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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻と母とを犯されて ――女ひでりの村の兄弟――

2021年07月30日(Fri) 07:25:49

鮮烈な記憶を刻みつけられたひとときだった。
わたしはリビングにいて、
左右のそれぞれの寝室で、
妻と母とが、同時に犯されていた。

昼日中から、声をあげて、
ふたりは呻き、悶え、教え込まれた歓びにむせびながら、
自分を辱めた男に、服従を誓わされていた。

半開きになったふすまから覗くのは、
肌色のストッキングを穿いた妻の脚。
薄茶のストッキングを穿いた母の脚。
二対の脚たちは、それぞれの部屋のなか、悩ましくもつれ、乱れながら、
都会育ちの婦人にふさわしい気品をたたえていたナイロン生地を、
脚の周りによじれさせ、くしゃくしゃに波打たせ、引きむしられていった。

女ふたりを襲ったのは、この村の兄弟だった。
わたしたち一家がこの村を訪れて、まだ一週間と経っていなかった。
女ひでりの村だったから、ふたりとも、四十代で独身。
五十も半ばを過ぎた分別盛りの母よりは若く、
まだぎりぎり二十代の妻よりも年上だった。
兄は母を。
弟は妻を。
一目ぼれに見染めてしまい、ぼくにふたりを紹介するようにと強請した。
ふたりの意思を尊重することを条件に、ぼくはふたりを家にあげ、
そしてぐるぐる巻きに縛られてしまっていた。
そのうえで、
だんなさん、おふたりをありがたく頂戴するよ――
捨て台詞のような、たったひと言のあいさつで、
二人は引き分けられるようにして、それぞれの寝室に引きずり込まれていったのだ。

嫁と姑は、不仲だった。
そのふたりが、いまは同じようにあしらわれて、
山野で鍛えた逞しい筋肉に、か細い四肢を抑えつけられて、
都会ふうの洗練されたブラウスの襟首に腕を突っ込まれ、
スカートのすそから、そそり立った一物を突き込まれ、
武士の家系にふさわしい名家の子女にふさわしく、
「枕を並べて討ち死に」を遂げてしまっている。

夫であり息子であるぼくのことさえ忘れ果て、
いいわ、いいわあって言いながら。
お互いの声が聞こえる距離のはずなのに。
いや、そうであるからこそかもしれないけれど、
声はずませ合って、堕ちていった。

妻と付き合っていた時には、半年がかりで口説いて、
やっとのこと、ベッドへといざなったはずなのに。
ものの数分のあいだで、彼女の理性はもろくも突き崩されて。
最高の愛の表現であるはずのことを、初対面の男と分かち合うようになっていた。

嵐が通り過ぎたあと。
ぼくはふたりに缶ビールを与えて立ち去らせ、
妻と母とのために、お茶を入れていた。
三人三様の想いを抱えて、黙りこくって、差し向かいになって。
ただお茶を啜る静かな音だけが、和室のリビングで唯一の音だった。

初めて口を開いたのは、妻のほうだった。
「私疲れちゃった――お義母さまは、お若いのですね。あんなに保つなんて」
母は穏やかな声をつくろって、こたえた。
「そんなことないわよ。あなただって、気丈に振る舞っていたじゃない」
してしまったこと、あらわにしてしまった態度について、女として理解する――
そんな感情を滲ませていた。
妻も、いつもの反抗的な態度を忘れたように、
ぶきっちょにほほ笑みながら、母を擁護するようなことをいった。
「でも、私の場合は不貞だけど、お義母様の場合はロマンスなんだわ。
 お義父さまだって、もういらっしゃらないのだし」
「そんなことないわよ、だって――」
母はいつもの生真面目な母らしくなく、独りごとのような口調で、こういった。
「だってあのひと、お父さんの写真の前でしたがったんですもの」


7月25日構想

娼婦に堕ちた妻。

2021年07月22日(Thu) 07:20:05

「Hi!」
まるでガイジンさんに声をかけられたようだった。
だしぬけな黄色い声にびっくりして振り向くと、そこには妻の真奈美の姿があった。
昨日家を出たときには、こげ茶のノースリーブに薄茶のロングスカートだったのに、
いまの彼女は真っ赤なスーツ姿。
ひざ上丈のタイトミニからにょっきりと伸びた足が、ドキッとするほど刺激的だ。
「どうも」
真奈美の横にいた紳士も、慇懃に会釈を投げてくる。
こちらは渋いグレーのスーツ。
ゴマ塩頭の下の陽灼やけした額だけが、山野で鍛えた職業を連想させた。
きのう真奈美のことを連れ出した、村の長老だった。
真奈美は長老の家でひと晩泊り、衣裳もろとも長老好みの女に仕立てられて、
あくる朝にはこうして、街なかを闊歩していた。

この村に流れてくる都会の男は、妻を村の衆に委ねる義務を負っている。
ゆえあって都会暮らしのできなくなった者たちの、さいごに辿る逃げ場。
それがこの村だった。
勤務先の創立者は、この村の出身者。
以前から吸血鬼と共存しているこの村では、
若い血液を提供する人たちを求めつづけていた。
故郷に錦を飾るため、創立者はビジネスチャンスなどまるでないこの村に、事務所を開設した。
彼らに若い血液を供給するために。
そして、事情ができて都会で暮らせなくなった人たちを、家族もろとも送り込んでいった。

お互いの“需要”と“供給”が一致していた。
ぼくの得た“供給”は、多額の借金と不祥事から逃れるための逃げ場。
村の衆はたちが得た“供給”は、都会妻の貞操――

「あなたがそれでもよければ」
妻は黒い瞳を輝かせて、転勤を打診するぼくを見返した。
ぼくが彼女を、ほかの男に委ねる妄想に夢中になっていることを識っている眼だった。
「夫婦関係は壊さない」
そういう約束をして、ぼくたちは転勤の話を受け容れることにした。
「ほんとうに、壊れないと良いわね」
都会をあとにするとき、妻は他人ごとのように、そういった。

村に着いてから、一週間が経った。
昨日、「お見合い」と証する席に、夫婦で招び出されて、
目のまえに現れたのが、その男だった。
がっしりとした体格の、還暦はとうにすぎた男。
それが妻の“花婿候補”というわけだった。
選択の自由はなかった。
30分後。
とりとめのない歓談をともにしたその男は、
真奈美を伴って、ぼく一人を置き去りにして、立ち去っていった。
薄茶のロングスカートを秋風にそよがせる真奈美の後ろ姿に、
男はさりげなく、腰に手を添わせてゆく。
ロングスカートのうえから無遠慮に置かれた掌にこもる情念を見せつけられたのは、
思い込みに過ぎなかったと言い切れるだろうか。
その晩ぼくは、独り寝の夜を、自室で悶々と過ごすことになった。

脚に通した肌色のストッキングを穿いたまま、舌でいたぶられ、
よだれでぐちょぐちょになったストッキングを、引き剥がされるようにして脱がされて、
ロングスカートに忌まわしい粘液を点々と滴らせながら、
ユサユサと腰を揺らして堕ちてゆく妻――。
そんなシーンに苛まれ、目を逸らせなくなって、しまいに魅了されていた。
くしくも。
ぼくの妄想と寸分たがわぬシーンが、男の邸ではくり広げられたのだという。

男が真奈美を独占するのは、差し当たって翌日の夕刻までだった。
村の衆に紹介された都会妻は、男とひと晩を過ごし、翌日もしばらくの間デートを楽しむ。
夕方6時には妻はいちおう“解放”されるが、
その後の三人の行方は、三人で決めることになる。
三つの意思表示のなかで、もっとも優先順位が低いのは、夫の立場。
ぼくのことだった。

まるで外人の将校に連れられた娼婦のようなイデタチと声色で、ぼくに声をかけてきた真奈美――
その表情はくったくがなく、過ごしてきた時間が彼女にとってそう不愉快なものでなかったことを証していた。
タイトミニから覗く脚は、光沢交じりのストッキングをギラつかせ、
いままでみたことのない彩りをよぎらせていた。
「約束の時間には帰るからね」
いつもの声色に戻った真奈美はそういって、姉のような慰め顔でほほ笑むと、
夕べ彼女を支配した情夫のほうへと、サッと身をひるがえしていった。
ぼくはぼう然と立ち尽くし、二人の行く手を見守るばかりだった。


真奈美を返してもらうのは、6時の約束だった。
そして6時ちょうどに家のインタホンが鳴って、そこには茶系の服に着直した真奈美と――男までもがいっしょにいた。
「デートは6時までの約束だから、戻ってきた」
真奈美はくったくなげにそういうと、ぼくをしり目に男を家にあげてゆく。
「喉渇いた。お茶出してくれる?」
主導権はすべて、真奈美が握っていた。
ぼくはいわれるままに、真奈美と、ぼくと、男のために、ティカップを三つ、用意した。
自分の妻を犯した男のために、紅茶を淹れる――
強いられた自虐的なサービスが胸にずん!とこたえたが、
それでもぼくは紅茶の濃さをはかりながら、念入りに淹れていた。

「正夫は、お紅茶淹れるの得意なの。私がするよりよっぽど上手」
「ほんとだ、美味いな」
男はぼくのまえでも、真奈美に対してすでに友達口調で、
二人が重ねた時間が作った親密さを、いやがうえにも思い知らされる。
ぼくの顔色を察したのか、男はやおらこちらに向き直って、
「真奈美さんをお借りした。楽しかった」
と、礼にならない礼をいった。
――「つまらなかった」といわれるよりは、みじめではないでしょう?
あとで真奈美はそういったけれど、
妻を自由にされたことに、変わりはなかった。
それでもなぜか、ぼくの胸に湧き上がったのは、
男が真奈美の肉体に満足し、高く評価してくれたことへの満足感だった。


「悪いんだけど――今夜は独りで寝てくれる?」
真奈美が言った言葉に、ぼくは耳を疑った。
「このひとを、家に泊めることにしたの。覗いてもいいから」
さいごのひと言を、声をひそめて口にするとき、
真奈美はぼくと戯れるときにみせるあのイタズラっぽい表情になっていた。
困惑したしかめ面をことさら作っていたぼくの本心を、言い当てた言葉だった。
「できるものか、そんなこと」
強がるぼくに、
「うそおっしゃい」
と、真奈美はぼくに、とどめを刺した。

「さいしょのときのお洋服って、プレゼントするのがならわしなんだって。
 でもあたしこの服気に入ってるからって言ったら、
 時々着ておいでって言って、返してくれたのよ」
真奈美は良く輝く黒い瞳で、しんそこ嬉しげにそう口にする。
「今夜はこの服が、パジャマ代わりだけど――」
男は、女を犯すとき、着衣のまま弄ぶのが好みだという。
男の好みに合わせて、自分の服を、やつの劣情を満たすために提供するのだという。
初デートのときに買ったその服が、情夫に媚態を売るための小道具に堕ちる。
妻の瞳が少しだけ、意地悪そうな輝きを帯びた。
――あなた、状況を楽しんでるでしょ?ね?いいわ、もっと楽しませてあげる。
真奈美の瞳は、あきらかにそう告げていた。

真奈美は、ストッキングを穿いていた。
家から穿いていったのと同じ感じの、地味な肌色のストッキングだった。
「都会妻の、ストッキングの脚をいたぶるのがお好きなんですって。いやらしいわよねえ」
真奈美はそんなことを言いながら、
ぼくに面と向かって、「奥さんの脚を愉しませていただく」と宣言した男のために、
屈託無げに、ストッキングの脚を伸べてゆく。

足許にかがみ込んだ男の頭を抱きかかえて、なにかひそひそと囁きながら。
薄茶のロングスカートを少しずつせり上げられていって。
自前のものらしい地味な肌色のストッキングのうえから、足許を舌でなぞられて、
ストッキングが皺くちゃになるほど波打つのを、面白そうに見おろしている。
「やらしいね・・・」
洩れてくるかすかな呟きが、なぜかぼくの股間を刺激した。

「し、主人が・・・視てる・・・っ」
真奈美の囁きが、ぼくを刺激しつづける。
男は真奈美を押し倒し、薄茶のロングスカートの奥をさぐっている。
妻がそこまでされているのに、ぼくは手出しすることを許されない夫――
ぼくにできることは、愛する妻の肉体を、気前よく提供することだけだった。
歯がみをしながら耐える真奈美にのしかかり、男は醜い交尾を遂げた。
真奈美も感じてしまったらしく、畳のうえで息をゼイゼイとはずませている。
薄茶のロングスカートに男が吐き散らした粘液が付着して、ヌラヌラと濡れていた。

