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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

街に棲みついた夫婦の記憶。

2023年04月11日(Tue) 15:14:29

工藤健斗さんは人懐こい男性だった。
奥さんのカオリさんも、似たような人柄にみえた。
カオリさんは程よく陽灼けした丸顔に満面の笑みを湛えて、
シンプルなデザインの白のブラウスにからし色のロングスカートを穿いていた。
「太いから隠してるんです」と笑いながら、こげ茶色のストッキングに包んだ太目の脚を、ごく控えめに覗かせている。

「この街ではね、女のひとは脚太いほうが良いんですよ」と健斗さんは笑う。
「なにしろ、嚙みごたえの良さって連中は重視しますからね」
どういうことなのか、吸血鬼と共存しているこの街にいちどでも棲んだことのある人なら、すぐに察しをつけるだろう。

この夫婦は、去年の秋にこの街に移り住んだ。
それ以前のことは、「ほかに行くところがなかったから」と、言葉少なにしか語ろうとはしなかったが、
この街を安住の地としてすっかり居ついていることは、夫婦のやり取りからも感じられた。

やがて待ち合わせの時刻に少し遅れて、五十年配の顔色の悪い男性が現れた。
旱川(ひでりかわ)タカトさんは、吸血鬼である。
生粋の吸血鬼ではなく、若いころ奥さんともども血を吸われて吸血鬼になり、
以来30年近く、街の人たちに血を分けてもらって生活している。
離婚した奥さんは、それ以来自分の血を吸った吸血鬼と同居生活をしているという。
結婚したばかりの妻を吸血鬼に奪われた形だが――
「前の妻とはいまでも交流があります。血を吸わせてもらうこともあるし、
 先方の吸血鬼とも仲良くしてもらっています。
 何しろ、わしのことを吸血鬼にした男ですから、困ったときの相談相手にちょうど良いんです」
タカトさんは淡々と語り、素朴に笑う。
そして、傍らに居たカオリさんに近寄ると、肩を抱き寄せてむぞうさに首すじを噛んでゆく。
吸いついた唇からカオリさんの血が洩れて、着ているブラウスを濡らしたが、カオリさんはニコニコと笑っていた。
ご主人の健斗さんも和やかな顔つきを崩さずに、タカトさんが自分の妻の生き血を旨そうに啜る音に聞き入っている。
「きょうはいちだんと、美味しそうですね」と、健斗さん。
「カオリの血は、いつだって旨いやね」タカトさんも目を細めてこたえてゆく。
奥さんのことを呼び捨てにされても、健斗さんの笑みは消えない。
奪い尽くされてもなお夫婦関係を維持している彼の、夫としての自信を表しているようにもみえた。

貧血でちょっとだけ足許をふらつかせたカオリさんだったが、
気丈にも踏みこたえて、長い髪をぞんざいに掻きあげながら照れ笑いを浮かべた。
「こんなのいつものことだもんね」
カオリさんは健斗さんに声をかけた。
「家内は彼の気に入りなんです。さいしょはさすがに、焦ったけどね」
健斗さんは屈託なく笑っていた――


【カオリさんの回想】

この街にいれば安全だけど、この街そのものがアブナイところだっていうんです。
でもほかに行くところがないし――仕方なくこの街に住むことにしたんです。
主人はすぐに仕事が見つかって・・・そのときの取引先が、タカトさんだったんです。
街に入る前にあらかじめ吸血される決められていて、その人に血を吸われることになるんですって――
「まるで配分されるみたいで、ちょっと嫌だったな」
主人も時々、そのときのことを思い出すみたいです。
でも、あたしが襲われるときには、主人は助けてくれません。
助けちゃいけないことになっているんです。
あたしも、身を守ろうとしたり、逃げたりしてはいけないそうで――
血を吸い尽くされちゃったらどうしようって、まじで焦りましたね。。。

