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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

このごろ。

2019年06月28日(Fri) 06:49:20

善良な紳士が吸血鬼と分け隔てなく接し、
熟れた人妻や初々しい生娘の生き血を欲しがる彼らのことを、
自分の家庭に招き入れてしまう。

とか、

しっかり者の妻が、夫の招き入れた吸血鬼に気丈に接し、
善意の献血に応じていって、男女の関係を強いられて。
最初は厭々ながらお相手を務め、長年守り抜いた貞操を捧げた挙句、
やがて夫の理解と相手の熱意に背中を押されほだされて、
時には夢中になって娼婦のように堕ちてしまう。

とか、

結婚前の生娘が、婚約者のすすめるままに吸血鬼の抱擁に身をゆだね、
処女の生き血を惜しげもなく吸い取らせ、
挙式の前夜純潔まで散らしてしまう。

とか、

新婚妻を狙われた若い夫が吸血鬼に友情を示して、
淫乱な過去を持つ気の強い妻を自分から引き合わせ、
目覚めてしまった新妻の不倫の恋を成就させる手引きをしてしまう。

みたいな、
折り目正しい一家が一人また一人と堕ちていって、
うわべは品行方正な日常を守りながらも、
時には娼婦となり、NTRな夫に悦んで成り下がってゆく――
という展開のストーリー。

昨今は同じようなものばかり描いていますが、
どういうわけか指がひとりでにキーをすべるようにして、止めることができないでいます。
いまのお話、どこまで続くかわかりませんが――
いましばらく、お愉しみのほどを。^^

夫の呟き。~若い日の記憶~

2019年06月23日(Sun) 09:53:09

まだ息子が中学生くらいのころのことでした。
わたしが昭代の浮気旅行に気がついたのは。

その週末、昭代は病院の慰安旅行があるからと、荷物をまとめていそいそと出かけていきました。
気丈な人柄で、若くして婦長となったほど有能な看護婦ではあったけれど。
真っ正直な女だったから、うそをつく器用さには恵まれていませんでした。
荷造りをしているとき、足りないものを買いに昭代が家をあけたとき。
わたしは昭代の荷物を開いて、なにか気になるものはないかと物色をしたのです。
まだ荷造りは始まったばかりで、入れていないものもいろいろあるに違いないとは思ったのですが。
妻がいない自宅という特殊な空気は、わたしにそんな恥を忘れた行為に駆り立ててしまったのです。

ボストンバックのなかからは、勤務の時に穿いている白のストッキングが3足、出てきました。
こんなものを仕事でもないのに、どうして持っていくのだろう?と思い、その理由にすぐはっとしました。
家内がいそいそと浮気に出ていくときには必ず、ストッキングを脚に通していったのです。
相手はストッキング・フェチなのだ。
もしかすると勤務中の昭代のストッキング姿を目にして、見染めたのかもしれない。
そう思うとむしろ、わたしは相手の純情さにほだされる思いがしました。
玄関で物音がするのを耳にしたわたしは、白のストッキングを1足だけ抜き取ると、素早く書斎の机の引き出しにしまい込んでいました。

昭代の旅行中。
幼かった娘は昭代の実家に預けられ、中学生の息子はスポーツに興じて家にはほとんどいませんでした。
たまの休みの真昼間に訪れた、妻のいない時間。
わたしは机の引き出しに忍ばせた白のストッキングを取り出すと、
自分の脚に通していったのです。
淡い脛毛の浮いた脚を、しなやかに包み込むナイロン生地の感触と、
すっかり女の脚のように見違えた足許にわれを忘れながら。
じかに穿いたパンティストッキングの股間に手を当てて、
我慢することのできなかった熱いほとびで、思う存分濡らしていったのです。
きっと同じことを、今夜昭代の情夫は冒すはずだ――そんな妄想に昂りながら。

週明けの月曜日。
体調がすぐれず欠勤したわたしを気遣いながらも、彼女は旅行の後始末に追われていました。
彼女がクリーニング店に携えていった衣類のなかに、勤務中にまとっている白衣が覗いているのを目にしたわたしは、
旅行先でなにが行われていたのかを、容易に想像することができました。
そう、お相手は妻にナース服を着せて、看護婦を犯す遊戯に耽ったに違いありません。
十数年連れ添った夫婦のあいだでは、ついぞ行われなかった戯れを許したところに、昭代の本気度を視る思いでした。

もっともいま思えば、彼女がいくら相手にほだされていたとしても、わたしと別れてその男といっしょになるという考えは、さらさらなかったようです。
家庭は家庭。遊びは遊び・・・そんなふうにはっきりと、割り切っていたのでしょう。
だからこそ。
日常をいっしょにすごすわたしとは決してしないような、「看護婦ごっこ」のような無軌道なことを、
恋人には許してしまうものなのかもしれません。

つぎの週。
「ちょっと・・・泊りで出かけなければならないのですが・・・」
昭代は言いにくそうに、わたしに言いました。
「今週も、慰安旅行かね?」
わたしは努めて明るい声で言いましたが、昭代は言葉の裏に毒をかぎ取ってしまったようです。
まるでおぼこ娘みたいに、ますます小さくなっていました。
そういう昭代をむしろいとしいと、わたしは自然に想えたのです。
「いいよ、行っておいで。きっとたいせつな御用なのだろう?」
わたしはむしろ優しく彼女を促して、浮気旅行へと背中を押していたのです。
股間に歪んだ昂りを、目いっぱい覚えながら・・・

家内がいない週末の真昼間。
ふと書斎の机の引き出しを開くと、そこには家内が脚に通していったのと同じ、肌色のストッキングが2足、
ひっそりと入れられていたのです。
きっと、お礼のつもりだったのでしょうね・・・


あとがき
・・・とまあ、あっという間に元の世界に戻ってしまいました。
A^^;

放送の途中ですが・・・ネット記事から:「新郎が花嫁の不倫を結婚披露宴で暴露」

2019年06月23日(Sun) 09:12:02

長々と描いてきたお話をちょっと中断して(本気の中断にならなければよいが・・・)、昨日見つけた気になる記事をご披露しますね。

「新郎が花嫁の不倫を結婚披露宴で暴露」
ttps://joshi-spa.jp/921269

内容はリンクに譲りますが、この花嫁は勤め先の上司と不倫していて、半同棲状態だった新郎との新居にまで引き入れていたそうです。
新郎がこれに気付いたのが挙式間際のことで――笑えない話ですね。。。

長年連れ添った妻や花嫁の不倫を薄々察しながらも関係を許し、自らも昂りを感じてしまう。
・・・というのがいま描いているお話のおおすじなのですが、
にもかかわらずなぜか、真逆の対応となったこの記事を読んで感じた爽快感?はなんなのでしょう?
もちろんこんなドロドロはないに越したことはないのですが、
たぶんこれが新郎の取り得る最善の対応だったのだろうと思います。
妻の婚外交際を認めることなどありえないという大多数の男性であれば、
こんな状態は生き地獄以外のなにものでもないですからね。
横着な上司殿やパートナーをしれっと裏切りつづけた花嫁の末路は悲惨なのですが、そりゃそうだよねえと思ってしまいます。

え?柏木の描いている話とどこが違うのかって?
・・・ぜんぜん違うではないですか。(^^)
まだまだこの世界のお話を、読み足りていないごようすですね。。(^^)

――というわけで、ちょっとまともなことを描いたすぐあとは、またまた異常な世界に逆戻りしようと思います。はい。

息子の嫁・華恵のその後 2

2019年06月22日(Sat) 12:07:52

吸血鬼を相手に献血をしている家族のなかで、華恵の役割は大きかった。
熟女である母さんや処女である加代子にも増して華恵が呼び出される割合が増えたのは、
彼女が自由の身である専業主婦であることと、
若々しい肢体に豊かな血液をめぐらせていることが、気安く誘う種になっていた。
ああもちろん、ぼくが寛大すぎる夫であることも、忘れてしまってはならないのだが。

そのために、華恵といままでの不倫相手との交際が、少しおろそかになったのは否めなかった。
しかし彼らは華恵から遠ざかるどころか、ますます華恵に執心したのだ。
特に彼女の元上司である花沢という50男は、
ぼくが自分と妻との交際に見て見ぬふりを決め込んでいるのを嗅ぎ当てると、
しきりにぼくに接近してきた。
ぼくはしばしば彼に誘い出されて高級な料亭でもてなしを受け、
今度のプロジェクトで奥さんを借りるのでよろしくと言われたのだ。
もちろんぼくに、いなやはなかった。
どうぞ妻をよろしくと、別の意味を込めて返したとき。
マゾの血が波打って、ズボンの股間をかすかに逆立てるのを必死にこらえていた。

その彼は、ぼくの許可を得て、昼間にぼくの家で華恵との”打ち合わせ”をくり返すようになった。
その”打ち合わせ”とやらが夫婦のベッドのうえで行われたのは、いうまでもない。
仕事を終えて家に戻って、ベッドに身を沈めるとき。
きれいに洗濯されたシーツはきっと、華恵の爛れた情事に擦り合わされたのだろうと想像して、独り布団のなかで昂っていた。
そういう夜ほど濃密な夜になることを、華恵はひっそりと笑いながら受け入れていった。

やがて花沢の奥さんが、夫の浮気に感づいた。
「弱ったな・・・家内がわしときみの奥さんとの仲を、疑っているのだよ」
呼び出された高級料亭の密室で、彼はそう言って困り顔を作った。
そして、きみからもただのプロジェクトの打ち合わせなのだと、家内に話してもらってはくれまいか?と、
ひどくムシの良い依頼さえ託されたのだった。

妻の華恵を日常的に抱いている男を弁護するため、ぼくは花沢の奥さんに連絡を取った。
手にしたメモは、花沢の筆跡。
奥さんを寝取ってほしいと頼まれたご主人に託されたような錯覚をおぼえながら、
豊かな声色をした五十代のご婦人を、そのご主人とぼくの妻との不倫現場へといざなう連絡をしたのだった。
もちろん、花沢の思惑とは、裏腹に。

組んずほぐれつの濡れ場の最中に、わが家の夫婦の寝室のドアが、だしぬけに開け放たれた。
ドアの向こうには、憤怒に満ちた花沢夫人――
花沢が仰天したのは、いうまでもない。
けれどもそのつぎの瞬間、今度は花沢夫人が驚きうろたえる番だった。
背後からだしぬけに羽交い絞めにされた彼女は、華恵のもう一人の情夫に、首すじに食いつかれていったのだ。
「な、奈々恵・・・っ!?」
よそ行きのスーツの襟に赤黒い液体を滴らせる妻の姿に、花沢は顔色を変えて起き上がろうとしたが、
それを引き留める華恵の腕は意外に強く、彼はベッドから起き上がることができなかった。
不覚にもまぐわいを再開してしまった夫の手の届かないところで、
長年連れ添った夫人は、よそ行きのスーツに血を撥ねかせながら、熟れた生き血を餌食にされていった。

いままでものにしたご婦人のなかでは、最年長だね。
ぼくが声をかけると、彼はうれし気にウィンクを返してきて、口許に撥ねた血を手の甲で拭った。
ご主人も首すじに同じ咬み痕をつけられたまま、ぼう然として座り込んでいた。
「わかっていると思うが、これからは奥さんを餌食の一人に加えさせていただくよ。
 その代り、華恵の肉体はいままでどおり愉しむがいい。
 ご主人も寛大なひとだから、あんたを妻の愛人の一人として歓迎すると言っている」
ぼくの気持ちまで勝手に代弁した彼は、
まだ腕の中にいる花沢夫人の胸元をブラウスの上からまさぐりながら、
なおも首すじから血をすすった。
花沢夫人がそのまま、ストッキングをみるかげもなく咬み剥がれたうえ、
薄茶のタイトスカートを腰までたくし上げられながら犯されていったのは、いうまでもなかった。
ぼくは父さんよりも年上の花沢を妻の愛人として歓迎する約束をさせられて、
それでも花沢とまぐわう華恵から、目を離せなくなってしまっていた。
花沢はぼくと、あいまいな笑みを浮かべながら握手を交わして、去っていった。
自分のしでかしている不倫を、不倫相手の夫と自分の妻とが認めてくれる見返りとして、
長年連れ添った妻が吸血鬼の奴隷に堕ちてしまったことは、果たして彼にとって有利な取引だったのか、高くついた火遊びだったのか。


華恵のもう一人の不倫相手は澤松といって、華恵の取引先の重役だった。
華恵は彼のことを花沢よりは信用していて、自分が吸血鬼の愛人になったと告げていた。
相手の吸血鬼とは愛し合っていて、夫も関係を認めてくれていて、良好な関係を築いていること、
夫は貴男との関係も薄々勘づきながらも黙認してくれていること、
だから澤松と吸血鬼とは、いわば同じ女性を好きになった同好の士という関係だと思っていることを伝えたのだ。