「ご主人悪いな。寝室を借りるよ」
男はそういうと、「エッ、すぐやるの!?」と戸惑う妻をひき立てるようにして、
夫婦の寝室へと入り込む。
ベッドのうえに真奈美の華奢な身体が、ドサッと投げ込まれるのが見えた。
まくれあがったロングスカートから覗いた脚は、
ストッキングを脱がされたむき出しの白さを輝かせながら、じたばたと暴れた。
ベッドがぎしぎしと軋み、その音が重なるにつれて、妻の抵抗は熄(や)んでいった。
あとはただひたすら、熱っぽい吐息の応酬。。
ぼくはただぼう然と、事の成り行きを見守っていた。
ズボンに生温かい粘液の濡れがじわじわと拡がるのを、体感しながら・・・



あとがき
せっかく泛んだのであっぷしましたが、
今回はかなり一方的で、やや鬼畜めいたお話ですね。。。
あとでご主人に伺ってみたところ、
真奈美さんと年配の彼氏とのデートはほぼ毎日のようで、
彼氏に買ってもらった服を着るのと自前の服を着て出かけるのとは、半々だそうです。
なんでも、ご主人は、自前の服のほうが昂奮を覚えるとか。
いままでどおりの服装をした真奈美さんが他の男と腕を組んで歩み去ってゆくという、
お見合い直後の光景が、忘れられないそうです。
お相手の男性も、そんなご主人の嗜好を尊重して、家を出る時の真奈美さんを連れ出す姿を、わざわざ見せつけるようにしているとのこと。
この三人。
案外、仲が好いのかもしれません。

絵里子さんの純潔。

2021年07月22日(Thu) 06:45:46

は じ め に

婚約者を伴い生まれ故郷に戻ってきた若い男性が、彼女を吸血鬼の親友と引き合わせて、
目の前で未来の花嫁を征服されてしまうお話です。
柏木の好きなプロットの、代表的なひとつです。^^
テーマ・シチュごとに、ワンフレーズにまとめてみました。
出来は、いつもとそう変わらんのですが。。。^^;


「すまない。きみの絵里子さんに怪我をさせてしまった。」
ぼくのほうを振り向いた友作は、まだ口許に絵里子さんの血を滴らせていた。
抱きすくめられた友作の腕の中、
ぼくの婚約者の絵里子さんは、よそ行きのスーツ姿のまま、
ぐったりとおとがいを仰のけて、
かすかに息づく首すじから、バラ色の血を流している。
ブラウスの襟首に血が着かないよう、友作はしたたる血潮をハンカチで拭い、
唇でもういちど傷口を含んで、血止めを施してくれた。

友作は、ぼくの幼なじみの吸血鬼。
結婚を控えた絵里子さんを伴い、久しぶりに実家に帰ったときの出来事だった。

絵里子さんがわれに返ったとき、
ベンチにもたれかかった彼女のことを、ふたりの男が両側にかしずくように見守っていた。
友作とぼくだった。
「もう大丈夫。血は止まっているから」
と、友作は絵里子さんを安心させようとして、いった。
彼のひと言は、絵里子さんには効き目があったらしい。
ほっとひと息ついた彼女は、ぼくをみて、いった。
「このひと、わたしを咬んだんです」
大きな瞳をもの静かに見開いて、謡うような声色がむしろ、愉しげに響いた。
「血を吸われちゃいました」
冷静な彼女は、自分の身になにが起きたのかを、きちんとわきまえていた。
「吸血鬼がいるって、本当だったんだね」
彼女はそういって、友作を見かえると、
「でも、悪い人じゃなさそうみたい」
と、こんどは友作を安心させるようなことを呟いていた。
「気にしないでね。貴方はわたしを騙したりしてないし、
 吸血鬼がいるって正直に教えてくれた。
 友作さんもそう。
 若い女の血が欲しくて、たまらなかったのね。
 悪いのは、それを真に受けなかったわたしだけ」
さっきからわたしばかり言ってる――絵里子さんは初めて、口を尖らせた。
「二人とも黙ってないで、なんとか言ってよ」
とわざと身を揉んで、よそ行きに装った脚を、ちいさく足摺りさせた。
「護れなくてごめん・・・っていうのは、なしにして」
――なんだかぼくのほうが、慰められているような気がした。

「ご馳走様」
友作は悪びれずに、そういった。
過去になん人もの女性を襲っているだけあって、
結婚相手を連れ帰ったぼくよりも、ほんの少しだけ、女あしらいに長けていた。
「美味しかったですか、わたしの血」
絵里子さんは愉快そうに、もの静かな瞳に笑みをたたえた。
「ああ、美味しかった」
白い歯をみせる友作に、
「なら、よかった」
と、絵里子さんはにこやかに応じる。
打てば響くようなタイミングだった。
ふたりは気が合うな――ぼくはそう感じて、ちょっとだけ嫉妬を覚えた。
「あなたには、責任取ってもらうからね」
絵里子さんはぼくのほうを振り向いて、そういって笑った。
――友作さんに乗りかえるなんてことは、考えないから。
彼女は黒い瞳で、そう伝えてきた。

「あの、もう少しだけ、いいかな・・・」
友作はぬけぬけと、絵里子さんに血をねだった。
タメ口になっているのがちょっとだけ気になった。
絵里子さんがもう一度ぼくを見て、許しを請うような視線を投げてきて、
ぼくの懸念をあっさりと晴らした。
――決定権は貴方にある。わたしはどこまでも、貴方のものだから。
彼女の黒い瞳は、あきらかにそういっていた。

脚を咬むんですか?
絵里子さんの足許にかがみ込んでくる男に、さすがに彼女は戸惑いを見せた。
ストッキング脱がなきゃ・・・と焦る彼女に、ぼくが耳打ちをした。
「女もののストッキング、破くのが好きなんだ」
え?と瞳で訴えた絵里子さんはそれでも、まあいいか、とあきらめたように笑い、
「それならどうぞ」
と、意外なくらいあっさりと、ストッキングを穿いたままの脚を彼のほうへと差し伸べた。
「ありがとう」
友作が絵里子さんを見あげる。
絵里子さんが、黒い瞳で応える。
友作はもういちど、絵里子さんの足許にかがみ込んで、
肌色のストッキングのうえから唇を吸いつけた。
そして、絵里子さんのストッキングをブチブチと破りながら、ふくらはぎに咬みついていった。
ちゅうっ・・・
ひそかにあがる吸血の音を、彼女は肩をすくめてやり過ごし、
ぼくは聞こえないふりをしながら、彼女の足許を這いまわる唇から、目が離せなかった。

ぼくの実家の畳を踏んだストッキングを、両脚とも咬み破らせてしまうと、
ストッキングを脱がせようとする友作を制して起ちあがり、
「自分で脱ぎます」というと、周りを見回した。
数分後。
女子トイレから出てきた彼女は、
脱いだストッキングをあり合わせの紙袋に入れて手にしていた。
自分の脚を通していたものをそのまま渡すことは、さすがに憚られたのだろう。
彼女の所作から、良家に育った彼女の、育ちの良さを、ぼくも友作も感じ取っていた。
「はい、どうぞ」
とり澄ました声が、凛と響いた。
彼女は脱いだストッキングを男に手渡し、男は固い顔つきをしてそれを受け取った。
「感謝します」
と、真面目な顔をする友作を、
「まるで賞状でもらったときみたいですね」
と、絵里子さんはからかった。
トイレのなかで少しだけ流したかもしれない涙の余韻は、気ぶりにもみせなかった。


「すまない。彼女にまた怪我をさせてしまった」
友作がそういってぼくをふり返ったのは、真夜中の公園。
さいしょに彼女を咬んだのと、同じ場所でのことだった。

若い女の血に飢えて、夜も眠れず公園をさ迷い歩いていた勇作。
血が騒いでホテルから抜け出して公園にやって来た絵里子さん。
胸騒ぎがして夜中に起き出して公園に向かったぼく。
期せずして三人はほぼ同時に、おなじ場所にやってきた。
わずかに遅れたぼくは、
絵里子さんの澄んだ目が彼の目線に射すくめられて抱き寄せられるのを、
目の当たりにすることになった。
人目を忍んで夜中に逢瀬を遂げる男女のように、
ふたりは熱い抱擁を交わし、絵里子さんはためらいなく、首すじを彼の唇にゆだねた。
じゅるうっ・・・
生々しい音を立てて啜られる、絵里子さんのうら若い血潮――
あの音は、そうとう喉が渇いているときのもの。
すぐにわかった。
絵里子さんの身を案じるよりも、
友作が絵里子さんの血に満足していることへの満足感と嫉妬に、ぼくの心は乱されていた。

「気がついたら、このひとの腕のなかにいた」
絵里子さんはぽつりと、そう呟いた。
弁解めいた色もなく、事実をそのまま告げているような口調だった。
「ストッキングまで穿いてきたのに?」
ぼくに指摘されるまで、自分がよそ行きの服装で出てきたことさえ、
まるきり気づいていないようだった。
ぼくは自分の立場を、明確にする必要を感じた。
友作が絵里子さんの血を気に入ってくれて嬉しいし、
絵里子さんが友作に血を許してくれて、感謝している――
ぼくの言いぐさに、ふたりとも満足したようだった。
「せっかく穿いてきたんですから」
絵里子さんは白い歯をみせて、
薄茶のロングスカートの下に隠した脚を、友作の目線に惜しげもなくさらした。
肌色のストッキングの薄い生地が街灯に照らされて、淡い光沢をよぎらせていた。
それでも友作の唇が太ももに吸いついたとき、
「やっぱり、やらしいわよね?」
と、だれに向かってともわからないまま、呟いていた。
そして、欲情を滾らせた唇がストッキングを唾液で濡らし、
まさぐるように揉みくちゃにして、
ビリビリと喰い破かれて、ふしだらな裂け目を拡げてゆくのを、
黒く大きな瞳で、じいっともの静かに見つめつづけていた。


「責任、取ってくださるわよね!?」
絵里子さんが問い詰めたのは、自分を犯した友作のほうではなくて、
ふたりのまえで痺れたように身体を硬直させつづけていた、婚約者のほうだった。
腰までまくり上げられた薄茶のロングスカートから覗く太ももには、
初めての痕が赤い滴りとなって、むざんなほどに鮮明に刻印されていた。
「責任、取るよ」
やっとの想いでぼくがいうと、絵里子さんはこわばらせていた頬を和らげ、
「よかった・・・」
とだけ、いった。

嵐は突然吹き荒れて、一瞬にして三人の間を通り過ぎた。
夕べと同じように、友作は絵里子さんを招び出して。
ぼくも同じように、夜の公園に出かけて行って。
抱きすくめられた絵里子さんは、恋人にそうするように首すじを接吻に委ねながら、
吸血される恍惚の刻をすごした。
わざわざ穿いてきたストッキングも、ためらいなく破らせていた。
そこまでで終わるはずだった。
けれども、そこまででは、終わらなかった。
男は熱い息を迫らせて、絵里子さんの着ているこげ茶のブラウスを引き剥いで、
まっ白な胸もとを鮮やかに区切る黒いブラジャーの吊り紐を、尖った爪で断ち切った。
目の前の女を犯したいという、明白な意思表示に、
ぼくたちふたりは戸惑い、うろたえ、けれどもぼくよりも素早く状況をのみ込んだ彼女は、
すべてを覚悟したように目を瞑った。
暴漢は無抵抗になった彼女のロングスカートを荒々しくたくし上げると、
ストッキングを穿いた脚になん度もくり返し接吻を加え、
よだれで濡れそぼるくらいに接吻を重ねたあと、ゆっくりとずり降ろしていった。
「絵里子さんが処女のうちに、自分で脱がしてみたかったんだ」
あとでそう告白されたけど。
さいしょの刻も、友作が絵里子さんのストッキングを脱がそうとしたのを、思い出した。

友作が女の子を襲うところは、なん度も見てきた。
妹も、犠牲者のひとりだった。
女の子はたいがい泣きじゃくりながら、せめてもの抵抗を他愛なくねじ伏せられて、
咬み破かれたストッキングを、じりじりとずり降ろされていって、
逞しくそそり立った一物を、色とりどりのスカートの奥へと忍び込まされて、
さいごに腰を深々と沈められ、とどめを刺されてしまうのだった。

絵里子さんは、泣かなかった。
さすがにまつ毛をピリピリと震わせていたけれど。
あくまでもの静かに振る舞って、令嬢としての気位を捨てようとはしなかった。
未来の花婿の見ている前で処女を散らせる。
「少しは無念でしたよ」
あとでそう告げられた時、
彼女は白い歯をみせて、笑った。

いつもの要領で、友作が絵里子さんに、いうことを聞かせてしまうのを。
ぼくは嫉妬と不思議な歓びに打ち震えながら見つめつづけ、
花嫁の純潔が散らされてゆくのを、息をつめて見届けたのだ。

