淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・
由香里の「予定」 ――母親同士の味比べ。 スピンオフ――
2023年08月14日(Mon) 19:22:18
明日の夜の約束。
それが由香里と情人との逢瀬のことだと、良哉は最近になって知った。
その情人は50近い独身男で、由香里に恋するあまり独身を続けてしまったそうだ。
名前を豹治という。
思い余って彼が相談に言った相手は、人もあろうに由香里の夫、好夫の父親だった。
好夫の父は、役所勤めをしている。
上級官庁からの片道切符とはいえ、地元では立派に名士であり上流階級といえた。
その妻であれば、栄耀栄華とまではいわなくとも、なに不自由ない豊かな暮らしを保証されているといえる。
わざわざ夫を裏切って愛人を作る必要などこれっぽっちもなく、
かつまたそんな危険をあえて冒す必要など、彼女の側にはないはずなのだ。
豹治は役所の下の下の組織で長年、下働きをしていた。
経済的にも恵まれず、不満をもってもおかしくない不遇な立場だった。
好夫の父は、自分の妻に対する彼の好意に気づいていた。
不平不満なく日常を過ごす彼の強さが、じつは妻に対する好意の裏返しであることを知っていた。
その豹治が思いあまってやって来たとき、好夫の父はすべてを察していた。
「家内のことですね」
目下のものにもきちんとした敬語を使う彼に、豹治は小さくなっていた。
すでに三十代のころ、由香里は吸血鬼に襲われて血を吸われ、犯されていた。
鋭い牙で由香里の首すじを切り裂いて、彼女のワンピースをまだら模様に染めあげたその吸血鬼に対して、
彼は潔く負けを認め、彼女の夫として、愛妻の貞操を彼のためにいつでも楽しませることを請け合っていた。
そのことが却って、好夫の父の想い切りをよくしたのだろう。
「うちの家内が、好きなのですね」
好夫の父は豹治の意思を確かめると、妻とふたりきりになる時間を彼のために作ってやった。
「家内が嫌がったら、どうか虐めないでくださいね」
ほほ笑みながら好意を向けてくれた上司に報いるために――豹治はなんとしても、彼の妻を射止めようと誓った。
豹治は、好夫の父の好意を裏切った。
彼の腕の中で由香里は、「虐めないで・・・お願い、虐めないで・・・」と呟きながら、
怒張するペニスを突き刺されるたびに体液をほとび散らしていた。
それ以来。
由香里はほとんど毎日のように、夫を裏切りつづけた。
良哉はそんな由香里のために、夜に淫らに燃やす血潮を、じゅうぶんなだけ体内に残してくれた。
「さいきん、息子さんの友だちに抱かれてるんだって?」
情人のからかいに、
「それも主婦の務めですのよ」
とほほ笑み返して、好色な唾液にまみれた年配の情人の唇を、優雅に受け止めてゆく。
「嬉しいわ、逢いに来てくれて」
「おれもあんたとお〇んこするのを楽しみに、一週間働いてきただ」
男は女の華奢な身体をへし折るほどに強く抱きすくめ、頬ずりをくり返し、キスを奪いつづけた。
情人は彼女のブラウスをはだけると、奥にまで手を入れて、
ブチブチと音を立てて、ブラジャーのストラップを彼女の肩からむしり取った。
「アラ、ひどい!」
そう言いながらも由香里は、もう片方のストラップも好きなように引きちぎらせてしまっている。
良哉が彼女の黒のストッキングを好むように、豹治は由香里のブラジャーを剥ぎ取る行為に熱中するのだ。
――男ってみんな、勝手♡
押し倒されるままにあお向けになり、自ら脚を開いて男を受け容れながら、由香里は思う。
――あなたも、勝手♡
心のなかでそう思いながら、彼女はチラと、隣室の闇の向こうを見やった。
そこに彼女の愛する夫が、息を詰めて、いちぶしじゅうを見逃すまいとしていることを知るように。
好夫の母 ――母親同士の味比べ。 続編――
2023年08月14日(Mon) 19:09:01
お母さん、ちょっと出かけてくるわね。
そういって母の由香里がいそいそと出かけていくのを、
好夫は横っ面で見送った。
出かけていく先はわかっている。
幼馴染の良哉のところだ。
母親たちのなかには、相手のしれない男に抱かれに行くものも多い。
それに比べれば、母親の行き先がわかっているだけでも安心だ。
まして相手が、兄弟どうぜんにして育ってきた良哉なら。
