淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
吸血児童。
2018年11月26日(Mon) 07:57:45
桜井晋也が父に招(よ)ばれてこの村に来たのは、春のことだった。
お前もそろそろ、身を固めないか?いいひとがいるんだが。
勤務先がかわって山奥の田舎に母を連れて引っ越した父と会うのも、ひさしぶりのことだったが、
その誘いを断り切れない事情を、彼は抱えていた。
教師だった彼は、教え子の女子生徒にわいせつ行為をはたらいたかどで、失職していたのだ。
意外にも、相手の女性はまだ未成年だという。
晋也もまだ二十代だから、それほど不自然な年齢差ではないだろう――と、母は取って付けたようにいった。
16歳になったら、結婚は自由だからね。制服を着た女子高生を、おおっぴらに抱けるんだぞ。
父も珍しく、そんな下世話な冗談をいった。
女子高生を抱ける。
晋也のなかで初めて、血が騒いだ。
すっかりその気になっていた。
紹介されたのは、まゆみという少女だった。
白のハイソックスは、いくらなんでも子供っぽ過ぎるだろ。
晋也はそう思ったが、濃紺のセーラー服姿でお見合いの席に現れた少女に、いっぺんに好意を抱いた。
少女は緊張しているらしく、色白の丸顔に大きな瞳をはりつめて、
ほとんど口も利かずに晋也の顔を見つめるばかりだったけれど。
学校で教師として働ける。
残念ながら、小さい子ばかりの学校だったけれど、それ以外の仕事をしたことのない晋也は気が楽だった。
この村の学校はどこも私立だから、オーナーの気に入れば入れるのさ、と、父は訳知り顔にいった。
初めて学校を訪問したとき、校庭の隅に立ち尽くした、瘦せっぽちの少年がこちらをじっと視ているのに、晋也は気づいた。
あの子、さっきから俺を見ている。
そう父に告げると、あの子は吸血鬼だよ、と、父はこともなげに言った。
え?と訊き返すと、父はいった。
ほら、視て御覧。あの子のハイソックス、真っ白なのに赤いシミがついているだろう?
あの子も吸われたばかりなのだよ。
都会から越してきて、ひと晩で家族全員血を吸い取られてしまったんだ。
お前も狙われないように、気をつけなくちゃな。
あの子はあぶないな。
ふつうは目だたないように、
髪を伸ばして首すじの咬み痕を隠したり、
ふくらはぎの傷を色の濃いハイソックスやタイツで隠したりするはずなのに。
わざとわかりやすくしているっていうことは、だれかぼくに血を下さいって言っているのと、同じことなんだよ。
目を合わせちゃだめだぞ。血を吸われたいのなら話は別だけどな。
晋也は慌てて少年から目をそらした。
けれども少年は、晋也が校門を出ていくまで、じっと見つめつづけていた。
彼が、自分の新妻の純潔を狙っているとは、夢にも思わなかった。
先生、ちょっといいですか?
授業が終わるとすぐに、その少年は晋也のほうへとやって来た。
もはや避けようがなかった。
少年は晋也の受け持ちのクラスにいた。
そして授業のあいだ、ずっと晋也を見つめつづけていた。
晋也は必死に目を合わせまいとしたけれど――授業が終わって迫って来た少年と、目を合わせずにはいられなくなった。
凄い目力だと、晋也は思った。
気がつくと、教室にはもう、だれもいなくなっていた。
喉、渇いてるんです。 少年はいった。
そ、そうかい・・・? 晋也は必死に受け答えする。
水でも飲んだら?と言い添えようとしたが、かすれて声にならなかった。
本当は先生、ぼくに血を吸われるの、愉しみにしてたんでしょ?
そ・・・そんなことはない。
少年は白い歯をみせて、ニッと笑った。
いやな笑いかただった。
教室を出ようとする後ろ姿をつかまえられて、ズボンのうえからお尻を噛まれた。
ギャッ!
ひと声叫んだ彼を制するように、噴き出した血を呑み込むゴクゴクという喉鳴りが、耳ざわりに響いた。
まゆみと結婚するんだよね?
