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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

墓地の裏のラブホテル

2019年11月25日(Mon) 07:01:26

洋装のブラックフォーマルを装った女たちが男に伴われて、一人また一人と、
黒のストッキングの脚を、ラブホテルのフロントへと踏み入れていく。
ここはお寺のご近所にある、うらぶれたラブホテル。
「ロマン」とありがちな名前の看板も、赤茶けた錆にまみれて、古色蒼然となっている。
お寺の裏手に広がる墓地の、そのまたすぐ隣。なんという立地なのだろう。
けれどもここは、知る人ぞ知る、法事帰りの未亡人たちが利用する好適スポットなのだ。

うようよ、うようよと。
夫たちの霊が漂っているのを知ってか知らずか、
女たちは恥知らずにも、夫の墓前で合わせたばかりの掌を、情夫の手に委ねて不貞に耽る。
日常の寂しさを埋め合わせるようにして。

「あ、あれは俺の女房だ」
霊魂のひとつが、そういってうめいた。
「うちの家内もさっき、入っていったばかりですよ」
べつの霊魂が、うめき声の主に囁きかけた。
「いまごろ、なにしてやがんだろうなあ。もう2時間も出てこない」
第三の霊魂の元妻は、かなりの美人だった。
「お熱いことで、うらやましいですなあ」
他人ごとのように冷やかす霊魂もまた、自身の嫁をそのホテルに呑み込まれてしまっている。

そんななか。
墓前に律儀に手を合わせる、一組の男女がいた。
「あれはわたしの家内です」
蒼白い光を放つその霊魂は、まだ新仏らしい。
指さした洋装のブラックフォーマル姿は、身体の線に齢相応の丸みを帯びていたけれど。
脂の乗り切った四十代の人妻とみえた。
「ほお、おきれいな方ですなあ。思い残しもおありなのでしょうねえ」
べつの霊魂が相槌を打つほどに、女はオーラのような魅力を放っている。
女の腕を取る男もまた、そのオーラをありありと感じ取っていて、そこに魅かれたに相違なかった。
「あいつ、吸血鬼なんですよ・・・」
蒼白い霊魂が訴えた。
「え?そうなんですか?」
「だって、私はあいつに血を吸い取られてこうなったんですからね」
蒼白い霊魂は、憤懣やるかたない風情。
「それは・・・ご同情申し上げます」
「あいつは、家内が目当てで、まずさいしょにわたしの血を吸って、それから家内を犯したんです」
「奥さん、暴れたでしょ?」
「いえいえ、さいしょは夫の仇敵だと気づかなかったんです。
 言葉巧みに言い寄られて、堕とされた後で真実を告げられて――
 でも、そうなってしまった後ですからね。
 ”そんなに私のことが好きだったの~?”って、ベッドのうえでもつれ合いながら言っていましたよ」
「それはそれは・・・ご無念でしょうね」
相槌を打つ霊魂の傍らで、べつの霊魂がいった。

「でもあなた、だとするとそろそろ生き返らされてしまいますヨ」
さらにべつの霊魂が、物知り顔に呟いた。
「え!?どういうことですか?」
「貴男、土葬にされたでしょ?だとしたら、すぐです。生き返って半吸血鬼になって、
 奥さんがモノにされるのを妬きながら、べつの女を襲って血を吸うようになるんですよ」
「それは・・・ちょっとうらやましいかもしれないなあ」
別の霊魂が相槌を打った。
そうだそうだ・・・と、霊魂たちが音にならない声で激しく同意する。

「でも・・・でも・・・ほら、ああやって・・・」
蒼白い霊魂が指さすかなた、彼の細君は夫の血を吸った吸血鬼と手を取り合って、ホテルのフロントへと身をすべらせてゆく。
薄墨色のストッキングに包まれたむっちりとしたふくらはぎが、
豊かな肉づきを墨色の印影でくっきりと浮き彫りにして、よりいっそうなまめかしい。
「あのストッキング、わしも降ろしてみたい」
「わしも」「わしも」
霊魂たちの羨望の声を、蒼白い霊魂は呪わしく思いつつ、反面誇らしくも感じ始めている。
「ひがまないことですよ、あなたこれから生き返って、すこしは好き勝手出来るんだもの」
年配らしい霊魂が、蒼白い霊魂に、そういった。

「生き返ったら、うちの家内をお願いします。どうやらあいつよりは、好感持てそうだから」
「うちの女房も、襲ってもらって良いですヨ。でもあまり泣かさないでくださいね」
同類どうしの共感からか、未亡人となった妻をプレゼントしたいという声がいくつもあがった。
「うちの家内を寝取ったら、報告代わりにあのホテルに連れ込んでください。とっくり視てますから」
「それはそれで、落ち着かないなあ・・・」
蒼白い霊魂は、ほんのちょっぴり当惑顔だ。
それでもどうやら、彼にも妻を犯されながら暮らす日常を迎える気持ちになったらしい。
彼の姿はじょじょに、さきほどの男女が掌を合わせていった墓標の近くへと、引き寄せられてゆく。
「生き返っても、あなたがたと交信できると良いですね」
「だいじょうぶ、視てますから」「視てますから」「視てますから」
多くの声に不思議な励ましを受けて、蒼白い霊魂は当惑しながら、現世に戻っていった。

しめやかな読経の洩れてくる本堂の隣室で。
男は未亡人を、組み敷いていた。
「あなたのご主人に、頼まれたんです。慰めてやってくれ――って」
男は息荒く女に迫り、耳元でそんなことを囁くと、
奥さんしか識らないご主人の生前の特徴を二、三告げ、女を黙らせていた。
はだけられた漆黒のブラウスから覗く豊かな胸もとには、すでに紅い咬み痕が刻印されている。

あなた、許して――
その言葉、なん人の男の前で吐いたの?
未亡人の作法を冷やかしながら黒のストッキングを脚から抜き取る手つきも、慣れたものになってきた。
いままでなん人の未亡人の脚から、黒のストッキングを抜き取ってきたことだろう?
夫を弔う装いのはずなのに、妖しく艶めかしい薄絹は、男たちの物欲しげな視線を惹きつける。
抜き取った薄絹たちは、手に取ると、いともなよやかに、ふしだらにふやけ切った柔らかさを、残った持ち主の体温とともに伝えてくる。

「さあ、きょうは貴男の奥さんの番ですよ――」
男はちらっと墓地のほうを見やると、モノにした未亡人と恋人同士のように腕を組んで、
さっそうとホテルのフロントへと脚をすべらせる。
「ったくっ。妬けるよなぁ」
なぜか嬉し気な響きを秘めた羨望の声が、男の耳の奥にかすかにこだました。

「キミのお義母さん、イカスなぁ」

2019年11月25日(Mon) 06:12:59

「キミのお義母さん、イイなぁ。イカスなぁ」
そういってやまなかったのは、幼なじみのK。
男色と年増女に目のない変態だ。
もっとも本人はいたって知的な紳士で、女相手だけではなくたれに対しても思いやりが深い。
表向きの顔で蟻地獄に引き込むタイプだ。
(ただし本人は、「これももうひとつの俺の真実」といってやまないのだが・・・)

Kが妻の母を褒めたのは、場所もあろうに披露宴の席上のこと。
なん度もビールを注ぎに来ながら、「あまり飲み過ぎるなよ」といって、
人目に立たないようになみなみと注がれたコップの中身を足許のバケツに捨てさせてくれた。
うら若い新婦にはあまり関心がないものか、ちらと目をくれて黙礼を交わすだけ。
その視線はとにかく、親族席の筆頭に座る義母に注がれている。
もっともそのころは義父もまだ元気だったから、「やめとけ、やめとけ、場所柄をわきまえろ」
と、新婦が中座したときには小声でたしなめたりしたものだ。

その義母が、身も世もないほど嘆いてすっかりふさぎ込んだのは。
オシドリ夫婦で知られた義父が、寝たきりになってしまったときのこと。
やつれ果てた彼女の方が、夫よりもさきに逝ってしまいそうなありさまに。
妻も俺もたいそう気をもんだのだけれど。
しょせん外野というものは、なにもできない仕組みになっているらしかった。
そんな時だった。Kが俺のまえに現れたのは。

Kが吸血鬼だということは、妻も俺の口からきいて知っていた。
年増好きのKが、俺の叔母や、人もあろうに母の血さえ吸って、
ついでに男女の関係さえでかしていることすら、もうばればれになっていた。
俺でさえ。
中学のころからKに色目を使われて。
母の服を持ち出して身代わりになって、やつの一物を味わわされていた。
先に体験したのが男だったから、しばらく俺はそちらのほうから抜けられなくなって。
結婚してやっと、ノーマルな方向に回帰しかけたというわけだ。

「Kにお義母さんを逢わせてみないか」
俺の提案に、妻はちょっとだけ渋い顔をしたけれど。
母の身の上を案じる気持ちの方が優ったのだろう。
気乗りのしない顔をしながらも、「あなたの好きにして」と言ってくれた。
「逢わせる」とは、誘惑させること。
Kが気が優しくて根っから紳士的なことも妻にはわかっていたから、「無茶はするまい」と思ったのだろう。
事実そうだった。

「義母を誘惑して良い」と俺からのお墨付きをもらったKは、いそいそと妻の実家に通い始めた。
気の利いたお土産を持って行ったり、いっしょに義父の看病をしたり、
時には通いでやって来るケアの人に義父を任せて、義母を映画や展覧会、催事などに連れ出していた。
正体が吸血鬼だということも打ち明けて、
じつは貴女の血を目当てにこうして通ってきているのだと、ぬけぬけと本人に告れるまでになっていた。
「ねえ和夫さん、どう思う」
ある程度の信頼を勝ち得ていた義母か「Kさんから迫られている」と打ち明けられたとき。
「献血だと思って相手してやってくださいよ」
と、俺は内心湧きかけていた嫉妬の情を押し隠しながら、義母にこたえた。
「ストッキングを穿いた脚を咬みたいって仰るのよ。いやらしいわよねえ?」
淑やかな義母の口からこんな言葉が洩らされることに衝撃を覚えながら、俺はいった。
「ストッキング破らせちゃったら、一直線かも知れないですよ」
義母が堕ちたのは、それからすぐのことだった。
その日新調したばかりのスーツをばっちりとキメた義母は、
Kを家に招び寄せると、夫が寝入ったのを見計らって、「ちょっとだけなら献血、応じられる」といい、
スカートをちょっとだけ、たくし上げて、
ストッキングのうえから吸いつけられる唇を、息をつめて見守った。
ァ・・・
小さな悲鳴が洩れる下で、義母のストッキングは、鋭くひとすじ走った裂け目を、みるみるうちに拡げていったという――

