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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

帰宅。

2020年03月29日(Sun) 19:10:53

由紀也が家に着くころにはもう、だいぶ明るくなっていた。
家路をたどる途中、人はほとんど通りかからなかった。
咬みつかれたお尻の痕が、スラックスに拡がったまだ生温かい血痕と、
ひりひりと疼く傷口とでひどく生々しかったから。
できれば人目を避けて、家にたどり着きたかった。

「おっは♪」
傍らからだしぬけに声をかけられたときは、びっくりして、ちょっと飛び上がってしまった。
由紀也の態度にクスクスっと笑いかけたのは、オフィスの同僚である大鳥真央だった。
真央は男性でありながら、いまはOLとして勤務している。
ショートパンツの下の生足が、ひどくなまめかしくみえた。
どうみても、女のそれだった。
「ストレス解消してきたんでしょ」
真央の目線はあくまでも、仲間を見つめる眼差しだった。
「まあ・・・そんなとこかな」
照れ隠しをするように言いよどむ由紀也に、真央は図星を突くようにいった。
「奥さんの彼氏とラブラブしてきたんでしょ」
「どうしてわかるの?」
「顔に書いてあるもん」
真央はふふふっと笑った。
「で、どうだった?楽しかった?」
「ああ、かなりね」
夕べ意識がもうろうとなりながらも、妻を犯し息子をたぶらかした男の腕に、
自分の方から縋りついていった記憶が、恥ずかしく脳裏をよぎる。
「照れてちゃダメ」
と、真央はいった。
「早くオープンにしちゃいなさいよ。楽しいのなら、女も男もないじゃない」
軽くハミングして立ち去っていった真央の後ろ姿をみて、由紀也は少し気分が落ち着くのを覚えた。

都会では到底考えられない、常識の埒外の出来事。
吸血鬼に家族全員血を吸われ、男女の別なく犯されさえしてしまっている。
そしてそのことに、恥を忘れて歓びを覚えてさえしまっている。
それでよかったのだ・・・と、ふとおもった。

玄関のドアを開けると、妻の和江はもう起きていた。
見慣れた薄いピンクのネグリジェ姿。
顔色が、ひどく冴えないように感じた。
「お帰りなさい」
シャツを破かれスラックスのお尻に赤黒いシミを拡げた夫を、和江は由紀也の予想通り、素知らぬ顔で出迎えた。
「咬まれてきたのね」
和江が訊くと、
「ああ、ずいぶん吸わせてしまった」
由紀也も当たり前のように、こたえた。
「無事にお帰りになれて良かったわ」
穏やかに潤んだ声色が、本音で安堵していることを伝えてくる。
「お前、顔色悪いな」
由紀也が妻を気遣うと、和江は正直にこたえた。
「血を吸われてしまいました」
蒼ざめた唇をきっちり引き結び、緊張に歯を噛みしめている。
人妻が吸血鬼に襲われることが、この街でなにを意味しているのか、お互いにわかっていた。
和江の首すじに、赤黒い斑点がふたつ、綺麗にならんでつけられていた。
じわっとなにかがはじけるのを、由紀也は感じた。
下腹部にたまった、マグマのようなものだった。
由紀也の喉が、カラカラになった。
「来い」
由紀也は妻の手を引いて、夫婦の寝室にまっしぐらに向かった。

一時間ほども、まぐわっただろうか。
ここ最近にない、充実した営みだった。
都会のそらぞらしい生活に疲れ果てた夫婦が、長いこと忘れかけていたものだった。
さいごの営みは、いつだっただろうか。
夫婦のきずなが離れてゆくという恐怖感から、妻に無理強いに迫った営み――
そんなものはすべて忘れ果ててしまうほどの熱い密着感に、妻も夫も満足していた。
息子の保嗣が階下に降りてきた気配がしたが、リビングの気配を察して、まわれ右して戻ってゆくのを、
横っ面で気配だけを読み取っただけで、夫婦はあるべき姿を取り戻すことに熱中した。

並んで座ったソファで、自分の方に妻が頭をもたれかけくる。
こんなことは、何年ぶりだろうか?
四十女の柔らかな肉体の感覚が、身体のそこかしこに残っている。
このところお盛んだった達也の生硬な身体つきとは違うものに、新鮮さを見出していた。

それでも由紀也は、ふと思う。
股間に残る深い疼き――
それは、吸血鬼が由紀也を、女として愛した証しだった。
達也との同性同士の関係も、ときに立場が逆転して、彼が女として犯される番がまわってくることがあった。
深々と突き入れてはじけさせる快感と。
深々と受け容れて浸し抜かれる快感と。
甲乙つけがたいものを、由紀也は感じ始めている。

たぶん。きっと。
まだあからさまに、言葉にしないまでも。
妻が情夫のもとにでかけてゆくことを、彼は妨げることはないのだろう。
そして、異性との悦びで得られない快感を得るために、きっと達也を呼び入れてしまうのだろう。

達也の父が訪ねてきた。 ~妻の仇敵との和解~

2020年03月29日(Sun) 11:02:02

1.真夜中のオフィス

オフィスにやって来た息子の親友・達也と公然と乱れ合ってから、三日が過ぎた。
初めて訪問(襲撃?)を受け逢瀬を遂げてからは、どれほど日が経ったことだろう?
なん回、いけない逢瀬を愉しんでしまったことだろう?

由紀也に対する達也の吸血行為は害意のないものだったので、
いちど由紀也を襲うと、なか三日は置くようにしていた。
由紀也の健康に配慮したのである。

いっぽう由紀也は、毎日でも欲しい快感を数日間、禁欲することになった。
禁欲はときに欲求不満を生むものだが、
由紀也はそれを、達也のために少しでも栄養価が高く活きの良い血液を愉しませるために必要な期間だと理解することにしていた。
以前より身体や健康に気を遣うようになり、美容体操まで始めた。
恋人のために美しく装おうとする女性のようでもあった。

息子のように女装の世界に足を踏み入れることは控えていたが、
そろそろ達也が現れそうなタイミングになると、
紳士用にしては艶やかすぎるストッキング地のハイソックスで、
スラックスの下から覗く足首を透けてみせることを忘れなかった。
達也が好んで咬み剥ぐのを心得ていたからである。

情夫のために化粧をする人妻のようだ――と、時おり由紀也は感じる。
けれども、達也を待つ夜に、薄い長靴下を脚に通すことをやめられない。
達也の舌を愉しませ、破かせてやるために。
それが辱めであり自分の名誉や威厳を損なうことになりかねないと知りつつも。
通勤用の靴下に達也の唾液をしみ込まされ、自分の血潮に浸し、ずり降ろされ咬み剥がれてゆくことが、たまらない快感になっていった。
自分の勤務中。
妻の和江が、吸血鬼のために艶めかしいストッキングを脚に通すのを笑えない――
このごろはまじめに、そう思っている。

息子さんを自分の”彼女”にしたい――
そんなことを告げにぬけぬけと勤務先にまで現れたこの少年に、初めて接したときのこと。
口先では「とても迷惑だ」「先生に相談した方が良いのかな」「自重したらどうかね」などといいながら、
不埒にも薄手の靴下に透き通る足首に唇を吸いつけようとしたこの吸血少年のため、
不覚にも由紀也は、達也が吸いやすいようにとわざわざ脚の向きを変えて応じていった。
たぶん――達也を吸血鬼にした男に接する妻の和江が、つややかなストッキングを脚に通してそうしているのと同じように。
けれども、いまの由紀也に、そのときの応接に対する後悔はない。
勤務が終わりに近づくと、彼は更衣室に入り、鼻歌まじりに靴下を履き替えてゆく。


案に相違して、その晩現れたのは自分より少し年配の男性だった。
もちろんふつうに、男の姿をしていた。
男は、達也の父ですと名乗った。
そういえば。
堀の深い顔だちがどことなく、達也とよく似た輪郭を持っていた。
いくぶん鋭さを失くし、生気が落ちているのは、
たんなる加齢のせいなのか。常習的な吸血を受けているためなのか。