遠慮なくそうするといいよ。
村をあげてお祝いしてくれるよ。
エッチな先生、おおっぴらに女子高生を抱けるんだね。
いろんな制服を着せて、愉しむといいよ。
でも、まゆみを最初に犯すのは、ぼくだからね。約束だからね。
全身から力が抜けて足腰立たなくなった晋也の手を取りあげて、無理やりに指をからめて「指切りげんまん」をすると、
少年は「失礼しまーす!」と、いままでにない元気な声を張りあげて、教室を後にした。
すべてを知るのに、時間はかからなかった。
帰宅してみるとあの少年が家にあがり込んでいて、母親の寝室に侵入していた。
邪魔してはいけないよ、と、たしなめる父に断って中を覗くと、
ねずみ色のストッキングを穿いた母親のふくらはぎに、あの少年が咬みついていた。
そういえば父も、へんにさえない顔色をしていた。
夫は妻を守るものだからね。父はあとで晋也にそういった。
少年の欲望を満たすため、父は妻の血液を無償で提供しているのだと、初めて覚った。
お前にもそうしてもらうために、来てもらったんだ。どうやらわが家の人間の血は、彼のお気に召したらしくてね・・・
わいせつ教師の血は、意外にイケるね。
少年は白い目で晋也を見あげた。
先生はまゆみと結婚するんだろ。
もちろんそうすればいいと思うよ。
セーラー服の女子生徒と、おおっぴらにセックスできるんだものね。
でも、まゆみはぼくのものだからね。
まゆみを最初に犯すのもぼくだし、
結婚した後もぼくがその気になったら、先生はまゆみを差し出さなくちゃいけないからね。
指切りげんまん・・・
失血で動きの鈍くなった先生に、少年は小指を差し出した。
晋也は昂ぶりに声を上ずらせて、指切りげんまん、と応じながら、自分から少年の指に自分の指をからめていった。
黒沓下の男。
2018年11月26日(Mon) 07:13:33
ロングホースを履くのは、ビジネスマンのたしなみなのですよ。
男はそういって、きょうもスラックスの下にひざまである丈の長い沓下を履いてくる。
貴男もお好きだとは、嬉しい限りですね。
ふつうはすね毛を見せないために履くものなのですが・・・
足許にかがみ込んでくるみすぼらしい老人のまえ、
折り目正しいスーツ姿が身をかがめて、スラックスをたくし上げた。
ツヤツヤとしたリブタイプのもの。
水玉もようの入ったもの。
しゃれたストライプ柄のもの。
この老人のために、いままでなん足履いてきたことだろう?
老人は彼の足許に唇を吸いつけて、自慢のロングホースを咬み破りながら、血を啜る。
老人は、吸血鬼だった。
都会暮らしが長かった男は、かなり高価なものもたしなんでいたけれど。
劣情もあらわに唇を這わせてくる老吸血鬼のため、すべて気前よく咬み破らせていた。
きょう、彼のために履いてきたのは、ストッキング地の、肌の透けるタイプ。
老人も、男も、もっとも気に入りのタイプだった。
さっきから。
横たわる男の足許にのしかかるようにして。
老吸血鬼は、ふくらはぎを包む薄地のナイロン生地に、舌を這わせつづけている。
なめらかな舌触りに、ひどく満足したらしい。
なん度も舌をヌメらせて、よだれを上塗りしていった。
さっきまで。
老人が自分の妻を犯していたのを、男は察している。
初めて誘い出したときと同じ喪服姿で、妻は老人の誘いに応じていった。
丈の長い漆黒のスカートのすそからのぞく足首を、ふくらはぎを、足の裏まで。
くまなく舐められたうえ、咬み破られていった黒のストッキング。
老人は、犯した人妻が穿いていたのと同じ色の沓下を、その夫が脚に通すことを望んだ。
男は苦笑いしながら、老人の嗜好をかなえていった。
ぱりぱりとかすかな音を立てて、靴下の生地が裂けてゆく。
チクチクと素肌を侵す牙の、痺れるような疼痛に酔いながら、男は軽く歯がみをした。
女房を辱められるのが悔しいのか?
