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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ハイソックスのおばさんと悪戯坊主

2008年02月14日(Thu) 06:25:30

おキヨさん、お客さんだよ。
お客さんのとぎれたあいだ、テーブルを拭いていたおキヨさんは手を止めて、
はーい!
ちょっとせかせかとした威勢のいい声で、店主の声にこたえると。
声とおなじくらいせかせかとした足取りで、厨房の奥に引っ込んだ。
おそろいのしましまもようのエプロンに、紺の地味なスカート。
サンダルばきの脚には、だれでも履いているような黒のハイソックス。
白髪頭の店主は、ちょっと人のわるそうな笑いを浮かべると。
  小さなお客さんだよ。
  混んでいるんだよって言ったら、お客さんいなくなるまで待ってるって。
  店の裏で、お腹空かせて待ってるよ。
  きょうはお店のほう、もうあがってもらってえかまわないから。
ああ、はいはい・・・おキヨさんはエプロンをはずして。
ちょっと考えて。
バッグから新しい靴下を取り出すと、いま履いているハイソックスを履き替えてゆく。
ひざ下まで引き伸ばした真新しいハイソックスは、
いままで履いていたやつより薄くって。
ストッキングみたいに、肌の白さを、じんわりと滲ませている。
あとのお掃除、お願いねぇ・・・って、奥の仲間に声かけて。
ごめんください。
店主にきちっと、一礼して。
厨房の裏手に出て行った。

キヨエさんは、街の食堂で働いている、どこにでもいるおばさんだった。
きのう、子どもの友だちの母親から電話があって。
そろそろ来るころかな・・・って思いながら、お膳の上げ下げをしていたのだった。
案の定、息子とおなじ年恰好の男の子が、草むらのなかに腰かけていた。
待ちましたー?
明るい声で、声かけようとして。
その子がなにかを手にして、じいっと見入っているのに気がついて。
思わずじいっと、黙ってしまった。
男の子がしげしげながめてしんみりしているのは、一枚の写真。
じぶんとおなじ年恰好の女の人が、セーラー服のお嬢さんといっしょに写っていた。
きのうの電話の主は、写真の笑顔とはうらはらに、ひどく申し分けなさそうだったっけ。
おキヨさんは、ちょっとのあいだ声を飲み込むと。
なにも気づかなかったようにして。
待ちましたー?
持ち前の明るい声を、男の子の背中に投げてゆく。

あ。すいません。
男の子は持っていた写真をあわててポケットにしまいこむと。
慣れているのか、意外なくらいの素早さで。
おキヨさんの後ろ側に、すっと回り込んでいる。
逃げられないじゃない。
とっさの思いを押し隠して、おキヨさんは古びたイスに腰かける。
昔お店で使っていたイスは、雨ざらしになっていて。
ところどころ、塗料ははげていたけれど。
幸い、がたぴししたりはしなかった。

履き替えたんだね。
足許ににじり寄った呼気が、ひざ小僧を打ったとき。
男の子の声が、すこし濡れているのに気づいたけれど。
おキヨさんは気づかないふりをして、黙って脚を差し伸べた。
この子のお母さんみたいに、エレガントでもなんでもないけれど。
開けっぴろげな明るさが、どこまでも伸びやかな声で。
のんきな返事を、かえしていく。
  そーよ。新しいやつのほうが、いいと思って。
  お店のなか、のぞいていたのー?やらしいなぁ。
ごめん・・・
男の子は、ちょっとくぐもった声をして。
甘えるように、唇をなすりつけてきた。
薄手の黒のハイソックスは。
ぶきっちょにねぶりつけてくる唇の下、くしゃっとゆがんで。
ぱりぱり・・・っ、と伝線を広げてゆく。
血を吸われるのって、いつも不気味なかんじがするけれど。
すすり上げる時の切なげな呼気に、おキヨさんはだまってしまって。
吸われるままに、吸わせてやった。

軽い失血のせいだろう。
スッ・・・と、頭の奥が澄んだようだった。
ひざ小僧を押さえつける手の力は意外に強く、
身じろぎひとつできないように、ギュッと力を込めていて。
おキヨさんは男の子ののぞむまま、血を吸い取られていった。

もう、気が済んだ?
ちょっと蒼い顔をしたおキヨさんが声かけたのは。
男の子が残り惜しそうにさいごのひと口を啜り取って、唇をはなしたあとだった。
男の子が黙って頷いて、口許にぬらつかせたおキヨさんの血を手の甲で拭き取ると。
お行儀わるいぞ、って、笑ってとがめて。
これじゃあ、履いて帰れないねぇ・・・っていいながら。
ハイソックスをもとのやつに履き替えてゆく。
こっちも噛みたい。
さいしょから目をつけていたらしい、男の子の甘え言葉。
もう・・・
ふたたびさし寄せた足許に。
男の子は、甘えるように唇を吸いつけて。
丈夫な厚手のハイソックスには、目だたない穴がふたつ、あいただけだった。

娘を連れて、旅行に出ている間。
心配だったお母さんは、気心知れた友達のところに電話をかけて。
明日あの子のお守りを、お願いしてもいいかしら?って。頼んで回っていた。
受話器をとったおばさまたちは。
申し合わせたように、気さくな声で。
若い子のお相手ね?よろこんでしちゃうわよ。あっ、お土産忘れないでね。
すみませんすみません。
いいからいいから。
楽しげな応酬がすむと。
明日はなにを、履いていこうか・・・って、ウキウキと服選びに熱中するのだった。

あしたはだれなの?
そう。ミチコおばさんね。
あそこの家は、お医者さんだから。
きっと、着飾ってくれるよー。
楽しみだね。坊や。
でもミチコおばさんは痩せっぽちだから。
あんまりいっぱい、吸っちゃダメだよ。
足りなくなったら、いけないから。
きょう、吸いだめしておくかい?
あしたはお仕事お休みだから。ちょっとくらい吸い過ぎたっていいんだよ。

お行儀よく並べられた、ハイソックスの脚。
年頃のお姉さんの脚を見るような、眩しげな目が。
うっとり引き寄せられるようにもういちど、
まだ熱い唇を、おずおずと這わせてきた。


あとがき
年齢にかかわりなく。
ハイソックスの足許って、若々しく見えたりするものですね。^^
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