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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

セーラー服の季節

2008年02月26日(Tue) 00:44:39

男の子のくせに、どうしてもセーラー服を欲しくって。
思い切って足を伸ばした遠くの街。
古びたアーケードは、ところどころ玉切れになった安っぽいネオンに囲まれていて。
通りの切れ目の、いちばん奥まったところには。
まるでとっておきのように、小ぢんまりとした百貨店が、広い間口を開けていた。
ポスターのはがし跡やところどころ錆びの浮いたスチールにふち取られた入り口には。
どこからともなく吹き込んでくるさびれた風が、陳腐な飾りをさやさや鳴らしつづけていた。

まばらな人影に、吸い込まれるように。
なんの違和感も覚えずに入り込めたのは。
そこが婦人用衣料品店とか、あるいはもっとケバケバしい服を売る店とかではなくて、
だれが入っても見咎められない百貨店であることと。
ひっそりと行き交う人影が、多すぎも少なすぎもしないで、
ひどくゆったりと、溶け込むことができたから。

店内はお客の姿も店員の注意もまばらな感じがして、
見栄えのしない、くすんだ壁。
照度が乏しく、そのぶん刺激の少ない照明。
どこにでも流れていそうな、ムードまったくなしのBGM。
空気のようにさりげないそうしたものたちが。
セーラー服を、買いにきたという。
気恥ずかしさと、気後れとを。
ほどよくごまかしてくれるようだった。

てらいも恥じらいもなく。
そのへんのどうでもいい雑貨とおなじように。
つるしで並べられたセーラー服。
「祝 入学」の文字さえが古びて見えるほどに、売り場を訪れる客はまれだった。
背丈よりも高く吊るされたセーラー服のあいだに、半ば身を隠すようにして。
お客や店員の視界を避けながら。
似たり寄ったりのデザインの制服3、4通りのなかから。
濃紺に白のラインが三本で、胸当てにもおなじくラインが三本横切っている、
まるでお約束のようにシンプルなデザインのものを選び出していた。
学校の制服は、女装する子にもつごうよく、大きいサイズも置いてあった。
襟首の裏側に書かれたサイズ。「175A」。
男の子のボクにでも、着れるサイズ。

かすかに指震わせながら、腕を伸ばして、背伸びをして。
目当てのセーラー服を、ハンガーごと、そうっとはずす。
どんなふうにたたんでも。
人目を避けることは不可能なほど、白の三本線は制服らしい存在感があって。
おなじ学校のプリーツスカートを、そのうえから重ねて。
「○○中学校」と書かれた白のネクタイを、盗み取るようにしてさらい取って。
ずっしりとくる重さを腕に、レジに向かった。
売り子の女性は、母親くらいの年配で。
おずおずと制服を差し出した客の素性など、まるで気にも留めないで。
そそくさと事務的に、レジを打った。
お持ち帰りですか?
あ・・・はい。
本人の学生証を出せとか、学年をいえとか、よほどめんどうなことを言われたら・・・と、
逃げ出す足を半歩踏み出すほどの数秒間。
けれどもボクの制服は、百貨店の名前入りの包み紙に、なれた手つきで包まれて。
そのうえご立派な紙製の箱に、お行儀よく納められる。
商品を受け取る時には、まるで入学生のお兄さんかお父さんになったような気分で、
ちょっぴり落ち着いて、ちゃんとおつりまで受け取っていた。

そのままレジを離れようとしたときに。
あの。
売り子の女性が、声をかけてきた。
はい?
ぎくりとして、冷や汗が浮いたのを、とっさに押し隠すと。
だいじにしてくださいね。
ボクのいけないたくらみを、どこまで気づいていたのだろう?
女のひとはにこやかにほほ笑んで。
どんなお客にもそうするように、いんぎんな会釈をおくってきた。

