淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
人妻宅配俱楽部 ――母・弘美の場合――
2022年08月28日(Sun) 22:32:23
第五話 凄絶たる相聞歌
母は知っているのか・・・?
つぎに自分を犯す男が、実の息子だということを・・・
思わず発した真剣な問いに、頭は苦笑しながらかぶりを振った。
だから美味しいんじゃねぇか。
頭の囁きは、俺の鼓膜を毒液に浸した。
相手になる女とは前もって、希望を伝えあうんだ。
どんなセックスを望むのか。
どんな服装で来て欲しいのか。
場所はどこにするのか――いっさいを、あらかじめ決めておくんだ。
やり方はいろいろあるんだが、あんたは若いから、ネット使うよな。だったら、チャットが良いかな。
弘美にも、ネットの使い方は覚えさせた。ちゃんと対応できるはずだ。時間はきょうの午後3時。
勤めは早引けせにゃならんが、そこはだいじょうぶ。支局長から許可を取っておいてやったぞ。
頭は得意げに、わらった。
俺の公私を、大手搦め手両方から抑えている――そう言わんばかりの態度だったが、
いつものように、不快な翳が胸を刺すことはまったくなかった。
早めの帰宅が怖ろしい情景を目の当たりにさせる――そんな記憶がよぎったが、
2時半に帰宅すると、家にはだれもいなかった。
志乃は宅配倶楽部のお勤めにでも、出ているのだろうか?
情事の待ち受ける外出のため、志乃が人目を忍ぶようにして家を出る情景を目にすることができなかったのが、ちょっぴり残念だった。
俺は俺で、志乃の不倫を夫の側から愉しみはじめるようになってしまっていた。
パソコンを立ち上げると、メールが届いていた。
指定されたURLにアクセスすると、そこがチャットルームだった。
なんのことはない、だれもがふつうに使用している、有名なサイトだった。
先に部屋を作っておくようにと、頭に指示されていた。名前もメッセも、もちろん指定されていた。
「隆 業務のことで □沢〇美様」
というのが、指定された名前とメッセージだった。
女性が先に部屋を作ると、邪魔者が入ってくる危険があった。
なので、先に部屋を作るのは、男の役目だった。
□沢〇美――伏字にするとずいぶんな名前だった。
じっさいには冒頭の□はフェイクで、俺の苗字は沢といった。
母は本名ではなく、奈緒美という名前で入室してくることになっている。
しばらく刻が流れた。
3時02分。
奈緒美(56)さんがチャットルームに入りました。
なんの前触れもなく、そんなメッセが流れた。
母だ。
このPCの向こう側、母の弘美が、薄紅色のマニキュアを刷いた指を、キーボードのうえをなめらかに滑らせている――
ぞくり、と、なにか黒いものが、俺の胸の奥でかま首をもたげた。
隆 こんにちは、初めまして
奈緒美 こんにちは
奈緒美 よろしくお願いします。
母の弘美らしい感じはあまり窺えないが、そのぶんだれか別の女と会話をしているような錯覚が、俺を大胆にさせた。
隆 俺があなたになにをして欲しがってるか、きいていますね?
奈緒美 はい・・・
隆 では、俺があなたになにをしたがっているか当ててみてください。
奈緒美 セックス ですよね?
隆 そうです。
奈緒美 ・・・。
まだ母はチャットに慣れていないのか。あるいは、宅配倶楽部の活動そのものの経験が浅いのだろうか。
俺は想像力をフル回転させて、チャットをつづけた。
隆 あなたは男に抱かれたいんだよね?
奈緒美 はい・・・
隆 だんなに隠れてそんなことをして、恥ずかしくないの?
奈緒美 恥ずかしいです・・・
隆 それでも、男に犯されたいんだよな?恥を忘れて。
奈緒美 はい・・・
隆 じゃあ、自分から言ってみろ。あんたは俺に、どうしてほしいのか?
奈緒美 抱いてください。
隆 もっと露骨に言えないの?犯して欲しいんだよな?
奈緒美 はい・・・犯してください・・・
隆 だんなを裏切っても、恥ずかしくないのか?
奈緒美 恥ずかしく・・・ないです。
隆 淫乱なんだな。
奈緒美 はい、淫乱なんです。
奈緒美 淫乱な女に、させられてしまいました・・・
隆 させられたって、どういうこと?
さいしょは俺がにぎっていた会話の主導権が、じょじょに奈緒美の側に移りはじめていた
奈緒美 甥の結婚式の日のことでした。
隆 うん
奈緒美 わたくしは、黒留袖(結婚式で着る着物のことです)を着てお式に出たのですが、てっきりホテルの人だと思ったんです。
隆 うん
奈緒美 ご親族の方はこちらにどうぞ・・・と言われて、客室に連れ込まれたんです。
隆 相手はなん人?
奈緒美 3人でした・・・
3人。またしても、あの3人なのか・・・?
志乃に覆いかぶさったあの逞しい年配男の肉体が、母の弘美の黒留袖姿までもねじ伏せていったのか・・・
俺は股間が堅くなるのを感じはじめていた。
奈緒美 声を立てたら殺すといわれて、わたくしすっかりすくんでしまって・・・
隆 ベッドに抑えつけられたんだな
奈緒美 はい
隆 どんな気分だった?
奈緒美 怖かったです。主人以外の方とそうしたことをしたことが無かったので・・・
ここで俺は、母の潔白な過去を初めて知った。
知ったところで今さら、空手形のようなものではあったけれど、
それでもやはり、幼い俺を育てた母には、誇り高い婦人でいてほしかった。
その想いから顔をそむけるようにして、俺はつづけた。
隆 ほんとうは、男にモテたくてたまらなかったんじゃないのか?
奈緒美 そんなことないです。でも・・・
隆 でも?
奈緒美 黒留袖の帯を解かれて、下着を脱がされてしまうと、ああもういけないと思いました。
隆 男に抱かれる気になったんだな?
奈緒美 そんな・・・
隆 感じたんだろ?ダンナ以外の持ち物に。
奈緒美 感じてしまったのは、3人の方にそれぞれ1回ずつ犯されてしまってから・・・
隆 やっと白状したな
奈緒美 もうどうなってもいいと思って、ベッドのうえで女になってしまったんです。
隆 ダンナのことも、家の名誉も恥も、ぜんぶ忘れてたんだな
奈緒美 恥を忘れたのは、主人のほうからなんです
隆 というと・・・?
奈緒美 主人は悪魔です。息子のお見合い相手を次々と犯して、娘までも狙ったんです。
え?
俺はびっくりした。
妹の華奈美が、親父に抱かれただと?
華奈美は俺より四歳年下の妹で、この春に志乃の同僚の教師と結婚したばかりだった。
野々村というその若い教師は、俺の新居に遊びに来た新郎新婦の若い友人たちの一人で、
やはり新居にやって来た妹と意気投合して、話がトントン拍子に進んだ・・・はずだった。
隆 娘さんは、ダンナに抱かれたの?実の父娘で?
奈緒美 はい、結婚前に関係を持って、いまでも続いているんです・・・
隆 息子の見合い相手も姦られたんだな?
奈緒美 ハイ、お見合い相手のなかで気に入ったお嬢さんを、わたくしが知っているだけで4人・・・
隆 息子との縁談はどうなった
奈緒美 主人がお嬢さんに言って、断らせていました。
隆 とすると、ダンナは息子の嫁の処女を奪うつもりはなかったということだな?
奈緒美 はい、でも・・・
隆 まだ何かあるのか?
奈緒美 主人は息子の嫁も狙っています・・・
最低だな。言いかけてやめた。
さいしょは俺が、一方的に妻の志乃を奴隷に堕とされて、被害者だった。
ところがそのあと、志乃を寝取った男たちと和解して、彼らの運営する若妻宅配倶楽部に妻を差し出し、俺自身も対価を得るようになろうとしている――
だから、だれもかれもが、同じ穴のむじななのだ。
第六話 邂逅
奈緒美、いや弘美とは、金曜の午後2時に逢う約束をした。
場所は駅前のホテルだった。
大胆すぎやしないか――とおもったが、頭がオファーしたのはそこで、どうやら絶対命令のようだった。
何食わぬ顔で勤めに出てゆく俺に、志乃はいった。
今夜は遅くなりますの。あなた、どこかでご飯食べていらして――
『若妻宅配倶楽部』のお勤めをするときの、決まり文句だった。
妻に裏切られ、家の名誉を汚すことが、もはや日常になっていた。
俺はわかったとだけこたえて、志乃に背を向けた。
志乃の足許は、真新しい薄茶のストッキングに染まっていた。
ロビーに入ると、フロントの係の者が俺をみとめ、黙ってキーを差し出した。
べっ甲製のバーに銀色の鎖に結わえられたキーが、静かな輝きを帯びていた。
白い字で、206号室と書かれてあった。
階段のありかがわからなかったので、エレベーターで2階に着いた。
部屋の前に、頭が待っていた。
「女は来ている」とだけ、小声でいった。
あとはうまくやれ――そう言いたげに、片目をつぶって笑った。
俺はぶあいそにあごで会釈すると、おもむろにキーを取り出して、206号室のドアを開いた。
目を見開いて凍りついた女が、そこにいた。
かつては俺が母と敬い、諭され叱られた女(ひと)――
けれども今は、志乃同様、ただの淫売婦になり下がった女(おんな)――
「まさか・・・まさか・・・」
母は、いや弘美は、肩をわななかせてうろたえた。
「隆さん、隆さん・・って、まさか薫のことだったの?」
「そうだよ、母さん・・・いや弘美さん、ずいぶんと得手勝手なことを覚え込んでしまったんですね」
俺は母を責めることに、小気味よさを覚えていた。
甥の婚礼のさ中、黒留袖姿をいたぶられながら、3人の男に征服されたこと。
息子の見合い相手が次々と、父の毒牙にかかっていったこと。
なによりも、娘の華奈美が父の性欲に屈して、結婚後もそのおぞましい関係を続けていること。
目の前の男に、何もかもしゃべってしまった――
もはや取り返しがつかないことを、弘美は自覚しきっているようだった。
「でも、あなたとは交わることができません」
弘美はキュッと唇を引き締めて、いった。
「いくら何でも、母親と息子で、そんなこと――」
反射的に、俺の平手打ちが弘美の頬をとらえた。
黒髪を乱して、濃い化粧を刷いた顔が、激しく振れた。
「い、いや・・・っ」
弘美は浮足立ち、何とかこの場を逃れようとした。が、むだだった。
俺はなんなく弘美の腕を捩じりあげると、華奢なその身体をベッドの上へと放り上げてしまった。
弘美は、地味なクリーム色のスーツを着ていた。家にいたころから見覚えのある服だった。
この女は、息子である俺の知っている服を着て、情事に耽ろうとしたのか。
見当はずれな憤りが、どす黒く俺を貫いた。
あわてふためくスーツ姿を、タックルでもかけるように腰周りに抱き着いた。
