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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

通勤用の靴下を破かれながら~ある夫婦赴任者の末路~

2023年06月15日(Thu) 13:51:39

【あらすじ】
前作と同工異曲。

この街に来て、ようやく一週間が経った。
吸血鬼のいる街だと聞かされて戦々恐々として家族と移り住んできたのに、
拍子抜けするほど何事もない。
きょうも廻河恵介(41)は、早すぎる退勤時間に戸惑いながらも、事務所を出た。
今でもその時のことを、あのときはいきなりでびっくりしたな――と思い出す。
襲撃はそれくらい、唐突だった。
社屋を出てすぐから、だれかが黒い影のようにひっそりとあとを尾(つ)けてくるのに、この不運な転入者は気づかなかったのだ。
背後から忍び寄ってきたその黒い影は、あっという間に恵介のことを、その力強い猿臂に巻き込んでいた。
「あ、なにを――」
声をあげた途端、首すじに尖った異物がずぶりと突き刺さるのを感じた。
疼痛を圧し包むように生温かい唇が柔らかに圧しつけられて、
にじみ出る血潮をチュウチュウと吸い取られてゆく。
「お、おい、きみ・・・っ」
恐怖に上ずった声が途切れた。
黒影はにんまりと笑むと、男の首すじに突き刺した牙を、根元まで突き通していった。

つぎに恵介が我にかえったのは、事務所の近くの公園のなかだった。
ふだんは人も来ない生垣の裏側に、引きずり込まれていたのだ。
吸血鬼がだれにも邪魔されずに獲物をたんのうするときによく使う場所だと、そのときの恵介はまだ知らない。
黒影は恵介のスラックスを引き上げると、こんどは足許に唇を圧しつけてくる。
恵介の靴下は丈が長めだった。
紺地に赤の縦のストライプの走ったしなやかな生地が、ふくらはぎの半ばまでを覆っている。
その上から圧しつけられた唇は、すこしの間恵介の靴下の舌触りを愉しむかのようになすり付けられた。
這わされた舌が分泌するねっとりとした唾液がじわじわと滲んでくるのを感じた。
恵介が意識を取り戻したのを、影はかすかな身じろぎでそれと察して、
抑えつける掌に、いっそう力を込めてくる。
首すじの疼痛が、ジンジンと響いた。
短い時間に少なからぬ量の血を奪われたのを、恵介は自覚した。
だらりと垂れた手足には力が入らず、けだるげに草に埋もれたままになっている。

「おい、きみ、一体何を・・・」
ふたたびあげた声は、またしても途切れた。
唇の両端からにじみ出るように突き出た尖った歯が、靴下ごしに皮膚を破って食い込んできたのだ。
滲んだ血が、靴下に生温かくしみ込むのを感じた。
「や、やめてくれっ!」
恵介は恐怖に縮みあがって叫んだ。
けれどももとより、黒い影は手かげんをしようとはしない。
飢えに任せて、渇きに任せて、ただひたすらに恵介の靴下を濡らしながら、こぼれ出てくる血潮を口に含み、喉を鳴らしてゆく。
首すじも、まだ噛まれていない側をもういちど嚙まれた。
ジュルジュル音を立てて、血を啜られながら恵介は、
意外にも、それが決して嫌な気分ではないことに気づきはじめていた。

恵介の耳もとで聞えよがしにゴクンゴクンと喉を鳴らすと、やっと唇を放して、
手の甲で口許を拭い、黒影は初めて、満足そうな吐息を洩らした。
旨い――と呟くのが、恵介の耳にも聞こえた。
「ど、どうするつもりなんですか!?」
切迫した響きを帯びた恵介の問いに初めて、影がこたえた。
「あんたの血を少しだけ、楽しませていただく」
「こ・・・殺す気か・・・?」
「おとなしくわしを満足させてくれたら、そこまではしない」
影は短くこたえた。
「眩暈がする」恵介がいうと、
「もう少しの辛抱だ」と、影は恵介を許そうとはせずに、
まだ噛んでいないほうのスラックスを引き上げると、靴下の上からまた舌を這わせた。
靴下を舐め味わい、噛み破るのを楽しんでいる――恵介は直感した。
少しでもよけいに楽しませれば、死なずに済むのか・・・?
ピチャピチャと舌を鳴らして靴下によだれをしみ込まされていきながら、恵介は短くうめいた。
噛まれる直前恵介は、相手が自分の履いている靴下を舌をあてがうようにしてヌルッと舐めるのを感じた。
芝生のうえでのたうち回りながら、恵介はしつように靴下を噛み破られながら吸血された。
噛み痕ひとつひとつは、擦過傷に過ぎなかった。
血の味と、靴下破りを楽しむには、きっとそれで充分なのだろう。
影は恵介にとどめを刺すように、ふくらはぎの真上から強く噛んだ。
靴下が大きく裂けて、血がジワジワと生温かくしみ込むのを感じた。
チュウチュウ、チュウチュウ――
自分の血が吸い上げられる音が、ひどくリズミカルだと思った。
そうこうしているうちに、恵介は失血からくる眠気に誘われて、意識を昏(くら)くしていった。