家にもどって、包み紙を解く手も覚束なくて、
広げてみた真新しい制服は。
一着隣に吊るされていたやつは、いまごろはどこかの少女のはにかんだ笑みに接している時分なのに。
なぜか男の持ち主を得て、すこし戸惑っているようにみえた。
けれどもきりっとした真新しい濃紺の輝きは。
有名校の矜持をそのままあらわすように。
ボクの腕の中、どこまでも気品を失わないでいた。
濃紺に、白のラインが三本走ったセーラー服は。
正統すぎるデザインが、かえってひなびて見えたけれど。
万年筆の匂いのする、古風で奥ゆかしい女学生を彷彿とさせるようだった。
いまは見かけることのなくなった、三つ編みのおさげ姿の彼女たち。
その足跡を、間近にかいま見たようで。
清純、という。
忘れかけていた言葉を、色鮮やかに思い出していた。

どれほどの歳月が経ったことか。
結婚を翌週に控えたある晩に。
ボクは長いこと連れ添ってくれたそのセーラー服と、お別れをした。
まるで初恋の人の思い出の品を捨てるほどに、泣く泣くに。
一生をともにする相手を迎える喜びと、それは決して矛盾する想いではなかったけれど。
そんなことはきっと・・・誰に話してもわかってはもらえまい。
いちどめぐり逢った清純な女学生は。
ふたたびどこかへ、立ち去っていった。
足音も立てないで。
結婚をしてなん年か経ったころ。
なにかのはずみに妻と、幼い子どもと通りかかったあの街は。
まえよりは少しだけ、あかぬけたようすになって。
けれどもあの陳腐なアーケード街のはずれにあった百貨店は。
建物もろとも、姿を消してしまっていた。
向かい合わせの銀行の古ぼけた煉瓦は、あのときのままだったけれど。
もう昔のことは忘れたよというように、穏やかな陽射しを浴びているだけだった。

おとーさん。はやく、はやく。
すっかり大人びた娘に、せかされて。
私はもたもたと、ネクタイをしめている。
入学式に遅れまいと、妻はしきりに時計を気にして、
新調したスーツが似合うかどうかも、おなじくらい注意を払っていた。
私のことはもちろんとして、そのじつ娘のことさえ、眼中にはないかのようだった。
せかせかとした日常のなか。
おっとりとした令嬢だったはずの女は、常識まみれの専業主婦になっていて。
物指しで測ったような日常を、たくみにあやつって生きている。

似合うかしら。おかしくないかしら。
ウン、ウン。よく似合っているとも。
ほら!3本早い急行に乗っていくつもりだったのに。
つぎのに乗り遅れても、三十分前には着くだろうさ。
いつもあなたは、そうなんだから・・・
ぶつぶつ言いながら化粧台に戻って行った妻を見送って。
きょうの主役のはずの娘は私に、くすっと笑いかけてくる。
豊かな髪を、いままで見たこともないくらい、ツヤツヤと光らせて。
胸元でしめる真っ白なリボンを、片手でもてあそんでいる。
ちょっとしたしぐさは、まだまだ子どもっぽいはずなのに。
どこか大人びたなまめかしさが身体の輪郭に重なるのは。
制服というものの、魔力なのだろう。
はっ・・・となって。
忘れかけていた日々が、ありありと目のまえによみがえった。
白のラインが三本走る、真新しい濃紺の制服に。
胸当てにもおなじラインが横切っていて。
ちらりとこぼれる白い胸許。笑うおとがい。
きらきら光る、白い頬。
十なん年前抱きすくめたときは、むなしい抜け殻どうぜんだったものに。
ひそかにはぐくまれ秘められてきた魂が、いま花開く。
パパ、黒のストッキングが好きなんでしょ?
だから私・・・ストッキングを履く学校を選んだのよ。
イタズラっぽく笑う少女は、気取ったしぐさで片脚を差し伸べて。
大人びた装いに透けたピンク色の脛を見せびらかした。
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