街に引っ越してきてすぐに、土地の信金に口座作ったんです。
びっくりしたのは・・・窓口の女の人が着ている制服のブラウスに、赤い血が撥ねていたんです。
それなのに、何事もなかったように「いらっしゃいませ」ってにこやかにお辞儀をしてきて・・・
「あの・・・だいじょうぶですか??」って思わず訊いちゃったんですけど、
「このへんでは普通ですから」って、こともなげに返されちゃいました。
いまでは個人的に仲良くしているんですけど――当時はいまのご主人と付き合っていて、
でも勤務中に迫られて血を吸われちゃった相手にも迫られていて、恋人関係だったんですって。
そのひともうちといっしょで、ご主人と吸血鬼は仲が良くて。
お相手の吸血鬼が制服フェチな方なので、結婚してからも奥さんは信金で今でも働いているんです。
金融機関と言っても――このあたりは暇ですからね。。
勤務時間中に襲われる子が、なん人もいるらしいんです。

信金のお姉さんの態度を見て、これは大変なところに来てしまった――と、改めて思いました。
そこでね、女の浅知恵なんですけど・・・色仕掛けしちゃおうって思ったんです。
襲われて血を吸われるときにセックスしちゃえば、女として気に入ってもらえれば命だけは取られないかなって。
ダンナも助けてくれないし、身を守るにはそれしかないって。

襲われるさいしょの日、主人はあたしを連れて旱川さんのお宅にお邪魔したんです。
えーと、あのときの服装は、黄色とオレンジのない交ぜになったワンピース着てました。
いまでもたまに着てます。初めて咬まれたときに撥ねた血がついて、落ちないんですけど――
カラフルになっていいじゃないって、いうんですよ。男たちは、無責任ですよね。
ストッキングも着用義務づけでして・・・礼を尽くすということなのかなって思って穿いて行ったら、それが全く違って。
脚を噛むときにストッキングも一緒に咬み破って楽しむんですよね。とてもエッチなんですよ。

主人はあたしを連れてくると、玄関近くの部屋で待たされました。
奥の部屋には、あたしひとりが呼ばれたんです。
タカトさんは、父より少し若いかなってくらいの齢にみえました。
実際には、10歳くらいしか違わないのに、血を吸い取られて顔色が悪かったから、老けて見えたんですね。。
血で汚れてもいいように、作業着姿でした。
あたしの服はどうしてくれるのよ?って、あとで思っちゃいました。(笑)

お部屋ではふつうに初めましてのごあいさつをして、どこから来たの?とか、ご主人はなにをしていたの?とか、
ありきたりの会話をしました。
そこでちょっとだけ、気持ちが落ち着いたかな。
でも、あたしの首すじや足許を、値踏みするみたいな目つきでじーっと視ていたので、やっぱり怖かったです。
「あの・・・あの・・・お願いがあるんです」
核心事項は、あたしのほうから切り出しました。
血を吸われるのはわかってます。美味しいかどうかわからないですけど、一生けんめい差し上げます。
でも死にたくないんです。吸い尽くしたりしないでくださいねってお願いしました。
それから――もしあたしでよかったら、犯しても良いです。その代わり殺さないで。
主人来てますけど、問題ありません。愛人になります。気持ちよくしますからって。そこまで言っちゃいました。
あとで主人に渋い顔されたけど――でも主人あたしが血を吸われるのを助けてくれなかったんですからね・・・

そうしたら、この人言うんです。
「ミセスの人の血を吸ったら、抱くのがふつうだけど」ですって。
そんなこと聞いてなかったですから・・・えー?どのみち抱かれちゃう運命なんですか?って、軽く絶望しましたね。
もう生命を守る手段がない・・・あのときはほんとうに、困りました。
でも、彼・・・言ってくれました。
きみは真面目そうだし、誠実に尽くしてくれそうだし、とにかく死なせたりしないからって。
えっ?えっ?って、あたしもう戸惑っちゃいまして・・・夢見る花嫁でしたね。
彼はおもむろにあたしの肩を抱き寄せて、さっき咬んだときみたいに、ごくさりげなくあたしのことを抱き寄せて、
そっと首すじを噛んだんです。

生温かい息遣いが迫って来たなって思ったら、もう嚙まれてました。
血がじゅわッてにじみ出て、それをピチャピチャ舌を鳴らして舐めるんです。
つけられたのはかすり傷でした。さいしょはそれで済ませてくれるつもりだったみたいです。
でもそれだけじゃご満足いかないらしくて――やっぱりそのあとすぐに、強く嚙まれちゃったんです。

