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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

着たい

2007年06月15日(Fri) 17:56:17


薄暗い深夜の室内で。
たたみに横たわる女学生姿におおいかぶさっているのは、黒のワンピース。
蒼白い頬をときおり不気味にひくつかせながら。
ちぅちぅ・・・
ちぅちぅ・・・
うなじにぴったりと這わせた唇から洩れる音が、ひどく猥雑な震えを帯びていた。

いい子だ。
女学生姿から身を離すと。
黒衣はそう、呟いた。
さぁ、行っておいで。おまえが喪った生き血を求めて。
黒衣の囁きに、頷くと。
女学生は紺のスカートを翻して、ふらふらと表へとよろめいてゆく。

ふふっ。
ふらつきながら立ち去ってゆく人影を、
黒衣は、血をあやしたままの口許に冷笑をたたえて見送ると。
さぁ、出ておいで。
お待ちかね。きみの番だよ。
こちらのほうへと、異様に優しげな目線を送ってくる。
お嬢さん座りをしていた畳から、立ち上がるとき。
そわり・・・
胸元のスカーフが、音もなくなびいた。

素敵なハイソックスをお召しだね。
通学用なんです。
そぅ。あとでゆっくり、愉しませてね。
月明かりが差し込むだけの小部屋のなか。
黒一色のワンピースに、蒼白い肌がいっそうなまめかしく浮き上がる。
横におなり。
命じられるままに。
仰向けに寝そべって、おとがいをわずかにあおのけて。眼を瞑る。
そろり・・・と、のしかかってくる気配がした。
ひんやりとした息吹のうちに、さっきの娘から吸い取ったものが。
かすかに熱いものを、交じらせている。
かりり・・・
牙が、突き立った。
本能的に、身をすくめて。
ウッ・・・と、のけぞっていた。
あとは、さっきの犠牲者とおなじ経緯だった。
ちうっ。
血を吸い上げる音が、かすかに鼓膜を焦がした。

どれほど、吸われてしまったのだろうか?
さぁ、顔をおあげ。
黒衣の命じるままに、眼を開くと。
吸い取ったばかりの血潮に濡れた唇が、目のまえで笑んでいる。
いつも、ひと月にいちどしか、来てくれないのだね?
声色はあきらかに、男。
そして、さっき出て行った少女も。わたし自身も。男。
そう。
だれもが、女の衣裳に身を装いながらも。
影絵のようなお芝居を演じていたなかに、女の影はなかった。

だって。
女言葉を、強制されていた。
ナイショにしているんですもの。
昂ぶりにかすれた声が、かろうじて女ぽかった。
ふふふ。
黒衣はあざ笑うように、含み笑いで応えると。
毎晩遊びに来たら。あの子みたいに。
半吸血鬼になっちゃうものね。
組み敷かれた、上と下。
イタズラっぽく交わされた共犯者の笑みが、緊迫した空気をかすかに和らげた。

ハイソックスごしにもぐり込んでくる、鋭い牙が。
疼くような痛みとともに、ぐぐ・・・っと、深く刺し入れられる。
持ち主の血潮がじょじょにしみ込んでゆくのを、
ぬるぬるとしたぬくもりの広がりで、感じながら。
淡い陶酔が、胸いっぱいになってゆく。
障害は奥さん・・・なんだね?
黒衣の問いに、深く頷きかえしてしまっていた。


妻には身内のパーティーだと、言い含めていた。
子どもたちを置いて、夫婦ふたりで外出するのは。
ほんとうに、なん年ぶりのことだろう?
妻は着ていく服に迷っていたが。
けっきょく、いつも学校の父兄会に着ていくモスグリーンのスーツで装っていた。
地味めな装いに、ちらりとある予感を覚えたが。
わたしはなにも言わずに、妻を伴って、邸へと向かう。
帰宅する時には。
妻は、ふつうの状態ではないかもしれない。