56歳の女の肢体は、30そこそこの息子の膂力にねじ伏せられて、ベッドのうえで膝を折った。
目の前に、弘美の脚が伸べられていた。
ひきつれひとつない肌色のストッキングが、ふくよかな脚を柔らかく包んでいた。
俺は思わず、弘美の脚を吸っていた。
上品に穿きこなされた薄地のストッキングを、淫らに染まった俺の唾液が濡らした。
懐かしい感触だった。
その昔俺は、母の下着で悪戯をしたことがある。
年ごろの男の子なら、だれでもやることだ。
母が脚に通していたストッキングは、いま風の強靭なサポートタイプではなく、昔ながらのウーリータイプというやつだった。
それくらいは、俺でも知っている。
くちゅっ。くちゅっ・・・くちゅっ・・・
俺は舌を蠢かせて、ストッキングの上から弘美の脚を吸いつづけた。
実母の礼装を汚すことで、侮辱してやろうと思ったのだ。
いつの間にか、弘美の抵抗が熄(や)んでいた。
弘美は、俺にされるがままに、脚を吸われつづけていた。
「いいわよ・・・汚してちょうだい・・・」
乾いた声色だった。
俺は顔をあげると、母親だった女と真向かいに顔を合わせて、いきなり距離をつめた。
初めて味わう母の――弘美の唇は、柔らかく暖かだった。
いったいいままでに、なん人の男に抱かれたのか。
もちろん、黒留袖を餌食にされたときだけではないはずだ。
そうでなければこんなにもの慣れた感じで、ホテルで男を待つことなど、ありえないはずだ。
けれども弘美は、俺がいかに責めても、いままで交わった男の数を、決して口にしようとはしなかった。
ショーツのうえから唇を這わせると、母の貞操が薄い生地一枚隔てたすぐのところにあるのだと実感した。
ごわごわとした剛毛を唇で感じながら、俺は弘美の股間を唾液で濡らしつづけた。
パンストを片方脱がされ、ショーツまで足首に滑らせてしまうと、弘美は抵抗をやめた。
俺は、いままでになくどす黒くそそり立つ股間の牙を、女の臀部に埋めていった。
はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・
ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅ・・・
一度果てると俺は再び弘美を抱きすくめ、強引に唇を奪うと、舌を入れた。
弘美は前歯を食いしばって俺の舌を拒んだが、そんな抵抗もすぐにおわった。
ねとねと、ネチネチと。
俺たちは昼下がりのベッドのうえ寝そべりながら、行為をくり返した。
いちど許してしまったことは、もう後戻りはできなかった。
なん度もなん度も、交接をくり返した。愛し合った。
頭を撫でてくれるのが、無性に嬉しかった。
そそり立つ俺のチ〇ポを咥えてくれるのは、さらに嬉しかった。
俺は母の口腔に、粘り気の強い精液を、遠慮会釈なく、ぶちまけていった。
勃った乳首を舌先で舐めてやると、若い女のような嬌声をあげた。
実母の乳房を女のものとしてあしらうことに、えもいわれない歓びをかんじた。
俺が性懲りもなく、片方だけ穿かれたストッキングをネチネチといたぶっていると、
弘美は自分の装う礼装を下品ないたぶりに惜しげもなくゆだねながら、いった。
「あなたがわたしのストッキングを悪戯していたの、私知ってる」
そう――俺はわざとそっけなく答えた。
すると弘美は、意外なことをいった。
「あなた、わたしのストッキングを穿いて、粗相したでしょ?」
そうだったかな・・・記憶はもう遠い彼方だった。
「それを見つけたわたしが、どうしたか知ってる?」
さあ・・・
俺がうそぶくと、弘美はいった。
「わたし、そのストッキングをもう一度穿いてね、あなたの精液で濡れているところを、自分のあそこにすり込んだのよ」
え・・・
俺は思わず、目を細めた。
挿入行為ではないかもしれない。でもね、わたしが貞潔を汚したとしたら、きっとそのときからだと思ってる――
別れ際母は身づくろいをするときに、脱げかかったストッキングを太ももまでぞんざいにずり上げた。
娼婦のような、いぎたないしぐさだった。
教授夫人のすることとは、とても思えなかったけれど――
「今度うちでやろう」という俺に、
「だぁめ、それは――」と言いかける弘美をまたも押し倒して、
まるで若い恋人同士がそうするように、俺たちはなん度めかの吶喊をくり返すのだった。
第七話 交歓の宴
志乃が相手をしている学校教師の同僚が、妹婿の野々村だと知ったのは、それからすぐのことだった。
花嫁の純潔を実家で汚されたという過去に、俺は少なからず同情を感じていたから、
頭にそう聞かされても、怒りをおぼえることはなかった。
俺はその日、野々村と華奈美の家にいた。
客間に敷かれた布団のうえ、華奈美がしどけない格好で、俺といっしょにいた。
ブラウスはかろうじて身に着けていたものの、釦はほとんど外されていて、下半身は生まれたままの格好だった。
俺に挑まれたときにはびっくりして、「お兄ちゃんやめて」と訴えた華奈美だったが、
スカートを脱がせ、パンストを片方だけ脱がせてしまうと、観念したように身を固くして目を瞑った。
女は征服されるとき、みんなそういう仕草をするのか。そうではあるまい。
母のときは、さいしょは毅然として俺を拒もうとして、足許を唾液で濡らされながら堕ちていった。
さいしょの夜に実父を受け容れた女は、兄のまえでもかんたんに身体を開くようになっている。
「お義父さんからききました。これからも華奈美に逢わせてほしいとねだられました。
華奈美さんもぜひそうしたいというので――ぼくはふたりの関係を受け容れたんです」
生真面目そうな白い顔を神経質そうに引きつらせながらも、野々村は感心なことを口にする。
俺との間のことも、とがめだてはしないつもりらしい。
お茶の間からは、つけっ放しのテレビの音が無機質に、流れ込んでくる。
野々村はきっと、テレビではなく、この部屋の様子を窺っていたに違いない――
そういう趣味のある男だった。
父が弘美と華奈美を母娘ながら若妻宅配倶楽部に差し出した「功績」で、野々村もまた、「特別会員」となっていた。
花嫁の純潔を父娘相姦で喪ったという経歴は、むしろ仲間うちでは歓迎されていた。
生真面目な野々村が「特別会員」となって真っ先に望んだ女が、ほかでもない志乃だった。
俺は、父親よりも屑な人間となり果てている。
親父はたしかに、実の娘と交わったが、
俺は実母と実の妹双方と交わっている。
それだけではない。
あの高雅な支局長夫人も、
母が黒留袖を餌食にされた婚礼の主である従弟の嫁も、
力ずくでねじ伏せ、恥知らずな性欲の餌食にしていた。
『若妻宅配倶楽部』は、いつか変貌を遂げようとしていた。
倶楽部の客――という関係ではなく、真剣交際の不倫関係に発展していったのだ。
「いいんじゃねぇのか?」
志乃をさいしょに犯した頭はいった。
「ビジネスで抱き合うよりも、心から抱き合うほうが、良いに決まってるわナ」
もともと、金銭の授受を伴わない「ビジネス」だった。
素人の人妻を手練手管で堕落させ支配下に入ること。
そうして意のままになるようになった女たちを、自分の妻が娼婦となることを許した寛大な夫たちの性欲解消のために手配すること。
それが彼らの、すべてだったのだ。
志乃は支局長と正式に交際を始めた。
けれどもそのいっぽうで、野々村との浮気も愉しむようになっていた。
時には自分を堕落させたあの3人と、まるでクラス会のように”宴”を開いているらしいし、
俺も無理やり招(よ)ばれては、年上の年配男3人の情欲にまみれてゆく妻の肢体を見せつけられるのを、面白がるようにさえなっていた。
華奈美は俺と付き合うといって、聞かなかった。
夫である野々村には面と向かって、
「貴方の稼いだお金で買った服を、お兄ちゃんのために汚させてあげたいの」
といっては、野々村を閉口させていた。
野々村はたしかに閉口していたけれど、
「もともと変わったご一家だから」と、兄妹相姦を日常に取り入れることに同意してくれた。
弘美とは、週に2度は逢う関係になっていた。
親父は俺と弘美の関係に気づいていたようだったが、面と向かってはなにも言わなかった。
実の娘を犯したことを後悔するような、殊勝な男には見えなかったので、ちょっと不思議には思っていた。
その日も、俺は弘美と逢っていた。
場所は実家だった。
志乃には何食わぬ顔をして家から出てきたし、志乃もまた、着飾ってどこかへ出かけていく様子だった。
お互いに不倫を愉しむ関係――
けれどもふだんの志乃は、こうなる以前よりもずっと、献身的に仕えてくれるようになっていた。
家庭の平安をお互いの淫事を許し合うことであがなっていることに満足して、暮らしていくべきなのだろう――俺は思った。
親父は出かけているようだった。
「お父さんたら、わたしが家にいるのにおめかしなんかしているから、不思議がっていらしたわ――」
息子を相手の情事のために装った、新調したばかりの紫のスーツを見せびらかしながら、弘美は笑った。
「その服も、精液でヌラヌラにされたいんだろう?」
俺が強がると、
「はい、はい。その通りですよ。お母さん、あなたの精液で濡れ濡れになりたい♪」
と、聞き分けの良いことをいった。
導入は、あっという間だった。
ブラウスのうえから乳房を揉みしだきながら、俺は弘美を押し倒してゆく。
「あっ、ダメ――」
弘美はこの期に及んでも、「息子と母親でなんて、ダメですよぉ・・・」と、わざと俺のことをはぐらかそうとする。
減らず口を黙らせるため、俺は弘美の唇を強引に吸った。
短いあいだにいろんな女と交わったが、唇は弘美のそれが、いちばん佳(よ)かった。
俺たちはしばらくのあいだ、十代の若者同士のように、キスをくり返し、相手の口腔の匂いを嗅ぎ合った。
茶の間の向こうは、父の書斎だった。
そこにはしばらくの間入ったことはなかったが、
本棚や机の占めるスぺ―スよりも、むき出しの畳の広さのほうが目立つような部屋だった。
弘美が、手にしたリモコンを操作した。
「なに・・・?」
俺が訊いても、弘美は笑うだけでなにも応えない。
リモコンは、茶の間と書斎の間を仕切る引き戸を開けるためのものだった。
引き戸は音もなく開いた。
あっ・・・!と思った。
志乃が、親父の腕のなかにいる。
なんてことだ。
見慣れたえび茶のスーツ姿で、学校教師としての装いのまま、早くもタイトスカートのすそに、精液を光らせてしまっている。
え?え?え?
