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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

市長夫人、堕ちる――

2022年07月24日(Sun) 23:32:08

壬生川市長の良き相談相手でもある京子夫人が初めて吸血鬼に襲われたのは、あろうことか市長室でのことだった。
その日不幸にも市長は外出しており、京子夫人はがらんどうの市長室で夫の帰りを待つことにした。
がらんどうの部屋、のはずだった。

しかし、市長室にも吸血鬼の追求の魔手は、すでに伸びていたのだ。
若い女性職員が市長室に呼び出され、吸血鬼の頭に生き血を吸われる。
そんなうわさが事実であることを、ミス倭館【わかん】市役所とうたわれた紫桃いずみも奈々邑リカも知っていた。
「吸血鬼保護条例」を発布すると市長は、市役所の全女性職員と職員の妻とを対象に、血液提供者を募ったのだった。
「おまえにも、いつかは出てもらわなくちゃならない」
市長は京子夫人にそう言ったし、京子夫人もまた、夫の志を実現するために、わが身を犠牲にする気持ちを固めていた。
しかし、その日その時のことだとは、市長夫妻は思ってもいなかった。

その日、喉をカラカラにさせた吸血鬼は、いつも若い女性の血液を提供してくれる親切な市長を頼りに市役所にやって来て、
またいつものように、市役所の職員の妻か女性職員をみつくろってもらおうと思い、市長室のドアをノックもせずに開けたのだった。
だしぬけに姿を現した吸血鬼を前に、ものに動じない京子夫人も思わずうろたえた。
その様子を見て取った吸血鬼も、さらにうろたえた。
奥ゆかしいスーツに身を固めた、しっとりと落ち着いた風情の年配女性のその様子に、嗜虐癖をそそられてしまったのだ。

気がつくともう、京子夫人を抱きすくめてしまっていて、
柔肌から伝わるほのかな体温と、着衣を通して感じる豊かな肢体とに夢中になってしまっていて、
がくがくぶるぶると身を震わせながら、夫人の肉づき豊かなうなじに、牙を突き立てていったのだった。


キャー。
はからずもあがった悲鳴はドアの外にも漏れたけれど、
口の堅い市長の側近たちは、なにごとも起きていないかのように執務に励んでいて、
市長夫人を援護するために席を起つものはいなかった。
それから市長が帰庁するまでのあいだの約30分。
吸血鬼に迫られた市長夫人は、わが身に脈打つ熟れた血潮をたっぷりと、魔性の毒牙に浸す難に見舞われたのだった。

さいしょのうちこそ不覚にもうろたえてしまったものの、
もともと京子夫人は、吸血鬼を街に受け容れようとする夫の施策に理解を示し、良き協力者になろうと望んでいた。
彼女は気を取り直すと、わたくしのような年配女性でもよろしいのですかと尋ねた。
吸血鬼は、血に飢えていた。
「あんたの血が欲しい。気が済むまで愉しませていただきたい」
目の前に現れた年配婦人は、彼にとって血液を提供すべき肉体としか、映らなかったようだ。

そんな忌むべき来意を告げられた夫人はそれでもつとめて平静さを装って自分の齢を告げ、
それでもよろしいのですかと相手の気持ちを確かめた。
それでもありがたい、といわれると、
「わたくしは市長の妻です。よろこんでお相手するべき立場におります。
 でもやっぱり怖いわ。手加減なすってね」
と告げた。
「市長の妻」ときいて、吸血鬼はちょっとのあいだ逡巡した。
けれども理性や良識よりも喉の渇きの切実さがまさって、床に抑えつけた夫人の首すじを、もういちど喫(す)った。
京子夫人は観念したように薄い唇から白い歯をしっとりとのぞかせると、目を瞑り、相手の欲求に応じていった。

ひとしきり夫人の体から血を吸い取ると、吸血鬼はわずかに理性を取り戻した。
親友である市長の愛妻を床に押さえつけ、真っ白なスーツに埃をつけることにためらいを覚えた。
「よろしければあちらで」
と、彼は夫人に来客用のソファをすすめた。
しかし京子夫人は、
「ソファを汚しては主人に叱られます」
と固辞して、ジャケットだけを脱いで夫の安楽椅子の背もたれにかけると、
すでに血に濡れていたブラウスはそのままに、床にあお向けにされたままの姿勢で、男の吸血を受け容れた。

夫である市長が戻ってきたときには、京子夫人は夫の親友を相手に吸血行為を許しつづけて、
自身の体内をめぐる血液を賢明にも過不足なく提供し、来客の凶悪な喉の渇きを落ち着かせることに成功していた――


いきなり視界に飛び込んできた夫人の受難のシーンに、市長は驚愕した。
30年近く連れ添った愛妻だった。
それがよそ行きのスーツ姿をねじ伏せられ、
ブラウスに血潮を散らしながら吸血鬼に虐げられている姿を目の当たりにしたのだから、
おぞましさに慄(ふる)えあがったとしても無理はない。

けれども、夫の入来に気づいた夫人は夫を手で制すると、
「もっと早く、このかたの御意に随うべきでした」
とだけ、告げた。

彼は、きちんとした服装の婦人に目がなかった。
首すじに牙を突き立て、ブラウスを持ち主の血潮で染めて、衣装を辱めながら吸血し、
渇きが収まるとおもむろに犯すのがつねだった。
特に、スカートのすそから覗く脛を彩るパンティ・ストッキングは、彼らの好餌となった。
くまなく舐められ、したたかに唾液に濡らされ、舌触りを愉しまれ抜いた挙句、むざんに咬み破られてしまうのだった。

その日夫人は、ごく地味な肌色のストッキングを脚に通していた。
ふっくらとした柔らかそうな肉づきのふくらはぎを、薄地のナイロン生地が優雅ななまめかしさに彩っているのを見ると、
これが吸血鬼の慰みものにならぬはずはない――と、市長は観念した。
ところが吸血鬼は、「こちらのご婦人に恥を搔かせるわけにはいかない」と、己の気に入りの悪戯を愉しむ権利を放棄すると告げたのだ。
帰り道に夫の部下たちに、破れたストッキングの足許を盗み見られるのは、お恥ずかしいでしょうからな――と。