老人が囁いた。
イイエ、と、男はこたえた。
家内の生き血が貴男のお口に合って、嬉しいと思っていますよ。
あんたの血も、なかなかのもんだ。
どうぞ、気の済むままに――
男はしずかにこたえながら、足許に目を落とす。
肌の透ける、なまめかしい光沢を帯びた沓下が、意地汚い唇と牙に、凌辱されてゆくありさまを。
男も目で、愉しみはじめていた――
妻の穿いているストッキングも、こんなふうにあしらっておいでなのですね・・・?
辱められる自分の脚に、妻を凌辱する唇が、想像のなかで重なり合った。
男は股間が勃(た)つのを感じた。
裂かれたブラウスのすき間から、つり紐の切れたブラジャーの胸をチラチラさせながら、帰宅していった妻。
こういう帰り道は危なくて、二次災害もよく起こる村だった。
都会育ちの人妻たちは、女ひでりの吸血鬼のために、夫とともにこの村に招(よ)ばれたのだから。
もっとも、妻に限って帰り道が安全なのも、男はよく心得ている。
老人は村の有力者で、彼が自分のオンリーだと宣言した女に、手を出すものはいなかったから。
妻は毎日、老人と逢っていた。
妻は毎日、夫を裏切りつづけていた。
きちんとした他所いきのスーツを着こなして。
老人のもっとも好む、喪服を身に着けて。
生真面目な妻は、息を詰めて老人の邸のドアを叩き、声を忍ばせて半裸に剥かれた身体をくねらせていた。
貧血で顔色のわるいときにも、妻は出かけていった。
老人の性欲を満たすために。
なるべくなら、主人が出勤した後にしてほしい。そう願ったこともあるけれど。
夫が在宅しているときも、老人の誘いは絶えなかった。
そういうとき、夫はおだやかに妻を送り出し、あの方によろしくと言づけるのを忘れなかった。
そして、妻のあとを尾(つ)けて老人の邸に赴いて、
裂けたブラウスから胸をのぞかせ、伝染を太く走らせたストッキングから脛をのぞかせながら立ち去った後、老人に抱かれた。
先刻犯された妻と同じ色の、黒沓下を履いた脚を、咬ませていった。
あとがき
しばらくぶりに描くと、まとまりのないものになることが多々ありますね。
(^^ゞ
寵愛。
2018年11月18日(Sun) 08:34:52
不思議な街だ、と、俊哉はおもった。
田舎街なのに、どこか洗練されていて、透きとおった空気とこぎれいな佇まいとが同居していた。
通っている学校は、男子もハイソックスを履く学校だった。
大多数の少年たちは、私服でも半ズボンに色とりどりのハイソックスを履いていた。
かつて、少年たちがおおっぴらに、女の子みたいな真っ赤なハイソックスを履いていた時代があった――
いつだか父さんが、そんなことを言っていたっけ。
俊哉がそんなことを考えていると、背後からガサガサと複数の足音が近づいて来た。
急な接近にびっくりして顔をあげると、そこには同じクラスの少年が5~6人、俊哉を見おろしていた。
都会から引っ越してきた俊哉を、目の仇のようにしていた少年たちだった。
両親の生まれ故郷というこの街で唯一なじめないのが、彼らだった。
けれども、いつも敵意に満ちた視線を送ってきた彼らの態度が、あきらかにちがった。
頭だったタカシという少年が、俊哉にいった。
「お前、親方に寵愛されているんだって?」
「寵愛」という言葉をこの年代の少年が使うのを、俊哉はこの街に来て初めて知った。
寵愛――・・・って・・・?