自分の血をあれほど旨そうに啜ってくれる良哉なら。
母のことを自分の前で征服して、愛し抜いてしまった良哉なら。
好夫は首すじの傷口を撫でた。
下校直前に良哉に廊下に呼び出され、咬まれたばかりの傷口だった。
まだ良哉の牙が埋まっているかのような錯覚を、好夫は感じた。
ジンジンとした疼きは、これから母が受ける咬み傷の深さを想像させた。
そしてその想像は、好夫の理性をたまらなく崩れさせていった。
優雅な名流夫人として評判高い母が良哉の餌食になってしまうことを、好夫は好もしく感じていた。
母にもそういうラブ・ロマンスがあって良い――はた目には異常なはずの状況を、ごくしぜんに受け容れてしまっていた。
良哉は彼の血管を食い破り、シャツやズボンやハイソックスを血で汚すことを愉しんでいた。
良哉の支配下にいることが、たまらなく嬉しかった。
干からびた良哉の血管のなかで、吸い取られた母親の血液と彼自身のそれとが交じり合うことを妄想し、深い昂ぶりを覚えていた。
良哉はスポーツマンだった。
好夫は彼が試合で勝つために、母親と自分の血を消費してもらいたいと切望していた。
引き伸ばしたハイソックスの上から、良哉の唇が圧し当てられる。
薄いナイロンの生地越しに、なまの唇に帯びられた熱が染みとおってくる。
きょうの靴下、ずいぶん薄いんだね。
良哉が顔をあげて、いった。
これから破く、きみのママが穿いてくるストッキングみたいだ。
これから破く・・・
いともぞうさに形容句をつけられてしまった母の装い。
母は家にいるときでも、いつもストッキングを脚に通していた。
薄っすらと透けるナイロン製のストッキングは、好夫のなかでは気品のある貴婦人の装いだった。
それを目のまえのこの幼馴染は日常的に、悪ガキそのもののあしらいで、
舌なめずりでむぞうさに汚し、咬み破っているという。
きょうも母は家を出るときに、薄い墨色のストッキングを穿いていた。
ふだんは肌色のストッキングを穿く母が、初めて良哉に襲われて以来、
良哉と逢うときには墨色のストッキングを穿くことが増えている。
襲われた女は、襲った男の好みに合せたものを身に着ける。。
母がそれを実践していることに、好夫は衝動に似たマゾヒスティックな刺激を掻き立てられている。
良哉を愉しませるために好夫がきょう履いてきたハイソックスは、じつは父親のものだった。
勤めに出るときに履いていくもののなかで、とびきり薄いやつで、気に入りなのか何足も持っている。
一足くらいならバレないだろうと、箪笥の抽斗から失敬したのだ。
ストッキングのように薄いやつだから、きっと良哉の気に入るだろう。。。
このあたりの思惑は、恋人のためにめかし込む女の子と、さほど変わりはないと思う。
「気に入った?」
「ああ・・・良い嘗め心地がする」
本気で良いと感じると、良哉には童心が戻ってくるらしい。
しんけんな顔つきになって、好夫のふくらはぎを、靴下のうえからたんねんに嘗め続けている。
生暖かい唾液に濡れそぼり、ひと嘗めごとに皺寄せられながらも、
好夫もまた自分の足許に加えられるいたぶりを、目を凝らして見おろしている。
「破っても良いんだぜ?」
そんな誘いを、自分のほうから向けてしまっている。
「ほんとうはこれ、父さんのやつなんだ――」
好夫の白状に、良哉は意外なくらいに反応した。
「え?そうなの?」
自分が寝取った人妻の亭主が愛用しているストッキングまがいの靴下を、
その息子の脚に通させて嘗めいたぶっている――
そんな状況に、ズキリと胸をわななかせたようだ。
「ウフフ なんだか面白いな・・・」
嘗めくりまわす舌の動きがいちだんとしつようさを帯びるのが、靴下を通してジワジワ、ヌメヌメと伝わってくる。
「お前――もう漏らしちまったのかよ」
良哉はそうからかいながらも、濡れたズボンのうえから好夫の張りつめた股間に手をやり、まさぐってゆく。
「お前の血の味、うちのお袋に似てきたな」
吸い取ったばかりの血で口許を濡らしながら、良哉はいった。
「人ん家(ち)の母ちゃんつかまえて、どんだけ血を吸ってんだよ」
そのまま自分自身に返って来そうなことを言いながら、良哉は好夫の頬をつねった。
こいつ、うちのお袋といつ逢ってるんだろう?
どんなふうに押し倒しているんだろう?
そしてお袋は・・・どんな顔をして、こいつにちんちんを突き込まれているんだろう・・・?