そのひと言が、夫人の態度を和らげた。

折しも、退庁時間を過ぎたころだった。
皆が退庁してしまうまで、わたくし貴方のお部屋で、このかたのお相手を務めさせていただきますね――と、夫人はいった。
吸血鬼は、度重なる市長の厚意に浴してから、彼に友情を感じるようになっていた。
市長は、長年連れ添った愛妻を、彼の友情にゆだねることにした・・・

「たまたま新しいのをおろしてきたの。恥を掻かずにすみましたわ――」
部屋に二人だけとなった相手が、自分の足許を辱めたいとウズウズしているのを間近に気配で察しながら、
京子夫人はこぎれいに装った足許をちらと見やると、そういった。
「どうぞ存分に愉しんでくださいね。この際お気遣いはご無用ですから――」
夫人の心遣いに吸血鬼は惑乱し、ドアの外で待っている市長に悪いと思いつつも、夫人の首すじをふたたび吸った。
彼女もまた、熟した血潮を舐め取られる歓びに、目ざめはじめていた――。

その日夫の執務室で、京子夫人は吸血鬼の望みを受け容れて、
パンティ・ストッキングを穿いたまま、上品に装った自分の下肢を不埒な愉しみに供してゆき、
片脚だけ穿いたストッキングに裂け目が走るのを見つめながらスカートの奥を手荒にまさぐられ、
夫以外のものを識らなかった無防備な股間に、剛(つよ)くそそり立った魔性の一物を沈み込まされていったのだった――


あとがき
優雅な年配婦人が、奥ゆかしく装った服をしどけなく乱されながら、堕ちてゆく――
たまりませんなあ。 ^^

歪められた統計

2022年07月24日(Sun) 22:13:16

柔らかな肌色のストッキングを脚に通して、
つま先にはカッチリと輝く、白のハイヒールに足の甲を反らせて、
コツコツという硬質な足音が、純白のタイトスカートのすそをさばいて、市長室を目指していく。

壬生川京子(56)は、市長の夫人。
そして壬生川市長はいま、畢生の問題に取り組んでいる最中だった。

「減っておりますのね」
低く透き通る響きの声に、市長は振り返りもせず、「ああ」とだけこたえた。
ふたりの視線の行く先には、針広げられた方眼紙のうえに赤い線でなぞられた、折れ線グラフ。
去年の秋をピークにダウントレンドに転じたその折れ線は、今や鎮静の一途をたどっている。
最悪期には、一日百件以上を記録した事案――
それは、吸血鬼に襲われた市民の数だった。


去年の夏が、初めてだった。
下校途中の女子高生が襲われて、瀕死の重傷にまで追い込まれた。
原因は、極度の貧血。
証言から、彼女が首すじを咬まれて、血液を経口的に、それもしたたかに吸い取られたことが判明した。
以来、勤め帰りのOLはもちろんのこと、家にあがりこんでうら若い主婦を狙うものまで現れるしまつだった。
招待されたことのない家には立ち入ることができない――という言い伝えはどうやら本当のようだったが、
彼らのなかには一般の市民も少なからず混じっていて、
そういう者たちが、顔見知りの人妻を目当てにする吸血鬼のため、手引きをしているのだった。

襲われるのは女性が主だったが、男性にも魔手は伸びた。
特に、いちど襲われた女性の夫や父親が、狙われた。
それ以来。男を襲われた一家から、同様の被害届が出されることはなくなった。
特定の女性がなん度も狙われるケースが目だったが、やがてそうした被害届も、出なくなった。


市長の知人の妻が吸血鬼に襲われ血を吸われ始めたのは、去年の秋のころだった。
有夫の婦人、あるいはセックス経験のある女性が襲われると、ほとんどの場合犯された。
ことのついで――ということなのかと、市長は訝ったが、
情報提供に応じてくれた被害者の夫は、どうやら本心から好意を持つらしい――と告げてくれた。
彼らは多くの場合、まっとうな結婚ができない。
けれども、かつては人間であり、暖かい血を体内にめぐらしていた過去を持つ彼らは、人並みに女を愛さずにはいられないのだった。

市民から提出される被害届は、この半年で目だって減っている。
体面や外聞を憚って被害届を取り下げる者もいたが、
もっと別な理由――自分を襲った吸血鬼、あるいは自分の妻や娘を襲った吸血鬼への好意や共感から、
被害届の提出を思いとどまるものが、少なからずいるという。
「自分の奥さんを犯されたのにかね?」
市長はさすがに顔をあげて、知人を見た。
エエそうなんです、と、知人はこたえ、
彼らは大概、犯した人妻のだんなも狙いますからね――と、意味深なことを告げた。

だいぶあとからわかったことだが、血を吸われたもの同士のあいだは、同じ運命をたどった人の首すじの咬み傷が見えるという。
知人は早い段階で咬まれ、妻同様生き血を吸い取られていた。
そして――血を吸われる快楽に目覚めたものたちは、だれもがくり返し吸われることを望み、
自分の妻や娘が生き血を餌食にされ、みすみす犯されてしまうのすら、許容するようになるのだった。


「減っているのは表向きだけだ」 市長がいった。
「わかっておりますわ」 京子夫人がこたえた。
「けれどもこれは、良い傾向なのだ」
市長は自分に言い聞かせるように、いった。

市長は街のあらゆる有力者たちとくり返し会合を持ち、ひとつの結論に達した。それが、去年の初冬のころだった。
知人夫妻を通して透けて見えた彼らの意図は、ごく穏便なものだった。
人の生き血が欲しい。
女のひとを抱きたい。
そうした欲求をさえかなえてくれるのであれば、必要以上に暴れることはない。まして人の生命も奪ったりしない。
それが、彼らの意向だった。
じじつ、いまのところ、吸血事件で命を落としたものはいない。
けれども彼らと対立を深め、吸血行為を弾圧すればきっと、望まざる犠牲者の出現も間近いはずだった。

