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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

血を吸われたことを母さんに告白する。

2024年01月25日(Thu) 00:55:53

「ぇ・・・?」
母さんは案の定、ボクから聞いたひと言に、頓狂な声を発した。
「・・・っていうことは、何?キミは吸血鬼にもう、咬まれちゃったっていうの?」
できの良くないボクのことを、母さんはよくそんな目で視る。
そして、そのつぎにおっ被(かぶ)せられる「常識を疑う――」という目つきが、
いつもならもっと、後ろめたい気分につながるはずなのに。
いまのボクが割合平気な心持ちでいられるのは、
吸い残された血液中に混入された毒素のなせるわざなのだろうか?

「やだ・・・あなたがそんなことしたら、母さんまで咬まれちゃうじゃない!いやよそんなのっ!!」
珍しく自分本位に取り乱す母さんのことを、ボクも、妹の由佳も、冷ややかに見守っている。
母さんの反応はますますエスカレートして、ヒステリックになってゆく。
「やだー!どうするのっ!?あなた子どもだからまだ知らないと思うけど――母さん犯されちゃうんだよ!?
 父さんにどんな言い訳すれば良いのよっ!?」
そういえば、たしかにそうだった。
由香里さんはボクに、「セックスの経験のある女子は例外なく犯される」って、確かに教えてくれた。
そうだとすると、ボクから吸血病を「伝染」させられた母さんもまた、犯されちゃうっていうことだ。
後先考えていなかったけど、そのときだけは母さんに、ちょっっぴりだけ済まないと思った。
ウン、そう。「ちょっっぴり」だけだったけどね・・・

なにしろボクは、花嫁の純潔を奪(と)られる覚悟で、由香里さんとの交際を取りつけたんだ。
こんなプラチナチケット――絶対に手放したりなんか、するもんか。

ふと見ると。
母さんの背後に、妹の真奈美が近寄っていった。
そして、うす茶のセーターにこげ茶のスカートを穿いた母さんの後ろで、そっと囁いたのだ。
「母さん――ゴメン。あたしももう、吸われちゃった・・・」
えっ!?
ボクたちふたりは、目を見開いて真奈美を見た。
真奈美は動じなかった。
「ウン、そうなの。咬まれちゃったの。あの公園で――」
ストレートのロングヘアを掻きのけた首すじには、たしかに咬み痕がふたつ、綺麗に並んでいる。
さっき咬まれたばかりなのか、傷口はまだ乾ききっていなくて、紅い血のりがテラテラと光っていた。

相手は・・・だれ・・・?
ボクがそう訊くと、
「たぶん、兄さんの血を吸ったのと同じひと・・・」
といった。
ボクたち家族の血を、複数の吸血鬼が奪い合う。そんなことにはならずに済みそうだ――と、ボクは少しだけホッとした。
それなら問題は簡単だよ――と、そう言いかけて、ボクはその言葉を呑み込んだ。
母さんが半狂乱になって、真奈美に向かって食ってかかったのだ。
「あなたねえっ!どうしたのよ!?なに考えているのよ!?ふたりともっ。吸血鬼に血をあげるなんて、どうなってるのっ!?」
母さんはその場に、うずくまってしまっていた。

まさかここまで母さんが、吸血行為に対して嫌悪感を示すなんて、思ってもいなかった。
お隣の奥さんだって。
父さんの友だちのご夫婦だって。
仲良く吸われているって、母さんそう言ってたよね??
他人のうわさなら気軽にできるけど、自分はヤなの??
そこまで問い詰めるのは酷なのかなって、ボクは思った。
そうしたら――女の子って容赦ないよなって、思わずにはいられなかった。
真奈美がボクの代わりに、言い放ったのだ。
「えー、だって母さん、お隣の奥さんだって飲まれちゃってるんだから、いまノらないと流行に乗り遅れちゃうよ~」

ただいまぁ・・・そのときだった。父さんが戻ってきたのは。
3人が3人とも、救われたような気がして、父さんのほうへと振り向いた。
ところが、父さんの様子は、それどころじゃなかった。
背広のジャケットは無事だったみたいだけど。
ワイシャツの襟首が真っ赤に濡れていた。
「悪い、母さん――お客さん連れてきたんだ。きみの血が欲しいってせがまれちゃって、断り切れなかったんだ・・・」

きゃー。

母さんが叫んだのは、無理もないことだった。

あー。あー。あー・・・
あお向けに組み敷かれた母さんは、こげ茶のハイソックスを履いた脚をバタつかせながら、もう首すじを咬まれちゃっていた。
唇のすき間からこぼれた血のりが床に滴るのを、ボクはしっかりと見届けていた。
その傍らで真奈美が、「あーあー♪」って言いながら、持ってきた雑巾で、床に散った血のりをむぞうさに拭き取っていった。
「母さん、こげ茶のハイソックス素敵だね。あとでたっぷり舐めまわしてもらえると良いね」
真奈美は他人ごとみたいに、のんびりとそんな独り言を洩らしていた。

「父さん・・・いいの・・・?」
さっき得た知識のままに、ボクは父さんに問いかけた。
――セックス経験のある女のひとって、犯されちゃうんだよね?
「そんなことにいちいち、念を押すものじゃない」
父さんは照れ臭そうに、笑った。
「母さんのハイソックスを、昼間から狙っていたらしいんだ。今夜は夜通しかもしれないな・・・」
苦笑しながら父さんは、首すじを濡らす血のりを掌で拭い、自分の口で舐め取っている。
母さんが好んで履いていたこげ茶のハイソックスがチリチリに食い剥かれるのも、想定内のことらしい。

「けどお前、さっき聞いたら冴島さんとこのお嬢さんと付き合うそうじゃないか?
 それは良いんだけど――」
さすがの父さんが言いよどんだ。
「わかってるって」
ボクはいった。
「あのひと――由香里さんのことを初めてヤるとき、ボクに見せてくれるって約束してくれたんだ」
そうだったんだな・・・父さんはむしろ、ほのぼのと笑った。
「父さんだって、母さんが目の前でほかのヤツと姦(や)るところなんて、もちろん初めてなんだからな」
「一緒に見学しても・・・良い・・・?」
というボクに、父さんはおうように笑って応えた。
「ああ、ぜひそうすると良い。創太の未来の花嫁は、初めてを奪(と)られるんだからな。
 もっと刺激的かもしれないぞ」
「う~ん、でも自分の母親が姦(や)られちゃうのも、かなり凹むと思うけどね~」
そんなのんきな会話を交わす親子のまえで。
母さんだけがひとり、大きな声で喚いていた。
「あ、あなたたちっ、ダメ、ダメよ、こんなところ、視・な・い・でっ!♡」
生真面目な母さんがひと晩じゅう弄ばれて、恥を忘れたことまでは――内緒にしておこう。(笑)


あとがき
これまた珍しく、書下ろしです。
お母さんの痴態が、けっこうコミカルになってしまいました。^^

追記
2月4日、ちょっとだけ改筆。

由香の彼氏。

2024年01月24日(Wed) 23:49:33

「え?私と?」
切羽詰まったぶきっちょさだらけの告白に。
由香里さんはけげんそうに、ボクのことを見つめた。
「こんなでぶっちょさんのこと、からかうもんじゃないわよ」
冗談ごかしのうそぶきの、語尾が少しだけ、震えていた。
そうじゃない――
ボクはけんめいに、言いつのった。
いつも冷静な物腰に、クラスをまとめる責任感。
だれに対しても献身的な、看護婦さんみたいな善意と情熱。
そんな優等生ぶりに惹かれたのだと――どうやってうまく説明できたのだろう?
とにもかくにも由香里さんは、ボクが嘘ん気ではないのを、わかってくれたみたいだった。

でもね――
由香里さんはなにかを、言いよどんだ。
それはたぶん、ボクの一方的な好意をはぐらかすためではなく、
本音でなにかを伝えようとしていた――と、ボクの目には映った。
何・・・?
ボクは探るような言葉を、由香里さんに投げかけた。
うぅん、なんでもない。よそうねこんなの、悪い冗談だよね・・・
由香里さんは思い直したように、そういった。
すこし冷静になって、一歩か半歩、身を引いたような言い方にきこえた。
冗談だなんて――
ボクが憤然として、もういちど言いつのろうとしたとき。
由香里さんははっとした顔つきをして、
ごめん、とだけ、ボクにいった。
「創太くん、本気で言ってくれてるんだよね、私、失礼なこと言ってしまった――」
由香里さんは心からの後悔を、独り言で返してくる。
訊いてもいい?と、ぼくはいった。
なにを・・・と言いよどむ由香里さんに、
「でもね」の続き――と、ぼくはいった。
わかった・・・
由香里さんは気おされたように、こたえてくれた。
けれどもとても、すべてを言いにくそうなのは、容易に見てとれた。
それでも「でもね」の続きを訊く権利がある・・・と、ぼくはおもった。