初めてのときは、無理しないほうがいいんだ。
そういう主義だった友作が、珍しく五回も六回も果たしていくとき。
やつが絵里子さんのことをほんとうに気に入ったのだと、思い知らされていた。
婚約者のまえで形ながら抗っていた白い細い腕がねじ伏せられ、野放図に野原に伸べられ、
やがて自分のほうから逞しい背中に巻きついてゆくのを、
呪わしい思いを抱えて見守りながら、
うごきがひとつになった二対の腰が、静かに熱くまぐわうのを、
親友と婚約者とがひとつになって、男と女の営みに耽ってゆくのを、
認めないわけにはいかなかった。
注ぎ込まれた粘液は彼女を狂わせて、
おっきぃ、おっきぃ・・・痛あいっ・・・と、無我夢中で歯がみしながら身もだえて、
そのたびに頭を撫でられ、胸をまさぐられ、言葉でなだめすかされて、
もう一度、もう一回・・・と迫ってくる腰を遮る意思を喪っていった。


責任、取ってくださるわよね?
彼女にそう言われたのは。
すべてが過ぎ去って、絵里子さんのすべてを奪い尽くされてしまったあとのことだった。

責任を取る ということは、
目のまえで過ちを犯した絵里子さんを予定通り娶って、
新妻の純潔を親友に捧げることを認めた ということ。
けれどもぼくには、一点の後悔もなかった。
未来の花嫁の肉体を、親友に与えたことも含めて、一点の後悔もなかった。

「じゃあ、確認の意味でもう一度」
こんなときにこんなところで「確認」なんていう事務用語を使ってしまうOLぶりに、
友作はにんまりとして、絵里子さんは恥じらって、
でもすぐに彼女は自分を取り戻して、しゃんと背すじを伸ばして、彼と対峙して。
差し伸べた首すじにもう一度、熱い牙を刺し込まれてゆく。
ごく、ごく、・・・ちゅうっ・・・
貪欲に飲まれるのが好き。
そんなことを口にするようになった絵里子さんは、
あのとき求められた性急さが嬉しくてたまらない、と、ぼくに告げた。
彼女は細身の身体をふりたてて、彼の欲求に応えてゆき、
貧血を起こして彼の腕のなかで姿勢を崩すと、もういちど芝生の上に横たえられて、
それまで潔く守り抜いていた股間を無防備にさらし、
獣じみた劣情に、惜しげもなくゆだねてゆくのだった。


「行ってしまうのか」
友作は、しんそこ寂しそうだった。
「ぼくたちの住まいは、都会だからね」
しんそこ気の毒な気がしながら、ぼくはこたえた。
「だいじょうぶ。また来るから」
絵里子さんは賢明にも、友作のことを具体的に慰めた。
「いいでしょ?」
とふり返る絵里子さんに、笑顔で応えるぼく――
ふたりのあいだには、なんにわだかまりもなかった。
「そのときにはまた――」
友作は言いかけて、絵里子さんの下腹部に目をやった。
「な、なによ。もう・・・」
いつも冷静な絵里子さんが、薄茶のロングスカートを揺らして、珍しくうろたえた。
かすかに泛んだ照れ笑いが、ひどく可愛らしかった。

「ご両親にあいさつに来たというよりか、このひとに純潔をプレゼントしに来たみたいね」
友作の態度にあわせて、彼女の態度までちょっとずつ、露骨になってゆく。
「いいことをしたと思っているよ」
と、ぼく。
「わたしもいいことをしに来たとおもってるわ」
と、負けずに彼女。
「こんど来るときも、ぼくが連れてくるから。たっぷり見せつけてもらうからね」
――あのときのきみの笑顔が、ひどく清々しかった。
あとで友作に、そういわれた。
もしかすると、未来の花嫁の純潔を彼に愉しまれてしまうことは、
ぼくの長年の願望だったのかもしれない。
「さあ行こう。
 男を識った都会女がこれ以上うろうろしていると、まさされてしまうからね」
ぼくはそういって、渋る彼女をひき立てるようにして、友作に背を向けた。
「また来いよ」
「ああ、またね」
ぼくたちは幼なじみの昔にかえって、あのときと同じ言葉を交し合った。



7月20日構想、本日脱稿。


あとがき
かなり長々としてしまいました。
長いのは大概、駄作の可能性が高いのですが(だったらごめんなさい)、いかがでしたでしょうか?
婚約者が処女の生き血を吸い取られ、挙げ句の果てに犯されてゆく。
けれども結婚を控えた彼は、親友が自分の彼女を気に入ったことに満足し、誇らしくさえ感じ、
彼女のほうもまた、恋人の目の前で初めての歓びを識って、処女を捧げた男に特別の感情を抱くようになっていきます。
親友の彼は、絵里子さんに対して、もしかすると純愛めいたものを感じているのかもしれません。
それを初めてのセックスの回数で表現してしまうのは、ちょっとよろしくないのかもしれないけれど。^^;

三人の間を吹き過ぎていった、一陣の嵐。
もしかするとそれは、彼らにとって避けては通れない通過儀礼だったのかも知れません。
絵里子さんの義実家参りは、以後毎月のように続けられた ということです。

母親の黒留袖 新妻のワンピース

2021年07月19日(Mon) 08:10:37

こちらの長老さんが、母さんの黒留袖の帯を解いてみたいと仰るのだよ。
父が困惑してそう告げたのは、わたしの披露宴の席でのこと。

婚礼の席でロマンスが生まれたということは、決して珍しくはないけれど。
人もあろうに、新郎の母親に手を出す者があろうとは。
でも、この村ではそれも、ありがちなことだった。

で、父さんはどうなの?その人、父さんのおめがねにはかなったの?
そう問い返すぼくも、どうかしていた。
けれども――
縁もゆかりもないこの村で、婚礼を挙げていること自体が、すでにどうかしているのだ。
この村は、まだつき合っていたころの彼女と、旅先で迷い込んだ場所だった。

山菜採りによい場所があると騙されて、
村の若い衆六人組みに、ふたりながら村はずれの納屋に連れ込まれ、
ぼくはぐるぐる巻きに縛られて、
彼女はその目の前で、犯されてしまった。
六人がかりでまわされてゆくうちに、
か細い肢体が従順になってゆくありさまを、
ぼくはいやでも、見せつけられていて、
その光景にマイってしまったぼくも、
六人の逞しい若い衆にイカされてしまった彼女も、
その晩この村に宿を取って、彼らの夜這いを許したのだった。

この村で華燭の典をあげる花嫁たちは、
村の長老の手で、純潔を餌食にされるのがならわしだった。
すでに6人もの男を体験してしまった今夜の花嫁も、例外ではなかった。
お化粧直しのさい中にされてきたのだと、
披露宴の宴席に戻ってきた花嫁は、ぼくの耳もとでそっと囁いた。
純白のウェディングドレスを汚したかったのね・・・
その囁きに、ぼくは場所柄もわきまえず、情けない昂りをこらえ切ることができなかった。

その魔手が、母の身にまで及んだらしい。
困惑顔の父に、ぼくはいった。
この村、フリーセックスだから。でも秘密は守る村みたいだから。
母さんがロマンスを遂げるの、反対じゃないよ。
きっとそのひと、さっき絵美香さんを抱いたひとだから。

嫁姑ながら、おなじ男に抱かれるのか。
それも、ごま塩頭の年配の男に。
ぼくにとっては、若い衆に彼女を姦られたのと同じくらい、
いや、もしかしたらそれ以上に大きな衝撃だったかもしれなかった。
母さんまで、姦られるなんて。
あのひとに、支配されてしまうだなんて。

けっきょくその晩父さんは、愛妻の貞操に対する挑戦を断り切れなくなって、
母さんの黒留袖の帯を、そのひとにほどかれてしまっていた。
別室に連れ込まれるとき、母さんは父さんに、懇願したそうだ。
「あなた、そばにいらして。わたくし一人では心細いですもの」
人妻として正しい行動だったと、いまでも思う。
妻が初めて姦られるところを、夫は目にする義務を持つのだと。
村はずれの納屋での体験が、ぼくにそう教えてくれていた。

あくる朝。
両親の部屋から抜け出した長老は、
父さんの眼の前で、都会妻の洋装を身に着けた母さんの肉体にうつつを抜かして、
明け方まで、うつつを抜かしつづけたあげく、
母さんの脚から抜き取った黒のストッキングを大事そうにポケットにねじ込んで、
充たされた顔つきで、帰っていった。


ぼくたち一家が、駅に向かうとき。
皆が盛大に、見送ってくれた。

「また来いよ」「ああ、そのうちにね」
妻の肉体を共有したもの同士で、ぼくは若い衆たちと、兄弟のように別れを告げる。
わけても、絵美香の純潔を勝ち獲た男は、いちばんの好意を示してくれた。
ぼくも絵美香も、彼には特別の感情を抱くようになっていた。
この村を訪れるたび、都会のお嬢さんらしい装いを身に着けた彼女のことを、
いつも真っ先に抱かせる関係になっていた。
都会育ちのしなやかな肉体が、
山野の労働で鍛えられた逞しさに支配されるのを、
ドキドキしながら覗き見る癖を、教え込んでくれていた。

ふと見ると、母さんは父さんを交え、長老に挨拶をしていた。
「こんどはその肌色のストッキングを、破かせていただきてぇな」
長老の下品な言いぶりに、母さんは小娘みたいに羞じらいながら、
「まあ、仰るんですね」
と、それでも穏やかに受け答えしている。
「そのうち、家内だけでも伺わせますよ。わたしは仕事が忙しいのでね」
父までもが、まるで睦まじい親戚づきあいをしている相手のように、
長年連れ添った妻を譲り渡すようなことを、口にしてしまっている。

それが、このお盆の記憶だった。
秋祭りのときに、ぼくは六人の親友たちと、再会を祝した。
都会の若妻らしいワンピースを引き剥がれた妻は、
なれ初めの納屋のなか、藁まみれにされながら、
苦笑と快楽の余韻とを、横顔によぎらせていた。
母もいまごろ長老の家で、
なん足めかのストッキングを、引き破られていることだろう。

嫁も姑も、不義に耽る夜。
そんな熱い夜が、今夜もまた更けてゆく――


あとがき
前作の、六人組の若い衆に茄子を突っ込まれた若妻さんをイメージしたお話です。
ついでにお母さんの馴れ初めも、組み込んでみました。
というよりも、「黒留袖をほどきたい」が、さいしょに泛んだイメージだったのですが。
寛容な花婿とその父親に、拍手♪

茄子の季節。

2021年07月15日(Thu) 07:56:31

この村に棲みついたぼくのところに、今年も家族が集まることになった。
両親と兄夫婦に加えて、遠方に住んでいる妹夫婦まで、よせと言ったのにやって来た。
妹夫婦は、妹のだんなが海外赴任していたこともあって、村に来るのは初めてだった。

「いいとこに案内してあげますよ」
ひとしきり歓談したあとで、
妹夫婦は、初対面で意気投合した村の若者のそんな誘いに乗って、山へと出かけていった。
村の若者四人に守られるように囲まれた妹夫婦が肩を並べて出てゆくのを、
ぼくは黙って見送っていた。
「いいのかねぇ」
傍らに寄ってきた母が気づかわしそうに娘夫婦を見送っていたけれど、
母もまた、その動きを止めだてすることはしなかった。

「しょうがないな」
兄さんは思い切ったように起ちあがり、兄嫁に向かって言った。
「気は進まないけど、ごあいさつに行こうか」
そういうと、ちょっとだけ戸惑いを見せた兄嫁の手を引いて、部屋から出ていった。
「若いひとはお盛んだねぇ」
兄夫婦を見送るのは、村の長老。
座のいちばん上座に陣取って、昼日中から悠々と、杯を傾けていた。

だれもが知っている。
この村に伝わる、淫らなしきたりを。
そう、先に出かけていった、妹夫婦をのぞいては。
けれどもきっと、彼らもまた、行き先でその事実を、たっぷりと報らされてしまうのだろう。
ぼくたちは、若い獲物を村に引き込んだ共犯者――いや、功労者だった。

ぼくたちの婚礼の席で、初めて村にやって来た兄は、
伴ってきた兄嫁を、その祝宴で犯された。
都会の若妻は珍しかったのでほとんどすべての村の衆の相手をさせられた。
愛妻家の兄はひたすら泣き狂っていたけれど、
「やめろ!やめろッ!妻に手を出すなッ!」
と叫びながらも、礼装をはだけて輪姦の渦に巻き込まれてゆく兄嫁から、目線をはずそうとはしなかった。
それからは。
「冗談じゃない、ひとの女房をあんたらは娼婦に仕立てるつもりか!」とか、
「ふざけるんじゃない、俺の女房を犯したいなんて、失礼だろう!?」とか、
口では目いっぱい、相手を罵りながら、
兄嫁もまたやっぱり、
「厭っ、嫌っ、イヤッ!」と、
口では精いっぱい拒みながら、
村の衆たちの逞しい猿臂に、巻き込まれていった。
そう、それからは、毎年のように。
いまでは気に入りのなん人かと示し合わせて待ち合わせ、
兄嫁はきょうも、襲われる都会妻の役柄を、兄の前で演じるのだ。

