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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ヒステリックに迫られて

2008年02月19日(Tue) 22:39:28

なっ、なにするの・・・っ!?
壁ぎわに追い詰められた奈津子は、怯えを隠すゆとりも喪っていて。
華奢な身体を包むエレガントなスカートスーツ姿に、嫌悪の震えを走らせる。
お願い。お願い。きょうはやめて。見逃してちょうだい。
昼間の高慢さをかなぐりすてた女は、手を合わさんばかりに懇願するけれど。
うふふふふっ。
蛭田は人がかわったように、意地悪な笑みを洩らしながら。
たったふたりだけの密室のなか、いつも強気な奈津子の硬い仮面を剥いでゆく。
すうっと伸ばされた猿臂に、身震いして飛びのいたはずが。
いつもの鈍さなど毛すじほどもないムチのようなしなやかな動きに囚われて。
いやっ、いやっ、いやっ、いやっ、いやああああっ・・・!!
女は身もだえをして、あらがうけれど。
もうなにをしても、ムダなんだよ。
男の腕は女をさとすように、あざけるように。
激しい抗いの手ごたえさえも、愉しみに変えてゆく。

高雅な色白の張りつめた肌が帯びるピンク色の生気は、
洗練されたウェーブを帯びた、つややかに黒い乱れ髪は、
敏捷な動きを封じ込めたフェミニンな装いは、
けだものの昂ぶりをいっそう高める。
ぴんと張った格好のよい胸を包むブラウスは、
裂けるほど張りつめて、ふしだらなくらいくしゃくしゃに波うって。
はからずも鮮やかに浮き彫りになる身体の線は、
取り繕われた礼節を、むき出しのなまめかしさに変えてゆく。

血に飢えた唇が、すっきり伸びた首筋に容赦なく吸いつけられて。
ひときわ、ぎゅう・・・っと、圧しつけられて。
きゃあっ・・・
たまぎるような悲鳴のあとは。
キュウ、キュウ、キュウ、キュウ・・・
人をこばかにしたような、不気味な吸血の音。

・・・・・・。
・・・・・・。
はあ。

奈津子はとつぜん、しらあっとした表情に舞い戻って。
はい、それまで。
さっきまで荒々しくかき抱いた蛭田の両腕を、こともなげに追い払った。
調子に乗るのは、そこまでよ。
リンと言い放った奈津子のまえに、蛭田はつきものの落ちたような顔つきをして。
奈津子の脛にツヤツヤ光るなまめかしいパンティストッキング姿を、残り惜しそうに盗み見ながら。
あの。せめて・・・もぅちょっとだけ。
そんなふうに、言いたげにしていたけれど。
昼間の高慢さを寸分たがわず取り戻した奈津子は、もう取り合うふうもない。
うなじに滲んだ血を、サッと手早く拭き取ると、
じゃあね。さよなら。
ジャケットに袖を通すなり、蛭田のわきをついとすり抜けて、
あれよあれよ・・・という間に、蛭田の鼻先でドアをばたんと閉ざしていた。

あらー。
九分九厘まで手中にしかけた獲物が、するりと掌のなかから抜け出してしまうと。
蛭田は阿呆のように、いつまでも口をぽかんと開けている。
だしぬけにドアが、もういちど開くと。
ホテル代、あなた払いよ。
どこまでも憎々しく笑う美貌が、あかんべえを送ってきて。
一瞬のちには、乱暴にばたんと閉じられる。
ドアの向こう側。
ざまーみろ。
奈津子が意地悪く口を突き出して笑っているようすが、マザマザと伝わってきた。

翌朝。
いつもなら。
ちょっぴり蒼ざめやつれた顔。
ことさらいつもどおりを装う、気丈な足どり。
ほかのものには見分けることができないほどの、微妙な身体の揺れ。
おはようのあいさつだけで、それらすべてを察してしまう。
夕べの満悦も。だまっておいてねのサインも。
意味深な瞬間のなか、いちぶしじゅうを嗅ぎ分けるはずが。
ふたりきりのエレベーターのなか、
女は驚いたことに、降りぎわいきなりあかんべえをかましてきたのだった。