恵介の妻、美知子(38)が襲われたのは、その約30分後だった。
スーパーで買い物を済ませた美知子は、家路を急いでいた。
自転車の行く先を、黒い影のような男に遮られた。
「危ないッ!」
キッと音を立てて、美知子はかろうじてブレーキを踏んだ。
「奥さんこっち来て」
影は白い歯をみせてそういうと、美知子の手首を掴まえて、自転車から引き離そうとした。
揉み合うふたつの影がひとつになった。
影は美知子の首すじを嚙んでいた。
ギューッとつねられるような痛みに美知子は悲鳴をあげて飛びのき、逃げようとした。
自転車が音を立てて倒れ、野菜や洗剤がその場に転がった。
美和子の抵抗はむなしく、先刻夫がそうされたように、彼女の肢体は好色な猿臂に巻かれていった。
影は美知子の手を強引に引いて、傍らの草むらへと身を淪(しず)めた。

ひいッ・・・
美知子はうめいた。
男が今度は、反対側の首すじを狙ったのだ。
地味なモスグリーンのカーディガンに、紅い飛沫が飛び散った。
ちゅ、ちゅ~っ・・・
すかさず吸いついて来た唇が美知子の首すじに密着して、
まだうら若さを秘めた熟れた血潮を、ヒルのように貪欲に吸い上げてゆく。
美知子は姿勢を崩すまいとして、草むらの陰で両手を突いた。
影は先刻彼女の夫にそうしたように情け容赦なく、
美知子のうなじの皮膚の奥深く、無慈悲な牙をグイグイと食い込ませていった。
38歳の人妻の生き血は、さもしい食欲の赴くままに啖(くら)い取られてゆく。
血を啜る音が洩れるあいだじゅう、美知子は身を起こそうと力んでは、
男との力比べに負けてふたたびみたびと、ねじ伏せられていった。

美知子がその場に倒れ臥すと、影はにんまりと笑みを泛べた。
乱された紺色のスカートのすそから覗くふくらはぎは、濃いめの肌色のストッキングに包まれている。
クククッ・・・
含み笑いとともに、恥知らずな唾液を帯びた唇が、ストッキングを濡らした。
ひっ・・・
幸か不幸かまだ意識のあった美知子にとっては、生き地獄だった。
男はストッキングをしわ寄せながら、美知子の足許をゆっくりと舌で舐めまわしてゆく。
「な、なにをなさいます、失礼じゃありませんか!」
声だけは気丈にも、男の無礼を詰っていた。
男はひと言、「エエ舌触りぢゃ」と呟くと、
あとはもうものも言わずに、美知子のふくらはぎに食いついていった――
血を吸い上げるチューッという音が、あからさまなくらいに鼓膜にしみ込んだ。

さらに30分後。
美知子は自転車の荷台から買い物かごを降ろすと、たいぎそうに玄関のドアを開けた。
さっき襲われて懸命に抵抗していたときとは別人のように無表情で、顔色は鉛色になっていた。
「ただいま――」
だれもいない薄暗い室内に向かってひっそりと呟くと、
緩慢な手つきで、野菜や肉や洗剤などを、そこかしこへと片寄せてゆく。
背後からはぴったりと、黒影が付き添っていた。
「もう少しお待ちになってくださいね」
棒読みのように抑揚のない声を投げると、影はゆったりと肯きかえした。
破けたストッキングを片脚だけ穿いた恰好のまま、美知子はそれでも手早く片づけを済ませた。

むき出しになった脚に沿うように、脱がされたほうのストッキングがふやけたように垂れ下がり、ひらひらとまつわりついていた。
スカートの裏地には白い粘液がおびただしく飛び散り、それは片脚だけ穿いたストッキングにまで点々としみ込んでいた。
なにが起きたのかは、だれの目にも明らかだった。
草むらのなかで組んづほぐれつ、虚しい抵抗をくり返しながらも、美知子はショーツを脱がされた股間に、何度も衝撃を加えられるのを感じた。
黒影の陰茎は、飢餓状態だった。
がつがつとむしり取るように、否応なく美知子の貞操を奪い、女の入り口を強引に行き来させると、淫らに滾った熱情の塊を、彼女の身体の奥深くへとそそぎ込んでいったのだ。