「初めてお目にかかりますが、初めてのような気がしませんね」
間島幸雄(42)はそういってほほ笑んだ。
「そうですね、言われてみれば確かに――」
由紀也はそんなふうに応じた。
なにやら唇が、自分の意思とは離れて言葉を発している気がした。
考えてみれば。
このひととは、おなじ相手に吸血されている。少なくともその可能性が高い。
見ず知らずの他人では、ないように感じた。
彼の血液と自分のそれとが、同一人物の舌や喉を愉しませ、その干からびた血管に潤みを与えている。
不思議な関係だと思った。

いっぽうで、どことなく後ろめたい想いも、禁じえなかった。
眼の前のこの落ち着いた物腰をした紳士の愛息と戯れ合って、
いわば「食い物」にしているからだ。
どちらかといえば、色々な意味で「食い物」にされているのは、むしろ由紀也のほうともいえるのだが、
未成年である達也と働き盛りの四十代である由紀也との関係を、だれもがそうはとらないだろう。
間島は、由紀也の図星を指すように、
「息子がいつも、お世話になっております」
と、頭を下げた。
どこまでも、穏やかな物腰だった。
「いえいえ、こちらこそ――」
由紀也は後ろめたさといっしょにわいてきた、おかしみをこらえながら、
やはり鄭重に頭を下げた。
息子さんとエッチなコトを愉しませていただいて・・・
とは、さすがに口が裂けてもいえないな、と思いながら。

「うちの息子とは、どれくらいの頻度でお会いになられているのですか」
何気なくそんなふうに問われて、「数日に一回です」と思わずこたえてしまったが、
間島はそんなことは先刻ご承知なのだろう、一瞬ひやりとした由紀也の顔色の変化を受け流すと、いった。
「どうぞいつでも、逢ってやってください。しょうしょう変わったことをするやつですが、貴方にも、ご家族にも、決して悪気はないのですから」
なにもかも知り抜いた意識の持ち主が、淡々と言葉をつないでゆくのを、由紀也はぼう然として聞き入っていた。

この男性の息子を、自分は日常的に、女として接しなおかつ犯している。
けれどもあべこべに、この男の息子は、自分の靴下を咬み破り、足許からいやらしい音を洩らして、吸血をくり返している。
「どちらが上とか、下とか、決められないですね。強いて決めることもないでしょう。
 互恵的な関係というのは、そういうものですから」
男女のそれと、変わりありませんな、と、達也の父はいった。
お父さんにお嬢さんとのお付き合いを認めてもらえた――ひそかにそんな想いが、由紀也の胸をよぎった。

「はじめに、わたしのほうの恥をさらしておきますね」
なにかにつけて後ろめたい気分をよぎらせるのを察したのか、
間島はそれまでのことを、問わず語りに語りはじめた――


2.達也の父の問わず語り

ここへ来て、たしか一週間ほど経ったころのことでした――
「あなたのところも似たり寄ったりなのでしょうけれど」と前置きして、間島は語った。

最初に咬まれたのは、息子でした。
ある日、部活帰りにユニフォーム姿で襲われて、グリーンのストッキングを履いたふくらはぎに血をべっとりと着けて、べそをかいて帰宅したのです。
家内がびっくりして息子を迎え入れると、息子の背後には男がいました。
息子を襲った男でした。
男は息子の身体から吸い取った血を、まだ口許にぬらぬらと光らせていて、
唇の両端から鋭く尖った犬歯を覗かせていました。
その犬歯は、家内のことまでも狙っていたのです。
息子の血が気に入ったので、きっと家内にも興味をもったのでしょう。
自分の息子を咬んだ牙が自分の身をも狙っている――と家内が気づいたときにはもう、遅かったのです。
家内は玄関先で抑えつけられて、首すじを咬まれてしまいました。

行儀の良い家内は、家のなかにいても、スカートにストッキングを身に着けていました。
それがむしろ、あだになってしまったのです。
わが家を襲ったその吸血鬼は、礼装を着けたご婦人を好んで襲っていました。
ご承知のように、
街はずれの寺で行われる法事が、彼らのかっこうの餌食とされているくらいですからね・・・
都会育ちの人妻であり行儀のよい家内が、彼の目にとまってしまったのは、
いま考えると、いたしかたのないところ、というよりも、もっともなでした。
”運命”というやつですね。
いまではわたしも、それを受け容れています。ええもちろん、こころよく――

首すじを咬んで一定量の血液を摂取されてしまうと、もう身動きできなくなるのです。
身体的にも。精神的にも。
痺れた頭を抱え込むようにして悶える家内を抑えつけ、
吸血鬼は恥知らずにも、ストッキングを穿いた家内の脚を咬んだのです。
不埒な唇が家内のストッキングを唾液で濡らし、舌触りを愉しまれてゆくのをありありと感じながらも、
家内はどうすることもできませんでした。
そのまま男に、自身の装いを愉しませてしまったのです。
わたしは、家内が不意の客人を愉しませたことを、賢明な判断だったと思っています。
相手の好む飲み物を、身をもってもてなしたわけですからね。
客人をもてなすという、当家の主婦としての役割を、きちんと果たしたのだと思います――

チリチリに咬み剥がれてしまったストッキングを脱がされた女の運命は決まっていました。
その場で犯されてしまったのです。
そう、息子の視ているまえで。
息子はといえば、咬まれた首すじや足許を痛痒そうにこすりながら、
母親の受難に見入っていたそうです。
自分の衣装を剥いで胸もとをまさぐりはじめた吸血鬼の情欲よりも、
好奇心に満ちた息子の視線のほうが怖かった――あとで家内からは、そんなことを聞かされました。

じつは息子が咬まれたのは、この日に始まったことではなかったそうです。
はじめから、相性が良かったのでしょう。
下校途中に初めて襲われたとき、あの濃いグリーンのストッキングを咬み剥がれながら。
息子は彼とすっかり、意気投合してしまいました。
そしてそのとき、咬み剥がれたストッキングを脱がされてゆきながら、
息子は自分を襲った吸血鬼に約束をしたのです。
制服や部活のユニフォームの一部であるハイソックスを、いまのいやらしいやり方で愉しませてあげよう――と。
日常洗濯ものをしている母親に、靴下を何足も破かれていることがばれても困らないよう、
母親までも味方に引き入れたい。
息子はとっさにそう感じたそうです。
吸血鬼氏もまた、たまたまなにかの席で見かけた家内のフォーマルな装いに気を惹かれていましたし、
いま息子の血を口にして、その母親の生き血にも、当然にょうに興味をもったのです。
両者の意見はすっかりかみ合いました。
そして息子は吸血鬼と示し合わせて、母親の生き血を欲しがる彼のことを、家に呼び入れたというわけだったのです。

「ほんとうに、困った子ね・・・」
家内は声を詰まらせてそういいながらも、スカートの奥に淫らな粘液をはじけさせる情夫のやり口を、なすすべもなく受け入れていきました。
わたし以外の男は初めてだったそうです。
そんな初心な家内が、手練れの吸血鬼の求愛をしのげるはずはありません。
永年守りつづけてきた貞操を汚されてしまったことを悲しむ時間は、そう長くはなかったそうです。
家内はその場で自分の血を吸い犯した男にぞっこんになってしまって――そう、忌むべき恋に目ざめさせられてしまったのです。
「母さんが幸せになったんだから、良いじゃん」
と息子は言いますし、いまではわたしも、息子と同感なのですが――
わたしがなにも知らないでいるうちに、息子は吸血鬼のファンになり、家内は同じ吸血鬼の奴隷に堕ちていたのでした。

なにも知らない人間に、なにもかも知っている人間がどんなに愉快な優越感を覚えるか、おさっしになれるでしょう?
わが家がまさしく、そうでした。
ふたりはわたしが勤めに出かけてゆくと、示し合わせて吸血鬼を自宅に呼び入れて、
代わる代わる血を吸われ、女が男にされるように犯されていったのです。

やがて恋に落ちた家内は、吸血鬼と片時も離れたくなくなって、家を出ていきました。
「私、吸血鬼の愛人になりますから」
と、息子とわたしとに言い置いて。
わたしは家内のことを、送り出してやるしかありませんでした。
「いつでも帰ってきなさい」とくり返しながら。