母親を自分のペニスの意のままにされている好夫の歓びが、少しはわかったような気がした。
「お待ちになりましたか?」
好夫の母親は、いつもていねい口調だ。
涼やかな服装に、いやみのない薄化粧。
肩までの黒髪は、上品に結わえてある。
背すじをピンと伸ばし、流れるような細身の身体の線を、服の下にひそめている。
派手ではないがどこかゾクッとさせる細い眉に、瞳のきれいな眼。
いつもより濃いめに刷いた口紅だけが、二人の落ち合うことの意味を告げていた。
墨色のストッキングに透ける太ももを行儀よく、朱色のタイトスカートのすそから品良く覗かせている。
相手が子供でも、この人は姿勢を崩さない。
ひとりの男として、俺に接しようとする。
良哉は時折、この女(ひと)と逢うとき、知らず知らず身ずまいを正してしまう。
貫禄負けしているとは思わない。思いたくない。
だって、襲っているのは俺だから。
呼び出して、支配しているのも俺だから・・・
「少し待った。喉、渇いた」
良哉はわざと、ぶっきら棒にこたえた。
「また、お行儀悪くなさるのね・・・?」
由香里は小首を傾げ良哉を窺った。
軽く顰めた眉が、これから加えられる恥辱への虞(おそ)れを漂わせていた。
「きょうもきかせてくれるんだろ?あんたのかわいい泣き声をさ。
こんなにお行儀悪く楽しんじゃってるんだと、あんたのダンナに聞かせてなりたいなあ」
そんな下卑た言い草を良哉はしながら、覚え込んだ苛虐的な愉悦をあらわに、由香里ににじり寄った。
細い両肩を摑まえて、力まかせに押し倒す。
いっしょに倒れ込んだはずみに過(よ)ぎった呼気が、ほのかに生々しかった。
密やかに洩れた女の声を塞ぐようにして、良哉は女の唇に自分の唇を押し重ねた。
女が吸い返してくるのをくすぐったく感じながら、
良哉もまた女の唇をヒルのようなしつようさで吸い返していった。
「あ、あなたぁ~っ、ごめんなさい・・・っ」
由香里が声をあげて嘆いた。
突き込まれたペニスに応えるように腰を弾ませながら、
それでも夫のために貞操が損なわれるのを憂いつづけた。
口では詫びながら、腰は求め、脚は絡みついてきた。
女の嘆き声に反応するように、良哉のペニスの先端からは、どびゅっ、どびゅびゅ・・・っと、
濃厚な精液が間歇的にほとび出た。
それは由香里の身体の奥深くを濡らし、熱くした。
由香里は、はぁ・・・はぁ・・・ふぅ・・・と息せき切って良哉を抱きしめ、
ずり落ちかけた黒のストッキングを皺くちゃにしながら、なおも脚を絡めていった。
あんたのだんなに、いまのあんたを見せたいな――
毒づくように良哉が囁いたとき
そのときだけは、由香里は真顔になる。
「お願い。主人をおとしめるのだけはなしにしてちょうだいね」
え?と、良哉も思わず真顔になる。
「お願い」といいながらそれは、絶対の「お願い」に違いない。
「だって私も、たいせつなパパを裏切って貴男に逢っているの。
ごめんなさいごめんなさいって言いながら逢っているの。
きみは強いし大きいし・・・逢ってて楽しいわ。女として。
でもね。
エッチの相手は彼だけど、結婚するならやっぱり主人――
そういうことも、わかってね。
女は勝手な生き物なの――男と同じくらいにね・・・」
俺だって・・・人の奥さんを、幼馴染のお母さんを。
性欲のままに組み敷いて、スカートの裏側を精液で塗りたくったり、
ブラウスを血しぶきで濡らしながら生き血をむさぼったり、
勝手な生き物だ。まちがいなく。
勝手で良いのよ――
由香里は良哉の心を読むかのようにそう囁いて、彼の頭を抱きしめた。
愛すればいいの。
セックスを、愛しているっていうなによりの証拠にして、時を過ごすのよ。
細い腕で抱きしめられながら。
良哉はもうひとつの欲望で、ジリジリと胸を焦がしていた。
それは、由香里にもすぐ、伝わった。
「・・・明日の夜、約束があるの。
それだけは行かせて――」
由香里はひっそりと囁き、願った。
わかったよ――
良哉は太く短い牙を、由香里のうなじに突き立てた。
ググっと力を籠めてもぐり込んでくる牙を、由香里は力強いと思った。
この子のペニスと同じくらい、強いわ・・・
白のブラウスにいつも以上に、噴き出る血潮をドクンドクンとほとばせながら。
良哉は親友の母の生き血を啖らい獲り、あさり摂っていった。
母親どうしの味比べ。
2023年08月02日(Wed) 22:57:43
はぁ・・・ふぅ・・・
うふっ・・・
ちゅるっ。ちゅるっ。