私ね、献血してるの。
知ってるでしょう?この街に吸血鬼が大勢いるって。
その中の1人に、家族みんなで献血してるの。
パパもママも、もちろん私も・・・
わかるでしょう?
首すじを舐められながら吸血されるんだよ?
それと、あのひとったら、ストッキングやハイソックスが好きなの。
だから、下校途中で呼び止められて、制服着たままハイソックスの脚を咬まれたりしているの。
それなのに私――学校の名誉を損ねているかもしれないのに――あのひとにせがまれるまま、その献血を続けているの。

それが由香里さんの話の、すべてだった。

えっ、それって、いけないことじゃないんじゃない・・・?って、言いかけて。
いやまてよ――と一瞬、想い留まった。
だって。
気がつかずには、いられなかった。
もしも由香里さんがボクの恋人になってくれたとして。
どうやら親ぐらいの年恰好らしいその吸血鬼に、
首すじを舐められハイソックスを破られながらの吸血を、耐え忍ばなければならないはずなのだ――ということに。
せっかく恋人になってくれるのにそんな不義理をするのは、
生真面目な由香里さんにかぎって、とてもできたことではないのだと――

そこまで言ってくれたあなただから、言わないわけにはいかないから、言うわ。
ママはね、吸血鬼に血を吸われながら、抱かれているの。
どういうことか、わかるでしょう?
そう、恋人同士みたいに、抱かれているの。
パパはそんなふたりの関係を気遣って、それ以上立ち入らないからって、ふたりのお付き合いを認めているんだ。
でも――
もしも、もしもね・・・
貴方と私が将来、結婚するとしたら――
あのう・・・セックスを経験した女のひととは、絶対そういうことをするんだって。
だから、貴方のお嫁さんになった途端に、私あの人に・・・その・・・犯されちゃう立場なんだよ。
だから・・・
いまのうちに私のことは、思い切ってくれないかな――

驚くべき事情と、決然とした態度とで。
ボクは旗を巻いて撤退するしかなかった。
いちどはちゃんと、考えてほしいな――彼女はそんなボクを責めるでもなく、独り言みたいにそういった。

一週間、ボクは考えた。
母さんが言っていた。
お隣の奥さんも、父さんのお友だちご夫婦も。
最近はみんな、血を吸われているみたい。
気味が悪いわこの街はって。
そうなんだろうか?
そういう、気味の悪い街なんだろうか?
ふと目にした窓辺の気色は、いつものように穏やかで、だれもが安心して暮らしている街そのものだった。

放課後、下校するところを待ち構えていたボクに、
由香里さんは覚悟していたらしく、まともに目線を合わせてきた。
「話・・・あるの?」
「うん」
「長くなりそう・・・?」
「うん、きみしだいで長くなる」
ボクは言葉に力を籠めていた。
それが由香里さんにも、伝わったらしい。
「じゃあ来てくれる・・・?」
むしろそっけない言葉つきで、後ろも振り向かずに家路をたどっていくのだった。

ここでね。
彼女が立ち止まったのは、自宅近くの公園だった。
ここでいつも、私血を吸われているの――
見学してく?
からかうような目つきの由香里さんに向かってボクが強く頷くと。
彼女はびっくりしたように、大きく目を見開いた。
冗談とか・・・やだよ。
由香里さんはボクのほうを見ずに、そういった。
「本気のつもりだから――」ボクはそう応えるしかなかった。

公園の隅っこにある噴水の傍らに、由香里さんは真っすぐに脚を進めていく。
真っ白なハイソックスが眩しい、まだ陽の当たる時分だった。
「あたしね」
由香里さんが、彼女には珍しい蓮っ葉な調子で口を開く。
「あのひとに楽しませてあげるときには必ず、新しいやつ履いて来るの」
彼女はじっと、自分の足許を見つめていた。
真新しい白のハイソックスは、夕陽を照り返して、太目のリブをツヤツヤと浮き彫りにしている。
吸血鬼ではないボクにさえ、それはとても美味しそうに映った。
「あたしがデブで、血をいっぱい獲れるから襲われているだけなんだ・・・けどね・・・」
彼女の声が、くぐもった。
もしかすると、そんな劣等感があるのかもしれない。
由香里さんのお母さんは、控えめで目だたないタイプだったけど、優しそうな女(ひと)だった。
あのひお母さんも、由香里さんともども血を吸われているんだ――と、ボクはおもった。
「あのひとったら、ママが本命なんだよね。私はその付けたり、おまけに過ぎないの」
由香里さんは初めて、本心をいった。
たしかに彼女よりきれいな女子はなん人もいるかもしれないけれど。
負けず嫌いで誇り高く、級長としての責任感をいつも満面に湛えている彼女が、はじめて見せた劣等感に。
ボクは脚がすくむ想いだった。

黒くて淡い煙が、辺りに立ち込めた。
ふと見ると。
背の高い顔色の良くない男が、国威に身を包んで、目の前にいた。
「この人が由香里の彼氏さんかね?」
男はいった。
「まだ、そんなんじゃないから」
由香里さんはこたえた。
「まだ」――ということは、まだボクにも見込みはあるんだろうか?と、ちょっとだけそう思った。
「あ・・・あのっ」
ボクは思わず、声をあげた。
半歩差し伸べた制服の半ズボンの脚は、濃紺のハイソックスに包まれている。
ふと見ると。
ハイソックスが脛の半ばまでずり落ちていた。
カッコ悪・・・ボクは思った。
あわててひざ小僧の下まで引き伸ばすしぐさを、男は笑いもせずに見守っていた。
「先にボクの血を吸ってください。やっぱり、女の子を守るのが男子の務めだと思うから――」
知らず知らず、ボクは彼と由香里さんとを隔てるように、立ちはだかっていた。
「けっこうな勇気だな」
男はいった。
「けれども――良いのか・・・?」
と、男は訊いた。
「ど、どういうことですか!?」
ボクはこたえた。
「血を吸われるようになったら、後戻りはできなくなる。
 いまならまだ、後戻りができる。
 彼女を諦めさえするのなら――」
男はいった。
「そんなつもりでここまで来たわけじゃありません」
ボクは本気で、口を尖らせる。
すると男は案外にも、
「すまん、すまん、そりゃそうだよな。失敬した」
と、困ったような顔つきをした。
その困惑した面ざしに、ちょっとだけ共感を覚えた。
「創太くん止しなよ」
背後から声がした。
「止さなかったら――ボクの彼女になってくれる?」
ボクはこたえた。
「信じらんないんだけど・・・」
由香里さんは、独り言(ご)ちた。
「答えて・・・」
ぼくはいった。
「わかった・・・彼女になる・・・」
背中越しにミニにする由香里さんの声が、涙声になっている。

初めて受け容れた牙は、思いのほか痛みを感じなかった。
けれどもそのまえに、ボクの履いているハイソックスをたんねんに舐め尽くす舌なめずりに、閉口するはめになった。
じっとりと這わされてくる舌が、しなやかなナイロン生地ごしに卑猥な情感を伝えてくる。
「男女問わないんだよ、わしは」
男はいった。
「わかった・・・わかったから、好きにしなよ・・・」
ボクは、そういうしかなかった。
嫌というほど繰り返した舌なめずりのあと、男はおもむろに、ふくらはぎを咬んできた。
痛・・・っ!
心のなかで叫んだのが聞こえたかのように。
男はふたたび、舌なめずりをくり返してくる。
傷口に埋め込まれた痛みが、ほどよくまぎれるのを、ボクは感じた。
チューッと音を立てて血を啜り取られるのが、音と気配とでわかった。
血液を引き抜かれるときの感覚が、無重力状態にいざなわれるようで、なんともいえなかった。
「悪い、悪いね・・・」
男がそう言いながら、なおも飽きもせずに舌なめずりをなすりつけてくるのに、
ボクはハイソックスを引き伸ばし引き伸ばししながら、応じていった。
あー・・・
貧血がにわかに、ぼくの脳裏を混濁させた。
「あー、具合悪くなったかな?無理するなよ」
吸血鬼はむしろ、ボクの体調を気遣っているようにさえ思えた。