「母さん、そろそろ・・・かな」
と、父までもが、母を促して座を起ってゆく。
暑い季節だったので、お盆の名目で集まりながら、喪服を着込んできたのは母だけだった。
重たげな漆黒のフレアスカートの下、薄墨色のストッキングがなまめかしく、涼し気に、母の足許を彩っている。
母はぼくの婚礼の席で、村の長老に見染められた。
長老にせがまれるのを断り切れず、父は長年連れ添った妻との交際を許し、
ふたりは愛息の新婚初夜に、息はずませてロマンスを遂げていた。
以来母は、長老の好みに合わせ、お盆以外の季節にやって来た時も、黒一色の装いで通している。
清楚に装った母に迫る長老が、礼儀正しい荒々しさで愛妻を蹂躙するのを、父は好んで視るようになっていた。

「身に着けるお洋服も、おもてなしの一部ですものね」
母にそう耳打ちされた妻のさゆりは、ぼくと同様、この村の出身者ではない。
ふたりでハイキングに出た帰り道、道に迷って助けられた村の衆に、
さゆりの身体はお礼がわりに弄ばれた。
その夜のうちに堕ちてしまったぼくたちは、
つぎの日の朝、さゆりをさいしょに犯した男の家に出向いていって、
こざっぱりとした服に着かえて恥じらうさゆりを傍らに、
もっと仲良くしませんか?と誘いをかけていた。

妹夫婦は、夜遅くに戻ってきた。
ふたりとも、コーヒーの缶を手にしていた。
それがきっと、妹の身体を愉しんだ代償なのだと、すぐにわかった。
「仲良くしちゃうことにしましたよ。でも、言ってくれないなんて、ひどいなあ」
義弟はぼくの隣で、あっけらかんと笑った。
「言われたら、行かないでしょふつう」
ぼくが返すと、「そりゃそうですよね」と相づちを打った。
義弟とは、どことなくウマが合う。
こんなところまでウマが合うとは、さすがに思わなかったけれど。
「缶コーヒー、よかったね」
ぼくがいうと、
「微妙な味がしました」
と、ほろ苦く笑った。

「義兄(にい)さんも、もらっちゃったんですか?缶コーヒー」
水を向けてくる義弟は、やはり聞きたいらしい。
しかたなく、話してやった。
「ぼくのときには、茄子だよ」
「茄子?」
けげんそうな顔をする義弟に、ぼくはいった。
「さゆりの中に入れた茄子をね、みんなで食べたんだ」
「みんなって、なん人?」
「ぼくのときは、6人」
男4人にモテた若妻の夫として、義弟はちょっとだけ眩しそうにぼくを見た。
「勝ったね」
白い歯をみせるぼくに、
「頭数じゃないですから」
と、口を尖らせる義弟。
ぼくたちは、声をたてずに笑った。
「でも、一本の茄子をえーと、8人で?」
あくまでけげんそうな義弟に、ぼくはいった。
「茄子はなん本も、さゆりを訪問したのさ」
「すごいですね・・・」
絶句する義弟に、ぼくはいった。
「茄子、いまごろが食べごろらしいぜ」
妹にも入れてもらえば?とおススメするのは、さすがに兄として、遠慮しておいた。
結婚三年目の妹も、きっと「食べごろ」だったに違いない。


あとがき
ちょっとまとまりの悪いお話かもしれません。

さいしょにイメージしたのが、村の衆四人組に取り囲まれて出かけてゆく妹夫婦の後ろ姿 でした。
このお話、前々話の「女ひでりの村」に、ちょっと通じます。
(前々話では、この夫婦が「棲みついた」となっているので、ゲンミツにはちょっと違いますが)

それからイメージしたのが、村の長老に見染められて、父にも許されて素直に堕ちた母親のこと。
このひとには、ぜひ黒のストッキングを穿かせて、貞操の喪を弔わせたかったです。
礼装と荒々しさとは、真逆のものですが。
双方がマッチすると、凄く見ごたえがあるように感じます。

さいごにイメージしたのが、一家の中心である、「村に棲みついた都会ものの夫婦」でした。
このご夫婦は、この村のものではなくて、都会から棲みついて村の色に染められた人たちなのだと思いました。
彼らを起点に、兄夫婦やご両親、ひいては妹夫婦まで、喰われていったのだと・・・
ではこの次男夫婦には、どんなエピソードを持たせようか?と思いました。
それで思いついたのが、前々話の「缶コーヒー」です。
この「缶コーヒー」に代わるものが、なんと「茄子」でした。
これは、お話をいまこうして、入力画面にベタ打ちしながら思いつきました。
「茄子」がいまの季節の旬だというのはたんなる偶然です。 笑
ここまで描いて、「ひと月早い「お盆」」だったたいとるを、「茄子の季節。」に変更しました。

でもこうして、理屈に堕ちたお話は、どことなく作りつけた印象になってしまうかも知れないですね。;

この夏のお盆。
人はどれだけ、動くのでしょうか。。

碧の貞操。

2021年07月15日(Thu) 06:52:21

ベッドのうえでの碧(みどり)は、ぼくのときと同じように、おきゃんだった。
跳ねたり、仰け反ったり、脚をじたばたさせたりで、
いっこうに落ち着きなく、挑発的なセックスだった。
相手がぼくではなかったとしても。

家内を誘惑してほしい。
碧の面前で、親友の良太にそういったとき、
ぼくはいままでにないくらい、昂りを覚えていた。
ほんとにいいの?
大きな瞳に深い翳をたたえた碧は上目遣いでぼくのことを窺い、
おれはいいけど、だいじょうぶ?
良太はそういって、ぼくを気遣った。
案外、イケると思う。
ぼくがそうこたえると、じゃあ遠慮なく・・・と、良太はいった。
やつが好みの女をゲットしたときだけに見せる、得意そうなほほ笑みが、
良太の秀麗な目鼻立ちをよぎった。

ふたりは似合いだと思う。
ぼくはいった。
ごくふつうの、どこにでもいるような容貌のぼく。
二重まぶたに憂いを秘めた大きな瞳の碧。
日本人離れした彫りの深さをたたえた、良太の目鼻立ち。
ぼくが夫で良太がそうでないことが、ふしぎなくらいだった。
そして良太は、四十代になるいまでも、独身だった。

ひとりの女だと満足できないてのは、寂しいなあ。
いつだか良太は自分のことを、そんなふうに自虐したけど。
あれは案外と、本当に寂しい本音なのかもしれない。
その寂しすぎるすき間を、碧の貞操で補ってみたい。
どうしてそんな不利益な取引に夢中になったのか、
ぼくはいまでも、うまく説明できないでいる。

奥さん借りるよ。気になったら視においで。
おなじマンションに暮らす良太はそういって、
碧を従えてぼくたちの家をあとにした。
頭ひとつ小柄な碧が半歩後ろに寄り添っただけで、
ますます似合いのふたりに、見えてしまった。

ふたりだけの時間なのだ。
碧を独り占めにするという、男と男の約束なのだ。
幾度も自分にそう言い聞かせてみたけれど。
やはり気が気ではない自分を、どうすることもできなかった。
碧を犯して良い――などと言ってのけたはずのぼくは、
そそくさと席を起って、出かける用意もそこそこに、ぼくたちの家をあとにした。

もはや真っ最中――と思ったら、
意外にも、まだふたりとも、服を着ていた。
それどころか、リビングでのんびりと、紅茶を飲んでいたのだ。
来ると思っていたよ。
良太はさっきとは違った得意そうな笑みを泛べて、
ぼくのことを快く迎え入れてくれた。
やっぱり ね。
碧も、まるで長年連れ添った夫婦のような顔をして、傍らの良太を見返した。
すでにその瞬間――碧は良太の側の女だと実感して、
刺すような刺激と、微かな虚しい喪失感と、それからずきりとくる歓びを覚えていた。

けれども、そのあとの良太は、容赦がなかった。
さっ、始めようか。
だしぬけに立ち上がると、緑の手を引いて、自分の寝室へといざなったのだ。

碧が手を引かれるままに、良太の寝室に行きかけると、
良太はその手を放して、おっと待った、といった。
まずはだんなさんを、縛らなくちゃね♪
にんまりと笑んだ良太が手にしたのは、女物のストッキングだった。

行儀よくそろえた手首にぐるぐる巻かれた薄手のナイロンが、
しなやかにぎゅうっと、締めつける。
女のパンストには、こんな使い方もあるんだよ。
良太は耳元で、囁いた。
奥さんの穿いているやつは、もっと別な楽しみ方をするけれど。
いろいろとエッチなことを想像させるひと言をぼくの耳の奥に吹き込むと、
まるで二十歳の若者に戻ったように瞳を輝かせ、碧のほうへと駆け寄っていった。

手首を結わえられたストッキングは、ダイニングテーブルに巻きつけられていた。
その大きなダイニングテーブルは、開け放たれた寝室の正面に置かれていた。
「さあ、碧ちゃん、いただきぃ~♪」
能天気なくらい明るい声をあげて、良太は碧に取りかかった。
碧はきゃあっとちいさく叫ぶと、形ばかり身構えたけれど、
まともな抵抗をすることもなく、そのままベッドに組み伏せられた。
碧がいつも穿いている薄茶色のロングスカートを、良太は慣れた手つきでまくり上げると、
透明なストッキングに包まれた碧の脚に、下品にしゃぶりついていた。
「ダメッ!いけないわ!」
碧の抵抗が、ぼくをよけいにそそった。
「ほら、だんなさん悦んでいるぜ」
良太は不良ぽくフフっと笑うと、抵抗する碧の手首をシーツのうえにねじ伏せた。
首すじを両わきとも吸われてしまうと、さすがの碧も観念したのか、身体の力を抜いた。
「服破らないで下さいね」
そこだけは心配そうに小声で頼む碧に、「わかった」といいながら、
良太は碧の穿いている肌色のストッキングを、ブチブチと引き裂いていった。
「ひどい、ひどい!」と言いながら、碧は身を揉んで悔しがったけれど、
その身のこなしに、いつものマゾな碧が見え隠れする。
夫の目だから、それがわかる。

「さあ、きょうはだんなさんに、たっぷり見せつけちゃおうね~♪」
良太はあくまでも、猫なで声だ。
いつもこんなふうにして、女を征服してきたわけで、
それは相手が親友の妻でも変わることはない――
たまたま相手が碧だというだけのこと――と、いやがうえにも思い知らされる。
ぼくの妻の碧はもはや、猛獣の前に投げ出された獲物にすぎなかった。

食いしばった白い歯を覆い隠すようにして、
良太の唇は碧の唇に重ね合わされ、
碧は激しくかぶりを振ろうとしながらも、
はだけたブラウスからブラジャーを覗かせながら、
腰までたくし上げられたロングスカートの奥、
男の狂った粘液を、ドクドクと際限なく、注ぎ込まれていった。

ベッドのうえの戯れは、長いことつづいた。
「だんなさん以外の男性、初めて?結婚してからは?浮気してないの?」
「やだぁ~っ、訊かないでっ」
服を脱がされてしまうともう、完全に良太のペースだった。
碧は両手で顔を隠して羞じらって、
良太はその顔を覗き込みながら、恥ずかしい質問をたたみかけてゆく。
「したこと、ある」
と、碧が言ってしまうまで。
「だんなさん、だんなさん、奥さん浮気したことあるんだって♪」
良太の能天気な高い声が、事の深刻さを大胆に軽減した。
「いいね~。碧ちゃん、いいね~。
 じつは久人だけのものじゃなくって、淫乱妻だったんだ~」
いじめっ子が気に入りの女の子を冷やかすみたいに、
良太は顔を隠そうとする碧のことを、意地悪く覗き込む。
「わかった、もぅわかったから、しよっ」
碧は潔く、良太のシーツのうえに、こんどは自分のほうから大の字になった。

良太はしめしめ・・・という顔つきで碧にのしかかって、
それから長いこと長いこと、碧を自分のものにしつづけていった。

容赦ない男の本性を垣間見ながら、縛られたぼくはどうすることもできなくて、
ただふたりのまぐわいが、じょじょに打ち解けたものになってゆくのを、
黙って視続けてしまっていた。
目を逸らすことだって、できたのに。
ぼくは碧の一挙手一投足を、良太の手慣れたテクニックを、
余すところなく見届けてしまったのだ。
そう――股間をギンギンに、滾らせて。
こらえ切れなくなってこぼれ出た粘液で、ずぼんをびっしょりと浸してしまうまで。
ぼくを縛めつづけたストッキングは、その最中もぼくの手首を絞めつけていて、
家に帰ったあと確かめてみたら、ありありとした痕を残していた。