不思議なもので。
寝たきりだったご主人は見違えるほど恢復して、以前と変わらないようになっていて。
義母は三日にいちどはおめかしをして、夫に快く送り出されてKと逢いに行き、
教師の妻としては不似合いな場末のホテルや、Kのねぐらに引き込まれて、長年尽くした夫を裏切るようになっていた。
義父も義母の回春を、薄々知っていたようだけれども。
根っからの愛妻家の彼は、妻の不貞を咎めようともせずに、
今までどおり妻を愛しつづけ、たまに現れるKのことさえ歓待した。

やつがどうして義母に執心したのか、いまになってわかるような気がする。
年増女が好きで同性愛嗜好な彼が、
ほんとうに欲しかったのは俺だったのだ。
だから俺の母や叔母を堕とし、俺を女として犯し、俺の義母まで狙ったのだ。

妻が乗り気ではなさそうな理由も、わかっていた。
自分の恋人を、実の母に取られてしまうと思ったからだ。
そう――
俺が初めて女に目ざめたのは、妻のおかげだった。
新婚初夜を処女妻として明かした妻のところに、「そんな事だろうと思って」といいながら姿を現したKは。
俺のまえで妻を犯し、新郎以外の男と夢中で交わり始めた妻を目の当たりにして、初めて男としての本能に目ざめていったのだ。
はからずも処女を捧げた相手に対し、妻はどこまでも純情で。
逢瀬を遂げるのを見て見ぬふりをする夫の寛大さを悦んで、しぜんと夫に尽くす妻となっていった。
それが罪滅ぼしに由来するものだとは知りながら。
濃やかな心遣いを示す妻に、俺は寛大さで報いていった。
二人の息子と二人の娘に恵まれたけれど。
長女と次男は、Kの種だと、両親ともに自覚している。

義父が復活したのもきっと、Kのおかげなのだろう。
「若い彼のことを視ていると、発奮するね」
あるとき義父は、俺にそう語った。
妻の貞操と引き替えに、健康を取り戻した――
決して小さな大証ではなかったはずなのに。
ワンマンだった亭主が寛大な夫に生まれ変わることで、
若作りに着飾った妻を情夫に抱かせ、自分でも愉しむようになった日常を、決して呪いはしていないらしい。

きみは奥さんと仲良く暮らしている。
お義母さんも元気になったご主人と夫婦円満。
ボクはボクで、嫁も姑も手に入れた。
八方丸く収まった・・・よね・・・?
妻から借りた服で女の姿になって、ベッドのうえで囁かれて。
俺は強く肯き返してしまっていた。


あとがき
一人の男性の妻と母とを二人ながら犯すお話は、いくつとなく描いていますが、
一人の男性の妻と義母とを二人ながら抱かれてしまうお話は、意外に描いた記憶がありません。
カテゴリは「嫁と姑」にしていますが、すこし本質は違うのかもしれません。
「年増好き」というのは「俺」に投げたKの陽動に過ぎなくて、
そのじつさいしょに狙ったのはKの奥さんだったのでしょう。
新婚初夜に、まず新婦が抱かれていますから。
そして、その愛情込めて抱いた新婦の母親にも、興味を抱いて、どんな女性なのか識りたくなった。
初対面から「これは」と思いつつ、さいしょはご主人に遠慮したのかもしれません。
義母にホコ先を向けたのは、ご主人が倒れた後――というのも、Kの律義さを感じます。
お義母さんが貞操堅固で、ご主人が元気なうちは手を出すことができなかったのかもしれませんが。。

偽装された宴 ~母も。~

2019年11月19日(Tue) 08:17:37

うら若いご婦人の脚に好んで咬みつく吸血鬼に、妻を咬まれてしまったぼく。
妻のストッキング代は、ぼくが稼ぎますから――と。そんな安請け合いをしてしまったけれど。
妻はそんなぼくのためにも、良い妻でい続けてくれて。
そして、あんな吸血鬼のためにも、忠実な愛人として、ぼくを裏切りつづけている。

そんな日々を重ねるうちに。
ぼくは妻のストッキング代だけではなくて、母のストッキング代まで稼がなければならなくなった。
若夫婦の妖しい宴に巻き込まれて、
黒のストッキング目当ての吸血鬼に、法事帰りの喪服姿を愉しまれてしまったのだ。

母でさえ。
老いさらばえた彼らにしたら、「うら若いご婦人」だったのだ。
母は確かに若返って、若作りのスーツ姿でやって来ては、我が家のリビングを濡れ場にした。
「お洋服代くらい、自前で持つわ。お金には不自由してないから」という母に。
せめてこれくらい罪滅ぼしさせてよと、ストッキング代だけは持たせてもらった。
母は「ストッキング代って、なんかいやらしいわね」といいながら、ぼくの罪滅ぼしを受け容れてくれた。

けれどもやがて、それは父の知るところとなって、
怒りに触れた母は実家を出てぼくたち夫婦と同居。
白昼のわが家では、妻も辟易するほどの濃艶な濡れ場が、公然とくり広げられた。
けっきょく父が折れて、母は再び実家に戻り、母は自宅から吸血鬼のもとに通うようになっていた。

これからは、母さんのストッキング代も、衣装代も、父さんが稼ぐから。
父は仕方なげに、苦笑する。
けれどもその実、父もまた出かけ支度をしているのを、ぼくは気づかないふりをした。

服フェチな吸血鬼のため、きょうも着飾っていそいそと出かけてゆく母。
長年連れ添った妻が不倫に耽るのを、寛大にも許す父。

ぼくたち親子は、いったいどこまで似たのだろう?

偽装された宴

2019年11月19日(Tue) 08:02:16

当地に棲みつく吸血鬼は、ご婦人の脚を咬むのがお好き。
それも、ストッキングを上品に穿きこなした脚がお好き。
だから、この街の結婚式場は、きょうも吸血鬼で大賑わい。

あちらこちら、そこかしこに、ご婦人方の悲鳴が響き、
赤いじゅうたんの上で着飾ったスーツやワンピース姿が四つん這いになって、
鷲づかみにしてくる物欲しげな掌に足首を抑えつけられ、好色で卑猥な唇をふくらはぎに這わされて、
ストッキングをブチブチと引き裂かれながら、生き血を吸い取られてゆく。
同伴してきた夫たちは、ただうろたえて右往左往するばかり。
けれどもそんな彼らも、恥ずかしいことに。
妻たちの受難を、目で愉しみ始めてしまっている。

妻の友人の結婚式に、新婚三か月の妻といっしょに出席したのが始まりだった。
花婿よりも吸血鬼に魅せられはじめた新婦が、吸血鬼の仲間たちに自分の友人たちを紹介させるために企てた、邪悪な宴。
そのなかで妻は一人の吸血鬼に見染められて、先に生き血を飲ませる羽目になったぼくの前――
ピンクのスーツの奥深く秘めていた貞操を、シャンデリアの眩い照明の下に、さらけ出していった。

妻を征服した吸血鬼を心から称賛してしまったわたしは、新婦の称賛を勝ち得ることになって。
その後もしばしば、偽装された宴にエキストラのように参加しつづけた。もちろん、夫婦連れだって。
初めての人たちがあげるしんけんな悲鳴に合わせて、
妻も吸血鬼の愛人の腕のなか、黄色い声をあげてはしゃぎつづける。
好んで脚にしゃぶりつき、ストッキングを咬み剥いでいく吸血鬼に、ぼくはささやいた。
妻のストッキング代くらい、ぼくが稼ぎますからと――

事務職員の妻

2019年11月19日(Tue) 07:47:46

あなたがこんな学校に就職するからよ。

妻は嫌悪もあらわに、わたしを見すえた。
初めて吸血鬼の誘いを受けた夜。
非難の言葉と裏腹に、妻はいちばん良いスーツを着込んでいた。

吸血鬼がはびこる街で、わたしの勤務先の学校は、吸血鬼の受け容れを決めた。
生徒の登下校の安全を守るため――都は表向きで、校長夫妻がたぶらかされたからだ。
市長も、病院長も、街の名士のたいがいは血を吸われて洗脳されて、
夫人や娘、息子の嫁までも、吸血鬼にゆだねていた。
ひと晩愉しむと、女たちは帰宅を許されて。
その夜を境に、いちど咬まれた女たちは、こんどは自分のほうから、忍び逢うようになってゆく という。

学校が吸血鬼受け容れを決定したとき。
吸血の主な対象は、女子生徒たちだった。
父兄も承諾の上だった。娘の名誉が損なわれないという条件付きで。
そして、生徒たちに手本を見せるために女教師たちが、
もう少し血液に不自由なく過ごしたいという要求のために、女の事務員たちが、駆り出されていった。
男性事務員の妻たちに触手が伸びたのは、もう、ことのついでのような状況だった。

刺身のつま。というけれど。
ごく軽い添え物のようにして、わたしの妻の貞操が汚される。
けれども、そんなシチュエーションになぜか昂りを覚えてしまって、
「吸血鬼がきみを望んでいる。明日の夜招かれているから、ひと晩お相手してくるように」
つとめて事務的な口調で妻にそう告げたとき。
なぜか語尾が昂りに震えていた。
それを知ってか知らずか。
妻はいった。

あなたがこんな学校に就職するからよ。


ひと晩が過ぎた。
長いひと晩だった。
明け方、妻は帰ってきた。
送り出したときは徒歩だった。
遠ざかっていくハイヒールの足音が、まだ呪わしいほど耳の奥に沁みついている。
けれども帰りは車だった。
彼がハンドルをとって、運転してここまで連れてきてくれたという。
玄関にぴったりと寄せられた助手席のドアが開くと、
引き裂かれたブラウスからおっぱいをまる見えにさせた妻が、蒼い顔をして座っていた。
妻はいちどは車を降りかけたが、
「やっぱり恥ずかしい。もういちど――」
と、意味不明なことを呟いた。
ドアは再びとざされて、車は爆音を残して走り去った。