ワンピースに血が撥ねました。でもそれどころじゃなかったです。
痛たぁーーいっ!って叫んじゃいました。
主人にも聞こえたみたいで――気が気じゃなかったって後で言われましたけど・・・
でも、痛いのは最初だけでした。
この人、毒素を持っていて、痛みを麻痺させちゃうんです。
だからあたしはその毒素を植えつけられちゃって・・・
気がついたら、立ちすくんだまま、強く抱きすくめられた腕の中でした。
牙は根元まで突き刺さっていて、素肌に唇を這わされていました。
それが始終うごめくんです。ヒルみたいに。
イヤラシイって思ったけど、もちろんそんなこと間違っても言えやしない。
満足して、とにかく早く満足してあたしを放してって思ったけど。
犯すところまでいくっていうから、「早くして」って意味が違うことになってしまう・・・(笑)
とにかくもう、どうすることもできないまま、ひたすら血を吸い取られていったんですよ。
ドラキュラ映画のヒロインみたいで、きみはとても素敵だったって言ってくれるけど。
絶対、オロオロしてたと思うんです。

ひとしきり血を吸い上げられちゃうと、もう貧血起こしちゃって・・・
すぐにそれと察して、ソファに寝かせてくれました。
居心地の良いソファにゆったりと横たえられて、姿勢が楽になったと思ったのはつかの間で・・・
このひと、あたしの足許ににじり寄っていったんです。
エエ、お目当てはあたしの穿いているこげ茶のストッキングでした。

「ストッキングはけちらないで、新しくて高いやつ奮発して穿いて行きなさいよ。
 もしも持ち合わせがなかったら、あたしが貸してあげてもいい。
 当日着ていく服ともども、花嫁衣裳みたいなものなんだからね」
――って、お隣の奥さんが教えてくれました。
花嫁衣裳か。たしかに、あのあとすぐに「花嫁」にされちゃいましたからね・・・
なので、持っていた未使用のストッキングで、いちばん値の張るやつを、がんばって穿いて行ったんです。エエ、それこそ「奮発」して。

タカトさんたら、あたしのストッキングのうえから唇をジワッと吸いつけてきて、
たんねんに、たんねんに、糸の一本一本まで舐め分けてるのかとおもうくらいしつっこく、
あたしの脚を舐め抜いたんです。
薄地のナイロン生地のすき間から、タカトさんのよだれが素肌の奥深くまでしみ込んでくるような感じがして――
あー、またなにかを植えつけられちゃうなって感じました。
でももう、どうしようもないじゃないですか。
けだものの獲物になって血肉を貪り尽くされちゃう餌食なんですから・・・
ふだんだったら、男のひとにストッキングをいたぶられるなんて侮辱以外のものではないはずなのに、
ウットリしながらびしょ濡れになるまで舐めさせてあげちゃってました。

そのあとね、こんどは牙をググっと圧しつけてきて・・・
あーと思っているあいだに、ストッキング咬み破られながら再度の吸血です。
しつこかったですね。本当に・・・
片脚が済んだら、もう片方も――ええ、首すじのときよりもたっぷり吸い取られたんじゃなかったかしら。
でもあたし、このころになるともう、なんだかこの人に血を味わわれるのが嬉しくなっちゃってて・・・
子どものころ、健康優良児だったんです。体力にも自信ありました。
だから、あたしが楽しませてあげることのできる血の量をありったけ、彼に捧げちゃおうって思うようになっていたの。
ゴクゴクと喉を鳴らしてワイルドにむさぼられていたのに、ちっとも怖くなんかないんですよ。エエ、強がりとかじゃなくって。
貧血になって徐々に血の気が引いていくのがありありとわかるんだけど、
若くて健康なあたしの血で、身体を暖めて。いっぱい飲んで、味も楽しんじゃって・・・って、心の中で言いつづけていました。

気がつくと、彼の顔がすぐ目の前にあって――
その眼がとろんとして、あたしの顔を見入っているんです。
ああ、わかった。わかったわ――あたしが欲しいのね?あたしに愛してもらいたいのね?ってわかったから。
もうそのころには穿いていたパンストは破れ堕ちて、ひざ小僧の下までずり降ろされちゃってたんだけど、
自分からショーツを脱いで、どうぞ・・・って、囁いちゃっていました。

