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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

闇夜に舞う服

2007年07月25日(Wed) 06:39:59

ぶるるるるるるるるるぅん・・・
真夜中の大通りは、行き交う車もまばらなぶん。
とてもハイスピードで、飛ばしている。
テールランプがゆらめく光芒となって、闇の彼方に消えてゆくと。
あたりに残るのは、街燈に照らし出された静寂。
昼間とは違う種類の輝きが支配する空間は。
日常とは裏返しの異界が、意外に近く存在することを告げているかのようである。

紺とグレーのチェック柄のスカートをたなびかせて。
ひざから下は、闇夜には眩しすぎる、真っ白なハイソックス。
あるはずもない視線を意識しながら。
そらぞらしい冷気のなか、スカートを思い切りよくさばきながら、歩みを進めてゆく。
歩むたび太ももを撫でる夜の空気が、むき出しの肌に心地よい。
見あげたマンションの窓辺は、どの部屋も真っ暗なのに。
その部屋だけは、いまもこうこうと灯りが点されていた。

がたん。
重たく殺風景な鉄の扉をひらくと。
オレンジ色の照明を放つスタンドの下。
輝くほどに色の浅い茶髪の下、黒一色のワンピースが、ゆるやかにそよいでいる。
  あら。お帰り。早かったじゃない。
黒のワンピースの主は、こちらを振り返って、共犯者の笑みを投げてくる。
  コーヒー、淹れたわよ。よかったら、召し上がれ。
差し出されたマグカップの中身はどす黒く澱んでいて。
香気とともに立ちのぼる湯気のくゆらぎが、鼻先をくすぐった。
午前三時。
  とてもコーヒーを飲む時間じゃないよな。
  あら、いらないの?
  うぅん。いただく・・・
ずるっ。
お行儀悪く啜りあげる音。
青とグレーのチェック柄が、大胆な切り込みのあるシフォンのワンピースと重なり合う。

濃い口紅を刷いた唇に。かわるがわるコーヒーカップをあてがいながら。
  まだ、睡っているの?
  ええ、ぐっすり。
ふふ・・・と笑み合う唇を濡らす紅色が。
口紅だけのものではないことなど。
ちょっと見には、だれも気づかないだろが。
照明の落ちた隣室で、口を半開きにしたまま転がっているのは。
ふたりの身につける衣裳の持ち主たち。
うなじに深々とつけられた痕からは。
吸い残された血潮が、ぬらぬらと洩れつづけていた。

ふたつの影は、くすぐったそうに含み笑いしながら。
  おいしかったね。
  えぇ、おいしかったわね。
口々にほめているのは。もちろんコーヒーのことではない。
隣の畳部屋に横たわる母親と娘も。
奥の部屋に寝そべるご主人も。
ひとしく濃い口紅を刷いた唇に。
己の血潮を散らしたあとだった。

ふたりとも。
おのおのが、母と娘になりすまして。
それぞれべつべつの、夜道をたどって。
さきに”帰宅”したワンピースの女が、コーヒーを淹れて相棒を待っていた。
  交差点で、車のライトに、照らされちゃった。
  あら。あたしなんか。後ろからゆっくりと、車に尾行(つ)けられて。
  声かけられちゃった。
  あはは。それで、どうしたの?
  あわてて車の入れない路地に、逃げ込んじゃったのよ。
  ウフフ。臆病ねぇ・・・
濃く刷かれた化粧の下。
ほほ笑む目鼻立ちは、整っているとはいえ。
起伏のとがった、男のものだった。
チェック柄のスカートも。
黒のワンピースも。
真っ白なハイソックスも。
ダイヤ柄のストッキングも。
きりりと引き締まった筋肉を帯びた肢体に。
まるで女そのもののように、マッチしていたけれど。

夜の団らんの席に、忍び込んで。
まず、風呂上りのご主人を、たぶらかして。
それから。
横縞もようのカーディガンを羽織った奥さんの、モスグリーンのスカートの下に、かじりついて。
肌色のストッキングごしに、柔らかな皮膚を牙で刺して。
甘えるように、抱きついて。血潮をたっぷりと、啜り取って。
女の指さすまま、箪笥の抽斗(ひきだし)をあけて、
黒のワンピースをせしめていった。
もうひとりは、勉強部屋に引きあげていた娘を、手なずけて。
空色のブラウスが、紫色になるくらい。
うら若い血潮を、たっぷりと口に含んでいって。
首尾よく制服のプリーツスカートをせしめてきた。
  母娘ごっこが、楽しめるね。
女装の吸血鬼は、ふたり寄り添うように、影を重ねて。
互いに互いの衣裳を、愛でていた。

奥の部屋。
母娘に扮したふたりは、ご主人のうえかがみ込んで。
薄っすらと眼をあけたご主人は。
さいしょは妻と娘だと思い込んでいて。
  だいじょうぶか?お前たち・・・?
だいじょうぶじゃないわ、と呟いた黒のワンピースが。
寝そべったままのご主人のうえ、身を投げかけていって。
夫婦のキスにも似た、強烈な接吻を。
首筋につけた傷口のうえ、容赦なく重ねてゆく。
あ・・・あ・・・ぁ・・・
じゅうたんの上、力なくけだるげに首を振るご主人の顔を、
苦しむ顔を見たくって。ふたりかわるがわる、覗きこんで。
  けっこう、いい男じゃない。
  そうね。女の服が似合いそう。
ふたつの影は、たちの悪い笑みを交し合って。
  お嬢さんの服、着てみない?
腑抜けのように理性をなくしたご主人を。
娘の勉強部屋に、引き入れてゆく。
自室に入ってゆく三つの影を。
少女は、意識のぼんやりとなった意識の向こうに見つめていた。