招かれたのは、わたしたちだけではない。
ぜんぶで十人ほどの男女が、狭いリビングに入り乱れるように腰かけていた。
択び抜かれた人選と、たくみに化粧をしているせいとで。
だれもが男・・・だなどと。
妻はまったく、気づいていないようすだった。
せめて会話があれば、わかってしまうのだろうけれども。
すべてがほとんど無言の裡に、進行していったのだ。

どういう式次第なのか。
わたしには、よくわかっている。
おなじ趣旨のつどいに、べつのご夫婦を招待したことが。
過去になんどとなく、あったからだ。

さっきから。
黒衣が無言で、差し招いている。
用のあるのは・・・わたしに対してだけらしい。
妻にチラと耳打ちをして、傍らを離れた。

招かれた別室には、カメラがしつらえられていて、
妻を含む宴のメンバーが、いろんな角度から、あますところなく映し出されている。
黒衣はむぞうさに、あごをしゃくっていたが。
わたしに、たったひと言。囁いてきた。

着たい。

え?

きみの奥さんの服・・・

なにを言うことが、あるだろう?
知らず知らず、口許が浮ついていた。
似合うと思いますよ。
そう。
あなたとなら、だれでも、どういう形でも、お似合いでしょう。
妻の服も。
服の持ち主の、セックス・パートナーとしても。


宴は他愛ないほど、うまくすすんだといえる。
女装した吸血鬼たちに、両側を挟まれた妻は。
しばらく怪訝そうにしていたけれど。
目のまえの男女が、互いに相手を取り替えあって、血を啜り合いはじめると、
ひっ!
喉の奥を引きつらせていた。
優しく導いたのは、もちろん黒衣の彼。
奥さん。御覧なさい。ご主人も・・・愉しんでおいででしょう?

妻の目線のとどきにくい部屋のすみで。
わたしはべつの吸血鬼に、うなじを咬まれていた。
完全に征服された夫をみて、
妻もまた、ぐいぐいと力ずくで迫ってくる牙の下。
モスグリーンのスーツ姿から力を抜いていった。

咬みつかれたとき。
ストッキングに包まれた太ももの筋肉を。
かすかに、しくっ・・・と。
引きつらせていた。

わたしはいつか、彼と逢うときの女学生の制服に着替えさせられて。
夫婦並べられて、かわるがわるの毒牙に身をゆだねていった。


よく、見えられました。
女の客人を礼儀正しく迎えるのは、黒衣の彼。
彼のまえには、着飾った妻。
まだ、真っ昼間。
子どもたちが、学校からもどるまえ。
そして、夫が勤めのあいだ。
白昼も活動できるということは。
彼にとって、どんなにおいしいことか。
口許からはみ出した牙を眼にしても。
もはや妻は取り乱すようすはない。

お似合い・・・ですわ。
妻の言葉に。彼は満足そうに頷いた。
いま彼が身に着けているのは。
あの晩妻からせしめた、モスグリーンのスーツ一式。
履いていた黒のストッキングは、彼の牙にちりちりに裂かれて。
いまはなれ初めの記念品として、どこかに蔵されているにちがいない。
私、似合わないでしょう?
珍しく羞じらう妻の装いは。
若い頃、結婚式にお呼ばれした時に着ていた紫のスーツ。

処女の生き血じゃなくても、よろしいんですの?
えぇ。熟した血潮・・・愉しませていただきますよ。
ストッキングのおみ脚も・・・よろしいですね?
また、破いてしまうんですね?いやらしい。
甘美にからみ合うやり取りに、生垣ごしにはらはら聞き入っているわたし。

吸血が、はじまったようだ。
会話のとだえた窓ガラスの向こう側は、沈黙に沈んでいる。
ちぅちぅ・・・ちぅちぅ・・・
いつもわたしを包んでいた音が、妻におおいかぶさっていて。
わたしの肌を侵していた牙が、妻の柔肌をなぶり抜いている。