市長は彼らとの間に、協定を締結した。
彼らの欲望を満たすことを妨げない代わりに、市民の安全を保証してほしい――と。

吸血鬼との協定を独断で結んだことには、激しい反撥がうまれた。
市長は女性の名誉を守らないのか――とまで、糾弾された。
吸血鬼の横行する街に、自分の妻や娘を歩かせたくないという人々が、多く街を捨てた――
いまでは街に残った大概のものが、自分自身や家族の血液を、彼らの渇きのために提供するようになっていた。

さいしょの被害者であった女子高生は、初めて自分を襲った吸血鬼に、純潔を与えたという。
つぎに咬まれた勤め帰りのOLは、自分を咬んだ相手に婚約者を紹介し、ふたりで吸血される歓びに目ざめると、
未来の夫が視ているまえで、小娘みたいにはしゃぎながら犯されていったという。

何よりも。
市長自身が、模範を示さなければならなかった。
彼には、京子夫人とふたりの娘がいた。
50代となっても美しく気品をたたえた京子夫人は、自身が狙われるのと引き換えに娘たちの安全を願ったが、
そうはいかないことはだれよりも自覚していたし、娘たちもまた、健気に母の意向に随っていった。

上の娘はすでに結婚していたが、里帰りする度に、夫には内証で吸血鬼の相手を務めた。
妹娘は通学している女学校の授業中に呼び出され、空き教室で男の味を覚え込まされた。
それでも市長の一家は以前と変わらず睦まじく、何事もないかのように暮らしている――


あとがき
ひどく説明的な文章に。。。 (^^ゞ
つづきは描くかもしれず、描かないかもしれず・・・ (笑)

肉づきたっぷりな脚が、まとうもの。

2022年07月22日(Fri) 00:34:20

「あのひとに、血を吸わせてあげるわね。あなた、妬きもちやくのはアウトだからねっ!」

彼女はそういって、セーラー服姿をひるがえして、ぼくに背を向けた。
そして、ひざ下丈のプリーツスカートをいさぎよくさばいて、大またで歩き去っていった。
濃紺のハイソックスをひざ下まで引き伸ばした、肉づきたっぷりなふくらはぎが、いつまでも目に灼(や)きついていた――

あのハイソックスを、惜しげもなく咬み破らせてしまうのか。
ぼくはしんそこ悔しかったし、彼女の履いているハイソックスを咬み破る権利を勝ち得た男を、しんそこ羨ましく感じていた。


それからどれだけ、刻が経ったことだろう?
「あのひとに献血してきますね。いまさら妬きもちなんか、妬かないでしょうけど・・・」
きみはそういって、よそ行きのスーツ姿を、あのときと同じように背けて、歩み去ってゆく。
えび茶のタイトスカートに狭められた窮屈な歩幅を、もの慣れたようにさばきながら、
奥ゆかしい足取りで、淫らな情事の待ち受ける邸へと、歩みを進めていった。
肌色のストッキングが張りつめたふくらはぎは太く、けれども薄地のナイロン生地のなまめかしさをいっぱいに張りつめさせていた。

あのストッキングを、惜しげもなく咬み破らせてしまうのか。
ぼくはしんそこ惜しいと思ったし、彼女のストッキングをいたぶる権利を勝ち得た男を、しんそこ妬ましく感じていた。

刻が経っても。
齢を重ねても。
変わらぬ想いが、そこにある。
けれどもぼくは、そのつど最愛の彼女を送り出し、
彼女はあの男の欲求を満足させるため、いつもの装いを目いっぱい引きたてて、
背すじを伸ばして、歩みを進める。

彼女が伏せるベッドのうえくり広げられるのは――まごうことなき不倫。
けれどもぼくは、彼女とあの男との営みに、苦情を言いたてるつもりはない。

むしろ思う。
彼女を想うさま、愛して欲しい。
彼を思うさま、抱きとめて欲しい。
ふたりの営みがぼくを裏切る、ぼくの家名を汚す行為だったとしても。
ぼくはふたりの愛の交歓に、心からの拍手を送るに違いない。


あとがき
濃紺のハイソックスに包まれた、健康な輝きに満ちた女子校生のピチピチとしたふくらはぎ。
薄手のストッキングに包まれた、大人の色香を漂わせた人妻の、むっちりと熟れたふくらはぎ。
いずれ劣らぬ脛であっても、齢を隔てれば同一人物の脚――そういうこと、きっとあるのでしょうね。^^

彼女のハイソックス 彼氏のハイソックス

2022年07月11日(Mon) 23:12:10

学校帰りのセーラー服の乙女たちが吸血鬼に襲われて、
ひとり、またひとりと噛まれて、地べたに膝を突いてゆくのを、この街ではだれも、止めようとはしない。
さいぜん品定めされながら血を吸い取られていった少女たちの親たちすらも、
娘たちがそのうら若い血で、吸血鬼の喉を悦ばせているのを、よしとしているようだった。

この街が、吸血鬼と共存を約してから、もう何年も経っている。
いまどき彼らのために、血を愉しまれたことが1度もない女など、たぶん一人もいないだろう。
どうしても妻や娘を穢されたくない。そう考える男たちは、とっくの昔に街から姿を消していた。
残った男たちはだれもが、生命の保証と引き替えに、
妻や娘や母親、それに自分自身の血液さえも、提供することを受け容れている。
妻や娘をかばうため――
夫や父親たちのなかには、自らの妻や娘の服を身にまとい、彼女たちの身代わりとなって血を吸われる者も少なからずいた。