女が家の片づけを終えてしまうと、影は女の足許へと這い寄った。
女は拒まなかった。
片方だけ穿いたストッキングも、見る影もなく咬み剥がれてむざんな裂け目を拡げていた。
男はむぞうさに女の足許に手をかけて、ストッキングを引きちぎった。
女は無表情に、自分の礼装を弄ばれるのを見おろしている。
美容院できちんとセットしたばかりの髪をくしゃくしゃにされたことのほうが、よほどこたえているようだった。
女は、手にしたタオルで粘液に濡れた脚をさっと拭い、買ってきたばかりのパンティストッキングの封を切ると、おもむろに脚に通してゆく。
男は、恥ずかしながら俺はストッキングフェチなのだと告白してきた。
奥さんのストッキングをもう一足楽しみたいとねだられて、家まで送って下さったらと約束してしまっていたのだ。

「じつはさっき、だんなの血も吸ってきた」男がいった。
「そうだったの」女も、他人ごとのようにこたえた。
「ご主人の血も旨かった」
「よかったですね」女はやはり、他人ごとのようだった。
けれどもさすがに頬に翳をよぎらせて、
「まさか・・・殺してしまったわけではないでしょうね」と訊いた。
「安心しろ。むやみに生命までは取らん。
 わしに好意を恵んでくれるかぎりはな」
「主人はあなたに好意的だったのですか」
「あんたの血も吸って欲しいと勧めてくれたのでね」
「ああ、そういうことなのですね・・・」
女はぼう然とあらぬ方を見やりながらも、得心がいったようすだった。
夫が決めた相手なら、私は操を奪われても良かったのだ――白い横顔がそううそぶいていた。
男はリビングの入り口のほうにちらと目線を寄せたが、女は男の仕草にも、男の目線の向こうに観客がいることも自覚しなかった。

「観客」はいうまでもなく、恵介だった。
手を出さないことを条件に、自分の妻が白昼狩られるいちぶしじゅうを、目の当たりさせられたのだった。
妻の血を吸って欲しいなどと勧めたり頼み込んだりした憶えは、毛頭なかった。
恐怖に駆られてそんなことを口走ってしまったのかと記憶を反芻したが、
さすがにそんなことをするはずはなかった。
体内に残された血液と同じくらいには、彼のなかにもまだ良識が残されていた。
けれども、その良識もいささか妖しくいびつに崩れかけていた。
「奥さんの血も吸わせてもらいたい」
男にそう求められて、正直悪い気はしなかったのだ。
それは明らかに自分の意志と利害に反したことであるけれど、相手が自分の血を旨そうに喫(す)ったこの男なら、妻の血液をあてがっても良いのではと思い始めていた。
妻を襲って血を啜ることを許可するなどというまがまがしい行為に走った覚えはなかったけれど。
気がついたら、妻が今頃の刻限に買い物に出かけ、人通りの少ない路を通って帰宅する習慣があることを告げてしまっていた。
「あなた、わたしを売ったのね!?」
そういわれてもおかしくないことだった。
けれども目の前の女は、相変わらず棒読み口調で、自分の血を啜ることを夫が勧めたことを、不謹慎なことだとは受け取っていないようだった。
「わたくしのこと――お気に召したんですか」
美知子が訊いた。
自分の血の味の良しあしを気にしているのだと気づくのに、少しの間が必要だった。
「生き血も、身体も――あんたいい女だ」
吸血鬼はもの欲しげににんまりと笑い、
美知子も横抱きにしてくる猿臂を受け容れながら、媚びるような上目遣いをした。
ためらう唇に、好奇心に脂ぎった唇が重ね合わされた。
ふたつの唇はせめぎ合うように結びつき、激しく吸い合った。
恵介のなかで、なにかが崩壊した。

妻と築いてきた豊かな結婚生活が台無しになったと思った。
けれども、いまはそのことを、惜しげもなくあきらめることができた。
夫婦を支配した男の体内で。
自分の血液の大半と、美知子のそれのほとんどとが、仲良く織り交ざり、干からびた血管を潤している。
その実感がなぜか、ドクドク、ドクドクと、乏しくなった血液を高ぶらせ、めまぐるしく駆けめぐらせてゆく。