問い返す俊哉に、親方のお〇ん〇んを、お〇りの穴に容れられることだよ、と、タカシはかなり露骨な表現を使った。
タカシの態度からは、俊哉と親方の関係を皮肉るというよりも、手っ取り早く意思を疎通したいという思いの方を、より強く感じた。
「そう・・・だけど・・・」
戸惑いながらもはっきりと肯定した俊哉の顔を、タカシはまじまじと視た。
「お前ぇ、えらいな」とだけ、彼はいった。
「だったら俺たち仲間だから」
ぶっきら棒にタカシは告げた。
これから血を吸われに行くんだけど、相手がまだいないんならお前も連れてこうと思ってたんだ。
でも、親方が相手じゃ、邪魔できないな――タカシは口早にそんなことをいうと、
仲間を促して、あっけに取られている俊哉に背中を向けて、立ち去っていった。
少年たちは、ひとり残らず、ハイソックスを履いていた。
この街に棲む吸血鬼が、ハイソックスを履いた男子の脚を好んで咬む――
そんなうわさを移り住んですぐに俊哉は耳にし、それからすぐに、実体験させられていた。
少年たちが”親方”と畏敬をこめて口にした男は、60代のごま塩頭。いつも地下足袋に薄汚れた作業衣姿だった。
もともとは、女の血だけでは満ち足りなかったので、少年たちを埋め合わせに襲っていたのだが、
いまでは少年も、女たちと同じくらい愉しみながら手籠めにするのだ、と、その老人は俊哉に語った。
初めて襲われた日のことだった。
その日俊哉は担任に残されて、遅くなった帰り道を急いでいた。
その前に立ちふさがったのが、親方だった。
避けて通ろうとした俊哉の手首をつかまえると、傍らの公園に強引に引きずり込んだ。
あれよあれよという間に、首すじを咬まれていた。
この街に吸血鬼がいるといううわさがほんとうだったのだと、俊哉は思い知らされた。
シャツをまだらに汚しながら、俊哉は若い生き血をむしり取られた。
親方の目あては、俊哉の履いている濃紺のハイソックスだった。
通学用に指定されているハイソックスはまだ真新しく、街灯に照らされてツヤツヤとした光沢を帯びていた。
舌なめずりしながら足許に唇を近寄せ吸いつけてゆく吸血鬼に、失血で力の抜けた身体は抵抗を忘れていた。
ちゅううっ・・・
口許から洩れる静かな吸血の音の熱っぽさが少年に伝染するのに、そう時間はかからなかった。
俊哉はもう片方の脚も気前よく咬ませ、クスクス笑いながら吸血に応じていった。
別れぎわには、見るかげもなく咬み剥がれたハイソックスを、唯々諾々と足許から抜き取られていった。
母親を連れて来いという親方の要求にも、もちろんこたえた。
素足で返って来た息子を、母親のみずえは咎めることもなく、息子に連れ出されるままに親方の家を訪問していた。
母親はなぜか、すべてを予期したように、よそ行きのスーツで着飾っていた。
その日初めて、少年は男が女を犯すところを目の当たりにした。
裂き散らされたストッキングをまとい残したままの脚が、地下足袋を履いたままの逞しい脚に、絡みついていった。
それが、父親を裏切る行為だということを、少年はなんとなく直感したけれど、
「父さんには黙っているから」
とだけ、母親に告げた。
(だからまたお招ばれしようというのね?)と言いたげにみずえは俊哉を見つめ、
母親を連れてくる代わりに覗くことを黙認すると息子に親方が約束したのまで、見抜いてしまっていた。
見抜いたうえで母親は、親方のところに通っていったし、息子もそのあとをついていった。
母親が都会から持ってきた洋服がすべて破かれてしまうのに、たいした日数はかからなかった。
「だんな、すまんですね。ちょっと寄り道していきますで」
透一郎と肩を並べて歩いていた農夫は、すれ違った学校帰りの少年たちをふり返ると、ニタニタと笑いながら足を止め、
ちょっと会釈を投げて、きびすを返していった。
似たような手合いが数人、少年たちを取り囲むようにして近づいて行くのを、透一郎は見た。
お互いに同数だと確かめ合うと、少年たちはなにも抵抗するそぶりもなく、彼らの意図に従った。
あるものは傍らのベンチに座り込み、あるものは塀に押しつけられるように立ちすくみ、あるものはその場にうつ伏せになって、
むき出された牙に、首すじや胸もとをさらしていった。
半ズボンの下から覗くピチピチとした太ももや、おそろいの紺のハイソックスに包まれたふくらはぎも、例外ではなかった。
紺のハイソックスを履いた少年たちのふくらはぎに、飢えた吸血鬼の唇がもの欲しげに這わされてゆくのを、
透一郎は遠くからじっと見守った。
吸われる彼らのなかに息子がいるような気がした。