その場に横倒しになってしまうほど尽くさせてしまうと、
ボクにはもう、由香里さんに対する吸血を妨げるための打つ手がなかった。
「次はあたしの番ね」
由香里さんが割って入るようにして、白のハイソックスの脛を彼に向って差し伸べた。
「彼女の血を吸っても良いか?」
男はわざわざ、ボクに訊いた。
「良くないよ――」
ボクはけんめいに、かぶりを振った。
「ゴメンね、創太くん。私この人に血を吸われるの、嫌じゃないの」
あの生真面目で近寄りがたい由香里さんが、制服のスカートをたくし上げんばかりにして、
白のハイソックスの脛を、男に向けて差し伸ばしていた。
見慣れた制服のハイソックスのリブの上に、ボクの血をあやした牙が突き立てられて。
ズブ・・・ッと刺し込まれてゆく。
そんな光景を、どうしてドキドキしながら、見守ってしまっているんだろう?
貧血に迷った脳裏を、真っ白なハイソックスに散る赤い飛沫が、狂おしく染めた。

いつの間にか。
尻もちを突いた由香里さんは、公園の芝生の上に組み敷かれていって。
「ああ・・・やめて・・・」と呻きながら、首すじを咬まれていった。
真っ白なブラウスに散ったバラ色の飛沫が、もう何も遠慮しないで良いのだと語っていた。
由香里さんの身体を流れるうら若い血液を、男は思う存分ゴクゴクと飲み込んでゆく。
惜しげもなく――というほどに。
由香里さんもまた、ブラウスのえり首をおし拡げんばかりにして、白い胸もとをさらけ出し、皮膚を破られていった。
男が由香里さんの血を想うさま吸い取ると、こんどはふたたび、ボクの足許にかがみこんで来る。
どうぞ・・・と呟きながら、ボクはそうっと、ハイソックスのずり落ちかけたふくらはぎを、自分から差し伸べてしまっていた。
男は無遠慮に、ボクのハイソックスを咬み破るのを愉しみながら、吸血に耽ってゆく。

ボクももう、由香里さんに負けず劣らず、吸血鬼の奴隷になり果ててしまっていた。
どうぞ・・・もっと咬んで・・・もっと楽しんで良いですよ・・・と、呟きながら。
紺のハイソックスの脚を、男の舌に、唇に、好むままに添わせていってしまっていた――


あとがき
由香里の身の上が気になっていたのですが、
最近にしては珍しく、あっという間に描けちゃいました。^^

後記
2月4日、少しだけ改筆。

吸血鬼とお母さんの鬼ごっこ

2024年01月24日(Wed) 20:33:54

淡い草色のワンピースを着た百合子が、公園のなかを逃げ惑っている。
「怖かったら逃げるね」
笑みを交えてそう応えた妻が、たしかに逃げ惑っている。
けれども、逃げ惑って――というのは、もはや適切な表現ではないかも知れない。
妻の足取りはあくまでも手加減したもので、
迫って来る吸血鬼に容易に肩を掴まれてしまうていどの緩慢なものだった。
ふり返りふり返りしながら肩までの黒髪をなびかせて、
ワンピースのすそを風にそよがせて、
すそから覗くふくらはぎを彩る淡い色合いのストッキングに、脛を適度に透きとおらせて、
巧みに吸血鬼を誘惑していた。
「あっ」
抱きつく猿臂に声をあげて、頑是ない子どもみたいに激しくかぶりを振って、
うなじに喰いついて来る牙を避けようとはするけれど。
その努力はもちろん、妻の身を守り通すことは無い。
力を籠めた猿臂に身体をギュッと固定され、否応なく咬まれてしまうのだ。
ビュッと飛び散る血潮が、ワンピースの肩に撥ねる。
妻の生き血をひと想いに吸い尽くそうとはしないで、
吸血鬼はわざとのように、華奢なワンピース姿を固い猿臂から解き放つ。

季節はずれの蝶が弱々しく翔ぶように、妻はふたたび弱々しい足取りで逃げ惑う。
そしてまたもや他愛なく捕まえられて、首すじを咬まれてしまう。
さほどの量を喪うわけでもないのに、男の腕のなかの妻は大仰に、
「ああ~っ」と絶望的な呻きをあげながら、生き血を啜り取られていった。
むさぼる喉が、美味そうに鳴った。
ひと口ひと口、彼は妻の生き血を愛おしむように飲み味わっている。
そして、猿臂に巻かれた妻をまたも解放し、弱々しい足取りを余裕たっぷりに追いかけてゆく。
いちどに吸い取る量をわざと加減して、この他愛ない鬼ごっこを長引かせようとしているのだ。
けれども妻のほうもまた、公園の外には出ようとはせずに、とりとめもなくパンプスの脚をもつれさせる。
そしてまた、あっけなく捕まえられて、逞しい腕のなかで切なげな呻きをあげるのだった。

なん度めか解放された妻は、よろよろとよろけて、噴水の礎石に身をもたれかけさせた。
失血で、動きが明らかに衰えていた。
立て膝をした妻の足許に、好色な唇が吸いつけられた。
ストッキングをしわ寄せながら、淡いナイロンの舌触りを愉しんでいるのだ。
妻は目許を翳らせて、羞じらうようにかぶりを振った。
めくれ上がらないようにワンピースのすそをひざ頭で抑えた掌は、
それ以上相手の不埒な愉しみを妨げようとはしていない。
じょじょに姿勢を崩す妻にのしかかるようにして、彼は妻のパンプスを脱がせ、
足の裏にまで舌を這わせた。
「あははははっ」
妻がくすぐったそうに、開けっ広げな笑い声をあげた。
男の舌は、悪魔に支配されたようにしつようだった。
ストッキングのうえからしゃぶりつけられた舌は、薄いナイロン生地を卑猥に舐め抜いた。
いやらしい舌なめずりが、妻の足許を上品に染めるストッキングに、露骨な皴を波打たせ、唾液をしみ込ませてゆく。
なん度も咬まれ、ストッキングをチリチリに咬み破られながら。
妻はじれったそうに身を揉んで、
「いけません」「やめてください」「ひどいです・・・」
と囁きをくり返し、情夫の痴態を制しようとしている。
けれども本心は言葉と裏腹であるのは、ひと目見てそれとわかるほどだった。
彼が愉しみやすいように、脚をさりげなくくねらせて、狙われた部位を舌に添わせてゆくのだ。
時おり、力を籠めて喰いつかれると。
「きゃあ~」
と大仰な声をあげて応じたが、むしろストッキングを咬み破られることに歓びを含んだような声色だった。

彼に掻き抱かれた妻は、ワンピースの前の釦をひとつひとつ外されていって、
さいごにはぎ取られたブラジャーに隠されていた胸を露出させた。
彼女が着古したこのワンピースをチョイスした理由がわかった。
前開きで、彼にとって脱がせやすい服だったのだ。
節くれだった掌が貧相な胸を愛おしむように覆い、しつような愛撫を加え揉みくちゃにしてゆく。
ピンと勃った乳首を賞玩するように唇に含むと、くちゅ・・・くちゅ・・・と卑猥な音を洩らしながら、舌で愛撫を加えていった。
もはや、つけ入る隙もないほどの愛撫だった。
乳首を噛まれる気遣いはないとわかったうえで、全幅の信頼をこめて開かれた胸は、むしろ誇らし気に舌と指とに晒されてゆく――

「パパ・・・」
娘が傍らで、上目遣いにぼくを見た。
下校中に申し合わせたようにぼくと待ち合わせ、前もってぼくの渇きを飽かしめてくれていた。
ブラウスに撥ねた血潮がその余韻となって、純白のブラウスを鮮やかに染めていた。
ぼくは娘と、視線を合わせた。
母親似の顔の輪郭が、妻のそれと重なった。
「どうやら、出る幕はなさそうだね・・・」
ぼくは情けなさそうに笑った。
「そうだけど――」
娘も、困ったように笑った。
「パパはいいの?」
「ぼくはかまわない。
 ママは嫌がっていないし、彼も楽しそうだ。
 このうえ邪魔するのは、やめにしておこう」
「ウン、わかった――」
娘の声は思いのほか、キッパリしていた。
「じゃあこのまま、さいごまで見届けようね」
逃がさない――と言わんばかりに、娘の掌がぼくの手の甲を押し包む。
ぼくは自分の掌を動かさなかった。

足摺りをくり返す脛から、片脚だけ脱がされたストッキングがじりじりと弛み堕ちてゆく。
強引な上下動に細腰をあずけながら、妻は相手の背中に腕を回し、
濃厚なキスに自分から応えはじめている。
もう、ぼくたち父娘に視られているのをじゅうぶんに、意識していた。
意識しながらも、夫婦のあいだでしか演じてこなかったであろう営みを、
人目さえも厭わずに、恥を忘れて、いや――誇らしげに、くり広げてゆくのだった。