恵介は、草むらに押し倒されたときの自分の妻の運命を反すうしていた。
生垣の向こうから、チャッ・・・チャッ・・・と、衣類の裂ける音がした。
あお向けの姿勢になっていた美知子の上に征服者が馬乗りになり、
胸をはだけたモスグリーンのカーディガンのすき間から覗く朱色のブラウスを、引き裂いていた。
あっ、なんということを・・・!
恵介はおもった。
声をあげようとしたが、喉が引きつって声が出ない。
男がブラウスを剥ぎ取ってしまう間、美知子はまったく無抵抗だった。
ブラウスをはだけて、ブラジャーの吊り紐に手をかけるのが見えた。
ブチッ、ブチチッ・・・
吊り紐を引きちぎる耳障りな音がした。
「くくくっ」
含み笑いを泛べた唇が、妻の乳首を飲み込んでゆくのを、恵介はただ見守るばかりだった。
妻は抵抗する意思を喪失して、自分の身体を好きなだけ愉しませてしまっていた。
もはや、男がなにをもくろんでいるかは明白だった。
血が頭にのぼぜてしまった恵介は、ついふらふらと起ちあがろうとした。
そのまま起とうとすれば起てたはずなのに――なぜか恵介は、身体の動きを止めてしまった。
左右両方の乳首を男が代わる代わる舐めるのを、無抵抗に胸をさらして受け容れはじめていたのだ。

真上を見あげた美知子の横顔には、軽い陶酔の表情さえ泛んでいる。
まさか・・・まさか・・・このまま家内をモノにされてしまうのか!?
恵介はおののき、うろたえ、それでも起ちあがることも声を出すこともできずにいた。
男は美知子のスカートをたくし上げてゆき、ストッキングをズルズルとひきずり降ろしてゆく。
じりじりとした焦慮が、恵介の胸を焦がした。
男はショーツにくるまれた股間にむぞうさに手を当てると、
鋭い音を立ててショーツを引き裂き、あらわになった処に、顔を埋めてゆく。
美知子は白い歯をみせて、ゆるやかにかぶりを振りながら、だめよだめよと呟いている。
けれどもそれが惰性の抵抗に過ぎず、もはや彼女が貞操を守る努力を放棄したのが、夫の目にはすぐにわかった。
昼日中の日光を満身に浴びながら、美知子の貞操は余すところなく食い尽くされてゆき、
彼女の夫は妻が吸血鬼の娼婦と化すのを


「さいしょに狙われるのがきみだと思って差し支えない。
 きみのことを征服しさえしてしまえば、あとは奥さんもお嬢さんも思いのまま――というわけだ。
 かれらは貪欲だからね。奥さんのほうは、身体もほしがるだろう。
 狙われてしまったら運の尽き――いや、それがなれ初めというものだ。
 気前よく、譲ってあげたまえ。
 最愛の奥さんのセックスを勝ち得るのに、若いころのきみが払った努力には充分敬意を表するけれど――
 でも、そうしたことも含めてあらいざらい、彼らのために差し出してしまうことだ。
 名流夫人の珠のような貞操も、彼らのいちじの気まぐれのために汚される――
 ここはそういう街なんだから」
わたし一人で相手をすることは可能ですか?恵介はいった。
この期に及んでさえどうしても、妻の美知子を吸血鬼の生贄に供してしまうのは忍びなかったのだ。
「もちろん可能だ。彼がそう言えばな」
都会のオフィスの上司はいった。
「わたしもそうしようと考えた。でも、身体が持たなかった。
 それに、わたしが吸い尽くされる前に、家内はわたしの知らないところでもう楽しんでしまっていた。
 女の操というやつは、じつに儚いものだね」
上司は、彼の妻はいまでも街に居ついていると教えてくれた。
部長に出世した今、都会の本社の部長夫人を犯す愉しみを、街の知己たちに与えているのだと。

通勤用の靴下を破かれながら――ある家族赴任者の献身

2023年06月14日(Wed) 23:38:24

【あらすじ】
吸血鬼と共存する街に、それと知りながら赴任してきた男性。
一家を血を狙う吸血鬼を相手に、自分、妻、娘と三人三様に、あっという間に征服されてしまう。
自分の血がいちばんつまらない――と思い込んでいた彼は、通勤用の靴下に執着する吸血鬼に共感を覚えて、
脚に通した靴下を、すすんで血浸しにされてゆく・・・