どうなってんだろ。
悄然と入って行った営業部のオフィス。
けれどもだれも、蛭田の変化に気づいたりはしない。
だって営業成績万年びりの彼は、いつもそうやって、尾羽打ち枯らしているのがつねなのだから。
ちょっとお。あんた・・・
奈津子のトゲトゲしい声に、ぎくりとすると。
いま標的になっているのは、彼女とおなじ課の若手の男の子。
蛭田ほどではないにせよ、もの慣れずにもたもたしていると、たちまち悪罵の的にされるのだ。
隣の課の美しいお姉さまは、いつもみんなの恐怖の的。
きょうはなにがご悋気なのか、朝っぱらからじつにご機嫌がうるわしくない。
おい、おい。
脇から間々田がひじでつついてくる。
どうなってんだよ?お前、かげの奈津子係じゃないのか~?
おい、よせよ・・・
蛭田は微妙に、視線を避ける。
ははーん・・・という顔つきをする同期の切れ者に。
もう、勝手にしろ・・・
蛭田は蛭田で、やけっぱちになっている。

だいぶ、もててるみたいねー。どんな男にも、人気のつくことはあるっていうけど。
昼休み。人が散ってしまったがらんどうのオフィスのなか。
腕組みして近寄ってきた奈津子は、いきなり速射砲を浴びせかけてきた。
えっ???
虚を衝かれてオロオロする蛭田を尻目に、奈津子はくるりと背を向けて。
カッコウの良い脚も大またに、ハイヒールの音を遠ざけてゆく。
後ろから背中を、指で突っつくやつがいる。
こ~ら。わかっちまったぞ。
振り向くと。いつも蛭田に勝ち続ける同期のあいつが、ニヤニヤと笑っている。
いっつもこいつは、こんなふうに。
オレをにやにや笑いながら、同期のトップを走っていく。

からになったディッシュが乱雑に並んだ、カフェテリア。
逞しい体格の持ち主である間々田は、食欲も蛭田の倍はあるらしい。
さいきん、奈津子とどれくらいあるんだ?
頻度のことか・・・?
ばか。
いきなりばか扱いでは、いくら蛭田といえどもふくれ面のひとつもするのだが。
しょげきった声は、正直に応えてしまっている。
周囲に意味の取りにくいほどのニュアンスを込めて。
そう・・・ごとうびくらいかな。
十日にいっぺんかぁ。
間々田はばかにしたように、あからさまな表現に変換してあけすけに押し返す。
けれども放たれた二の矢は、もっと鋭い。
いままでは?
そこまでふつう、立ち入るかよ。
ふだんの蛭田でも、それくらいは感じるものなのだが。
やっぱりしょげ切っている蛭田には、それしきのことさえできないらしい。
やっぱり素直に、応えていた。
日に二回。
夜いがいは・・・仕事中か。
あははははっ。
間々田の声が大きくなったのは。
周囲から人影が消えたせいだろう。
おれはな。どんな夜でも瑞江を抱いているんだぜ?
え?
ほかの女とヤッた晩でも、瑞江のことを抱いているっていうんだよ。
ふーん。
じぶんの女に、あんたもてるわねって言われて、それを賞賛だと思い込むほど素直なの?
間々田は悪友に容赦なくとどめをさすと。
それでもふたり分の勘定書きを持って、先に出て行った。
午後は出張でもして、頭冷やすんだな。
と、いいのこして。

社に戻ったのは、一時間後。
もー!なにやってんのよっ!!!
営業部のフロアに戻ったとたん、耳をつんざいたのは、隣の課のヴィーナスの声。
ヴィーナスなんかじゃない。あれはマルスだ。
思わずきびすをめぐらそうとしたとき。
ちらりと自分をよぎった視線が、すぐに伏せられるのを感じた。
その視線は、ふしぎな温度と湿りを秘めていた。
奈津子は第二の被害者に噛みつくのをやめて、いきなりついっとフロアから出て行った。
間々田が、あごをしゃくっている。だれにも気づかれないように。
行け。と。