あとがき
なん度も「逢う瀬」を見るにつけ。
ご主人も彼と奥さんとの仲を認めたようです。
めでたしめでたし。^^

鬼ごっこのシーンは時おり描きますが、
逃げては捕まえられ、逃げてはまた猿臂に巻かれ――というのは、ひとつの愛情表現のように思えます。

「怖かったら逃げても・・・」と、前作でのたまわったご主人ですが。
つかず離れずの愛情表現をスキなくくり返すふたりに、とうとう脱帽したようですね。^^

ぞんざいな扱いではなかった――

2024年01月24日(Wed) 20:29:51

ワインカラーの夕焼けが、濃紺の闇に飲み込まれようとしていた。
街灯がぽつりぽつりと点きはじめ、薄闇に染まりかけた足許が、かすかに明るくなった。
女学生たちがおそろいの制服の肩を並べて、三々五々、家路をたどっている。
血の渇きに目ざめたぼくは、娘の学校帰りを待ち伏せていた。
きょうも、由香里のハイソックスは白だった。
学校指定のハイソックスは、紺色と白とをチョイスできるようになっていたけれど。
由香里はわざと、血の色のきわだつ白を、好んで履くようになっていた。
見通しの良い小径を、由香里はこちらに向かって歩みを進めてくる。
彼らのいるあたりはまだ、夕陽に支配されていた。
そのさいごの陽の光を、真っすぐ伸びた太目のリブが、ツヤツヤと照り返していた。
若い血液をふんだんに宿した、むっちりとはち切れそうなふくらはぎの歩みが、
こちらに向かってくるのがもどかしい。
ぼくは通りがかりの女学生たちをやり過ごし、由香里のほうへと一直線に歩みを進めた。
由香里はすぐに、ぼくを認めた。
「怖い顔。目つき尖っている」
娘はそういって、ぼくをからかった。
「パパも、いっぱい吸われたんだね」
由香里は上目遣いでぼくを見た。
顔が心持ち、蒼ざめている。
そういえば。
出かける時は、紺のハイソックスを履いていたっけ。
「履き替えたのか?」と訊くぼくに、由香里は「うん」と応えると、
「いっぱい噛まれて持っていかれちゃった」と、つづけた。
半歩身を退いたぼくをみて、「でも、いいよ」と、由香里は告げた。
「パパに吸われるんなら、惜しくない」
セミロングの髪を掻きのけると、白い首すじが、うわぐすりを塗ったように滑らかに輝いている。
ぼくは、がまんできなかった。
由香里を抱き寄せて、うなじに唇を吸いつけていた。
いつの間にか備わった女の芳香が、微妙に喉を、鼻腔を刺戟する。
思わず力を籠めて、喰いついてしまっていた。
あふれ出てくる血潮に狼狽しながらも、ゴクゴクと音を立ててむさぼっていた。
囚われの女学生は、ぼくの腕のなか、むしろそうすることが自分の務めと心得ているように、背すじを心持ち反らした姿勢のまま、容赦なく突き込まれる牙を受け容れてった。

「パパもエッチだね」
由香里はそういいながら、ベンチに腰かけた姿勢で脚を咬ませてくれた。
足許を狙われていると知ると、ぼくに楽しませるためにわざと、ずり落ちかけたハイソックスを引きあげていた。
娘あいてに、はしたない――
そう想いながらも、通学用のハイソックスのしなやかな舌触りに、ぼくは少しばかり欲情を感じていた。
「気になってるんでしょ、ママのこと」
由香里は無口な娘だったが、場の空気を察するところがあった。
「ここで待とうよ、あたしも付き合う」
褪せかけた頬をいっそう蒼ざめさせながら、由香里は公園の入り口のほうを見やっていた。
そう。
妻はきっと、ここへやって来る。
妻を誘うときのデートの場所はいつもここなのだと、彼は教えてくれさえしていたのだ。

妻を待つ間じゅう。
娘の顔色の蒼さを気にかけながらもぼくは、血のりのついたうなじを吸いつづけずにはいられなかった。
傷口から漏れ出てくる血の量はおさまりかけていて。
舐め取るくらいにしか滲み出てこなかったけれど。
それでも由香里は従順に、ぼくに吸われるがままになっていた。

30分ほどもしたころだった。
辺りはもはや闇に包まれていて、公園のところどころにしつらえられたベンチのそれぞれを、街灯がスポットライトのように照らしている。
来てほしい、と思いながらも、来てはいけない・・・と感じていたそのひとが、見慣れた小柄な痩せ身を影絵のように忍ばせてきたとき、
思わず娘と目を見合わせてしまっていた。
「いつもここで百合子を愉しんでいる」
彼の言い草を確かめるために訪れた公園で、密会を観るはめになろうとは。

百合子はいつも見慣れた、茶色とオレンジの入り混じった、幾何学模様のワンピースを着ていた。
凝ったデザインのわりに地味な着映えになるのは、そういう柄なのか、本人が地味だからか――
足許に通した肌色のパンストはいつもながら野暮ったく映るけれど、
それすらも、妻にとっては精いっぱいの、彼のための正装なのだ。
肚の奥がカッと火照るような、嫉妬を感じた。
ひっそり佇む百合子に、彼は足早に近寄った。
一直線に迫って来る男の影に怯えるように、百合子が半歩後ずさりする。
「あの――」
百合子が声をかけた。
「喉渇いているんですよね・・・」
ひっそりとした声色に、優しい同情がこめられている。
彼はゆっくりと、肯いた。
「いつもみたいに、お願いできるかな・・・」と、彼は言った――
「はい、どうぞ」妻はこたえた。
妻はもう、後ずさりしようとはしなかった。

うつむき加減に佇む百合子の立ち姿を、男の猿臂がそうっと覆った。
気温が冷えて空々しくなりかけた外気から、庇うような仕草に見えた。
吸いつけられてくる唇に、百合子はためらいもせずに、うなじを添わせてゆく。
蛇のように喰いつく牙に身をゆだねたのが、かすかな身じろぎでそれとわかった。

ごくり・・・ごくり・・・ぐちゅうっ。
生々しい吸血の音が切れ切れに、薄闇を通して洩れてくる。
彼の喉が鳴るたびに。
妻はわが身をめぐる血潮を、惜しげもなく飲みむさぼらせているのだ。
彼にとっては、いまが至福の刻なのだ――と、ふと思った。
そう思うと、目を離せなくなっていた。
腕のなかの百合子は、満足そうな笑みさえ泛べて、露骨な飲血の音に聞きほれているようにさえ見えた。
あるいは、妻にとってもいまが、至福の刻なのかもしれない――と、ふと思った。
吸血行為に同情を覚えはじめたぼくの身体は、渇きかけた血管をはげしく脈動させた。
妻に対する他人の吸血行為さえ、わが身の悦びと錯覚し始めていることに。
ぼくは戸惑いを覚えていた。
脂の乗った四十代の人妻熟女の生き血に酔い痴れている彼が、羨ましいと思った。
そして、人妻の生き血に浸ることが許されることが、彼にとって好ましいとさえ、感じ始めていた。
そして、それと同じくらいに・・・われとわが身をめぐる血潮を惜しげもなく飲ませている百合子のことを、潔いと感じ始めていた。

「どうする気?」
由香里が上目遣いに、ぼくを見あげる。
「確かめてみたかったんだ」と、ぼく。
なにを――?と言いたげな娘に、ぼくはいった。
「彼に訊いたんだ。
 どうして百合子なのか?って。
 ママは見映えも地味だし、大人しいし、彼のような男をそそるタイプとは思えない。
 もっと若くて、派手めで、きらびやかな女性のほうに、どうしていかないんだろうって。
 そうしたら、言われたんだ。
 ――いつ招んでも、すぐ来てくれる。
人妻熟女の生き血に手っ取り早くありつくには、百合子にかぎる。
彼女は律義だから、俺の期待を裏切ることがない――って。
 だから、思ったんだ。
 ぞんざいな扱いをされるのなら、百合子の善意が穢されるんじゃないかって。
 でも――どうやらパパの思い過ごしみたいだね」
「そうだね」――娘もいった。
血を吸い取られてゆく自分の母親の立ち姿から、ひとときも目を離さずに。

抱きすくめられた妻は、恋人のような口づけの嵐に身を任せ、
ひと口ひと口愉しみながら血を啜られるのを、明らかに歓んでいた。

「怖かったら逃げても良いんだぞ」
なに食わぬ顔で帰宅したぼくは、妻にいった。
「ううん――だいじょうぶ。でも、怖かったら逃げるね」
妻は蒼ざめた頬に精いっぱいの笑みを泛べ、そう応えた。
ふと見ると。
茶色とオレンジの入り混じった幾何学模様のワンピースは、
不規則な水玉もようを新たに加えられる憂き目をみていなかった。
よほど入念に咬みついたのか。
首すじにふたつ綺麗につけられた咬み痕には、かすかな血のりが滲んでいるだけだった。