アアアッ、なにを・・・
言いさしもせずに声を途切らせたせつな、吸血鬼は容赦なくガブリと食いついた。
首すじから血が噴き出して、ワイシャツとネクタイを濡らす。
恵村喜美則は眩暈を起こして、その場にくず折れた。
圧し伏せられたうえからなおも喰いついて来るのをはねのける力は、残っていなかった。
喜美則は、自分の血がゴクゴクと喉を鳴らして飲み込まれるのを、じかに耳にした。
眩暈が酷くなり、待ってくれ、待ってくれ・・・と言いながらも、意識が遠のいてゆく。
吸血鬼はなおも許さずに、喜美則のスラックスを引き上げると、靴下の上からふくらはぎに噛みついてゆく。
じわじわと滲む血潮が、靴下を生温かく濡らすのを感じた。
血に飢えた牙がなおもしつように、靴下ごしにチクチクと刺し込まれるのがわかった。
靴下を破るのが楽しくて熱中しているようにさえ思えた。
やめろ、やめてくれ。血がなくなってしまう――
全身の血を吸い尽くされてしまうことに、恐怖をおぼえた。
それさえ免れるのなら、靴下を破く楽しみくらいなら、またくり返してやってもよい――とさえ感じた。
血を吸い取られること自体は、苦痛に感じなかった。
血液が傷口を通り抜けるたびに伝わる疼きが、彼の胸を妖しく焦がした。
体内の血液をじわじわと奪い去られる感覚にあえぎながら、喜美則はその場に昏倒した。

その約30分後。
キャアッ、なにをするんです!?
喜美則の妻の綾子が、立ちすくんだまま声をあげた。
足許に買い物かごが落ち、中身が周りに散らばった。
迫りくる危難を感じた綾子は、本能的に飛びのいた。
けれどもそのまま、男の強引な抱擁を、真正面から受け止めてしまった。
同時に二本の牙がズブリと、綾子の首すじに埋め込まれた。
綾子は、空色のブラウスに濃紺のタイトスカートを身に着けていた。
都会育ちの夫人らしく、ストッキングも脚に通している。
飛び散った赤い飛沫が、空色のブラウスに不規則な斑点を散らした。
それは、ワンピースを透してブラジャーにまで、生温かくしみ込んできた。
綾子が尻もちを突いたまま後じさりするのを許さずに、男は彼女の身に着けているワンピースのすそを荒々しくたくし上げると、こんどはふくらはぎに食いついた。
うす茶のストッキングがブチブチと音を立てて裂け、血の飛沫がこんどは彼女の足許を濡らした。
ひいっ・・・
息をのむ綾子の足許に、男はなおも好色な唇をすりつけてゆく。
もう片方の脚も狙われた。
無傷な薄地のナイロン生地は、みるみるうちに卑猥なよだれに浸されてゆく。
ストッキングを穿いたままの脚を舐めまわされながら綾子は、相手の男にストッキングの舌触りを楽しまれているのを自覚した。
「なにをするの、失礼なっ!」
潔癖な憤りをねじ伏せるように、彼女のふくらはぎをふたたび、牙が襲った。
埋め込まれた牙が、吸いつけられた唇が、自分の血を強引に求めるのを彼女は感じた。
同時に、ストッキングの伝線が腰周りまで伝いのぼるのがわかった。
脚周りをしなやかにガードしていたなよやかなナイロン生地はジワッと裂けて、じょじょにほぐれていき、
彼女の下肢はゆるやかな束縛から解き放たれて、そらぞらしい外気にさらされてゆく。
男は綾子をその場に組み伏せると、ブラウスを剥ぎ取り、ブラジャーのストラップを音を立てて引きちぎった。
片方だけ脱がされたパンストを素足にまとわりつかせたまま、腰周りから抜き取られたショーツがむぞうさに投げ捨てられる。
39歳の人妻はワンピースを着けたままの恰好で、吸血鬼の凌辱を受け容れた。

そのさらに1時間後。
綾子は男を、家に引き入れていた。
男から強いられのか。
自分から引き入れてしまったのか。
もうどうでも良かった。
綾子はリビングのじゅうたんのうえで、着崩れしたワンピースをまだ身にまとったまま、
男の強烈で濃厚なセックスを受け容れていった。
娼婦になったような気分だった。
夫のことを考えるとかすかな後ろめたさが胸をさしたが、すぐになれた。
ただひたすら、上下動に身をゆだねているのが小気味よかった。
娘の綾香が帰宅したのは、その時だった。
「母さん、どうしたの?」
何も知らないのどかな声が、リビングに届いたとき。
獲物になった母親の淫らな姿をみなまで見せずに、
男はまだ年端もいかない綾香へと矛先を剥き替えた。
娘を守る義務を果たすこともできずに、綾子は失血のあまりその場に卒倒していた。
母の代わりに出迎えた男が、口許から血を滴らせているのを見て、
「ええっ、だれですか!?」
中学の制服姿の綾香は、健康そうな白い歯をみせてためらいをうかべた。
けれどもそれは、一瞬のことだった。
男が口許に滴らせた血の持ち主が母親だということに気づいたときにはもう、少女は吸血鬼の猿臂にセーラー服姿を巻き取られてしまっている。
逃れるいとまも与えずに、男は少女の足許に唇を吸いつけていった。
濃紺のプリーツスカートの下から覗く脛を覆う真っ白なハイソックスのうえから、
醜いヒルのように膨れ上がった赤黒い唇が吸いつけられる。
母親の血に染まったままの牙が、ハイソックスを食い破って少女の素肌を冒した。
キャーッ。
母親似の小ぶりな唇から、鋭い悲鳴が洩れた。
ごくん・・・ごくん・・・
十代の少女の血潮が、勢いよく飲み込まれてゆく。
痛がる叫びは、だんだんと弱まっていった。
少女をねじ伏せると、こんどは首すじに嚙みついた。
そしてゴクリ・・・ゴクリ・・・と不気味な音をあげながら、少女の生き血をさも旨そうに啜り獲ってゆく。
皮膚を破った牙からは、淫らな毒液が容赦なく少女の体内に注入されてゆく。
両親を毒した淫らな毒液が、少女の体内へと素早くそそぎ込まれていった。
「もう少し、もう少しだけ、あんたの履いてるハイソックスを楽しませてもらうぞ」
男の呟きに少女は、
「いいわ、いいわよ・・・どうぞ・・・いっぱい噛んで・・・」
と、熱に浮かされたように口走りつづけていた。
男の唇が嬉し気に貼りつくたびに、母親似の小ぶりな唇は、
「あん!・・・あんッ!」
と鋭い声をあげ、
そのたびに真っ白なハイソックスはバラ色のほとびに浸され、紅い領域を拡げていった――