吸っている彼らのなかに親方がいるような気がした。
「あっ・・・ちょっと・・・」
口ではたしなめようとしながらも、自分たちに対するしつような吸血を止めさせようとはしない彼らの姿に、息子のそれが二重写しになった。
「息子に手を出すのはやめてくれませんか?」
いちど透一郎は、家族にも黙って、親方のねぐらを訪れていた。
「そのつもりで帰って来たのではないのかえ」
親方は野太い声で応じていたが、透一郎を見る目は息子を見る父親のようないたわりに満ちていた。
「すっかり都会の水になじんじまったようだな」
といいながら、親方は少し待て、と、透一郎にいった。お前の息子をきょうここに招んであるから――と。
父親が物陰に隠れていちぶしじゅうを視ているとはつゆ知らず、
俊哉はいつものようににこやかに親方のねぐらの薄汚れた畳のうえに、通学用のはいハイソックスのつま先を滑らせて、
まるで恋人同士のように口づけを交わすと、
服の上から二の腕や胸、腰周りを撫でまわされながら、なおもディープ・キスをねだっていった。
太ももに思い切り喰いつかれたときには、さすがに声をあげていたが、その声もどことなくくすぐったげで、嬉しげだった。
親方が随喜の声を洩らしながら息子の生き血を吸い取るのを、透一郎は息を詰めて見守っていた。
父親として止めさせることもできたはずだが、あえてそれをしなかったのは、
少年時代の自分と二十年以上まえの親方とが、むつみ合う二人の姿に重なり合っていたためだった。
―――――
透一郎の母は、息子に誘い出されるままに親方の餌食になって、熟れた生き血をふんだんに振る舞うはめになっていた。
そして、男女の交わりがどんなものなのかまで、息子に見せつけてしまっていた。
はじめのうちは、自分の意思に反して。それからやがて、自ら肩を慄かせ昂ぶりに夢中になりながら――
母の不始末を知った父は、親方を咎めに出かけていったが、帰宅した時には別人になっていて、
あのひととは家族ぐるみでのおつきあいをすることになったから、とだけ、ふたりに告げていた。
それ以来、学校帰りには体調の許すかぎり、親方の家へと立ち寄った。
両親の血を吸った親方が、自分の血に興味を示すのは当然だ、と、子ども心に思っていた。
おふたりの血がブレンドされたお前の血はとても美味だという奇妙なほめ言葉を、肩を抱かれながらくすぐったく耳にしていた。
そして、結婚相手が決まったらわしに紹介しろ、良い子を産めるかどうか、血の味で確かめるから――といわれるままに、
みずえをねぐらへと連れて行った。
みずえは親から土地のしきたりを言い含められていたので、こういうときにどうすれな良いのかを知っていた。
婚約者である透一郎の手前、形ばかり抗ったのち抱きすくめられて、首すじを咬まれていった。
新調したばかりのブラウスに血が撥ねて、クリーニング代がかかるわねと思ったときにはもう、正気をなくしていた。
こぎれいな訪問着を着崩れさせながら抱きすくめられ生き血を吸い取られてゆく婚約者をまえに、息を詰めて見守る透一郎の視線を怖いと思った。
華燭の典の席上、純白のウェディングドレスに包まれた新妻は、前夜に呼び出されて犯された余韻に股間を深々と疼かせながら、意義深い刻を過ごしていた。
―――――
息子が帰ったあと、透一郎は親方を見つめた。
親方は、透一郎が子供のころの目に戻ったと感じた。
透一郎は勤め帰りのスラックスをそろりとたくし上げると、かつて親方に賞玩された足許をさらけ出した。
彼の足許は、ストッキング地の黒の長靴下に染まっていた。
「なまめかしいの」
親方は目を細めた。彼が露骨に示した好色そうな色に、透一郎は満足した。
押しつけられてくる唇の下、なよなよと薄い沓下はふしだらに皺寄せられて、
力を込めて咬み入れられた牙に、ブチッと裂けた。
顔をあげた親方は笑った。透一郎も笑っていた。
透一郎は親方の背中に両腕を回し、親方は刈り込んだ髪の生え際に唇を這わせた。
ワイシャツの襟首を濡らしながら、久しぶりの陶酔に、透一郎はため息をもらした。
身体がバランスを失って、背中に畳を感じながら、靴下一枚だけをまとった下肢をめいっぱい拡げる。
物陰に隠れた妻の視線をありありと感じながら、透一郎はむしろ昂ぶりを覚えていた。
夫の前で抱かれるみずえの歓びも、きっとこんなふうなのだろう――
息子をさえも犯した逸物に狂おしさに息を詰まらせながら、透一郎はふとそう思っていた。
あとがき
思いきり、男物でした。^^;
自分のお通夜。
2018年11月18日(Sun) 06:22:26
してやられた・・・!
