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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

奥様は社長秘書

2007年12月12日(Wed) 05:39:04

人のやりくりが、つきかねる・・・
社長はきょうも、頭を抱えて。
考えあぐねたように、私の顔を見る。
そうだ。きみ、奥さんに手伝いをお願いすることはできないか?
せっぱ詰まった口ぶりに。
家内に、なにか手伝えることなんかあるんですか?
うっかり、口をすべらせていた。
社長はなぜか、意味ありげなかんじの笑みを一瞬よぎらせたあと。
まじめな口調に、すぐに戻って。
  当面は、簡単な事務とお茶汲み。それだけでも助かる。
  なぁに。人はどんなにいても、使い道があるのさ。
痩せぎすな体を揺らして笑う社長の、蒼白い細面に。
ふっと自堕落なものがよぎるのが気になったけれど。
すぐに、言った言葉を忘れたかのように。
二、三の新入りの部下に、手短に命令をくだしていた。
長い白髪を、銀色の輝きがよぎるのを。
なにかの予感のように、見つめていると。
  さあ、お仕事お仕事。
ここに入って長いという菜村と華木が、私を小突いて仕事をせかせる。

ふたりとも。
奥さんもここに勤めていて、階上の事務室で働いているのだが。
外回りの営業にかかりきりの私たちは、ついぞ階上に足を運んだことがない。
それでも帰りのはやいときには。
どちらの奥さんも社の玄関のまえでにこやかに夫の帰社を待っていて。
仲睦まじげに家路をだどるのを、よく見かけたものだった。
  家内が働きに出るとすると、きみたちの奥さんにお世話になるのかな。
  そうだね・・・まぁ、そういうことになるのかな。
菜村はなぜか、あいまいに語尾を濁したけれど。
若い華木のほうは、ひどく嬉しげにして。
  端沢さんの奥さんだったら、うちのやつと同年代ですよね?
ひどく嬉しげにしていた。
  えらく嬉しそうだね
って、冷やかすと。
  ええ・・・話し相手ができると思って。
なぜかやっぱり、語尾を濁した。

夫婦そろって出社した朝は。
少ない従業員のほぼ全員が出揃って。
拍手で妻を、職場に迎えてくれた。
  お名前は?華絵さんていうの?華麗の華に、絵のように美しいの絵、ですね?
社長は珍しく、下手な冗談を言って皆を笑わせたあと。
  じゃあ、華絵さんのめんどうは、冴子さんとミチルさんが見てあげて。
すぐにいつもの、命令口調になっていた。

妻が二人の女性に連れられて階上に姿を消すと、
  ここではね。奥さん社員は下の名前で呼ばれるんだよ。
  嫌な感じは、しないかい?もしも嫌なら、社長はすぐに改めてくれるよ。
菜村の気づかいは無用のことだった。
おなじ苗字の人間がふたりもいたら、どちらかの呼び方を変えなければならないだろうから。

妻の初出勤は、半日でおわった。
  きみの奥さん、専業主婦だったんだろ?
  さいしょのお勤めは、疲れるだろうからね。
  明日からは本格的に、ばしばし行くよ。
社長は珍しく思いやり深げな面持ちで、私の顔を覗き込んだ。

わが社の社員は、社長も入れて十人そこそこの、こじんまりした中小企業。
雨の日や寒い日の外回りは、ちょっとしんどいけれど。
さほど厳しい仕事でもないのに、給与はかなり、優遇されていた。
それでも社員が黙って辞めていって、補充がつかなくなるのは。
いったいどういう、わけだろう?
辞めていった社員のことは、だれも口にしないのだが。
いっしょに働いている奥さんもろとも抜けられるのは、きついといえばきつかった。
いまでは長い勤めをしているのは、親しい同僚の菜村と華木の二人くらいで。
ほかの社員は私とおなじくらいか、私よりあとから入ってきたものばかり。
  腹を割って話せるのは、きみ以外では小野木くらいのものかな?
なにかのときに、菜村がそう口にしたのは。
私より一ヶ月早く中途入社した男の名前だった。

そんな小野木が。あるとき顔色をかえて。
奥さんの手を引いて、階上から降りてきた。
  端沢さん。こんなところは辞めたほうがいい。あんたも奥さん、出社しているんだろう?
小野木の口調はひどく切迫していたけれど。
それ以上のことはなにも語らずに、顔をハンカチで隠している奥さんの腕を引っ張るようにして。
あわただしく外に通じる玄関を開けた。
それっきり、小野木の姿をみたものはいない。
いや、一週間ほど経ってから。
小野木らしい男を外回りの途中で見かけたのだが。
ちょっと会釈したら怪訝そうな顔で黙って通り過ぎたので。
もしかすると、人違いだったのかもしれない。