澤松は実のある男だったので、まず華恵の健康状態を心配してくれた。
当座、失血死の危険がないことを聞かされると、それでも献血の頻度が多いことを気にして、
採血のためだけなら、ぼくの家内にも頼んでみると申し出たのだ。
澤松夫人は控えめな女性で、夫のことを愛していていた。
夫が外に愛人をこさえてくることにも、苦情を申し立てることはなかった。
けれども澤松はそのことをひどく苦にしていて、「せめてあいつも浮気のひとつくらいしてくれていれば、まだ気が休まるのだが」と、
ムシの良い感想を漏らすのだった。
華恵の情夫のための献血相手を澤松夫人に依頼する話は、澤松と、華恵と、わたしとのあいだでとんとん拍子に進んだ。

いちぶしじゅうを言い含められたうえで、よそ行きのスーツ姿の澤松夫人を家に迎えたのは、早くもその二週間後だった。
澤松夫人は折り目正しくぼくにお辞儀をした。
そして、主人が大変ご迷惑をかけていると伺いました。妻として申し訳なく思っております、といった。
澤松夫妻はぼくの両親と同じ年恰好だったけれど、ぼくは夫人に対する思慕をほんの少しだけ覚えていた。

献血の儀式は、家の一番奥の日本間で遂げられた。
そこには床がのべられていて、ジャケットを脱いでブラウス姿になった夫人は、あお向けに横たわることになっていた。
けれども夫人が寝そべってお相手をするのはふしだらであるからと固辞したために、
その部屋で立ったまま、吸血を受けることになった。
わたしたちは部屋から引き取り、隣のリビングに移ることにした。
そして、二つの部屋を隔てるふすまを開け放っておいて、
「気になるようなら、様子を窺うこともできますよ」と、澤松氏に告げた。
澤松氏は丁寧に感謝の言葉を返しながらも、半開きになったふすまに背を向けてソファに腰かけた。
わたしたち夫妻と澤松氏とが華恵の淹れたお紅茶をたしなんでいるあいだ、
彼は澤松夫人を相手に、熟れた血潮に酔いしれていった。

その日澤松夫人は、夫以外の男から女の歓びを初めて識った。

こと果てたのちも、澤松夫人はなにごとも怒らかかったかのように、穏やかな笑みを浮かべるだけだった。
栗色の髪の生え際に、首すじの咬み痕が赤黒くにじんでさえいなければ、なにも起きなかったのかといぶかるほど、
彼女はさりげなく佇んでいた。
澤松夫人はご主人に、おだやかに微笑みかけながら、いった。
「これは献血というよりも、恋愛ね」
「そうかもしれない。
 きみがほかの男の味を識ってしまったことは夫として悔しいけれど、
 きみにもぼくと同じように、自由に生きてもらいたい。
 子供たちも大きくなったのだから、限りある人生を愉しむように」
「子供達には手を出さないでね」
賢妻である澤松夫人は吸血鬼に、さりげなく区切りをつけた。
「そうさせてもらいます」
吸血鬼は夫人の手を取って、手の甲に恭しく接吻を重ねた。
「このひとは、熟年女性殺しなんですよ。母もやられました」
ぼくがいうと、「まぁ、そう」と、澤松夫人は柔らかく微笑んだ。
「お母さまを、どうぞおたおせつに」
夫に庇われながら丁寧に会釈を返しながら帰宅していく澤松夫人は、どこまでも奥ゆかしかった。


あとがき
華恵というよりも、華恵の浮気相手の奥さんのお話でした。。 ^^;
ひさびさに入力画面じか打ちで描いたので、変なところがあったらごめんなさい。
m(__)m

息子の嫁・華恵のその後

2019年06月22日(Sat) 11:26:17

妻の華恵に吸血鬼の恋人を迎え入れてから、半月になる。
もともと母の情夫だったその男に妻の肉体を譲り渡したとき。
彼は華恵よりも先にぼくのことを襲って、血を吸った。
そして、失血でもうろうとなっているぼくのまえで、華恵を堂々と?奪っていった。
黒一色の喪服をしどけなく乱し、裂かれたブラウスのすき間から白い肌を露出させながら,堕ちていった華恵――
いままでも、結婚前から交渉のあった男性たちとの逢瀬を半ば公然とつづけていた彼女だったが、
実際に抱かれてしまうのを夫として目にするのは、もちろん初めてのことだった。
なん度もまぐわううちに、ふたりの息が合ってきて。
やがて華恵のほうから求め始めるようになったとき、
ぼくは彼女との夫婦生活の終焉を覚悟した。
けれどもそのすぐあとに、男の直感というものはどれほど見当違いなのだろうと反省することになった。

華恵は確かに、新しい恋人に夢中になった。
それからは毎日のように出かけていって、
毎日あくせくと仕事をしているぼくをしり目に、ぼくの実家の畳やじゅうたんを、ふしだらな汗や体液で、濡らしていった。
けれどもだからといって、ぼくとの結婚生活を解消しようなどとは、彼女はさらさら思わなかったのだ。
彼女は平凡で心優しい夫を必要としていた。
大胆な火遊びを絶やさないのと同じくらい、彼女には安定した家庭の存在がもたらす安心感を、必要としていたのだ。
ふつうの夫たちにとっては、たしかに「いい面の皮」かもしれないけれど。
ぼくには魅力的な妻がそばにいてくれることが欠かせなかったし、
目の前の妻がぼくに優しくさえあれば、ぼくの見えないところでぼくを裏切っていたところで、そこは目を瞑ってしまおう、いけない昂りの種にしてしまおうと割り切ることにしていた。

彼にしてもそうだった。
いやむしろ、彼のほうこそ”信頼”できた。
なぜなら彼は、人妻を独り占めにすることよりも、
彼女の夫の目の前で抱いて、見せつけることに関心を寄せていたからだ。
女性との関係は華恵とが初めてで、そもそもがうぶだったぼくは、彼にとってかっこうの”餌食”だった。
ぼくの血液は彼の華恵に対する性欲を高めるために消費されて、
そのうえさらに、目の前で妻を犯される夫を演じることで、彼を愉しませた。
彼にとってぼくは、二重に好都合な獲物だったのだ。

彼は必要以上に、ぼくをあざけることをしなかった。
「息子をあまりみじめな立場にしないでくださいな」
きっと母さんはそんなふうに、彼に頼んでくれたはず。
けれども彼は母さんに頼まれるまでもなく、
ぼくのことを最愛の女性の一人息子として遇してくれた。
そして、華恵を間にはさんだ遊び相手としても、ぼくのことを明らかに重宝していた。
華恵の不倫に見て見ぬふりを決め込んで、想像のなかだけで昂りをくり返していたぼくは、
彼によって「視る歓び」を、植えつけられていったのだ。
だから、「夫の前で妻を犯して見せつける」ことを彼がしたくなったときにはいつでも、ぼくは華恵を伴って実家に顔を出すのだった。
彼とぼくとのあいだでは、意識して紳士的なやり取りが交わされて、
それでいながらぼくは、彼に対して絶対的な帰属感を寄せるようになっていた。
しばらく後には、ぼくは彼のことを時折「義父(とう)さん」と呼ぶことに、抵抗を覚えなくなっていた。

彼が「義父さん」であるとしたら、ぼくはかなりの親孝行をしていることになる。
華恵を「義父さん」の血液摂取欲や性欲を満足させるために差し出すことは、もちろん「義父さん」の悦ぶところだったし、
華恵が「義父さん」の相手をしている間、母さんは父さんと過ごすことのできる時間を作ることができるのだから。

華恵が浮気に出かけるときは、ふだんよりもぐっとひきたつ服を着ていくことが多い。
だから、複数の男性と不倫の夜を重ねるときは、
「今夜は遅くなるから、先に寝ていて」
などといわれるまでもなく、ぼくはほぼはっきりと、それと察することができていた。
反面、彼との逢瀬を遂げに母さんの住む実家に向かうときには、華恵は必ず喪服を着ていた。
「亡くなったほうのお義父さまのお参りをしに行く」というのが、表向きの言い訳だったからだ。
もちろんほんとうは、黒のストッキングを通した脚に欲情する彼の欲求を満たしてやるために過ぎなかったのであるが。
しかしそのうちに、もうひとつの理由があることを、母さんから教えられた。
ぼくの実家に喪服を着て出かけていく華恵とは裏腹に、母さんは若やいだ服装を好むようになっていた。
「母さんはこのごろ、喪服を着ないんだね」
実家にもどったときにぼくが何気なしにそういうと、母さんはいった。
「ばかねぇ、華恵さんが引き立て役になってくれているのよ」
と。
華恵が地味な喪服姿で彼に抱かれる一方で、母さんは華やかな若作りの衣装を身に着けて、彼に接するというのだ。
「もちろんたまには、私も喪服を着るけれど」
そういって笑う母さんの口許には、いままでに目にしたことのない艶が漂っている。
華恵は、彼が母さんの情夫であることを気にかけていて、自分は引き立て役に徹しようとしているのだった。


「結婚するのなら、私が男友達と逢うのをとやかく言わないでね」
ぼくのプロポーズに応えるときに、華恵が繰り返し告げた条件を、ぼくは寛大すぎる夫になって、飲み込んできた。
――この子のお人好しにつけ込んで、驕慢な嫁にならなければ良いけれど。
父さんがなくなるのと前後してとり行われた華燭の典の席上で。
さいしょのうち華恵にあまり良い感情を抱かなかった母さんは、品行方正な姑の顔つきでそんなふうにうそぶいていた。
けれども現実は、逆だった。
敏腕のキャリアレディで、仕事の出来でも足許にも及ばないはずのぼくのことを、華恵はとことん立ててくれた。
家のことを完璧にこなすのはもちろんとして、ぼくの身の回りだのスケジュールだの、こまごまとした手続きだのをすべて受け持って、最良のマネージャーを演じてくれたのだ。
華恵と語らって何かの段取りを決めているときのぼくは、まるで一流のビジネスマンになったような錯覚さえ抱くようになっていた。
彼女はどこまでも、賢妻として振る舞ったのだ。

その賢妻ぶりは、母さんも一目おくほどになっていて。
――さいしょはどうなることかと思ったけど。
と言わしめるほどになったのだけれども。
彼女が賢妻としての才能を開花させた最大の原因は、ほかでもない複数の男性との結婚前からの不倫のおかげだった。
男なしではいられない体質の妻は、自分の”持病”に理解を示すぼくに、どうやら心からの感謝をしてくれていたらしい。
彼女の賢妻ぶりには、感謝と贖罪が込められていた。

三人目の不倫相手を、夫から紹介された後もまた、彼女のぼくへの配慮はいっそう濃やかなものになっていった。
もっとも、彼女の配慮が濃やかであるほど、時に嫉妬に打ち震えることにもなったのだけれど。
ぼくの嫉妬が兇暴なものになるのでは?という華恵の心配は、杞憂におわった。
ぼくは嫉妬しつつも彼と華恵との濡れ場をのぞき見して昂ってしまうような、いけない大人に育ってしまっていたから。

「そんな子に育てた覚えはないけれど」
母さんはため息しながらも、自分の不倫に寛大になっている息子に安堵を覚えていたし、
「まさか寝取られ好きだとは知らなかったけど――利害が一致しているから良しとしましょう」
華恵もまた、夫の理解しがたい歪んだ性癖に驚き苦笑しながらも、
実情に適切に対応し、自らも新しい不倫をしたたかに愉しむようになっていた。

なにしろ相手は身内である。もっとも信頼できる相手といえた。
姑がまじめに交際している愛人で、事実上夫の義父になりかかっている男なのだ。
ぼくも――時には嫉妬にかられてどうにもならない昂りに目覚めてしまううらみはあるけれど――彼を華恵のためにもっともつり合いのとれた情夫であると、認めないわけにはいかなかった。


あとがき
なぜかNTR話ばかりがすらすら描けてしまう、きょうこのごろ。^^;
カテゴリは、昭代さんがヒロインだった当初から「成人女子」としていましたが、
どちらかというといつものノリの「家族で献血」に近くなっていますが、
とりあえずこのままいきます。

ぼくはハムレットになれない

2019年06月20日(Thu) 07:09:33

華恵さんをこの家に連れてきてはいけません。
私、いまは父さん以外の男のひととつきあってるの。
その人は吸血鬼で、いつでもこの家に出入りできてしまうの。
私が、その人を家にあげたからよ。

加代子も血を吸われるようになって――
でも心配しないで。
あの子も私も、すすんでそういうふうになったんだから。
私はあのひとになん度も血を吸い取らせてあげて、
その時の態度であのひとの人柄を見極めて、
それから、あのひとを家に上げるまえに加代子の考えを聞いて、
加代子はその時、ぜひ逢ってみたい、私も献血に協力するって言ってくれたの。

襲われるといっても・・・みだりに犯されてしまうわけではないのよ。
あのひと、処女の生き血がお好きだから。
だからあの子はまだ安心なの。

でも、華恵さんの場合は、そうはいかないわ。
だって、処女ではない女のひとの血を吸うとき、あの人は必ず、エッチなことをしてしまうんだから。
どういう意味か、もう大人なんだからわかるわよね・・・?