どお?あなたの制服。お父様に似合うでしょう?
決まり悪げにしているご主人は。
ゆったりと結ばれた紺色のリボンに、白のブラウス。
紺のブレザーに、青とグレーのチェック柄のプリーツスカート。
  女子校生の制服って・・・男のひとでも着れるのよ♪
  ウフフ。これで化粧をすれば、できあがり♪
黒のワンピースが、まるで母親みたいに寄り添って。
ご主人のノーブルな面貌を、化粧の下に塗り込めてゆく。
理性を喪った少女は、やわらかにほほ笑みながら。
  似合う。お父さん。とってもよく似合うよ・・・
まだあどけない声色を、うつろに揺らせている。

血を抜かれたご主人は、陶然となって。
妖しの影に、問われるままに。
うつろな頷きを、くり返している。
  女装の愉しみ、もっと味わいたいでしょう?
  わたしたちの仲間に、なっていただけるわね?
ふたつの影は、邪悪な意図を化粧に隠しながら。
父娘ふたりに、にじり寄ってゆく。
黒のワンピースが、少女のほうを。
娘とおそろいの制服姿が、ご主人を。
からめ取るように、抱きすくめて。
うなじに唇を、あててゆく。
  お嬢さんのほうは、尽くしちゃダメよ。
  処女の生き血は、貴重品なんだから♪


つぎの夜。
女ふたりは、まだ薄ぼんやりと。
畳のうえに、へたり込むように、座りつづけていて。
その隣の部屋では。
鉛色の肌をしたご主人が。
うつろに天井を見あげていた。
昨晩から。なにひとつ変わっていない部屋を見て。
ふたつの影は、予期していたように。
目交ぜを交し合って、近づいてゆく。
  お出かけよ。早く用意をするのよ。
うつろな眼をした母娘は。
すこしだけ、血色の戻った首筋から、まだ血をしたたらせたまま。
娘は中学のときのセーラー服を。
母親は、授業参観のときに着ていく濃い紫のスーツを。
夫は、毒々しいほど色鮮やかな、ブラックフォーマル。
女の身なりになった三人の男性は。
母娘を取り巻くようにして。
暗くなりかけた街へと、さ迷い出ていった。

ぎゅうん。ぎゅううぅんん・・・
渦巻くような車の騒音のなか。
行き交う人々の目を、それとなく避けるようにして。
なぜか誰にも気づかれることもなく。
たどり着いたのは、街はずれの古びた邸。
黒衣に身を包んだ白髪の主は、女装のふたりを見ると。
  おや。雅子さんにミサエさん・・・
口にした名は、罪もない母娘のそれだった。
衣裳をまとうと、持ち主じしんに見えるのだろうか。
黒衣の主は、かわるがわる。
女装のふたりを抱き寄せて。
うなじに熱烈な、キスを重ねた。

奥さんも娘も。そしてご主人も。
血を吸われる女装のふたりを、声もなく見守って。
やがて、吸い寄せられるようにして。
まず、奥さんが。
それから、娘までもが。
黒衣の主に、抱かれてゆく。
ご主人は、妻や娘の後ろから、影のように寄り添って。
優しく手を伸べて、妻の、娘の、おとがいを、仰のけて。
男が妻や娘の血を吸いやすいように、手を添えてゆく。
黒衣の主が、妻と娘のうなじを、さも噛み心地よさそうに噛んでゆくのを。
くすぐったそうに、見つめながら。

黒衣の主は、ご主人をふり返り。
おまえはきょうから、わたしの執事。
もはや浮世のなりわいから、解放された身。
このまま、家には戻らずに。この邸に、住まうがよい。
命じられるままに、ご主人が頷くと。
  奥さんと娘さんの血を吸わせてくれたね。美味しかった。
ウフフフ・・・
黒衣の主も。女装の二人も。ご主人までも。
くぐもった笑いを、重ね合わせている。
  ご褒美だ。
  時おり自宅にも、通うがよい。
  妻も娘も、お前の牙に、喜んで貫かれることじゃろう。
  じゃが、そのまえに・・・
  わかっているね?^^
  きみが身に帯びている喪服に恥じないように。
  奥方の貞操の喪を、ともに祝おうではないか。
ふとかえりみると。
妻と娘は、薄目になって。
女装のふたりに、身をゆだねて。
黒衣の主にキスをされたうなじの傷を。
いちだんと深く、抉らせてしまっている。
かわるがわる。
獲物を取り替えあうふたつの影に。
黒衣の主は、目を細めて。
あのふたりも、いっとき男性に戻してやろうな。
ご主人は、諾、と応えるかわり。
無心になって。
己の脚をなまめかしく彩る黒のストッキングごし、掌を密着させて。
なぞるように、まさぐるように。
己の脚を愛で、その掌を、ふたりの脚にもあてがって。
薄墨色をしたストッキングを、ゆるやかにまさぐりながら、波立てていった。


あとがき
少女やその母親の血を吸って、衣裳を奪って。
奪った衣裳を身につけると、本人になりすますことができるようです。
少女や人妻になりすまして。
黒衣の主に抱かれていって。
そうすることで。
衣裳の持ち主たちをも、おなじ運命に導こうとする者たち。
深夜の街は、しばしば異形の影を宿すのでしょうか?
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