「新記録だったそうだね」
喜美則は苦笑しながら、縁が生まれたばかりの悪友を見あげた。
勤め帰りのワイシャツに、赤黒い飛沫が不規則に飛び散っている。
帰宅そうそうのあいさつ代わりに、したたかに首すじを噛まれたのだ。
皮膚を破って力強く食い込む牙の切っ先に太い血管を冒されて、働き盛りの血潮をビュッと潤び散らされると、強い眩暈と疼痛が、喜美則の脳裏を支配した。
われとわが血潮を惜しげもなく貪らせ飲み味わわれてしまいながら、
喜美則は彼を征服した男の魔力を礼賛しつづけていた。
初めて噛まれた翌日に、ここまで許してしまって良いのか?という懸念は心のどこかにあったけれど。
それ以上に、訪れたばかりのこの街で初めてできた知友に満足してもらいたいという想いがまさっていた。

吸血鬼と共存すると聞かされて、おっかなびっくり訪れた街で、
うわべだけ平穏な一週間が過ぎ、
そのあいだに喜美則の一家の血液を享受する吸血鬼が、闇の奥で決められていた。
選ばれた男は勤め帰りの喜美則を襲い、買い物に出たその妻の綾子を襲い、
さいごに下校してきた綾香の血潮まで、その柔らかな肢体から抜き取っていった。
夫に対する襲撃から2時間足らずで、家族全員の血液が喪われたのだ。
喜美則が新記録――と称賛したのは、そのことだった。

「喉が渇いていたから、記録作れそうだったんだ」
3人の血を奪った男はこともなげに、そうこたえた。
よくみると、喜美則とほとんど同世代のようだった。
「ぼくの血じゃあ、つまらなかっただろうね」
喜美則が悪友を気遣うと、
「そんなことはない。あんたの血が旨かったから、娘の血がよけい欲しくなったくらいだ」
とこたえた。
父娘で血の味は似るからね――とうそぶくのを耳にした喜美則と綾香は、くすぐったそうに目交ぜをかわした。
「奥さんもイイ獲物だった」
男はなおもうそぶいた。
「美味しかった・・・んですよね?」
綾子がおずおずと尋ねる。
「ああ、じつに旨かった」
男の満足そうな顔つきに綾子は愁眉を開き、
「痛い想いをしたかいがあったわ」
客人のもてなしを自分の務めと心得る堅実な主婦の顔になって、安どの笑みを泛べる。
そんな妻のようすを見て、喜美則もまた嬉し気に笑んでいた。
「家内を気に入ってもらえて嬉しいよ。仲良くしてやってほしい」
「まあ、あなたったら――」
綾子は少女のように、頬を赧(あか)らめた。

