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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血沼

2007年12月14日(Fri) 06:47:17

その沼のほとりには、しばしば老婆の影が出没して。
よだれを泡だてた口許に、にたにたと小意地のわるい笑みを含ませながら。
若い女を、沼に追い落として。
ぬかるみに足を取られた女たちは、はしたなく取り乱して、
服を泥だらけにしながら、血を吸い取られていくという。

ふだんはその沼は、砂地のように乾いているという。
だから道行くだれもが、ほとんど沼に気を取られない。
沼のほとりの道は、村の住人にとっては通らなくてはならない道で、
だれもが必ず、週にいちどは足を運ぶというほどだった。
涼子はいつものように、学校帰りの制服姿。
足許を覆う白のハイソックスは、丈の長いスカートの奥まで引き伸ばされていて、
ちょっと見には白のタイツのように見えたけれど。
たてに走る太めのリブが、陽射しを照り返してツヤツヤと光っていて。
脚の線を映した微妙なカーブを描いて、折り目正しいなまめかしさをよぎらせていた。
右手は木立ち。左手は沼。
きょうの吸血沼は、濁ったぬかるみを、うわぐすりのようにぬらぬらと光らせている。

きゃっ。
思わず小声をあげて立ちすくんだ目のまえに。
とつぜん現れたみすぼらしい老婆の姿が、行く手に立ちふさがっていた。
老婆はにたにたと、人のわるそうな笑みをうかべながら。
きれいなおなごじゃ。わらわに生き血をくだされや。
にたにたとほくそ笑みながら、にじり寄ってくるのだった。
やっ、やだ・・・っ。
涼子は老婆の正体を親からきかされていて。
道端に沼が見えたら、一目散に逃げるのだよ。
そんなふうに、訓えられていたけれど。
ついうっかりと、傍らの沼の広がりを、見落としていたのだった。

ばちゃ、ばちゃ、ばちゃ・・・
もう、なりふりなんか、かまっていられない。
少女は息せき切って、逃げ回る。
けれども齢に似ずにすばやい老婆を振り切ることはできなくて、
じりじり沼辺に、追い詰められていった。
あっ、やだ・・・
ハッと気づいたときには、もう沼の端。
黒の革靴に撥ねた泥が、どろどろと茶色くまとわりついてくる。
やだっ!やだっ!寄らないで・・・
涼子の願いもむなしく、老婆はにたにた笑いをおさめはしない。
うふふふふっ。綺麗な靴と靴下をお召しじゃの。
たっぷり泥に、まみれさせてくれようぞ。
紺色のベストを着た涼子の肩に手をかけると、
そおら・・・っ。
気合を込めて、沼のなかへと追いやった。
ばしゃっ!!
泥が飛まつとなって、少女の頭まで撥ねあがる。
ああっ。
立ちすくむ涼子の足許は、もうぬかるみにはまっていて。
ひざ小僧の真下までぴっちり伸ばしたハイソックスも。
よくアイロンのきいた紺のプリーツスカートも。
ヘドロのようなぬかるみをぬらつかせて、びしょびしょになって汚されていた。
ほ。ほ。ほ。ようお似合いじゃわ。
小ぎれいな服を汚すのは、なんとも小気味のよいものじゃて。
老婆はじぶんの着物のすそが泥にまみれるのもかまわずに、沼に足を踏み入れてきて。
涼子の傍らに、寄り添うように影を重ねる。
生臭い息遣いが、間近に迫って。
素肌を侵されるのを予感した少女は、ハッと身を硬くした。
う、ふ、ふ・・・きれいはお肌をしておるのう。
やっぱり若いおなごの人肌は、こたえられんわ。
ブラウスの釦を二つ三つはずして、胸のふくらみをまさぐられながら。
少女は目を瞑り、強くかぶりを振っていやいやをするけれど。
老婆は許そうとせず、よけいにまさぐりを深めるのだった。

さあ・・・生き血を吸ってつかわすぞえ。
うれしいじゃろ。ほんとうは、うれしいのじゃろ?
うれしいと、言うてみよ。言わぬか。言わぬのなら、この沼ん中に、蹴込んでくれようぞ。
老婆の脅しに屈した涼子は、ちいさな涙声で、やっとの想いで。
生き血を、吸って・・・
ささやいていた。
ケケケケケ・・・
老婆は意地の悪い昂ぶりを声に含ませながら。
涼子のうなじに、これ見よがしに。
黄ばんだ犬歯を突き立ててゆく。
あああ・・・っ!
ぐったりとなった涼子は、老婆の腕のなか。
もう、いいように血を含まれてゆきながら。
それでもゆるくかぶりを振りながら、いやいやをし続けている。
温(ぬく)い。温い。ぬくといのお・・・
子守唄を唄うように。ひとりごちながら。
しくしく泣きむせぶ両肩を、あやすように撫でながら。
老婆はしばし、少女の生き血に酔いしれていたけれど。
やがて
そおれ・・・っ
ひと声、気合いを込めて。
少女を泥沼のただなかに、追いやっていた。