家内がいなくなって数日後、勤め先から帰宅したわたしを出迎えた息子は、
驚いたことに、家内の服を着ていました。
サイズがちょうどぴったり合ったのです。
もちろん、息子の方が肩幅がありますし、ストッキングで装われた足許は、ごつごつとした男性的な筋肉に覆われていましたが――
けれどもその風情が、なんとなくむしょうに、わたしのことをそそってしまったのです。
気がついた時には、息子をリビングのじゅうたんの上に押し倒していました。
そして、家内との間につい最近まで交し合っていた熱情を、
あろうことか、家内の服を身に着けた息子を相手に、赤裸々にぶつけていったのでした。

息子は意外にも従順に、わたしを受け容れました。
さいしょから、そのつもりだったみたいでした。
男が男を愉しませるとき、どんなふうに振る舞うものなのか、
息子の身体は明らかに、覚え込まされていました。
吸血鬼に躾けられたのだと、あとで息子は教えてくれました。
息子のヴァージニティを勝ち得たのは、同性であるはずの吸血鬼だったのです。
「小父さんの身体は、素晴らしいよ。母さんがまいっちゃうの、無理ないと思うけどな」
息子はそういって、家内のことを弁護しました。
妻を奪ったわたしのことを気にした吸血鬼が、息子にわたしの相手をするよう指示したのだ――とも、きかされました。
わが家は完全に、吸血鬼の掌中に堕ちていたのです。

いつまでも家内をあのままにおいてはいけない、家庭崩壊になってしまう。
なによりも、吸血鬼に魅入られた家内を盗られっぱなしでは、世間の通りがよくないではないか――そんなふうにわたしは考えました。
姑息なやつだと、お笑いください――

「しばらくのあいだは、いいよ。ぼくが母さんの代わりを務めてあげるから。小父さんからの指示なんだ」
――長年連れ添った奥方を取り上げられたら、さぞかし寂しいことだろう。
――わしは一週間かけてきみの母さんを仕込んでおくから、
  そのあいだはきみが、お父さんを慰めておやりなさい。
吸血鬼は息子に、そう命じたそうです。
「あのひとたちは、ただ獲るだけじゃないんだ。ちゃんと考えていてくれるんだ」
息子のいいぶんをもっともだと思ったわたしは、
家内の口紅で綺麗になぞられた息子の唇に、自分の唇を恋人同士のように重ね合わせていったのです。
「しばらくのあいだ、母さんはあのひとにお預けしよう。でもいつか、きちんと迎えに行こう。そのあいだは、代役をお願いするよ」
そう囁くわたしをくすぐったそうに受け流すと、息子は言いました。
「母さんが戻って来てからも、母さんが恋人と逢うときには、いまみたいにいっしょに愉しもうね♪」

恥ずかしいお話を聞かせてしまいましたね、と、間島はいった。
けれども、由紀也は彼の告白を、恥ずかしいだけのものだとは受け取っていなかった。
むしろ、妻も息子も吸血鬼にたぶらかされ、息子との同性愛の関係を愉しみながら妻の不倫を受け容れその帰宅を待ちつづけた間島の告白が、肯定的な表現で彩られていることに驚いていた。
間島の寛容な態度にほだされるように、つい口走ってしまった。
「貴男と息子さんの関係は、よく理解できますよ。息子さん、いい身体していますよね」
「ああ」
間島の顔つきが、さらにほぐれた。
「そうおっしゃっていただけますと、嬉しいですな。どうぞ仲良くしてやってくださいね」
息子を犯されても嬉しい――間島の態度はそう告げていた。

「奥さんとは、その後は・・・?」
由紀也が問うまでもなく、間島は言葉をついでゆく――

家内がいないのはそれでも、わたしにとっては耐え難いことでした。
さほど夫婦仲がよかったわけではなく、都会を出てこの街に流れてきたときにはむしろ、冷え切っていました。
どうしてもかつての夫婦関係を取り戻したかったわたしは、時おり家内に強引に迫って、夫婦の営みの熱い刻をもとうとしましたが、
強いられた行為はますます、家内の心を遠くに追いやっていったのでした。

息子のいないある晩のこと。
わたしは、息子のまねをして、家内の服を身に着けてみました。
よそよそしくまとわりついたブラウスに、わたしの体温が行き渡ってなじんでくるのに、そう時間はかかりませんでした。
リビングのじゅうたんの上に横たわったまま、わたしはつい、うたた寝をしてしまいました。
どれほど刻が経ったものか――
ふと気がつくと、あたりは暗くなっていて、だれもいない室内で、わたしは上からのしかかる重圧感にあえいでいました。
わたしを抑えつけていたのは、この家から家内を連れ出していった、あの吸血鬼でした。
男はなにも言葉にしようとはせず、女のなりをしたわたしのことを、万力のような力で抑えつけて、首すじに牙を埋めてきたのです。

圧しつけられた唇の向こうで、わたしの血潮がはじけるのがわかりました。
ごくっ。ぐちゅうっ。
汚らしい音を立てて、男はわたしの血を飲み込んでいきました。
強制的な採血行為に、わたしは殺される!と思いました。
けれども男の意図は、そうではなかったようです。
男がわたしの血を気に入っていることが、すぐに伝わってきました。
――モウ少シ時間ガ欲シイ。達也ノ父親デアル貴方ノ血ハ、私ノ嗜好ニ叶ッタ味ダ。
そんな意思が、二の腕やわき腹にしつようにくり返されるまさぐりからも、伝わってきました。
わたしは身じろぎひとつならず、いや、身じろぎひとつせずに、彼の相手を務めつづけました。

吸血行為が終わるころには、わたしたちはもっと打ち解けた感じになっていて、
男がわたしの血を旨そうに飲むのをわたしは拒もうとはせず、
身に着けていた家内の服にしかけられた不埒な悪戯にすら、応じていったのです。
気がつくとそのころにはもう、わたしは妻の情夫に調教されてしまっていたのでした。
わたしは家内がそうされたように、ストッキングの脚を舐められ咬み破らせてゆき、
股間を狙って沈み込んでくる逞しい腰を、女のように受け入れていったのです。

物欲しげな掌が、家内のブラジャーやスリップを引き裂いて剥ぎ取ってゆくのを。
男の逞しい臀部が、スカートの奥に肉薄してきて、わたしの股間を冒すのを。
わたしはなんの抵抗も感じないで受け入れていきました。
ちょうど同じじゅうたんのうえ、息子がわたしの劣情を従順に受け止めたように。
そしてそのすこし前、家内が男の性欲に、寛大に接したように――
女役は、初めてでした。いつもは息子を女として愉しんでいましたから。
けれども初めて女として抱かれることで、限りない歓びに目ざめてしまったのです。

行為がすむと、わたしはいいました。
「家内のしたことは、正しかったと思っています」
「きみのしたことも、賢明だったと思う」
彼はおうむ返しに、そういいました。
「さいしょから相性が良いと直感したのです。ええもちろん、貴方も含めてです。
 わしは人の生き血に飢えていました。その時分は、まだ獲物が少なかったからです。
 そこに、都会から越してきたばかりの息子さんが現れた。
 息子さんのスポーツ用ストッキングのふくらはぎに、わしは一目惚れしたのです。
 しなやかなナイロン生地のリブ編みが整然と流れるストッキングを血で濡らしながら、
 スポーツで鍛えられた若い血潮に酔いしれたい――
 そんなことを熱望したのです。
 スポーツマンの息子さんは、そんなわしに同情して、若い血液を気前よくわけてくれた。
 ユニフォームの一部であるストッキングも、惜しげもなく愉しませてくれた。
 そして、わしが女好きなのを見て取ると、
 母さんを紹介してあげようか?とまで、誘ってくだすった。
 奥さんに初めてお目にかかって、貴女の血が欲しい、貴女を犯したいとお願いすると、
 息子のお友だちでしたら歓迎しますといってくだすった。
 それから、わしのことを気の毒がって、
 高そうなブラウスの胸を御自分から見せつけて、剥ぎ取らせてくだすった。
 「少しくたびれていますけど、一応都会の人妻なんですよ」と、笑いながらね――