ここしばらく、両親の家に帰っていなかった。
父さんがいなくなってから、我が家は火が消えたようになって、
生前は優しすぎて影が薄かった父さんの存在感が、実は大きなものだったのだと、いやがうえにも思い知らされていた。
結婚してそろそろ1年になる妻の華恵を連れて実家に帰ると、その時だけはほんの少しだけ座が華やぐのだけれど。
辞去したあとの実家にふたたび辛気臭い空気が漂い始めるのを、予感しないわけにはいかなかった。

それが、先日一人で実家に行くと、母さんがぼくを陰に呼んで、そんなことを口にしたのだ。
吸血鬼がどうのなんて、たわごとにしか聞こえなかったけれど。
母さんに交際相手ができた――
息子としては、複雑な気分だった。
加代子は同じ女同士で、まだ恋愛を知らない娘らしい浮ついた気分から、むしろ母親に彼氏ができたことをうきうきはしゃいで受け止めているようだったけれど、
ぼくにはちょっと、難しかった。
ハムレットの心境とは、こういうことをいうのだろうか?
たしかに母親の情夫など、吸血鬼みたいな存在かもしれない。


その人と初めて目が合ったとき、開け放たれたふすまの向こうから、その人は慇懃に会釈を投げてきた。
ぼくも、引き込まれるようにして、彼に劣らず丁寧な会釈を返していた。
母親を日常的に犯している男。
そして、いつかはぼくの妻の華恵さえもモノにしかねない、危険な男。
そうと知りつつも、どうしてあんなに穏やかな初対面を迎えることができたのか、いまでもよくわからない。
けれども、近い将来華恵が彼に生き血を吸われ、
彼の手で犯され堕とされてしまうであろうことを、
夫としてありありと予感してしまったことは、間違いなかった。


家に戻ると華恵が、黒い瞳をイタズラっぽく輝かせて、白い歯をみせた。
「結婚して一年経ったら、浮気しても良いっていっていたよね?」
そう――容姿に優れた彼女はいつも周囲に男を侍らせていて、ぼくには遠い存在だった。
ぼくもまた、父親ゆずりの地味な男だったから。
そんなぼくが彼女に向かっておずおずと、結婚を前提にした交際を申し込んだとき、彼女は言ったのだった。
「私、結婚しても男友だちとは付き合うタイプの女だよ?
 それでも信じてくれる?
 たまにあなたのことを裏切るかもしれないけれど、大人になって許してくれる?
 もしも許してくれるのなら・・・
 私、心の底ではずっと、あなたの妻でいられるような気がするの」
――それを条件に、ぼくたちは結婚した。

事実彼女には過去に複数の恋人がいて、
そのうち少なくとも二人とは、結婚後も同時並行の形で付き合っていた。
たぶん、肉体関係を伴うお付き合いだった。
だから、「一年たったら浮気を認める」というぼくとの約束は、別の意味でさいしょから反故になっていた。
ぼくが反故にしたいと願うのとは、正反対の意味で。
時には朝帰りになる飲み会の途中に、ホテルでの休息を挟んでいたとしても、なんの不思議もなかったけれど。
魅惑的な彼女にぞっこんだったぼくは、彼女が居心地の良いように、寛大な夫でいつづけることを決めていた。


そういえば。
母さんにも昔、交際相手がいたっけ。
学校から早退してきたときに、お仏間からはぁはぁという声が漏れてきて、
細目に開けたふすまの向こうで、母さんがあお向けになって男のひとに組み敷かれていて、
だらしなくはだけたブラウスの襟元から、おっぱいをまる見えにさせているのを、
ぼくはびっくりして声もなく、ただ見つめつづけてしまっていた。
日頃厳しい母さんの、そんなふしだらなところを目にするとは思いもよらなかったから。

「いつもきちんとしなさい」
「もっと男らしく、しゃきっとなさい」
「男なんだから、言いたいことはちゃんと言いなさい」

そんなふうに躾けられてきたぼくにとって、
母さんのふしだらな寝姿に、ギャップを感じるしかなかったけれど、
そのギャップは決して居心地の悪いものなどではなくて、
むしろぼくは、母さんの浮気現場を、ワクワク、ずきずきしながら、のぞき見してしまっていた。

早退してのぞき見をくり返すぼくのことを、少なくとも2人いた情夫さんたちは、それとなく察していたみたいだけれど。
父さんに告げまいとしたぼくと、だれかに情事を見せつけたいという情夫さんたちとの利害は案外一致していて、
お互い知らんぷりをしながら、
片方は母さんのスカートの奥に腰を迫らせて、
もう片方は厳しいはずの母親の、ふしだらな不貞シーンに胸を焦がしていた。


ハムレットは母親が父王の弟と再婚したことに我慢がならなかったけれど。
ぼくはハムレットにはなれないのだと、ふと思った。
かりに振られた役柄が、父王のほうだとしても。
自分の立場とお妃と、生命までも。すべて弟に奪われてしまうというその役柄を、
もとのお芝居の趣旨とは裏腹に、歓びを含んで演じ切ってしまいそうだった。
男としては、情けない心情だと思ったけれど。
「もっと男らしくなさい」
母さんの戒めが、いまさらのように胸に響いた。
「男なら言いたいことをはっきり言いなさい」
そう叱られつづけたぼくが、初めて母さんに
「やっと言いたいことを言えたのね」と褒められたのは。
皮肉にも、その人を華恵の交際相手として、悦んで受け入れると確言したときだった。


華恵が仕事に就いているうちは、徹夜の飲み会もふつうにあったけれど。
仕事を辞めて家に入ったら、そういうこともなくなるかもしれないと思っていた。
けれども仕事を辞めてからも、徹夜の飲み会はしばしばあって、
そのたびごとにぼくは、独りきりの、熱っぽい妄想の闇に包まれた夜を過ごすのだった。
華恵は帰宅途中に、きっとホテルを経由している。
その証拠に、自宅からいそいそと出かけていくときに脚に通していたはずのストッキングが、微妙に色違いになっていた。
そんなこと、華恵にいちいち指摘することは、とうとうなかったけれど。
色違いのストッキングを脚に通して何食わぬ顔をして帰宅する専業主婦を、
家で胸をずきずきうずかせながら待ちわびていたことは・・・いまなら告白できるだろう。
案外と。
色違いのストッキングを脚に通して何食わぬ顔をして帰宅する華恵のことを、
からかう余裕さえ、いまならあるかもしれない。

名もないホテルで遂げる、不倫のベッドのうえで。
主婦として装いを、不倫の床の上で惜しげもなく、情夫に破り取らせているのだろうか?
いったいどんなふうに服を脱がされ、どんなふうに髪を振り乱し、
ゆるみ切った口許から白い歯を覗かせ、まつ毛をピリピリと震わせながら、
あらぬことを口走っているのだろうか?
「主人に悪いわ、不貞になっちゃうわ」
人妻らしい抗いの言葉はきっと、夫のために操を守るためではなく、
むしろ情夫をそそらせるために口にされているはず――
そこではきっと、やはり情夫をそそらせるため、
ぼくの名前まで口走られてしまっているに違いない――
母さんのときと同じ昂奮が、ぼくを支配し始めていたのだ。


父さんの一周忌は、少し遅れてとり行われた。
「私たちにあてつけたのかしら」
初めての結婚記念日とさして変わらない日取りを告げられた華恵は、少しだけ不平そうにして、整った顔立ちに険を滲ませたが、あえて姑に逆らおうとはしなかった。
母さんの賢母ぶりと、(一見)潔癖で厳しい生活態度に、一目おいていたからだ。

その日母さんはお寺の隅にぼくを呼んで、このあいだと同じことをぼくにいった。
「四十九日のときには、法事のあとで家で一席もうけたけれど。
 きょうは華恵さんを家に連れてきてはいけません。まっすぐお帰りになるのよ。
 言ったでしょ?うちには吸血鬼がいるのよ。
 私たちは良いけれど、華恵さんまで血を吸われてしまうわ。
 男なんだから、わかるでしょう?
 それは夫として、避けなければいけないことよ」
その日母さんは、黒一色の喪服を着ていた。
その様子は息子の目からも、亡くしたばかりの夫を弔う、貞淑な未亡人そのものに映った。
けれども妹の加代子からは、聞かされていた。

――母さんたらね、喪服脱いじゃったの。
   どういうことか、お兄さんならわかるでしょ?
   そう、恋人ができたの。
   その恋人って、吸血鬼なの。
   母さんは看護婦だから、血を吸う相手にこと欠いているそのひとをうちに連れてきて、
   いつも脚や首すじを咬ませて、お仕事の延長みたいな顔をして、輸血をしているのよ。
   いつもは大概、肌色のふつうのやつなんだけれど。
   ふつうのやつのほうが、彼の好みに合うんだって。
   かえってそういうほうが、エッチだと思うけど。
   え?わからない?お兄さん鈍いわね・・・

――母さんたらね、白のストッキングを愉しませちゃっていることもあるのよ。
   ウン、現役の看護婦として、いつも病院で穿いているやつよ。
   やっていることが輸血なわけだし、
   お仕事の責任感は強いらしいから、見習わなくちゃいけないかもだけどね。

――そうそう、喪服を脱いだ母さんがこのごろ黒のストッキングを穿くのは、
   父さんを弔うためなんかじゃないわ。
   そのひとを悦ばせるためだったりするの。
   きょうの喪服姿だって、法事から帰ったらすぐに、あの人に襲わせてしまうつもりよ。
   喪服の未亡人を征服するのって、男のひとがすきそうだから――
   いま穿いているストッキング。
   あと1時間も経ったらにはびりびりに破かれて、みるかげもなくなっているはずよ。
   あたしがいま履いているハイソックスも、同じように咬み破られて、
   吸い取られた血で濡らされちゃうんだけどね。
   あたしこのごろ、制服で相手してるんだ。
   処女の血が好きなんだって。ちょっぴりだけど、ドラキュラ映画のヒロイン気分よ。

妹はさいごに自分の境遇をそう付け加えて、イタズラっぽくウィンクした。
母さんの情事をのぞき見して焦がれた日々の記憶が、ありありとよみがえってきた・・・

「ご実家にごあいさつに伺ってお線香あげていきましょうよ」
なにも知らない華恵に言われるままにぼくは、法事のあとは家に顔を出すよと、母さんの意図とは裏腹なことを二人に告げていた。
「一年たったら浮気を認める」
結婚前のその約束は、いまぼくの意思で果たされようとしている――
華恵の一方的な思惑で、すでに果たされてしまっている約束だけれど。


息子の嫁がむざむざと吸血鬼の餌食になることを心配しているのか。
喪服の情事があと延ばしになったことを残念がっているのか。
母さんのしかめ面は、どちらからきているのだろう?
ふとそんなことを思い浮かべながら、ぼくたちは順々にお線香をあげ、
それから飲み物の置かれたテーブルに着いた。
一席もうけるはずではなかったから、なんの用意もなかったけれど、
おしるしばかりの、あり合わせのビールで乾杯することにしたのだ。
酒好きな華恵は、これが目当てで敷居の高い実家にすすんで足を向けたのだ。

華恵はこの日ばかりは、日ごろの浮気症をおくびにも出さず、ひたすら従順な長男の嫁を演じ切るつもりのようだった。
気持ちの切り替えの早いひとで、「きょうはこれ」と決めたら徹底的にそれに専念する集中力を持っていた。
だから職場でもやり手で通っていて、いまでも華恵を懐かしむ人たちから声がかかるのも無理もないというほどだった。

背後から視線を感じてふと振り返ると、そこには父さんの写真立てが置かれていた。
母さんの部屋にいつも立てられているものだった。
この日のために、特に持ち出してきたのだろうか。
ぼくには、父さんがぼくのほうを見て、笑っているような気がした。
父さんの呟きが、幻聴のように耳に響く。

――しょうのないやつだな、華恵さんをこの家にあげてしまって。
   どうなっても、もう知らないぞ。
   でも、お前はお前で、そういうことを愉しんでしまいそうだね。
   やはり・・・血は争えないということのようだね?

父さんは生前から、母さんの浮気を知っていたのだろうか?
そうだとしても許してしまいそうな気弱な優しさを、父さんは持っているように感じた。
そして華恵に唯一いまでも褒められる「優しい人」という評判は、父親譲りなのだということも、よくわきまえてしまっていた。
華恵が日常的にくり返している浮気を通して・・・
気弱な優しさなのか。
淫らな優しさなのか。
譲られているぼくにも、よくわからなかった。

早くもほろ酔いになった華恵は、制服姿の義妹をつかまえて、いった。
「加代子さんがどんな彼氏を連れてくるか、今から楽しみ」
年長の女が年下の女の気負いをからかうときの目になっていた。
けれどもそこにいくばくかの本音が含まれていることを、夫であるぼくは察している。
そう、加代子のだんなが目ぼしい男だったら、義妹に隠れて愉しんでも良いかも――彼女は間違いなくそう考えているのだ。
過去になん人もの男の愛撫を受けた好色な肌が、清楚な黒のストッキングに淫らに透けているのを横目にしながら、
ぼくは夫らしからぬ想像に、人知れず胸を高鳴らせる。
はたしてぼくの将来の義弟は、義理の姉の熟れた肉体に酔い痴れる特権を得るのだろうか?