仰天する俺をしり目に、志乃はまつ毛を震わせながら、細くて白い腰を、親父の逞しい腰の動きとひとつにしていた。
もう、俺のことも、母の視線も、志乃の意識にはないようだった。
白いブラウスは大きくはだけて、その隙間からは、黒のブラジャーの吊り紐が、白い胸をキュッと縛るのが目に入った。
タイトスカートは惜しげもなく裂けて、肌色のパンストをてかてかと輝かせる太ももを露出させている。
志乃が脚に通したストッキングは、光沢のよぎるサポートタイプだった。
ストッキングをよぎる光沢が、白い蛇のようにくねる脚の周りで淫らにギラついた。
慎み深かった志乃は、とっくに娼婦に堕ちていた。親父の奴隷に堕ちていた。
俺は、親父が自分の妻に手を出す俺に不平を鳴らさなかった理由を知った。
そして、親父に見せつけるように、弘美の唇を吸い、また吸った。
この女は、俺の女だ――
あたかもそう宣言するかのように、なん度もなん度も、弘美の唇を吸いつづけた。
弘美もまた、俺の接吻に、積極的に応じてくる。
俺たち親子は、恥に堕ちた――
絶望的な歓びに目を眩ませながら、
俺はなん度めかの吶喊を、実母の体内に吐き散らしていった・・・
あとがき
後半はちょっと、息切れしたかもしれませんね。^^;
そういえば相姦ものを描くのも、久しぶりのことでした。A^^;
人妻宅配倶楽部 ――妻・志乃の場合――
2022年08月28日(Sun) 22:18:38
はじめに
このお話は、チャットで知り合ったある方と話し込んでいるうちに構想がまとまったものです。
その方から伺った「若妻宅配倶楽部」という言葉に触発されて、こんなものを描いてみました。
なので、「宅配倶楽部」のプライオリティは、小生に属するものではないことを、お断りしておきます。
追記:いささかねたばれ。
お話の展開から、必ずしも「若妻」ではなくなったため、タイトルは「人妻宅配倶楽部」とさせていただきました。
第一話 扉の向こうの悪夢
悪夢の光景だった。
ずるをして出張先から直接家に戻った代償が、こんなに高くつくとは思わなかった。
自分の行いを、心から反省した。
インターホンを鳴らしてもだれも出なかったので、留守かと思って自宅のドアを開けた。
それが地獄に通じる扉とは、つゆ知らないで。
夫婦の寝室からうめき声のようなものが洩れてきて、何気なく足音を忍ばせ覗いてみたら――
妻の志乃がよそ行きの服装のまま、ベッドのうえにいた。
俺以外の男と。
それも、3人もの男と。
えび茶のタイトスカートに見覚えがあった。教師として中学校の教壇に立つときに、いつも着けているものだった。
ボウタイ付きの白のブラウスは確か、結婚記念日にプレゼントしたもののはずだ。
だから、ベッドのうえにいる女は、志乃に違いない。
几帳面なだけが取り柄のような女だった志乃は、いつもきちんとした服を、行儀よく着こなしていた。
ところがどうだ。
いまベッドのうえにいる女は、
黒髪を振り乱し、息せき切って、腰を大胆に振りながら、
のしかかってくる男の欲求に、自分のほうから応えつづけているではないか。
ブラウスは胸もとまではだけ、
引きちぎられたブラの吊り紐が二の腕に垂れ下がり、
あらなになった乳首は、男のうちの一人の、貪婪に吸いつけられた唇のなかにすっぽりとおさまっている。
片方だけ脚に通した肌色のパンストはふしだらに弛み、脛の半ばまでずり降ろされて、
悩まし気な足ずりをくり返しては、シーツをいびつに波打たせていた。
思わず息をのんだ時。
気配を察して四人の人間がいっせいに、こちらを振り向いた。
志乃は気の毒なくらい、狼狽した。
「ご、ごめんなさいっ・・・!でも仕方がなかったの!」
志乃の言葉に、こんどは俺が狼狽する番だった。
男どもは、こうなることを察していたかのように、強い目線でこちらのほうを見返してくる。
これは手ごわい――と、俺は思った。
「ど、どういうことなんだッ!?」
そう叫ぶ権利はあると思った。
驚きと怒りとをあらわにする俺に、男どもはいかにもそれは当然・・・という顔つきをして、
「昼間からお騒がせして、申し訳ない」
とだけ、いった。
必要なわびは入れるが、てこでも動かない――そんな態度だった。
「ここは俺の家だ。妻と話がしたい。あんたがたはひとまず、出ていってくれ」
声が震えているのをみじめだと思った。
けれども精いっぱいの虚勢に男どもは意外に素直に頷き返してきて、
「すべて我々がよろしくない。ご主人の憤慨はごもっともだ。つぐないに、精いっぱいのことはさせてもらう」
と、静かな声色でこたえた。
殺気のこもった声だ、と、俺はおもった。
志乃を組み敷いて欲望の限りを尽くしたうえに、夫には素直に振る舞う。
どういうことだ――と思う矢先、男のひとりがいった。
「こちらの弱みを白状しよう。じつは女ひでりで、困っている。
厚かましいのは百も承知だが、もう少しだけ辛抱してもらえまいか。
ここはご主人のお宅だから、もちろん家のなかにおられても差し支えない」
???
この男は、なにを言っているのだ?
もう一人の男が、いった。いかにもおだやかで、磊落そうな男だった。
こんなことには不向きな男にさえ見えた。
「気になりますよね?なんなら、覗いてもオッケーですよ。ご主人――そういうの楽しめるほうかな?」
俺は蒼白になって立ち尽くし、男どもは行為を再開していった。
声もなく立ちすくんだ俺をまえに、3人は場違いなほど恭しく俺に頭をさげたけれど、
その礼儀正しさとは裏腹に、志乃に向けられたあしらいは、がつがつと荒々しいものだった。
なぜ、あの時怒鳴り出してでも、とめなかったのか――
あとから何度もそう思ったが、
たとえやめさせたところでもう、事態はあまり変わらなかっただろうとも、その都度おもった。
ともあれ俺はその場を立ち去り、
志乃にのしかかっている男どもの気が済んで、志乃を解放するまでは、
闖入した暴漢たちに、妻を好きなようにさせてしまっていたのだった。
かすかに残る記憶では。
志乃がはだけたブラウスから乳房もあらわに悶える様子とか。
脚に通した肌色のパンストを引きむしられて、すすり泣くところとか。
気品漂うえび茶色のタイトスカートの前から後ろから、怒張した肉棒を突き入れられては、
落ち着いた色合いのスカートのすそを、淫らな粘液まみれにされてしまうところとか、
しまいにはスカードだけを着けることを許された志乃が、俺ですらしたことのない騎乗位を自ら受け容れて、
乱れた黒髪をユサユサと揺らしながら喘いでしまう有様まで、
逐一たどることができるのは――きっと覗いてしまったことの証しなのだろう。
俺は、彼らの一人のいうように、「楽しめてしまう夫」らしかった・・・
2時間後。
男どもは身なりを整えて、俺のまえに鎮座していた。
3人が3人とも、50がらみの男で――
つまりようやく30代に突入したばかりの俺よりも、ずっと年上だった。
だれもが、俺よりも逞しい身体つきで、そのうちどの一人とやり合っても俺が負ける――と容易に想像できるほどだった。
「ご主人悪りぃな、奥さんすっかり借りちまって」覗いても好い――といった、あの磊落な男がいった。
「暖かいご配慮、恩に着ますよ。ご主人いい人ですね」べつのひとりも、そういった。
ふたりとも、場違いなくらいむき出しな好意と賞讃を、俺に向けてあらわにしていた。
「ばか、失礼なことを言うなぃ」
頭だった痩せぎすな男が、配慮のなさ過ぎる仲間を鋭い声でたしなめた。
「悪りぃ悪りぃ」
さいしょのふたりは閉口したようにかぶりを振ったが、しんそこ悔いている様子ではない。
ただそこには、満ち足り切った三体の男の肉体が、みずみずしいほどの輝きを帯びていた。
とはいえ男どもは、必要以上に俺を嬲りものにするつもりはないらしく、
まるで商談でも切り出すように、来訪の趣旨を告げてきた。
「若妻宅配倶楽部 というのを知っている?
配偶者のいない男や夫婦のSEXで満たされない男に、若妻を提供するビジネスなんだ。
我々はこの事業に理解ある人妻を探し、女性スタッフとしてスカウトする業務を行っている――」
男の話は、俺の理解力、想像力を越えていた。
男はつづけた。
「奥さんとは、ふとしたことで知り合った。
私の(と、頭だった男はいった)家が、ご近所なんだ。
礼儀正しく、楚々としたたたずまいが以前から気になっていて、思い切って声をかけたのが先月のこと――」
その時からもう…下心ありありだったよな。磊落な男がちゃちゃを入れた。
根は生真面目らしい頭は、こんどは仲間をたしなめようとはしなかった。おそらく3人共通の本音だったのだろう。
「奥さんは身持ちが堅く、用心深かった。
でもふjとした折にわれわれのことを気安くお宅にあげたのが、奥さまの唯一の失敗だった。
奥さんのこと、咎めなさんなよ。
もうひとりが、あとをついだ。
「勿論その場で、犯しましたよ。
奥さまいいお味ですね。
我々はすっかり、奥さまの虜になりました。
奥さまもすっかり、我々の虜になりました。
いうなれば、相思相愛というやつです。
どうかこの甘美な果実を、われわれから取り上げないでもらいたい――」
なんという勝手な言い草だろう?と思いつつも、俺が先を促してしまったのは。
きっとあまりにも常識からかけ離れた話を聞かされて、怒りの感情が麻痺してしまったためだろう。
頭があとを、ひきついだ。
「でも、我々は奥さまにとって、たんなる一里塚に過ぎないのです。
これから奥さまには、背徳的な行脚をしていただくことになるからです。
それが、わが『若妻宅配倶楽部』の趣旨なのですから――」
「奥さまの名誉のために申し添えますが、我々と出遭うまで奥さまは、ご主人以外の身体を識らないお身体でした。
でもきっと、我々とは相性がよろしかったのでしょう。
ご主人お一方のために守り抜いてきた貞操を、
3人の男相手に惜しげもなく振る舞われた奥さまには、心から感謝しております。
我々の奥さまへの恋情をご理解いただき、楽しむひと時をお与えくださったご主人もきっと、
我々とは相性がよろしいに違いない。
このまま真相が外に漏れて、無責任な非難や誹謗中傷に奥さまをゆだねるようなことはなさらないでしょうから、
どうぞ奥さまを、当社の事業にご提供いただきたい――」
これ以上はない厚かましさを帯びた提案をすると、男たちは話を締めくくった。
お願い別れてくださいと、志乃はなん度も俺にいった。
それはお止しになった方が好いと、彼らはいった。
どうして離婚したのかといらぬ詮索をする人はどこにでもいるし、
結局はなにもかもが明るみに出て、お二人が恥を掻くだけではありませんかと。
それに何よりも――ご主人とお別れしたら、「人妻」ではなくなってしまいますからね。
貴女の商品価値が、下がってしまうのです・・・と。
男達のやんわりとした脅迫は、俺にもじゅうぶん通じた。
志乃にもそれは、わかったようだった。
少し時間をください、妻と二人で話してみますとだけ、俺がこたえると、
男どもは案外素直に、それがよろしいでしょう、とこたえてくれた。
男どもが家から出ていくと、俺は志乃にいった。
もう、すべてが手遅れなんだなと。
志乃は泣いていた。
けれども俺の問いかけには、無言だがはっきりと頷き返してきた。
志乃のブラウスは、まだ釦がふたつほど、外されたままだった。
ブラジャーを剥ぎ取られた胸もとがほんのちょっとだけ、衣類のすき間から覗いていた。
俺は無言で志乃につかみかかり、
弱々しい抵抗を苦も無く払いのけると、志乃を犯した。
何度も何度も犯した。
それが俺にできる、唯一の鬱憤晴らしだった。
第二話 娼婦と暮らす俺
翌日は土曜日だった。
俺は志乃を連れて、志乃から教わった頭の家を訪問した。
餌食にした夫婦の来訪を待ち受けていたかのように、3人とも顔をそろえていて、俺を鄭重に出迎えてくれた。
「夫婦で話し合いました。妻を、あなた方の仰る『若妻宅配倶楽部』に提供します」とだけ、俺はいった。
賢明なご判断です、と、頭がこたえた。
「ご協力ありがとう。ご主人の理解ある配慮に、心から感謝する」
志乃はよそ行きのワンピースを着飾っていた。
いつもより化粧が濃いと、俺はおもった。
「俺がうちに飼っていた売春婦を、あんたにお預けします。月曜の朝食は要るので、それまでには家に帰してください」
俺の言葉に志乃はびっくりしたようにふり返ったが、
そのときにはもう、花柄のワンピース姿は三対の逞しい猿臂の支配に落ちてしまっていた。
志乃の着ているワンピースは、まだつき合っていたころ、俺が誕生日に飼ってやったものだった。