ぼう然として見送ったわたしの携帯に着信をくれたのは、妻を狙った男のほうからだった。
「もう少し奥方をお預かりする。彼女の気分が落ち着くまで。お昼ごろまでには、帰宅させます。だから家にいるように」
二人きりでいるところの邪魔をするな、ということなのだろう。
テレビ電話の向こうでは、妻をヒロインにしたエロチックな動画が、まるで影絵のように流れ続けていた。
心配させまいという気づかいだろうか?
退屈させないようにという配慮だろうか?
どちらともわからなかったけれど。
おかげでわたしは心配もせず、退屈もせずに一人の時間を過ごした。

ふたたび車が乗りつけられて、助手席のドアが開くと、
朝よりもさらに着崩れしたスーツ姿の妻が、そこにいた。
おっぱいをまる見えにさせたまま。
剥ぎ堕された肌色のストッキングをひざ下までずり降ろされたまま。
妻は視られまいという意思を態度で伝えて、唇を噛んで降りてきた。
運転席の男と目が合うと、向こうは会釈を投げてきた。
わたしも会釈を返していた。
「世話になった」「どういたしまして」
まさかそんなやり取りをするわけにはいかない。
抱きとめた妻の身体は意外に弱々しく、そのぶんわたしの男に注ぐ目線はきつくなった。
男はにんまりと笑い返して、爆音だけを残して走り去っていった。

妻は無言で、家に入った。
自分が主婦をしていたこの家に、まるで他人のような顔をして、あがりこんでいった。
わたしは目を背けたふりをして、自室に引き取るまでの着崩れ姿を脳裏に収めてゆく。
長い長いシャワーの音。
まんじりともしなかったソファのうえで、所在なく待つわたし。
リビングのドアが開かれると、妻はまだ身体にバスタオルを巻いていた。

「お願い、忘れさせて」
妻はいった。
バスタオルがじゅうたんのうえに落ちた。
落ちたバスタオルのうえに妻を組み敷いて、わたしは別人のようになった熱い呼気を、開かれた唇の上に押し重ねていった。

「やっぱり忘れられない」
夕方までの長丁場のまぐわいのあと。
妻の声色は震えて、どこか悩ましげだった。
「行ってきても良いんだよ」
わたしはいった。
「ありがと。遠慮なくそうする」
妻の口から洩らされたそんな囁きが、わたしの鼓膜を毒液のように浸した。
「なに着てこうかな」
悩まし気な囁きは、なお続く。
あのひと、服フェチなのよね。破いて愉しむのはなんだか・・・だけど。
クスッと笑うひそやかな笑みさえも、どうやらいまは彼のほうに夢中ならしい。
相手のやり口を非難しながらも、相手の好みに乗ろうとしている。
そんな態度が見え見えだ。

「こないだの結婚記念日に買ってあげたワンピース、着てってもいいよ」
わたしも悪乗りをして、囁きかえしている。
「ぼくからのプレゼントだと伝えてほしい」
妻は一瞬真顔になってわたしを見、そしてフフっと笑った。
「まえから、変な人だと思ってたけど」
軽く蔑むように尖らせた唇が、言葉を交えずに伝えてくる――いまの私には好都合・・・と。

夫の愛のしるしである服を汚させる。
思いつく限り、最上の好意の表現だった。
「だめ。忘れられない――」
妻がわたしの腕のなか、そう囁いたとき。
わたしは妻と自分とを、運命にゆだねる気になった。
彼は妻を帰してくれる男。これ以上なにを望もうか?
「きみのストッキング代くらい、ぼくが稼ぐから」
股間を昂らせながらそう囁くわたしに、妻は背中で頼りにしてる、といってくれた。


あくる晩。
といっても、妻の帰宅の数時間後。
新調したばかりのワンピースを着飾った妻は、出がけにいった。

あなたがあんな学校に就職するからよ。

口ではわたしのやり方を非難しながら。
彼女もわたしも、これからの異常な日常を、愉しもうとしている――


あとがき
前作、前々作とおなじ学校が舞台のようです。
刺身のつまとはいうけれど。
そんなふうについでのように喰われてしまう、妻の貞操。
そういうシチュは、かなり好きです。
ドラキュラ映画の第一の犠牲者みたいに、ちょっとはかなげで。(^^)

あなたはどちらに並ぶ? ~成人女子の場合~

2019年11月19日(Tue) 07:17:18

「処女の子」
「そうではない子」
吸血鬼たちが採血に訪れる同じ学校でも、
大人の女性たちだと事情が少しだけ複雑だ。

どちらの行列に並ぶのか。
28にもなってまだ処女の行列に並ぶのは恥ずかしい――と囁く女子事務員。
それなりの経験はあるけど、婚約者の手前正直には並べない――と漏らす、来年結婚を控えた女性教師。
うそをつく率は、少女たちよりも大人たちのほうが高そうである。


「やだー、先生たら、処女卒業~!?」
「そうではない子」の列に並ぶ担任の教師を、2人の教え娘が大きな声で祝福する。
先週までは「処女の子」の列にいた大島みな子教諭(仮名、26)が、初めて「そうではない子」の列に並んだときのこと。
長い黒髪を恥ずかしそうに揺らしながら恥じらう大島教諭をつかまえて、セーラー服姿の2人は代わる代わる、
「おめでとー!」「やったね!」「これでアタシたちの仲間っ♪」
と、まるで姉の悪戯を見つけた悪い妹のようにさえずり続けた。

ちなみにこの学校の師弟の制服は、セーラー服ではない。
「たまたまきょうは、”セーラー服の子集合!”の日だったんです。
 だから、中学の時の制服を着てきました」
先生の処女喪失を派手にお祝いした2人の生徒の一人、奏(かなで)若菜さんは言う。
「え~、私身体入らなくなっちゃったから、お母さんに新しいの買ってもらった」
と口に両手を当てるのは、クラスメイトの黒島華(はな)さん。
この学校では、父兄も子女を対象とした吸血行為には理解があり、協力的らしい。
「初々しいほうがヨロコブから、わざとらしく履いてきた」というおそろいの白のハイソックスは、
ふくらはぎの咬み痕に、吸い残された鮮やかなバラ色の血潮を光らせている。
二人とも、彼氏持ち。
けれども初体験の相手は、彼氏ではないという。
その話題になったとたん、2人の”先生攻撃”が再開した。
「ねえねえ、先生はどっち?婚約者?吸血鬼?」
「痛かったでしょ~?それとも、最初からもう良かった?」
「あたしは痛かった」「あたしは良かった」
秘密の経験を共有した女子どうしは、会話のはずみ方も尋常ではない。
セックスを経験して間もない女子生徒たちの好奇心に輝いた瞳は、
先生があらいざらい話すまで決して視線をはずすことはないのだろう。


「初めて”そうではない子”の列に並びました!」
そういって目を輝かすのは、庶務課に勤める半井(なからい)美由紀さん(仮名、24)。
彼氏はいたものの、高校生のころに初体験を吸血鬼に捧げてしまっていた美由紀さんは過去を打ち明けることが怖かったという。
ところが、先週になって状況は急展開。
「ふたりでいるところを、あのひとに襲われちゃったんです」
昏倒寸前まで血を吸い取られた彼氏の前、首すじを吸われ、ストッキングを咬み剥がれながらふくらはぎを吸われてゆくうちに、
吸血鬼に誘導されるまま「まんまといつものペースに」。
――そう言いながら嬉しそうに恥じらうということは、彼氏さんも昂奮しちゃったの?
帰社が水を向けると、
「恥ずかしいこと言わないでください!」
と、怒られてしまった。
後ろめたい秘密が、カップルで共有する密かな愉しみにすり替わって、
美由紀さんは今週末もまた、吸血鬼の待つ公園で彼氏と待ち合わせるという。


「私は”そうではない子”ですよ、当然――」
いつも威厳たっぷりの校長夫人の高城寛子女史(49)も、この列に並ぶときだけは少しだけ恥ずかしいという。
「主人がこういう学校で、教え子の生徒さんをはじめいろいろな方々の血液を提供する勤めをしておりますから、
 私だけ無傷というわけにもまいりませんでしょう?」
まだ少しでも若いうちに血液を提供してほしい、せめて四十路のうちにって説得されましてね・・・
プライドの高い名流夫人の誉れ高い寛子女史はそういって、憂い顔にあきらめの表情を漂わせて、複雑な感情をよぎらせる。
さすがにインテリ女性ともなると、貞操喪失にも抵抗があったのか――
記者のそんな下世話な質問を、
「まるで、ほかの殿方相手のセックスをお許ししているのが当然なお話しぶりですわね」
とさりげなくかわしながら、それでも思い切ったように口を切る。
「してます。すべて主人の希望です」
キッパリと告げたそのすぐあとに、博子女史はつけ加えた。
「でも、愉しんじゃってますよ」
いままでの堅い表情とは裏腹な、なんとも言えない艶やかな笑みに、毒酒に酔ったような気分にさせられた。