男は悔しそうに、歯噛みをした。
ここは墓の中。理不尽にも生きたまま、埋められている。
だがそれは、すこし事実をはずした言いかただろう。
総身をめぐる血管が干からび切っていることが、そのなによりの証しだった。
そう、彼は血を吸い取られ吸血鬼になってしまったのだ。
やつらのこんたんは、わかっている。
ほんとうの狙いは妻なのだ。
失血に目を回してぶっ倒れてしまったあと。
やつらが口々に呟くのが、聞こえていた。
もしかすると、わざと訊かせていたのかもしれない。
俺たちは、喪服を着た女を襲うのが好きなのだ――と。
今ごろ妻は、自分の通夜を営んでいるはず。
寺のひつぎは空っぽで、夫の自分が地下で呻いているとも知らないで。
たったひとりで見知らぬ土地で、これからどうやって生きて行けばよいのか。
きっと、そんなことで頭がいっぱいになっているはず。
夫婦でこの地に移り住んで、たったひと月しか経っていなかった。
妻の心配は、たぶん無用のものなのだろう。
喪服姿を襲われて、通夜の夜が明けきらぬうち、
総身をめぐる生き血を吸い尽されて、夫のあとを追うのだろう。
もしかすると、妻のほうは生かしておく気なのかもしれない――そう、別の目的で。
やつらは口々に、女旱(ひで)りだと言っていたから。
久しぶりにありつく人妻の血に、やつらはとても、昂奮していた。悦んでいた。
こうしていてはならない。
男は自分の真上に覆いかぶさるひつぎのふたを、力任せにこじ開けた。
上にはたんまり泥がかけられていて、容易なことでは開かなかったけれど。
妻に対する執念からか、苦心惨憺、開けることに成功した。
はあはあと息をはずませながら、(死んだはずなのに息ができるものなのか)と、呟いた。
やっぱり生きているのだ、と、確信した。
死んでいない以上、夫として生きるべきなのだ。
男はふらつく足どりで、寺への道を懸命にたどった。
寺では盛大に、男の通夜が営まれていた。
どうやら参会者は、かなりおおぜいいたらしい。
勤務先の出張所の同僚たちは、たしか十人に届かなかったはず。
家族総出で来てくれたとしても、せいぜい二、三十かそこらだろうし、
そこまでしてくれる義理などないはず。
だとすると、見ず知らずの村の連中が来ていたというのか。
通夜の終わりかけた寺はほとんど人がいなかったけれど、
ついさっきまで大勢の人がいた雰囲気が、ありありと漂っていた。
もどかしい足どりで、本堂を目ざした。
参会者を受け付けるテントは、すでに無人だった。
ちょうどお手伝いらしい地元の婦人が二、三人、黒一色の姿で寺を出ていくところだった。
妻もあの格好をしているのか。
喪主の席に、独り居心地悪そうに腰かけながら、
帰らぬ夫の帰りを待ちわびて、
いまごろ自分の身体をめぐる熟れた生き血をむさぼる者たちの、強引な来訪を受けているのか――
ああっ、まがまがしい。不埒すぎるぞ!