夫婦になる前のいちばん幸せな記憶が、淫らに堕ちる――
俺はそうおもって、きょう着て行く服を選んだ志乃のチョイスを呪った。
「妻をここまで堕とすとは、たいした腕前ですjね」
もっと皮肉っぽくいうつもりが、なぜか素直に賞讃し得てしまっているのを感じた。
「せいぜいたっぷりと、かわいがってもらうと良い」
俺はそう言い捨てて、5年間連れ添った妻に背を向けた。
背後で女が押し倒される音とちいさな悲鳴、
ブラウスが引き裂かれストッキングが破ける音がした。
身体中の血液が逆流するような昂りを感じたまま、見送るものもいないその家を辞去した。
志乃が家に戻ってきたのは、月曜の明け方だった。
「たっぷりかわいがってもらえたようだな」
俺はいった。
「エエ。この身のすみずみまで、愛されてしまいました」
志乃はよどみなく、こたえた。
俺は思わずゾクリとするのを、こらえきれなかった。
大人しいだけが取り柄の、そして貞淑だっというこの女が、たった一夜で淫らな娼婦へと変貌している。
いや、そうではあるまい。
初めて落ちたというある日の白昼から、すでに妻の堕落は始まっていて、
たまたま夕べ、結実をみたにすぎないのだ。
けれども俺は、やつらに妻を売り渡して、最後のとどめを刺させてしまった。
不思議に悔いはなかった。
むしろ、正体不明のドロドロとした熱いものが、肚の奥底を焦がすのを感じていた。
それはじわじわと、俺の想いをとろ火で焙(あぶ)り、純度の高い透き通るような劣情に変わっていった。
ひととき、惨めな思いも抱えたが、
――俺は娼婦と暮らしている。
そんな感覚が、どこかいびつに心に迫った。
白い素肌に秘めた血潮を淫らに染めた女の夫は、自らの血潮も妖しく湧き立ててしまっている。
呼び出しは、頻繁に訪れた。
週に数回は、妻は着飾って支度をあとにした。
俺が居合わせているときでもお構いなしだった。
彼らはつねに鄭重だった。
俺にはじゅうぶんな敬意を払い、むしろ同好の士と見做しているような物腰だった。
志乃が「人妻」であることを重くみているらしく、志乃の主権はあくまでも俺にあると告げてくれた。
夫婦の交わりは自由だし、志乃は貴方にいままで以上によくかしづくはずだ、とも告げた。
たしかに志乃は、いっそうしおらしくなった。
もともと大人しいのが取り柄の女で、これでよく教師が勤まると思うほどだったけれど。
まるで昭和初期の貞淑妻のそれのように、楚々とした立ち居振る舞いにいっそう磨きがかかり、
俺が疲れて勤めから戻ったときのケアなどは、しんそこ心が癒される思うだった。
そのいっぽうで、夜の営みではべつな面もかいま見せた。
正常位のみで、まぐろのように寝そべって、感じているのかどうか定かでないほどの感度のにぶさが物足りなかったのに、
昼間の淑やかさとは裏腹に、声をあげ、時には叫び、大きく身をくねらせて、
感じているのを身体ぜんたいであらわにするようなあしらいに、
志乃の身に訪れる数々の淫ら振る舞いを想像する俺は、志乃の熱を伝染(うつ)されたかのように、夜ごとたけり狂うのだった。
呼び出しに応じるときの志乃は、ただひと言、「行ってまいりますね」とだけ、俺に告げて、
黙々と化粧を刷き、ストッキングに脚を通して、ハイヒールの足音をコツコツと響かせて情事に向かう。
まとう衣裳も、立ち居振る舞いも淑やかで。
けれどもいちど夜の闇にまみれると、牝の獣と化してしまう――
それが妻の日常だった。
遠ざかってゆくハイヒールの足音を耳にしては股間を抑え、脱ぎ捨てられた妻の洋服に射精をくり返す。
それが俺の日常になっていた。
第三話 特別会員の紳士
「夕べ、きみの奥さんを買った」
残業が果ててふたりきりになったオフィスのなかで。
支局長はそっと、俺にそう告げた。
「若妻宅配倶楽部 というんだそうだね?ぼく、実はそこの特別会員なのだよ」
プライベートの不祥事が職場に伝わることの悪夢感に、俺は総身に慄(ふる)えを疾(はし)らせた。
そんな俺の心中を見透かしたように、支局長はいった。
「安心しなさい。お互いさまなんだから」
低く落ち着いた穏やかな声色が、俺を本心からの安堵に導くのを感じて、
俺は妻を抱いたという上司に、ほのかに感謝の念をよぎらせている。
たしかにそうだろう。
いまは表向きだけが、よそ行きのしかめ面でまかり通る世の中だ。
社会的立場があればあるほど、部下の細君を買春した などということが、致命傷にならないわけはない。
俺は少しだけ、あの蟻地獄のような奇妙なシンジケートの仲間入りをさせられた上役に、むしろ同情の念を感じた。
あの、家内とは、どこで・・・?
訊いてはならないことを、それでも訊かずにはいられなかった。
結婚当時にも俺の上司だった支局長は、志乃とは結婚前から面識がある。
そんな見知ったどうしでの買春(ビジネス)に、俺はふと気をそそられたのだ。
お見合い写真のようにね、一人一冊ずつのカタログを持っているんだよ。
ぼくはそのなかから、なん人でも選ぶことができる。
ディープな会員ほど、大勢の女性を紹介してもらえるんだ。
ぼくはその中では――けっこう多いほうじゃないかな。
その日も彼らのうちのひとりが、私のところに「お見合い写真」を持ってきた。
もちろん、奥さんのもその中に含まれていたんだ。
ぼくはすぐに決めたよ。きみの奥さんに。志乃さんに――
相手の女性の服装を、お見合い写真のなかから択ぶことができるんだ。
ぼくが択んだのはね――ちょっと特殊な趣味なので友るしてもらいたいのだが――喪服なのだよ。洋装のブラックフォーマル。
清楚に透きとおる黒のストッキングが好みでね。
それに、喪服というもののもつ禁忌感が、たまらないんだ。
人を弔うための装いを淫らに愉しむ――そんな不謹慎な欲望の、ぼくは虜になっているんだよ・・・
そういえば。
志乃はきのう、法事に出るといって家を出た。
たしかに漆黒の衣裳に身を包んだ志乃の、丈長のスカートのすそから覗く薄墨色に染まった足許に、危うさを覚えないではなかったけれど。
さすがにそれは不謹慎だろうと、あらぬ思いを立ち入って出勤したのだ。
俺が勤めに出ているあいだ、志乃は喪服を着崩れさせながら、俺の上役と乱れあっていた。
あの薄黒いストッキングを唾液まみれにいたぶらせ、惜しげもなく引き破らせていた・・・
ズボンを通してさえあらわになる股間の昂りは、塩局長も気づいたらしい。
けれども彼は思慮深く目をそらしてくれて、そしていった。
視てみたいかね?志乃のお見合い写真・・・
そのときたしかに、支局長は俺の妻を呼び捨てにしていた――
それはたしかに、ページのすくないアルバムのような、ついぞいちども手にすることkのなかった、いわゆる「お見合い写真」の体裁をしていた。
開けてはならない扉を恐る恐る解き放つように。
俺は震える手で、ページをめくった。
アッ・・・と、息をのんでいた。
さいしょの頁があまりにも、くろぐととした意趣に満ちあふれたものだったから。
キャビネ版と呼ばれる大写しの写真のなかで。
志乃はベッドにあお向けになって、あらぬ方に目をやっている。
それはあきらかに、自宅にある夫婦のベッド。いつの間に、こんなものを撮ったのだろう。
相応の機材を持ち込まなければ、とてもこんな写りにはなるまいと、少しばかりカメラをかじった俺にも、それはわかった。
身に着けているのは、喪服。
たしかに見覚えのある黒一色の地味なスーツが、着崩れさせるとこうも妖しく乱れるのかと、俺はおもった。
そればかりか――。
はだけた喪服のすき間から、こぼれるように覗く白い肌は、真っ赤なロープの縛(いまし)めを受けて、キュッときつくすくんでいる。
漆黒のブラウスをはだけられ、その上から、身体の線があらわになるほどきつく縛られて、
太ももを横切る帯のように太いガーターは、肌の白さをいっそう際立たせ、
珠のように輝く肌には、ところどころ、灼(や)け爛れた蠟燭の痛々しい斑点が、不規則に紅く散らされていた。
目線が惑乱していると、ありありと自覚しているのに、焦げるほど強く、俺は見入ってしまっていた。
俺の変化を悦ぶように観察していた支局長は、頃合いを見計らうように、こう告げた。
「志乃を気に入った。ぼくはまた、志乃をオーダーしてしまった。きみの奥さんだと知りながら――
つぎの逢瀬は、明後日の木曜の夜。場所はきみの家をお願いした。
ぼくはきみに、明日から一週間の出張を命ずる。
いけない上司を、許して欲しい。」
許すなどとそんな・・・と、俺は言いかけた。
俺の妻を、夫である俺の前で呼び捨てにして、
そのうえこれからも妻を犯すと宣言した、仇敵のはずのその男に。
けれども俺は、自分でもびっくりするほどよどみなく、応えてしまっている。
「『若妻宅配倶楽部』に、連絡を取ります。
わたしは出張先で、彼らに誘拐されます。
そして妻を縛ったロープで身体を結わえられたまま、自宅の寝室の押し入れに、転がされてしまうのです」
どうぞ俺のことは気にしないで、妻の肉体を愉しんでください。
なぜって――だんなの前でその妻を犯す愉悦を、支局長にお届けしたいのです・・・」
支局長は、いつもの穏やかな目鼻立ちを、いっそ和ませて、俺をみた。
そして、ちょっためらうふうを見せながらも、口を開いた――
「わかっているのかな?お互いさまの意味」
え?と問う俺に、支局長はいった。
「ここに赴任してすぐのことだった。
ぼくの家内もね、『若妻宅配倶楽部』の餌食になっていたのだよ。
若妻には程遠い・・と、ぼくは遠慮したのだが。もちろんそんな遠慮は無用だと言われてしまったよ。
思い知ったよ。上には上がいるんだ。
ぼくのような始終男には、志乃のような二十代の若妻が要るように、
ぼくの家内を欲しがる年配男も、けっこうおおぜいいるんだということを」
第四話 「お見合い写真」のなかの悪夢
支局長と妻との交際を認めた俺は、何の見返りも欲しなかった。
妻に売春をさせるわけにはいかないから――というせめてもの意地が、俺のなかにもまだ残っていたというわけだ。
けれどもそのいっぽうで、報酬はすでにじゅうぶん享けている――そんな想いも、禁じ得なかった。
喪服マニアの支局長の手で、志乃の喪服は再三汚され、引き裂かれた。
そのつど洋服代を持ちたいという支局長の厚意を、俺は辞退しつづけていた。
自分の稼ぎから、他の男に玩弄されるための妻の衣装代が差し引かれてゆく。
その事実に、俺はマゾヒスティックな歓びをさえ、感じはじめていたのだった。
志乃はたいそう済まながっていた。
引き合わされる直前まで、その日の相手が夫の上司だとは、知らされていなかったのだ。
「相変わらず悪趣味だよな、あいつら」
おれはせいぜい憎まれ口をたたいたが、もとよりさほどの悪意も含まれていないことを、志乃は良く心得ていた。
「今度のボーナスで、喪服買えよ」という俺に、
「喪服のまとめ買いって、割安になるのかしら」と、志乃はいかにも主婦らしい気の廻し方をした。
まとめて買うほどに、志乃は支局長のために喪服を汚したがっている。
俺の発想は淫らに歪み、その晩妻が着けていた花柄のロングスカートは淫らな粘液にまみれて、
翌朝にはクリーニング屋行きの憂き目を見る羽目になっていた。
志乃とは、見合い結婚だった。
もともと感情をあらわにしようとしない、よく言えばたしなみ深く、悪くいえば物足りない女だっただけに、
志乃のみせたあらわな変化は、俺の日常をどぎつい極彩色の彩りをで染めた。
頭が俺のところにやって来たのは、志乃が出かけた後のことだった。
きょうのお相手は、支局長ではなかった。
彼は妻との結婚20周年を祝うため、旅行に出ていた。
見ず知らずの男と妻が、淫らなセックスに耽る。
相手の顔が見えないだけに、そうした日の妄想も、違った意味でどす黒かった。
出かけて至った志乃のいでたちは、学校に着て行く薄茶のスーツだった。
ストッキングも、地味な薄茶だった。
情事に出向くとき、志乃はいつも真新しいストッキングを脚に通していく。
獲った客への、せめてものたしなみのつもりだと、志乃は生真面目に言い訳をした。
「学校の先生だと思うぜ」
若妻宅配倶楽部のメンバーで、さいしょに志乃を犯したその男は、俺にそっと」囁いた。;
学校が聖域ではなく、教師もまた聖職などではないことを、知り抜いた声色だった。
同僚とセックスするときに、いつも学校で見慣れた服装を要求する。
何と歪んだ欲求だろう。
それに応える志乃も志乃だったが――もはやそれは、いつもの日常になり果ててしまっていた。
あんた、知ってるだろ?