あとがき
半吸血鬼と化して娘の生き血を口にしながら、妻の受難を見守る夫――
取るに足らない、欲求を満足させるためだけの便利な女・・・と思われていたのなら切なかったけれど。
どうやら「彼」は、奥さんのことを本気で好きだったみたいです。
娘さんの直感の勝利ですね――

下校中の娘のハイソックスの足許を狙うなんて、お父さんエロいですよね。^^
あと、末尾は、次話へのつたない伏線です。^^

禁断の味わい。

2024年01月24日(Wed) 20:24:10

妻の百合子も。
娘の由香里も。
そして、それと同じくらいぼくまでも・・・
そろいもそろって、初めて吸われたときは。
脇役どころか、チョイ役の遂げる最期のようだった。
妻の百合子は夜の公園で、背後から羽交い絞めにされて、
ろくろく抵抗もできずに一方的首すじを咬まれてしまったし――
娘の由香里は授業中に、首すじから血を滴らせているクラスメートの子に呼び出されて、
母親に言われるままに自ら差し出した発育のよいふくらはぎを咬まれて、
紺色の通学用のハイソックスを破かれながら吸血されていった。

ふたりとも。
ろくろく抵抗もできないうちに、有無を言わさず血を吸い取られてしまったのだ。
もっともの話、そもそもが。
勤め帰りのぼくが狙われたのが、発端だった――

幸か不幸か。
相手は、人を殺めるのが嫌いな吸血鬼だった。
彼は三日にあげずわが家にやってきて、
ぼくを含め家族全員の血に舌づつみを打つのだった。
死なさない――という条件を突きつけられて。
ぼくたちはおずおずと素肌を晒し、血を吸い取られてゆくのだった。


「ただいまぁ・・・」
玄関の扉を開ける音と同時に、生気のない声が聞こえた。
でも、けだるげだったその声はすぐさま「あっ!」と短い叫びに変わり、
「ああ~っ・・・」
と、絶望的なうめき声につながっていった。
血を吸い取られるときの、か細い脱力感のこもった声色だった。

顔をあげると、玄関に佇む娘の由香里が、顔をしかめて姿勢を崩しかけている。
足許ににじり寄った彼が、制服姿の由香里の脛に、唇を吸いつけていた。
学校帰りのハイソックスがよほどお気に召したのか、
彼の唇はかなりイヤらしく、由香里の脛を這いまわった。
しなやかなナイロン生地を舐め味わうように。
舌が、唇がハイソックスに包まれた脚の輪郭をなぞり、
時おり唇に力を籠めて、喰いついてゆく。
喰いつかれるたびごとに。
脛を覆う白のハイソックスが、ビチビチと赤い血潮に染まっていった。

ちゅうちゅう・・・
ちゅうちゅう・・・
足許にあがる露骨な吸血の音に顔をしかめ、頭を抱えながら、
由香里はその場にくず折れた。

ぼくはどうすることもできずに、娘の受難を見守っていた。
つい今しがた。
娘の帰宅を当て込んで現れた彼に、スラックスを引きあげられると、
30分ほどかけて血を吸い取られたばかりだったのだ。
陶酔に似た疼痛と引き換えに、ぼくの血はそっくり、彼の干からびた血管へと移動していった。
そしていま、したたかに吸い取られた働き盛りの四十代の血液は、彼のなかで力強く脈打って、娘を襲う原動力となっている。
それに引き換えぼくのほうは、もう、起きあがる余力さえもっていなかった。
勤め帰りの薄々のハイソックスは、たしかに彼を悦ばせるために穿いたのだけれど。
思いのほかしつような舌なめずりに、妻の百合子のストッキングの脚に加えられた凌辱を重ね合わせていた。
あいつ・・・あいつ・・・百合子の脚をこんなふうにいたぶるのか・・・
嫉妬に焦がれながら血を吸い上げられて、気絶寸前まで追い込まれたところで、
ふと身体を放された。
彼の目線の彼方に、百合子がいた。

学生時代、お姫様のように憧れた女は、目のまえで男に組み敷かれ、
破られたストッキングを穿いたままの太ももを灯りの下にさらけ出し、
うなじに好色な唇を吸いつけられている。
彼はキュウキュウと、ひとをこばかにしたような音を洩らしながら、
百合子の血をさかんに口に含み、すでにかなりの量を飲み漁っていた。
彼の唇は、百合子の首すじにずうっと、貼りついていた。
百合子の首すじが、いとしくていとしくてならない――というくらいの執着ぶりだった。
たんに渇きや食欲を充たすためではなく、百合子の血の味をしんそこ楽しみ、味わっているように見えた。
しつような吸血にもかかわらず、百合子もまた、彼の腕の中で静かに目を瞑っていた。
失血のはやさに焦る様子も見せず、服に飛び散った血潮にうろたえる様子もみせなかった。
むしろ自分のほうからすすんで、彼の喉の渇きを自分自身の血液で癒そうとしているようだった。
彼が自分の血を気に入っていることを、はっきりと意識しているようだった。
自らの血潮の佳さを誇るように、背すじをピンと伸ばして、
床の上で濃厚なチーク・ダンスでも躍るかのように、身を寄り添わせているのだった。

美味そうだ――しんそこ美味そうだ・・・
彼に抱きくるまれながら吸血される百合子を見ているうちに、
そんな想いが、むしょうに湧きあがってきた。
失血が度重なるにつれて知らず知らず、
血に飢えたものたちの気持ちが、わかるようになり始めていたのだ。
こんなにも渇いた気分だったのか。
こんなにも切ない想いだったのか。
そう思うと――
目のまえで暖かい血に満たされている彼を見て、彼のためにはしんそこ良かったのだと思えるようになり始めていた。
目のまえで、妻や娘がほしいままに、生き血を吸い取られているというのに――

「あのひと、ママのこと本気で気に入ってるみたいだね」
いつの間にか傍らに、由香里がいた。
首すじからしたたる血潮が、制服の襟首をバラ色に染めている。
「ママのこと、とても気に入ってるんだと思う。
 パパ・・・ママのこと取られちゃわないようにがんばってね――」
娘はそう言うと、力尽きたかのように、ぼくのすぐそばで四つん這いになって、弱々しい吐息をセィセィと吐きつづけた。
「お前だって――気に入られしまっているんじゃないのか?」
ぼくがそういうと、娘はこたえた。
「私?私はただ、太ってて血を一杯獲れるからってだけじゃないかな・・・」
娘の言い草は、少し投げやりに聞こえた。
「気に入ってもらいたいのか・・・?」
ぼくが声をひそめると、
「どうなんだろう・・・わかんないや・・・
 でも私、血を吸われるのは嫌じゃないから、気にしないでね」
妻と娘を守れなかった情けない夫――と、ともすれば想い塞いでしまうぼくを気遣うように、娘はこたえた。
脛の半ばまでずり落ちた白のハイソックスが、血に濡れていた。
バラ色の飛沫が不規則な水玉もようとなって、真っ白な生地の表面に散っている。
ふと、渇きを覚えた。
「――いいよ・・・」
娘がそう呟いて、ハイソックスをひざ小僧の下まで引き伸ばすと、ぼくのほうへと差し向けてくる。
われ知らず、足首を掴まえていた。
ふくらはぎに、舌を這わせてしまっていた。
しなやかなナイロン生地の向こうに、温みを帯びた柔らかなふくらはぎが、息づくようなうら若さを伝えてくる。
そこからはもう、止め処がなかった。
どうやって喰いついたのか、憶えていない。
由香里のふくらはぎがキュッとこわばるのを、咬み入れた犬歯で感じていた。
唇の下で娘の履いているハイソックスが生温かく濡れるのもかまわずに、
それでもグイグイと、皮膚の奥を求めていた。
ちゅうっ・・・ごくり。
ぼくは目の色を変えて、まな娘の血潮で喉を鳴らしていた。

禁断の飲み物を得たぼくは、由香里を引き倒すと、首すじに咬みついていた。
由香里は抵抗しなかった。
むしろ自分から、荒い息を爆ぜるぼくの口許に、うなじを差し向けてきた。
じゅるっ。じゅるっ。
生々しい音を立てながら。
ぼくは娘のブラウスを、血浸しにしていった。
傍らで百合子が、スカートを腰までたくし上げられて、ひざ下までずり降ろされた肌色のパンストをしわ寄せながら、足摺りをくり返していた。


あとがき
チョイ役で血を吸い取られてしまうような人妻だって。
若いころにはいまの夫と、精いっぱいのロマンスを演じていたはず。
そんなあたりもちょっとだけ、表現してみました。

娘さん。
血を漁り獲られてしまう理由は、果たしてほんとうに、「太っているだけ」なのでしょうか・・・?