ごくりん。
柏木好夫と藤村良哉(りょうや)は息を詰めて、むき出しになった相手の素肌のそこかしこに唇を当ててゆく。
きょうの獲物は、音楽の翠川(すいかわ)先生。
「約束だよね?合唱コンクール終わるまで待ってあげるって言ったんだから・・・」
疲労困憊のていである翠川先生の顔を覗き込んで、良哉がいった。
「そんなこと言ったって、もうボクたちだいぶご馳走になってるぜ」
良哉の追及口調に比べて、好夫のいい方は困り果てた先生をかばうように穏やかだった。
ふたりとも、吸い取った血潮で口許を真っ赤に濡らしている。
背の低い良哉は裏返しにしたバケツのうえでつま先立ちをして、先生の首すじを狙っている。
なん度か咬み損ねたために、うなじからはよけいに血が撥ねて、
純白のボウタイブラウスには赤黒いしずくがチラチラと光っていた。
好夫は先生の足許にかがみ込んで、ふくらはぎを吸っている。
上背は良哉よりあるのに、どうしても脚にこだわりがあるらしい。
なん度も唇をあてがった脛の周りからは、
擦り切れた肌色のストッキングが、ふやけたように浮き上がっている。
「へっ!ご立派なことを言ったって、お前だってやることやってんじゃん」
良哉が憎まれ口をたたいた。
「ごめん、ごめんね・・・」
翠川先生はおずおずと二人にそういって、
もう耐えきれないというようすで、尻もちを突くようにして地べたにひざを降ろした。
失血のために、先生の頬は気の毒なくらい蒼ざめている。
食欲旺盛な十代半ばの、人の生き血を嗜みはじめた者たちに、二人がかりで生き血をせがまれては、
いくらふだん生徒に厳しい翠川先生といえども、こらえ切れるものではなかった。
「いいんだよ、先生。でももう少しご馳走してくださいね」
好夫は低く落ち着いた優しい声色だったけれど、先生の内ももに容赦なく牙を埋めた。
ストッキングがなおも、ブチブチッ・・・とかすかな音をたてて、裂けた。
良哉も楽しそうに、先生の肩先に、ブラウスの上から食いついてゆく。
真っ白なブラウスにまた、血のシミがバラの花のように拡がった。
「先生、いつものソプラノが台無しじゃん」
良哉はどこまでも、意地が悪い。
音楽の成績の良くないかれは、先生のお覚えがめでたくなかったからだ。
ここぞとばかりに意趣返ししているつもりなのだ。
好夫は苦笑いして、良哉にいった。
「うそだい、先生いつもアルトだぜ?」
良哉はムッとして、先生の肩先に再び牙をひらめかせようとしたが、好夫が制した。
「もうそれくらいにしておけよ。先生かわいそうじゃん」
「もうやめちまうのか?」
不平顔の良哉に、それでも好夫はいった。
「うん、もう少しで勘弁してあげようよ」
ちゅう・・・ちゅう・・・
くいっ・・・ごくん。
ひそやかな吸血の音はさっきよりも控えめに、しかし相変わらずしつように、
うずくまる先生に覆いかぶさるように、断続的にあがるのだった。
「美味しかったね、翠川先生の血」
好夫は満足そうに、口許についた翠川先生の血を舌で舐め取った。
手には、先生の脚から抜き取ったストッキングを、むぞうさにぶら下げている。
いつも吸血した相手からせしめる戦利品。
彼のコレクションはもう、なん足になっただろうか?
「ああそうだな」
良哉は好夫の声を横っ面で受け流した。
彼の首すじには、新しい咬み痕がくっきりと刻印されている。
音楽教師からむしり取るように獲たきょうの食事がいつになく性急だったのは、
いつもより蒼ざめたその顔色のせいだろう。
「良哉くん顔色悪いね」
好夫が気遣わしそうに良哉の顔を覗き込んだが、良哉はうるさそうにそっぽを向いた。
そして、そっぽを向いたまま、好夫にいった。
「オレーー半吸血鬼になったから」
「え?」
良哉の口ぶりはすこしだけ、誇らしげだった。
半吸血鬼。
もともと人間だったものが、一定量以上の血液を喪失するとそう呼ばれる。
血を吸い尽くされて死ぬわけではなく、もちろん墓地からよみがえるというような手続きを経ることもなく、
いままでと変わらず人間として生活するのだが、ほかのものと決定的に違うのは、日常的な吸血能力を備えることだった。
血を摂取されただれもが半吸血鬼になるわけではない。
吸血鬼が意図した人間を択んで血を啜り、吸血能力を植えつけていくのだ。
良哉は、数日はかかる吸血に耐えて、ついに半吸血鬼になったのだった。
「それでさ・・・」
良哉がいった。
「お前の血をもう少し吸わせてもらうからな」
え――?