ストッキングの縛めを良太に解いてもらうまで、
ふたりは8回も、エッチを重ねた。
解き放たれた獣は、獲物に群がってむさぼり尽くしたのだ。
「楽しかった~」
ひとの女房を征服したあとの良太は、相変わらず能天気だった。
そして、「時々やらない?」と、ぼくに水を向けてきた。
「いいけど・・・」
あいまいに言葉を濁すぼくに、
「このひとに騙されちゃいけないわよ」
と、碧が警告した。
「でも、騙されるなら良ちゃんがいい」
とぼくが言うと、
「それなら~」
と碧は、甘い顔をして良太の横顔を見つめた。
初対面のときにぼくをうっとりとさせた、あの表情だった。

碧はまだ片脚だけ、ストッキングを穿いていた。
それが、ひどくふしだらに映った。
とはいえ、決していやな眺めではなかった。
吊り紐の切れたブラジャーは恥ずかしそうにバッグにしまい込まれて、
ぷるんとしたおっぱいを、はだけたブラウスのすき間から、
惜しげもなくさらけ出していた。
「碧ちゃんのおっぱい、きれいだよね」
良太が素直にいった。
ぼくはなんとなく、誇らしかった。
「いままで抱いた女のなかで、どれくらい良かった?」
と、ぼくがぶしつけなことを訊くと、
「良かったよ~、コクが深くて、キレがあった。ノリも良かった」
と、良太はコアな返答を、返してよこした。
コク、キレ、ノリ。
女の魅力はそこなのか・・・と、ぼくは危うく真に受けそうになった。
あえて順位を告げなかったところに、むしろ良太のオトナらしさを感じた。
阿ることも、貶めることもしなかったのだ。

碧が、片脚だけ穿いていたストッキングを、むぞうさに太ももまで引っ張り上げて、
もう片方のつま先も、脚に通そうとした。
すると良太はそれを制止して、
「よかったらそのストッキング、俺にくれない?」
と、ねだった。
どうする?と言わんばかりに、碧はぼくを見つめた。
「あげたら?きょうの記念に」
ぼくの返答がぞんざいではないことに満足したのか、
碧はストッキングを脚から引き抜くと、男に与えた。
なんとなくそれが、碧と良太を深く結びつけるような気がしたけれど、ぼくは黙っていた。
「ん~、だいじにする」
良太が碧のストッキングを鼻に押し当てて嗅ぐふりをすると、
碧は怒って良太からストッキングを取り上げて、いった。
「やっぱり洗ってからにする」

あの日碧の穿いていたストッキングが良太の手に渡ったかどうか、ぼくは知らない。
でもたぶん、碧はつぎのときに、良太に手渡したに違いない。

週にいちどは、良太は家に招んでくれた。
もちろん、碧もいっしょだった。
ぼくはストッキングで手首を縛られ、
目の前で碧のことを良太のものにされていった。
良太と碧は、楽しそうだった。
ぼくも、碧が悦ぶのをみて、嫌ではなかった。

ときにはぼくが勤めから帰宅したときには、良太が家に来ていて、
ふたりしてぼくの夕食を用意して、
風呂上がりのぼくが夕食を食べている間、
夫婦の寝室に引きこもって、聞こえよがしなエッチを愉しむこともあった。
「食べさせて、食べられてる」
寝室からは、碧のそんな囁きがした。
食べさせて、食べられる。
ぼくのために夕食を作ってくれた碧自身がそうだったし、
専業主婦の碧を食べさせてるぼくにしても、きっと通じることだった。

でもどちらかというと、碧が招ばれることのほうが、ずっと多かった。
ぼく抜きで招ばれることも、かなりあったみたいだけど。
それは気づいていても、問わないことにしている。
碧もそこは控えめにしていたし、
良太はぼくの顔色を見ぃ見ぃ、時には正直に打ち明けてくれていた。
密会している。
そんなことさえ、ぼくは昂奮で来てしまう夫になっていた。

たまに招かれた良太の寝室には、女物のストッキングがたくさん、ぶら下がっていた。
すべてが、碧の脚から引き抜かれたものだと聞かされて、
ぼくは絶句した。
夫婦で訪問したときに、ぼくを縛るストッキングは、碧の穿いていたものだった。
たいがい、その前に逢ったときのものが使用されるらしかった。
でも、おかしいぞ?さいしょのときのストッキングはだれのもの?
ぼくがふと訊いた時。
ふたりは微妙な顔をして、顔を見合わせて。
やがて良太が思い切ったように、こういった。

悪かったけど。
碧とは、若いころからの仲なんだ。
ベッドのうえで、言ったろ。
浮気もしてるって。
浮気相手は、俺なんだ。
お前が連れてきた碧を初めて見たとき、絶対モノにしてやろうと思って、
俺が狙った獲物は逃さないの、お前知ってるだろ?
だから、碧の処女をゲットしたのも俺だし、
――あれはたしか、結納のあとだったよね?――
久人と結婚してからも、週2は逢っていた。
俺は、ひとりの女じゃ満足できない男だし、
碧も、ひとりの男じゃ満足できない女になっていた。
強いて残念だったのは、子どもが欲しかった碧が気にして、子供を作らなかったことかな・・・
さいごのひと言だけは、打って変わってしみじみと、寂しげだった。

ひとりの女じゃ満足できない男は、意外に寂しい。
碧を初めてぼくのまえで姦ったとき、良太はそんなふうにうそぶいていた。
あれはやっぱり、本音だったのだ。。

「離婚されても、しょうがないよね?」
碧が気づかわし気にいう。
離婚はしたくない。碧は痛切に思っている――
十なん年も連れ添ってきたぼくにも、それはありありと伝わってきた。
「これから、どうするつもり?」
「お前さえよければ、だけど」
良太はいつもに似ず、遠慮がちにいった。
「これからも碧と仲良くさせて欲しい」
「いいよ、わかった」
びっくりするほど即答で、ぼくはそうこたえていた。
「ほんとに、いいの?」
碧はまだ、気づかわしげだった。
「裏切られつづけていたのはショックだったけど、良太は碧を大切にしてくれていたと思う。夫として感謝している。
 ぼくは碧の夫。碧は良太のことも好き。良太は碧を愛してる。それでいいじゃない」
ぼくもいっぱい、おいしい想いしているからね。と、ぼくは恥ずかし気につけくわえた。
初めてぼくの前で交わりを遂げた日、家に帰ったあと、ぼくがズボンを濡らしたことを、碧はいっさい口にしないでいてくれた。

ぼくはふたりに、告げていた。

それから、子どものことだけど――
まだ遅くはないから、がんばってみない?
どっちの子でも、ぼくたち夫婦で可愛がって育てるからさ・・・


あとがき
昨日の朝描いて、少しだけ加筆してあっぷしました。
長年夫が裏切られ続けていたのは、こちらのお話の中ではやや異色ですが、
ともあれおだやかにおさまったので、ドンマイ ということで♪

女ひでりの村

2021年07月13日(Tue) 07:55:31

「おごるよ」
その若い男は、手に持っていた缶コーヒーを、ぼくに向かって差し出した。
別の若い男も、同じように、手にした缶コーヒーを妻に向かって差し出した。
ふつうなら、お礼を言ってご馳走になるところだろうけれど。
ふつうとは、いささか事情が違っていた。
ここは村はずれの藁小屋で、
ぼくはぐるぐる巻きに縛られて、
妻は服を剥ぎ取られて半裸になっていた。

「おっと、いけねぇ。これじゃ飲めねえよな」
ほんとうに気づいていなかったらしく、ぼくの向かいの若い男は頭に手をやり、
その手でぼくの縛めを、解いていった。
身体に、開放感が戻ってきた。
妻のほうも頑なに目を伏せて、男の差し出す缶コーヒーから目を背けている。
ぼくは仕方なく、缶コーヒーを受け取った。
妻はそれを見て、相手の男のほうは見ずに、やはり缶コーヒーを受け取った。

「飲みなよ、遠慮は要らねえ」
男はなおも、ぼくに缶コーヒーをすすめた。
飲んでしまったら、彼らが妻にしたことを、認めたことになるような気がした。
するとこんどは妻が、「飲む」とひと言いって、缶コーヒーのプルタブを開け、ひと息に飲み干した。
「喉、乾いてたんだろ?」
妻の相手の同情は、まんざら口先だけではなさそうだった。

「奥さんを手荒に扱って、すまなかった」
ぼくの前の男は、慇懃に頭をさげた。
いまさら頭をさげられたところで、喪われてしまったものはどうにもならない。
妻は処女のまま嫁にきて、ぼく以外の男を識らない身体だった。

けれども、男の言い分は、ぼくの思いとは裏腹だった。
「こんどは、ちゃんとしんけんに愛するから」
というのだった。

この村、女ひでりでな。
嫁をもらえないものがたくさんおる。
だから、分け合うことになっている。
そこへ、あんたら都会もんが、村に移り住んでくるという話じゃ。
絶好の餌食だったんよ。あんたたち。
表情を消して語るその男は、妻のブラジャーをむしり取った相手。

入念に相談して、あんたらをこの納屋におびき寄せたんよ。
そこまでは、入念じゃった。
けどな、生身の若い女目にして、みんな目の色変わっとったんじゃ。
あんた、気づかんかったか?
「若い女」と口にしたとき色めき立ったその男は、妻を藁の山に放り込んだ相手。

わしらも生身の男じゃから、奥さんのぴちぴちとした身体みて、かなわなくなったんじゃ。
それに、都会の女ちゅうもんは、ストッキングとか穿いとるものな。
おしゃれでエエかんじだったわあ。
恍惚と語るその男は、妻のストッキングがよほど気になったのか、べろでいたぶりながらずり降ろしていった相手。

缶コーヒー、うまかったじゃろ。
喉、渇くもんな。
嫁が姦られているのを視て昂奮せん旦那はおらん。
おったとしたら、そりゃ別れる夫婦じゃ。
ぼくに缶コーヒーを無理に握らせたその男は、妻の股間をさいしょに割った相手だった。

四人がかりの蹂躙に、妻は泣きじゃくりながら抵抗し、
けれども獲物を狩る猛獣のような腕力にねじ伏せられて、想いを遂げさせられていった。
「こんどは、まじめにやる」
そう宣言した男は、意思を喪った妻を引き寄せて、押し倒してゆく。
妻は茫然としたまま抱かれていって――そして、ゆっくりと脚を、開いていった。
覆いかぶさってゆく逞しい背中に細い腕がまわるのを、ぼくは見まいとしたけれど。
缶コーヒーの男は、許さなかった。
「大事なところじゃ、見届けるのが夫の務めぞ」
男どもは、言葉少なに、真剣な顔つきで、そして代わる代わる、妻にのしかかっていった。
獣ががつがつと餌を食(は)むようなさっきまでとは、打って変わった静けさだった。
その熱っぽい静けさのなかで、妻は代わる代わる男たちと交わりを遂げていった。
腕を突っ張り、脚をじたばたさせた抵抗は、そこにはなかった。
妻は半裸に剥かれていたが、
これだけは都会育ちの女の特権のように腰に巻いたスカートをユサユサと波打たせて、
性急に圧しつけられてくる腰と、うごきをひとつに合わせていった。
男どもは、こんどは念入りに味わうように妻の肌に唇を這わせ、愛着を訴えかけるように口づけを交わしていった。
ピチャピチャ、ちゅうっ・・・と唇の鳴る音が、なん度も念を押すように、重ねられていった。

放心して、立て膝をしたまま仰向けに寝そべった妻の足許に、
破れ残ったストッキングがいびつによじれていた。

「決めごとぞ」
缶コーヒーの男がそういうと、他の男どももそれに従った。
「一、旦那さんのメンツは守ること。
 一、旦那さんをわるくいうもんを、決して許さんこと。
 一、その代わり、奥さんはわしらが交代で慰めること。
 一、慰めるときには、奥さんひとりを想って、愛し抜くこと。
 ――誓えるか?」
誓えるとも。
男どもは、口々にそういった。

「愛する・・・というのですか?」
訊き返すぼくに、缶コーヒーの男がいった。
「あんたと同じようにな」
妻を犯される傍らで、手の空いた男どもはぼくのことを、女のように愛していった。
その残滓がほんのりと、まだ太ももに残っている。
妻を狂わせた逸物たちの挿入を受けた名残りが、まだひりひりと股間を痺れさせていた。

「あんた、牛乳飲まんか」
べつの男が、挑戦的に瞳を輝かせ、いった。
牛乳がなにを意味するのか、さすがのぼくにもわかった。
「飲みなさいよ」
意外にもそう口走ったのは、妻だった。
「私、このひとたちに愛される」
妻はいった。
「あなたの奥さんのまま、この人たちと恋をする――いいでしょ?」
そうするしかなさそうだね・・・と気弱く呟くぼくに、缶コーヒーの彼はいった。
「人妻って、旦那がいるから人妻なんじゃ」
あんたも旦那として、気張らんかい・・・と、彼はぼくの背中を陽気にどやしつけた。
缶コーヒーの男がいった。
「わしの女房のときには、みんなの言うことをよく聞くもんだぞと言ってやったっけのう」