「家族三人ながら、履いてる靴下を楽しまれちゃったわけだね」
喜美則は苦笑しながら、男を見た。
男は失血で眩暈を起こし尻もちを突いた喜美則の足許に這い寄って、早くもスラックスのすそをたくし上げにかかっていた。
自分から引き上げたスラックスの下、丈の長めの通勤用の靴下が、ふくらはぎの半ばくらいまで、行儀よく引き伸ばされている。
きょうの靴下は濃いグレーで、赤と黒の幾何学模様が渦巻いていた。
「きょうのも凝った柄だな」
男は喜美則の趣味を褒めた。
「気に入ってもらえて嬉しいね。いっぱい濡らして噛んで、愉しんでくださいね」
喜美則はいった。
男の貪欲な唇がふくらはぎに吸いつくと、喜美則は苦笑いを泛べた。
圧しつけられた唇が、じつにもの欲しげに這いまわり、
おろしたばかりの真新しい靴下に、好色な唾液を思う存分、すり込んでくる。
「よほど気に入ったようだね」
「侮辱するようですまない」と詫びる男に、
「侮辱してくれて構わない。ぼくも愉しんでいるから・・・」
と、喜美則はいった。
熱っぽく上ずった声色になっていた。
辱め抜かれる足許に見入りながら、気に入りの靴下を履いた脚を惜しげもなく、下品でしつような舌なめずりにさらしてゆく。
「男ものの靴下なんか、そんなに面白くないでしょう・・・?」
そういう喜美則の言葉を態度で否定するかのように、男は喜美則の靴下をしつように舐め味わってゆく。
「靴下を辱められるのって、むしょうに興奮するものですね」
グレーの靴下が唾液に浸され、しつような舌にいたぶられてずり落ちてゆくのを見つめながら、喜美則はいった。
「俺も同じ気持ちだ」
吸血鬼はそういうと、喜美則のふくらはぎにやおら咬みついた。
擦り傷ていどのダメージだったが、靴下を血と唾液で汚すにはじゅうぶんだった。
男はくり返し牙を突き立てて、喜美則は脚をくねらせながら、あちこち角度を変えて嚙みたがる男の要望に応えてゆく。
喜美則の好意の深さを示すように、彼の履いている靴下はあちこちに噛み痕と血潮のシミを、ふんだんに滲ませていた。
強烈な口づけのたびに、濃いグレーの生地に、赤黒いシミが拡がる。
薄地の靴下は派手に裂けていき、蒼白い素肌をちらちら覗かせてゆく。
愛人が熱いキスを重ねるようにして、男は喜美則の靴下に欲情し、なん度も唇を吸いつけた。
濃くて熱い接吻を重ねるたびに、被虐の悦びを覚え込んでしまったその皮膚に、つねるような疼痛をしみ込ませていった。

「さいしょのときに履いていた靴下も、貴男好みの丈の長めのやつで良かったですね」
喜美則はいった。
男の靴下なんかつまらないだろう。妻のストッキングや娘のハイソックスのほうが満足してもらえるだろう――と思い込んでいたのに、
吸血鬼は存外、喜美則の通勤用の靴下も気に入っていた。
真新しいナイロン生地ごしに唾液を擦り込まれる行為に、さいしょ感じた侮辱は根深く残っていたが、むしろその屈辱感が、ほどよい刺激とスパイスになっていることに、喜美則は気づいている。
喜美則はむしろ喜んで、靴下を履いた脚を辱め抜かれていった。
唾液に染まった靴下は、牙をあてがわれ、擦り傷だらけにされながら、こんどは血浸しにされてゆく。
やがて失血が、彼を心地よい陶酔へと導いていった。
喜美則はソファからすべり落ちて、じゅうたんの上に尻もちをついた。


傍らでは彼の妻の綾子が、はぁはぁと肩で息をしていた。
夫のように、失血にあえいでいるだけではなかった。
夫が帰宅するまでのあいだ不倫セックスを愉しもうと誘われて、吸血されながらの情事に息せき切っていたのだ。
男の請いを容れて、着衣のままのセックスだった。
夫が気に入りだったモスグリーンのカーディガンを羽織り、さいしょに犯されたときの濃紺のタイトスカートを腰に巻き、それをさながら制服でもあるかのように着こなして、
30代の人妻を辱め抜きたがる男の前、自らを餌食に供していった。

着たまま引き裂かれた朱色のブラウスは大きくはだけて、胸もともあらわになっている。
吊り紐の切れたブラジャーが、胸の周りからふしだらに浮き上がり、乳首を無防備にさらけ出していた。
「破って楽しんでもらうためにおしゃれしているようなものね」
綾子がいった。
「きみの洋服姿がそれくらい、魅力的なんだろう」
彼女の夫が応じた。
身体のすみずみまで生き血を舐め尽くされた彼は、男に支配されることにむしろ、心地よい陶酔を覚えている。
「それなら嬉しいわ」
綾子は満足そうに、白い歯をみせた。
さっきまでなん度も愛し抜かれ、スカートの裏地には淫らな粘液を塗りたくられていた。
股間はすでに、おびただしくそそぎ込まれた精液に狂わされていた。
夫の目の前での行為が、いまはたまらなく快感だった。
夫の前で喘ぎ悶えてしまうことに、恥を忘れて夢中になっていた。