あまりに足早に立ち去っていった女を、さがしあぐねて。
あちらの部署。こちらのオフィス。
人のいない社員食堂にさえ、顔を出して。
思い切ってドアを叩いた役員室には、女史がいつものようにきりりと背筋を伸ばして執務していた。
あの・・・
声かける心のゆとりなんか、とてもない。
女史はちらりと冷たい視線を投げてきて。
相手がだれだか確認すると、蛭田のことなんかてんで無視して、
視線の行き先を机上の書類に直行させた。

さいごに足を留めたのは、いつもの小部屋。
蛭田に逢いたくないとき、あの女がいちばん行きそうにない処。
いるわけないよな。
冷え冷えとした気分で、通りすぎようとすると。
かすかに人の声が、洩れてきた。
声をあげそうになって、思わず口を堅く閉ざしていた。
ドアの向こう側。
感じなれた気配の主が洩らしているのは、声を忍ぶすすり泣きだったから。
立ち去ろうか。思い切って、踏み込もうか。
逡巡する、一瞬二瞬。
不覚な身じろぎを、ドアの向こうは敏感に感じ取っていた。
入って頂戴。
リンと澄み渡った声色は。
いつもと寸分たがわぬ冷ややかさを帯びている。

目を合わせる勇気なんか、なかったけれど。
むりに視線を、奈津子の顔にもっていくと。
女は蛭田のおどおどとした視線をまともに跳ね返して。
無言で脚を、さし寄せてきた。
ストッキング、破って頂戴。
え?
早く。
女は冷然と、命じてくる。
鋭く小さな声色で、おっかぶせるように。
うんと、こっぴどく引き裂いて!
さっき、まともに目を合わせたとき。
女の目を覆っている目のくまと、紅いまぶたを。
蛭田は記憶の彼方に押しやった。

震える手指は、女の脛に触れると。
別人のように、力を帯びた。
足首を包み込み、密着させるような、しつような愛撫。
かばうほどこまやかで、いやらしいほどねっちりとした指先は。
薄手のナイロンのサリサリという衣擦れを奏でてゆく。
さりげなく爪をたてて。
ぴちっ・・・と裂け目を入れて。
適確に入れられた裂け目は、ぶちーっと大胆に広がっていって。
女の脚周りに張りつめていた光沢を、ゆるゆるとほどいてゆく。
ぶりっ!びちっ!ぱりぱりっ・・・!
男の瞳が、焔を帯びるのを。
女はしずかに腰かけたまま、しんけんなまなざしをそそいでいった。

ご悋気、おさまったみたいだね。
先刻こっぴどくやっつけられていた若い男の子たちの、ひそひそ声。
もうじき、終業時間。
きょうは、定時退社日。
ただでさえ、気分がほぐれる夕暮れ刻。
隣の課の怖いお姉さまは。
昼までとは別人のように、ご機嫌うるわしく。
取り巻きの若い妹ぶんたちを相手に、ころころと笑いころげている。
奈津子の履いているストッキングの色が微妙に変わったのを、目ざとく気づいたのは。
たぶん間々田だけだろう。
やりやがったな?
さっき半秒ほど、イタズラっぽい視線をちらっと投げてきた。
蛭田はくすぐったそうにそれを受け止めて。
さっきトイレにたった帰りに、それとなく廊下で待ち構えていた奈津子のつぶやきを、反芻する。
夕べのつづき。
そっぽを向きながら、かわいくない顔をして。
声だけはハッキリと、意志を伝えてきたのだった。


あとがき
ヒステリックに迫ったのは。
前半いい思いをしそうになった蛭田のほうではなくて・・・というお話でした。
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