わたしは、吸血鬼の告白のいくばくかは作り話だと感じました。
けれども、作り話であっても構わない、とも感じました。
家内も息子も二人ながら彼に血を吸い取られてしまったことを、わたしは悲しんではいない。
むしろ、いま置かれた現実を愉しんでしまっている――そんなことに気がついたのです。
女の姿で抱きすくめられ、しつような吸血を受けたわたしも、目ざめてしまっていたのです。
彼はわたしの身に着けた家内の服を、わたしの身体もろとも愉しんでいきました。
一家の長としてのプライドとか、勤め人として当然気にするべき世間体とか、もはや忘れ果ててしまっていました。
もはや、プレイのような愉しみしか、そこにはありませんでした。

わたしの血に濡れた家内のワンピースを剥ぎ取られ、せしめられてしまっても。
彼が好みの戦利品を獲たことが彼のために嬉しい――
そんな気持ちがしぜんと湧いてきました。
そしてわたしは、もう一着妻の服を箪笥の抽斗から取り出すと、それを身に着けて、彼のあとへと従ったのです。


彼の邸は街はずれにあって、鬱蒼としたツタに壁じゅうを覆われた洋館でした。
その一室一室に、拉っしさられた人妻や娘が、宿っていました。
家内もそのなかで、一室をあてがわれていました。
そのお邸のじゅうたんを初めて踏みしめたとき、わたしはハイヒールを穿いていました。
そう、白昼女の姿で家からお邸までを歩いて通り抜けてきたのです。
ご近所の目を気にも留めないで。
そしてすれ違うご近所の方々もまた、女の姿をしたわたしのことを、なんの違和感もみせずに受け入れて、いつもと同じように親し気な会釈を返してきたのです。

わたしは女としてその邸を訪れ、吸血鬼氏に囲われて、一週間を過ごしました。
隣室に宿る家内と入れ替わりに、代わる代わる、吸血鬼に生き血を捧げ、女として抱かれていったのです。
そして、約束の一週間のお勤めを終えて一足先に帰宅した家内に迎えられて、わたし自身も帰宅しました。
「ご配慮に感謝します」
家内はわたしにそう告げました。
吸血鬼氏との交際を認めたことに対する、女としての感謝なのだとすぐにわかりました。
不器用なわたしは、能弁に受け答えをすることはできませんでした。
ただ、「きみの恋に協力したい」とだけ告げたのです。
以来、お互い、自分の発した言葉に忠実に、日常を過ごしているのです。


間島の話はショッキングだったが、由紀也にとってはひどく新鮮でもあった。
「うちも、そんなふうになれるでしょうか?」
知らず知らず、由紀也はそんなことまで口にしてしまっている。
「もちろんですよ、さあ行きましょう」
間島は由紀也を唐突にさそった。
「どこへですか」
「あなたの奥さまの、情夫さんのところへ」


3.由紀也、吸血鬼と対面する。

そのあと彼の身に起こったことを、由紀也は忘れないだろう。
間島が女として棲み込んだというその邸は、真夜中でもこうこうと灯りがついていた。
迎え入れてくれた吸血鬼は、由紀也の顔見知りだった。
取引先として、日常接している男だった。
そして、薄々由紀也が、妻との関係を疑い始めていた相手でもあった。
「ご明察だったようですな」
吸血鬼は、悪びれもせずに、いった。
「奥さんと息子さんには、世話になっております」
悪びれない告白は、むしろ落ち着いた声色で語られた。
「話は伺いました」とだけ、由紀也はいった。
「貴男とはこれから、どんな風に接してゆけばよいのでしょうか?」
「いままでどおり、お仕事上の取引先だと思ってくだされば、それでよろしい」
「きょうは取引先に求められて、血液の摂取に応じる――ということで好いわけですね」
「そういうことになりますな」

吸血鬼は、由紀也に女装することを、あえて要求しなかった。
「いまのお姿が貴男の本意だというのなら、それがいちばんよろしい」
そういって、勤め帰りのスーツ姿のまま、やおら首すじに咬みついてきたのだった。
咬まれた瞬間、息がとまった。
物凄い衝撃のために である。
くらくらと眩暈がした。
ただ不快なだけの眩暈ではなく、性的なものがぐるぐると渦巻くのを感じた。
とうてい、自分が排除できる相手ではないと、実感した。
なによりも。
いまの快感からわが身を引き離すことが不可能になっていた。
男が首すじから唇を離したとき、たしか「もう少しどうぞ」と言ってしまったような気がする
男はそれに対して、「すこし違いますな」と指摘してきたはずだ。
そして自分から、「もう少し、吸ってください、お願いします」と、告げてしまっていた。
男はふたたび無抵抗な首すじに唇を這わせて、今度は別の部位を食い破った。
そしてごくごくと喉を鳴らして、由紀也の血をむさぼった。
このまま吸い尽くされてしまっても、それで良い――とまで、由紀也はおもった。

しつように吸いつけられてくる唇が、由紀也の素肌を愉しんでいると告げていた。
ゴクゴクと貪婪に鳴る喉が、由紀也の血の味に満足していると告げていた。
抱きすくめてくる猿臂が、由紀也自身に執着していると告げていた。
寝取った人妻の亭主を支配する。そんな強欲な劣情を越えた好意が、
由紀也の身体じゅうの血管を、毒液のように浸していった。

けれども彼がわれに返ると、
強い眩暈を覚えながらも、まだ意識を保っている自分自身を、訪問先の邸のじゅうたんの上で見出していた。

頭上に煌々ときらめくシャンデリアが、ひどく眩しい。
「いかがです?」
ひとしきり由紀也の身体から血を吸い取ると、あお向けになった由紀也を、吸血鬼は上から見おろしていた。
「わたしは邪魔者ではなかったのですか」
いまここで由紀也の血を吸い尽くしてしまえば、和江も保江――保嗣――も独り占めにできる。
けれどもあえてそうはしないで、由紀也の生命を、彼は奪おうとはしなかった。
「貴方には、生きてもらいます。奥さんのストッキング代と息子さんのハイソックス代を稼ぐ人が必要ですから」
吸血鬼の諧謔に、二人の男は、ははは・・・と、乾いた声でわらった。

「いつもの取引とは、だいぶ違いましたね」
「そうですね。一方的に恵んでいただいたので」
「家内と息子も、恵ことにしますから」
「それはありがたい」
すでにせしめてしまっているのですから、わたしがいまあさら 認めるもなにもないのかもしれませんが――
と言いかけると、みなまで言うな、と、吸血鬼は目くばせでこたえた。
「いまのわたしに、後悔が残るとしたら――」
「ええ」
「家内と息子を、わたしの意思で差し上げることができなかったことです」
吸血鬼はにんまりと笑った。
「イイエ、奥方とご令息とは、いま、あなたのご意思でいただいたのだと思うことにしましょう。奥さまの貞操も。息子さんのヴァージニティも」

吸血鬼が今度は、由紀也の足許にかがみ込んでくる。
達也と同じく、くるぶしの透けた足首に、眼の色を変えているのだ。
由紀也はひと息深呼吸をすると、ねぶりつけられてくる舌を這わせやすいように、脚の向きをゆるやかに変えていった。
「きょうの奥方は、黒のストッキングじゃった。あんたも黒でもてなしてくださる。
 夫婦おそろいというわけですな」
冷やかすような囁きを、由紀也はくすぐったそうな顔をして、受け流す。
ぴちゃ、ぴちゃ・・・という唾液のはぜる音が、悦んでいた。
由紀也は妻と息子の仇敵に自分の装いを辱められ愉しまれてしまうことに、じょじょに耽り込んでいった。

それからどれくらい、刻が経ったのだろうか。
だれもいなくなった薄暗いリビングで、由紀也は目ざめた。
彼は身を起こすと、血の抜けた身体をいやというほど実感しながら、あたりを見まわした。
カーテンのすき間から、夜明けの薄明が透けている。