男はいった。
自分の女房を宅配倶楽部のスタッフにすると、ご褒美をもらえるの。
「ご褒美」とは、支局長が部下の妻をモノにするような類のことだと、容易に察しがついた。
俺は無関心を装って、「知っている」とだけ、みじかくこたえた。
無造作に投げ出されたものに俺が息をのみ、震える掌で扉を開こうとするのに、数秒とかからなかった。
アッ・・・と、俺は絶句し、我を忘れ、息をのんでいた。
さいしょの頁があまりにも、極彩色の悪意に満ちあふれたものだったから。
キャビネ版と呼ばれる大写しの写真のなかで。
豪奢な黒留袖の襟首をおし拡げられ、もろ肌をあらわにしているのは、ほかならぬ――母の弘美だったのだ。
結婚式帰りを襲った。
ちょうど、あんたの従弟の結婚式があっただろう?
さすがはあんたの親だ。
お父上、何年もまえから、うちの会員でね。
自分の娘くらいの女に血道をあげて、ケツを追いかけること追いかけること・・・
大枚はたいて加入したから、だれも文句は言わなかったけれど。
あのどん欲さには、あきれたものさ。
ほれ、あんた六、七年前に、何度か見合いしたことあるだろう?
あの時の娘どものほとんどは、親父に抱かれた女だったのさ。
危なかったな。
すんでのこと、あんたは自分の親父に処女を捧げた女を、嫁にする羽目になりかけたんだからな。v
だからその息子であるあんたの奥さんを堕落させたときにも、あまり同情は感じなかったのさ。
いまでも、好いことをしたと思っているよ。別bの意味でな。
もうすっかり、あんたは俺たちの仲間だからね――
なのでご褒美に、その女を紹介するよ。
そのうちあんたの親父、志乃に毒牙を突き立てかねないからな。
・・・さきに姦ったもん勝ちだぜ・・・?
あとがき
前編はこれで終わります。
後編をつぎにあっぷします。
市役所の若い女性職員が、結婚前に・・・
2022年08月19日(Fri) 23:36:14
「常川桃花、本日付けで係長を命ずる」
無表情な課長の言葉に、桃花はひっそりと唇を噛んでうつむいた。
淡いブルーの格子縞のベストに、濃紺のタイトスカート。
市役所の清楚な制服に包まれたОL姿が、恐怖に立ちすくんだ。
それもそのはず、課長の隣に控える黒い影は、昨今市役所に出入りするようになった吸血鬼。
彼は、桃花の血が目当てで市長にすり寄って、
ついに本人の承諾を得て、係長の肩書と引き替えに吸血する機会を得たというわけだ。
もとより、本音は気の進まない応諾に違いない。
けれども、もうじき結婚を控えている――そんな当然すぎる抗弁さえもが、無力にへし折られた。
市の上層部の圧力に屈した彼女は、生き血を吸い取られるというおぞましい選択をせざるを得なかったのだ。
婚約者のいる身で、良家の娘が道を踏み外した行動に走ることを、吸血鬼はひどく悦んでいた――
招き入れられた別室で二人きりになると、吸血鬼はいった。
「わしがどこを咬みたがっているか、わかっておるな?」
「は、はい・・・」
「声に出して、それをわしに教えてはくれまいか」
控えめな茶髪の頭をかすかに揺らして、桃花はちょっとの間だけためらったが、
引き結んでいた唇をおもむろに開くと、いった。
「首すじ、肩、胸、脇腹。それに脚――でいいですか」
吸血鬼は、彼女の答えに満足したようだった。
おもむろに彼女の足許にかがみ込むと、桃花のふくらはぎをなぞるように撫でた。
発育の良いむっちりとした脚が、茶系のストッキングに包まれている。
立ちすくんだ脚がたじろいだように揺れたが、吸血鬼は許さない。
パンプスを穿いた脚の甲を抑えつけ、なん度もしつように、くり返し撫でつけてゆく。
さいしょはいつ咬まれることかとおびえ切っていた桃花だったが、
やがて自分の足許にうずくまり脚を撫でつづけている吸血鬼が、
ストッキングの手触りを愉しんでいるのが、ありありとわかった。
「なんていう色?」
吸血鬼は訊いた。
履いているストッキングの色を訊かれることを、
まるでスカートのなかに匿(かく)しているパンティの色を訊かれたように羞じらいながら、桃花の唇がかすかに動く。
「ア・・・アーモンドブラウン・・・」
「ウフフ、きみの脚に似合っているね」
吸血鬼は嬉し気にそう呟いたが、彼女の顔が屈辱に歪むのを認めると、「すまないね」とだけ、いった。
行為はこともなげに始まった。
ひざ丈のタイトスカートのすその下、ふくらはぎのいちばん肉づきのよいあたりに、
飢えた唇が、アーモンドブラウンのストッキングの上から圧しつけられた。
薄地のストッキングを通して、唾液を含んだ唇のすき間から、ヌラリと濡れた舌が、ねぶりつけられる。
薄地のナイロン生地がみるみるうちに、欲情たっぷりなよだれにまみれてゆくのを、
桃花はキュッと瞼を瞑って耐えた。
口許から一瞬だけ覗いた鋭い牙が、若い下肢に埋め込まれる。
アッ・・・
耐えかねたような小さな叫びが、半ば開いた大人しやかな唇から不用意に洩れた。
処女・・・なのだね?
吸血鬼の囁きに、桃花は応えようとはしなかった。
・・・・・・。
・・・・・・。
床のうえにあお向けになった市役所の制服姿にのしかかり、吸血鬼は新任の係長、常川桃花の首すじに、唇を貼りつけている。
ひざ丈のタイトスカートは強引にたくし上げられて、太ももまでがあらわになっていた。
桃花の足許をなまめかしく染めていた茶系のストッキングは、吸血鬼の牙と唇の蹂躙に遭って、派手な裂け目を拡げていた。
裂けたストッキングを履いたままの脚が切なげに、緩慢な足摺りをくり返している。
それ以外に、抵抗のすべをもたないのを嘆くかのようなけだるげな足摺りも、いつか失血のために徐々に動きを止めていった。
欲情に満ちた唇が、健康そうな素肌の上をヒルのように蠢いて、
自分の手に落ちた若い女の柔肌の舌触り、それに体温を、ぞんぶんに愉しんでいる。
こくり、こくり・・・と喉を鳴らして、この潔癖な21歳OLのうら若い血液は、魔性の喉に飲み込まれていった――
その一週間前のこと。
若い市役所職員の里川肇は、市役所の廊下で尻もちをついた格好のまま、吸血されていた。
背中を壁に抑えつけられ、首すじを咬まれている。
太くて鋭い牙は、男の首すじをなんなく食い破り、ワイシャツの襟首を血で汚しながら、
傷口のうえに飢えた唇をせわしなく、蠢かせてている。
肇は桃花の婚約者だった。
吸血鬼はキュウキュウと不気味な音をたてながら、肇の生き血を啖(くら)い取っている。
「あー・・・、あー・・・」
微かに洩れる悲鳴をなだめるように、吸血鬼は肇の髪を丁寧に撫でつけている。
男にしては、長めの髪だった。
失血のせいか、肇の上半身は力を喪い、横倒しに倒れていった。
それでもなおかつ、吸血鬼は肇の血を吸いやめようとはしなかった。
今度はスラックスのすそを引き上げて、ヒルのように貪欲な唇を、肇のふくらはぎに靴下のうえから吸いつけてゆく。
破けた靴下に生温かい血がしみ込むのを感じながら、肇は意識を薄らげていった――
「ぼ、ぼくの靴下を破いたみたいに――」
肇は、喘ぎ喘ぎ、いった。
「桃花さんの穿いているストッキングを、いたぶろうというおつもりですか・・・?」
「もちろんだ」
吸血鬼は、しずかにいった。
「わかりました・・・」
肇はうなだれた。けれどもけなげにも、彼はいった。
「桃花さんのストッキング――ほかのやつに愉しまれてしまうのは悔しいけれど・・・
彼女が恥ずかしい想いをしながら破かれてしまうのなら・・・せめて存分に愉しんでくださいね」
「理解のある男だな、きみは――」
吸血鬼は、貧血でくらくらとしている肇の頭を抱きとめてやり、しみじみとつぶやいた。
変わった青年だった。
都会の大学を出て当地に赴任してきて、同じ職場の桃花と知り合った。
市が吸血鬼集団に屈してしまったことを知りながら、彼は内定辞退者が多く出るのをしり目に、予定通り職員に採用された。
半年ほどの交際期間を経て桃花と婚約したころにはもう、
役所の職員のうち既婚者の半数は妻を吸血鬼に食いものにされていたし、
女子職員もその三分の一が、吸血鬼を相手に処女を喪失したとうわさされていた。
「わたし、吸血鬼に咬まれちゃうかもしれないですよ。
咬まれたら夢中になって、あなたどころじゃなくなっちゃうかもしれないですよ。
処女だって奪(と)られちゃうかもしれないし、でも拒んだらダメっていうし・・・
奥さんになるひとがそんなふうになっちゃっても良いんですか?」
交際を申し込んだとき桃花はそういって、いちどは肇の求婚を辞退した。
けれども肇はあきらめなかった。
彼らは人間の女性と、結婚することはできないそうだ。
だから、きみを見初めた吸血鬼がいたら、教えてほしい。
ぼくはそのひとと何としても仲良くなって、
もし望まれたなら――きみの純潔をよろこんでプレゼントするくらいの関係になってみせるから――
桃花は目を見開いて、しげしげと肇を見、
けれども彼の奇妙な申し出を笑い飛ばしたりはせずに生真面目に頷くと、彼の求婚を承知したのだった。
「きみの恋人は素晴らしい。処女だった。処女の生き血というものに、久しぶりにありついた――」
桃花の血を吸い終えたあと。
肇をまえに吸血鬼は、舌なめずりせんばかりに随喜の想いをあらわにしている。
「処女だった」
という言い草を耳にした肇は、目の前の吸血鬼が桃花の純潔までも散らしてしまったのかと一瞬おもった。
むろん彼らは、処女の生き血を格別好んでいたし、
品行方正な若い娘をつかまえて、さいしょのひと咬みで処女を奪ってしまうようなことはしないはずだった。
その点は、人妻狙いの吸血鬼とは違っていた。
セックス経験のある婦人は、生娘とは対照的に、いちど血を吸われると例外なく、その場で犯されてしまうのが常だったから。
吸血鬼が市役所の女子職員や職員の妻を襲った後、
その婚約者や配偶者は、吸血鬼との面談することを義務づけられていた。
吸血鬼たちは、彼女たちのパートナーをも征服し、支配することを望んでいたからだ。
妻を犯されたことに不満を持ち、いうことを聞かない夫がいたら、その場で血を吸い尽くして、
「きみを妻の愛人として、よろこんでぼくの家庭に迎えよう」というまで、放さないのだった。
彼らの牙の犠牲となった女たちの男性パートナーたちは、
目のまえの男が喉の渇きを潤すために最愛の女性の生き血を使用したことのお礼代わりに、
自身にとって大切な女性が、いかに彼らを満足させたかをこと細かに聞かされるのだった。
残酷すぎる面談だったが、里川はあえて自分から、面談を希望した。
「では、桃花さんの生き血は貴男のお気に召したのですね?」
肇は目を輝かせて、吸血鬼にいった。
「きのうきみの身体から吸い取った血と、さっき桃花の素肌から抜き取った血とが、
わしのなかで仲良く織り交ざって、脈打っておるのだよ」
しずかにこたえる吸血鬼の言い草に、肇は股間を熱く火照らせてしまっている。
マゾの血が、ぼくの身体のすみずみまで脈打っている――
肇はそんなふうに感じた。
「常川くん、献血の用意はできているかね?」
課長に声をかけられた桃花は、「ハ、ハイ!!だいじょうぶです」と反射的に返事をかえしたが、
その場に肇がいるのを認めて顔を赤らめた。
通りかかった年配の女性事務員が桃花に笑いかけて、
「用意がいいね。パンストも、新しいの穿いてきたんでしょ?」
と、からかった。
桃花は真新しいパンストの脚を伸ばして、照れ笑いした。
吸血鬼に気に入られたアーモンドブラウンのパンストが、
ピチピチとはずむうら若い下肢に、つややかな光沢をよぎらせている。
わざと肇のほうは見ないで、桃花は席を起った。
女性係長の責務をまっとうし、若くて健康な血液を提供するために。
桃花が戻ってくるまでの時間が、ひどく長く感じられた。
ゆうに2時間は経っただろうか?