少数ながら、「処女の子」に並ぶ職員も数名いた。
列の最後尾に並ぶ、制服姿の3人組。
初冬の陽射しのなか、ちょっとだけ寒そうに袖口を指でつまんで縮こまっているのは、肌寒さのせいばかりではなさそうだ。
「あ、この子初めてなんです。で、どうしても怖いから一緒に並ぼって誘われて・・・」
当校での勤務が二年目の尾高奈々子さん(仮名、23)の古風な色白のうりざね顔が、日常的な貧血のせいか蒼白く写る。
「ウソー!自分から並ぼって連れてきたじゃない!」
そういって奈々子さんの肩をどやしつけたのは、同期の友村かれんさん(仮名、23)。
もとスポーツ少女の大きな黒い瞳を、優雅なセミロングの茶髪の下で悪戯っぽく輝かせる。
小麦色の肌が陽射しに生き生きとした艶を放つ。
「私の方が体力あるから、いっしょに並んでいても色っぽいでしょ?」
そういって、記者にわざとらしいウィンクを送った。
「新人で、この街に来て間もないんです。そりゃ吸血鬼怖いのって当然よね」
お姉さん気分で横目に見られた前村加奈さん(20)は、今年短大を出たての新卒。
「新卒というか――秋に来たから旧卒だよね」
活発なかれんさんは、遠慮なく突っ込みを入れた。
事情ができて入社したばかりの会社も辞めて、家族もろともこの街に移り住んできたという加奈さんは、
この街に来てたった一週間で、母親に吸血鬼の交際相手ができたと語る。
「そのひとが実力者で、この学校に私を紹介してくれたんです。
 父は母を吸血鬼の恋人にされちゃってかわいそうだったんですが、
 ”お前まで母さんの彼氏の相手をすることはない、自分の相手は自分で見つけなさい”って言ってくれたんです」
なかなか複雑なご家庭のようではあるが――
「いつもは黒の着圧ハイソックスなんですが、それじゃだめだからって、黒の透けるストッキング穿いてきました。
 脚を咬まれちゃうのにストッキングなんてって思ったのですが・・・」
「それくらサービスしなさいよって叱ってやりました」
と、またもかれんさんがしゃしゃり出る。
「あたしも言ったんです」
控えめに発言するのが、色白のうりざね顔の奈々子さん。
「2学期に入ってから、軽く1ダースは破かせてあげてるよって」

当地の吸血鬼は、長い靴下を履いたふくらはぎを好んで狙うという。
「咬み破って楽しむんですって。絶対、エッチですよね」
生徒を対象にした「ハイソックスの子集合!」日や、「オトナの女子集合!きょうはストッキング・デー」など、
着用する靴下をモチーフにした吸血イベントもたびたび行われている。
うりざね顔の奈々子さんは、意外なくらい几帳面だ。
初体験のとき以来、咬まれた靴下の数を勘定しているという。
「処女は、50足めの人にあげることにしてるんです」
静かにほほ笑む奈々子さんに、「それってかなりアバウトだよね?」とかれんさんに突っ込まれながらも、
「あたしもかれんに負けないように、お嫁入り前に初体験済ませるから」と笑った。
「この学校で処女の血は貴重です。事務員で処女だと珍しがられて、重宝されます。
 だから入ったばかりの加奈さんには、少しでも長く処女でいてもらいたいですね」
ひっそりと笑う奈々子さんの笑みには、不思議な説得力があった。


当記事の末尾に出てくる友村かれん(仮名、23)は、記者の彼女である。
出逢ってからまだ一か月。けれども彼女の好意で取材を許可されたのだから、感謝しなければならない。
肉体関係はまだない。
そして処女の列に並んでくれたことに、ちょっとだけ安堵を覚えた。
けれども取材の過程で、並んだ列がうそだということがわかってしまった。
「バレちゃったネ」
あとで彼女はそういってフォローしたが、間違いなくわざとばらしたに違いない。
「複数相手してるの。初体験の人ともまだつながってる。それでもあたしと付き合う?」
挑発的な瞳の輝きを、あきらめ切れるわけがない。
記者はきっと、来週のデートの約束をすっぽかさないだろう。
彼女を日常的に吸血鬼に喰われる日々を、愉しめるようになるために。


あとがき
調子に乗って描いていたら・・・
超長くなってしまいました・・・ (^^ゞ

あなたはどちらに並ぶ?

2019年11月19日(Tue) 06:22:26

市内有数の私立学校「〇梅学園」には、きょうも不思議な行列が並ぶ。
行列は二列。それぞれの入口には書道部の女子生徒の鮮やかな墨跡で、
「処女の子」
「そうではない子」
と、書初めよりも大きな字が提げられている。
どちらの行列に並ぶ生徒たちも、それとなく周りを窺いながら、きまり悪そうにして並んでいた。

正直に並ぶ子。
見栄を張って並ぶ子。
ふた通りの子たちが、それぞれの想いを抱いて、行列に並ぶ。

行列の先頭に待つものは、この街に棲みつく吸血鬼たち。
個室が枝分かれして、それぞれの行列に4部屋。
空き教室となったワンフロアが、そっくり使用されている。
教室はついたてで二つに仕切られていて、そのなかに1人ずつ呼び込まれて、吸血鬼に若い血液を提供している。
つごう最大で16人の吸血鬼たちが、行列で順番待ちをする生徒たちを品定めして、思い思いに呼び入れるという。

登下校の安全を守るため、この四月に吸血鬼たちと学校側との間に和解が成立。
父兄の了解のもと、在校する女子生徒全員を採血の対象とすることになった。
拒否する生徒には、同レベルの学校を推薦して転校させることで、校内の不協和音を一掃した、という。
以来、校内を訪れる吸血鬼のため、女子生徒たちが定期的に献血をくり返すようになった。

「処女の子」の列に並ぶ生徒の一人に、話を聞いてみた。
――ほんとうに処女ですか?
「その質問、失礼です(笑)」
3年C組の高園さやかさん(仮名)は、わざと顔をしかめながらも白い歯をみせて、爽やかに笑う。
「付き合ってる彼氏がいるのですが、初体験はまだです。
 彼氏さんも小さいころから仲の良い吸血鬼さんがいて、その人に私が血をあげているという関係です。
 だから、一番後ろに並んでいても、順番とか関係なしにご指名されます。
 彼氏さんが私としないのは、吸血鬼さんに処女の生き血をプレゼントしたいから。
 あたしとヤるよりそのほうがイイの?って訊いたことがあります。返事はありませんでした。(笑)」
恥ずかしそうに並んでいたけれども、話は聞いてもらいたいらしい。
意外な饒舌な反応に、記者は少々びっくりしながらも、尋ねた。
――咬まれるのは怖くない?
「ココで、彼氏の知ってる吸血鬼さんなら、怖くはないかな。というか、慣れました。(笑)」
どこまでも楽しそうなさやかさんだった。

「そうではない子」の側に並ぶのは、さすがに少数。
それでもなん人かの女子生徒が、迷わずこの列に並ぶ。
――処女を卒業したのはいつ?お相手は?
「その質問、ヒドイです」
3年E組の高瀬里奈さん(仮名)もまた、口を尖らせながらも、笑顔に屈託はない。
どうやらこの学校は、明るい校風のようだ。皆さん明るく接してくる。
「えーと、入学祝いにって、なん年も前から私の血を吸ってる吸血鬼さんにヤられちゃいました。
 そのあとできた彼氏ともしているので、正直に並んでます」
――きょうのお相手も、その吸血鬼さん?
「イイエ、私は毎回別の人。経験を積むと良いって、小父様に言われました。
 というか、だれとでも分け隔てなくお相手できた方が楽しいかなって思ってるので」
――彼氏さんに悪いとは思わない?
「だって~、彼氏のおススメなんですもん」
さいごの質問には、笑い崩れていた。

自分の彼女が吸血鬼に血を吸われたり犯されたりすることに「性的興奮を覚える」と、市内のじつに四割の男子生徒は回答する。
この数字は地域の数字としては異常値かもしれない。
その原因を専門家は、
「小さいころから母親や姉妹が吸血鬼と仲良くする光景を目にしていて、抵抗がないことと、そうしたエロチシズムが日常的に身近にあることが大きいのでは」
と分析する。

「処女の子」「そうではない子」
それぞれの列は、内緒話ができる位に、隔たりがない。
「あなたはこっちだったのね?」
「あれ、先週と並ぶ列が変わったw」
と、色とりどりのハイソックスの足許を揺らしながら、彼女たちのやり取りは終始、くったくがなかった。

「処女の子」
「そうではない子」
あなたは、どちらの列に並びますか?
正直に並びますか?
それとも、うそをついたり見栄を張ったりして、並びますか?

母親をモノにされてしまうのは、花嫁をモノにされてしまう以上に致命的であること。

2019年11月11日(Mon) 08:09:11

きみの京子さんを、親父とふたりで輪姦(まわ)したい――
悪友のリョウタにそうせがまれて、婚約者の京子さんを連れて、彼の家に伴ったのは、結婚を翌月に控えた頃のことでした。
京子さんにはあらかじめ、言い含めてありました。
この街でひそかに伝わる風習だからと。
京子さんは潔癖そうな白い頬をちょっとだけゆがめると、意外にもクスッと笑って、面白そう、と言ってくれました。

リョウタの家でぐるぐる巻きにしばられたぼくの目のまえで。
ぼくは未来の花嫁の純潔を、悪友の親子に惜しげもなく、プレゼントしてしまいました。
さいしょはリョウタのお父さん。
それからリョウタ。
未来の夫であるぼくの目のまえでの辱めに、ひとしきり涙にくれた京子さんも、
やがて快感に目覚めてしまったものか、しきりに腰を振って二人を満足させたのでした。
ぼくもすっかり、満足してしまいました。
花嫁の肉体をプレゼントするという行為そのものに――

けれどもこのドラマには、第二幕がありました。
未来の嫁の乱行を知った母が加わったのです。
けれどもそれは、リョウタの意図するところでした。
潔癖な怒りに震える母は、
じゅうたんの上にストッキングのつま先をすべらせて、現場に踏み込んできました。
そしてそのまま、そのストッキングを脱がされて、永年守りつづけてきた貞操を、親子にご披露する羽目になったのです。
息子のぼくでさえ興奮を覚えるひと幕でした。
嫁と姑、ふたりながら脚を並べて、脚の片方ずつには半脱ぎになった肌色のストッキング。
その脚をときにばたつかせ、ときに切なげに足摺りしながら、ふたりは獲物を取り替え合う親子の生け贄にされていったのです。

花嫁をモノにされることも、ぼくにとってはもちろん衝撃だったけれど。
母親をモノにされてしまうのは、さらに致命的な出来事でした。

一連の嵐が過ぎ去ると。
母は「お父さんには内緒だからね」といって、ぼくを笑いながらにらみました。
つくづく、「女は怖い」と思った次第です。

結婚してからも、時おり夫婦でリョウタの家を訪問してます。
人妻の貞操を、デリバリーするために。
その後の母も、父に黙ってリョウタの家を訪れているそうです。
リョウタのお父さんにあらかじめ呼び出された父が、見せつけられる歓びに耽っていることもしらないで。