強かったですね。強烈でした。主人の何倍も――
ええ、股間から身体の奥まで突き刺されるような衝撃でした。
ジワッと滲んだ暖かい感触――あれ精液だったんですね。それがジワジワと身体のなかに拡がっていって――
あとからあとから、ドクドクとそそぎ込まれてきたんです。
受け留めなきゃ、それがあたしの務めなんだからって思って、
タカトさんの背中に腕を回して、身体をひとつにくっつき合わせて、
ついていくのが大変だったけど・・・激しい腰の動きに合わせて、腰を振ってお応えしました。

夢中だったのですぐにはわからなかったけど、主人ったら、あたしが腰を使ってるの視ていたんですよ。
気になってしょうがなくって、ドアを開けたら施錠されていたはずなのにいつの間にか開いていて・・・って言っていました。
あとで聞いたら、タカトさんも、さいしょに犯すところは主人に見せたかったらしいんです。
この女はわしのモノだって、宣言したかったんじゃないかしら。
あたしも・・・主人の視線がくすぐったくって。
ふだんのセックスよりもずっとずっと、舞い上がっちゃっていましたね。ああ恥ずかしい――


取材を受けている間、健斗さんはカオリさんのことを眩し気に見つめるばかりだった。
その様子は、心ならずも吸血鬼に肌身を許した自分の妻が悦びに目ざめてしまったことに、むしろ満足さえ感じているかのようだった。
カオリさんの談話を耳にしながらタカトさんが、さっき咬みついた痕をなん度も舐めまわして行くのも、咎めようとはしなかった。
「あの日あの時からですね、ボクもタカトさんにシンパシーみたいなものを感じるようになったんです。
 カオリのことを気に入ってくれているようでしたから、それがむしょうに嬉しくて――
 せっかく最愛の奥さんを抱かせちゃったんです。やっぱり気に入ってもらえたほうが良いじゃないですか。
 数えていたんだけど、カオリは七回も愛されたんですよ。
 生身の人間であそこまで深くなん度も女のひとを愛することはできないってくらいにです。
 彼女、目いっぱい犯され抜いて、その後白目を剥いてぶっ倒れちゃったんです。
 気絶したカオリのことを抱き支えながら、彼いうんです。今夜はカオリのことを独り占めさせてほしい・・・って。
 もちろん妻がもうぼくのところに戻ってこないのでは?という心配はありました。
 でも、奪うことはしないって約束してくれたのを信じることにしたんです。
 約束通り、タカトさんはカオリを解放してくれました。
 翌朝いちばんに彼女が玄関先に現れたのを見て、うれし泣きしてしまいましたね。
 その後はお昼までぶっ通しです。彼女はあんなに疲れた日はなかったって言っていますが、
 はっきり言ってボクとまる一日過ごすよりも、彼のところでひと晩過ごす方がずっと、重労働ですよ。(笑)
 それからはボクも彼との約束を守って、妻を彼の恋人として捧げたんです。
 最愛の妻の貞操を汚奪ってくれたのが彼で、良かったと思っています。汚されがいがありましたね。
 今では完全に家内は彼の奴隷ですけれど・・・後悔はないです。
 いまでは周囲には、ボクのほうからお願いして、家内を襲ってもらったと話してあります・・・」

彼の言葉はまだ終わらなかったが、インタビューを終えたタカトさんは再び、カオリさんににじり寄っていた。
夫の健斗さんはすっかり心得ていて、「ああまたですね」と言いながら、カオリさんのロングスカートのすそをたくし上げてやっている。
あらわになった健康そうな脚にタカトさんがしゃぶりつき、
それこそ「糸の一本一本まで味わい抜くほどに」彼女の気に入りのこげ茶色のストッキングを辱めてゆく。
強く圧しつけられた唇の下でストッキングが裂け、吸血の音が重なるにつれてその裂け目を拡げ、他愛なく剥がれ落ちていった。

最後にはタカトさんが、手近な草むらにカオリさんを引きずり込んで、道行く人の目も憚らずにブラウスを剝ぎ取って、
吊り紐を断ち切られたブラジャーからこぼれ出た真珠色の乳房をまさぐり抜いてゆくのを、
健斗さんはいつまでも満足げな笑みを絶やさずに見つめているのだった。