もしや桃花は、興が乗るあまりに犯されてしまったのではないか?
まさか、市庁舎のなかでそんな不謹慎なことを――と思い返してはみたものの、
そのようなことはすでに常識となりつつある昨今では、全くないとは言い切れなかったのだ。
吸血鬼は確かに、桃花の処女は結婚するまで守り通す――と約束してはくれた。
けれどもそんなものは、きっとどうにでもなってしまうのだと肇は知っていたし、
かりに桃花の処女が彼の手で早々と汚されてしまったとしても、桃花とは予定通り結婚するつもりだった。
汚された花嫁の手を取って華燭の典を挙げる――
そんな想像に、マゾヒスティックな想いが、ゾクゾクとこみあげてしまうのだった。
自分の理性がマゾの血で毒されつつあることを、肇はもう恥ずかしがってはいなかったし、
むしろそんな自分こそ桃花の花婿にふさわしいのだと感じていた。
「やっぱり私、婚約を破棄させてもらうわ」
桃花の声は冷たく、透き通っていた。
え――
肇は天を仰いだ。
いちばん聞きたくない言葉だった。
どうして?ぼくだったら、すべてを許すのに・・・
口にしかけた想いは、言葉にならなかった。彼は自分の意気地なさを呪った。
「私、一人の人にしか夢中になれない人だと思う。
いまのように中途半端な気持ちだと、あなたにも、吸血鬼さんに対しても、いけないことだと思ってる」
桃花にとって、彼女の血を日常的に愉しんでいる吸血鬼はもはや、至高の存在だった。
なので、自分自身だけのことではなく、「彼に対しても申し訳ない」と言われてしまうと、さすがの肇も返す言葉がなかった。
「なんとかなるじゃろう」
吸血鬼は肇にいった。
まだ貧血でくらくらする。
肇もまた、時折吸血鬼の誘いに招かれて、彼の館で血を提供する関係になっていた。
身にまとっている服は、桃花のものだった。
もちろん、桃花自身から借り受けたのではない。
吸血鬼が桃花との逢瀬を楽しんだとき、
桃花の身体から剝ぎ取って自分のものにした服を肇に着せて、
肇を桃花に見たてて吸血を愉しんでいるのだ。
それでも、いちど別れてしまった桃花がそばにいるようで、肇は満足だった。
見覚えのある服も袖を通したし、初めて見る服もあった。
桃花がプライベートでどんなファッションを楽しんでいるのかを、彼はこういう形で知っていたのだ。
身に着けた服は吸血鬼に返したが、桃花本人をゆだねてしまうような気持になった。
吸血鬼は桃花と逢うたびに服を取り替えさせているらしく、
肇は桃花の服をなん着も、愉しむことができた。
いちど肇が身に着けた服を着て、桃花が市役所に出勤してきたときには、
思わず股間が熱くなって、そそくさと部屋からトイレに直行したことまであった。
吸血鬼の舌でしつように舐めまわされた足許からは、
桃花の代わりに穿いていたストッキングがむざんに裂けて、
その裂け目から肌に直接触れる外気が、そらぞらしいほどに冷ややかに感じる。
桃花はこんなふうにして、彼を満足させているのか・・・
嫉妬で狂いそうになったが、それでも彼は桃花になり切って、吸血鬼にかしづくのだった。
桃花の服を身に着けて吸血鬼に抱かれることが、桃花が彼を裏切る行為をなぞっているのだとわかっていながら、
肇は桃花の恋人の欲求を拒むことをしなかった。
「桃花はわしの牙に惑うて、お前を捨てた。
わしはお前から桃花を奪った。
じつはお前は――恋人を奪われてみたかったのではないか?」
鋭い見通しに足許を震わせながら、肇は頷いてしまっている。
そうなのだ。
恋する人を奪われたい。
もっともみじめな形で、皆に暴露されてしまうような形で、婚約者を寝取られ奪われる。
勤務中、上司が桃花をからかって、今夜は彼氏とデートかい?と冷やかすと、
桃花は人目を憚らず照れ、羞じらった。
周囲の男女も、桃花が彼氏を乗り替えたのだと知りつつも、「ふぅ~ん、お幸せに♪」などと、いっしょになって冷やかしている。
だれもが、肇が婚約までした恋人を吸血鬼に寝取られたのを知りながら、桃花の新しい恋を祝福しているのだ。
呪わしい光景。呪わしすぎる光景。
けれども――
そんな惨めな風景のなかで、どうしてぼくは恥ずかしい昂ぶりから逃れることができないのだろう?
自分を襲った悲運に、肇はいちはやく反応して、
ナイフのように心臓をえぐる悲しみは、すぐさま心の奥底からの歓びに変わっていた。
吸血鬼はいった。
「このままで済ますつもりはない。
お前は、わしが捨てた桃花ともういちど、縁を結ぶ。そして今度こそ、ふたりは結婚する。
だがな――そのあとのことはむろん・・・わかっておるぢゃろうの?」
ほくそ笑む吸血鬼の顔つきが憎たらしいほどに、図星を刺してしまっている。
「お礼は・・・もちろんいたします・・・」
桃花に扮した肇は、桃花になり切ったかのように、女奴隷のような科白を口にしてしまっている――
「ほんとに・・・いいの?」
きまり悪そうに、桃花は口ごもる。
「もちろん、最初からそのつもりだったから」
いつも引っ込み思案な肇のほうが、むしろずっと、歯切れがよかった。
きみを寝取られたくてたまらないんだから――とまでは、さすがにいえなかったけれど。
桃花が再び戻ってきたことに、彼の血管の隅々まで、歓びがいきわたるのを感じていた。
「でもあたし、あの人に襲われたらまた、随っちゃうよ。たぶん今度こそ、征服されちゃうからね」
肇はもう、負けていない。
「できればぼくのまえで――征服されてほしいんだ」
上ずった声に、桃花はプッとふき出していた。
「ほんとうにあなた――マゾなのね」
華燭の典は、とどこおりなく挙げられた。
その前の晩、桃花は肇の立ち合いのもとで、吸血鬼を相手に処女を捧げた。
鼻息荒くのしかかる吸血鬼の劣情に組み敷かれ、踏みにじられるような初体験だった。
なにも知らない両親が当地に向かっているあいだに、
彼らが自家に迎え入れるはずの花嫁はすでに、その身体に不貞の歓びを覚え込まされていた。
けれども桃花もまた、すでになん度も口づけを交わし合った情夫を相手に、息を弾ませて応じていって、
明日着るはずだった純白のウェディングドレスを精液まみれにされながら、
花婿を前にしての不貞に、明け方まで興じたのだった。
明日は花嫁となる桃花が、清楚なるべき盛装をこの暴君のために身に着けたいと願った時、
肇は、彼女の嫁入りが一日早まったことを理解した。
明日の華燭の典のヒロインが、
嫁入り前の白い肌を惜しげもなくさらして、
イタズラっぽい笑みさえ泛べながら、
おずおずと身体を開いていって、
市役所の係長としての責務を全うしてゆくのを、
吸血鬼が桃花がきょうまで守り抜いてきた純潔を容赦なく汚し、
蹂躙し、
しんそこたんのうし、
心まで奪い取ってしまうのを、
肇は目を輝かせ、昂ぶりに息を詰まらせながら見届けていった。
花嫁の婚礼衣装を精液で彩られてしまった新郎はその晩、
新居の畳や床までも、おなじ精液で濡らすことを承諾させられた。
もちろん悦んで、承諾してしまっていた。
「わしの兄がな、肇の母上のことを見初めおった」
婚礼の席上、ひな壇に陣取る肇にビールを注ぎに行くふりをして、吸血鬼が肇に囁いた。
え・・・?
肇はさすがにびっくりして、吸血鬼を視た。
「安心しろ、うまくやる。
ぢゃが、事前に息子である新郎殿の了承を取ってから誘惑したいと、兄が申しておる」
――それが、ぼくに礼を尽くすということなのだろうか。いや、きっとそうに違いない。
肇はそう感じた。そして、彼の直感は正しかった。
なにもりも夕べ、吸血鬼が桃花の肉体を隅々まで味わい尽くしていったとき。
桃花の身体を、心を、ぞんぶんに愛し抜いていたことを肇は知っている。
たんなる性欲の処理行為などではなくて、
この吸血鬼は桃花のことを、しんそこ愛してしまっているのだ。
吸血鬼は花婿の目の前で桃花の純潔を辱め抜き花嫁への深い愛を示すことで、肇に対する礼儀を尽くし、
自身の花嫁が目の前で辱め抜かれるのを目の当たりにすることで、肇は吸血鬼への礼を尽くしていた。
礼服の股間が逆立つのを感じながら、肇は囁き返した。
「父のことを傷つけないのなら――」
「肇は優しい息子だな。心得た。お父上の名誉は尊重しよう」
――ぼくの名誉も尊重したくせに、桃花を犯したんですよね?