瀬名田少年は、そうした家に育った少年たちの一人だった。
濃紺の半ズボンに、同じ色のハイソックス。
同学年の少女たちと似通った制服の着用が義務づけられていたので、
男子なのにハイソックスを履くことには、なんの抵抗も感じていなかった。

半ズボンから覗くピチピチと輝く彼らの太ももは、しばしば彼らの好餌となった。
「彼ら」は、男女わけ隔てなく、若い血液を求めていた――


学校帰りに立ち寄る公園の、片隅で。
同級生が3人、吸血鬼に迫られている。
おそろいの紺のハイソックスを履いたふくらはぎに、代わる代わる唇を吸いつけられて。
つぎつぎと顔色を蒼ざめさせて、その場に倒れ伏してゆく。
瀬名田少年はその日も、昼さがりの街なかでくり広げられるそんな光景を目にしていた。
いつもの光景・・・
そう見逃してしまうことができなかったのは。
その中の1人が、瀬名田少年の婚約者である波満子だったからだった。

波満子は真っ先に咬まれて、急速な失血に身もだえしながら、紺のハイソックスを咬み破られていった。
残る二人が互いの体温を確かめるかのように身を寄せ合って、それでも順ぐりに足許に唇を這わされて、
飢えた唇がまさぐるように蠢く下で、おそろいのハイソックスを咬み破られて、しなやかなナイロン生地に血を滴らせてゆくのだった。
同じ制服を着た少女たちが、まるで物まねでもしているかのように、
うり二つなしぐさで身を仰け反らせ、ふらつかせ、その場に倒れ伏してゆくのを、
少年はむしろ無感情に、見流している。
彼にとってはだれよりも、真っ先に倒れ伏して身じろぎひとつできなくなっている波満子の様子に、心を100%持っていかれているのだった。

獲物を3人モノにした吸血鬼は、そのうち2人を帰したあと、残るひとりを念入りにいたぶるという。
運わるく、その日残されたのは、ほかならぬ波満子だった。
遠目に注がれた、嫉妬に満ちた熱い視線を。
男は獣のような敏捷さで、察知していたに違いなかった。

ひざ下丈のプリーツスカートは、ユッサリと重く、ひだを豊かに拡げている。
女らしいしなやかさを帯びた下肢を遮る通学用の制服をまさぐりながら、
男はみるみる、波満子の太ももをあらわにしてゆく。

うふふふふふっ・・・

われに返った波満子が尻もちをついたまま後じさりをするのを、
狡猾な蛇のように地を這いながら追いつめて、
怯える足首を掴まえて、とざそうとするひざ小僧をおし拡げて、
これ見よがしに牙をむき出すと、濃紺の制服に包まれて白く映える太ももに、がぶりと食いついてゆく。
さっき彼女のクラスメイトを相手にみせた貪婪さをあらわにして、
キュウキュウ、グイグイと、波満子の血をむさぼり喰らう。
「あ・・・あ・・・あ・・・っ」
うろたえる波満子は再び訪れた急激な失血に目を眩ませて、
まっ白なセーラー服の夏服に泥を撥ねかせて、その場にうつ伏せに倒れ伏した。

ククク・・・
波満子の身体から引き抜いた血潮を牙から滴らせたまま、
男はむぞうさに、波満子の脚を引っ張りあげて、
さっき咬みついたのとは別の脚に、もの欲しげな唇を吸いつけていった・・・


視てるね・・・?
眠るように気絶した少女の、セーラー服の胸もとから顔をあげた吸血鬼は、
生垣の向こうからこちらを窺っている瀬名田少年に、透視するような鋭い視線を送った。
瀬名田少年がおずおずと顔を出すと、彼はいった。
「素直でよろしい」

「もっと視たいのじゃろ?こちらに来るがよい」
吸血鬼は、少年が波満子の許婚であることを知っていた。
「わしが憎いか?」
吸血鬼の問いに、少年はかぶりを振った。
そのしぐさはどうやら本気らしいと、吸血鬼はおもった。
「この娘を気の毒に思うのか?」
それも違う、と、少年はやはり、かぶりを振った。
そう。波満子は嫌がってはいない。
むしろさいしょのひと噛みは、狙われたふくらはぎを自分のほうから差し伸べていた。
「この子のしたことを、お前に対する裏切りと思うのか」
それもやはり違う。少年はまたも、かぶりを振った。
好ぅく、心得ているようじゃな・・・
吸血鬼は、初めて目を細めて、少年に向けた視線を和らげた。

忌まわしいんです。
若い血潮を、身体じゅうから舐め尽くされてしまうだなんて。
でも、貴男がたがぼくたちの血を欲しがっているのも、わかるんです。
だって吸血鬼なんですから。人の血を吸って生きているんでしょう?
いっしょに暮さなければならないとしたら、ぼくたちはやはり、貴男がたに血を提供する必要があるんです。
波満子さんもそう思っているし、ぼくもわかっているんです。
だから――波満子さんはぼくの希望を入れて、ご自身の血で貴男を愉しませているし・・・
ぼくもやっぱり、それを熱望しているんです。
変だと思われますよね?
ほんとうは、人間は吸血鬼と、闘わなければおかしいですよね?