握り合う掌。

2019年11月11日(Mon) 07:53:59

肌色のストッキングを穿いたふくらはぎにやつの唇が這ったとき。
悠美ははっと息をのんで、夫の彬生の手をギュッと握りしめた。
目のまえの吸血鬼が迫らせてきた、淫らな意図を直感したからである。

すでに吸血鬼に血を吸われる習慣を身に着けてしまった彬生にとって、
熟女の生き血を欲しがる自分の親友に、妻を紹介することを思いつくのはごく自然の成り行きだった。
街に出没する吸血鬼を、いずれは受け容れなければならない。
奏覚悟して夫の赴任に随ってきた悠美だったが、じっさいに自分の血を欲しがっているという吸血鬼を紹介されたとき、
相手が黒マントをまとっているわけでもなく、モンスターのように口が裂けているわけでもなく、
どこにでもいそうな初老の白髪交じりの男性であるのをみとめると、ちょっと拍子抜けしたようだった。

杉尾ヒロシさん。54歳。ぼくよりひと周り年上だね。
じつはヒロシさんはもともとこの街に子どものころから住んでいた人で、
街が吸血鬼に解放された直後に奥さんを襲われちゃったんだ。
奥さんを襲った吸血鬼が、奥さんに本気で惚れているのを知ったヒロシさんはとても寛大で、
それ以来吸血鬼が奥さんと付き合うのを認めてあげて、ご自身も半吸血鬼になったんだ。

夫の紹介は上の空で耳を通り過ぎ、悠美はひたすら注がれてくる目線を受け止めるのに精いっぱいだった。

脚から吸うという行為は意外だったが、
「初体験ではどうしてもうろたえるので、首すじだと思わぬ怪我をすることがあるから」
という夫の説明に、なるほどと納得した・・・はずだった。
けれども不覚にも、なまの唇をストッキングを通してなすりつけられたその瞬間、
脚を吸うという行為自体を相手が望んでいたことに初めて気づいた。

初対面の客人を迎えるのに盛装したのは、夫のすすめがあったから。
くるぶしまで隠れるロングスカートの下に、高価なガーターストッキングをまとったのも、
礼儀のうちだと思い込んでいたから。
けれどもそれは、夫の悪友を不当に悦ばせたに過ぎなかったのだと気づいた時にはもう、
ストッキングをしつようにいたぶられ、チリチリになるまで咬み剥がれて、
ブラウスまで剥ぎ取られて夫婦のベッドに投げ込まれてしまっている。

「あなたお願い」
ひとりにしないで・・・という望みに、夫は戸惑いながらも応えてくれた。
手を握っていてというと、手を握りしめてくれた。
うなじに迫る牙の怖ろしさに、悠美は夫の手を痛いほどきつく握り返していた。

うなじのつけ根に、鋭い牙がクイッと食い込まされる。
ずぶりと埋め込まれた牙が、分厚い唇に隠された瞬間、
キュウッ・・・と生き血を吸い上げる音が洩れた。
洩れた音のひそやかさが、行為の淫靡さを物語っていた。
気絶せんばかりに悩乱した悠美は、白目を剥いたまま生き血を吸われた。

キュウッ、キュウッ、キュウッ・・・
貪婪な吸血の音が、盛装した妻の姿におおいかぶさるのを、夫の彬生は昂りを覚えながら見守った。
妻の掌はぎゅっと、彼の掌を握りしめたまま、小刻みに震えている。
かわいそうに、まだ正気を保っているのだ。

正気を保ちながら血を吸い上げれらるのは、さいしょのうちはちょっと厳しいものだと、彼は自身の経験から知っていた。
けれどもそのうちに慣れてくると・・・
そこまで知ってしまった彼は、その後ヒロシと面会するとき、こっそり持ち出した妻の服を身にまとうようになっていた。
悠美を襲いたいと念願したヒロシの気を紛らわせるためにしたつもりだったのに、
いつか悠美の身代わりに襲われることに快感をおぼえてしまい、
その行為が本当に悠美を襲わせるための前段階だったのだと分かりながらも、密会をやめることができなくなっていた。

目のまえの吸血鬼が妻の生き血を摂取しながら、
口にしている血液の味に満足を覚えているのを感じて、彬生は奇妙な誇らしさをおぼえていた。

妻の手から、力が去った。
失血のせいばかりではないのだと、彬生は知った。
夫の手を振りほどくと悠美は、その腕をそのまま自分のうえに覆いかぶさる吸血鬼の背中に、ツタのように絡ませてゆく。
悠美の息が、荒くなっている。
彬生は去り時を自覚した。
悠美は、剥ぎ取られたブラウスをまだ身にまといながら、むき出しになった肩を切なげにはずませはじめている。
ロングスカートは太ももが見えるまでたくし上げられていた。
ひざ下までずり落ちて弛んだストッキングが、妻が堕落し始めたのを物語っている。
この場にとどまっていちぶしじゅうを見届けたい衝動と、招くべからざる客人に妻を独り占めにさせてやりたい欲求とが、
彬生のなかでぶつかった。
物陰から見守るという中途半端な選択肢は、決して不正解ではなかったはず。
長年連れ添った妻が吸血鬼と親和する記念すべき瞬間を、彬生は昂りながら見届けていた。
ひと晩じゅう過ごされたまぐわいのいちぶしじゅうを見届けて、翌日は欠勤するはめになったけれど。
彬生は決して後悔をしていない。

欠勤をしたことも。
すべて見届けてしまったことも。
妻の貞操を惜しげもなく振る舞ってしまったことも。

ほら、きょうの分。 ~奥さんのストッキングを一足、つごうしてくれないか? 後日譚~

2019年11月11日(Mon) 07:30:58

目のまえにぶら下げられた、淡いグレーのストッキングは、
心持ちふやけていたが、もとの持ち主の脚の形をまだ残していた。
「奥さんのストッキング。きのうゲットした」
ヒロシは本人の脚を撫でさするように、いとしげにストッキングを愛撫する。
目の前で妻の脚をまさぐられているような錯覚を、俺は覚えた。

「これね」と、ヒロシは言い足す。
「最初の戦利品」
え?どういうこと?
訊き返す俺に、ヒロシはいった。

最初にせがまれたのは、妻のストッキングを一足。
ナイショで開けた箪笥の抽斗から、どこでも見かける肌色のやつをみつくろって、手渡してやった。
折り返し「返すね」と渡されたのは、淡いグレーのストッキング。
「夕べ本人の脚から抜き取った」
と、やつは抜かしたものだ。
そう。
俺がせがまれたのは、妻のストッキングだけではない。
ストッキングの持ち主の肉体までも、共有したいとせがまれたのだ。
同意のしるしが、妻の箪笥の抽斗からくすねたストッキングを手渡すという行為。
無意識に、すべてをわかったうえで、俺は応えていたのかも。
俺の妻を犯したいという願望をめでたく成就させたヒロシの横顔を、眩しく盗み見ていた。

返されたストッキングは、夕べなにが起きたのか俺は知っていると伝えるために、
妻の目につくように、部屋の屑籠に放り込んだはず。
妻はそれをふたたび脚に通して、恥知らずな訪問を重ねてきたということなのか。
「ウン。恥知らずだったよ。ベッドのうえで」
やつはヌケヌケとそう自慢をこいて、俺はひそかに股間を逆立てていた。
それでも俺は、やつにせがまれていた黒のストッキングを妻の箪笥の抽斗から抜き取って、
やつに手渡すのを忘れない。
「ほら、きょうの分」
さりげなく発したつもりの語尾が、きょうも妖しく震えていた。

奥さんのストッキングを一足、つごうしてくれないか?

2019年11月06日(Wed) 07:48:19

「奥さんのストッキングを一足、つごうしてくれないか?」
親友のヒロシにそんなおねだりをされたのは、つい先日のこと。
なにに使う?と訊いたら即座に、オ〇ニーに使用するとのこたえ。
ヒロシはバツイチで、女旱(ひで)りのようだった。
俺はためらうことなく、妻の箪笥の抽斗から一足抜き取って、ヒロシに与えた。
どこでも見かけるような、肌色のやつだった。

数日後。
ヒロシから呼び出しを受けて、小さな紙袋を渡された。
なに?と訊くと、先日のお礼だという。
中を開いてみると、くしゃくしゃになったストッキングが一足、入っていた。
「返すね」
とヒロシはいったが、入っていたストッキングは淡いグレーで、明らかに色違い。
不思議そうな顔をする俺に、やつはいった。
「奥さんのストッキング。夕べ、本人の脚から抜き取った」
え???
手にしたストッキングの色は、確かに妻が時折脚に通している、見覚えのある色だった。

恩を仇で返すのか・・・とは、思わなかった。
やつは俺の性癖を知り尽くしていたから。
やつの精液にまみれたストッキングを、俺はわざと家の屑籠のなかに、放り込んだ。

兼業主婦の妻はこまめなハウスキーパー。
家のなかにいても始終立ち働いていて、掃除をしたり、洗濯をしたり、ごみの回収をしたりしている。
俺が屑籠に爆弾を放り込んで30分ほど経ったとき。
あっ・・・と、声にならない声と、たじろぐ気配を背中で感じる。
妻は俺のほうへとおずおずとやって来て、やおらその場に土下座して、いった。
「ごめんなさいっ!」
俺の帰りが遅い夜。
勤め帰りにヒロシに出くわして(きっと待ち伏せしてたんだろう)、お酒に誘われて、軽く飲んで、
それからうまい口車に酔わされて、意気投合して、彼のねぐらでひと刻酔い覚ましをしたのだという。

ひとしきり激謝りをくり返したあと、妻はいった。
「でもあなた、こういうのって好きでしょう?」
こくりと頷く俺に、「素直でよろしい」と、にんまり笑った。

ヒロシは時おり俺を呼び出して、小さな紙袋を渡してくれる。
妻の脚から抜き取ったストッキングは、やつのオ〇ニーに使用され、それから俺の脚にまで通される。
上品な薄地のナイロン生地は、男ふたりの脚をすら、淫靡に妖しく彩ってゆく。

それに折り返すように、妻の箪笥の抽斗を開けて、洗濯された穿き古しのストッキングを一足、ヒロシのためにせしめてゆく。
どうやら妻が一度脚に通した穿き古しに、需要があるようだ。
家事にいそしむ妻は、知らん顔をして、そのまま家事に没頭している。
そして、やつと示し合わせてデートに出かける時には、新しいやつをおろして脚に通していって、
ノーストッキングで、何食わぬ顔をして帰宅する。

彼がコレクションした妻のストッキングは、何ダースそろっただろうか・・・?