男は歯噛みをして、足どりを速めた。
本堂の片隅の小部屋から、切れ切れに悲鳴が洩れてくる。
あそこだ、まちがいない。
本堂のど真ん中にしつらえられた祭壇に、ちょっとだけ目をくれる。
ふたの開け放たられた空っぽのひつぎのまえ、
自分の顔が白黒写真になって、無表情にこちらを見ていた。
これから妻を犯されるんですという顔をしているように見えた。
なぜか、自分とは別人のような気がした。
小部屋のドアを開け放つと、そこにはまがまがしい光景が繰り広げられていた。
半脱ぎになった喪服から、白い肩をむき出しにして、
脛をなまめかしく透きとおらせた黒のストッキングを、ひざ下まで脱がされた女が、
上からのしかかってくる礼服姿の男を相手に、ウンウンと押し殺した呻きをあげながら――激しく腰を振っていた。
悲鳴は随喜に、なりかかっていた。
目をむいて、周囲の男どもを見回した。
だれもが礼服姿を着崩れさせていて、
あるものは上半身裸、あるものは腰から下がまる見え、あるものは靴下だけを履いていた。
妻の着崩れた姿はむざんで艶めかしくさえあったけれど、
男の半脱ぎというのは、ばかみたいなものだな、と、男はおもった。
「思ったより早かったね」
男のなかの一人が言った。
見知らぬ男だった。
白髪頭に銀縁めがねをかけた、穏やかそうな男だった。
知っている顔はほとんどいなかったけれど、
勤め先の同僚が二人、きまり悪そうに隅っこに佇んでいるのが目に入った。
だれもが思ったよりも、和やかな視線を向けてくる。
「待っていた。あんたにも吸う権利があるから」
妻の上からは、男が去っていた。
おおいかぶさった男の背中に隠れていた全身を、さらけ出していた。
引き裂かれたブラウスのすき間から、豊かなおっぱいがまる見えになっていた。
夫婦の交わりは、このところたえてなかった。
まして、あからさまな灯りの下で妻の胸もとなど見ることなど、何年ぶりのことだろう?
さっきまでくり広げられていた痴態の名残りで、妻の胸もとは軽く上気して、肩でセィセィと息をはずませていた。
妻が牝になったのを、男はかんじた。
信じられないという顔で男を見つめる妻を、男はまともに見返した。
なにかを言うべきだと思ったが、言葉は出てこなかった。
「好きにおやんなさい」
めがねの男が耳打ちした。
言われるまでもなかった。
妻の首すじにはふたつみっつ、すでに咬み痕がつけられていた。
おのおのの咬み痕にあやした血潮が、男の欲情を激しくあおった。
男は妻をその場に組み敷いて、胸もとをがりッと噛んでいた。
錆びたような血の芳香が、鼻腔の奥をツンと突いた。
口許にこぼれ落ちた妻の血が、喉を伝って、胃の腑に落ちる。
干からび切った唇が、喉が、身体の芯が、胃袋が。
四十代の人妻の熟れた血潮に、心地よく浸された。
男は吸血行為をやめようとはしなかった。周りも止めようとはしなかった。
妻は最初のうちは抗って、なんとかその場を逃れようとしたが、
男たちの輪にさえぎられて、果たせなかった。
そしてすぐに、あきらめきったように身体の力を抜くと、
夫の新たな欲情に、わが身を投げ出し、さらけ出していた。
胸もとに一か所。首すじに一か所。喉笛にも喰いついた。
黒のストッキングを脱がされてしまったことが今さらながらに悔しくて、
半脱ぎになったストッキングをわざわざ履き直させて、食い破った。
妻は夫の欲望にかしずくように、咬まれるままに咬まれ、吸われるままに吸われ、犯されるままに犯された。
8回も貫いたあと、さすがに息が切れて、妻の裸体のうえに突っ伏したら、
周囲の男たちから、拍手がわいた。
「おめでとう。これであんたも、一人前の吸血鬼だな」
めがねの男がいった。
そうかも知れない――男はおもった。
喉の渇きは心地よく充たされていたし、干からび切った血管には、妻から吸い取った血液がふたたび脈打ち始めていた。
「奥さんの血は、あんたのものだ。わしら、味見はしたが、大した量は吸うておらん」
どういうことだ?と問う男に、めがねの男がぼそぼそと告げた。
この村は、吸血鬼と仲好う暮らしている。
妻や娘の血を自由に吸わせ、吸血鬼と懇意になった村人のなかには、自分持ちを吸い取られて吸血鬼になるやつもおる。