ぼくは震える口調で、妻にいった。
「このひとたちの言うことを聞こう。
 きみが恋をしても、ぼくは叱らない。
 だからいっぱい、愛してもらいなさい」
その後たっぷり三時間。
妻はぼくの目のまえで男たちに愛されて、女にされていった。


女としてこんなにされて、悔しい。
でも、私の中のもうひとりの女が、このひとたちと仲良くしたがってる。
このひとたちは、私を愛すると言ってくれた。
だから私も、この人たちと恋をする。
私は、ずっと貴方の妻だよ。
でも、この人たちとも、仲よくする。
妻は一気にそういうと、着替えに帰ろ・・・と、ぼくを促した。

都会妻の服、たくさん持ってるの。
都会ではもう暮らしていけなくなったから、私この村の女になるから。
でももういちど、都会の服を着て、あなたたちに抱かれてあげる。
ストッキングも穿いてきてあげるからね――と言われ、妻のストッキングを脚から抜き取った男は、ひどく悦んでいた。

投げ込まれた女ひでりの村で、
ぼくたち夫婦は、通過儀礼の一夜をこうして迎えた。

父さんの立場。

2021年07月13日(Tue) 07:14:49

まだ、子供のころのこと。
ぼくの一家は吸血鬼に迫られて、
「子供の血は新鮮だ」といって、ぼくは真っ先に狙われて。
ねずみ色のハイソックスに赤い飛沫を撥ねかせながら、生き血をがぶ飲みされていた。
「人妻の生き血はなまめかしい」といって、母さんはその次に狙われて、
ねずみ色のストッキングをチリチリに破かれながら、肉づきのよい脚を飢えた牙にさらしつづけていた。

めまいのするほどの貧血にあえぎながら、ふと思った。
父さんは、どんなつもりでいるのだろうと。
息子も、最愛の妻も吸血鬼に襲われて、生き血を吸い取られてしまって。
生命は散らさずに済んだものの、母さんは吸血鬼にスカートをめくられて、奴隷のように弄ばれていた。

ブラウスをはだけ、肌着を覗かせて、ストッキングをむしり取られながら。
母さんはウンウンと苦しげに唸り、それでも強引に重ね合わされた腰と、自分の腰とを、うごきを重ねていってしまった。
なにをされているのかは、子供心にも薄々察しがついたけど。
母さんが吸血鬼の忠実な妻にされてしまうのを、ぼくはドキドキしながら見届けていった。
吸血鬼が目の色を変えた乳房の持ち主もまた、吸血鬼がひとしきり自分の肉体に夢中になってしまったことを、誇りに思っているようだった。

父さんは素知らぬ顔で、身近に屋移りしてきた吸血鬼と交流を持って、
時にはさしで、飲みに行く間柄になっていた。
そして、酔いつぶれた父さんを自分のねぐらに寝かせると、
吸血鬼は母さんのストッキングとぼくのハイソックスを玩びに、再びわが家へと取って返すのだった。


時が移った。
吸血鬼には、ぼくより少し年下の息子がいた。
その子が色気づくと、母さんが筆おろしの相手をさせられた。
もちろん父さんには、黙ってのことだったはず。
吸血鬼の息子の成人祝いに加わった父さんは、
自分の愛妻の貞操が引出物だったのだと、気づいていなかったのだろうか?

やがてその息子は、結婚を控えたぼくに、未来の花嫁を紹介してほしいとねだった。
否やはなかった。
母さんまでもが、処女の生き血は貴重なんだから、あなたお捧げしなさいと、ぼくに説教するしまつだった。
挙式の前夜。
彼女は夢見心地で首すじを吸われ、ウェディングドレスの下に着けるはずだった白のストッキングをむしり取られながら、
初めての血を股間からも、洩らしていった。

新妻は吸血鬼との恋に夢中になって、
自分がヒロインの不倫ドラマを、それは楽しげに演じつづけた。
ぼくの息子も、娘までも、吸血鬼の息子の手で同じようにされたとき。
過去の問いがぼくへの問いとして、よみがえった。
――父さんは、どんな想いでいるんだろう?

いま、ぼくの隣にいる彼は、
だれのものか分からない血を滴らせて、
ほくそ笑みながら、ぼくがペンをすすめるのを読み取っている。
きっとさいごにこう書くだろうと彼が確信していることを、ぼくはやっぱり書いてしまう。
――家族ぐるみで血を愉しまれる歓びに、目覚めてしまっているのだ と。

法事のあと。

2021年07月13日(Tue) 06:48:37

華恵の一周忌は、存外盛大だった。
ふつうなら親戚くらいしか集まらないものが、職場の者まで大勢参列したのは、華恵の人気によるものだろう。
同時に、白藤がいまの華恵のポジションで、うまくやっていることの証しでもあった。
男性社員がОLになって、妻のポジションで働く。
そんなことを可能にするのに、どれほどの実行力が要ったものか、
俺は白藤の成功に満足しながらも、やつの手腕を改めて見直す思いだった。

華恵と白藤の会社は俺の取引先で、かねていろんな”腐れ縁”があった。
参列した社員のなかにも、過去に引っかけた人妻の夫がなん人もいた。
わけても部長夫人などは、いまでも旦那公認の付き合いがあった。
そんな彼女たちが、細い脚太い脚に、濃い薄い黒のストッキングをまとって大勢現れたのは、なかなかの眺めだった。

白藤は女の喪服姿で、甲斐甲斐しく立ち居振る舞いをしていた。
レディススーツを着こなした白藤を見慣れていた勤め先の人たちと違って、
親戚の人々はいささか困惑気味だった。
けれども、心無い言葉を吐くものがだれもいなかったのは、家柄なのか白藤の人柄だったのか。
わけても白藤の齢の離れた妹は、俺の目を惹いた。
「妹は結婚を控えているんです。それでよければ、今度紹介しますね」
忙しい立ち居振る舞いの間に、白藤はそんなことまで耳打ちしてきた。
結婚を控えたおぼこ娘を導いてやるのも悪くない、と、ふと思い、ほくそ笑んでしまった。

弔問客が去ると、寺には静寂が残った。
白藤ゆかりのこの寺は、小ぢんまりとしていて、かつ静かだった。
ふだんでも、来て良いと思うほどだった。
「こんどゆっくり、お邪魔しましょうね」
まるで妻のように傍らに寄り添う白藤の手首を、俺は思わず握っていた。
「ここでは・・・ちょっと・・・」
困惑する白藤の首すじに唇を当てながら、畳のうえに押し倒していって、
妻を弔うために脚に通した薄墨色のストッキングを、ゆっくりと、脱がせていった。

妬きもちを焼かれたくなかったので、ことを遂げたのは、華恵の位牌の置いてある隣の部屋だった。
「ぼくが先に逝っていたら・・・って、結婚してすぐのころから思っていました」
白藤が言った。
「そうしたら華恵のやつ、一周忌まで待たなかっただろうな」
「そうですね、きっとお通夜の夜に、ヤっちゃっていたでしょうね」
俺と白藤は、声をあげて笑った。
「でもそのときにはね、ぼくならぼくの前でして欲しいと思ってました。
 仲間外れは、寂しいですから――
 華恵さんとの違いは、しいて言えばそこかも知れないですね」
白藤の見せる白い歯をふさぐように、俺はもういちど彼に口づけをする。
まるで新婚妻のように口づけを返しながら、白藤はいった。
「お掃除しなくちゃいけませんね」
そういって甲斐甲斐しく、俺が噴きこぼしたまだ生温かい粘液を、手近な布巾で拭ってゆく。
「家でもよく、していたんですよ。
 華恵さんはお転婆でしたから、わたしの留守中よく貴男のことを家にあげましたよね」
「ばれたか」
「そのあとの後始末は、わたしがしていたんです。華恵さんお掃除苦手だったから」

妻の情事のあとを、お転婆のひと言で片づけて、あと始末をする亭主。
そのマゾヒスティックな歓びが、なんとなくわかるような気がする。
俺なら絶対にゴメンだが。
そんな甲斐甲斐しい白藤の漆黒のスカートの裏側に、俺の粘液が粘りついていることを、
俺はやっぱり自慢に思ってしまうのだった。

華恵。

2021年07月13日(Tue) 06:03:28

陰野華恵は、二十年来の愛人だった。
長年の腐れ縁だったのに結婚しなかったのは、俺に形ばかりでも妻子がいたためだった。

その華恵が、結婚するという。

じつは深い結婚願望を秘めていたのだと、うかつにもそれまで、気づかずにいた。
相手は会社の同僚で、華絵と同年代の白藤という男だった。
「いい人なのよ、優しくて」
「そいつはごちそうさん」
さしで飲む機会ももうないのかなと思うと、少し寂しかった。
ところが女の話の方向は、俺の予期していたのとは真逆だった。
「どうして決めたか分かる?」
「いんにゃ」
これ以上ののろけ話はたくさんだと俺が横っ面で応えると、女はいった。
「あのひとね、結婚してからも貴方と逢っていいって言ったからよ」

俺と華恵とのセックスの相性は、抜群だった。
おもに俺の浮気で何度も別れかけたのに、その都度よりが戻ったのは、お互いに相手の身体が忘れられなかったからだった。
身体だけの相性でも、ばかにはならないのだ。
「どういうことだ」
俺は言った。
「言ったとおりの意味よ」
華恵は得意げに、俺の問いを横っ面で受け流す。

どうしても結婚してほしいっていうから、貴男との関係を、しゃべったの。
奥さんいるから結婚できないけど、実は身体の相性がバツグンな男がいるの。
結婚してもきっと、彼との付き合いは断てないわ。
それでもいいの・・・?って訊いたら、
彼ったら、言ったわ。
きみが好きだというものを断てるほど、ぼくの存在は大きくないよね。
週一くらいだったら、逢ってもかまわないよ。
ぼくが週一を許したら、きっときみのことだから、その彼とは月に二度も三度も逢うんだろうけど。
週に二度も三度もだったら、きみがだれの奥さんだかわからなくなるけど、
ぼくよりもセックスの回数が少ないのなら、許すから――ですって。

数ヶ月後。
華恵はめでたく白藤と華燭の典を挙げた。

それからも、俺と華恵との関係に、変わりはなかった。
俺たちはいつものホテルで待ち合わせて、ふたりだけの刻を過ごした。
少し変わっていたのは、ダンナになった白藤の態度だった。
華恵が結婚後、初めてホテルのロビーに姿を現したとき。
そこには白藤の姿もあった。
「このひとったら、どうしてもわたしのこと送り迎えするんだって、聞かないの」
いつも以上におめかしをした華恵は、そういって口を尖らせた。
白藤は、善意に満ちたまなざしで俺を見て、「思ったとおりの感じのかたですね」といった。
うらぶれた五十男が、四十そこそこの白藤からどう見えたのか、俺はちょっとだけ、みじめな気分になった。
けれども白藤は、俺の気を惹き立てるように笑顔で応じると、
「どうぞ家内をよろしくお願いします」
といって、サッと身をひるがえし、ロビーから煙のように消えた。
「待ってるんですって。でも、気にしないでいいからね」
あきれたわ、と言いたげに、華絵は新婚の夫の後ろ姿を目で追いながら笑った。
それからいつものように、俺たちはチェックインを済ませ、ルームキーを受け取って、俺たちだけの部屋のドアを閉めた。

息せき切って、女のブラウスのリボンをほどくと、熱い吐息交じりの接吻が返ってきた。
がつがつと太ももに手を当てて、ストッキングをむしり取ると、そんなの厭・・・と、形ばかりの抗いで応じてきた。
すべてがいつもと変わらない、熱っぽい情事の始まりと終わりが、そこにあった。
旦那がまっているというのに、気にならないわけがない――とか何とか言いながら。
俺はいつもより長く、三時間もの刻を、華恵と過ごした。
「終わったわ、帰る」
口紅を直しながら携帯で夫を呼び出すと、華恵はいった。
まるで従僕に命令する王女様のように尊大だった。
「あの人ね、寝取られフェチなの」
でも軽蔑しないけどね・・・あたしにはちょうどいい旦那だしと、うそぶくことも忘れずに。

再び戻ったホテルのロビー。
ノーストッキングの足取りを、何事もなかったように物静かに進める先で、ご亭主殿はうやうやしく王女様を出迎えて、
こちらのほうは気づきもしないというそぶりで、華恵を自分の車に乗せた。

