬みたかった。
自分の胸の裡にわいた感情に、逆らうことはできなかった。
目のまえの美代子は、いつものようにこ洒落た洋服姿だった。
清楚な白いカーディガンに淡いピンクのブラウス、ひざ丈のスカートは濃紺で、真っ赤なバラがあしらわれていた。
その花柄のスカートのすそから覗く太ももは、肌の透きとおる黒のストッキングになまめかしく映えていた。
洋司は思わず、ゾクッとした。
美代子はそんな洋司の心中を見抜いたかのように、いった。
「いいのよ、ツヨシには内緒にしてね」
洋司を幼いころから知っている美代子は、子供をあやすように洋司の頭を撫でると、私娼窟の洋館へと彼を誘い入れていた。

良い匂いが部屋じゅうに満ちていた。
不自然なくらい強い芳香に、さいしょはとまどったけれど、すぐに慣れた。
「喉渇いて来たんじゃなくて?」
上目づかいの大きな瞳に、大きく頷いて応えていた。
「たまに母さんが吸わせてくれるけど・・・」
「お腹いっぱいは、無理よね」
長いまつ毛の目許に翳りを帯びて、美代子は同情に満ちた視線を注いでくる。
彼女の白い指がブラウスの胸の釦をひとつ、ふたつと、外していって、
自分から押し拡げた胸元には、ドキッとするような黒いブラジャーの一部が覗く。
洋司の目のまえをどす黒い翳が覆って、彼は美代子を引きずり倒していた。

唇を吸いつけた皮膚のしっとり湿った感覚と、
喉を鳴らして呑み込んだ血液のどろりとした艶めかしさが、
すすけだっていた少年の心を充たした。
喉の渇きが収まるだけで、どれほど人は救われるのだろう?
そう思ったときにはもう、洋司のむき出しの脚に、美代子の黒ストッキングの脚が巻きついていた。
薄地のナイロン生地のさらさらとした感触が、洋司を夢中にさせた――
相手が親友の母親であることも忘れて、洋司は美代子とディープ・キッスを交し合った。

――ここはね、大人の男のひとと女のひととが、いけないことをする場所なの。
美代子は確かに、そういった。
これはいけないことなのか?
女のひとのパンツを脱がせたのも初めてだったし、
こんなに息せき切った口許と唇を合わせたのも初めてだった。
まして、いつも股間の奥にわだかまる感じだったあのどろどろとしたものを、女のひとの股ぐらに注ぎ込むなど、想像さえしていなかった。
美代子は幼な児をあやすように、洋司の頭を撫でつづけていた。

「ここに名前を書いたからね、あなたはもう私の馴染み。
月、水、金の3時から5時まではここにいるから、いつでも来て頂戴ね。
あと、家では習いごとをしていることになっているから、そういうことにしといてね。
それから、くれぐれもツヨシには内緒だからね」
別れぎわ美代子さんは、洋司の頭を撫でながら、チューイングガムをくれた。
洋司はぶっきら棒に黙って美代子に背中を向けたが、
それが照れ隠しなのは美代子にまる見えなのだということは、洋司自身にもよくわかっていた。
「もうこんなところへは来ない」
顔でそう答えたつもりだったけれど、きっと明後日にはここに来てしまうのだ。
ツヨシの顔、明日からまともに見れないな。きょうのことはどうやって押し隠そうか・・・
少年らしいずる賢さに満ちてきた胸の裡こそ恥ずべきなのだと思い直して、
まずは自分に正直になることから始めようと、洋司は改めて思い直した。
洋司の母すらが、この私娼窟に三日にいちどは訪れているのを、
家族のだれよりも先に気づいていた。


洋司を送り出すと美代子は、別人のようなしらっとした顔になって、
自室に使った寝室の奥の扉に向かって声を投げた。
「もういいわよ、出ていらっしゃい。洋司くん帰ったから」
狭いクローゼットの扉がおずおずと開かれて、そこから窮屈そうに抜け出してきたのは、
美代子の息子だった。