人妻看護婦の不倫。

2019年11月05日(Tue) 08:01:04

家で初めて吸血鬼に襲われたとき。
行儀のよい妻は、肌色のストッキングを穿いていた。
好んで脚に咬みつく習性を持った彼は、先に血を抜かれて大の字になっていたわたしのまえで、
ふくらはぎを包む肌色のストッキングを、いやらしく咬み剥いでいった。
夫の前で想いまで遂げられて、家庭が崩壊したとおもったわたし。
けれども彼はわたしを尊重してくれて、
いまでは平和な三角関係が成り立っている。

でも、ほんとうに堕落したなって思ったのは、別の時なの。
妻はそう告白する。
彼にせがまれて、勤め先の病院に穿いていく白のストッキングを咬み破らせちゃったとき。
私、お仕事まで汚してしまった・・・って思ったの。
わたしのすべてを捧げた瞬間は、むしろあのときだったかも。

亭主は二の次か。
そうむくれることはない、と思っている。
いまでは病院そのものが吸血鬼に支配され、
妻は毎日のように、ナースキャップを着けたまま、空き病室のベッドのうえに抑えつけられている。

妻の不倫のあと始末。

2019年11月05日(Tue) 07:55:13

妻からラインが届いた。
いわく、「これから吸血鬼さんのところへ、献血に行ってきますね♪あなたは早く寝ててw」
やれやれ、今夜も朝帰りのつもりらしい。
「うちに招べばいいのに」
と言ってやったら、
「だってあなた、明日お勤めあるのに眠れなくなっちゃうじゃない」
と返してよこした。

部屋のあと始末をしなければならないのも、ネックになってるらしい。
なにしろ彼を招ぶと、じゅうたんに血はしたたる、シーツには大量の精液・・・と、
拭き取る手間ひまがかかること、おびただしい。
「それは俺が引き受けるから」
と、あるときお人好しにも、妻の情事のあと始末をしたわたし――

柱に撥ねた血。
床にくゆらいでいる血だまり。
精液がべっとりと着いたまま脱ぎ捨てられた、スカート、スリップ、ショーツ・・・
そうしたものをひとつひとつ拭い取ったり、片づけたり。
妻の秘密を隠匿する手伝いをするということは、
妻の不倫の共犯になるということ。
ひとつひとつの作業にマゾヒスティックな歓びが重なって、熱がこもってゆく。

「でもあなた、雑だからw」
妻はわたしを揶揄してやまない。
そう、半年ほど前のことだった。
拭い忘れた精液まじりの血潮をふすまの隅に発見したのは、たまたまわが家を訪れた母だった。
妻の整理整頓のできなさとかをやんわりと指摘しに来る母を、妻は苦手としていたが、
「和彦さん、これは何!?」
と口にする母に、妻もわたしも凍りついた。
解決してくれたのは、”彼”だった。
「電話するのを忘れた」という母からの連絡は、到着のわずか5分前。
わたしを目の前にして、妻は”彼”との行為の真っ最中。
たいがいのことは苦も無くやってのけるはずの吸血鬼でも、脱出は不可能なタイミングだった。

精液を裏地に塗りたくられたスカートを着けて妻は母を出迎えて、
わたしは”彼”を、奥深いクローゼットに押し隠す。
「あなたたち、いったいなにをしていたの!?」
詰問する声が怯えた悲鳴にとって代わるのに、数分とかからなかった。

息子のまえですっかりイカされて――
いまや母までも、吸血鬼にとってなくてはならないセックス・パートナーのひとりになっている。

妻からのラインが、もう一度鳴った。
「お母さまがお見えになってるw あのひとに抱かれてひーひー言わされちゃってるw あなたも来る?楽しいよww」
明日の仕事も忘れて腰を浮かせかけたわたしに、さらに追い打ちがきた。
「あのひとの家だけど、あと始末はあなたにしてもらうわね♪」

あり合わせのタオルをカバンに詰める手から、ぶるぶると震えが消えない。

コレクションを見せつけられて。

2019年11月04日(Mon) 16:32:37

だだ広い洋館のひと部屋ひと部屋に、女が一人ずつ、宿っている。
女はこの部屋の主人。そして、この洋館のあるじのためのミストレス。
そこに住まうのは未亡人だけではない。
人妻もいるし、結婚を控えた生娘さえ住まっている。

けれどもふだんの彼女たちは、そこで寝起きしているわけではない。
部屋にはベッドとソファ、それに壁に埋め込まれた大きなクローゼット。
ふだんはがらんどうなその部屋に。
女たちは自分の意思で訪れて、この洋館のあるじに身をゆだねる。

制圧された貞操に熱情の滾りを思い切り注ぎ込んだ後、
洋館のあるじは女の身にまとった服を、戦利品としてせしめてゆく。
女の洋服に執着する掌が、
ブラウスを、スリップを、ブラジャーを、スカートを、ストッキングを、ショーツを・・・
一枚一枚、剥ぎ取るようにせしめてゆく。
股間に熱い滾りを享けた女たちは、ため息をしながらも身をゆだね切り、
変態な男の求めに応じて、己の衣装を惜しげもなく、剥ぎ取らせてゆく――

そうして剥ぎ取られた服たちが、大きなクローゼットの闇の中、匿われるようにひっそりと、仕舞い込まれてゆく。
持ち主を共有する服たちは、肩をそろえ、向かい合い、幾重にも重ねられながら。
互いに互いの息遣いを、交わらせてゆく。
自分が犠牲になったときの艶やかな物語を、お互い奏で合いながら・・・


――さいしょに咬んだ時にはね、奥方もさすがにうろたえられて、暴れたのですよ。
わしの腕のなかで。
もちろん、逃げ出せやしません。
首すじを咬んで、生き血をたっぷりと吸い取って、
わしは元気がつくいっぽう。
奥方は身体から力が抜けるいっぽう。
たっぷりと恵んでもらいました。
痛いのをガマンして生き血を振る舞ってくださった挙句が、あの熱い熱い濡れ場です。
ああ、あの夜は、愉しかった・・・
それがこのときの服です。

男が手に取って押し戴くのは、見覚えのあるベーズリー柄のワンピース。
深緑の生地の肩先や二の腕に。
それからわき腹とお尻にも、どす黒いシミがこびりついている。
どす黒いシミの中心部分には、男が咬んだ痕が、不規則な裂けめとなって二つ並んでいる。

――さいしょが、肩。それから、脇腹。さいごに、お尻。だんだん穴がこぎれいになっていくでしょう?

果たしてそうだろうか?
けれども男のいうように、妻の身体にむやみと食いついた痕たちは、
肩先ではかぎ裂きのように派手に破けて、
わき腹は幾対も念入りに咬んだ証拠が規則正しく並んでいて、
妻の抵抗が弱まるにつれ、男の自由が増したことを物語っている。
そして臀部に開いた大きな穴は、しつように咬んだ証拠となって拡がり、
吸い取った血をわざと滴らせた名残りが、胸もとにほとび散らされた分と同じくらい、濃く残されていた。

――奥方を我々にゆだねられたご主人のなかには、さいしょに咬まれたところを視たい、という人がけっこういるものです。
けれどもわしらは、それは御覧にならないほうがよい、と応えています。
だって、さいしょは本気ですよ。
奥方が悲鳴をあげながら逃げまどったり、血を吸い取られるのを悲しがったり、服を汚されるのを嫌がったり、
そんなところを見せつけられて御覧なさい。
ご主人にワンパンチをくった上にお預けをくらうのは、わしらのほうです。


この街では、吸血鬼と人間とが共存している。
とはいえ、人間は一方的に食われる側。
それが嫌だという連中は、とうにこの土地を離れてしまった。
残ったものは、どうにか吸血鬼と折り合いをつけて、
自分たちの健康が損なわれない程度の血液を都合するのと引き替えに、街の安寧を守ってもらう。
それがこの街の、暗黙のルール。
街の女たちは、誘い込まれるままにこの娼館に脚を踏み入れ、
彼らの欲望を満たし、自分も満たされて、
それからなにごとも起こらなかったような神妙な顔つきで帰宅して、
堅実で常識的で無味乾燥な日常に戻ってゆく。


――二着目が、これです。
ほら、息子さんの学校のPTAのときに、よく着てかれる服でしたよね。
奥方は、どうもそういうお付き合いが、苦手だったようです。
PTAの役員もお辞めになられて、この服も一丁あがり、というわけです。
空色のジャケットの肩先に、これ見よがしな赤黒いシミ。
――生地の厚いジャケットの上から咬みついても、あまり面白みはありません。
ですが、どうしてもこのお洋服を汚して欲しいのとせがまれたら、やってのけるのがわしらの務め・・・ウフフ。
男のたちの悪げな薄哂いに、夫はさすがに同調しないまでも、反撥は押し隠すようになっていた。

――三着目が、こちら。
どうです?もうほとんど汚れがないでしょう?
このころにはもう、息が合ってきましたからね。
わしも奥方も、身に着けた衣装を汚さないようにと、気遣う余裕ができたのです。
その分、仲は深まっちゃいましたけれどね。おっと、失礼。
本当はね、一か所だけ、スカートの裏地についちゃったんです。白くて生温かいヌラヌラが。
あんた、男だからわかるでしょ?
でもね、クリーニングに出したら、きれいになりました。
わしも気に入った服なので、せしめてしまいました。
これ、ご主人のお見立てだそうですな。
さいしょのときのベーズリー柄のお洋服も、そうでしたな。
奥方からうかがいました。
今だから言うけど、奥方を見染めたきっかけは、あのベーズリー柄のワンピースがとても目についたからなんですよ。
わしとご主人とでは、もしかすると趣味が合うのかもしれませんな。