吸血鬼は、少年の背中に腕をまわした。
少年は、拒まなかった。
「きみの脚も、見映えがよろしいね」
「そう思ってくだすって、嬉しいかもしれないです・・・」
「わしに襲われて生き血を吸われる乙女の気持ちが、少しはわかるかの?」
「ハイ、わかります・・・」
「乙女は未来の花婿を裏切ってでも、己の若い血潮を吸わせたがるのじゃ。
 この街の花婿たちは、花嫁が吸血鬼を受け容れるのを、許容しなければならぬ」
「ぼくは、あなたを許容します――」
「許容するだけかの?」
「いいえ・・・」
その・・・その・・・と、少年は言いよどんだ。
自分はいったい、何を言おうとしているのだろう。
男としての誇りを忘れ、伴侶を守る義務を放棄して・・・
瀬名田家の跡取り息子は、家の名誉を穢すような振る舞いを、吸血鬼に許してしまってよいのだろうか?
けれども、少年の理性を支えようとする潔癖さは、すぐに崩れ果ててゆく。
まるで紅茶の中に放り込まれた、角砂糖のように、たあいもなく――

若い女の血を差し上げたくて――
父さんはそういって、母さんを親しい吸血鬼の邸に伴った。
母さんはその晩ひと晩、家に戻ってくることはなかった。
その後も母さんが、父さんに隠れてお邸を訪問しつづけて、
瀬名田夫人としての誇りを放棄するようになったのは、
夫が最愛の妻の貞操を気前よく恵んだ相手だからだったはず。

ぼくは・・・ぼくは・・・
ためらいもなく、父さんの歩いた道を踏み出してみる。
差し伸べた脚から、ひざ下までぴっちりと引き伸ばされた濃紺のハイソックスを、みるもむざんに噛み剥がれてゆきながら。
少年はいつか、恍惚とした笑みを漏らしていた。
失血からさめて、もういちど起きあがった恋人が、セーラー服に着いた泥を気にも留めずに、
おそろいのハイソックスをいたぶられ若い血を啜られる未来の花婿に賞讃のまなざしをそそぐのを。
彼は気恥ずかしく、けれど誇らしく受け止めて。
彼女の花婿をも恋人として篭絡した吸血鬼は、くすぐったそうに受け流すのだった。


あとがき
セーラー服の少女たちが、通学用のハイソックスを他愛もなく咬み破られながら、生き血を愉しまれてゆくのを。
親たちは、そして少女の彼氏たちは、どんな気分で盗み見るのでしょうか?
あり得ない設定であるとはおもうのですが。
この少年のように、そしてこの街の親たちのように、
恋人や娘が吸血鬼との逢瀬を遂げて、処女の生き血への渇望を成就させてしまうのを、
気恥ずかしく誇らしく見守ることも、時にはあるのではないでしょうか・・・

三人(みたり)の乙女を嚙む男

2022年07月11日(Mon) 22:13:40

お揃いのセーラー服の肩を並べて、少女が三人こちらへと歩み寄ってくる。
ゆらゆらと揺れる濃紺のプリーツスカートのすそから、白い脛、小麦色の太ももを覗かせて、
彼女たちは道行く人の目を、眩しく射止めていた。
発育の良い三対の脚たちは、すらりとした脚、太っちょな脚――
さまざまな輪郭を、紺のハイソックスに包んでいる。

「小父さん、来たよ♪」
いちばん背の高い子が、公園の隅のベンチにうずくまるように腰かけた、影のような男に声をかけた。
彼女の胸もとには、学級委員の徽章が、誇らしげに輝いている。
影はぬらりと起ちあがると、紺のハイソックスの脚たちを目にして、ほくそ笑んだ。
痩せぎすでみすぼらしく、こけた頬と枯れ木のような肌の色の持ち主は、
ゆらり、ゆらりとよろめきながら、少女たちのほうへと近寄ってゆく。

「もう、やだなぁ。また脚を狙うのね?」
クラス委員の波満子は、三つ編みのおさげを照れくさそうに肩先に揺らしながら、
それでも足許にかがみ込んでくる男の唇を、妨げようとはしなかった。
男は臆面もなく、紺のハイソックスのふくらはぎに、唇を吸いつけた。
クチュッ・・・と、唾液のはぜる音が、ひそかかに洩れた。
「あ・・・あ・・・」
波満子は遠くを見つめながら、みるみるうちに目の焦点を曇らせてゆく。

第一の少女がくたりとくず折れると、男は顔をあげて、残る二人の少女を見た。
二人は「女史」と呼ばれたクラス委員がみるみるうちに目をまわしてしまうのを息をのんで見守るばかり。
男の口許に、波満子の血が滲んでしたたるのを認めると、
ちょっとだけ怯えた顔つきになって、お互いの身を寄り添い合わせた。
「さあ、つぎは早苗かな?それともかの子の番かの?」
男はたっぷりと獲た生娘の血潮を嬉し気に舐め取ると、
舌なめずりをして、二人のほうへと這い寄った。

ちび助の早苗は、おかっぱ頭の下に伸びた秀でた眉をしかめながらも、
「じゃあ次はあたしかな」と、自分から紺のハイソックスの脚を差し伸べた。
「きょうのやつはちょっと寸足らずだね。ゴメンね~」
と笑うのは。
男がひざ下ぴっちりに引き伸ばした長めのハイソックスを露骨に好んでいるのを揶揄したかったから。
男は「どれどれ」と、早苗の足許ににじり寄ると、
脛の半ばまでしか覆っていないハイソックスを、ちょっとだけ引き伸ばすしぐさをした。
男の悪戯心を敏感に察した早苗は、きゃあきゃあはしゃいで飛びのいた。
寸足らずなハイソックスの口ゴムのすこし上のあたりの、いちばん肉づきのよいふくらはぎに唇を這わせると、
吸血鬼はその唇を、強く吸いつけた。
「アッ、もう!」
さいしょに咬まれた波満子が、男の好みに合わせて脚に通した長めのハイソックスを血で濡らしたままうつ伏している傍らで、
早苗は小柄な体躯を仰け反らせながら、むき出しのふくらはぎから血潮を啜り取られてゆく。
男の口許から洩れた血潮が、ハイソックスの口ゴムを濡らすのを感じると、
早苗は「やったわねえ」と呟いて、男を白い目で睨(ね)めおろした。
ハイソックスを血で汚されまいとした彼女の意図は、彼の痴情を妨げることができなかった。

早苗が失血のあまり尻もちをついてしまうと、一人残ったかの子は、
「もぅ、いつもあたしが最後なんだからあ」と、鼻を鳴らした。
それは不平を鳴らすようでもあったが、同時に得意そうでもあった。
太っちょなかの子のふくらはぎは、吸血鬼の大好物だった。
なによりも。
だれよりもふんだんに血液を供給できる大きな身体を気に入っていたのだ。