地味なパンストを愉しまれる。

2024年01月12日(Fri) 01:21:57

ビデオカメラのディスプレーのなか。
ギラギラと毒々しくきらめく白のストッキングの脚を、まるで白蛇のようにくねらせて。
その看護婦は病院のベッドのうえ、放恣に荒れ狂っていた。
すごいな・・・
画像に思わず見とれるぼくを、傍らの妻が軽く小突いた。
「うちの主人、こう見えていやらしいんです」
おどけた調子でそういうと、肩をすくめてみせた。
市内の病院で、看護婦相手に彼が演じた、いちぶしじゅうがそこに記録されていた。

「だんなさんのハイソックスも、ギラつきありだよね」
たしかに――ぼくが好んで履いている通勤用のストッキング地の靴下も、
婦人もののパンスト並みのゾッキサポートで編まれているので、けっこうギラつく。
「私の履いているの地味すぎますか?」
ひざ下丈の栗色のスカートの下、控えめに覗かせた脚をすくめながら、
妻は気遣うように、彼を見つめた。
脛の周りを包む薄地のパンストは、光沢もなく、もちろんギラつきもなく、ごく月並みな肌色だった。
その時々で色合いは微妙に変わるものの、同じブランドを履き慣れている妻には、それしかないらしかった。
「ウウン、やっぱり百合子はこれが良い」
彼はもの欲しげに、妻の足許に目線を這わせた。
「そうですか?」
妻はもう一度肩をすくめてみせたが、こんどはどことなく得意げにみえた。
見かけは多少地味でも、薄地のストッキングがもたらす翳りは妖しくなまめかしく、
彼を楽しませるためと心得て、いままでどおりの地味なパンストを脚に通しつづけている。

彼の唇が、妻の足許を狙っている。
妻の足許をほのかに染めるなよなよと儚いナイロン生地が柔らかく取り巻く足許を、
舌なめずりしながら狙っている。
「やだ」
妻は短く呟いて、近寄せられた唇を避けようとした。
「え・・・?」
ぼくのほうを身をよじって省みる妻の顔が、意外そうな色をよぎらせた。
妻の両肩を抱きかかえるように抑えつけて、彼のほうへとねじ向けてやったのだ。
あの好色な舌なめずりが、妻の穿いているストッキングを、じわじわと淫らに、しわ寄せてゆく――

よそ行きの上品な装いに、じかに唇を吸いつけ、舌を這わせて愉しまれてしまうことに、
さいしょのうち妻は眉を顰め訝りながらも、応じてゆくようになっていた。

「あ~」
目を瞑った妻は切なげにうめくと、おとがいを仰のけた。
圧しつけられた唇の下。
唾液に濡れたストッキングは、むざんに裂け目を拡げている。

ちゅう・・・っ。
滲む血潮を、爆ぜる唾液もろとも飲み込まれて。
妻は「ひっ」と声をあげる。
ぼくの手を握り返してくる掌に、しがみつくような力がこもった。

彼はストッキングの舌触りを愉しむように、妻の脚のあちこちに唇を吸いつけ、這いまわらせて、
時おり牙を軽く刺し入れては、裂け目を滲ませてゆく。
それらは涙の痕のように、チリチリと延びていった。
「百合子のパンストは愉しいな」
彼は妻の足首を握り締め、拡がる裂け目に目を細めた。
妻の纏う薄衣の素朴な色香を、彼なりに愉しんでいるのだ。
「もっと咬んでみせてくださいよ」
心臓が飛び出るくらいの昂ぶりを覚えながら、ぼくは彼を促していた。
「いやらしいわね」
妻が咎めるような上目づかいで、ぼくを睨んだ。
その尖った目線すらが、くすぐったくて、たまらない。

今夜もゆうに1時間は、彼は妻のパンストを愉しむつもりに違いない。
さいごには。
布団の上に仰のけられて、
大またを開かされて、
食い剥かれたパンストが、まるでハイソックスみたいにひざ小僧よりだいぶ下までずり落ちた格好で、
抑えつけられる快感に目ざめた妻が、控えめな吐息とあえぎを、洩らしつづけることになる。
行き場を失った白く濁った奔流を、彼から手渡されたショーツにほとび散らせながら、
ぼくはひと晩じゅう、堕とされた妻の痴態を歓びつづける。

クラスメートといっしょに遂げた初体験

2024年01月12日(Fri) 00:19:53

娘の通っている女学校は、紺のハイソックスを履く学校だった。
地味子と呼ばれた妻をモノにした彼は、当然のように娘にも秋波を送っていった。
「せっかくだから――していただきましょうよ」
母親がそういうのだから、娘の純潔はもう、時間の問題だと観念せざるを得なかった。

彼は正面切って、平日の真っ昼間に、娘の通う女学校を訪れた。
すぐに校長室に通された彼は、来意を告げると、好意的に迎えられた。
すでにこの学校の女学生はなん人も、彼の毒牙にかかっているのだ。
「2年A組の冴島由香里さん、校長室に――」
担任の女教師に先導されて校長室に現れた娘は、自分の血を目当てに来校した吸血鬼相手に、それとは知らず尋常に初対面の挨拶をしたという。
夫婦ながら吸われたあの晩。娘はとうの昔に寝入ってしまっていた。
「この方がクラスの授業を参観されます。教室までご案内してあげて――」
担任に言われるままに娘は、彼の先に立って、教室に案内した。
彼が娘の後ろ姿を、とくに紺のハイソックスに包まれた発育のよい脚に目を留めたことを、生真面目な女学生は知る由もない。
彼の狙いは、娘だけではなかった。
さいしょに彼が引き合わされたのは、学級委員の鈴村敏恵だった。
敏恵はその日、ストッキング地のハイソックスを履いていた。
優等生で文学少女の彼女は大人びたところがあって、
十代の少女には珍しく、人前に出るときには日常的に、ストッキングを嗜んでいた。
だから通学の際にもしばしば、学校の許可のもと、ストッキング地のハイソックスを好んで脚に通していたのだ。
彼女のおしゃれな装いを、飢えた牙で喰い裂いてやろうと彼がもくろんだことは、想像に難くない。
つぎの時間は、体育だった。
女生徒たちが着替えをするなかで、彼は鈴村敏恵を隣の教室に引き入れると、
無抵抗なこの女学生の首すじを、カリリと咬んでいた。
ブラウスの襟首に血を撥ねかせながら、鈴村敏恵はずるずると姿勢を崩し、その場で尻もちを突いていった。
娘たちクラスメートが運動場で息をはずませながら身体を動かしているあいだ。
慎ましく質実に装ったストッキング地のハイソックスを咬み剥がれていった。
身体じゅうの若い血潮を舐め尽くされてしまうと、
度を失った彼女はうろたえながら、それでも気丈に背すじを伸ばして、
授業を終えて戻ってくるクラスメートたちを待ち受けていた。
だれもが十代のうら若い肢体に、運動でめぐりの良くなった血液をピチピチとはずませていたのだ。

「涼子ちゃん、いい?」
つぎの授業中。
授業の途中から教室に戻った鈴村敏恵は、隣の席の少女に声をかけた。
そして、え?え?と訝しがる華邑涼子を教室から連れ出すと、
廊下で待ち受けていた吸血鬼に引き渡してやった。
鈴村敏恵の血をあやしたままの牙が、こんどは華邑涼子の首すじに、埋め込まれていった。
「授業中だから静かにしようね」
さすがに優等生らしく、鈴村敏恵ははしたない声をあげようとしたクラスメートの口許を、掌で柔らかに覆っていった。
華邑涼子のハイソックスは、太目のリブの入った学校指定のハイソックスだった。
鈴村敏恵みたいに脛の透けるハイソックスをおしゃれに履きこなす子は、ごく一部だった。
涼子のふくらはぎのあちこちに牙を刺し入れて、ハイソックスを他愛なく咬み破りながら、
彼はうちの娘の履いているハイソックスをどんなふうにいたぶろうかと、ワクワクしていたという。
娘の身代わり、予行演習のように喰われてしまった華邑涼子こそいい迷惑だったが、
それでも彼女は初体験の吸血行為に、息をはずませて夢中になっていった。
そしてとどめを刺すように首すじに喰い入れられてくる牙をまともに受け止めると、
同級生の鈴村敏恵どうよう、白のブラウスの襟首を勢いよく撥ねる血しおに浸しながら、無我夢中で吸血されていった。