血潮のこびりついたワイシャツに、お尻を喰い裂かれたスラックス。
ネクタイと靴下は、取り去られ持ちさられていた。

この格好で帰宅したら、妻はなんと言うだろう?
そんなことを考えながらも。
和江はきっと、なにも言うまい。
根拠のない確信が、由紀也の胸を満たしていた。

3月23日構想

女の装い 男の装い

2020年03月22日(Sun) 21:56:58

「お疲れ~♪お先っ」
畑川由紀也とすれ違いざま、そのOLは肩までかかる栗色の髪を揺らしながら軽い会釈を投げてきた。
ひざ上丈の空色のタイトスカートのすそから覗く太ももが、てかてかとした光沢のストッキングに包まれて、眩しい。
「あ、お疲れ・・・」
由紀也もまた何気なく、彼女に声を帰してすれ違ってゆく。
ぱつんぱつんのタイトスカートに輪郭をくっきりさせたお尻を軽く振りながら立ち去る彼女のしぐさから、
自分のもつ抜群のプロポーションに対する自身が透けて見えるようだ。

大鳥真央と名乗るそのOLは、実は男性社員である。
当地に赴任してすぐ、御多分に洩れず妻を篭絡された後。
女装に目ざめて、いまでは女性社員として勤務している。
少し派手派手しいOL服は、妻のOL時代の服だという。
いったんすれ違った大鳥真央は、くるりと踵を返して戻ってきて、由紀也に追いついた。
そのまま肩を並べて歩きながら、真央は由紀也にそっと告げる。
「奥さん、吸血鬼とラブラブなんですって?おめでと♪」
正体を知らなければ、それとはわからないほど。
真央の言葉遣いは、むっとするほどセクシーだった。
「ああ、ありがとう」
妻本人にもまだおおっぴらに認めていない関係を表立って祝われて、
それでもごくしぜんに受け入れてしまっている自分自身を、由紀也は訝しく思ったけれど。
いつか妻ともこんなふうにスマートに彼女の不倫を語れるといいな・・・と、ふと思った。
「お二人に気を使って、いい子にしているのね。ご褒美にこんど、あたしがセックスしてあげようか」
真央は口紅のよく似合う厚い唇に、笑みをたたえた。
艶やかだ――と、由紀也は思う。
男が視ても。男だとわかっていても――
「あ、でも由紀也クンには、若い男の子がいるんだもんね。彼、きょうも来るかしら?」
真央は由紀也をからかっただけだったらしい。
再びくるりと回れ右をすると、彼女は背すじを伸ばして後も振り返らずに立ち去ってゆく。
カツカツとハイヒールの足音を硬く響かせながら。

真央はまっすぐに、家路をたどるのだろうか?
情事に耽る真っ最中の妻がいる自宅に。
それとも――
ほかの同僚たちがそうしているように、オフィスの打ち合わせスペースを使って、訪ねてくる吸血鬼と愉しいひと刻をすごすのだろうか。
幸か不幸か、由紀也は後者に属していた。
「小父さんの血を飲みたいから、会社で待ってて」と、達也から電話があったのだ。

「待った?」
がらんとしたオフィスのなかに由紀也をみとめると、達也は白い歯をみせた。
グレーの半ズボンの下、ひざ下ぴっちりに引き伸ばされたおなじ色のハイソックスが、オフィスの照明を照り返しツヤツヤとしている。
由紀也は股間に昂りを覚えながら、達也のほうへと足を向けた。

「穿いてきてくれてたんだね?やっぱり来てよかった」
達也に近寄ると、彼は再び白い歯をみせて笑った。
由紀也のスラックスのすそから覗くくるぶしが、薄手の黒の靴下に透けているのを、目ざとくみとめたらしい。
「見せブラみたいで好いな♪」
達也は由紀也をちょっとからかいながらそういうと、けれども言葉が本音であることを証明するように、さっそくのように目の色をかえて足許に飛びついてきた。
「来てくれるのなら、愉しませてあげようと思ってね」
くるぶしにあてがわれる舌の熱さを覚えながら、由紀也は大人の余裕で達也の仕打ちを受け流す。
履き替えも持っているから、気が済むまで愉しみたまえね、と、由紀也はつけ加えた。
達也のみせた白い歯には、自分の血の色がよく似合う――
由紀也は下品な舌なめずりにゆだねた足首にヌメる舌の感触にドキドキしながら、ふとそんなことをおもった。

達也がオフィスに来るということは、妻の和江は吸血鬼の来訪を受けているということなのだろう。
もしかすると、和江のほうから彼の住処を訪問して、まだ帰宅していないことも考えられた。
「ご明察、和江さん、彼氏と逢っているよ。隣の部屋から保江とのぞき見してたんだ」
保江とは、保嗣の女子生徒としての名前だった。
本名と母親の名前とを組み合わせて作った名前――女子の制服を買うと決めたその日に、息子から教わった名前だった。
息子の名前を女の名前に変えて呼び捨てにされても、さいしょのときほどに心が波立つことはない。
なによりも。
達也は息子を恋人にしていた。
息子を達也が最愛の人にふさわしい扱いをする限り、この吸血少年のなかに由紀也父子を侮蔑する感情はわかないであろう。

「小父さん、ノリがいいから好きだよ。さいしょのときから、薄い靴下の脚を積極的に愉しませてくれてたものね」
血に飢えた少年が、由紀也の穿いている靴下と、靴下越しにありありと感じるふくらはぎの皮膚の双方に執着していることが、しつような舌遣いでそれとわかった。

妻が吸血鬼に堕落させられるのと、息子が女性化するのと。どちらが屈辱的な出来事だろう。
いや、自分自身にしてからが。
その双方に関わった呪わしいはずの少年の手にかかって、
皮膚も、その下をめぐる生き血も、玩ばれてしまっている。

ソファの間近かで組み敷かれた由紀也は、首のつけ根に痛痒いものがもぐり込むのを感じた。
引き替えに、じわっと生温かい液体が噴きこぼれ、ワイシャツのえり首を濡らしてゆく。
首すじに回り込んだしたたりが、ワイシャツの裏側にすべり込んで、
アンダーシャツまで生温かく染めてゆく。
なのに由紀也は、いっさいの抵抗を放棄して、この吸血少年の貪婪な欲望に自らをゆだね切ってしまっている。

半ズボンを脱いで濃紺のハイソックスの脚を突っ張った少年の一物が、股間を冒した。
思うさま排泄された粘液に生温かく浸されながら、由紀也の一物も逆立っていた。
そして今度は少年を組み敷くと、逆に彼の股間を冒しにかかった。
少年は薄笑いを泛べながら、わざと力をゆるめた抗いで男の劣情を逆撫でにかかった。
じょじょに相手の侵攻を許していって、最後にはしつようで力強い吶喊に身を任せていった。
この吸血少年はしたたかにも、父親と息子とを、同時に手玉に取っていたのである。

血を吸い取られる感覚に陶酔を覚えながら、由紀也はおもった。
真央のように女を装って吸われるのと、男の姿のまま吸われるのと、意味は同じなのだろうか?と。
息子は女の姿になってしまった。
けれども由紀也自身は、いまのままの姿で吸われ捧げるほうが、自分にぴったりとくるような気がしていた。

2月3日構想

ビッチと淑女

2020年03月22日(Sun) 19:38:34

この街に移り住んできたときからの友達だった。
引っ込み思案な性格で、都会では友達ひとりできなかった保嗣は、達也の存在に夢中になった。
彼がじつは吸血鬼で、クラスのだれもがその事実を知っている――そう告白されても。
保嗣の達也に対する友情は、変わることがなかった。

部活帰りに襲われて吸血鬼になったという達也は、
自分が初めて咬まれたときのように、長い靴下を履いた脚に咬みついて吸血することを好んでいた。
半ズボンにハイソックスという、この街の学校のユニセックスな男子制服は、かっこうの餌食だった。
保嗣は達也の好みを理解すると、ずり落ちかけていたハイソックスを引き伸ばすと、ためらいもなく血に飢えた友人のほうへと差し伸べていった。

吸いつけられる唇を。
咬み破かれるハイソックスを。
しなやかなナイロン生地のうえに生温かくしみ込んでゆく、赤黒い血潮の拡がりを。
息をつめ夢中になって、見つめていた。
保嗣の血潮に秘められた優しい心遣いは、達也にストレートに伝わった。
唇をうごめかして血を啜る達也は、保嗣をギュッと抱きすくめて、
その抱きすくめられた熱情が、こんどは保嗣にストレートに伝わった。
お互いの熱情を伝えあい、受け止めあいながら。
ふたりはいつか、互いに互いの唇をむさぼり合うようになっていた。