そういえば。
このごろ妻が身にまとう服は、見慣れないものが増えている。
真っ赤なスーツとか、露出度満点のこれまた真っ赤なタイトミニとか。
いつだか、これまた真っ赤なノースリーブのタンクトップに純白のふわふわしたロングスカートの組み合わせの時には、
どこの娘かと思ったほどだ。
――ありゃあね、わしの好みです。お目汚しだったら、ごめんなさい。
男というやつは、モノにした女に、自分好みの装いを着せたがるものでしょ?
でも、奥方の服装の趣味が変わってから、ご夫婦の営みの頻度が増えられたとか。
ご自分で択ばないまでも。
ご主人もお好きなようですね、赤い服。
奥方のファッションの幅を拡げたのは、わしの手柄ですぜ。
感謝してもらいたいものですな。

自分の好みの妻の服がつぎつぎと持ち主の血をあやして消えていって、
情夫の好みの妻の服に、じょじょに塗り替えられてゆく。
そうして妻は、自分だけの妻の部分よりも、吸血鬼の情婦の部分を一層色濃くしてゆくのだ。
自分の取り分は、はたして残してもらえるのだろうか。
ふと不安を覚えた夫に、吸血鬼はいった。
――だいじょうぶですよ、もっと自信を持ちなされ。
セックスだけが夫婦のすべてじゃあ、ないでしょう?
わしは良い思いをさせていただいているが、奥方は家に戻ったら、ご主人の忠実な奥方で、御園家の堅実な主婦ですから。
どちらが真実の奥方だろうか ですって?
野暮は言いなさんな。
女には、いくつもの顔があるんですよ。
ちょうどあんたに、常識的で穏健で堅実な勤め人と、妻を汚らわしい腕に鷲づかみにされて悦ぶ変態が同居しているように、ね・・・

さいごに取り出された服を目にして、夫は思わず声にならない呻きを洩らした。
それは去年、彼がボーナスで妻に買い与えた、結婚記念日のプレゼントの服だったから。
――奥方、紫がよくお似合いですな。これだけは、わしも脱帽です。
ですからね、いちおうここには置かせてもらっていますが・・・
奥方はここに来るたびこの服に着替えて、わしに抱かれるんですよ。
”あなた・・・あなた・・・ごめんなさい・・・私吸血鬼に襲われて血を吸われちゃう・・・犯されちゃう・・・”って、呻きながら。
あの瞬間は、わしの情婦でもなんでもなくて、あんたの妻なんだな。
そしてわしは、結婚記念日の服を着たあんたの妻をこの場で、犯しているんだな。そういう手ごたえがありますよ。
自分だけのもの にするよりも。
むしろわしは、そっちのほうが好みなのでな。
だから折々、奥方を誘いますよ。
あんたの持ち物を、ひとときわしのものにするために――


翌週は、夫婦の結婚記念日だった。
二人は高級ホテルで特別メニューのディナーを平らげて、
それから夫は妻を自家用車で、あの呪わしい洋館に送り届ける。
この洋館のあるじにも、この日を共に祝う特別ディナーを振る舞うために。

妻が身にまとうのは、今年の結婚記念日のプレゼントとして求めた、濃い紫のロングドレス――
「今年も紫が良いでしょう」
吸血鬼のリクエストをかなえてやるのは少し癪だったが、
時には似通う好みを意識して、とびきりのものを択んでやった。

妻を洋館の前で降ろすと、夫はいったん自宅に戻り、それから洋館の駐車場で、長い待ちぼうけをさせられる。
嫉妬に焦がれる思いを抱えながら。
「きっと彼の気に入るわ。だけど着て帰れなくなるわよ」
今年のプレゼントも気に入った――素直に称賛する代わりにそんな挑発を投げてきた妻のため。
車のなかには、着替えを二着、用意している。
どちらも自分の見立てた妻の服。

もしかすると、結婚記念日のお祝いに、やつは真っ赤なロングドレスでもプレゼントしてくれるのかもしれなかったが、
それを着て帰られるのは、もっと癪だった。
だから、自分の見立てた服を用意した。
けれども最低一着は、アンコールを断り切れなくなって、その場で使用されてしまうかもしれない。
なにしろ、服の趣味は、夫と情夫とで、かなり似通っているのだから。

撮影代は、奥さまの貞操で・・・

2019年11月04日(Mon) 15:38:49

――奥さんのヌード写真を、撮ってほしい・・・というわけですね?
エエ、そうなんです。
――ひと言でヌードといっても、いろんなジャンルがありますが・・・どんな感じのがお好みですかね?
そうですね・・・全裸よりはむしろですね、
きちんとした服装を身にまとっていて、
その服を気持ち着崩れさせていて、
悩ましいというか、嫌そうというか・・・
そうですね・・・いわば禁忌に触れる慄(おのの)きを帯びている・・・みたいな表情を浮かべている。そんなのが好みですね。
――正統派でお行儀の良い感じがお望みなのですな。
エエ、折り目正しい貴婦人が堕ちてしまう。そんなはかない風情をかもし出せないものかと。
――あなた、なかなかコアですな。ウフフ。

老いさらばえた写真家は、落ちくぼんだ眼を妖しく輝かせながら、内心舌なめずりをせんばかりにほくそ笑んでいる。
これこそ、私の望んだ客だ。
ご婦人を堕とす美学を、なんときちんと心得ていなさることか・・・
そんな相手の心情を知ってか知らずか、
いかにも品の良い五十年配のその客は、自分の口にした表現の危うさに、ちょっときまり悪げにしていた。
背後に控える彼の細君は、夫よりもやや若い面差しを、ことさら無表情に取りつくろってはいたけれど、
これもことのなりゆきの危うさを自覚してか、やはり身を固くこわばらせている。
――あまり、こわばりなさんな。
声にならない声を、写真家は発した。
こわばると、身体の動きがよくなくなる。
血行の麗しさが表情の豊かさや”ノリ”となって、しばしば傑作をもたらすことを、彼は良く知っていた。
育ちのよさだけが取り柄の、どこにでもいる、平凡な主婦。
けれどもその面差しに宿る、ちょっとそそられるような控えめな色香や、
地味な仕立てのブラウスや、身体の線を消した堅実なデザインのスーツの裏に用心深く押し隠した身体の線や、
淡い黒のストッキングに透ける脛のなまめかしい白さから、
岩根薫子と名乗るこの人妻が、ただならぬ素材であることを確信した。

夫である岩根氏は、自分の妻の素質に、どこまで気づいているのか。
結婚当初、薫子はおそらく処女。けれども岩根氏は童貞ではなかったはず。
いままで遊んできた女たちに比べて、ずっと素人くさく面白味のない身体。
もしもそのていどの見立てしかできていないようであれば、
彼はみすみす掌中の珠を砕くことになりかねない――
女の値打ちはわかったが。
はてさて、夫であるこの男の鼎の軽重やいかに?

どうやら夫妻とも、私がここまで洞察しているなど思いもよらぬことらしい。
永年の夫婦生活にマンネリを覚えて、夫がふと思いついた冒険に同意させられて連れてこられた人妻。
それが岩根薫子の今だった。
薫子はなにも発言せず、異を唱えることもなく、そこ代わり相槌さえ打つことがなく、
ただ黙々と夫の言うなりに耳を傾けづづけている。

撮影は最大で何枚、秘密は厳守、データは事後に完全消去、日取りはいつ、その時の服装は――
もろもろの条件を所定のシートに記載していく岩根氏は、生真面目な勤め人の顔つきになって、
妻のヌード写真撮影の契約をすすめていく。
湧き上がってくる妄想を完璧に押し隠した無表情を客に対して向けながら、写真家は終始事務的に振る舞った。

さいごの一行に、岩根氏の目線がとまった。

「報酬  無償。 ただし、撮影中ご婦人の貞操を写真家の手にゆだねること」

これは・・・?
メガネのふちを神経質に光らせた岩根氏は、いった。
やはりうわさどおりなのですね・・・
すべては、以前ここの顧客であった知人から聞き知っているようだった。
そして薫子夫人のほうもまた、夫にそれを言い含められているようだった。
――この条件ははずせませんよ。
写真家は、訊かれる前に先手を打つことを忘れない。
愚問を聞き飽きているからだった。


一週間後。
薫子夫人は独りで写真館を訪れた。
楚々としたよそ行きのスーツ姿――と思ったが、よく見るとそれは喪服だった。
黒一色の装いに、肌の白さがいっそう透き通るのを、
たいがいの女を素材としてしか見ない目が、眩しげにしばたたかれた。
「主人しか識らない身体です。どうぞお手柔らかに――」
感情を殺した、つぶやくような声色だった。
男はやおら起ちあがると、薫子夫人の足許に跪くようにかがみ込んで、
黒のストッキングに包まれたふくらはぎを押し戴くようにしながら、接吻を加えた。
接吻というには、露骨すぎるあしらいだった。
薫子夫人は、長いまつ毛をパチパチとさせて、それでも男を拒まなかった。
きっと、夫に言い含められてきたのだろう。
そんな薫子夫人のようすを上目遣いに確かめると、写真家は女の足許を彩る薄絹を辱める行為に、ひたすら熱中した。
薄地のストッキングごしに感じるなまの唇が、自分の素肌を欲している――
ありありとした自覚にうろたえながらも、夫人は長いまつ毛をパチパチとさせる以外、いかなる抵抗も企てなかった。
淫らな唾液にくまなく彩られたストッキングは、その素肌の下に宿る血潮に淫蕩な翳りを沁み込ませて、女は羞恥心を忘れていった。


二葉の写真が、岩根氏の手許にある。
薄暗い洋室に、高い窓から斜めの光が入り込み、
それを背景にブラウスをはだけ胸元をあらわにした喪服の女が、こちらを視ている。
じゅうたんの上に座り込んで、半袖のブラウスからむき出しになった細い白い腕が、上体を支えていて、
脱いだばかりの漆黒のジャケットは、傍らの椅子の背中に雑に掛けられていた。
ひざ下丈の地味すぎるスカートのすそはわずかにめくれ、
淡い黒のストッキングに透けるひざ小僧が、じんわりと妖しい輝きを放っている。
同じような構図の絵が二葉、夫である岩根氏の手許に添えられている。