「由香里ちゃん、いいよね・・・?」
ブラウスの襟首を血に濡らしたクラスメートがふたり、肩を並べて虚ろな目で迫って来るのに、娘は戦慄を覚えたという。
それでも娘が2人の親友に請われるままに吸血鬼の待ち受ける空き教室へとためらわずに脚を向けたのは、妻に言い含められていたからだった。
「お母さんね、昨夜恋を知ってしまったの」
妻はそう娘に語ったという。
「素敵な恋よ。あなたも同じ人に、恋をして良いのよ。
 むしろそうなることを、お母さん望んでいるの。
 あのひとに、貴女の若い血をあげてほしいの。
 首すじをちょっと咬ませてあげたら、貴女も素敵な恋ができるの。
 怖がらないで大丈夫。ちょっと抓(つね)られるくらいの痛みで済むから。
 お母さんの血を気に入ってくれたひとだから、あなたの血もきっとお口に合うはずよ」
妻はそういって、玄関でもじもじと躊躇っていた娘の背中を押したという。
「冴島由香里さん だね?」
彼のくぐもった声に、娘はゆっくりと頷いたという。
傍らで2人の友だちが、娘が咬まれるのをひと目見ようと、ウズウズしていた。
自分たちと同じように、友達が制服を血濡らせながら吸血される有様を、
露骨なくらい目にしたがっていた。
「きみの脚はきれいだね」
彼はいった。
両親ともに咬まれた牙に、自分の素肌が狙われていることに、
もはや麻痺してしまった彼女の意識は無反応に陥っていた。
「ねえねえ、ほら、おじ様に咬ませてあげて。
 由香里も早く、美味しいって言ってもらおうよ」
すでに餌食にされたクラスメートたちが口々にそういうのを横目に、
娘はそう・・・っと、紺のハイソックスの脚を差し伸べていった。

「地味子」と呼ばれた妻

2024年01月12日(Fri) 00:10:12

妻の百合子のことを、「地味子」と彼は呼んでいた。
「地味だから地味子だ」と、笑っていうのだ。
でも、侮辱された気分にはならなかった。
もしも妻を侮辱されたと感じるとしたら、それは彼が初めて妻のことを咬んだときに遡らなければならないだろう。

そう、彼は吸血鬼だった。

血に飢えた彼の毒牙にさいしょにかかったのは、ぼくのほうだった。
勤め帰りにぼくを襲った彼は、首すじを咬まれて昏倒したぼくの血を、ゴクリゴクリと喉を鳴らして楽しみ尽くすと、
こんどはスラックスを引き上げて、ひざ丈に伸ばして穿いていた靴下まで楽しみはじめた。
そのころ流行っていた、ストッキング地のハイソックスだった。
貪欲な舌なめずりに晒されて、皺くちゃにされてゆくことに憤慨しながらも、
ハイソックスごしにずぶりと埋め込まれる牙に、ぼくはあろうことか、性的な歓びを感じ始めてしまっていた。
男はぼくの片脚だけをしつように咬んで、提供可能と思える生き血を一滴余さず、むしり取っていった。
その場に横倒しになりながら。
このままご自宅に案内してくれはしまいか――と、ぼくはなん度も、請われていた。
家には妻がいる。きっとあんたの目当ては、妻の血なのだろう?
ぼくはそういって、あくまで彼の要求を拒みつづけた。
仕方がないな――彼はそう呟くと、公園のど真ん中にぼくのことを横倒しにしたまま、近くの公衆電話に足を向けた。
そして受話器を取ってなにやら囁くと、再び戻ってきて、言った。
奥さん呼んだから――たったそれだけだった。

「きゃあーっ!」
背後から羽交い絞めにされた妻は、首すじを咬まれて絶叫した。
吸血鬼の出没に慣れたこの街では、そのていどのことで人は出てきてくれないのだった。
ぼくの血に染まったままの牙を、妻の首すじにひと息に埋め込むと。
彼は頬に血潮を迸(ほとばし)らせながら、妻の生き血を飲み啜った。
頬に散った血潮は、ぼくから吸い取った分と、妻のものと、両方が混じり合っていた。
妻はその場に尻もちを突くと、男は妻のスカートをたくし上げて、
さっきぼくの脚にそうしたように、ストッキングに包まれたふくらはぎに、
好色な舌なめずりを、這わせていった。
すべて、ぼくの目のまえでのことだった。
ぼくに見せつけようとして、わざとそうしたのだった。
ゴクゴク・・・ゴクゴク・・・
妻の生き血は、じつに美味そうに、飲み尽くされてゆく。
頼むから・・・頼むから・・・妻を殺さないでくれ・・・
ぼくは必死に懇願した。
彼はぼくのほうを見やると、いった。
「大丈夫だ。
 気前よく血を分けてくれたあんたは、恩人だ。
 恩人の嫁さんを死なすほど、俺はひどいやつじゃない」
でも――と、彼は言いよどんだ。
恩人の嫁さんを、ともに愛する習慣を俺は持っている・・・
えっ。
絶句するぼくの前。
妻はその場に押し倒されて、ブラウスを剥ぎ取られていった・・・

逞しい腰の上下動に、妻の細腰が支配されてしまうのに、さして時間はかからなかった。
妻は無言で、おずおずと。
さいしょのうちは、ひどく遠慮がちに、そして行為そのものを忌むように、
むぞうさに圧しつけられてくる男の腰に、動きを一方的に支配されていた。
「地味子だなあ」彼はいった。
たしかに、妻は地味で、見映えのしない女だった。
「でも――俺はこういう子が好きなんだ」
彼は40に手が届こうかという妻のことを、こういう「子」と呼んでいた。
あとで訊けば――数百歳になるという彼にとって、ぼくたち夫婦はほんの子ども見えたのだろう。
彼は妻と身体を重ねつづけて、唇を吸い、うなじを吸って、
自分の背中に妻の両の腕(かいな)を巻きつけまでしていって、妻を支配してゆくのだった。
やがて、自由自在に操られてしまった妻は、ぼくだけの妻ではなくなっていた。
ぼくとの夫婦の営みよりも、遥かに大胆に腰を振って、彼の欲望に応えていった。

ひとしきり凌辱を済ませると、彼はいった。
「奥さん、あんた以外は初めてのようだな」
真面目な妻なんだ・・・
ぼくはさすがに、涙ぐんでいた。
「素晴らしいものを頂戴した。礼を言う」彼はいった。
そして、まだあお向けになったままの妻のスカートをたくし上げると、
太ももにしつようなキスを這わせた。
妻は恥ずかしそうにしていた。
あとで訊いたら、「穿き古しのストッキングが恥ずかしかった」と言っていた。
そんなときでも、いやそんなときだからこそ、そんなことが気になったのだろう。
妻の穿いているストッキングは、肌色のごくふつうのタイプのものだった。
そのふつうの主婦の穿いたふつうのストッキングを、男はじっくりと、味わっていった。
くまなく、味わい尽くしていった。
チリチリに破けたストッキングの脚を街灯に曝(さら)したまま、妻が気絶すると。
彼はもういちど、ぼくのほうへとにじり寄った。
そして、まだ咬んでいないほうの脚のスラックスを引き上げて、靴下の上から唇を吸いつけてきた。
ストッキング地のハイソックスを通して、男のなまの唇が、ひどく好色に迫って来る。
彼はボクの靴下を、唇で、それから舌でもてあそんだ。
さっき妻のストッキングにそうしたように、辱め抜いたのだ。
「あんた、薄い靴下が好きなんだな」
ぼくは、やっとの想いでいった。
「わかってくれて嬉しい」彼はいった。
「妻のストッキングも狙っていたのか?」
「そうだ。買い物に出た時にストッキングを穿いていた」
そんなころから――ぼくは呆れる思いだった。
「だが、あんたの知らないところで奥さんを先に襲うのは無礼だと感じた」
不思議なことを律義に考える男だった。
「ご主人の靴下のほうが、しっかりとした舌触りがするな。
 生地も少しだけ、厚いんだろう。
 だが、実に艶めかしい味わいだ。気に入った。何足も持っているはずだね」
「ああ持っているとも――」
ぼくはこたえた。
「破りたいなら、破ればいい」
半ばやけくそになって、ぼくはいった。
「遠慮なく、楽しませてもらおう」
彼はそういうと、ぼくのふくらはぎにズブリと牙を埋めた。
妻の穿いているストッキングと同じくらいしつように嬲りものにされながら、
ぼくの足許を染めていた薄地のナイロン生地は、ふくらはぎの周りでブチブチとかすかな音を立てて、裂けてゆく。
「ご満悦なようだな」
からかってやりたい気持ちになっていた。
しかし彼は悪びれもせずに、「ウン、ご満悦だ」とだけ、いった。
頭の奥が痺れてきた。
ヌルヌルと抜かれてゆく血液が妖しく傷口を撫でて、どこか官能的な気分をそそり立たせてくる。
いったいどうして・・・?と疑問に思うと、それを読み取ったかのように、彼はいった。
「奥さんもたぶん、同じ気持ちだ。
 たいせつな血液をいただくお礼に、少し楽しませてあげようと思うのだ」
いい気なことを・・・という言葉を、ぼくは飲み込んだ。
いつの間にかぼくは、ずり落ちかけたストッキング地の靴下を自分から引き伸ばして、男の舌に晒してやっていた。
「いい舌触りなんだろ?好きに楽しめよ」
ぼくは駄々っ子みたいに、口を尖らせていた。
「嬉しいね・・・」
彼はそれに応えるように、たんねんに舌を這わせてきた。
きめ細やかなやり口だと、認めないわけにいかなかった。
ぼくは素肌に、鳥肌を立ててしまっていた。
当然彼も、そのことに気づいているはずだった。
「妻のストッキングも、楽しみたければ楽しめばいい」
ぼくはすっかり、投げやりな気分になっていた。
「そうさせてもらう。まだ喉が渇いている。死なさない程度に、奥さんの血をいただくよ」
「妻さえよければ、ぼくはかまわない――」
さっきまでのぼくには予想もしないようなことを、ためらいもせずに受け答えしていた。