男子の姿で抱かれて血を吸い取られているその時分には。
まだしも、節度や品位といういものが、あったように感じる。
初めて女子の制服を身に着けて登校したとき。
眼の色を変えて迫ってきた達也は、
自分の恋人が吸血鬼に吸われるのすらかえりみず、
ひたすらに、保嗣を求めていった。
求められるままひざを割られ、スカートの奥深くまで、ごつごつとした太ももの侵入を受け容れて。
半ズボンを脱ぎ合って睦み合うことを覚え込んでしまった身体は、しぜんと反応を重ねていって。
ふたりの男子のまぐわいは、いまは男女のまぐわいと何ら変わらないようすで、進行していったのだ。

そのあとの授業はもう、当然のことながら手につかなかった。
教室には戻ってみたものの、
授業の最中に出ていったふたりのあいだになにがあったのか、男子生徒も女子生徒も、だれもが理解しきっていて。
もちろんそんなことはおくびにも出さず、授業に励んではいるのだけれど。
目に見えない視線が自分を押し包む感覚を、もうどうすることもできなかった。

達也も同じ思いだったらしい。
つぎの授業も、またつぎの授業も、途中で保嗣をいざなって廊下に連れ出すと、
今度は授業中のクラスのまん前の廊下で、保嗣を組み敷いていったのだ。
思わず漏らしてしまった声は、筒抜けになっていたはず。
けれどもクラスメイトのだれもがそのことを咎めもしないばかりか、
入れ代わり授業にやって来る教師さえもが、ふたりの行動に視て視ぬふりを決め込みつづけたのだった。

スカートの奥に突き入れられた衝撃の余韻に、股間を熱く浸されたまま。
保嗣は教室をあとにし、家路をたどった。

女の身なりに服装を変えただけなのに。
いったいなにが、起こったというのだろう?
もはやそこには品位も節度もなく、
ただ”ビッチ”(牝)の振舞いが、そこにあるだけだった。

いままでも男子の姿で、そういうことをしてきた。
けれども、女の姿でするそれは、なにかが根本的に違っていた。
ごくおだやかに献血をし、
もっと性的な交接の時も、息を弾ませ合った昂りはあったけれども。
女と男になってしつように手足を絡ませ合ったあのひと刻は、
それらすべてを洗い流してしまうほどの力を持っていた。

けれども、ふと歩みをとめて保嗣はおもう。
ビッチと淑女とは、なにがどれほど違うというのだろう?



保嗣が目指した自宅では。
母親の和江が、家に上がり込んできた吸血鬼との情事に、淫らな汗を流している真っ最中だった。
激しい息遣いのもとに迫られ、肌をこすり合わせた挙句。
着乱れた黒のスリップの肩紐は、片方が二の腕にふしだらにすべり落ちて、
穿いたまま姦(や)れるからと情夫を悦ばせた黒のガーターストッキングは、これも片方がひざ小僧の下までずり降ろされていた。
すでに肌色のパンティストッキングは一足残らず、情夫の牙にかけられていて。
くしゃくしゃにされてむしり取られて戦利品としてせしめられるか、屑籠のなかへと堕ちていった。
派手になったのは、下着だけではない。
いままでの装いは、薄茶とか空色とか、地味なものが多かったはずなのに。
そうしたブラウスたちは襟首に血をあやしたまま情夫にせしめられていって。
入れ代わりにあてがわれた衣装は、真っ赤やショッキング・ピンクといった刺激的な色合いが増えている。
夫のいる夕方に呼び出されたとき。
指定された真っ赤なミニのワンピースに、てかてか光る黒のストッキングのイデタチで玄関に立った時。
背後で夫がなにか言おうとしてすぐさま口を噤(つぐ)んだのを。
上首尾にも外出の許可をいただいたんだわと思い込むほど、したたかな女へと変貌し始めていた。

息子はきっと、味方になってくれるに違いない。
彼女にはそんな確信があった。
だって、初めて吸血鬼が自宅に侵入をする手引きをしたのは、ほかならぬ息子だったから。
彼は彼の友人である吸血少年を伴っていつものように下校してきて、
更にもう一人ともなった招かざる客人が、母親の貞操を清楚な衣装もろともむしり取るのを、ふすまの向こうからのぞき見していた。
息子は母親に対する凌辱行為を妨げようとしなかったばかりか、
自分の痴態を目の当たりに昂りを覚えたうえに、同伴してきた同性の親友と、男女どうぜんのまぐわいを熱っぽく交し合ってしまったのだ。

それ以来。
帰宅してきた息子が、母親が情夫との名残を惜しむ時間が少しばかり長くなったからといって、視て視ぬふりを決め込んでいた。
多くの場合は同性の恋人を伴っていて、二階の勉強部屋や、
ときには母親が情婦にされたその日と同じように隣室のふすまの陰から視線を送ってきて、昂りをより深いものにしているらしかった。

「ああ、帰ってきた・・・」
和江が鈍い声で呟くと、吸血鬼はまさぐる手を止めかけたが、すぐに思い直して、
さっきよりも濃いまさぐりを、
胸許に。わきの下に。股間に・・・と、探り入れてくるのだった。


きょうの息子の居場所は、夫婦の寝室のすぐ隣らしかった。
ドア越しにかすかながら洩れてくる物音が。
ふたりの少年が組んづほぐれつしているところを、リアルに想像させた。

かつて名流夫人と謳われた和江だが。
もはや吸血鬼との情事を恥じる気持ちさえ、忘れ果てようとしていた。

身に着けていたモノトーンのプリントワンピースは、貞淑だったころからの数少ない生き残りの衣装だった。
それが、襟首に血潮を散らし、すそを太ももが見えるほどたくし上げられて、
着崩れさせた衣装から、素肌を挑発的に露出させた、さながら娼婦の装いとなっていた。
足許を清楚に装っていたはずの黒のストッキングは、淫らな唾液にまみれ、くしゃくしゃにされて、
ふしだらな皴を波打たせてずり降ろされていた。

清楚な名流夫人のおもかげは、もはやあとかたもなかった。

いつからこのような、”ビッチ”になってしまったのだろう?
清楚な装いを淫らに堕とされて。
辱められることが歓びに変わり、
清楚な装いを不埒な情夫を悦ばせるために身に着けるようになって、
篤実な勤め人の妻としての良妻賢母の装いの下には、淫らな娼婦の血潮が脈打っている。

けれども、”ビッチ”と”淑女”のあいだに、どれほどのへだたりがあるというのだろう。
清楚な装いを剥ぎ取られ、あっさり堕ちてしまった私――
それなのに、いまは情夫を悦ばせるために、あえて清楚に装って歓心を買おうとしている私――
そう、なにもかもが、紙一重なのだ。

息子は、男と女のへだたりをさえ、とび越えてしまっている。
私が、淑女から娼婦へのへだたりを駆け抜けるくらい、なにほどのことがあるのだろう?

3月15日構想

女装で登校。

2020年03月15日(Sun) 00:35:11

しゃなり、しゃなり、と。
音がまとわりつくように感じた。
初めて女子の制服を身に着けて、玄関を出たときのことだった。
母親の和江に見送られて家を出ると、保嗣はほうっと息をついた。
深呼吸で吸い込んだ冷気が、肺の奥まで沁みとおった。
達也は校門の前で待っている約束だった。
そこまでは、女子のカッコウで一人で歩く。
羞恥プレイみたい・・・と思いながらも。
独り言さえ女言葉になっている自分に気がついて、ちょっと嬉しかった。

いつもの半ズボンと同じように太ももを外気に曝しながらも。
まとわりついてくるスカートのすそが、ひざ小僧のあたりをひどく刺激していた。

見慣れた通学路が、別世界にみえる。
すれ違う人たちのなん人かは、保嗣の正体に気がついたのか、チラと目線を投げてくる。
そのたびにちょっとビクビクしてしまったけれど。
校門で待っている達也のことだけを考えて、保嗣――いや保江は、いっしんに通学路をたどった。

「よう」
達也がにんまりと笑って、こちらに向かって手を振った。
思わず淑やかに、お辞儀で返していた。
揺れるウィッグが頬に触れて、女の姿をしていることをいっそう実感させる。
「似合うじゃん。期待以上♪」
達也のピースサインに「そお?」と、保江は満足そうに笑った。