わざと身を背けて逃げようとしたかの子を、吸血鬼は後ろから羽交い絞めにして、肉づきの豊かなうなじにガブリと食いついた、。
ピチピチとした小麦色の皮膚が鋭い牙に切り裂かれて、
ドクドクとあふれ出る血潮が男の口許からこぼれて、ぼとぼとと地面を打った。
「あ・・・もったいない飲み方しないで!」
少女は声をあげて抗議した。
吸血されることじたいは、拒まないという態度だった。
男は背後から腕をまわして、セーラー不育の胸もとを引き締める紺色のリボンを揉みくちゃにしながら、
かの子の血を飲み耽った。
自分の体内をめぐる血潮がゴクゴクと男の喉を鳴らすのを、かの子はうっとりと聞き惚れていた――

ふたりの少女の後ろ姿が、セーラー服の襟首を並べて、公園の出口を目指している。
きょうの「ご指名」は、さいしょに餌食となった波満子らしい。
「おうちに帰るまえに――悪りぃがもう少し、楽しませてもらうぞ」
男はにんまりと笑った。
波満子もまた、白い歯をイタズラっぽく覗かせて、笑っていた。

夫婦の夜。

2022年07月11日(Mon) 01:54:43

目のまえで。
妻のかおりが、吸血鬼に抱きすくめられている。
見なれたベーズリー柄のワンピースが皺くちゃになるほど強く力を込めて、
男はかおりのことを放すまいぞといわんばかりに、
ゆるいカーブを帯びたかおりの上半身を、ヒシと掻き抱いている。
彼の腕は枯れ木のように細く、かおりの肩先に喰い込ませた指も、ごつごつと節くれだっていたが、
強い執着がありありと、滲んでいた。

月の光を浴びたふたつの影が寄り添う様子は、あたかも熱愛する恋人同士のようであったけれど、
やつの目当ては、かおりの生き血――
ふつうの恋人同士ではない証しに、
かおrの着ているワンピースの襟首には、持ち主の身体からほとび出た血のりが滲んでいた。
夜目にも白い首すじに牙を突き立てて、
やつはかおりの身に秘められた、24歳の若い血潮に酔い痴れているのだ。

ごく、ごく・・・ぐびっ。
かおりの血を飲み耽る生々しい喉鳴りが、わたしの鼓膜を苛んだ。
まるでレイプでもしているような、荒々しい飲みっぷりだった。
かおりを死なせることはしない。血を吸い尽くしてしまうことは絶対にない。
そうした確信がなければ、わたしは恐怖のどん底に落ちてしまっていただろう。
彼はかおりを、愛してしまっている。
わたしもそれを、認めてしまっている・・・


初めて夫婦ながら襲われたとき。
わたしはかおりを庇って、わたしの血を吸い尽くして良いから、妻には手を出さないでくれと願っていた。
けれども彼は、すでにかおりへの恋情に目がくらんでいて、
わたしの血を吸い尽くすと、飲み終えた空瓶のように放り出し、
それから言葉を失い立ちすくむかおりに、迫っていった。
かおりは立ちすくんだまま、夫の仇敵に求められるままに、うら若い血潮を提供しつづけていった・・・
やつのかおりに情熱はほんものだったのだと、いやというほど思い知らされていた。

恐怖に身もだえするうら若い肢体から、若い血液をしたたかに抜き取ってしまうと、
かおりももはや、わたし一人のかおりではいられなくなっていた。
生き血を吸った人妻は必ず犯す――それが彼らの習性だった。
その日から、かおりはやつの”女”になった。

やつの”女”となりながらも、かおりはわたしの生命を救うことを忘れなかった。
かおりの必死の願いを、やつはあっさりと聞き届けた。
わたしのことを憐れんで――ではなかったと思う。
たんに夫のいる人妻を、征服したかったからに違いなかった。
わたしがやつの性悪なたくらみを許したのは・・・
お前の前でかおりを犯す愉しみを尽くしてみたい。お前にも、妻を犯される歓びを植えつけてやりたい という、
正直に願われて、断り切れなくなってしまったからだ。
わたしの体内に戻されて、ふたたび脈打つようになった、28歳の健全なるべき血潮は、
やつから伝染(うつ)された毒に、穢され抜かれてしまっていた・・・

今夜もまた、やつはさいしょの夜と同じように、かおりを抱いて血を啖(くら)っている。
汚らしい音を立てて、がつがつと。
かおりもまた、彼の腕のなか・・・うら若い肢体に秘めた血潮を、求められるままふんだんに、口に含ませてしまっている。


あとがき
なんとなく、内容のない叙景詩になってしまったような・・・ (^^ゞ

同級生の訪問。

2022年07月03日(Sun) 23:25:36

同級生のカオリさんが、ぼくの血を吸いに来た。
お兄さんのヨシトさんも、いっしょだった。
ヨシトさんは、母さんの生き血が目当てだった。
なので、半ズボンからむき出しにしたぼくの太ももをちょっとだけ咬むと、
すぐ家の奥へと入っていった。
けれどもぼくは、ちょっと咬まれたあの痛痒さにうっとりとなって、
その場にへなへなと尻もちをついてしまっていた。
両親の寝室のほうから、キャーという叫び声があがるころ、
ぼくはカオリさんに首すじを咬まれて、ほんとうにうっとりとなってしまっていた。

カオリさんの牙はぼくの首すじに食い込んで、
ヒルのように吸いついた唇が、獣じみたどん欲さで、ぼくの血を啜り取る。
けれども――
息せき切ったカオリさんの振舞いがぼくのことを圧倒して、
生命を脅かされているという恐怖さえ、忘れ果ててしまうのだ。
チュウチュウ、ごくりん・・・と、ぼくの血が彼女の喉を鳴らすのに聞き入りながら、
ヨシトさんが母さんを手なずけてゆくのを、やはり耳の奥で聞き取ってしまうのだった。