さっきまで着ていた制服が。
泥だらけになったまま、ハンガーにかけられている。
薄暗い壁に、まるでさらしものになったように。
目覚めた涼子はぼんやりと、制服についた泥を見つめていたが。
身に着けているものが、スリップ一枚だけなのに気づくと、
羞ずかしさに、ひくくうめいた。

なにをされて、しまったのだろう。
あのあと、まっすぐ老婆の棲み処に連れていかれて。
泥だらけの制服姿を、村の者たちにさらけ出すように、
わざと遠回りをして、歩かされた。
泣きべそをかいている涼子から、村人は表向き目をそむけながら。
それでもチラチラ盗み見る好奇の視線を、感じないわけにはいかなかった。
棲み処に着くと、老婆は少女を突き飛ばして。
古びたたたみの上に、四つんばいにさせて。
泥の着いたハイソックスを履いたまま、ふくらはぎをすみずみまで、なぶりものにされたのだった。
えへ、えへ、えへ・・・
随喜のうめきを、あげながら。
生温かいよだれがハイソックスにしみ込んでくるのを。
涼子は悔しげに頬を引きつらせながら、耐えつづけなければならなかった。

老婆に握らされた受話器の向こう、取り乱した母親は、すぐに来る、と言ってくれたけど。
涼子はふたたび、沼の端に連れていかれて。
愉しげに待ち伏せる老婆に、口をふさがれつづけていた。
指図どおり装った黒の礼服姿を、娘とおなじように泥まみれにされながら。
うなじにからみつくようにして迫ってくる老婆の唇を、こばみかねて。
母親は柳眉を逆だてて、生き血を吸われていった。
白い脛が清楚に透ける黒のストッキングに、
およそ不似合いな茶色い泥をねばりつけられて。
母親もまた、泥沼のただなかに、引きずり込まれていった。
汚穢にみちた輝きを、礼服のそこかしこに、どろどろと滲ませながら。

部屋のむこうから、声がする。
女のうめき声のようだった。
見慣れた我が家が、別の家のように映る。
そう。
老婆に占領された家。
そこは、涼子の家であって、涼子の家ではない。
スリップ一枚の姿のまま、たちあがると。
洩れてくる声をたよりに、廊下をさまよった。
じんじんと響く妖しい疼きが、うなじをほてらせている。
喉がすっかり渇いているのは、血を舐め尽されてしまったせいなのか。
ふと通りすぎた姿見のまえ。
鉛色をした自分の顔に、慄っ、電流のような痺れを覚えた。

母の寝室から、覗いているのは。
放恣に開ききった、一対の脚。
片方の脚は、眩しいほどの肌の白さをさらけ出していて、
もう片方の脚は、黒のストッキングをまだ履いたままになっていて、
それでもひざ下までだらしなくずり落ちたストッキングは、たてにひとすじ、鮮やかな裂け目を走らせている。
はぁ、はぁ、はぁ・・・
母のそれとは思えない、荒々しい息遣い。
老婆はそんな母の上、自分も着物のすそを乱しながら。
堕とされた礼服のすき間から覗いた柔肌に、ぴったり唇を這わせている。
しっくりと合わさった腰と腰は、まがまがしく寄り添いあったまま、
別人のように取り乱した母親は、老婆の思いどおりに、礼服を堕とされてゆく・・・

あれからなん年、経っただろう。
都会の大学にあがって。そのまま住み着いた都会で、オフィスレディになって。
恋人ができて、結婚をして。
それでもやむにやまれぬものが、涼子を田園風景へと誘い込む。
田舎のがたがた道を飛ばす車のハンドルを握って、
隣には、夫の妹が小洒落たブランドもののスカーフをたなびかせ、
後ろの席には、夫の母が。
折り目正しく装ったスーツのすそから、光沢入りのストッキングの脚を覗かせている。
ここからは、歩きませんか?景色がいいので・・・
みじかく告げる涼子の言うままに。
女たちはそうねぇ・・・たまには田舎もいいわね、って声交し合いながら、
なんの疑念もなく、パンプスの脚を泥道に踏み入れる。
申し合わせたように装った、都会の雰囲気漂う光沢入りのストッキングの足許に。
涼子は人知れず、ほくそ笑む。
道端には、ついぞ目にすることのなかったあの泥沼が、
茶色く濁った水面を、ぬらぬらと光らせている。

たまには田舎もいいわね・・・
母親がうつろな声を娘に向ける。
そうね。またいっしょに来ようね。パパやセイジさんにはナイショでね。
娘も惚けたような、含み笑い。
泥の撥ねたままの足許を、気にかけるふうもなく。
堕とされた衣装のすき間から、輝くような柔肌を滲ませながら。
涼子と老婆に伴われて、あのまがまがしい棲み処への道を、だどってゆく。
母親が低くハミングする唄は、どこか聞き覚えのある唄。
あの日のたそがれ刻。
黒の礼服を堕とされた母も、たしかにおなじ唄を口ずさんでいた。
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