さいしょに襲われた日、まだ夫以外の男を識らなかった綾子は、けんめいに抵抗した。
そして、初めて操を奪われたことを夫に認めさせるために、夫の目の前での情交を共用されたときもまた、羞じらい、うろたえ、抗いつづけた。
その有様を、夫は見せつけられるがままに覗き見し、見届けていた。
必死に操を守ろうとする妻がねじ伏せられて、首すじを噛まれ、衣装を裂き散らされながら辱め抜かれてしまうのを。
そして、いちど夫以外の一物の味を覚え込まされてしまった身体が、招かれざる客人を歓待しはじめて、さいごには心づくしのもてなしをねだり獲られてしまうのを。
「きみはあのとき必死に抵抗して、妻としての務めを立派にを果たした。
 淫らな習慣を力づくで覚え込まされてしまったことについて、きみにはなんの落ち度もない。
 きみは立派に抵抗することで、貞操堅固な人妻をモノにする悦びを彼に与えた。
 最愛の妻の貞操だけど、あんなにひたむきに蹂躙されてしまったら――
 きみにたいする彼の情愛の深さを、認めざるを得ない。 
 ボクはきみの夫として、きみに素敵な恋人ができたことを祝いたい」
吸血鬼はにんまりと笑んだ。
「彼女は自分から、わしの胸に飛び込んできたんだ」
避けようもない抱擁を真正面から受け止めたことを、綾子はいまだに羞じらっている。
けれども、あのあと自分のうら若い血を欲しがる吸血鬼を前に衣装もろとも辱められ、
ためらいながらも身体を開いていった記憶は、いまでも鮮烈だ。
夫の名誉を泥まみれにさせてしまったことにも、もはや後悔はなかった。
そして彼女の夫自身も、妻の名誉をふしだらに蕩かされてしまったことに、歓びを感じていた。
吐き出されたドロドロの精液が妻のショーツにまとわり着き、陰毛のすき間へとしみ込んでゆくのを、息をこらして見守ってしまっていた。

「父さんえらいね、妬きもちやかないんだね」
傍らで、下校してきたばかりの綾香が呟いた。
通学用の白のセーラー服には、14歳の血潮が花が咲いたようにほとび散っている。
処女の生き血は貴重だから、彼らもむやみに犯したりはしない。
けれども当然のように、ファースト・キッスはあっけなく奪われていた。
自分や両親の血潮の匂いをむんむんとさせた口づけに、無垢な少女は陶酔した。
真っ白な通学用のハイソックスに加えられる凌辱も、含み笑いをしながら受け留めた。
早くももう、3足めを脚に通して破かせてしまっている。
従兄の夏梅(なつめ)くんと約束した将来は、いったいどうなるのだろう?
たぶん綾香の純潔を勝ち得るのは、夏梅くんにはならなのだろう。
次の夏休みに夏梅くんを此処に招んだら、婚約者のふしだらをこころよく許容してくれるだろうか――


「受け容れる吸血鬼の数が、来週で6人になります」
R助役が硬い表情で、口火を切った。
市の方針で街に吸血鬼を受け容れるようになってからは、新設された市の専門部署が、吸血鬼に血液を提供する男女をあっせんするようになっていた。
助役の訪問を受けたМ事務所の恵村調整役は、謹厳な顔つきでR助役の報告に接した。
「少なくともそのうちの一人は、明日市内に到着します。
 新規の血液提供者を、どうしても6人確保しなければなりません。
 それに、人間の人妻を輪姦したがっている吸血鬼が9名います。
 3名づつの3組です。
 なので、複数の吸血鬼の相手をできる女性を、最低1名ご協力いただきたいのです。
 ほかの2名は、市役所で引き受けます。
 うちひとりは、わたしの家内です。
 ご協力いただく奥さまの心の用意もあるでしょうから――遅くとも今夜のうちには・・・」
「お引き受けしましょう」
喜美則はむしろにこやかに答えた。
「わたくしの社に、先週転入してきた20代の社員がいます。
 ご夫婦で赴任しています。
 此処の事情は事前に言い含めてますから、この際夫婦ともあてがってしまいましょう。
 それに、たまたまですが、わたしの両親と家内の両親が、お盆でこちらに来る予定です。
 二組の夫婦が着くのは明日の昼になりますが、経験者ですからすぐに対応できます。
 当座はその6人でしのぎましょう。
 あと、輪姦のお相手には、うちの家内を差し向けます。
 だんなに見せつけたい――みたいなけしからぬ要求がありそうですね?
 それなら、わたしも悦んで同伴します。いかがでしょうか?」