この街は、吸血鬼であふれている。
たとえば、仲良し三人組の女子のうち一人が咬まれると、
残りの二人は血管を空っぽにした親友のため、強制的に献血に応じる羽目になった。
とある球技部は、キャプテンが咬まれてしまうと、伝染(うつ)りが速かった。
上下関係が密だったから、後輩たちが先輩のため、次々と咬まれていった。
校内で行われる紅白試合では、
出場した全員が、おそろいのひざ丈のストッキングのふくらはぎに、赤黒いシミを滲ませている――なんてことさえ、起きるのだった。

先生たちはこういうとき、いつもなんの助けにもならなかった。
自分たちの教育現場には、掲げられた理想と寸分の狂いもないのだと思い込みたいらしくって、
クラスの親睦とか、年長者へに示すべき敬意とかを、ただ虚ろに説教するだけだった。

母さんはいまごろ、スカートをたくし上げられて、ヨシトさんに姦られちゃっているころだろう。
いつも上品に脚にまとっている、あの肌色のストッキングも、
むざんに破かれて、片脚にだけ通したまま、手荒い愛撫に揉みくちゃにされてしまっているのだろうか。

ぼくもカオリさんに組み敷かれて、
カオリさんはぼくの上に馬乗りになって、
制服の濃紺のプリーツスカートをユサユサさせながら、
ぼくとひとつになっている。

カオリさんは、自分のお兄さんに処女を捧げていた。
家族のなかで、まっ先に咬まれたヨシトさんは、自分を咬んだ吸血鬼を家のなかにひき込んで、
年頃の少女とその母親を襲うチャンスをプレゼントして、
首尾よくお母さんを愛人にした吸血鬼はお礼返しに、
カオリさんを真っ先に犯す権利を与えていた。

近い将来、カオリさんは、ぼくのお嫁さんになる。
けれどもきっと、ぼくは自分の花嫁に、お兄さんとの逢瀬を、許してしまうに違いない。

こういう夜、父さんの帰りは遅い。
きっといまごろ、カオリさんのお父さんと二人で、
留守宅で妻を支配されているのを苦笑いで受け流しながら、
一献酌み交わしているころなのだろうか。


あとがき
これも、蔵出しのお話です。^^;

吸血鬼の共存を受け容れた社会では、きっとこういうことが横行するんでしょうね。
わたしも、吸血鬼になりたい・・・ (笑)

挑戦者とチャンピオン ――八百長試合の裏で。――

2022年07月03日(Sun) 23:06:15

黒ちゃんの相手だけはねぇ・・・
そんなことが、声をひそめて交わされていた時代があった。
まだ彼らのことを、身近に目にする機会のないころだった。

チャンピオンシップのかかった前夜。
バット・ヴァンパイヤと名乗る挑戦者のの黒人選手は、女を欲しがった。
対戦相手は、白人選手のベリーハード・ショウ。
彼も女を欲しがった。
八百長試合に応じるための見返りだから、正当な権利というわけだ。
マネージャーはどうしても断り切れなくて、わたしの妻と母とを差し出すことにした。
彼の婚約者は別のクラスのチャンピオンに寝取らせてしまっていたので、
身内の女というと、ジムの共同経営者であるわたしの身内の女ふたりしかいなかったのだ。

母が白人選手の、妻は黒人選手の相手をすることになった。
場所を選ばない無法者だったので、
わたしの家がそのまま、濡れ場になった。
ひとつ部屋で、明日の対戦相手は、わたしの妻と母とをひと晩じゅう、愛し抜いたのだ。

母はあとになって、言ったものだ。
わたしが美紀さんの代わりに、黒ちゃんの相手をしようと思ったけど。
どうやらそうじゃなくて、よかったみたい。
――たしかにそうだったと、あとになって実感した。

逞しい褐色の臀部が、なん度となく、妻の細腰に迫っていった。
そのたびに妻の着ているよそ行きのワンピースのすそが、激しく揺れた。
黒髪をユサユサと揺らしながら、薄い唇にほろ苦いものを滲ませて、それでもグッと、歯を食いしばっていた。
ひとつ家のなか、妻の痴態を目にすることを強いられたわたしもやはり、密かに歯を食いしばっていた。
そんな妻やわたしの気持ちなど知らぬげに、
ヤマトナデシコ、オオ、イトオシイ・・・などと口走って、
褐色の鍛え抜かれた筋力を備えたけだものは、
几帳面に整えた黒髪がくしゃくしゃになるほど、指を挿し入れ揉みくちゃにしてゆく。
妻の自慢の髪の毛に加えられる凌辱は、犯される股間と同じくらい、わたしの目に灼(や)きついた。

傍らの母は、白人相手に身もだえしていた。
望まれて装った着物の襟をはだけられて、あらわになった胸を、どん欲に吸われていた。
奥ゆかしい和装の美女をねだったチャンピオンは、自分のリクエストがかなえられたことに目を輝かして、
夫以外の男性は初めてだという母を、有無を言わさず組み敷いていった。
ほどかれた紅い帯が、紅葉の流れる河のようにつづら折れになって、
白熱した惨劇を、いっそう惨酷なものにしていた。

弱々しくためらった抵抗は、なんなくねじ伏せられて、
母は自分の息子ほどの白人選手を、
妻は同年代の黒人選手の相手となって、
彼らを前にするといっそうか細く見える肢体を、秀でたしなやかな筋肉に制圧されて、
逞しい腰のどん欲な上下動に、貞操をむしり取られていった。

ひとしきり性欲処理を済ませると、ベリーハード・ショウはそそくさと服を着て、
礼も言わずに立ち去っていった。
そのいっぽうで。
挑戦者である褐色のコウモリ、バット・ヴァンパイヤは、
飽きもせずに、自分と同年代の妻を相手に、挑みかかっていった。