肇はクスッと笑い、吸血鬼をにらんだ。
さっきからお色直しで席を外している花嫁の白無垢姿を追いかけていった吸血鬼が、
花嫁を控室で押し倒し、さんざんにいたぶってきたことを、肇は知っている。
「妹御には、許婚がおられるのぢゃな」
「妹まで牙にかけるおつもりですか」
「むろんぢゃ。処女が好みなのは存じておろうが」
「ははー、かしこまりました。どうそ妹の純潔も、ぞんぶんに味わってください。ご兄弟♪」
妹婿になるという男とは、この場が初対面だったから、肇はさほどの同情を抱かなかった。
お色直しのたびに、吸血鬼は姿を消した。
花婿も同時に、着替えと称して座をはずした。
むろん考えることは、ひとつだった。
夕べ精液にまみれた純白のウェディングドレスは、花嫁控室のじゅうたんを彩り、再び花婿ならぬ身の精液に濡れた。
カクテルドレスに着かえた時も、いっしょだった。
新郎新婦の入場で、腕を組んで傍らに立つも桃花が、ドレスの裏側を白く濁った粘液でびっしょり濡らしているのを思い描いて、
肇はかろうじて勃起をこらえていた。
「白無垢のときね、あのひとに懐剣抜き取られて、もう身を守るすべがないのねって、すごくドキドキした」
ふたりして戻った婚礼の席で、新婦は新郎にそう囁いた。
肇の父の名誉を尊重するという約束を、吸血鬼の兄弟は律義に守った。
そのために、彼らはいささか込み入った筋書きを用意した。
最初は、肇の妹が狙われた。
「少しもったいなかったがね、他所の土地から来たものは、一発でキメちまったほうが良いのさ」
とは、吸血鬼の言い草。
夕べ新妻の桃花の処女を食い散らしたぺ〇スは、愛する妹の純潔までも、初めての血にまみれさせたのだ。
気の強い妹は、強姦されたときに引き裂かれたストッキングを穿き替えると、
気丈にも何事もなかったような顔をして席に戻り、
それ以後は彼氏の問いかけにも応じないで、式のあいだじゅう、ずうっと黙りこくっていた。
潔癖だったはずの股間を、淫らな毒液が浸潤してしまうのは、時間の問題だった。
そのつぎはいよいよ、彼の兄が肇の母を狙い想いを遂げる番だった。
肇の母の名は、登美子といった。
兄弟は、性格がよく似ていた。
両親の部屋に忍び込むとき、
「あの部屋を出るころまでには、あの女のことを登美子と呼び捨てにすることを、
きっとご夫君から許されておることぢゃろう」
と、豪語した。
式がはねて、その晩泊る部屋に戻った肇の両親は、そこで吸血鬼の訪問を受けた。
くしくもその部屋は、昨晩当家の嫁が身持ちを堕落させたのと同じ部屋だった。
吸血鬼はおだやかに、夫妻に祝いの酒を進め、酔うままに打ち解けるままに、
自分の弟が新婦を挙式前から誘惑しつづけてきたと語り、
そして首尾よく、新郎の寛大なる理解と手助けを得て花嫁の純潔を手に入れたことを暴露した。
そのころには毒液を含んだ美酒は夫妻の血管を駆け巡り、理性を犯され始めた肇の父は、
息子が悦ぶことでしたら、それはけっこうなことですなどと、応じてしまっていた。
つぎは貴方の番ですよ――吸血鬼は意地悪く笑う。
貴方のまえで奥方を誘惑したい、黒留袖の帯というものをいちど、ほどいてみたい――とせがまれて、
せがまれるままに断り切れず――
腰の抜けてしまった肇の父は、うろたえる妻が着物の衿足をくつろげられて、帯を手ぎわよくほどかれてゆくのを、目の当たりにする羽目になった。
いけませんわおよしになって、主人のまえでと戸惑う声は、ディープ・キッスでふさがれてゆき、
肇の父も熱に浮かされたように、家内の貞操を貴方に差し上げますと誓ってしまっていた。
うろたえる夫。
うろたえる妻。
脱ぎ放たれた黒留袖を下敷きに獲物を組み敷いて、鼻息荒く迫る吸血鬼。
妻の黒留袖姿をまえに、
飢えた吸血鬼が行儀悪くよだれをしたららせながら襲い掛かるのを、
夫君はもはや制止しようとはしなかった。
そんなふうにして。
肇の父は惜しげもなく、長年連れ添った妻の貞操を、思い存分散らされていったのだ。
夫しか識らなかった股間はいかにも無防備で、
度重なる遠慮会釈ない吶喊に、分別盛りのはずの婦人の理性は、いともかんたんに崩れ落ちていった。
齢相応の分別というものをすっかり蕩かされた登美子は、
情夫に自分を呼び捨てにするのを許し、夫にも許してほしいと懇願していた。
彼の豪語は実現したのだ。
そして明け方になるころにはもう、今夜が自分にとっても婚礼だったのだということを思い知っていた。
夫君は気前良くも、きみと登美子は似合いのカップルだとふたりの仲を祝福し、
もはや登美子はきみのものだ、もしもきみが登美子をわたしから奪うというのなら、わたしは悦んできみの意向に随おう、
最愛の妻の名字を、きみの名字に置き換えてもかまわない――とまで申し出た。
しかし吸血鬼は、登美子をわしの奴隷にすることはのぞむところだが、
ご夫君のご令室のまま愛し抜き辱め抜きたいのだと希望した。
妻を犯された夫君が、吸血鬼の申し出を歓んだのは、いうまでもない。
こうして吸血鬼は結果的に、夫君の名誉を守ったのだった。
こうして吸血鬼の兄弟は、かたや弟が花嫁の純潔を勝ち得て、
つづいて兄が翌晩に、嫁の不貞を最も咎めるべきはずの姑の貞操を、辱め抜くことに成功したのだった。
夫君にも、褒美が与えられた。
最愛の妻の貞操を惜しげもなくプレゼントしたのだから、当然その資格があると、吸血鬼の兄弟はいった。
褒美とは、彼らが伴ってきた愛娘のことだった。
そう――夫君は心の奥底で、自分の娘を犯したがっていたのだった。
夫妻の血を吸い取ることで夫君の禁断の願望を悟った兄の吸血鬼に促されて、夫君は自分の娘を、その許婚の目の前で抱いた。
着飾ったよそ行きのドレスを反脱ぎにされて、肌色のストッキングを片方、ひざ下に弛ませたまま脚をばたつかせる彼女を前にうろたえる許婚に、肇はいった。
ぼくも夕べ、きみとまったく同じ体験を愉しんだのだ――と。
妹の許婚は、婚約を破棄することをあきらめて、未来の花嫁のために吸血鬼の愛人を新居に迎え入れることに同意した。
花婿二人は、獲物を取り換え合う獣たちを前に、
自分の花嫁がイカされてしまう光景にはらはらしつつも、
記念すべきその一日を、白昼の情事で極彩色に染めたのだった。
あとがき
お話、大きく前編と後編にわかれます。
前編は、結婚を控えた桃花が吸血鬼に狙われて、婚約者を裏切ってその餌食になるお話。
後編は、桃花と吸血鬼との関係を受け容れた肇の母親が婚礼の後、夫のまえで嫁の情夫の兄に犯されて、奴隷になってしまうお話。
まとまりのない話になってしまいましたが・・・どちらも好きなプロットです。^^
妻を汚されるということ。
2022年08月18日(Thu) 01:48:48
役所の車は、私用に使われることがある。
もちろん所属長が認める限りのことなのだが。
多くの職員たちはひっそりと、私用届を上司のもとに持ち届け、
上司たちは感情を消した顔つきで、しゃくし定規に判を捺す。
許可をもらった職員は、職員専用の駐車場から車を出して、自宅へと差し向ける。
そこにはよそ行きのスーツやフェミニンなワンピースに着飾った妻が待ち受けていて、
夫は華やかな装いの女を、助手席に乗せる。
行先は、街はずれのラブホテル。
あるいは、さらに鬱蒼と静まり返った古屋敷や、荒れ寺。
そこには若い女の生き血に渇くものたちが、自らの慰めを携えてくるものたちを、今や遅しと待ち受ける。
ホテルのフロントに二言三言囁くと、指定された部屋番号を告げられて。
職員は自身の妻を伴って、ドアをノックする。
そこに待ち受ける黒い影は、まず夫に襲い掛かると、首すじにかぶりついて、
息をのんで立ちすくむその妻の目の前で、夫の生き血を吸い取ってしまう。
生気を抜かれた夫が、からになったビール瓶のように客室のじゅうたんんじ転がされると、
こんどはその妻が、ベッドのうえに放り込まれて、
着飾ったブラウスを引き裂かれ、スカートをむしり取られ、ストッキングをいたぶり尽くされながら、
うつらうつらしている夫の目の前で身ぐるみ剥がれ、
引き裂かれたブラウスの襟首を持ち主の血で散らしながら首すじを咬まれ、
脚にまとうストッキングをブチブチと剝ぎ堕とされながらふくらはぎを咬まれ、
しまいには白肌をさらけ出して、犯されてゆく。
さいしょはまぐろのように横たわったまま、吸血鬼の凌辱を受け容れるがままだった妻たちも、
やがて夫の咎めるような目線に慣れ始めると、
しだいしだいに打ち解けていって、
着衣もろとも辱めようとする自身の愛人たちのけしからぬ趣向に、
わざと拒んだり嫌がったりしながらも応接するようになっていって、
しまいには夫の名前を叫びながら、よがり狂ってしまうのだった。
自分の妻が、ベッドのうえで、ほかの男を相手に娼婦のように振舞って、
結婚記念日にプレゼントしたスカートのすそを精液に浸し抜かれたり、
家の名誉を汚す淫らな粘液を、喉いっぱいに含まされたり、
主人のよりいいわぁ・・・などと、はしたない言葉を強制されるのを、
そのうち自分から口走るようになってゆくのを、見せつけられる。
妻たちが装い、唾液で汚され掌で引き裂かれ、辱められてゆくスーツやワンピースは。
かつて、結婚記念日や誕生日に、夫が自分で稼いだ金でプレゼントしたものだということを、
妻もそして吸血鬼どもも、よく心得ている。
夫たちは――自分の稼ぎで装わせた妻たちの貞操を、彼らにプレゼントすることを強いられているのだと。
いやでも自覚する羽目となる。
もはや理性を奪われた妻たちが、
四つん這いになった背後から、なん度もなん度も熱く逆立つ逸物をぶち込まれたり、
あお向けになった情夫の上にまたがって、自分から腰を使ってひーひー悶えながら髪をユサユサ揺らしたり、
間断ないまぐわいも、お互い息がぴったり合って呼吸を弾ませ合ってゆくのを見せつけられるなど――
結婚した当初には、予想もつかない仕儀であった。
夫たちは知っている。
これは妻たちから、罪悪感を取り除くための儀式なのだということを。
そしてじっさいには、
妻たちは自分たちの勤務中、家族の目を盗んで、夫の知らない密会を始終愉しんでしまっていることを。
ご念の入ったことに。
そうした事実を教えるために、妻の情夫たちはわざわざ夫に内密の連絡をとって、
留守宅に忍び込んだ夫婦のベッドの上や、
つい昨日夫のまえで見せつけたばかりのホテルの一室や、
時には街の人々が行き交う通りに面した草むらで、
彼らの妻の脚を、ストッキングの舌触りを愉しむように意地汚く舐めまわしたり、
しっかりとした肉づきをしたうなじに、舌をからませてみたり、
血を吸われることにも犯されることにも慣れ切った身体を、思い存分に弄ぶのだった。
夫たちもまた。
彼らの招待をこころよく受け入れて。
いつの間にか、最愛の妻が娼婦のようにあしらわれ、愛し抜かれてゆく有様を視る歓びに、目を眩ませていくのだった。
正の字。
2022年08月18日(Thu) 01:25:14
ひところ300人を数えたという市役所の職員は、今や200人ほどに減っていた。
なにしろ――吸血鬼に支配された街である。