ふり返る好夫の前に、良哉は立ちはだかった。
獲物を狩る獣の目をしている――と、好夫は思った。
あ・・・・・・
短い呻きを洩らして、好夫は身体の動きを止めた。
翠川先生からもらったストッキングが、砂地に落ちた。
良哉は、上背のある好夫にぶら下がるように絡みついて、その首すじに喰いついていた。
好夫はゆっくりと、ひざ小僧を地面に突いた。そして四つん這いになり、やがてうつ伏せに突っ伏してしまった。
しずかになった好夫の足許にかがみ込むと、良哉はふくらはぎに唇を吸いつけてゆく。
半ズボンの下からむき出しになった好夫のふくらはぎは、ねずみ色のハイソックスに包まれていた。
太目のリブが、陽の光を照り返してツヤツヤと輝いている。
整然と流れるリブに牙が押し当てられて、かすかな歪みが走った。
ごくっ。
良哉の喉が大きく鳴った。
その音はゴクゴクゴクゴク・・・とずうっと続いた。
切れ切れになる意識の彼方。
自分の血を飲み耽りながら、良哉が旨そうに喉を鳴らすのを、好夫は薄ぼんやりと耳にし続ける。
リョウくん、ボクの血がよっぽど美味しいんだな。
きみになら、いくらでも飲ませてやるよ。
満足するまで、ボクのハイソックスを汚しつづけてかまわないからね・・・・・・
「いつにする?味比べ」
良哉は蒼ざめた頬を歪めて、好夫に笑いかけた。
「そうだね――ボクはいつでもいいよ」
好夫の声はいつも通り穏やかだったが、顔色は別人のように良くない。
良哉のおかげで、自分も半吸血鬼になった――そう自覚せざるを得なかった。
帰宅した時、あまりの顔色の悪さに母親は色をなしたが、好夫は「いいんだいいんだ」と母を制していた。
半吸血鬼が半吸血鬼を作り出すことはほとんどなかったが、
良哉の血を吸った吸血鬼は特別に、良哉にその力を与えた。
「好夫だけは、オレが半吸血鬼にしたいんです」
自分の血を捧げ抜くとき、良哉はそういって、自分が半吸血鬼になったときの愉しみを確保したのだ。
「顔色、わるいね」
「きみもだけど」
二人は顔を合わせて、笑った。
味比べ。
二人とも半吸血鬼になったとき、ぜひやろうと約束していた。
母親を交換して、お互いに生き血を味わおうというのだ。
お互いの母親を襲って生き血を啜り、味比べをする。
それは、吸血鬼どうしの兄弟としての契りを交わすことを意味していた。
母親でなければ、妻でも良い――もとより二人はまだ若かったから妻はいなかったし、
その母親たちはじゅうぶん、美味しい生き血をその身にめぐらせている年代だった。
「うちのお袋、でぶだからな。襲いがいないだろ?」
良哉は自分の母親に対しても、仮借がなかった。
「そんなことないよ、きみ、ボクが肉づきの豊かな脚を好きなの知ってるだろう?」
好夫が取りなすようにそういった。
「太めの脚のほうが、ストッキングが映えるんだよね・・・」
好夫はウットリとして、良哉の家の方角を見つめた。
良哉は、好夫の母親を襲うのを楽しみにしていた。
好夫の家はまずまずの良家で、自営業でせわしない店舗兼住宅の良哉の家とは趣が違っていた。
彼の父親は役場に勤めていた。
もうすでに、ここの市役所に永久出向が決まっている身ではあったが、れっきとした上級官庁の出身者である。
市役所では、助役を務めていた。
助役夫人を襲う――友人の母親であると同時に、良哉のなかの彼女は、数少ないエリート一家の令夫人でもあったのだ。
好夫は、自分の母親に対して向けられた良哉の劣情に気づいていた。
もちろん息子として、彼の劣情をまともに受け止めることで母親がどんな目に遭わされるのかという危惧は持ち合わせていたけれど、
良哉にかぎってそんなに酷いことはしないだろうと考えていた。
母親同士も接点はなかったけれど、たまに学校で顔を合わせると、会釈し合う程度の仲ではあった。
お互い――相手の息子に生き血を狙われている同士という意識も、お互いに持っていた。
「良哉くんが、母さんの血を欲しがってるんだ。せがまれたら応えてあげてくれないかな・・・」
家に戻ると好夫はいった。
「いつになるの?」
好夫の母はいった。名流夫人の肩書にふさわしく、優雅で音楽的な声だった。
「近々だと思うよ。あいつ半吸血鬼になったから・・・母さんにはいろいろ迷惑かけちゃうけど・・・」
さすがに語尾を濁した息子の意図を、母親は正確に察している。