きょう、なにかあったの?
妻に小野木のことを尋ねてみると。
意外なこたえが、かえってきた。
  小野木さん?ああ、お子さんのいらっしゃるお家ね。
  でも、なんにもしらないの。
  菜村さんと華木さんの奥さんとはよくおしゃべりするんだけど、
  あちらの奥さんはいつも個室に引きこもっていたもの。
個室?
  ええ、そうよ。それぞれ個室に引き取ってお仕事するの。
  でもお二人はお仕事の合間にロビーに出てきて、いっしょにお茶したりするのよ。
  愉しいわね・・・って。
え?
仕事が楽しいだなんて。どんなに楽な仕事についていても、ついぞ感じたことがなかった。
妻は、まずいことを言った、というふうに、不自然に口をつぐんでしまう。
会社に対する疑念が湧いたのは、そのときのことだった。

このごろ、能率があがらないようだね。
菜村がちょっと気遣わしげに私の顔を覗き込む。
  あんたとおなじくらいに入った小野木さんも、辞めちゃったから。
  ちょっと不安になったのかな?
私は洗いざらい話してしまおうと思ったが。
もしかするとずっと辞めないでいるこの二人は、特別な立場なのかもしれない。
階上の小部屋では、いったいなにが起きているのか。
私は夫として、まずそれを知らなければならなかったのだが。
菜村は、そんな私の顔を見通すようにして。
  来なさい。
ひくくみじかい声で、私を階上にいざなった。
  きみが見たいのは、ここのことだろう?
狭い廊下をくねくねと折れ曲がっていくうちに。
私はふと、不安になった。
この先にある小部屋には、間違いなく妻がいる。
けれども、いま妻に逢ってはならないような。
そんな予感がきざしたからだ。
  連れていくのは、きみの奥さんのところじゃない。ここだよ。
指さされたドアについた名札には。
  冴子
とだけ、書かれている。

コンコン。
ドアを軽くノックすると。
なかの人の気配は、ふと静まったものの。
ふたたびそれまでと同じように、ドア越しの人いきれが伝わってきた。
入ってもいい・・・そういうことなのか。
けれども菜村は用心深く、ドアを細めにそっと開くと。
さあ、どうぞ・・・というように、私のことを手招きする。
中には入らずに。ここから御覧なさい。
ひくい声色が、かすかな震えを帯びている。

暗い廊下から覗き込んだ室内は、カーテンを閉め照明を落としてあった。
目が慣れるのに、さして時間はかからなかったが。
状況を理解するのには、時間がいった。
社長がこちらを、向いていた。
ぎくりとしたが、こちらに気づかないものか。
ただ一心に、腕の中の女を抱きすくめている。
黒のロングドレスを着た女は、かきあげた黒髪の下、首筋だけが透きとおるように輝いていて。
肌の白さが、ひきたっていた。
男は女のうなじに唇を当てて、唇の周りには、バラ色の飛沫。
え?
いぶかしい状況に、目を細めると。
抱き合う男女は、踊るようにくるりと向きを変えて、黒のドレスは社長の後姿に重なり合った。
女は男の肩に、おとがいを仰のけられて。
ノーブルな面差しに、甘美な苦痛を滲ませている。
ショートカットの髪がほつれて頬にかかるのが、ひどく淫らな感じがした。
  行こう。
菜村は顔色もかえず、自分の妻と社長とを、ドアの向こう側へと追いやった。
きみの奥さんの番は、三時からだ。
もういちどここに、来るかね・・・?
妻のいる個室には。
やっぱり「華絵」と、下の名前だけがかけられているのだろうか・・・

銀色に輝く総白髪の下、豊かな血色を滲ませて。
社長はきょうも、活き活きと執務に励む。
くだす命令は、的確そのもの。
部下に対する思いやりも、忘れない。
まず、理想の上司といっていいだろう。
  端沢くん。端沢くん。
むだ口の嫌いな社長が、私の名前を二度も呼ぶ。
  きみの奥さん、仕事できるね。きょうから社長秘書に格上げしたよ。
  奥さんにあやかって、きみにもがんばってもらわんとな。
ぽんと肩を叩かれて、照れくさそうに笑い返して。
私はさっと一礼して、仕事に戻る。
初老男の皮膚を輝かせているのは、私の妻の血。
きょうの業務は、三十分ほど前に終わっていたから。
いまごろ妻は、けだるげに。
あの暗い個室で、ほつれた髪をつくろっているのだろうか。

今夜彼の喉をうるおすのは、菜村の奥さんの血だろうか?
若い華木夫人のところにも、声のかかるチャンスは多いという。
社長にほめられた私が席に戻ると。
華木がそっと寄ってきて。
  奥さんどうし、ライバルになっちゃいましたね。
  若い女の血は、回春剤だというんですよ。
  だからああやって、毎日女の生き血を召し上がるんです。
  女が気に入ると、秘書に抜擢されます。
  辞めていった連中は、そこまでたどり着けなくって。
  トラブルになりかかると、社長は夫婦もろとも記憶を消してしまうんです。
  知ってます?社長秘書の仕事って。
  夜の接待にも、同行するんですよ。
  社長のお仲間が、集まって。
  お互いの知り合いの女性を取り換えあうというんです。
  わたしも・・・時々同行を求められますが。
  あなたがわたしとおなじように愉しめるタイプの人で、よかったですよ。
ウキウキと語る若い同僚の横顔は、吸血鬼とおなじように蒼白く輝いている。
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