「あなたたち、結婚一周年になるのね」
乾杯のあと、母さんは思い出したようにそういって、すすんでグラスを挙げた。
「じゃあもういちど、乾杯。こんな席でなんだけど」
3杯のビールと1杯のオレンジジュースとが、コップを交えて音を立てた。
ひと息に飲み干したあと。
華恵がいつになく酔いをつのらせて、寄り目になっているのに気がついた。
大酒をくらったあと、情夫たちとの逢瀬をひと晩じゅう愉しむほどの女である。
このていどの振舞い酒で、酔いつぶれるような女ではないはずだった。
しかも、みんなで分け合うたった一本のビールで、そんなことになるわけがない。
母さんの目が意地悪そうに、そんな嫁の醜態に注がれている。
薬が入っている・・・?
ぼくは母さんが看護婦だったのを、改めて思い出した。

そういうぼくの身体にも、変化が起きていた。
身体じゅうの血管がほてったように熱くなり、血液がぐるぐるととぐろを巻くように全身をめぐるのを、ありありと感じる。
母さんのことだから、夫婦ながら生き血を吸い取られるという苦痛や屈辱を、少しでも和らげるために一服盛ってくれたのだろう。
そうだった、この家には吸血鬼がいたんだ。
そしてぼくたち夫婦の血は、その男の欲望のために充てられる。
男のぼくでさえ、例外ではないのだ。
だってぼくの血は、真面目で優しい父さんと、気丈で男あしらいに長けた母さんから受け継いだ血。
なによりも、彼が気に入っている加代子の血と同じ味がするはずだから。
目の前で、華恵が姿勢を崩して、座布団の上に覆いかぶさるようにくたりと倒れた。
ぼくもそれにならうように、あお向けにぶっ倒れていた。


くちゃ、くちゃ。じゅるうっ。
人をくったような耳障りな音にわれにかえると、
身体の上に重しが乗っかっているのを感じた。
それが母さんの情夫であることは、さすがに鈍いぼくでも、いちいち説明されないでもそれと察しがついていた。
彼はぼくの首すじに食いついて、ワイシャツの襟首を濡らしながら、旨そうに血を啜りあげていた。
「初めまして、ではなかったね。このあいだ独りで家にいらしたときにお目にかかった」
初めての昂奮が過ぎ去るのを待ちかねるように、男はぼくに話しかけた。
切羽詰まった欲情を何とかするため、まずぼくの血を吸って気分を和らげ、言葉つきまで和らいだのを見定めてから話しかけてきたようだった。
組み敷かれた下から見上げる瞳が若やいでいるのは、ぼくから吸い取った血液のせい――
目を合わせたその男は、口許をぼくから吸い取った血で、濡らしていた。

「きみの血は、母さんやカコちゃんの血と同じ味がする」
わざわざ加代子のことを、母さんと同じように「カコちゃん」などとなれなれしく呼ぶことで、
彼は彼なりの親近感と、ぼくの母さんや加代子との距離感の近さとを、同時に示してきた。
「喉が渇いた時にね、
 通りかかったお母さんにお願いをして、
 勤め帰りに待ち合わせて献血していただいたのがなれ初めです。
 それ以来、貴方のご家族の生き血は、私の喉を嬉しく潤してくれている」
「母や妹の血が、気に入っていると仰るのですか?」
ぼくは知らず知らず、敬語になっていた。
いままでの母さんの情夫たちと表向き顔を合わせたときと、同じように。
母親を支配されたということは、父親に近い存在になったということだ。
そしていまの彼と母さんとの関係を、父さんが許している以上、彼のことを父親に誓い存在として認めないわけにはいかなかった。
彼はぼくの問いに肯いてくれて、ぼくはその肯きを嬉しいことだと感じていた。
「だとすると、ぼくの血もお好みに合ったということでしょうか」
「そういうことです」
「お口に合って、なによりです」
ぼくは思わず、そう応えていた。
「あなたはそう言ってくださる方だと、思っていた」
彼はいった。
「お母さんは、あの子は悔しがるから、息子夫婦を襲うのはやめてほしい――と願っていた。
 けれども私は違うと感じた。
 きみに関する目利きに限っては、どうやら私の勝ちのようだね」
「どうやらそのようですね」
ぼくの首すじにつけた傷口に唇を近寄せて、彼は再びぼくの血を吸ったけれど。
ぼくは抗いもせずに、彼の行為を受け入れていた。
自分の血が喉を鳴らして飲まれてゆくことに、むしろ満足を感じていた。
ぼくは、恋人からの初めてのキスを受け入れる少女のように、彼の吸血をくり返し受け入れた。
そして、母さんから受け継いだ血液が旨そうに摂取されてゆくことを、くすぐったく感じた。
母さんは、ぼくたちに食事を用意してくれる代わりに、
自分の情夫のためには、息子夫婦の生き血という食事を、用意していたことになる。

「母は所帯持ちの良い主婦でした。
 いまでも貴男のことを賢明にもてなしているということですね」
「そのとおりです。彼女は看護婦としても、きっと優秀です。
 この重症患者に、輸血を過不足なく施してくれていますからね」
彼はそう答えると、ぼくの血をさらにもうひと啜りした。
軽い貧血を起こして眩暈を感じながらも、ぼくは彼の行為をやめさせようとは思わなかった。
彼がほんとうに、ぼくの血を気に入っているのだと感じたから。

「ほんとうなら、今のぼくはハムレットのような立場のはずですが。
 ぼくはハムレットのように、父の仇を取るタイプではないようですね。
 むしろ、父から王冠とお妃を奪った叔父と和解して、ふたりの再婚を祝ってしまうタイプのような気がします。
 父もまた、自分の妃に邪心を抱く弟の本望を好意的に遂げさせるようなタイプだったと思います。
 生前に逢ってもらえなくて残念でしたが・・・
 でも降霊術とやらで、貴男は父とも交流しているそうですね。
 彼が生きているうちに貴男に逢って、父王のような立場にたたされたとしても、
 きっと殺されることはなかったと思います。
 あくまで寛大に振る舞って、貴男を妃の愛人として迎え入れてしまったことでしょう」
「ハムレットも立派な王子だけれど」
かれはいった。
「きみも、わきまえのよくできた素晴らしい王子様のようだね。
 もしもきみがハムレットで、叔父がオフィーリアを欲したら、
 悦んで未来の花嫁を誘惑させたのではないだろうか?」
「オフィーリアはそこに倒れています」
ぼくは華恵のほうを見やった。

華恵の身に着けた高価な喪服は、まだ乱されていなかったが。
倒れた拍子にスカートのすそが乱れたのが、まだそのままになっていた。
黒のストッキングに包まれたひざ小僧が、薄手のナイロン生地になまめかしく透けていて、
貞淑な未亡人というよりも淫乱な娼婦のフェロモンがにじみ出ているようだった。
淑やかであるべき装いさえも、刺激的なたたずまいに変えてしまう。
そんなところを、母さんも察したようだった。
「若い人はこれだから、困るわね」
母さんはそんなふうに苦笑して、座をはずしていく。
若い人はこれだから困るわ。
華恵さんは男を、性急に引き寄せてしまう。
(実際には気絶しているだけだけれど)
そしてこの子まで、奥さんの貞操をあっさりと親友に譲り渡してしまう。
(強奪同然にされているだけなのだけれど)
きっと母さんは、そんなふうに言いたかったに違いない。
母さんが座をはずしたのはきっと、初めての刻を迎える嫁のために、自分のお愉しみは少しばかり先延ばししてもよいつもりになったのだろう。
それとも、自分と似て気性が強く、従順ではない嫁の醜態を目にすることを、小気味よく感じているのだろうか?
「そんなことないわよ」
あとで母さんは、ぼくにそういった。
「あなたたちまで仲間になってくれるのが、じつは嬉しくってならなかったの」
嫁の受難を肯定的に受け入れたことで、ぼくもまた、母の「仲間」の一員になっていた。

「おふたりはきょうで、新婚1周年になるそうだね。
 おめでとう。
 わしもきみたちの夫婦仲を、祝わせていただくよ」
そう囁きかけてくる男には、好色なものが漂っている。
どういう祝いかたをするのか、同じ男であるぼくには、はっきりと察しがついていた。
夫としては避けねばならないあしらいを、同じ男として許してやろうと思っていた。

口許を弛めて華恵に咬みつこうとする男を引き留めるようにして、ぼくはさすがに胸騒ぎを覚えて、口走っていた。
「ぼくは・・・華恵を奪われてしまうのですか?
 彼女の生命は保証していただけるのですか?
 ぼくは華恵と離婚して、正式に華恵をお譲りしなければならないのですか?」
ちょっとだけ切実さをにじませたぼくをなだめるように、彼は答えてくれた。
「お察しのとおり、ぼくはきみの見ているまえで華恵を征服して、きみから奪うつもりだ。
 だんなに見せつけながら人妻をものにするのが好みなのでね。
 ご主人としてはわしの趣味は迷惑きわまりないものだろうけれど。
 けれどもそれ以外は、いままでどおりにするがよい。
 わしはお母さんや妹さん、それに華恵を支配するが、きみを排除するつもりはない。
 きみのお父さんから昭代を寝取ったのと同じように、
 きみの嫁である華恵をこれ見よがしに寝取ることが、わしにとっての悦びだからだ」
そう。
父さんが生きていたとしても、この男は確実に母さんのことを寝取ったに違いない。
そして父さんも、そうなることを歓迎はしないまでも、決して拒みはしないだろうことを、ぼくはなんとなく感じた。

ぼくの血を吸い取った男はさっきから、ぼくの妻のことを「華恵」と、はっきり呼び捨てにしている。
ぼくの妻であるはずの華恵をわざと呼び捨てにすることで、彼が華恵の新たな主人となることを宣言しているのだと、すぐにわかった。
そして、ぼくがその意思に好意的に報いなければならないことも。
父さんが最愛の妻である母さんをこのひとに捧げたときの潔さ、気前の良さを、ぼくも息子として示すことが、この家の長男の、きっと務めなのだろう――

ぼくは震える声で、華恵を貴男の愛人として受け容れますとこたえた。
ハムレットにも父王にもなれないぼくは、
自身の新妻に対してあからさまに向けられた邪まな好意を少しでもにおだやかに受け入れようと、一生懸命になっていた。
「ぼくの、最愛の、華恵を。貴男の欲望のためにお捧げします」
やっとの思いで伝えようとしたことを伝えきったとき。
ぼくは最愛の妻をみずから売り渡したことよりも、
理解ある若い夫としてもっと格好よく振る舞うことができなかったことのほうを残念がっていた。
たどたどしく途切れ途切れな声色になってしまったことを悔やむぼくをとりなすように、
彼は優しい目をしてこたえてくれた。
「きみの心づくしのご好意を、遠慮なくお受けしよう。奥さんを吸血鬼として、男として、愉しませていただく」
そう宣言すると彼は、華恵のほうに近寄り、横倒しになった顔にかがみ込むと、おでこに優しくキッスをした。
それから足許ににじり寄り、まくれあがったスカートをさらに少しだけたくし上げて、
黒のストッキングのふくらはぎを冒すように、ゆっくりと唇を吸いつけた。
悪魔の唇だと、ぼくは思った――

華恵の穿いている黒のストッキングが、淫らな唾液に濡らされる。
もの欲しげな舌なめずりの下。
淡い墨色のナイロン生地に光るよだれはじょじょに拡がっていって、
かすかな皴を波打たせ、引き攣れを走らせる。
そしてなん度めか這わされた唇の下で、ブチチ・・・ッと微かな音をたてて、ストッキングに裂けめが走った。
華恵の素肌に飢えた牙が食い込んで、生き血を啜りはじめたのだ。
ちゅう・・・ちゅう・・・
ひっそりとした音をたてながら。
華恵の血は、ストッキングのうえからヒルのようにうごめく唇の奥へと、飲み込まれてゆく。
吸血がすすむにつれて。
蒼白い素肌を滲ませたストッキングの伝線がつま先までじりじりと延びていくのを、ぼくはじりじりしながら見守った。
足許に装われた礼装、吸血鬼の不埒な舌触りを満足させながら辱められてゆくのを。
上品な装いがこれからぼくの妻の愛人になろうとする男を満足させ、悦ばせるのを。
服の上からまさぐりを受ける華恵の肉体が、受けたまさぐりに本能的にこたえはじめて、ゆるやかにうごめき始めるのを。
男の唇が華恵の唇をとらえ、ふたつの唇が合わさって、交互に吸い合い、なにかを交わしはじめるのを。
初めて母さんの浮気現場に遭遇したときのように、ぼくは息をつめて見守りつづけてしまっていた。
夜通しの飲み会の帰りには、いつも色ちがいのストッキングを穿いて帰宅してくる華恵。
けれども、家から穿いていったストッキングを、こんなふうにセクシィにもてあそばれたことは、なん回あったことだろう?