相当数の市民が転居してしまい、それにつれて職員も離脱するものが相次いだ。
とうぜんのことだろう。
自分の妻や娘が吸血鬼の毒牙にかかって平気だという男のほうが、まれではないか。
けれども――すでに多くの男たちが咬まれ、吸血鬼に心酔してしまっているこの街で。
妻の貞操や娘の純潔を守り抜こうとするものは、すっかり少なくなっていた。
市役所の玄関に、奇妙な掲示がされるようになったのは、そうしたころのことだった。
正の字が、控えめな筆跡で、一本また一本と、引かれてゆく。
足取り鈍く出勤してくる職員たちが、人目をはばかるようにひっそりと、一本また一本と、正の字を引いていくのだ。
前の晩襲われた人妻や娘の数を、意味していた。
体重の約8%が血の量だと言われている。
そのうち20%も喪うと、生命にかかわるという。
だから、体重が40kgの女性だと、640mlほどが限界だということだ。
吸血鬼たちは、女性たちの生命を損なう意思はない。
なので、それ以上の血液をひとりの女性の身体から啜り取るということは、まずない。
もっと多くの血を彼らが欲する場合には、彼女の夫や娘が、餌食となる。
いちど彼らの牙の味を識ってしまったものは皆、彼らの毒に酔いしれるようになってゆく。
正の字の数からすると。
夕べ職員やその家族の体内から喪われた血の量は、20ℓにものぼった。
ひと晩のうちに、40人もの女性が、彼らの牙に弄ばれた――否、献血に協力し職員としてのキムを果たしたことになる。
夫よりも遅れて登庁した市長夫人もまた、純白のスカートのすそをしゃなりしゃなりとさせながら、誇らしげに棒を一本、引いていった。
数々の掌によって引かれた、ぶかっこうな正の字には。
一本一本に、夫たちの想いを載せている。
一本一本に、淫らに堕ちていった女たちの喘ぎが、込められている。
回りくどい告白。
2022年08月18日(Thu) 00:24:42
市長の奥さんが、吸血鬼の餌食になった。
三上の言葉に妻の優里恵は言葉を失った。
意思を喪った といっても良いかもしれない。
それくらい優里恵は、夫の上司の夫人に心酔していた。
いや、おそらくは――
この狭い街の住人のほとんどが、この高雅なトップレディを崇拝していたといっても過言ではなかった。
でも・・・そんな・・・
戸惑う優里恵にとどめを刺すように、三上はいった。
市長も、二人の仲をお認めになっているそうだ。
ご覧――
三上の指さすほうに目をやると、純白のスーツ姿の婦人が、見知らぬ男と語らっているのがみえた。
洋装のスーツを和服のような奥ゆかしさで着こなす人は、たぶんあのひとしかいない。
相手の男は市長夫人の肩にそっと手を添えると、夫人はすんなりと頷いて、すぐ目の前のビルへと消えた。
ラブホテルのロビーだった。
献血するときに、彼らが専用に使用しているらしい。
三上は妻に囁いた。
優里恵も・・・なん人かの人妻仲間から、そのことは聞き知っていた。
彼女の周囲でも、吸血鬼に身を許す人妻が続出していたのだった。
こっちへおいで。
三上は優里恵を、路上に連れ出した。
陽射しのまっすぐな表通りを、夫婦肩を並べて歩いていると、優里恵は少しだけ、冷静さを取り戻した。
けれども、彼女が取り戻しかけた理性はすぐに、もうひとつの情景のまえに、粉みじんに砕かれることになる――
こっち、こっち。
まるでいけないものをのぞき見しようとする悪い男の子のような顔をして、夫は優里恵をいざなってゆく。
たどり着いたのは、市役所近くの公園だった。
広々とした公園は緑が豊かで、街なかにあるとは思えないほどの奥行きを感じさせ、市民の憩いの場となっている。
三上はその公園の入ってすぐの片隅の、芝生の奥へと足を踏み入れてゆく。
遊歩道から離れ、あまり人のいない一角だった。
生垣の向こうに、優里恵は異変を感じた。
なにかまがまがしい気配が、どす黒く蠢いていた。
視て御覧。
夫に促されるままに生垣の向こうを覗き込んだ優里恵は、はっと足許をこわ張らせた。
肌色のストッキングに包まれた豊かな肉づきを、三上は我妻ながら惚れ惚れと盗み見る。
硬直しきったふくらはぎは、やや硬く筋ばっているようにみえたが、
それがまたカッチリとした輪郭をきわだたせ、四十にはまだだいぶある女の肉づきを、艶めいたものにしていた。
このふくらはぎに遠からず、吸血鬼の牙が食い込むのだ――
忌まわしい想像にそれでも三上は、歪んだ昂ぶりを覚えずにはいられない・・・
見開かれた優里恵の眼は、生垣の向こうの情景にくぎ付けになっている。
それもそのはずだった。
そこにいたのは、見知らぬ男と、官舎では向かい合わせに住む、町村助役の夫人・規美香の姿があった。
規美香とはしばしば行き来があり、つい先日も連れだって、デパートに買い物に行きランチをしたばかりだったのだ。
しかしそこに横たわる女は、いつもの快活な規美香ではなく、別の女だった。
きちんと着こなした上品なスーツを惜しげもなく着崩れさせて、
はだけたブラウスから覗く胸は、取り去られたブラジャーを押しのけるようにして豊かに熟れた乳房をあらわにし、
スカートを脱いでこれまた惜しげもなく曝された太ももの周りには、
ずり降ろされたストッキングがふしだらな弛みを波打たせまとわりついている。
淫らな吐息もあらわに戯れる、娼婦のような女――
それが目の前にいる女だった。
助役夫人の首すじには、バラ色のしずくを滲ませた咬み痕がふたつ、綺麗に並んで付けられている。
びっくりした?
夫の問いに頷き返すことさえ忘れて、優里恵はふたりの痴態から目を離すことができなくなっている。
白昼、陽射しの照りつけるさなか。
慣れ親しんだ同性の友人が、それも夫の上司である助役夫人が、見知らぬ男と痴態に耽り、別人のように乱れ果てている。
ショッキングな光景は優里恵の脳裏に狂おしく灼きついて、声を発することも、知人のふしだらをとがめることも忘れ果て、
その間に彼女の理性はまるで紅茶に沈んだ角砂糖のように、脆くも崩れ果てていくのだった。
幻惑された。そういってよかった。
忘れられない光景だった。あのひとが、規美香夫人が、夫のいる身で娼婦になり果てるなんて。
さりげなくさらけ出された、自身よりも秀でているように映る肢体が、男の逞しい体躯に、白蛇のように絡みつく――
スカートの奥に秘めた下腹部に、なにかがジワリとしみ込むのを、彼女は感じた。
行こう。
囁く夫の言に随って、彼女はわき目も振らずに現場から離れた。
視たよね?
視たわ。
どう思う?
どう思うって・・・ふしだらだわ。
愛し合っているとしても・・・?
そんな馬鹿な。
人の心は、裏まで見通せないものだからね。
いつも子供っぽいと思い込んでいた夫の声音が、どことなく深々と、優里恵の胸に食い込んだ。
視て御覧。
もういや。
でも、もういちどだけ――
彼方になった生垣の向こう、男女はすでに起きあがっていた。
そして優里恵は、もういちど、目を見張ることになる。
どこから立ち現れたのか、そこには規美香の夫・町村助役の姿があったのだ。
勤務の中を抜け出してきたのか、助役は夫と同じく背広姿だった。
彼は、さっきまで自分の妻を犯していた男と和やかに言葉を交わし、男もまた慇懃に、助役の声に応じている。
なにを話しているのかまでは聞き取れなかったが、二人がそう険悪な関係でないことは、容易に伝わってきた。
ご主人何も知らないの・・・?
優里恵が夫にそう囁こうとしたとき、その唇は凍りついたように止まった。
町村助役のまえ、男は規美香を我が物顔に引き寄せると、優しく抱き留めて、深々としたディープ・キッスを果たしたのだ。
夫である助役は控えめに傍らに佇んだまま、むしろ二人の様子をまぶし気に見つめている。
男は規美香の手の甲に接吻をして、いちどはその場から離れようとした。
ところが助役はふたりの間に入ると、妻と男の手を捕まえて結び合わせるように手を握らせると、
妻に二言三言囁いて――離れていったのは男のほうではなく、助役自身のほうだった。
助役夫人はそのまま、未知の男と腕を組み、まるで恋人同士のようにしてその場を立ち去ってゆく。
向かう先が、さっき市長夫人が不貞の場に選んだホテルの方角だと、優里恵にもすぐにわかった。
視たね?
視たわ。
あのひとは、吸血鬼のなかでも四天王と呼ばれるほどの大物なんだ。
日常的に献血に応じてくれるご婦人を最低一ダース必要とする、精力絶倫のひとだそうだ。
ご夫婦が散策しているところをたまたまあのひとが見初めて、助役夫人に「奥さんの血を分けてほしい」と望まれたそうだ。
助役はあのひとの奥さんに寄せる好意をかなえてあげることにして、
その晩――奥さんはあのひとの恋人にされたそうだ。
先日市役所で通達が流れてきた。
市長夫人が吸血鬼への献血に応じたことを自分から表明して、
ほかの市役所職員のご家族や女性職員に向けて、献血事業への協力を呼び掛けたんだ。
夫人が堕ちた日は「恩恵の日」と呼ばれることが正式に決定して、
その「恩恵の日」より前に吸血鬼に身を許した女性は、
「軽はずみな娼婦」と呼ばれることになって
市長夫人よりも身持ちの堅かった――つまりまだ貞操を保持している人妻は、
「身持ちの正しい賢夫人」と呼ばれることになったんだ。
だからきみは、「身持ちの正しい賢夫人」ということさ。
まだ、どの吸血鬼にも襲われていないのだろう?
ええもちろんよ・・・優里恵は言いかけたが、なぜかそれは言葉にはならなかった。
そして、夫の言葉は彼女の顔つきを、完全に凍りつかせることになる。
「あのひと、つぎはきみを餌食にと狙っている。きょう、本人から望まれたんだ」
回りくどい告白ね。
すごくすごく、回りくどい告白ね。
優里恵は微笑んだ。微笑もうとした。けれどもうまく微笑むことはできなかった。
市長夫人の行動を夫である市長から教わり、
分別盛りの齢ごろの妻が市民の憩いの場の片隅で「あおかん」に及ぶことを助役から教わり、
そのうえで、きょう受けたという告白を妻に伝える――
うろたえながらもこれだけの段取りを果たした三上のことを、優里恵は有能なやつだとおもった。
有能な職員の妻は、やはり夫に見合った役目を果たさなければならないと、同時におもった。
身体の奥がビクン!と、衝動にわなないた。
恥を忘れて夫のまえで淫ら抜いた規美香の姿が、ありありとよみがえった。
こんどは――私の番だ。
規美香は感情を消した笑顔を夫にむけて、いった。
じゃあ私も、娼婦になっちゃってかまわないのね?
いま穿いているパンスト、あのひとのよだれで濡らされちゃったり、咬み破らせちゃったりしても良いのね?
三十代の人妻の熟れた血――愉しませてあげちゃって、かまわないのですね?
今夜、お招きしようと思う。きみという御馳走を、あのひとに振舞うために――
十二になる娘の由香は、母の家に預けよう。
そして、妻がまだ若いうちjに吸血鬼の牙を、舌を、喉を愉しませる幸運に、俺も浸り抜こう。
十数年連れ添った妻を堕とす段取りを整えてしまった男は、いつか自分の股間をいびつな昂ぶりにゆだね始めてしまっている。