男の唇が再び、スカートをたくし上げられた妻のふくらはぎに吸いつけられてゆく。
妻はかすかに、意識を取り戻した様子だった。
失血で喘いだ身体は、うつ伏せの姿勢になっていた。
はからずも。
ふくらはぎを存分に、楽しませてやることのできる体位でもあった。
しつように這わされてくる男の唇を迷惑そうに見おろしていたけれど、
ピチャピチャと舌なめずりする男の悪戯を、やめさせようとはしなかった。
そして、ぼくがそうしたように、ずり落ちかけたストッキングを引きあげて、恥知らずな舌なめずりに、晒していった。

うふふ・・・ふふふ・・・
妻の口許から、含み笑いが洩れてくる。
彼は妻の穿いているストッキングをあますところなく咬み破ってしまうと、
妻の身体をあお向けさせて、またも首すじを咬んでいた。
妻の首すじが、そんなに気に入ったのか?
ぼくの投げた悪罵を横っ面で受け流して、それでも彼はこたえを投げ返してきた。
「ああ気に入った。地味子は佳い血を持っている。首すじの咬み応えも、なかなかよろしい」
彼の答えの不気味さのあまり、ぼくは背すじをゾクッと慄(ふる)わせた。

信じられなかった。
唇と唇が、重ね合わされた。
セミロングの黒髪を、男の指先で弄ぶままにさせながら、
妻は恋人のように、迫らせられた唇に応えていった。
ふたりは、お互い求めあうように吸い合い、また吸い合った。
自分の血の味を嗅がされながら、妻は「ほろ苦いですね」と呟いた。
彼はいった。「いやな匂いじゃないだろう」
「ハイ、嫌ではないです」
妻は案外なくらい、ハキハキとこたえた。
ふだんはボソボソと囁くように、低い声で話す妻だったが、
その活舌のよさは、初対面の人に向ける、よそ向きの顔をしたときの態度と同じだった。
「じゃあもう少し・・・」
彼に言われるままに唇を吸われ、吸い返しながら、妻は始終、ぼくの視線を気にしていた。
「あなた、ゴメン」
初めてふり返った妻は、ぼくに向かってそう告げた。
差し伸べられた妻の掌を、ぼくはぎゅっと握り返してやっていた。
「生命は助けてくれるみたいだから――」と、
まるで自分から望んで妻の生き血を与えた夫みたいなことを、ぼくは妻に向かって告げていた。
「ウン・・・」
妻は口ごもりながら頷き返してくると、
「じゃあ、あげられるだけの血は全部、あげまちゃいますから――」と、彼に向っていった。
彼は熱いキスで、妻の好意にこたえた。
それからふたりが身体をひとつにしてしまうのは、もはや当然のようななりゆきだった。
強引に迫らせられる逞しい腰に、妻の細腰は翻弄された。
さいしょのそれは、強いられた行為といってよかったが、
いま目のまえで妻が営んでいる行為は、決してそうではなかった。
男にかしずく女の所作になっていた・・・

「地味子さんの血を、時々楽しませてくれないか」
ぼくたち夫婦をひとまとめにして自宅に送り届けた彼は、夫婦の寝室に寝かしつけたぼくたちに、訊いた。
「いまさら、なにを――」というぼくに、
「あくまで地味子さんのご主人はきみだから」と、彼はいう。
「私からは言えない」
妻は身を横たえたまま、ぼくに目線を送ってそういった。
あの人に血を吸われたいだなんて、人並みな主婦の私には恥ずかしくて言えない。
そういう意味だとすぐにわかった。
挟み撃ちに合ったような気分だった。
けれどもたぶん、
彼はぼくのことを、冴島百合子の夫として尊重しているつもりなのだ。
そして妻もまたぼくのことを、自分の夫として重んじているつもりなのだ。
もう、しょうがないなあ――
失血にけだるく歪んだ理性を振り覚まそうとしながら、ぼくはいった。
「生命を奪らないというのなら――これからも妻の生き血をよろこんで、ご馳走しよう・・・」
「ありがとう」
「ありがとう・・・」
彼からだけではなく、妻からもお礼を言われてしまった。
「もちろんぼくも、あんたに血液を提供するから。
 できれば・・・妻に手を出すのは、そのあとにしてもらいたい」
ぼくはそういって、夫としての面目を、かろうじて保とうとした。
「薄いハイソックス、いっぱい買い置きしておきますからね」
妻は主婦の目に戻って、ぼくにそういった。
「ストッキングがお好きだなんて、変態ですよね」
妻はそう言って、あっけらかんと笑った。
彼も面白そうに、声をあげて笑った。
ぼくも二人と声を合わせて、笑っていた。
三人が初めて意気投合した瞬間だった。

「どうして妻のことを、地味子なんて言うの?」
ぼくは訊いた。
彼はちょっとだけはにかんだような目つきになって、こたえた。
「彼女のこと、きみと同じ名前で呼んじゃ悪いと思ったからね――」
ぼくは彼のことを、かわいいとおもった。
それが彼のたくらみだとしても、もう良いと感じていた。
「構わないさ。百合子はぼくにとって今でも最愛の妻だけど――
 もうすでに、きみの愛人の1人に組み込まれてしまったのだろう?」
「うん、まさに俺のコレクションのなかの、だいじな1人だな」
彼はヌケヌケと、そういった。
「愛人がいっぱいいないと、私いつも貧血になっちゃう」
妻が間髪入れず、援護射撃を入れてきた。もう完全に、愛人を弁護する立場だった。
「夫として許可しよう。
 きょうからきみの百合子だから――いっそ呼び捨てにしてもかまわない」
首のつけ根につけられた傷口が、ジンジンと妖しく疼いた。
「その代わり――ぼくの血も楽しんでくれないかな?」
うわ言のようになったぼくの声色を察して、彼はすぐさまぼくのほうへとにじり寄ると、激しく疼く傷口を吸った。
じゅるうっ。
生々しい吸血の音に、痺れてしまった・・・
ごくん、ごくん・・・露骨な音を立てて飲み味わわれながら。
ぼくは痺れを覚えたまま、彼の欲求に応えつづけた。
惜しげもなく、血液をむさぼり摂らせてやっていた。
「つぎは百合子の番だね」
嬉し気に弛んだ口許に、妻は自分のほうからキスを重ねる。
ぼくの血がたっぷり撥ねた唇に、妻の唇が妖しくからみついた。
「ご主人、悪いが百合子は俺のモノにさせてもらうぜ――」
彼はそう言って、思うさま血液を抜かれたぼくのすぐ傍らで、妻を犯し、そして狂わせていった。
頭を撫でられ、キスを雨のように降らされ、
破れ残ったストッキングを弄ばれて、貧しい乳首を存分に舐めまわされて。
妻は夢中になって、堕ちてゆく。

その夜、ぼくたち夫婦は彼の、忠実なしもべとなっていた。