甘えるように抱きすくめてくる男に対して、華恵も媚びるようにすがりついてゆく。
掌と掌がせめぎ合い、抗いながらもさすり合う。
やがて男の掌に力が籠められ、漆黒のブラウスを引き裂いた。
その下から露わになった黒のレエスのスリップもまた引き裂かれ、
同じく装われた黒のブラジャーの吊り紐も、引きちぎられた。
さすがにわれにかえり目を見開いた華恵は、
自分を襲おうとしているのが、姑の愛人であることを確かめると、びっくりしたようにこちらを振り返る。
そして、すでに首すじから血を滲ませたぼくと目線を絡めると、あきらめたようにフフ・・・と笑った。
「ワイシャツ汚しちゃって、そんなじゃうちに帰れないじゃない」
華恵は、飢えた吸血鬼の唇を首すじに這わされながら、それを妨げようともせずにぼくにいった。
「今夜は泊っていくから、いいじゃないか。きみのブラウスも、破けちゃったし」
「ひと晩じゅう・・・か。
 長い夜になるわね。
 あなたにとっても、私にとっても。
 嫁と姑で、代わる代わる味比べしてもらおうというのね?」
「夫として息子として、かなり妬けるけれどね」
「母と妻とを同時に犯されるのって、どういう気分?」
「複雑な気分だけど・・・いや、ぼくなりに愉しんででしまっているのかも」
恥ずかしいことだけど・・・とつけ加えるぼくに、「そんなことないわ」と、華恵はいった。
「私はむしろあなたの、そういう性癖で救われる。あなたのお嫁さんのまま、このひとに抱かれるわね」
「ぜひそうして欲しい。彼ともその線で、話が付いたところだ」
「聞こえていたわよ(笑)」
夫婦の会話がつづいているあいだずっと、男は華恵に咬みつこうとはせずに、華恵の白い首すじを舐めつづけていた。
華恵の素肌を愉しみたかっただけだと、あとで言っていたけれど。
明らかに、首すじを咬んで血を吸うのを遠慮して、夫婦の会話を妨げまいとしてくれていた。

「あたしも、義母(かあ)さんみたいにされちゃうのね?あなたはそれで良いのね?」
罪悪感を打ち消すための念押しだった。
「いままでと、同じことじゃないかな」
ぼくは弱弱しくこたえた。
「そうね、いままでと同じね。それでいいのね?」
後半は、夫の目の前で交わした口づけの相手へのものだった。
そして自分の情夫になろうとする男がうなずくと、
もういちど夫目の前での口づけを、こんどはゆっくりと見せつけるようにして、愉しんだ。
すき間なく結びつけられる、二対の唇。
それは、長年の恋人同士の口づけのように、息の合った口づけだった。
心から妬けてきたぼくは、思わず口走る。
「おめでとう。ふたりの関係を、ぼくは夫として歓迎するよ」
こんどは精いっぱい、かっこよくキメたつもりだった。
じじつあとで、華恵は「あのときのあなた、今までで一番カッコよかった」と言ってくれた。
妻を犯される刻を迎えるとき。
さいしょはたしかに、どんなご主人でもたどたどしいのだ・・・
彼があとで語った言い草だ。
でも、奥さんとのやり取りは、さすがだったね。よくできたご夫婦だ。
いままでなん人もの人妻を夫の前で寝取ってきた男に負けっぷりを褒められるのは、決して不名誉なことではないと、その時思った。

そういう語らいの間にも、彼女の喪服は辱め尽くされて、裂け目を拡げ、白い肌を大胆に露出させつづけていった。
「かっこ悪いわ」
腰までたくし上げられた喪服のスカートに気がついて彼女が顔をしかめると、
「いまのきみには、似合いのポーズだ」と、男は華恵をからかった。
「もう・・・」
華恵は甘く口をとがらせてながらも、
今まで迎え入れてきた、ぼくを含めた男たちにそうしたように、
細くて白いかいなを、男の背中にまわしていった。

男の顔が華恵の喉元に埋められて、華恵は「ああ・・・」と呻いた。
決して、痛みだけのものではない声色だった。
ちゅー・・・
吸い上げる血潮の音に苦笑しながらも、華恵は男の行為を許してゆく。
自分を組み敷いている男の背中を撫でる手つきのやさしさが、それを証明していた。
「このひときっと、男としても最高よ」
たくましい腰に秘所のありかをさぐりあてられたとき、華恵はぼくに向かってそういった。
「ぼくからの、結婚記念日の贈り物――受け取ってくれるかな」
「ありがたく、受け取るわ」
そういって華恵が目を瞑ったつぎの瞬間、
男の一物が華恵の奥深くに突き刺さるのを、ぼくは感じた。
ぼく自身が犯されているような、不思議な感覚。
それは決して不快なものではなく、ぼく自身のエクスタシイにまで、結びつくものだった。

こうして華恵は、ぼくの妻でありながら、彼の所有物になった。
裂けた喪服の隙間から、白い肌をあられもなく露出させて。
大胆に、セクシィに。ときには下品にさえなって、
夫であるぼくの目の前で、私はこの人の愛人になったのよといわんばかりに、
思う存分乱れ抜いた。
優雅なウェーブのかかった髪を振り乱し、
鮮やかな紅を刷いた唇を弛ませて、歯並びの良い白い歯をのぞかせて、
長いまつ毛を神経質にピリピリさせながら、
「不貞になっちゃうわ・・・主人に悪いわ…あなた、あなたぁ・・・」
「主人のより大きいわ・・・ほかのどんな男のモノよりイイわ・・・もっと、もっと苛め抜いてぇ・・・」
と、あらぬことを口走っていた。
傍らのぼくを意識して、聞こえよがしにあの人を誉め、ぼくをこき下ろして・・・
そしてこれ見よがしに。痴態を繰り広げた。
新床のオフィーリアを譲り渡したぼくは、じゅうたんの上、股間にほとぶ白い粘液をひたすら吐き散らかしてしまっていた。
華恵が気絶すると、つぎは母さんの晩だった。
彼女は気絶した嫁の隣に引きずり出されて、嫁と同じ経緯で首筋を咬まれ、衣装を裂かれて犯されてゆく。
礼装に身を包んだ未亡人は、礼儀知らずにあしらわれ、恥を忘れて痴態に耽る――

嫁と姑は、こんなふうにしてひと晩じゅう愛されて、
ぼくは嫉妬のエクスタシイになん度もたどり着き、
加代子は母と義姉の痴態から、なにかを学び取っていった。


あくる日の朝。
一着しか持ち合わせていなかった喪服を裂き散らされてしまった華恵は、姑の喪服を借りて帰宅した。
彼女の姑は、情夫を悦ばせるために、喪服をなん着も持っていたから。
帰り道はあぶなっかしかったので、母さんがタクシーを手配してくれた。
それでよかったのだ。
なにしろ女所帯の家には、もう父さんの衣類もほとんど残されておらず、
ワイシャツを濡らしてしまったぼくまでも、妹の服に着替えてざるを得なかったのだ。
「この齢でカコちゃんの制服を着れるなんて、よかったじゃない」
華恵にからかわれながらも、ボタンが反対に着いたブラウスの襟首にリボンを巻いて、妻と同じ丈のスカートをひざの周りに揺らしながら、ちょっとだけ得意になっていた。
「いまのあなたは、男じゃないから、妻を寝取られた夫にはなりようがないわね。
 お母さんと義理のお姉さんの恥知らずなふるまいで、
 カコちゃんといっしょに性教育のお勉強をしたお嬢さんというところかしら?」

夕べべそをかきながら、妻を寝取られていった若い夫は、
いまではすっかり妻の情夫に心服していて、
いつでもうちに遊びに来てほしいと、お別れの握手まで交わすようになっていた。
タクシーの運転手さんはふしぎそうにぼくを見たが、それ以上なにも言わずハンドルを握りなおした。

いまでもぼくは、最愛の妻を支配されてつづけている。
けれどもそのことになんの後ろめたさも、罪悪感も感じていない。
恥知らずに浮気に出かけていく妻を、恥を忘れてにこやかに送り出して、
独り残った家のなか、いまごろ妻がどんなふうにされているのか?と妄想を膨らませ愉しんでいる、いけない夫になりさがっている。
そして、愛妻を犯されることを歓ぶ夫になりさがったことを、むしろ嬉しく感じている。

夫の呟き。

2019年06月18日(Tue) 05:12:34

はじめに

最近ずっと続いている「看護婦・昭代」シリーズの続きです。
今回はちょっと長いので、てきとうに読み流してください。 (笑)


昭代の夫です。
わたしの死後、家内が行きずりの吸血鬼に生き血を望まれて、
律儀にも勤め帰りに待ち合わせて、無償で血液を提供して、
それも一度ならず継続的に、女の生き血を供給するために家庭に迎え入れて、
母娘ながら日常的に毒牙にかかる道を選ぶのを、まるで生きているときさながらにつぶさに見聞する羽目になろうとは――
もっともいまのわたしは、家内の善行を歓びこそすれ、忌むべきこと、呪わしいことだとは、決して感じてはおりません。
いままで語られてきたことと重複するところもあるのでしょうが、
わたしはわたしなりに、自身が視たこと聞いたことを、皆さまにお伝えしてみたいと思うのです。


死後も意識があって、
自分の身体がこの世から消えてしまったとしても、
心だけは残るものだと知ったのは、もちろんわが身がそうなった後のことでした。

自分がいなくなった家庭が冬枯れのように寂しい空気に包まれるのを、やるせない気持ちのままに看つづけていました。
家庭内でそんなに重んじられていた覚えも、ございません。
年ごろの娘との会話もさほどなく、看護婦という多忙な職業を持っている妻とも会話は途切れがちだったはずでした。
それでも3人いた家族が2人になるということが、これほど空疎な空気感をかもし出すことになるとは、思ってもいませんでした。
結婚したばかりの息子が時折新妻を伴って訪れたときにだけ、家の中はほんの少し華やぐのですが、
彼らが引き上げてしまうとまた、元どおりの静寂が訪れてしまうのでした。

わたしのいないわが家に変化が訪れたのは、1年ちかく経ったころのことでした。
実をいうと、妻とあの男とのなれ初めの場も、わたしは見ていたのです。
それを黙っていたのは、二六時中わたしに視られているなどと知った家族が、決して良い気分にはならないだろうと思ったからでした。

あの日、出勤途中に見ず知らずの男に呼び止められた妻は、怪訝そうな顔をして。
やがてなにかを囁かれて、びっくりしたように男のことを見返していました。
そして、仕事をしているときと同じ、冷静で真剣な目線を男に返すと、
二言三言なにかを囁き返して、あとをも振り返らずに、元どおりのあ歩みをふたたびつづけたのです。
いままでよりはかなり急な、そそくさとその場を離れたいような足どりでした。
相手の男が吸血鬼で、行きずりの妻に生き血をねだったことを、彼女の心の動きから読み取ることができました。


さいしょのうちは、そのような突飛な話を信じまいとする気持ちが、妻のなかでは強いようでした。
しかし病院の患者さんたちと向き合う仕事に入ると、彼女の心から雑念が消えました。
それどころではない目まぐるしい日常業務に、忙殺されたのです。
つぎに妻の彼に対する意識が戻ったのは、勤務を終え病院を出るときでした。
その時には妻の考えは、出勤してきたときとは真逆のものになっていました。
――私が約束通りに公園に行かなければ、
きっとあのひとは、見境なくほかのだれかを襲うだろう。
それは、こういう職業に携わっている自分のような者がとるべき道ではない。
家内は家内なりに厳しい職業倫理を持っていて、
その職業倫理が、
生き血をすすり取られるというおぞましいはずの体験に対する本能的な恐怖を越えて、
彼女の歩みを公園へと向けさせていたのです。
あとは、あの男が語ったとおりの経緯で、四十代の職業婦人の血液は、飢えた吸血鬼の喉の奥へと、吸い取られていったのです。

ベンチに腰かけて背すじを伸ばし、目を瞑った家内の首すじに、
男の唇がいよいよ近寄せられてゆくのを、
わたしは数歩離れた距離から、どうすることもできずにただ見守っておりました。
もちろん、吸血行為が行われているあいだ、家内のそばから離れることは可能でした。
けれども、そうすることはなぜか、潔いことではないように感じて、
わたしは棒立ちになったまま、ふたりのそばを離れようとはしませんでした。
仮に男が家内との約束を破って、
家内がそのまま生き血を吸い尽くされてしまったとしても、
指一本触れることはできないはずなのに・・・

咬まれて生き血を吸い取られているあいだ、
平静を取りつくろって目を瞑る家内の面差しはつとめて穏やかで、
けれども神経質に震えるまつ毛だけが、彼女の想いを伝えているようでした。

四十代の職業婦人の活力を、男は不当にもむさぼりつづていったのですが、
そのあいだじゅう、
わたしはえも言われぬ昂りを胸に秘めながら、
ただひたすらに佇んで、家内が吸われてゆくのをただぼう然と見守っておりました。

男に家内を吸い殺す考えがないと確信したのは、
吸い過ぎたと悟った彼が吸うのをやめたときでした。
思惑以上に性急な欲望をぶつけられた家内が、眉を寄せて額を指で抑えたとき。
彼はいいようもないほどうろたえてしまっていて。
自分のふるまいが相手の男をうろたえさせたと知った家内は、
むしろ余裕の笑みさえ含んで小休止を告げていました。
吸血される側が、吸血する側をリードするなど、どんな吸血鬼ものの映画でも、目にしたことはありません。
けれども被害者であるはずの家内は、それをこともなげにやってのけていたのです。