「監視している訳じゃないんですって。少しでも長く私と一緒にいたいんですって」
さすがに亭主殿送り迎えの情事ばかりは気が引けたので、華恵の勤め帰りに密かに招き寄せると、
「きっと今夜のことも、知ってるわ~。のけ者にしてかわいそうだけど、たまにはいいよね」
と、華恵は自分を言い聞かせるように、人のいない隅っこのテーブルを見た。
そこに座っているご亭主殿に、まるで許しを請うように。
「あたしね、治らない病気持ってるの」
自分の生命が近々終止符を打つことを、女はまるで他人ごとのように語った。

月に一度は、白藤は妻の情事の送り迎えをした。
公式にふたりの関係を認めるのは、月一だという約束を、ひとりで律儀に守っていた。
新婚のはずの白藤夫人は俺とのセックスに耽り抜くと、「終わったわ、帰る」と、旦那を尊大な声で呼び出して、帰っていった。
それ以外の逢瀬は、いままでどおりだった。
白藤が苦情を言いたてているという話は、ついに華恵の口からは聞かれなかった。
「うちでもがんばっているからね♡」
華恵は結婚したばかりの夫との仲睦まじさも、自慢らしい。
家では影さえ寄り添うほどに、頻繁に身体を重ね合っていると、あっけらかんと俺に告げた。

白藤とはその後も付き合いを重ね、連れ立って酒を飲むほどの仲になっていた。
ご亭主殿と間男とは、本来仇敵同士の関係のはず。
けれども白藤は、おなじ女性を好きになったわけですから――と俺に遠慮をさせないで、
その代わり、しっかり割り勘ですよ、と、よけいな気遣いさえもさせなかった。
「嫁を征服された旦那と飲んだご経験、貴男ならありますよね?やっぱり優越感って感じますか?」
そんなことまで、爽やかに言ってのけてしまう男だった。
そうだな、やっぱり肚ん中では、俺はお前の嫁の御主人様なんだって、思っているかもな――俺がそう応じると、
仮にそうでもかまいませんよ、と、白藤は返した。
ぼくね、結婚前からおかしな話なんですけど、もしも自分の妻が浮気をしたら――って考えていたんですよ。
でもそのときには、相手の男とはケンカをしないで、仲良くなりたい そんなこと、考えていたんです。
華恵さんの彼氏が、貴男のような人で良かった――とまで、白藤はいった。
俺の前では、妻の名を呼び捨てにしない気遣いさえ、見せてくれていた。

華恵が入院してしばらくたったとき、俺は白藤の呼び出しを受けた。
少し遅れてロビーに現れた白藤を見て、俺は絶句した。
地味めなグレーのスーツに、白のリボン付きのブラウス。肌色のストッキング。
白藤は、華恵の服を身にまとっていた。

男を相手にするなんて、だれから訊いたんだ?
その問いは、愚問というものだろう。
華恵は俺がしばしば、寝取った人妻の夫を女として愛することを知っていた。

その晩は、それまで過ごしてきた夜のなかでも、屈指のひとときだった。
華恵のスーツを身にまとった白藤は、徹頭徹尾、華恵になり替わっていた。
そう、セックスの癖までも――
俺はやつの脚から華恵のストッキングをずり降ろして、黒のレエスのショーツを剥ぎ取ると、
まるで華恵にそうするように、白藤に対して果てていた。
いつもより長く、相手の身体の中に身体を埋めて、
いつもより余計に、交わした熱情の残滓を、たっぷりと注ぎ込んでしまっていた。
華恵を愛した一物を口に含みたいと願ったときだけ、白藤は夫らしい顔つきになった。
過去に数えきれないほど華恵を愛したそれを、わたしに手入れさせてくださいと、やつは心から願ったのだ。

あくる朝。
しずかに一礼して立ち去る姿は、その楚々とした歩きぶりまで、華恵とうり二つだった。
俺の手には、華恵から――いや白藤の脚から抜き取ったストッキングが、まだ体温を帯びてぶら提げられていた。
華恵の脚から抜き取ってきた数多くのストッキングと同じくらい貴重なものに、思えていた。

華恵がこの世からいなくなったのは、それからしばらく経ってのことだった。

「お待ちになりましたか」
「いんにゃ、いま来たとこだが」
かつて華恵と交し合ったやり取りを、俺はいま白藤とくり返すようになっている。
やつは会社でも、かつて華恵のいたポジションで、OLとなって働いていた。
少しでも過去の華恵と近づきたいと、自分から願い出たという。
華恵は、きりっとしたスーツ姿を好んでいた。
きょうは臙脂のスーツでキメた華恵・・・いや白藤は、俺と腕組みをすると、さっそうとした足取りで部屋へと向かう。
ホテルのロビーにカッカッと響きわたるヒールの音さえ、華恵とうり二つだった。
足許を覆うストッキングは、俺にいたぶられるのを予期して、きょうも真新しい高価なもののはず。
さて、きょうはどんなふうに責めてやろうか?
俺は女の肩に手をまわし、ギュッと横抱きにして、部屋へと引きずり込んでいく。


あとがき
白藤が新妻と頻繁に床を重ねたのは、華恵になり切るためだったのかもしれません。
結婚当初から、華恵なきあと「俺」を慰める役割まで意識していたのでしょうか。。
それにしても、独身のころから嫁が寝取られたときの心の用意をしているとは。
華恵と「俺」とは腐れ縁だったかもしれませんが、「俺」と白藤とも、よほどのご縁だったようです。

互いの目線

2021年07月12日(Mon) 17:27:05

彼が好む、ストッキング地の長靴下を脚に通して、
勤め帰りのスラックスのすそを、引き上げて、
吸いつけられてくる唇を、さりげなく避けようとしながらも、
強くは拒まず、受け容れてしまう。
じっくりと辱めるように、なすりつけられる唇に、
苦笑を洩らしながら、応えていって、

舌触り、愉しめますか?
ぼくの血は、美味しいですか?

そんなことばかり訊いてしまう。
相手は妻の情夫。
妻を抱いた帰りに、まださめやらぬ性欲の切っ先を、夫に対して向けてくる。
引きずり込まれた草むらの中、
お互い肩で息をするほど乱れあい、
スラックスを浸した粘液の名残をきにかけながら、つい訊ねてしまう。

家内の肉体は、愉しめましたか?
ぼくの身体は、どうでしたか?

彼はこちらを見ようともせずに、捨て台詞のように呟いた。
――奥さんは自分のことばかりなのに、あんたは俺のことを気にするんだな。

怨みごと

2021年07月12日(Mon) 17:15:59

同じ男の見立てた服を着て。
同じブランドのストッキングを脚に通して。
その男のところに、夫婦で訪れて。
肩を並べ、息はずませ合いながら。
代わる代わる犯される。

先に差し出されたペ〇スにしゃぶりつき、
これから妻を犯そうと逆立つ一物を、根元まで口に含んで、
きれいにくまなく舐めて、
その見返りに、妻を汚す粘液を、、口の中にぶちまけられる。
鋭い芳香にむせぶその傍らで、妻は着飾った服もろとも組み敷かれ、
わたしの妻ではない、べつの女へと堕ちてゆく。

夫婦で肩を並べて髪振り乱し、
ブラウスをはだけられ、
ブラジャーの吊り紐を断ち切られ、
スカートを腰までたくし上げられて、
ストッキングを半脱ぎにされて、
同じペ〇スで、股間を冒される。

ひとしきり、嵐が過ぎ去ると。
妻は静かにわたしをかえり見て、怨むのだ。
――あなたとのときのほうが、燃えてるみたい。

煙草の吸いさし

2021年07月12日(Mon) 09:10:18

勤めから帰宅すると、ダイニングテーブルのうえに置かれた灰皿に、
口紅の着いた吸いさしの煙草が一本、ななめに置かれていた。
情夫の癖で覚えた煙草――妻のものだった。
彼に寝取られるまで、妻が煙草を口にすることはなかったはず。
癖の変化すらもが、妻がほかの男のものになったのだと、さりげなく、毒々しく、伝えてくる。

情事に出かけることを無言の裡に伝えるとき。
妻はいつもこうやって、吸いさしの煙草を残してゆく。
たまらなくなったわたしは、きっとふたりがいるであろうあの土手を目ざして、
ソファに腰を降ろすこともなくきびすを返していった。

夕暮れ刻の薄闇のなか。
煙草の焔が点になって、灯っているのが遠目に映る。
わたしは用心深く物陰を伝っていって、ふたりの腰かけているベンチのすぐそばまでたどり着いた。

煙草を吸っているのは、男。
その男の肩にもたれかかっているのは、妻。
妻は夢見心地になって、さっきまで交し合っていた愛を反すうしている様子。
男はやがて、妻をふり返り、
吸いさしの煙草を、妻に差し出した。
それを自分の唇に含んだ妻は、
うっとりとした表情を消さないままに、煙草を味わった。

もつれ合いながら立ち昇る烟を、だれ追うこともなく、
夕映えにひと群れの影を投げると、
それもつかの間、消えてゆく。

男は妻から煙草を受け取ると、もういちど自分の唇にそれを含んだ。
ふたりの気持ちが通じ合っているのだと、いやでもわかる雰囲気だった。
わたしは足音を忍ばせて、そっとその場を立ち去る。
もう一時間、いや二時間か――
妻をあの男にゆだねておこう。
かりにわたしだけの場所であった処を、
彼が思いのままにしてしまうとしたとしても・・・

隷属の証し。

2021年07月12日(Mon) 06:12:13

奥さんのストッキング穿いているんですか?
スラックスから覗く足首が透ける靴下の薄さに、つい訊ねてしまった。
いいえ・・・
同僚はにこやかにほほ笑んで、スラックスのすそをそっとたくし上げる。
濃紺の薄地のナイロンはグーンと伸びてひざ小僧の下まで覆っていて、
ひざ下を鮮やかに横切る口ゴムの太さは、同僚の履いている靴下が紳士用だと告げていた。

毎日 ですか?
毎日 ですよ。
そう、同僚の足許を染める靴下の薄さは、毎日のものだった。
毎日・・・破られているんです。
同僚は、困ったような顔つきでそうつづけた。
どういう意味ですか?
家内を犯している吸血鬼に、ですよ。
さすがにそこは、小声だった。
奥さんの血を吸っている吸血鬼は、毎日のように同僚をも襲い、足首を咬んで薄い靴下を咬み剥いでいく というわけだ。

奥さんのストッキングを、吸血鬼の弄びものにしても良い――
そんな意思を抱いた夫が、脚に通したのが初めてだという。
自分も同じように、薄い靴下を破かれて、弄びの対象となってゆく。
そうすることで、襲われた妻と同化するのだと。
同僚はそう、教えてくれた。

わざわざ教わらないでも、わかっていたことなのかも。
そういうわたしも、同僚とお揃いの靴下を毎日履いて出勤している。
妻を明け渡した吸血鬼から、「支給」されたもの。
わたしは毎日それを履いて出勤するよう、命じられている。
毎日微量づつの血を吸い取られて、
靴下だけはくまなく舐められ、派手に咬み剥がれていった。

妻の情夫を満足させるための装い。
薄い靴下を脚に通すことが、隷属の証しとなっていた。

妻の愛人にと、いまの情夫を紹介してくれた上司も、
おなじ靴下を履いている。
そういえば――彼がわたしに紹介したのは、自分の奥さんの情夫だった。
上司だけではない。
見渡せば、ほとんどの男性社員が、同じ薄い靴下を履いている。
好みによって、濃紺か、黒か。
色の違いはあるけれど、男の踝には不似合いな薄さ、なまめかしさが、スラックスのすそから覗いている。
まるで社の制服のように、だれもが申し合わせたように、踝を薄っすらと染めている。

素肌にしんなりとなじみ、吸いつくように足許を覆う。
それはしなやかな隷属の証し、
吸血鬼に嵌められた足かせなのだ。

女として愛される夫

2021年07月10日(Sat) 07:57:22

首のつけ根につけられた傷口は、
痛痒いような、くすぐったいような、そんな疼きをジンジンと滲ませている。
男はあお向けにしたわたしの上におおいかぶさって、
傷口に吸いつけた唇をいやらしく蠢かせ、
さっきからチュウチュウと音を立てて、
わたしの身体から血を吸い取っていた。

働き盛りの血液が、干からびた彼の血管を潤してゆく。
そのことが、むしょうに快感だった。
夕べ抱いた妻から吸い取った血液も、まだ彼の体内には宿っている筈。
夫婦の血が織り交ざって、彼の喉を慰め、血管を潤してゆくのだ。
わたしたち夫婦は、彼のなかでひとつになっている――

身に着けたワンピースは、妻のもの。
なん度めかの結婚記念日にプレゼントした品だった。
鮮やかなブルーが涼しげな幾何学模様のワンピースを着けた妻を連れ歩くのが、
かつてわたしの悦びだった。
おなじワンピースを着けた妻が、
彼と連れだってホテルに迷い込んでいくのを見届けるのが、
いまのわたしの密かな歓びと化している。