「起立!」「礼!」で始まる朝礼とホームルームは、いつも通りだった。
暮らしメイトのなん人かは、きのうまでと様変わりした保江のイデタチに、ちょっとびっくりしたように目を見張ったが、傍らの達也を意識してか、からかうものもおらず、声をかけてくるものもいなかった。
周囲の無反応が少しもどかしいくらいに感じていたら、
隣席の田中将人が声をかけてきた。
「やるじゃん。女子になったんだ」
「ああ・・・うん」
ちょっとだけ男言葉に戻りかけながらも、保江はウィッグを揺らして頷いた。
「親とか、反対しなかった?」
「ううん、意外にね、もの分かりよかったよ」
すっかり女のクラスメイトに戻って言葉を返すと、将人もまた、女子と話しているときと同じ態度に終始してゆく。
そのようすを遠くから見守る達也がにんまりするのを背中で感じながら、
彼氏以外の男子とおしゃべりをしているところを視られた気分になっていた。
「ほかの男子とも、どんどんしゃべれよ」
達也が声をかけてきた。
「そうなんだ」
「女子になったのをもっと感じて欲しいからな」
「わかった」
ちょっとだけ湧いた後ろめたい気分が、前向きに回れ右をした。
達也には短い返事だけを返して、保江は傍らの友人に声を投げてゆく。
「城田くーん!」


「よっ」
背中をたたかれて振り向くと、見慣れない男子生徒。
よくみたら、月川ヨシ子が笑っていた。
ショートカットの黒髪がよく似合う十四才。達也の彼女だった。
スポーツマンの達也は、女子にもてた。
そのなかで達也の彼女の座を勝ち取るのは、女子のあいだでも至難だったはず。
もしかすると”恋がたき”になるかもしれない彼女のことを、保江は眩しく感じる。
よく見ると、ヨシ子は一層眩しく見えた。
彼女が身に着けているのは保江とちょうど正反対――男子の制服だったのだ。
「これ、あなたのよ」
意外なことを、ヨシ子はいう。
そういえば。
達也にひとそろい、自分の制服をあげたことを思い出した。
抱かれた後に、着ていた制服をプレゼントしたのだ。
「時々借りてるの。悪く思わないでね」
ヨシ子はクスッと笑い、保江も思わず笑い返していた。
彼女は保江のことを、”恋がたき”ではなく”同志”だと思ってくれているらしい。
伸びやかな脚を覆う紺のハイソックスが、さらに眩しかった。

「行こうか」
かねて約束していたような顔をして、いつの間にか傍らに立っていた達也が声をかけてくる。
声をかけられた範囲に、保江もヨシ子も入っているらしい。
ちょうど授業が始まる間際だった。
他の生徒が着席するなか、廊下に出ていく3人のほうを、教師はわざと見ずに済ませた。

「どこに行くの?」
と問う保江に、
「いいところ」
女子の姿をしている保嗣――保江にすっかりいままで以上の親近感を抱いたらしいヨシ子が、スカートのお尻を叩いた。

誘い入れられた空き教室は、冷え冷えとしていた。
がらんどうな空気の支配しているモノトーンな教室のなか。
ずらりとならんだ机といすが、後ろのほうだけ不自然に片寄せられている。
「あそこがあたしたちの遊び場・・・なのよ」
ヨシ子が保江に耳打ちした。
案の定。
教室の隅に佇む黒い翳は、あの吸血鬼だった。

「やあ」
達也は健全なスポーツ少年の笑顔で吸血鬼に会釈をした。
吸血鬼は眩しそうに、会釈を返した。
「真っ先はぼくだよね?」
そういって半ズボンの下から差し伸べる脚は、球技サークルのユニフォームである、モスグリーンのストッキングに装われている。
「ククク・・・まあそうだね」
吸血鬼の浮かべた笑みに、ヨシ子が「やらしい」と、声をあげる。
少女の呟きを横っ面で受け流しながらも、吸血鬼は目でこたえてゆく。
どうやらヨシ子と吸血鬼も、遠い関係ではないらしい。
それ以外はほとんどわき目もふらず、
吸血鬼は達也の足許にかがみ込むと、運動部のユニフォームの一部に唇を吸いつけ、牙を埋めた。

う・・・っ
達也の眉がこまかく震える。
軽く食いしばった歯がキリキリとなるのが、聞こえるようだった。
吸いつけられた唇の下。
モスグリーンのストッキングにじわじわとしみ込んで拡がってゆく達也の赤い血に、ふたりの少女は目を奪われた。
愛する人の身体に脈打つ血――それはふたりにとって、特別なものだったから。
達也が尻もちをついてしまうと、吸血鬼はふたりの少女を振り返った。
吸い取ったばかりの血が、むき出された牙にあやされていて、それがチラチラと生気を帯びた輝きを秘めていた。
きれい――
少女はふたりとも、異口同音に声をあげた。
ヨシ子は催眠術にかけられたようにふらふらと脚を踏み出して、吸血鬼のほうへと歩み寄った。
そんなヨシ子をしっかりと抱きすくめると。
男はヨシ子の白い首すじに、彼氏の血のついたままの牙を咬み入れた。
じわっ・・・と噴き出す血潮が、ひどく鮮やかに、保江の網膜を染めた。
ブラウスの襟が赤黒く浸されるのもかまわず、少女は吸血鬼に生き血を捧げてゆく。
彼氏である達也は、尻もちをついたまま、恋人が吸血されてゆく様子を、うっとりと見上げてしまっていた。


自分の彼女を吸血鬼に襲わせて、処女の生き血を提供している男子がなん人もいるという。
そのひとりが達也だということを、保江は初めて知った。
両刀使いの達也は、ヨシ子のことも保江とおなじくらい、愛しているに違いない。
そうした愛情と、吸血鬼との仲を認める行為とは、きっと矛盾するものではないのだろう。
ヨシ子を愛しながら、愛するヨシ子を吸血鬼に吸わせる。
保嗣を愛しながら、その保嗣が吸血鬼の毒牙を享ける道すじを、整えてゆく。
愛するがゆえに、吸血鬼に捧げたくなるのだろう。
自分の恋人を吸血鬼に誇ることと、吸血鬼に襲わせることと、
たぶん達也のなかでは矛盾がないのだろう。
「ああーっ」
吸血鬼の腕のなか、ヨシ子が切なげに叫びをあげた。
わざとのような声色に、達也をそそろうとする努力を感じ取った。
けれどもその声色に、本音の快感が秘められていることを、達也も保江も感じ取っている。

「こんどはきみの番――吸い取られてしまったぶんは、きみがくれるんだよ」
達也が生えかけた牙をむき出して、保江に迫る。
「うん、いいよ・・・」
保江は陶然となって、ブラウスの釦を二つ三つ外し、達也の牙を待った。

ちゅうちゅう・・・
きうきう・・・
ふた色の吸血の音が、競い合うように、空虚な教室に響いた。
ひとつはヨシ子を相手にした吸血鬼の口許から。
ひとつは保江を吸いつづける達也の口許から。
お揃いの制服を着た女子生徒――ひとりは男子――は肩を並べ手をつなぎ合って、
吸血鬼たちの貪婪な欲望に、わが身をゆだねていった。


気がつくと。
傍らのヨシ子の姿がなかった。
吸血鬼も、いなくなっていた。
ふたりの行方を気にする間もなく。
「さあ、これからが本番♪」
達也が嬉しそうに、白い歯をみせた。
彼の下肢からは制服の半ズボンが取り去られて、
血をあやしたモスグリーンのストッキング一枚になっていた。
保江はふらふらと起きあがると、達也の太ももを抱いて、股間の一物を口に含んだ。
「ああ・・・いいなぁ・・・夢だったんだ・・・女になった保江に咥えてもらうのが」
恋人の行方など眼中にないように、達也はあらぬことを口走る。
口の中ではじけた一物が、巻きつける舌に応えるように、熱く圧してくる。
ほろ苦い粘液を口に含み、喉に流し込みながら、保江はなおも夢中になって、吸った。