しばらくの間、ふたりでおだやかに会話を交わしたあと、
家内は明日は非番だと告げると、彼の欲求を満たすためにもう少しだけ、自身の血液をゆだねる意思を伝えました。
ふたりが息が合っていることを、わたしは認めざるを得ませんでした。
けれども、家内に対する吸血行為が、ただのがつがつとした捕食行為ではなくて、
おだやかなに流れる刻のうちに終始したことに、どこかで安堵を禁じえませんでした。
自らの欲望を抑えてまで紳士的に振る舞おうとした、お相手の吸血鬼氏にも、
その異常な欲望を容れて、課せられた役目を立派に果たそうとした妻にも、
拍手を送りたい気分でした。

首すじから血を吸い取らせた後、
男がそろそろと足許ににじり寄り、ストッキングを穿いた足許に唇を近寄せるのを、
表現は婉曲ながら、家内はさすがに色をなして咎めました。
「ストッキング、脱ぎましょうか?」
穏やかな声色ではあったけれど、
相手の無作法を咎める尖った気分が、ありありと伝わってきました。
きちんとした装いをした婦人のだれもが感じるように、
彼女もまた、自身の装いを辱められることをきらったのです。

既婚の夫人が夫以外の男性のまえでストッキングを脱ぐ――そんな行為自体が、じつは禁忌に触れるものではあったのだけれど。
穿いたまま破かれるよりはまし――そんな彼女の気分が、わたしにもありありと伝わってきました。

それでも男は、家内が脚に通しているストッキングを破きながらの吸血行為を臆面もなく望み、
家内はやむなく・・・という態度で、足許に這わされる唇に、なおも尖ったままの目線を注ぎ続けました。
きちんと穿きこなされた肌色のストッキングに好色なよだれを滲ませながら、家内はふたたびの吸血に応じていったのです。

それからのひと刻は、
家内の身に強いられている行為が、
吸血行為という枠を越えた猥褻なものであることを、家内もわたしも感じていました。
もちろん彼自身も、自覚していたことでしょう。
けれども、おぞましい凌辱になりかねないその行為は、
だれにもさまたげられることなく、
さっきまでと同じ色合いの、静かにで穏やかな雰囲気のうちにつづけられていきました。

堅実で常識的な婦人であるはずの家内が、ストッキングを破られながらの吸血を受け入れていったとき、
わたしは家内に対する男の想いと、
それを受け入れようとしている妻の想いとを自覚して、
かすかな嫉妬が胸を刺すのを感じました。

目を背けたい思いと、
見届けたい思いとを交錯させながら、
わたしはふたりの行為からとうとう、目を離すことができませんでした。
男は家内の前に跪くようにしてその足許に唇を這わせ、
家内はそうした男のしぐさを庇うように、男の肩や背中に手をまわし、
穏やかに撫でつづけていたのでした。


その日家内は帰宅すると、
いつものようにわたしの仏壇に行儀よく手を合わせ、
心を込めて線香をあげてくれました。
そのとき妻が帯びていたウキウキとしたようすは、
後ろめたいことをしてきた人にはみえませんでした。

娘もまた、いつになく上機嫌な母親の様子をいぶかっておりましたが、
その理由を妻が口にすることは、ついになかったのです。
「お父さんに線香をあげたとき、後ろめたい気分が全くなかった」
あとで家内は、彼とわたしの前でそう告げたものでしたが、
お線香をあげてくれた時の彼女の想いが彼との交際をつづけるきっかけのひとつになったのは、間違いありません。
お仏壇に向かうという行為で彼女は自分を取り戻して、自分の想いをもういちど反芻し、結論を手にしたのです。

それでも、彼の存在をわたしまでもが受け入れているいま――
通りがかりの家内に彼が声をかけてきたこと、
真面目な家内が勤務時間に遅れまいとして、勤め帰りに逢うといった約束をきちんと守ったこと、
彼が家内の言い草を容れて、律儀に待ちつづけたこと、
喉をからからにしていたはずの彼が、初めての吸血に欲望をあからさまにしながらも、
マナーを忘れずに家内に接してくれたこと。
家内も初めて体験する吸血行為をおぞましいことだと見なすことなく、寛容に振る舞いつづけたこと、
そのことをきっかけに、ふたりの交際が円満にスタートしたこと、
それらすべてに、わたしは深く感謝しているのです。心から――




あとからの彼と家内との仲睦まじい関係を考えたなら。
彼が家内に求愛したのが、かりにわたしの生前のことだったとしても。
わたしは彼を家内の交際相手として、受け容れてしまったかもしれません。
恥ずかしい告白をするようですが、
わたしは本来、そうした男だったのです。

わたしは生前から、
家内がわたしの取引先の複数の男性と関係を結んだのを、
見て見ぬふりをしていました。

――いうことを聞いてくだされば、ご主人の仕事がうまく運ぶんですよ・・・
かれらはいちようにそういって家内に迫り、
家内はわたしのためと思いつつ、心ならずも抱かれていって、
けれどもしまいにはその行為じたいに惑溺して、
それからはむしろ積極的に、関係をつづけていったのです。

それでもわたしは、わたしを想いながらわたしを裏切りつづける家内を咎めようとはしませんでした。
むしろ彼女がいやおうなく突きつけられた不当なはずの関係に、むしろきちんと向かい合って、
前向きな気持ちで不倫を愉しみはじめたことに、
歓びさえ感じるようになっていったのです。

妻に浮気されたことを汚名を被ったととらえたり、
取引先の男たちに内心ほくそ笑みながら付き合われたり、
そうしたことで対面を損なわれたなどと、誇り高い夫としての見栄を張ることよりも。
妻が後ろめたい思いを抱きながら暮らすことなく、
むしろ若やぎを取り戻しながら前を向いて生きていくことのほうが、
ずっとずっと良いことのように感じたのです。

いま家内は、かつて浮気を重ねたときのように、
こんどは生身の人間ではない異形のものに身をゆだねようとしていました。
けれどもそのことで、妻の身体をめぐる血液が活かされることを、悦ばしいことだと思いました。
そして――わたし自身がその献血行為にもはや加わることができないことを、むしろ残念にさえ感じていたのです。



家内が初めて彼を家に招んだとき。
そうすると決めるまでには、かなりの時間がかかりました。
血に飢えた彼のことをひとたび家庭内に受け入れてしまえば、
家内ばかりか娘までも生き血をねだり取られて、母娘ながら餌食になってしまうのです。
娘の危機を、彼女なりに考慮しないわけにはいかなかったのです。
いまはわたし自身さえもが、彼を家庭内に迎え入れた家内が、
娘ともども競うようにして血液を与えるようになった日常を、歓迎してさえいるのですが――

初めてわが家の敷居をまたいだ彼は、
”これからあなたの奥さんをいただきますよ”
とわたしに告げるべく、丁寧な手つきでお線香をあげてくれました。
お線香をあげてもらうとね、気持ちがよくなるものなのですよ。
生死の世界に通じていた彼は、そうと知りながら、きちんとお線香をあげてくれたのです。

ふつう、人妻を狙う男というものは、亭主のことなどまるっきり無視して、ふらちな欲望のままに獲るべきものを手にするはずです。
ところが彼は、わたしに敬意を払って、お焼香までしてくれました。
妻のことをそれだけたいせつに想っている――そういう想いが伝わってきて。
その段階ではもう、家内のためには彼ほどふさわしい相手はいないだろうと思わざるを得ませんでした。
わが身のことは、さておいて。

家内の抱えている寂しさをだれかが紛らわしてくれるというのなら、
たとえ彼女の身体だけが目当てだという男であっても、
もしかしたら歓迎してしまったかもしれないけれど。
彼は家内の身体だけではなく、心も満たす存在になるのだと、夫の直感として感じたのでした。

勘の良い乙女が、初めて男と逢ったとき、
その男が自分の処女を奪うであろうことを予感するといいますが、
さほど勘の良いわけではないわたしでも、
初めての吸血のときから、彼が家内の貞操を勝ち得るだろうことを、ありありと予感していたのです。

”奥さんを頂戴します”と掌を合わせる彼にわたしは、
”どうぞお手柔らかに”と、思わずにはいられませんでした。
身体においてわたしよりもはるかに秀でている彼が、
生理的な意味で家内のことを容易に満足させてしまうだろうことを、
そしてそのことが、家内がわたしをまるきり忘れる契機になりかねないということを、
同じ男として、妻を奪われる夫として、ありありとわかってしまったから。

それでも彼は、勝利者の余裕からだろうけれど、わたしへの礼儀を捨てようとはしませんでした。
”俺にとって最愛の昭代さんの、そのまた最愛のひとなのですから、俺が貴方に礼を尽くすのは当たり前のことです”
と、彼は言いました。
意外に古風なやつなのだな、と、わたしは彼に対して、すこしだけ好感を持つことができました。
そのあと彼は、よけいなことをつけ加えます。
”俺は、ご主人のまえで奥さんを征服して見せつけるのが好きなんですよ”と。
ぬけぬけとした彼の言い草に、わたしはちょっとだけむかっ腹を立てながらも、
あまりにもあっけらかんとした正直すぎる告白を、受け入れないわけにはいかないと思いました。
同じ男として、彼のしたいことが、よく理解できたのです。

これから妻を犯そうという男に対して、
ふつうの夫なら、仇敵だという感想しか持ちえないはずなのに。
けれどもわたしは彼に対して、不思議にそういう感情を抱くことがありませんでした。
その仇敵になりかねなかったはずの男に、むしろ好感を覚えることができたことを、
いまでは幸せに感じています。


いちばんの気がかりは、すでに彼に心を移してしまった家内ではなく、娘のことでした。
娘の加代子は、制服姿で彼を迎えました。
わざわざよそ行きの服を選んだことは、礼儀を尽くすということよりもむしろ、
”私は貴男を警戒している”と告げるためのものでした。
近い将来自分の純潔を勝ち得ることになる男が来たのだと、
娘はどこまで直感していたのでしょうか?
白のハイソックスの足許にしげしげと這わされる視線に、わたしは不吉なものを感じるばかりでした。
ふたりは部屋を隔ててよそよそしい挨拶を交わし、それ以上どちらからも、近づこうとはしませんでした。
娘の敷いた決壊を踏み越えなかったことは、彼にとって賢明でした。
娘はこちらに背中を向けてわたしにお線香をあげるふたりのことを、じいっと見つめつづけていました。

彼の行った降霊術は、娘の警戒心を解くのに大きな役割を持ちました。
彼と家内とわたしとは、胸襟を開いて本音を交し合い、娘はそれを離れたところからつぶさに聞き取っていたのです。
彼と家内とのなれ初めや、いまでもキスさえ交わしていないという交際の実態から、
家内の旧悪である不倫の事実や、そのことをわたしが知りながら許していたことまで、
娘はあらいざらい、知ることになったのです。
「あの時はドキドキしちゃったけど、でもなにもかも知られてむしろスッとしたわ」
家内はあとでわたしにそう告げたものですが、隠していたことを離してしまうことは、信頼しあっている夫婦のあいだではたいせつなのだと、死後になってからわかったのでした。
「あなたには申し訳ないと思っていたし、後ろめたかった。
 でもまさか、愉しんでいたなんて。 笑
 でも、それでよかったのかも。
 今度は私、彼と同じことをして愉しむわ。
 貴方も貴方なりに、愉しんでくださいね」
家内は嬉しそうに、なんのわだかまりもなく”不倫宣言”をしたのでした。
わたしもまた、胸のわだかまり――妻の浮気を知りながらそのことを黙っていて、むしろ愉しんでしまっていたことからくる後ろめたさ――が消えていました。
「きみの浮気を愉しみたい」
などと、面と向かって口にすることができるとは、生前は思ってもいませんでしたから。



いまは家内も娘も、わたしと入れ替わりに同居するようになった彼に、かわるがわる生き血を提供して暮らしています。
それぞれにひとつ部屋に彼を迎え入れて――娘は自身の勉強部屋に、家内は夫婦の寝室に――恋人のように抱きすくめられ、首すじを吸われ、脚を吸われ、胸の周りまで吸われていくのです。
かつて家内は勤め帰りのストッキングを舌で愉しまれ咬み破かれることを厭いましたが、
いまでは嬉々として惜しげもなく、ストッキングを脚に通しては辱めにゆだねるようになっていますし、
娘も母親を見習って、好んで女学生を襲ってきた彼の不埒な愉しみのために、通学用のハイソックスをなん足も血浸しにしてしまっています。
やがて娘はストッキングを穿く年代になって、母親と同じようにされてしまうのでしょう。
そう、めでたく貞操を喪失した家内につづいて、つぎに狙われるのは娘に違いないのです。
しばしのあいだは処女の生き血を提供することで見逃してもらえるのでしょうが、それも時間の問題でしょうから――


あとがき
このシリーズ、意外に長続きしています。
大概のお話は、衝動的にその場で描き切ってしまうので、長編を描くことはめったにないのですが、
続くところまでは続けてみたいと思います。