――ばかね、ママがほかの男のひとに抱かれているところを視たいだなんて。
そんなもの、視るものじゃないのよ、と、美代子は息子を優しく咎めながらも、
――だれに抱かれれば気が済むの?
と、夫にはとても聞かせられない質問を、ツヨシに向かって投げていた。
そして息子がとてもいいにくそうにしながら洋司の名前を告げるのをきくと、
美代子はふふっと笑っていった。
――そうね、パパのお友だちに抱かれちゃうよりは、ツヨシとしてはそのほうがいいのかな。
洋司くんいい大人になりそうだし・・・と言いかけた母親に、
「そんなこと言わないでいいから」
と口を尖らせながら、これが嫉妬というものなのだと、ツヨシは実感していた。
ママが自宅で吸血鬼に襲われて咬まれるのを目にしたとき、
さきに血を吸われてじゅうたんのうえに転がされていたツヨシは、手も足も出なかった。
いつものようにこぎれいに装ったママが、白髪頭の吸血鬼に抱きすくめられて、
細い眉を逆立てながら血を吸われ、おなじじゅうたんのうえに姿勢を崩してゆく光景が忘れられない。
美代子がたおれこんだのは、ツヨシの手の届かないところだった。
そのまま衣装を着崩れさせながら犯されていったママを見て、
ツヨシは半ズボンの奥が窮屈なくらい逆立つのを感じた。
それは親がつけてくれた名前を裏切る感情だと自覚しながらも、
止め処なく湧きあがる歓びを止めることはできなかった。

辱められる母親を視てそんなふうに感じてしまったことを恥じるツヨシを、
「ママが好きな証拠だから、いけないことではない」
とパパはなだめてくれたけれど、
それはパパ自身の自己弁護だということも、わかってしまっていた。
だってパパはだれよりも真っ先に咬まれていて、
ほかならぬその吸血鬼を家に連れてきた人なのだから。
そう、ママやボクの血を吸わせるために――

もっとも、だからといってツヨシはパパのことが嫌いになったわけではもちろんない。
おなじ性癖をもった男として、毎日のようにやって来る吸血鬼がママと密会を遂げるところをのぞき見して愉しんでしまったのはよくないことだとわかっていたけれど、
パパが優しい夫として、だれよりも美しいママのことを紹介したがった気持ちには、深い共感を感じていたから。
ママを堕落させた吸血鬼は移り気な男で、すぐにちがう獲物を見つけるとこんどはそちらのほうに入りびたりになってしまって、
ママは勧められるままに、街はずれの私娼窟に身をうずめた。

そこでいろんな男のひとに抱かれて女を磨くのだとパパは教えてくれたけれど、
最初の客になるのが見ず知らずのいけ好かない親父などであってはならない、と、ツヨシは強く感じていた。
「だれならいいのかな?」
ツヨシの頑是ない態度に、親たちはどこまでも親身に接してくれた。
夫には聞かせることのできないはずの質問をママはしてくれたし、
妻の口から聞きたくない言葉をパパは穏やかに聞き流してくれた。
かなりながいこと考えて、心の奥のもやもやとしたその向こう側に洋司のことを見出して、
ツヨシは初めてときめきを覚えた。
「洋司だったらいい」
小さな声だったが、その声の響きの強さに、親たちは頷き返してくれていた――

「どうだった?洋司くんとママ、もしかしたらつきあっちゃうかもよ」
美代子は息子からちょっと離れたところで、彼の反応を面白そうに窺っている。
ツヨシのなかにいままで以上のどす黒い感情が、ムラムラと湧きあがった。
「あ!なにするのよッ!」
母親が声をあげたときにはもう、ツヨシは美代子をベッドのうえに抑えつけていた。
片脚脱いだ黒のストッキングの脚をばたつかせながら、
美代子は2人目の客を受け容れる覚悟を決めた。
それが息子であってよかったと、不思議な感情で受け止めていた。


あとがき
たまたまひょんなことから、「私娼窟」という言葉に接し、すぐにこの話のおおすじが湧いたのが、土曜日のことでした。
すぐに描けるな・・・と思いながら、描く時間がとれたのがいまごろです。^^;
思った通りに描けた感じがします。