半吸血鬼とはいえ、吸血鬼となったものは皆、セックス経験のある婦人を襲うとき、なにを欲しがるのか――
この街の女たちは皆、知っている。
「お袋さあ――」
良哉がいった。
「明日、校舎の裏手。好夫の悩みを聞いてやって」
いつものぞんざいないい方に、
「まったくこの子は藪から棒に、なんなんだろうね」
と、良哉の母は小言をいった。
「わかってると思うけど、ちゃんとストッキングくらい穿いて来るんだぜ?」
怒ったような息子の声色に、良哉の母はちょっとのあいだ黙り込んで、
「それくらいわかってるわよ」
とだけ、いった。
「父さんには言うの?」
「言わなくたってどうせバレるじゃない」
「妬きもちやきそうだなぁー、あのスケベ親父」
「親のことをそんなふうに言うもんじゃないわよ!」
いつもながらの、母子げんかだった。
「アラ、柏木の奥さん」
「アーー良哉くんのお母さん」
学校の裏門の前、それぞれ反対方向からやってきた二人は、まるで落ち合うように脚を留めた。
良哉の母はいつもの一張羅ではなく、ついぞ見たことのないスーツを着込んでいる。
派手なオレンジ色のスーツは、まるであたりに夏の花でも咲いたかのように鮮やかだった。
柏木夫人は、爽やかなラベンダー色のロングスカートに、白のブラウス。
足許はこの陽気には似つかわしくなく、墨色のストッキングで包んでいる。
良哉の母とは対照的に、清楚なスタイルだった。
やっぱり奥さんは洗練されていらっしゃる――良哉の母はそう思った。
良哉の母はというと、オレンジのスカートスーツのすそから覗く太っちょな脚は、ねずみ色のストッキングをじんわりと滲ませていた。
お互いに――
ふだん脚を通すことのない色のストッキング(良哉の母などは久しぶりに穿いたはずだ)がなにを意味するのかを、お互いに読み取り合っていた。
「よう」
ぞんざいな声が、二人の婦人に投げられた。
声の主は正確には自分の母親のほうを向いていた。
さすがに親友の母親に向けた態度でないのは明らかだった。
「よう、じゃないだロ!礼儀をわきまえな!」
良哉の母は伝法に言い返した。
良哉は慌てて手を振った。
「きょうはもっとさあ、こう、ご婦人らしく・・・な?」
ほんとにもう・・・良哉の母はまだ、ムスムス言っている。
やがて良哉の後ろから、好夫も姿を見せた。
「良哉くんのお母さん、きょうはすみません」
好夫はいつもながら、礼儀正しい。
自分の母親のほうにもチラと目配りをして、動揺を悟られまいとしていた。
きょうの彼女の爽やかないでたちは、良哉のための装いなのだ。
今さらながらに、胸がどきどきした。
「行くぜ」
良哉は相変わらずぶっきら棒に、他の三人の前に立って、校舎の裏へと脚を勧めた。
校舎の裏には、小さなプレハブ小屋があった。
そこはいつも施錠されていなかった。
たまに生徒が入り込んで悪さをするのか、板の間にはいくらか、土足の足跡がついている。
「・・・ったくしょうがないな」
良哉は舌打ちした。
「こういうのは、前の日によく下調べしておくもんだがね」
良哉の母がいった。
「あたしは良いけど、こういうのって柏木の奥さんに申し訳ないじゃないの」
さすがに顔を曇らせた良哉を取りなすように、好夫がいった。
「そんなに汚れているわけじゃないし、人目をさえぎるにはここが一番良さそうですよ」
「好夫くんはいつもいい子ねえ」
良哉の母がいった。
「じゃ、始めようぜ」
良哉は目だって、口数が少なくなっている。
すでに吸血の欲求が胃の腑からはぜのぼってくるように感じていたのだ。
「うん、じゃあ・・・」
好夫もさすがに、生唾を呑み込んでいる。
女二人は目くばせし合って、それぞれが相手の息子の前に立った。
「横になってもらったほうが良いかな」
「ご婦人を最初から寝そべらすのはどうかな」
「それもそうだね」
良哉が珍しく素直にいった。
じゃ――
彼はおもむろに、柏木夫人に近寄った。
同時に、好夫も良哉の母のほうへと距離を詰めた。
女ふたりは生唾を呑み込んで、自分を獲物にしようとしている子供たちのほうへと目線を合わせてゆく。
「すこしかがむわね」
柏木夫人が良哉にいった。
上背のある柏木夫人の首すじを咬むには、良哉は少し背丈が足りなかったのだ。
「すみません・・・」
良哉は、別人のように礼儀正しい受け答えをすると、少し背伸びをして柏木夫人の両肩に腕を伸ばした。