お話のテーマはいろいろあるのでしょうけれど、
看護婦としての職業意識から、自身の血液を経口的に輸血することに同意した昭代さんや、
母親ゆずりの気の強さで、ハイソックスの脚を咬まれながらもつとめて平静さを取りつくろおうとする加代子さん、
それに死後に妻の実質的な”再婚”を見せつけられる夫の、悲喜こもごもな複雑な感情を描いてみたいと思います。

タイミング ~娘・加代子のつぶやき~

2019年06月06日(Thu) 07:04:35

どういうわけか、タイミングが良いのよね――
母さんはあのひとのことをそういうと、
そうなのよ、どういうわけか断りにくいときに来るんだから――
私もあのひとのことをそういった。
夜勤で疲れて帰ってきた母さんのことは、決して襲わない。
つぎの日が非番だというときには、したたかに吸いまくるし、犯しまくってしまう。
(あらいやだ、嫁入り前の娘のいうことではないですね・・・)
私のときも、中間テストの前だからと、気を使ってくれた。
そのくせ、部活の練習試合で勝ってハイになって戻ってきたときには、
制服姿のまま組み敷かれて、首すじを吸われ、ハイソックスを血浸しにされた。
もう・・・ってふくれ面をしながらも、もう一足・・・ってねだられたリクエストにお応えして、履き替えてしまった私も私なのだけど。

彼が断わりにくい時を選んでいるということは。
きっと、衝動をこらえてガマンするときも多いということだ。
自分だけの都合で動かないところに、人間の男どもに見習ってほしいくらいのマナーの良さを感じていた。
こんどはこちらが気を遣う番だとふと思って、
そんなことを思ってしまった自分を、ばかみたい、と思った。
けれどもやっぱり、母さんも私も、気を使ってしまう。
珍しく白衣を着ることをねだられた母さんは、ナースキャップまで着けて完全武装で彼に抱きすくめられていったし、
私は私で、母の夜勤中、試験勉強中に禁欲してくれたあのひとの部屋に出向いて行って、
ストレス解消したいのといって、制服姿を襲わせていた。

きっと――
彼は私が断わらないタイミングで、私の純潔を獲ようとするのだろう。
そして私もきっと、もしかするとそういうタイミングのときではなかったとしても、
望みのものをすすんで、彼に与えようとしてしまうのだろう。

母さんのコスプレ ~娘・加代子の手記~

2019年06月06日(Thu) 07:00:55

きょうから喪服を脱ごうかな。
母さんが言った。
いいんじゃない、明るい服のほうがひきたつよ。
あたしはこたえた。
喪服を脱ぐってことはね、
父さんの未亡人として生きるのをやめて、
あのひとの恋人として生きるっていうことなのよ。
母さんは言った。
いいんじゃない?
でも母さんは未亡人なんだから、たまには喪服を着たほうがいいんじゃない?
そう、父さんを弔うためよりも――
むしろあのひとのために、着てあげたら。
母さんは、うふっと笑った。
あなたも言うわね、大人をからかうもんじゃないわ・・・と言いながら、
まんざらでもないのがよくわかった。
母娘ふたりであのひとに血を吸われるようになってから、母さんはわかりやすい存在になっていた。
私が大人になったのか。
母さんがわかりやすくなったのか。
それはいまでも、よくわからない。

母さんが、あたしの学校の制服を買ってきた。
自分用に着るのだという。
それはなにより・・・と私はいって、初めて着るのを手伝ってあげた。
姿見のなかの母さんは、まるでいつもの母さんとはちがっていて、
女学生の昔に戻ったみたいにみえた。
勤めに出るときにいつもキリキリと頭の上に巻いてしまう髪の毛を、
お嬢さんみたいに肩に流していたのが、よけいにパンチ力を発揮したのだ。
こんど、おそろいの制服で、ふたりで吸われてみようね、と囁かれて。
それ、面白そう・・・!って、思ってしまった。
一瞬、母さんのことが同級生のように思えてしまった。
そして数日後、
私たちは父さんのお仏壇のまえで、おそろいのスカートのすそを血で浸しながら、
齢の順に生き血を吸い取られていった。
そうされているあいだ、ふたりはあお向けに横たわりながら、
本当の同級生のように、手と手をつなぎあっていた。

母さんは、白のストッキングも、好んで穿いた。
それは、勤務先で脚に通しているのと同じものだった。
堅物の母さんは夏でも厚手のタイツを履いていることが多かったけれど。
あのひとを満足させるために喪服のスカートから覗くストッキングが肌の透けるものになってからは、
勤務先でも脛が透けるストッキングを穿くようになっていた。
そもそも、どういう風の吹き回しだったのだろう?
あのひとと出逢ったあの日にかぎって、母はスカートの下に肌色の透けるストッキングを穿いていたのだ。
タイツだったとしても、目に留めたよ――あのひとはきっと、そういうに違いないけれど。
母さんはいまや、あのひとを悦ばせるためにだけ装う。
白のタイツは全部、あのひとのために咬み破らせてしまっていて、もう冬場までお目にかかることはないだろう。
いまではもっぱら、勤務先に穿いていくのは薄地のストッキング。
勤務中に脚に通しているストッキングを破りたがるあのひとのため、思うままに破らせてしまっている。
けれども白衣はあまり、着たがらない。
手術のときのことを思い出してしまうから。
だからあのひとも、彼女に白衣姿を強要したりはしない。
けれども白のストッキングは好物で、
きみの天職を辱めているわけではない――とか囁きながらも、
ふらちなイタズラをネチネチとつづけ、白く濁ったよだれをぬらぬらとしみ込ませてゆく。

母さんに、好きな人ができた ~娘・加代子の手記~

2019年06月06日(Thu) 06:53:12

母さんに、好きな人ができた。
父さんがいなくなってからずっと、独りで看護婦していて、
家族の会話も人が少なくなった以上に、めっきり減った。
母はもちろん優しかったし、しっかり者で通っていたから、生活にはなんの不安も感じなかったけれど。
それでも話し声や笑い声がぐっと減ってしまったのは、私なりにかなりこたえていた。
うちはこのまま、先細りになってしまうのかも・・・ふとそんな予感がかすめて、ぞっとしたこともあった。
留守がちになった家のなかは冷え冷えとしていて、たまに顔を合わせても気まずい沈黙が漂うことが、少なくなかった。
そんなある日、母さんは珍しく、ウキウキとした顔をして病院から戻ってきた。
父がいなくなって以来、絶えてみないほどの明るさに、私までもがいままでのことを忘れたように快活になっていた。
その日は母さんは、自分がご機嫌な理由は決して口にしなかったけれど。
私はこの明るさがいつまでも続いてくれると良いなと思っていた。
男の人と逢っている――
なんとなくそう感じるようになったのは、それから数日後のことだった。
その日帰った母さんは、ハミングしながら晩御飯の支度をした。
こんなことも、絶えてなかったことだった。
数日前ご機嫌で家に帰ってきて以来、しばらくトーンダウンしていた母さんの明るさが、また華やぎを取り戻していた。
母さんに好きな人ができた――
私はちょっとだけ、複雑な気分だった。
父さんのことを忘れちゃったのだろうか?という想いもあった。
けれどももうひとつの想いは――口にするのも恥ずかしいけれど――母さんが私以外のひとに注目し始めたことが、娘として複雑な気分だったのだ。
家に二人きりでいたせいもあるかもしれないけれど・・・
それは私がまだまだ子供だ――ということを、自覚してしまったような気分だった。

そんな日々が続いてしばらく経ってから――
とうとう母さんから、決定的なことを聞いてしまった。
口火を切ったのは、母さんのほうだった。
「母さんに恋人ができたといったら、あなたどう思う?」
恋人――私がまだいちども口にしていない言葉を口にしたとき、母さんはちょっぴり照れくさそうにしていて、そんな母さんのことが可愛く思えた。
私は、えー?良いんじゃない?どんなひと?と訊いた。
母さんの恋人というひとの話を聞こうとしたとき、
私自身が同じ女性の目線になっていることに気がついた。
私も母さんと同じくらい、ウキウキとした気分になっていた。
けれども母さんが語り始めた「恋人」のイメージは、ちょっと変わっているなと思った。
たしかに――母さんは父さんのことを愛していたと思うから、ふつうの人に心を移すわけはないとは思っていた。
だから、相手の男のひとが、勤め先の病院のお医者様とか、患者さんとか、趣味のサークルの連れ合いをなくした退職者のおじいさんとか、そういうありきたりな人ではなかったことに、不思議な嬉しさを覚えていた。
吸血鬼だときいても、怖いという気がしなかった。
むしろ、母さんがその男のひとと、どこまで進んでいるの?とか、そんなほうに関心が移ってしまって、たいせつなことを切り出したはずの母さんを閉口させてしまっていた。
母さんがそのひとを家に招ばないのは、そのひとが吸血鬼で、
いちど家にあげてしまうと、あとはいつでも自由に我が家に出入りできるようになってしまって、
そのうち私の血まで狙うようになりかねないと、警戒してのことだった。
かりに母さんのことがどんなに好きでも、人の生き血を求める習性はどうにもならなくて、どうしてもそういうことになってしまう・・・と、母さんは私に説明した。
そのひとを家に招ばないのは、恋人の娘であっても見境なく襲われてしまうということに母親としての危機感を持ってのことだったと知って、私はむしろ嬉しい気がした。
そのひとを私から隠したくて招ばないわけでは、決してなかったからだ。
けれども母さんのなかでは、じょじょに考えが変わっていったようだった。
むしろ、「たいせつなカコちゃん(私のこと)の血だから、吸わせてあげたい」と思うようになったそうだ。
母親が吸血鬼の情婦となり、浮気相手の求めるままに娘の血を吸わせてしまう――
場合によってはそんなふうな、身の毛もよだつシチュエーションだったのかもしれないけれど。
私はむしろ母さんの気持ちを、納得づくで受け入れ始めていた。
だって、母さんは私ひとりの母さんだし、その母さんが自分の血を吸わせている相手に、たいせつなまな娘の血を与えたがっているのは、むしろ自然な気持ちだと感じるようになっていたからだ。

連れてきたその人は、思ったよりも若く、ほっそりとしていてハンサムだった。
あとでそのひとともっと親しくなったときそう言ったら、「ハンサムだといわれたことはいちどもない」と言っていたけれど――
吸血鬼が我が家の敷居をまたぐ――いよいよそのひとが家に来たときは、さすがの私も身構えてしまった。
そんな私の雰囲気を察したのか、母さんもそのひとも無理に近づこうとはしなかった。
意図的に距離を置こうと、隣の部屋からドア越しにあいさつを交わす失礼を、
むしろとうぜんのように受け入れてくれた。
初対面になるそのひととあたしとは、ぎごちない挨拶を交し合った。

ちりん、ちりぃーん・・・
お仏壇にあげられた線香の香りが廊下にまで漏れてきていた。
どうやらそのひとは、母さんとことに及ぶまえに、父さんのお仏壇にお線香をあげているらしかった。
細目に開いたふすまごしに窺うふたりはこちらに背中を見せていて、
身内の人がなき人の写真に向き合うときとまったく同じように、心を込めて額づいている。
良いひとなのだ――と、素直に思えた。
そうでもないわよ、と、あとで母さんはいった。
「要するにね、”これからあなたの奥さんをいただきますよ”っていう、けしからぬご挨拶だったのよ、きっと」
そういって、私が示したあのひとへの敬意に冷や水をあびせながらも、母さんは楽しそうに笑っていた。
お線香をあげたあと、母さんはそのひとに求められるままに首すじをゆだね、思う存分血を吸わせたのだった。
母さんの身に降りかかる吸血シーンを初めて目の当たりにした私は、つい目を離せなくなっていた。
そのひとは母さんの首すじを咬んで生き血を吸い上げ、
母さんがうっとりとしてその場に横たわってしまうと、こんどはスカートをたくし上げて太ももを吸った。
母さんの穿いていた肌色のストッキングを破りながら――
そのひとはもしかすると、母さんのストッキングも愉しんでいたのかもしれない。
脚に咬みつくまえに、まるで脚の輪郭をなぞるようにネチネチと、ストッキングをしわくちゃにしながら舐めまわしていたから。
日頃は厳しくて潔癖で、身なりもきちんとしていた母さんが、そのひとの前では従順で、身に着けた衣装に対するふしだらな仕打ちを唯々諾々と受け容れている――
好きになるということは、受け入れがたいことさえ許してしまうことなのだ――と、母さんの態度をみてそうおもった。
その日ふたりがしたのは別れ間際のキスだけで、そのものずばり・・・は、とうとうなかった。
キスにしても、そのときのキスが初体験だったと、あとで聞かされた。
けれども、お仏壇を前の献血行為は、あきらかにラブ・シーンと呼ぶべきものだと私は直感した。
ふたりとも、父さんのことを辱める意図は、まったくなかったと思う。
けじめを重んじる母さんは母さんなりに、新しい恋人ができたことを父さんに報告したかったのだろう。
もはやあなたの妻ではない――という意思表示をすることで、母さんなりにけじめをつけようとしたのかもしれなかった。
それは少し寂しいことだったけれど、仕方ないのかもしれないと思った。