気がつくと、教室の床に組み伏せられていた。
真新しい制服のスカートのすそが拡がり、
そのすき間から、達也のごつごつとしたひざ小僧に脚を押し広げられて、
熱く逆立った一物が、太ももをすべるようにして、スカートの奥へと侵入してくる。
ひざ小僧の下に巻きついたハイソックスの口ゴムの感触を、妙に生々しく感じながら、
保江はその逆立つ一物を、従順に迎え入れた。

いままでもなん度となく重ねてきた行為――
けれども、女子の制服を身に着けての営みは、また別次元のものだった。

ああ。いまこそ達也くんに、あたしの処女を捧げる――
保江は幸福感に充ちた瞳を瞑り、股間への熱い侵入を、淑やかに迎え入れた。

3月13日構想。

吸血鬼たちによる、少年たちへの教室内乱交。

2020年03月08日(Sun) 08:00:30

ひとりの少年は、ハイソックスのうえから脚を咬まれた。
もうひとりの少年は、ハイソックスをずり降ろされて、脚を咬まれた。

ハイソックスの舌触りと。
生の素肌の舌触りと。
どちらを愉しむほうが、よりいやらしいのだろう?
吸うほうも。吸われるほうも。そんなことを考えながら――
体内から抜き取られる血の量を省みることなく、ふたりの少年は献血に夢中になってゆく。

やがて血に飽きると吸血鬼どもは、少年たちの制服姿にのしかかる。
ハイソックスをずり降ろされた二対の脛を輝かせながら、少年たちは犯される。
白い歯のすき間から、随喜のうめきを洩らしながら。
腰を振って、応えてゆく。

犯される少年たちは手をつなぎ合って、言葉を交わす。
まるで娼婦になったみたいだね と。
そして、獲物を取り替え合う吸血鬼にこたえて、覚えたてた愛技で、彼らの欲望に応えて、
いけない遊戯に耽り込んでゆく。
女のようにあしらわれたふたりの少年は、放心状態で放課後を迎える。
そして、情事を終えた頃合いの母親たちの待つわが家へと、下校してゆく。

制服店にて

2020年03月03日(Tue) 07:56:42

中学生の息子を連れた母親が入店してくるのをみて、制服店の小母さんは、
「ああ、制服ですか?」
と、声をかけた。
「あ、はい、そうなんです・・・」
生真面目な母親がちょっぴり口ごもるのを、保嗣は心のなかでくすっと笑う。
「あのぅ、じつは、女子の制服でお願いしたいのですが」
決まり悪げに口火を切る母親を、ちょっといとおしくさえ感じた。
少なくとも、いまの言動のうえでは、和江は自分の側に立ってくれている。
そんな共感が、母に対するシンパシーを生んだのだろう。
父に黙って吸血鬼の情夫と逢いつづける母を、許しても良いと保嗣は感じた。

少女のように戸惑う安江を相手に、制服店の小母さんは、意外なくらいさばさばと、
「あ、そうなんですね?最近、そういう生徒さん多いんですよ~」
と明るく受け答えを返してきた。
一瞬、保嗣のほうにも目線を合わせてにっこりすると、
「採寸しますので、こちらへどうぞ~」
と、自ら先に立って母子を店の奥のほうへと案内した。
照明の弱いお店の一番奥のほうに、カーテンの下がった試着室がひっそりと佇んでいた。

保嗣が試着室のまえでちょっとのあいだまごついていると、
小母さんは早くも制服を一着両手で抱えてくると、いった。
「きみならA体でだいじょぶそうだね」
男子の制服である半ズボンから伸びた豊かな肉づきの太ももに、小母さんはふと眩しそうに目を留めた。
「スカート、履き方わかる?」
と問う口調には、からかいや冷やかしの色はまったくなかった。
これから女の子になるんだね、と、しぐさで伝える様子は、
これから中学生になるんだね、と、去年の春にしぐさで伝えてきた様子と、変わりなかった。
用意が整うと、小母さんは気を利かせるようにして、試着室から離れていった。
カーテンの向こうに保嗣を押し込みながら、
「きみ、ハイソックス似合うね」
と、ひと言添えるのを忘れずに。

お店の小母さんの好意的な物腰は、少年をひどくくつろいだ気持ちにさせた。
ちょっと動いただけで肘や肩の触れそうな密室のなか、
スカートを腰に巻き、ウェストのホックを留めると、つぎはジャケットを羽織ってゆく。
制服のスカートの重たい生地が、ひざ小僧の周りでさわっと揺れた。
迫ってくるほどの狭いスペースのなか。
真新しい制服の生地の香りが、保嗣の鼻腔を浸した。
血が騒ぐのを感じた。
少年の血ではなく、少女の血が目覚めたように、保嗣の身体の隅々まで脈動し始めた。

もとの姿に戻って試着室を出ると、小母さんは脱いだままの制服を大事そうに抱えた。
「お母さん、買ってくれるみたいだよ」
と小声でいうと、やはり大事そうに、丁寧にたたみ始めた。
初めてそでを通した女子の制服が、そのままそっくり自分のものになる。
そんな光景に、保嗣は胸をわなつかせた。
自分でも滑稽だと感じながらも、いまの瞬間を大切にしたい――と、そう思った。
あの服を着て、達也に抱かれる。
初めてそんな想像をすると、脚のつま先まで真っ赤になったかと思うくらい、のぼせてしまった。
小母さんは、そんな保嗣の様子に気づかぬようにして、ひたすら作業に没頭していた。

「スカートはミニ丈のもありますよ。最近は男女問わず人気があるみたいなんですよ」
さりげなく売り込みをかけた小母さんに、和江は「どうする?」と息子を振り返り、
保嗣はちょっと考えて、
「じゃあ、ミニもお願い」
とこたえた。
ミニ丈のスカートには、タイツかストッキングが好いな、とふと思ったのに応えるように、
「タイツとストッキング、買っておいたから」
と、傍らから和江が囁いた。
「余分めに、ね♪」
和江は、イタズラっぽく笑っていた。

保嗣の身体のあちこちにメジャーをあてがった小母さんは、職人のような目つきになって値踏みをするように少年と制服とを見比べた。
「袖をちょっと出しますね。1時間ほどで終わりますから、きょうじゅうに受け取れますよ」
「受け取りは自分でできるわね」
畳みかけるように尋ねる和江のほうはふり返らずに、保嗣は「わかってるよ」と、うるさそうにこたえた。
それが照れ隠しなのだと、和江も、小母さんも、保嗣自身も、分かり合っている感じだった。

「念のため二着いるかな」
さすがに制服店にまでは姿をみせなかった父親の助言に従って、
同じサイズの制服を二着、スカートはひざ丈とミニ丈をそれぞれ二枚ずつ購入した。
いったん制服店を出て他の買い物を済ませると、和江と保嗣はふたたび制服店へと戻ってきた。
どうしても早く受け取りたい、と、保嗣がせがんだためだった。
さいしょは一人で受け取らせるつもりだった和江もいっしょについてきたのは、買った制服が二着だったためだった。

二着の制服はそれぞれ立派な紙製の箱に入れられていた。
小母さんはその両方をひとつずつ開けて中を確かめるようにとすすめた。
しわひとつない真新しい制服に、保嗣は胸をずきん!とさせた。
明日から髪を伸ばそうと思った。
しばらくのあいだは、さっき買ったウィッグのお世話になるけれど。
いずれ地毛で女生徒としての髪の長さを蓄えて、学校に通うのだ。
母親は「お祝いね」と言い添えて、制服店で黒のストッキングを何足か買い求めてくれた。
たぶん・・・今週中にはすべて、吸血鬼の小父さんと達也とによって、咬み破かれてしまうだろうけど。
心のなかでほろ苦く笑いながら、保嗣は母親の振舞いに”同性”どうしの気遣いを感じて、神妙にありがとうと言った。

お財布のなかから一万円札を何枚も取り出す母親に、さすがにちょっと済まない気になりかけた保嗣だったが、
「来週はこれを着て女子になるんだよね」
と、和江が白い歯をみせると、嬉しそうに笑い返した。
母子とも葉の輝きが生き生きとしていると、制服店の小母さんは思った。
そして、いつも以上に心を込めて「ありがとうございます」を告げた。

2月20日構想 3月3日脱稿