あっ・・・
傍らから洩れた母親のうめき声に、とっさに好夫は振り向いてしまった。
母の着ている真っ白なブラウスに、早くもバラ色のしずくが散っていた。
またもや咬み損ねたらしい。
この間の翠川先生のブラウスと同じように、血潮がよけいにばら撒かれたように見えた。
母親と視線が合った。
――わたし大丈夫だから。
そう言っているようにみえた。
好夫はもう母親のほうを見なかった。
いつもがらっぱちな良哉の母が、おずおずと生唾を呑み込んで、棒立ちしていた。
すいません。
好夫はそういうと、彼女の足許にかがみ込んだ。
「こんなんで良かったかな・・・」
ねずみ色のストッキングに染めた脚を刺し伸ばしながら、良哉の母はいった。
「良い、すごく良いです・・・」
好夫は唇の周りに、唾液がうわぐすりのようにみなぎるのを感じた。
そして、彼女の足首と足の甲を抑えつけると、生え初めた牙をむき出して、肉づきゆたかなふくらはぎに咬みついていった。
ジワッ・・・と赤黒い血潮が撥ね、良哉の母のパンプスを濡らした。
破けたストッキングのそこかしこに赤いしずくが散って、ジワジワとしみ込んでいった。
ごく、ごく、ごく、ごく・・・
良哉の食欲は、すさまじかった。
柏木夫人は、目もくらむ想いだった。
ほとび出る血潮がブラウスを汚したのは、あきらめがついた。
吸血鬼の相手をすればどうしたって、服は汚れてしまうのだ。
かがんで中腰になったのが、よけい負担になった。
男はのしかかるように体重を預けてきた。
これが息子の友人のすることだろうか?
柏木夫人は畏怖をおぼえた。
夫人を畏怖させるほどに、その日の良哉はガツガツしていた。
ただひたすら、喰いついたうなじから牙を埋めたまま、
力づくでむしり取るようにして、彼女の血を飲み耽るのだ。
あ・・・あ・・・あ・・・
眩暈が夫人を襲った。
身体の平衡が失われたのを感じ、気づいたらもう引きずり倒されて、床のうえにあお向けになっていた。
自分の上から起き上がった少年の口許は、吸い取ったばかりの彼女の血潮がべっとりと着けていた。
少年はすかさず、夫人のロングスカートのすそをとらえた。
足許を覆っていたロングスカートは荒々しくたくし上げられて、空々しい外気が下肢を浸す。
「えへ・・・えへへ・・・へへへ・・・」
少年はイヤラシイ嗤いを切れ切れに発しながら、墨色のストッキングを穿いた彼女の脚を、舌と唇とで撫でくりまわした。
おろしたての真新しいストッキングに、唾液がヌラヌラとヌメりついた。
およそ紳士的ではない、無作法なやり口だった。
相手が息子の親友で、息子から相手をするように頼まれたのでなければ、毅然として「およしなさい」と言っていたに違いない。
猛犬のような牙を太ももにガクリと食い込まされて、再び血がほとび散った。
獣に襲われているようだ、と、夫人はおもった。
少年はその後なん度も、脚のあちこちに喰いついてきた。
左右かまわず、部位もかまわす、自分の牙の切れ味を試すように、夫人の柔肌を切り裂いてゆく。
ラベンダー色のロングスカートは、たちまち血に染まった。
好夫も、さすがに夢中になっていた。
差し伸べられた足許に喰いついた後、ねずみ色のストッキングのうえから唇をすべらせるようにして、
彼は良哉の母の穿いているストッキングの舌触りに夢中になっていた。
われながら、オタクっぽいやり口だと恥ずかしかった。
けれども良哉の母は、そんな好夫の想いが伝わるらしく、
「好きにしていいんだからね」と言ってくれて、彼の意地汚い欲求に精いっぱい付き合ってくれたのだ。
さいしょに咬みついたふくらはぎに熱中するあまり、良哉の母は貧血を起こして身体をふらつかせた。
彼女の身じろぎでそれと察すると、好夫は彼女を横抱きにして、床の上に横たえてゆく。
昂りきった彼女の呼気が、好夫の耳たぶを浸した。
小母さんもうろたえてるんだ――と、はじめて感じた。
いつ顔を合わせても、しっかり者の自営業主の妻である小母さんだったが、
牙をふるって迫ってくる吸血鬼の脅威の前には、ただその身をさらして欲望にゆだねるばかりだったのだ。
いくら半吸血鬼としての儀式とはいえ、幼馴染の母親を無用に傷つけたくなかった。
彼はオレンジのスーツの上半身にかじりつくようにして良哉の母のうなじに唇を寄せると、ガブリと食いついた。