そのつぎにそのひとが現れたとき、そのひとは父さんの霊を招き寄せた。
なにかのトリックだなどとは、まったく思わなかった。
うっすらと輪郭が透けて見えるその姿は、間違いなく懐かしい姿だった。
家のなかで家族三人がふたたび揃う――そんな奇跡をくれたそのひとに、むしろ感謝したい気持ちだった。
父さんは母さんに恋人ができたことを「おめでとう」とよろこんでいた。
優しい父さんらしいなと思った。
もともと優しくて控えめだった父さんは、母さんが連れてきたそのひとにも穏やかに接した。
そして、そのひとのことを「よろこんで家庭に迎えたい」と告げて、「最愛の妻の貞操を差し上げます」とまで言ったのだ。
三人の合意はすぐにできた。だって、三人とも、同じようなことを考えていたのだから。
母さんは、父さんのことを決して忘れないと約束した。
だからだれとも再婚はしない、このひとともずっと、あなたの未亡人のままお付き合いをすると告げていた。
そして父さんも、母さんが自分の未亡人のままそのひとの恋人になることに同意した。
父さんも寂しくはなく、母さんは恋人を得、そのひとは人妻とのいけないラブ・ロマンスを愉しむ――という三者三様の幸せ。
私ももちろん、いなやはなかった。
母さんが父さんと決別してけじめをつけるのではなくて、ふたりの男性の間でうまく折り合いをつけようとしたこと、
父さんも母さんと同じように、吸血鬼だからといって分け隔てをしようとしなかったこと、
そしてお互いがお互いの立場を思いやり、それぞれの居場所を見出したことが、私をびっくりさせていた。
急転直下――といいたいくらい、話がすぐにまとまったからだ。
それからは注目の・・・いや、そこから先は、娘としては語るべきではないのだろう。
母さんは父さんのお仏壇のまえで、初めてそのひとに抱かれたのだから。
いや、正確には、さすがに父の前での情事にしり込みをした母さんは自室にそのひとを引き入れて結ばれて、
交し合った情熱の残り火にひかれるようにしてお仏壇の前に戻ってきて、ふたりが幸せに結ばれたことを、着崩れした喪服姿からあらわになった素肌を吸われながら報告したのだ。

私も、その日のうちに忘れられない体験をした。
母さんを抱いた直後、そのひとは二人で過ごした居間から出てきて、
母さんが失血で気を失ったすきに私を抱いたのだ。
処女の生き血が好きだというそのひとが、私のことを初手から犯したりはしないだろうと思ったし、事実私が処女を卒業したのは、もっとあとのことだった。
彼に抱きすくめられた私は、自分のなかですぐに決意がまとまったのを自覚した。
猿臂にまかれることを本能的に抗おうとした身体は、いつの間にか自律的にしゃんとしていて、自分でもびっくりするくらいはっきりと、お相手をさせていただきますと告げていた。

ふたりの情事を覗いていた後ろめたさもあって、私は罰ゲームを受け入れるいたずらっ子のような気分で、彼の行為を受け入れた。
やはり、結婚前の娘が、母親の情事をのぞき見するというのは、よくないことだと思っていた。
もっともあのひとに言わせれば、きみは貴重な体験をした、ということになるのだが。
いよいよ吸血されると自覚したら、ちょっとだけ脚がすくんだ。
怖かったので、テレビをつけてもいいかと訊いたら、もちろんかまわないと言ってくれた。
震える手でテレビのスイッチを入れた。
なにを放送していたのか、全く頭に入ってこなかった。
彼はそろそろと私の足許ににじり寄った。
事前に、母が脱がされたストッキングを見せられていたので、彼が私の履いているハイソックスが目当てなのだとすぐにわかった。
制服を汚すのを避けて、私は私服を着ていた。
血浸しになってしまうことを考えたら、もちろん着古した服を着たほうが賢明だったのだろうけれど、
私はそうする気にはならなかった。
たいせつな初体験の記憶は、きちんとした服と一緒にとどめておきたかったから。
咬み破られてしまうと知りながらも、ハイソックスも真新しいのをおろしていた。
へんに節約を考えて、履き古しを脚に通してお相手することで、恥を掻いてしまいそうな気がした。
私の予感は正しかった。
彼は舌なめずりをくり返しながら、ハイソックス越しに舌をふるいつけてきて、
しなやかなナイロン生地の感触を愉しむように、しばらくのあいだ真新しいハイソックスに唾液をすり込むことに熱中したのだから。
私の履いている白のハイソックスを咬み破りながら、そのひとは初めて私の血を吸い上げた。

十代の若い血液が彼を愉しませたことには、多少自信があった。
母さんが情事のあとに覚えていた貧血よりもずっと思い貧血が、その確信を裏づけた。
うっかり吸い過ぎたことを悔いて、あのひとは終始私の背中をさすりながら、親身に介抱してくれた。
初体験を愉しんだばかりの母さんのあと、私まで交えてしまったことを、ちょっとだけ後ろめたく思ったけれど、
やがて起き出してきた母さんは、むしろあのひとと私とのことを祝ってくれた。
このひとの干からびていた血管のなかを、母さんの血とあなたの血とが、仲良く織り交ざってめぐっているのよ――
母さんはそういって、満足そうに目を細めた。
そして、あなたも大きくなったわね、と、優しく笑った。
まるで、初潮を迎えたときみたいに――

余韻

2019年06月01日(Sat) 16:19:55

夕陽のなかのラブ・シーンは、ふたたび生々しいまぐわいへと変わっていた。
長い長い口づけを終えると彼女は、
お仏間で報告しなくちゃね。
そういうと俺の手を引くようにお仏壇の前へと俺をいざない、
すすんでブラウスのボタンを二つ三つはずした。

このひとの未亡人として、貴男に抱かれるわ。
そのほうがこのひとも寂しくないだろうし、
貴男も娘に平気で手を出すことができる。
あたしと貴男との関係が、義母と娘婿になってもかまわない。
でもほんのしばらくは、あたしだけのあなたでいて。
どうしても若い子を抱きたくなったら、
あたし、あの子の制服を借りて、あの子の身代わりになって抱かれてあげる――

あんたの足許には、ストッキングのほうがお似合いだ。
勤務中の白いやつも。
旦那を弔う気分のときの、黒いのも――

俺はそういいながら彼女をご主人の写真のまえで抱きすくめ、
唇を吸い、うなじを吸い、胸元をまさぐって、股間に臆面もなく手をすべらせた。
彼女も俺の求めに応えるように、
夫の写真のまえで身体を開き、あえぎ声もあらわに、乱れていった。

あなた、視て、視て。御覧になって――と、くり返しながら。

昭代さんの願い

2019年06月01日(Sat) 16:16:06

熟妻の熟れた血潮。
女学生の清冽な血潮。

母娘ながら同時に咬まれていった女たちの身体からもたらされたふた色の血液が、
俺の喉と胃の腑と心とを、暖かく染めていた。

ふたりの身体から吸い取った血は、母娘らしく仲良く織り交ざって、
他では得られない歓びと力とを、与えてくれた。

おれはもういちど、ご主人のお仏壇に向かって、感謝の手を合わせた。
――まったく、あなたというひとは。
ご主人の霊が再び舞い戻ってきて、俺の合掌に苦笑で報いた。
――うちに上がり込んできた段階でもう、家内も娘も支配されてしまうものと観念しておりましたが・・・
というご主人に俺は、
「あなたの最愛のあのふたりを、俺は俺なりにたいせつに扱いますよ」
と、ぬけぬけとこたえた。
――娘だけは見逃してもらえるかと、かすかに期待しておりましたが・・・
  まぁ、あきらめがつきました。
ご主人の霊はただ、苦笑するばかりだった。
――わたしに視られながらするのは、落ち着かないものではないですか?
そんな気遣いまでみせてくれるご主人に、俺はいった。
「俺はけしからぬ趣味の持ち主で、旦那に見せつけながら奥さんを玩ぶのが好きなんですよ。
 むしろ愉しめました。お礼を言いたいくらいですな。
 でも案外、ご主人も愉しんでいるようですね」
そこまでいうとご主人は、フッと照れくさそうに笑ったような気配をみせ、
そして静かにその気配を消していった。

「あら、あら、まぁ・・・まぁ・・・」
ため息交じりの静かな呟きが、いかにもあきれたという声色を作って、
俺の耳もとに歩み寄った。
ため息交じりではあったが、そのため息はどこか、いたわりに満ちたたしなめになっていた。
彼女がたしなめのほこ先は俺のほうではなく、むしろ娘に対するものだった。
「こんなときでも、がんばり屋さんなんだから」
昭代さんは片方の掌で娘のおとがいに手を添え、もう片方の掌で黒髪を優しく撫でた。
おとがいに添えられた片方の掌は、そのまま肩先に滑り降りて、
肩や二の腕の輪郭をなぞるように、いたわりをこめた愛撫をくり返す。

「弱みを見せまいとして意地になって平気そうな顔をするから、
 このひと真に受けてまだだいじょうぶって思っちゃったじゃないの」
たしかに、ハイソックスを咬み破りながら吸い上げた血潮を通して、加代子さんは訴え続けていた。

”あたしは平気。まだまだ平気・・・あなたなんか、怖くないもの!”

俺も大人げもなく、少女の見栄をねじ伏せようと、やっきになった。

≪ほんとうに怖くないんだな?まだまだ平気なんだな?≫

つけっぱなしになったテレビに見入っているふりをした少女の目線が虚ろになっているのを知りながら、
俺はこの子の怯えるところを見たくなって、くいくい、くいくいと、わざと喉を鳴らしながら、加代子さんの生き血を吸い取っていったのだった。
加代子さんが吸血されているあいだ、昭代さんはずっと気絶していたはずなのに。
まな娘が生き血を吸い取られてゆくそんな光景を、正確に見抜いていた。

しょうしょうばつが悪くなった俺は、母娘のほうには振り向きもせず、
加代子さんからせしめたハンカチで、加代子さんの血に濡れた口許を拭った。
やりすぎた悪戯を隠そうとする、悪童のような気持になって。
そんなところもきっと、昭代さんは見通していたのだろう。
「お口を拭うには、こちらのほうがよろしいのではなくて?」
お母さんはイタズラっぽく俺に笑いかけ、娘のスカートを控えめにめくりあげた。
レエスのついた真っ白なスリップが眩しく、スカートのすそから覗いた。
俺はものも言わずにお母さんの手許から加代子さんのスリップのすそをひったくるようにつまみあげ、
頬にべったりと付いた加代子さんの血を拭いた。
静かになった娘の足許に突っ伏した格好で吸い取った血潮を頬から拭っている俺のことを、
昭代さんは静かに見おろしつづけていた。
すでに昭代さんのスカートはなん着も、こんなふうに吸血後のハンカチ代わりにされていた。

「残念ながら、娘の生き血も、お口に合ってしまったようですね」
すっかり身づくろいを済ませた昭代さんは、まだ蒼白い顔をしていた。
けれども彼女の表情は落ち着いていて、透き通る肌は気品をたたえ、すこし乱れた栗色の髪さえも、ふしだらなものを感じさせなかった。
「女を抱くと喉が渇く」
照れ隠しに吐いた勝手きわまる俺の言い草をさらりと受け流して、昭代さんはいった。
「せめて、お口に合ったと仰ってくださいな。痛い思いをした娘が浮かばれませんから」
後ろ半分の声色にほんの少しにじみ出た昭代さんの気持ちが、荒れた気分をしっとりと包んだ。
「娘さんの血は美味かった。つい夢中になって、やり過ぎちまった」
すこしだけ神妙な声色になった俺は、とうとう本音を吐いた。
自分の弱みを見せてしまったような気分になったけれど、
むしろそのことが、昭代さんには受け入れられたようだった。
「よくできました。素直でよろしい」
折り目正しい女教師のような口調で、婦長さんは俺の行為を受け入れてくれた。

「年頃の女の子ですから、あまり乱暴になさらないでくださいね」
彼女は暗に、これからも娘を襲ってかまわない、と俺に告げた。
「けれども――」
昭代さんは娘の血が撥ねたじゅうたんを見おろしながら、すこしだけ口ごもり、それからいった。
「娘の純潔だけは、まだきれいなままにしておいてくださいね」
それは――まったく異存がなかった。
好物の処女の生き血を、まだまだ愉しみたかったから。
「せめてあたしの気のすむまでは、まってくれないかな」
顔にはっきり書かれてあるような俺の本音を正確に読み取りながら、彼女はいった。
「気のすむって、どれくらい?」
俺の問いに彼女は苦笑して横を向く。
「そうね――そんなに待たせるつもりはないわ」
母親としての願いと言いたいけれど・・・といいつつ、昭代さんは口ごもる。
そしてしずかに、あとをつづけた。

だってあたし・・・あなたの女になったばかりなんだもの。
主人を裏切って操を汚してまで貴男に抱かれたのだから。
すこしのあいだで良いから、あたしだけのあなたでいてほしい。
これは、女としてのお願い――

加代子さんの傍らにうずくまる俺と、同じ高さの目線に彼女はいた。
その目は気のせいか、すこしだけ潤んで見えた。
俺は静かに彼女を抱き寄せ、
こわれものでも扱うようにそっと抱きすくめて、
唇に唇を重ねていった。