だが、だれもそうしたことを咎めようとは思っていない。
吸血鬼になった者は、家族の血を与えたものに限られていたから、
その男が望んだ女がいれば、彼女の夫も父も、妻や娘が押し倒されるのを、見て見ぬふりをして受け容れる。
あんたの場合はよそ者だから、つい後先が逆になったけれど。
たいがいはだんなの了解を得てから奥さんを襲うのだ。
ここにいるあんたの勤め先の同僚どもも、
片方は持っていった地酒に酔いつぶされながら、奥さんをモノにされるところを夢中で覗いていたし、
もう片方は自分が先にたぶらかされて、わしらを家に招いてくれた。
そうなったあとは、だれもが奥さんと交際できるし、もちろん奥さんにも選ぶ権利がある。
ご主人は優先的に奥さんの血を吸うことができるけれども、
内輪のあいだでは通い合うのは自由だから、このなかのものの妻や娘ならだれでも、気軽に声をかければよい――
「私の知らないところでやってくださいね」
男の妻は男にそういうと、夫の浮気を咎める妻の目になって、軽く睨んだ。
ふつうの夫なら、こういう妻の睨みには辟易するものだけれども。
目のまえでおおぜいの男どもとの痴態をさらけ出してしまったあととなっては、その威力は半減以下だった。
あれ以来。
男どもは代わる代わる、妻を訪ねて自宅にやって来る。
外出嫌いだったはずの妻も、足しげく出かけて行って、どこのだれとも知らない男に抱かれてくる。
”初七日”のあいだは、喪服を着通すのだという妻は、
「それが貞淑な未亡人の証しなんですって」といいながら、
きょうも不倫の床に熟れた血潮をあやしている。
同僚だったふたりの男も、妻と逢っていた。
一人は誘い出したし、一人は家までやって来た。
「〇〇さんからお誘いを受けたの」
しらっと告げる妻に、「行ってお出で」と返す夫。
とてもヘンな関係だと、さいしょのうちは思った。
こころよく送り出した相手の男も、家にやって来てのぞき見させてもらった男も、自分の妻を襲わせてくれた。
だから、おあいこだった。
いちばん若い同僚は、自分の奥さんが一番訪問が多いと口先では嘆いていたけれど、
それがあくまで口先なのは、よく心得ている。
少しだけですよ、乱暴はよしてくださいよ――そう言いながらその男は、妻を襲われるリビングに、ことが終わるまでずっといた。
もうひとりの同僚は、自分より年輩だったけれど、年増の女もいいものだと初めて思った。
年増女の夫もまた、ちょっとだけですよ、あんまり奥まで入れないで、あっ、そんなに乱暴に胸を揉んじゃ・・・といいながら、
夫婦のベッドをギシギシさせてなん度も射精して、事が果てて立ち去るまで、必ず妻といっしょにいた。
もっとも、ふたりの夫を詰る資格など、彼の側にもなかった。
恥かしがる妻を強引に巻き込んで、夫の前での輪姦プレイを提案したのは、ほかならぬ彼自身だったから。
やっぱりあの晩は、お通夜だったのかもしれないとふと思う。
それまでのどこにでもいそうな自分は、吸血という名の変態プレイに焦がれて堕ちた。
ついでに、寝取られプレイという、ある意味もっとまがまがしい遊戯にも。
妻もまた、貞淑だった過去をあっという間に散らしていた。
夫の目のまえで見せつけるプレイにも、「刺激感じる!」とはしゃぐようになっていた。
「あの晩は、夫婦そろってのお通夜だったのよね」
妻はくったくなく笑いながら、そういった。
抵抗したのよ、信じてね――そう言いながら。
夫がその光景を想像して昂奮するのさえ、いまのこの女のなかでは、計算済みなのだろう。
投げ出されたふくよかな脚にまとったパンストは、今夜もだれかの手で破かれるはず――
なに不自由ない生活を手に入れた男は、早すぎる退職をした。
彼の勤め先では、そうするものがかなりいた。
そしてその空席を埋めるために再び、なにも知らないものが赴任してくる――妻や娘を伴って。
「こんどの人は五十代だけど、奥さんは上品できれいで、娘は高校生だそうだ」
「独立した息子は結婚したばかり――早くご夫婦でたぶらかして、息子夫婦も巻き込もうよ」
村のものたちも、村に居ついたかつての同僚たちも、口々にそう言って、彼らの移住を待ち焦がれている。