首すじの太い血管を、あやまたずに断ち切っていた。
ハッ、ハッ、ハッ、
ひぃ・・・ひぃ・・・ひぃ・・・
息せき切った良哉に、喘ぎ喘ぎ肩を弾ませる柏木夫人。
すでにブラウスははぎ取られ、ブラジャーは飛ばされ、ロングスカートのなかで、ストッキングは片方脱がされていた。
ショーツの薄い生地を透して、少年はまだ童くさい息が直接、秘部にしみ込んできた。
ああ、この子に犯される・・・
夫人はさすがに、悩乱した。
彼女は夫のことを想った。
夫はいまごろ、こんなこととは知らずに市役所の奥まった部屋で執務しているに違いない。
金縁メガネを光らせた生真面目な横顔が、なぜかいまの彼女のありようを察しているような錯覚を覚えた。
太ももを伝って、柱のようにコチコチに固まった一物が、せり上がってきた。
初めて吸血鬼というものに襲われるようになってから、すでに夫以外の男性をなん人となく、彼女は識っている。
けれども――
よりによって、それが良哉くんだなんて・・・
白い歯が迷うように喘ぐのを、男の厚い唇に塞がれた。
一人前の男の呼気だと、夫人は感じた。
いいんだよ、思い切りやっちゃっていいんだからね――
良哉の母はそういって、好夫を励まし続けていた。
隣で母親が犯されているのをありありと感じながら、そうだからこそよけいに、異常な昂ぶりを覚えていた。
股間の一物が、自分のものではないように太い棒になっている。
すでにふたりの身体は、上下に合わさり、互いに互いの熱を感じ合っている。
良哉の母は思い切りの良い女だった。
入り口で惑っていた好夫の一物に手を添えると、自分の秘部へと導いて、さっきまで自分を苛みつづけた牙と同じように、
夫を裏切る行為をズブリと遂げさせていた。
良哉の母の中で、好夫の一物が白熱した閃光を放った。
破れかかったねずみ色のストッキングを穿いた脚がピンと伸びて、やがてじょじょに力を失い弛んでいった。
二対の男女は肩を並べて、息をはずませ合っていた。
四人呼気はばらばらで不協和音のようだったが、
彼らの意図するところはひとつであった。
ふたりの少年は互いの母親を相手に、見事に筆おろしを遂げていた。
そして、そのあとは好きなだけ――
大人のオンナの身体を覚えた怒張したペニスを、なん度もなん度も突きたてていっては、
初めて識った女たちの身体の秘奥へと、白く濁った体液を放射しつづけていった。
太陽は西に、傾こうとしている。
けれどもそれが、なんだというのだろう?
礼装をほどかれた女たちは、自らの血を浴びながらも、頬は嬉し気に輝いていた。
あれほどたっぷりと血を抜かれたにもかかわらず、
色とりどりに染まるストッキングに透けた素肌には、淫蕩な血色をみなぎらせていた。
「青春だな」
「まったくだな」
翌日登校してくると、良哉と好夫は顔を合わせて同時に言った。
お互いの熱した精液を、お互いの母親の体内奥深くにぶちまけ合った者同士の、奇妙な共感がそこにあった。
「オレ、洋子のことプレハブ小屋に誘った」
良哉がいった。
洋子とは、好夫の母の名前だった。
自分の母のことを呼び捨てにされて、好夫はくすぐったそうに笑った。
「じゃあボクは帰りに、きみの家に寄ることにするね」
「うちの親父、大丈夫だから」
良哉はイタズラっぽく笑った。
お互いの父親は、自分の妻が息子たちの餌食になったのを、夕刻帰宅して初めて知った。
どちらの妻も、息子も、家に戻って来ていなかった。
良哉の父は好夫の父を訪ねた。
「なんか、うちのアバズレ女は別にエエんですけれども・・・柏木の奥さまには大変なご迷惑を」
良哉の父は昔かたぎらしく、好夫の父に頭を下げた。
好夫の父はもちろんことのなりゆきに驚いていたが、
こういうときに夫がうろたえてはいけないと感じた。
「風変わりなことになってしまいましたが、これはおめでたいことなんだと思います」とだけ、いった。
そして、慇懃に頭を下げてきた良哉の父に応じるように、丁寧に頭を下げて、
「御子息の成人おめでとうございます」といった。
そのあと二人は連れ立って酒場に繰り出した。
お互いの息子たちが女の身体を識って大人になったことも、
お互いの妻の貞操が泥にまみれたことも、若い情夫が一人ずつ増えたことも、
どちらもいっしょに、祝い合った。
そして大酒をくらって、まだだれも戻って来ていない家に戻り、朝まで大いびきをかいて寝入ったのだった。