お洋服、汚さないで。ばれてしまうわ。
もだえながら、許してしまったのは。
白いブラウスのわき腹と、
紫のスカートの裏地。
撥ねた血の目だたないところ。
けれども彼の好みに合わせて履いていった真新しい黒ストッキングだけは。
容赦なく、咬み破られてゆく。
むっちりと白い太ももから、オブラアトが剥がされるように。
ふしだらに破れ堕ちてゆく、薄いナイロンの礼装・・・。

時おりご主人にも。
あなたの服を、着て来ていただきましょう。
えぇ。喜んで・・・
  アナタノ女装姿、コレカラモ見タイワ。
あの晩連れだって帰る道々、妻ははしゃいだ声で囁きかけてきた。


善意の献血・・・なんですよね?
妻は何度も、念を押してくる。
もちろん、そうさ。
わたしもよどみなく、応えている。
交わされたやり取りを、夫婦どちらもが信じていない。
子どもたちが寝静まってから、
夫婦連れだっての、お邸通い。
ふたり、スカートのすそをゆらめかせて。
妻は、よそ行きのスーツ姿。
わたしもまた、妻から借りた礼服やワンピース。
まるで姉妹のように、並んで横たえられて。
複数の牙に、素肌を侵されてゆく。
陶然となった、夢見心地のなか。
半裸に剥かれた妻が、熱い血潮をよぎらせた素肌をわななかせる。
あのひとの、お嫁になりたいの。
妻にせがまれて、結婚式を挙げさせたのは。
それからひと月とたたないころだった。


我が家の血が、お気に召したようね。
もっと、ご馳走しなくちゃね。
わたしたちだけじゃ、身体が持たないですから。
子どもたちにも、事情を言い含めておきましょう。
善意の献血・・・なのですから。
吸血鬼の情夫を持って。
ときには娼婦のように、春をひさぎながら。
善意の献血・・・と口にする妻。
けれども彼女は、間違っていないのかも。
採られる血液のなかには。
捧げられるべき熱情や情愛も秘められているはずだから。

さいしょは、息子。
それから、娘。
すうっとあけておいた雨戸のすき間から。
影どもはひそかに忍び込み、朝日とともに去ってゆく。
音ひとつ、痕跡ひとつ、残さずに。
ひと月経ったころには。
息子も、娘も。
照れくさそうに、うなじのあたりを引っ掻きながら。
部活だとか、お呼ばれだとか、口実をつけながら。
お邸で、ハイソックスを濡らしてくるようになっていた。


その晩。
自宅のリビングは、時ならぬ人いきれに包まれていた。
今夜はべつのご夫婦が。
わたしたち夫婦とおなじ運命を与えられる日。
妻は、小娘みたいにウキウキとして、
他所の家の奥さんを毒牙にかけるくわだての片棒をかついでいた。
招かれたのは、人のよさそうなご主人と、しっかり者らしい奥さん。
ご主人の女装癖を、奥さんが気に入っていないらしい。
気に入らせてあげないと、気の毒じゃないか。
黒衣の彼の言葉に、深々と頷いたのは妻のほうだった。
敷居をまたいだご主人の、スラックスのわずかなすき間から。
ねぇねぇ。見た?薄い靴下、履いているわ。
妻は耳打ちといっしょに、わたしのわき腹を小突いてくる。
あちらの御宅。年頃のお嬢さんが三人も、いらっしゃるんですって。
ねらい目・・・ね。
そういう妻の口許からは。
いつか、尖りを深めた犬歯が覗くようになっている。
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コメント

えええ・・・・
 やっぱり尖ってきちゃうんですか?
それは、ちょっと嫌かなぁ。
歯磨き面倒そうです。
ピカピカにしとか無いと
かっこよくないですもんねぇ・・・・。
by さやか
URL
2007-06-16 土 00:26:46
編集
>さやか様
牙のお手入れは、女性にとっての髪やお肌の手入れとおなじくらい、入念にされるのです。
切れ味の良いように、いつも磨きをかけて。
だって。
その牙で、綺麗にお手入れされたお肌に咬みつくんですもの。
エチケット、ですよね?^^
by 柏木
URL
2007-06-16 土 04:55:05
編集

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