その呪われたワンピースを身に着けて、女として彼に抱かれる。
まだ回を重ねていないその異常な体験に、わたしは胸を躍らせていた。
妻の股間を抉り彼女の理性を狂わせた彼の逸物が、
いまわたしの股間をも抉って、敏感になった粘膜に淫らな疼きをなすりつけてくる。
わたしのなかにびゅうびゅうと注ぎ込まれる熱い粘液に、
不覚にも陶然となってしまっていた。
おなじ粘液を妻の肉体に注ぎ込まれることを、咎めるべき立場のはずなのに――

せめぎ合い、交し合う吐息、呼気。
わたしたちは身体の動きをひとつにして、愛を形にする共同作業に没頭した。


けだるさの支配する身体は、きょうも出勤には耐えられないだろう。
会社には休みの電話を入れておいたから。
勝手なことをしておいて、彼はにやりと笑う。
生き血を吸い取られ、股間を狂わされて虚脱した身体は、わたしの理性を縛りつける。
きっときょうも、そんなわたしの目の前で、
男は妻を支配してみせるに違いない。
良識ある夫としては、見るに堪えないはずの光景――
着飾った妻がほかの男に掻き抱かれて、欲情の限りを注ぎ込まれ、
いつか自らも狂ってゆく。
そんなありさまを、きょうも見せつけられてしまうのだ。
妻はわたしに、感謝していた。
夫の眼の前で果てる歓びに、めざめてしまっていたから。
きょうも会社を休んだわたしを悦ばせるため、
きょうも彼女は、淫らな舞に熱中するはず。

気分はどうかね――?
顔色の悪さを気遣う彼に、わたしは精いっぱい微笑んで見せる。
だいじょうぶ、悪くないよ。
きみに妻を愛されるのも、
わたし自身を愛されるのも、
とても嬉しいことなのだから。

強いられて 染められて ~吸血鬼の愛人となった妻~

2021年07月03日(Sat) 11:11:32

「清川くん、ちょっと」
上司に呼ばれて別室に招かれたわたしは、とうとうきたな、と思った。
当地に転勤してきて、一週間たっていた。
オーナー社長の出身地であるこの街は、吸血鬼に支配されていて、
過疎化の進む故郷に棲む彼らに若い血液を提供するために、
社員とその家族たちが、次々とこの任地に送り込まれていた。

席に着くと上司は言った。
「きみの奥さんを見て、気に入ったという人がいるんだが」
否やはなかった。
妻の貴美恵は36歳、まだ子どものいない夫婦だった。

言いにくそうにしている上司の言わんとしていることは、すぐにわかった。
わたしの役目は、貴美恵をその人に引き合わせ、献血させること。
そして、既婚女性を相手に行われる献血には、ほとんど例外なく性行為を交えるのだ。

お相手のお邸は、何丁目のはずれの大きな洋館、きみの家からはちょっと離れているね。
きみ、車を持ってきているね。送り迎えをしてあげるといい。
わたしが上司から仰せつかったのは、強制的に不倫させられる妻の、送り迎えだった。

上司はさらに言いにくそうに、つけ加える。
「お相手の男性は、うちに勤務する社員の奥さんや娘さんを、なん人もモノにしている。
 私の家内も――彼の愛人のひとりに加えられていてね。
 きみの奥さんのことを家内に話したら、
 “若いひとがライバルになるのは、おだやかじゃないわ”と、笑っていたよ」

部屋から出ると、事務所の面々のそれとない視線を感じる。
だれもが、部屋の中でなにが話し合われたのかを、感づいているのだろう。
そしてだれもが例外なく、妻や娘をこの街の吸血鬼の餌食に供している。
わたしも彼らの、仲間になるのだ――


帰宅するとわたしは、明日の夜車で出かけることを、事務的な口調で妻に伝えた。
いつもよりおめかしをして、ストッキングを穿いていくように――
さりげない言葉を口にするときに、ふと声が震えた。
ストッキングを穿いた脚に咬みつくのが、彼らの好みだった。

「わかりました。そのひとのところに行って、献血して来れば良いんですね」
妻は、感情を消した顔をして、必要なことだけをこたえた。
献血だけではすまないことをお互いに知りながら、ついにその話題は口にされなかった。
「あーあ、もう三十半ばだし、おいしくないって言われたら悲しいわね」
妻はわざと人ごとのように、のんびりと呟いた。
おいしいかどうか――もちろん、血液の味だけの意味ではないのを、
わたしは聞き逃さなかった。


夜。
勤務を終えたわたしは早めに帰宅して、妻を車に乗せて街はずれの邸へと向かった。
勤め帰りを迎えた妻は、よそ行きのスーツ姿。
いつもより濃いめの化粧が、彼女の決意を感じさせた。
薄茶色のストッキングは、きっと真新しいものなのだろう。
ツヤツヤと微かに輝いて、妻の足許を艶めかしく染めていた。
門の前に車を停めると、妻は助手席から降りてわたしに一礼した。
これから夫を裏切ることを、謝罪するようにみえた。

細い指がインターホンを押すと、その音に応じて邸の主が姿をみせた。
上司よりも年配の、冴えない感じの男だった。
妻の相手がわたしたちよりもはるかに年上であることと、
風采のあがらない男であることに、なぜか少しだけ安堵した。

彼は妻の傍らに寄り添うと、慇懃にお辞儀をしてきた。
わたしもお辞儀を返していた。
吸血鬼に促されるままにドアの向こうに姿を消す直前、
妻はこちらをふり返り、もう一度わたしに向かってお辞儀をした。
深々としたお辞儀はどことなくよそよそしくて、
悪い予感を振り払うのに、かなりの苦労を伴った。

いまごろ妻は、リビングに招き入れられているのか。
いまごろ妻は、名前を名乗りよろしくお願いしますとでも受け答えしているのか。
いまごろ妻は、相手に背中を見せて、目を瞑っているのか。
いまごろ妻は、化粧を刷いた顔をしかめながら、首すじを咬まれているのか。
いまごろ妻は・・・
想像するのはよそうと想いながらも、
わたしは家に車を向けることもできず、
邸の正面の空き地に車を停めたまま、車外に出る勇気さえ持てずにいた。
あたりはすっかり、暗くなっていた。
結婚記念日に買ったあのまっ白なブラウスは、
抱きすくめられた猿臂のなかで、持ち主の血しおに染まってしまっただろうか。
妻が脚に通していた、あの薄茶色のストッキングは、
じゅうたんの上に転(まろ)ばされたふくらはぎから、咬み破られてしまっただろうか。

30分ほど車を停めていると、携帯が鳴った。
声の主は妻だった。
「献血、無事にすんだわ。あのかた、あなたに帰るように言ってる。
 私、ひと晩泊っていくことにしたから」
つとめて平静さをつくろった声色だった。
「だいじょうぶなのか?」
思わず投げた言葉に、「私は大丈夫」と妻は応えると、「早く帰って」とくり返した。
「ひと晩泊っていくことにした」という表現に、妻の意思を感じた。
その場で蹂躙され、夫とともに帰宅するのではなく、
もっと長い刻を相手と過ごすことを、妻は“女”として選んだのだ。
遠ざかるエンジン音を聞きながら、
きっと妻は、スカートをたくし上げられていくのだろう。
無人のわが家に戻ったとき。
ちょうどいまごろ、妻の貞操が蕩かされているのだと直感した。

想像のなかの妻は、歯を食いしばって男にしがみつき、夢中で腰を振っていた。
歯がみをしているのは屈辱のためではなくて随喜をこらえているのだ――
そう感じても、なぜかこみ上げてきたのは、怒りや虚しさではなかった。
不思議なことに。
わたしは想像のなかで、ひたすらがんばれと、妻を励ましつづけていた。

妻の生還を祈る気持ちでそうなったのか。
きっとそれもあるだろう。
生存に必要な血液まで引き抜かれてしまわないように、
わたしのいないところでも、なんとか身を守ってほしいと願っていたはず。
けれどもそのいっぽうで、妻が気にしていたように、
「若くないし、おいしくないって言われたら悲しい」
という想いも、心の片隅に泛んでいた。
そのためには、妻の血は吸血鬼を愉しませ、たっぷりと吸い取られなければならなかった。
つかの間の栄養摂取で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
男には、妻の血で悦んでもらいたかった。

妻が犯されることは、夫としては耐え難いはずなのに。
そのいっぽうで――
せっかく捧げた妻の貞操を、男が重宝してくれないのは無念だとも思った。
むぞうさな性欲処理で終わってしまうのは、夫としても悲しいと思った。
妻の女ぶりに魅了されてほしいと、心のどこかで願っていた。


長い長い夜だった。
こんな夜でも、独りで寝ていても、まどろむことができたのか。
わたしは車のエンジン音で目ざめた。
玄関に出ると、ちょうど妻が車の助手席から降りてくるところだった。
妻は、少し蒼ざめていたけれど、ふだん通りの妻だった。
向こうで化粧を直したのか、夕べのように濃いめの化粧を刷いていた。
そして、ストッキングを穿いていなかった。

運転席には、あの男がいた。
わたしにはわざとのように声もかけずに、妻がわたしの傍らに立つのを見届けると、
ふたたびエンジン音を轟かせて、走り去っていった。


「あの、これを・・・」
勤めに出るまぎわ、妻がわたしを呼び止めて、
細い指でつまむようにして、小さな紙包みを突きつけた。
「これを、あのかたにお渡しして」
きまり悪そうに視線を下げて、押しつけるように紙包みを差し出してくる。
脱がされたストッキングを相手の男性に与える行為は、
求愛を受け容れるという無言の証し。
上司からきいたとおりの作法を妻が見せたことに、わたしは息をのんでいた。
わたしはちょっとためらったけれど、妻からその紙包みを受け取った。
妻から託されたものを受け取る行為は、
妻の不倫を許し情婦として差し出すという、無言の意思表示。
「すみません」
と、頭をさげる妻に、
「いいんだよ」
と、こたえるわたし。
この街に入ると決めたときに、こうなることはわかっていた。
わたしにできる唯一のことは、この街の住人として、誠実に振る舞うことだけだった。


出社したわたしは、タイムカードを押すと社を出た。
夕べの邸を訪れると、邸の主はわたしを家にあげてくれた。
思ったよりも広く、こぎれいなリビングだった。
この部屋で、“儀式”は執り行われたはず。
まっ赤なじゅうたんは、妻の血を吸ったのだろうか。
じゅうたんに点々と散った白い斑点は、妻を汚した精液のなごりだろうか。
わたしは男に無言で、妻から託された紙包みを手渡し、
男も生真面目な顔つきをして、それを受け取った。
そしてむぞうさに包みを破ると、中身を取り出した。
細長い薄絹が、蛇のようにおどろおどろしく、姿を見せた。
男はそれに軽く頬ずりをして、大きく裂けたあたりに口づけをした。
まるで妻自身にそうするように、熱烈に。
「家内の血はお気に召しましたか」
「おおいに気に入りました」
男はいった。
「まんまとやられてしまったようですね」
「あなたのおかげでもあります」
「え」
「車で、連れてきてくださったではありませんか」
そう、妻に強制的に不倫をさせることに、わたしはたしかに片棒を担いでいた。
「今夜は、ご自身の脚で歩いて見えられますよ」
「え」
「私がお招きしたのです」
男はひどく、手回しが良かった。

インターホンが鳴り、男が席を起って、それに応じた。
ドアを開けて、伴ない招き入れたのは、まぎれもなく妻だった。
濃いめに化粧を刷いた妻が、ちょっと驚いた顔をした。
はち合わせになるとは、思っていなかったのだろう。
わたしの勤務中に、妻は不倫を遂げにここに来たのか。
妻は夕べと同じように、真新しいストッキングを脚に通していた。

わたしは、物分かりの良い夫になるしかなかった。
「今夜も家内を泊めてもらえますか」
とわたしが問うと、
「ご主人さえご迷惑でなければ、ぜひそうしたい」
と、男。
「ぜひ泊めていただきなさい」
とわたしが促すと、
「そうさせていただきますわ」
と、妻。
「おめでとう」
と言い残して立ち去ろうとしたわたしは、ふたりに呼び止められた。
そして、強制不倫が婚外恋愛にすり替わったことを、ひと晩かけて見せつけられた。
夫婦で吸血鬼の邸に泊った夜。
妻は美々しく装った盛装を惜しげもなく剥ぎ取らせ、
二足目のストッキングを、わたしの前で脱がされていった。


あとがき
自分の妻を狙う吸血鬼が、先に上司の奥さんを陥落させちゃったり。
妻の血を吸わせ抱かせるために、送り迎えをさせられちゃったり。
それでも妻が気に入られるように、願っちゃったり。
初めて抱かれたときに穿いていたストッキングを託されちゃったり。
それを妻を抱いた男に、届けちゃったり。
夫のほうが、主人公になっていますね。いつものことながら。(笑)