お見事です。
岩根氏が呟くようにいった。
――どちらがどちらだか、おわかりですかな?
写真家が訊いた。
謎かけのような問いだったが、写真家がなにを訊きたがっているのか、夫はすぐに理解した。
こちらが使用前、こちらが使用後 というわけですね?
使用後、と指さされたほうの絵のほうが、
品の良い唇によぎるほほ笑みに、わずかながらの淫らさをよぎらせて、
口許からこぼれる白い歯も、整った歯並びの間に淫蕩な輝きを帯びていた。
――さすがにお目が高いですな。
写真家は素直に、夫に対する称賛を惜しまなかった。

――奥さまは、得難い素材です。時おりお貸し願えませんか。
人嫌いで通った写真家が和やかさを片りんでも覗かせることはごく珍しいことなのだと聞かされていたけれど。
岩根氏はわざとそっけなく、考えてみましょう、とだけ、こたえた。
なに、私の承諾など、どうでもよいではありませんか。
満面に広がるのは、育ちが良くて遊び慣れたお坊ちゃん時代の若さをほんの少しだけ取り戻した、人の悪い笑み。

存じ上げているんですよ。
あの日以来、時おり家内がお邪魔しているようですね。
無償でお写真を、撮っていただいているようですね。
いえいえ、よろしいのです。
生真面目すぎる家内が、この齢になってこれほど輝くとは――ね。
いまの家内は、どこに出しても恥ずかしくない女です。
エエ、ハプニング・バーでもどこへでも、いまでは夫婦で愉しんで通っています。
わたしの力でなし得なかったことを、貴男の力で遂げてくださった。
家内が守り抜いてきた貞操を犠牲にしただけの値打ちはありました。
契約はひとつ、継続ということでお願いできませんか・・・?

男ふたりはにやりと笑い合って、どちらからともなく手を差し伸べて、握手を交わす。
うわべは写真館での撮影料金。
けれどもそこで撮られた女たちは、魂を吸い取られ、色を染められ、いちだんと妖しい女となって、夫のもとへ帰ってゆく。
濃いツタに覆われた洋館の奥深く、きょうも妖しい宴が、堅実な人妻を極彩色に塗り上げてゆく。

B助役夫妻の受難

2019年11月03日(Sun) 18:32:40

●●市が吸血鬼との共存を受け容れた理由のひとつに、市長をはじめとした市の首脳部が彼らに屈したことがあげられる。
市長は夫人と娘とを同時に犯され、吸血鬼の奴隷に堕とされていた。
そして彼女たちとの平穏な日常を取り戻すため、ほかの幹部に夫人の貞操喪失を促すと約束をした。

市には二人の助役がいた。
A助役は市長の意に従って、その夫人を望んだ吸血鬼の住処に夫人を伴い、血液の摂取を許した。
いちど血を許すとその場で犯されてしまうということをA助役が知ったのは、そのときのことだった。
長年連れ添った夫人の貞操と引き替えに、彼は市長一家の秘密も共有することになった。

もう一人のB助役は、市長の言に従わなかった。
やがてB助役夫人は、夜道で襲われて血を吸われ、人通りのある夜道で強姦された。
B助役はまっとうな倫理観の持ち主だったので、下手人である吸血鬼をたどりあてると、
苦情を言いに彼の住処へと一人赴いた。
吸血鬼はB夫人に無理強いしたことを内心後悔していたが、結果はひとつしかなかった。
B助役は血を全量吸い取られ、絶命したのである。

弔いはひっそりと営まれ、B助役は土葬に付された。
喪主となったB夫人は、通夜の客が去ったあと、夫のひつぎの前でふたたび犯された。
そして夫の土葬が済んだ後、自宅でみたび犯された。

一週間が経った。
夫人は吸血鬼の呼び出しに応じつづけて、その身をすっかり飼いならされてしまった。
夫の仇敵であるはずの男に、恥を忘れて身をゆだね、
求められるままに惜しげもなく生き血を振る舞い、ためらいもなく脚をひらいていった。
ふたりの絆がすっかり出来上がったその晩に、亡くなったはずのB助役は生き返って、帰宅を許された。

夫人は夫のことをなにごともなかったかのように迎え入れ、
B助役は自分が”死んで”いるあいだになされた不貞を咎めようとはしなかった。
つぎの日から彼は何事もなかったかのように出勤していった。
弔いは極秘裏に行われたので、だれもB助役がいったん死去したことを知るものはなかった。
助役が務めに出ると、入れ違いに吸血鬼が夫人の元を訪れた。
時には自分の住処に夫人を呼び出して、ねぐらで情婦との淫らなひと刻を愉しんだ。
それらすべてを夫であるB助役は薄々勘づいているようだったが、
蘇生させてもらったことに恩を感じたものか、それ以上吸血鬼が自分の妻を寵愛することに対して、苦情を言いたてることはなかった。

身内のあいだで、ひとつのうわさが出回った。
B助役が苦情を言いたてに吸血鬼の住処を訪れたあの晩に、じつはB助役は死んだのではなかったのではないか。
吸血鬼の住処に監禁された彼は、夫人が再三吸血鬼の呼び出しに応じてその意に従うようになったのを、目の当たりにしたのではなかったか。
そしてもはや抵抗し難いことを知って、観念して自分から夫人を吸血鬼の側女(そばめ)の一人として差し出すことを決めたのではなかったか。

すべては闇に葬られて、謎の彼方、藪の中である。


あとがき
「藪の中」という小説をご存知ですか?
旅する武士の夫婦が山賊に襲われて、武士の妻は夫の見ているまえで犯されてしまう。
けれどもその実情を語る三人(夫は亡霊)の証言はことごとに食い違い、真相はいったいどうなのか?というお話です。

柏木ワールドにしては、今回はちょっとだけハードな内容でした。
助役の奥さんが強姦されたり、助役が吸い殺されてしまったり。
でもどうやら、内実はいつもと同工異曲だった可能性が大のようですね。。 ^^;

「ドレスが汚れますよ!」

2019年11月03日(Sun) 18:13:24

吸血鬼が女の首すじを咬もうとした。
女は二人の間に差し入れた腕を突っ張って、抵抗しようとした。
「ドレスが汚れますよ!」
ふたりは同時に、同じ言葉を口にした。
思わず気が合うところをみせてしまった二人は、抗いかけた手と手をほどき合って、あははははっと笑った。
あっけらかんと乾いた笑い声に、お互いの気持ちもほどけ合っていた。

吸血鬼は女の抵抗を封じるために。
女は自分のドレスを守るために。
同じ言葉を口にしたのだ。

そして二人は、ドレスを汚さぬ工夫をした。
女はおとなしく吸血鬼の猿臂に巻かれ、飢えた牙に首すじをゆだねたし、
男は女を決して荒々しく咬もうとはせずに、吸い取った血潮は一滴余さず喉の奥へと流し込んだ。

二人連れだって現場を離れる様子は、まるで長年連れ添った夫婦のように親しげにみえた。
自分の血に満足をした吸血鬼が、なおも彼女の情愛を求めるのを、彼女はドレスのすそを引き上げて応じていって、
ドレスの裏地さえ汚すことなく男がこと果ててくれたことに、むしろ感謝の念をおぼえていた。

男は女が脚にまとっていたストッキングを、記念の戦利品としてまき上げた。
女は甘んじて、男の無作法に応えていった。
ドレスのすそは長く、辱めを受けた彼女の脚をすっぽりと隠して、二人の秘密を守り通した。

だれのために操を守るのか

2019年11月03日(Sun) 18:04:54

色男が人妻に恋をした。
人妻は色男の親友の妻だった。
色男は亭主に恥を掻かせるつもりはなかったし、
人妻を手に入れたとしても亭主とも仲良くやっていきたいと希望していた。

色男も亭主も、酒好きだった。
色男はある晩亭主を酒に誘って、
ほろ酔いになった時分になってから、彼の人妻に対する想いを語った。
亭主は案外とお人好しで、その上美しい妻を自慢に思っていた。
彼は妻が色男に抱かれるところを想像し、その情景を無性にのぞき見したくなってしまった。
そして、色男が自分の妻を誘惑することを許してしまった。

亭主にあいさつを済ませてから、色男は人妻を誘惑した。
思えば、ずいぶんと律儀なやり方だった。
人妻を得るためにまずその夫に諒解を求めたのだから。

人妻は用心深く構えていたので、手練れの色男も容易に彼女をモノにすることができなかった。
やがて人妻は、色男と自分が結ばれることを、夫さえもが期待していると察してしまい、
自分はいったいだれのために操を守ろうとしているのか?と疑問に思った。
それでも彼女は容易に色男の求めになびこうとはしなかった。
操を守ることは、少なくとも自分の名誉を守ることにはなると感じたからである。

それでも彼女の抵抗にも限界があった。
だれのために操を守るのか。
夫のためではないことは、わかってしまった。
だから自分の名誉のために操を守ろうとした。
けれども人妻は色男を自宅に招び寄せて、こう告げた――

私は貴男のために、自分の操を守ろうと思う。
そう、あなたをめいっぱい、そそらせるために・・・

組んづほぐれつ、人妻は半分本気で抵抗した。
けれども衣服のすき間から侵入した掌が与える愛撫は、じょじょに彼女の理性を融かしていった。
彼女は夫のため、自分の名誉のため、そして色男をそそらせるために抗いつづけ、
さいごに、のめり込むようにして、堕ちていった。

3人はいまでも、仲良く暮らしている。
亭主が勤めに出ると、入れ替わりに色男がやって来る。
ときには亭主が家にいても、色男はやって来る。
そんなときには亭主は、たばこを買いに行くとか、ひと風呂浴びてくるとかいって、わざと座をはずして、
その隙に色男は人妻のブラウスの襟首やスカートのすそから手を差し入れる。
そして、たばこを買いに行ったはずの、あるいは入浴しているはずの亭主は、いつの間にか舞い戻ってきて、
物陰からひっそりと昂りながら、妻が不貞に耽るありさまを、ひたすらたんのうするのだった。