淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
【ネタ話】かなり昔からの妄想
2021年08月23日(Mon) 15:56:52
ロングの黒髪を振り乱しながら、
グレーのスーツを着た若い女性が、
真昼間の路上、吸血鬼に襲われている――
そんな妄想を、中学生のころからしていました。
なん度も首すじを咬まれ、
そのたびに悲痛にうめき声を洩らしながら、
礼儀正しい言葉を選んで、生命乞いをくり返して、
けれども相手は容赦がなくて、
グレーのストッキングの脚にまで、無作法にも咬みついてゆく。
脚に通したストッキングを玩ばれていると知りながら。
その女の人は大きな瞳を悩まし気に翳らすだけで。
路上に座り込み、立て膝をして、そんな姿勢でふくらはぎを咬ませているときなどは、
むしろ、自分から咬ませているのではないかと思えるほど。
知らず知らず、二人の息は合ってしまっていて、
吸血鬼が咬みたがるところを、彼女のほうからすすんで差し伸べるようになってゆく。
致死量近い血液を、したたかに吸い取られながらも、
彼女は自分の生き血を吸血鬼がせつじつに求めていること、
そして、彼女の生き血の味をひどく気に入ってしまっていることを察していて、
あえて彼の狼藉を、声だけで制止しようとしていた。
やがて二人は、婚約者も認める仲となり、
その婚約者の見つめる前、
はだけたブラウスから乳房もあらわに、
彼女の純潔を奪おうとする吸血鬼をまえに、
おずおずと、身体を開いてゆく――
後半の処女喪失場面を思いついたのは、高校生くらいのころかもしれません。
どういうわけか、
グレーのストッキングを穿いた脚をわざとのように咬ませてゆく、ロングの黒髪の美女を、
そんなころから夢想していました。
理穂さんのストッキング
2021年08月23日(Mon) 11:24:31
婚約者の理穂さんが、吸血鬼に襲われた。
出勤途中、路上で襲われて、したたかに生き血を吸い取られたのだ。
幸い、生命は取り留めたが、息をするのがやっとの程の貧血ぶりだった。
あとで聞いたところでは、当地の吸血鬼は、襲った女性を吸い殺すことはないのだという。
ということは、理穂さんが吸い取られた血液の量は、彼らにとってマックス――
それだけ、理穂さんの生き血が彼の気に入ったということらしかった。
見舞いに飛んでいくと、理穂さんは蒼ざめた顔に精いっぱいの笑みを泛べて、ぼくの来訪をよろこんでくれた。
彼女の家に着くまえに、病院で薬をもらって帰る彼女の帰り道で出くわしたのだ。
ところがそれより少しあとに、当の吸血鬼が現れた。
理穂さんは縮みあがって、ぼくの後ろに隠れた。
迫ってくる吸血鬼に、ぼくはいった。
彼女を襲わないでください。貴男に血を吸われ過ぎて、疲れているのです。
吸血鬼はぼくと目線を合わせると、ちらと憐憫の色を泛べて、理穂さんを見た。
理穂さんは目線を合わせようともせずに、ひたすら怖れていた。
「迷惑をかけた」
男の当たり前のはずのひと言を、ぼくは茫然と受け止めていた。
「わたし、やっぱりあのひとに、血をあげようと思うの」
家に着いた理穂さんの口を突いて出た言葉は、意外なものだった。
「え?どういうこと!?」
喉渇いているんでしょう?だから、わたしの血で慰めてあげたい――
咬まれたときに注入された独で、理穂さんはすでにたぶらかされていたのだ。
彼女から託された紙包みを手に、理穂さんの家を辞去したのは、夕方のことだった。
「今朝穿いていたストッキング。あのひと、欲しがると思うの。
もしも途中で遭ったら、あなたから渡してくれないかな」
理穂さんの履いていたというグレーのストッキングには、
ところどころ血が滲み、大きな裂け目を走らせていた。
胸を痛めながら、裂け目の数を勘定したが、数えきれないほどだった。
このぶんだけ、彼女は苦痛を覚えたのか。
ぼくの胸に生まれかけた怒りを、彼女は敏感に察して、すぐに打ち消した。
「きっとそれだけ、切羽詰まっていたのよ」
襲われた女性の身に着けていたものを相手の吸血鬼に与える行為は、
彼女と吸血鬼の交際を認めることを意味する――
けれどもぼくは、帰り道に出くわしたそいつに、おずおずと紙包みを手渡してしまっていた。
幾分かの昂りさえ、胸に秘めながら。
不貞もロマンス
2021年08月23日(Mon) 07:21:39
妻と母とを、二人ながら犯されて、数か月が過ぎた。
この数か月は、いままでの人生を洗い流すほどの力を持っていた。
村に移り住んですぐに、二人を見染めた兄弟は、
わたしを虜にすることで、獲物への距離をひと息に詰めて、同時に想いを遂げていった。
立ち去ってもらうためにふたりに手渡した缶ビールが飲み干されてしまうまえに、
わたしは兄弟の棲む家を訪れて、
妻も母も真面目な交際を希望していると告げた。
しんそこ嬉し気に顔を見合わせる兄弟の横顔を、わたしも眩し気に見つめてしまっていた。
二人の相手に、適切な男性を選んだのだという実感が、ひしひしとわたしを包み込んでいた。
不仲の嫁と姑が、これを境に打ち解けた関係になっていた。
ともに、わたしの目を盗んで逢瀬を遂げる立場。
女どうしが共犯になるのに、さして時間はかからなかった。
妻は母のセックスを、「ロマンスですわ」と評していた。
父がすでに、いなくなっていたからだ。
けれども母は、「やっぱり不貞ですよ」と、謙遜していた。
それもそのはず、母の彼氏は、父の写真のまえで姦りたがり、
母も好意的に、彼の願望をかなえるようになっていた――喪服まで着込んで。
漆黒のスーツに身を包んだ母は、貞淑そうなを見せつけるように、
恋人に背中を向けて、父の写真に手を合わせる。
これからわたくしがいたしますこと、どうぞお許しくださいね――と、呟きながら。
そして、淫靡に光る黒のストッキングの脚をおし拡げられながら、
深い深い吐息を洩らしていくのだった。
妻は自分のセックスを、「不貞だ」といって自虐していた。
けれどもその「不貞」の表現は、いみじくもわたしにも向けられていて、
「きょうも貴方を裏切るわね♪」
というのが、わたしを勤めに送り出すときの妻の決まり文句になっていた。
三人そろった晩ご飯の席。
昭和のようなちゃぶ台のまえで、妻はわたしに深々と一礼する。
「ごめんなさい、あなた。きょうも不貞を犯してしまいました」
「ロマンスですよ」
と、言い添えたのは、母だった。
「不倫の恋も恋じゃないの。わたくしといっしょ。貴女の恋もロマンスなのよ」
あいまいに頷くわたしを受け流して、
「認めて下さるのですね!?お義母さま」
と、妻はしんそこ嬉しげだった。
「じゃあ――お前の恋もロマンス・・・ということで」
わたしはとどめを刺すように、思い切って告げた。
とっくにわたしだけのものではなくなった妻。
そのことを妻の眼の前で認めた、初めての刻だった。
あとがき
前作の続きです。
半月以上も経って思いつくというのは、このお話には愛着があるからかもしれないですね。