褐色の逞しい臀部は、飽きもせずに、上下動をくり返す。
ふとしたはずみに目に入った彼の陰茎は非常に太く、
あんなものを受け容れさせて妻が壊れてしまうのではないかと、わたしは本気で懼(おそ)れた。
けれどもはっきりしているのは、バット・ヴァンパイヤはわたしの妻を、しんそこ気に入っているということだった。
躍動する筋肉が、汗をぎっしり浮かべた褐色の皮膚が、獣のように荒々しく真摯な息づかいが、
それらすべてが、歓びに満ちていた。
地味なねずみ色のワンピースのすそに、白く濁った粘液を光らせながら、
妻は絶えず足摺りをくり返し、その都度都度に、身体の奥底までも、淫らな体液で浸されていくのだった。
ただただ、自分の倍はあろうかと思える獣に挑まれることに、うろたえながら。
地味な肌色のストッキングはむしり取られ引き破かれて、ひざ下まで弛んでずり落ちて、
ふしだらな引きつれに、皴寄せられていった。


一週間後。
ジムの裏部屋の扉が細めに半開きになった向こうから、
わたしは一対の男女を覗き見ていた。
どうしても見たいのなら教えてやるよと、マネージャーが配慮してくれたのだ。
でも邪魔をしたら、ワンパンチだからな、と、わたしに忠告するのも忘れなかった。
新たなチャンピオンであるバット・ヴァンパイヤが顔を合わせているのは、わたしの妻だった。

妻は今朝、友人に会いに出かけてゆく――といって、家を出たはずだった。
けれどもその刻限は、マネージャーが教えてくれた、新しいチャンプと日本女性とが密会をする時間と一致していた。
まさか・・・と思いつつも、わたしはマネージャーに頼み込んで、ジムのなかに入れてもらったのだ。

「チャンピオン獲得、おめでとうございます」
妻は表情を消して、棒読み口調でそう告げた。
「お祝いをくれるのかな?ミセス・エンドー」
それくらいの日本語は、操れるようだった。
応えの代わり、彼女はブラウスの胸もとの釦に手をやって、釦を二つ三つはずしていた。
「ナイス・アンサー」
チャンプは嬉しげに白い歯をみせ、妻もためらいながら愛想笑いを泛べた。
瞬間、妻の華奢な身体に、黒人の巨体が覆いかぶさった。
丸太ん棒のような褐色の逞しい腕のなか、妻は苦しげに身もだえをする。
けれどもチャンプはお構いなしに、薄い唇をこじ開けるようにして、キスをくり返し、重ねていった。

地味な無地の紺のスカートを腰までたくし上げられて、ねずみ色のストッキングは片方だけ脱がされていた。
妻がねずみ色のストッキングを穿いているのを、わたしは見たことがない。
肌色のストッキングしか脚に通したことのない彼女にとって、きょうはなにかが特別だったのだ。
片方だけ穿いたストッキングも、ひざ小僧の下までずり落ちて、ふしだらに弛み、くしゃくしゃに波打っている。
妻が堕ちたということを、乱れた着衣がむざんなまでにあからさまに、教えてくれていた。
夫の目を盗んで黒人男性と情交を遂げる妻のようすを、
わたしはただ棒立ちになって、見守りつづけていた。


「ユーのワイフはじつにナイスだ」
バット・ヴァンパイヤは、わたしに言った。
妻はとうとうわたしに気づくことなく、立ち去ったあとだった。
「チャンピオンになったのも嬉しいが、淑やかなジャパニーズレディをモノにできたのは更に嬉しい」
不思議と怒りは、湧いてこなかった。
この黒人選手は、ひとの妻を相手に性欲処理にしながらも、
ともかくも妻を愛し、時には庇い、時には虐げて、
理性を突き崩された妻は、めくるめく痴情に堕ちていった。
そのことは、同じ男として、認めない訳にはいかなかった。

「さいしょは強引にいただいた。
 でもリピートするのは奥さん次第だ。
 ユーのワイフは賢い女だ。
 だんなを傷つけまいとしながらも、自分もしっかり愉しんでいった。
 ワイフを怒っちゃだめだぜ。
 あれは賢い女だ」
チャンプはしきりと、わたしの妻をほめた――どうやら本音らしかった。

「時おり来日する。そのときは、ユーのワイフをまた、抱かせてくれ」
Yes,sir・・・
強制された答えのはずなのに、真実味を籠めてしまっている。
差し出された掌を握りしめると、ぐっと力を籠めてきた。
もちろん、わたしの掌が壊れないよ う、加減をして。
「ユーのワイフを、完全に奪うことはしない、約束しよう」
妻を穢した男は白い歯をみせて、意味ありげにウィンクをした。

おなじ日。
未亡人である母のことを、かつてのチャンピオンが呼び出して、日本の淑女の木尾の姿を日がな一日愉しんだことを、
マネージャーはそっと、教えてくれた。
彼の妻はけっきょく、長いこと情夫であった別のクラスのチャンピオンからのプロポーズを受け容れて、
遠い国へと旅立つ決意を固めたのだと、なぜか清々しい顔をして、いっしょに教えてくれた。


世界的なタイトルマッチとは無縁の、地下の各闘技場――
白熱した八百長試合に目を輝かせた青年たちが、きょうもひきもきらず、ジムへと押し寄せている。
商売繁盛は、まちがいなしだった。
妻が密会するときの洋服代をかせぐため。わたしは仕事に精を出す。
黒いチャンプの餌食になって、悶えるための装いを――


あとがき
おひさしぶりです。^^;
ずっと興が乗らずに、ブログを放り出していました。^^;
このお話――すでにだいぶまえに書いたのですが、なんとなくあっぷしそびれていたんですね。
少しだけ直して、あっぷしてみた次第です。

鬼畜な話は嫌いなのですが、これはその一歩手前。
強いられていたはずの関係なのに、奥さんがご主人にうそをついてまで、自発的に出かけていった――というくだりがツボなのでした。