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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

処女の生き血を狙うもの

2008年04月22日(Tue) 07:54:11


だっ、だれだっ!?
紅いじゅうたんの敷かれた、ホテルの廊下。
エイイチの目のまえに現れたのは、干からびたミイラのような長身の男。
特撮ものに出てくる怪人のようなグロテスクな姿に、さいしょは着ぐるみかな?とさえ思ったのだが。
意識を飛ばされる瞬間、これは本物の怪人なのだ・・・と気がついた。
けれどもすでに遅かった。
目のまえのドアノブの向こう、さっき披露宴を終えたばかりの新妻・もと子に危険を報せるいとまは、残されていなかった。

もと子さん?入るよ。
いつもと変わらないエイイチの遠慮がちな声色に、もと子は苦笑しながら、腰かけていたベッドから立ち上がった。
もう・・・いつまでたったら「さん」づけをやめるのよ?
気軽に押しあけたドアの向こう、エイイチさんのほかにもうひとりの人影をみとめて、もと子はちょっとびっくりした。
新婚初夜の部屋を訪れようというのは、よほど図々しい人なのか、親しい人なのか、それとも・・・?
紹介するよ。ボクのお友だちなんだ。もと子さんも、仲良くしてくれると嬉しいんだけど・・・
何気ない口調の向こうに立ちはだかっているのは、どうみてもミイラそのものとしか思えない、干からびた長身の男。
獣じみた瞳を、らんらんと輝かせて、もと子のほうへと迫ってきた。
うぅん・・・
男の視線に射すくめられるようになって、もと子はその場で気を失った。

これから先を見届けるのか、廊下で待っているのか。それはお前が決めることだ。
侵入者のくぐもった声に、エイイチは無表情に「はい」とだけ応えている。
ミイラ男の目力に、すっかり洗脳されてしまっているのだ。
そのままその場を去ろうとしない新郎に、「よほど愛しているのだな」ミイラ男はニヤリと笑んだ。
そうだからこそ、いただきがいがあるのだぞ。
ミイラ男が取り出したのは、ムチのようにしなるワイヤーだった。
しなやかなワイヤーをスーツのうえから巻きつけられながら、エイイチはいつまでも無表情だった。
ベッドに横たえられた、純白のスーツ姿。
眠るように目を瞑っているもと子に、兇悪な意図を含んだ影が迫る。
  助けを呼ばなくちゃいけないのに。
  花嫁を救い出さなくちゃいけないのに。
  なぜ・・・ゾクゾクするのだろう?
薄ぼんやりとなってしまった理性は、胸のおくでひそひそ声を洩らすだけだった。

くちゅっ。
かさかさした唇が、もと子のみずみずしい唇を呑みこんだ。
ウ・・・
嫉妬に胸が焦げるようだ。
花嫁の唇をねっとりと揉みしだくと、ミイラ男の唇はかすかなぬめりを帯びて、柔らかなうなじへとすべりおりてゆく。
きゅうっ。
首筋の一角にひときわつよく、吸いつくと。
かさかさの唇を浸すように、赤い血液がどろりとしたたった。
あ・・・
男の正体を知った時、エイイチの胸をどす黒い閃きが貫いた。

あ、は、は、は・・・
花嫁の血に唇を血浸しにしたまま、ミイラ男は吸い取ったばかりのうら若い血を、花嫁のブラウスにしたたらせてゆく。
ぼた、ぼた、ぼた、ぼた・・・
バラの花びらが、散らされるように、
純白のブラウスは、紅いしずくの水玉もように彩られた。
男はそのまま身をすべらせるようにして、こんどは女の足許にかがみ込んでゆく。

ぬるり。
肌色のストッキングのうえから這わされた唇は、ぬらぬらとしたよだれを含んでいた。
かさかさの膚を、じょじょにうるおわせながら。
もと子の血を吸ったミイラ男は、すこしずつ生身の男へと変容してゆく。
飢えた唇にいたぶりを受けるたびストッキングの表面をよぎるひきつれが、エイイチの目に灼きついた。
なまめかしい。ひどく、なまめかしい・・・
そんなこと、想っている場合ではないのに。
痺れた理性は半開きの瞳で、花嫁に向けられた欲情を、妖しい歓びとして胸の奥まで浸してゆく。
パチパチッ。
薄いストッキングが、男の唇の下ではじけた。
う、ふ、ふ、ふ・・・
男がさらに淫らな意図を抱いていることを、察しないわけにはいかなかった。

もと子は、処女だった。
シーツのうえの紅い痕跡が、その証しだった。
放恣に開かれた太もものあいだ、痕跡は残酷なほど生々しく、花婿の胸を染めている。
見るかげもなく引き裂かれた肌色のストッキングをまつわりつかせたまま。
女は目を剥いて、それでも初めての歓びに、本能を震わせていた。
お前の花嫁は、支配した。時おりわが身を、満たしに来る。心から歓迎するように。
「歓迎します」エイイチの声は、どこまでも無表情だったけれど。
頬にはかすかな愉悦を、滲ませている。
どす黒い渦巻きが、妖しくひたひたと、男の理性をつき崩していたのだった。


ナオキが親友のエイイチの誘いを受けたのは、エイイチが新婚旅行からもどってきてひと月ほど経ったころだった。
結婚間近なカップルばかりを招いているときいて、そろそろお呼びがかかる頃かな?とは想っていたが。
親友の誘いになんの疑念もなく、ナオキは恋人のめぐみを連れて、新居を訪れた。
新居は都会の郊外の真新しい一戸建てだった。
通されたリビングはこぎれいにととのえられていて、新妻のセンスのよさと初々しい気張りを感じさせる。
もと子さん、きれいになったわね。
冷やかすようなめぐみの言葉に、もと子は羞じらうように目を伏せていた。
こいつ、すっかり色っぽくなっただろう?
エイイチの底抜けの自慢に、日ごろ屈折した彼のことを知るナオキは開けっぴろげな笑い声をたててしまった。

女たちが長い話に花を咲かせ始めると。
エイイチはそれとなく、ナオキを別室に呼んだ。
ここにくるカップルは、きみたちで10組めになるんだけど。
ボクに恥をかかせないでくれるよね?
え?なにかまずいことがあった?
いや・・・これから起こるんだよ。まずいことかどうかは・・・きみ自身が決めることに属するがね。
謎めいた親友の言い草に、ケゲンそうになったナオキだが。
突き出された写真をひと目みて、ああそういうことかと合点がいった。
まだ彼女のいない友だちに、お見合い写真を突きつけるように見せられたのは。
ミイラのように干からびた、瞳だけはらんらんと輝かせた男の写真。
びっくりしないんだね。
いままでのやつはみんな、びっくりして、彼女や奥さんを連れて立ち去ろうとして、後ろ姿を襲われちゃったんだけど。
え?襲われた?
そういえば。
彼の家に招かれてから行方不明になったカップル2組もあると聞いていた。
そうだろうね。
いがいなナオキの応えに、エイイチはちょっと意外そうに首を傾げた。
よく知っているんだ。彼のこと。
そう。
彼は一人ぼっちだったころのナオキの、ほとんど唯一の幼馴染み。


公園のブランコに揺られていたナオキは、この街に越してきて間もない少年だった。
引っ込み思案で、友だちひとり作れなくて、きょうも一人ブランコで所在なげに揺られていたのだった。
現れた怪人のグロテスクな姿に、ナオキはなぜか驚きを感じなかった。
じぶんを支配する人間を、本能で察したのかもしれない。
噛まれるままに、うなじを噛ませてしまっていた。
ちゅ~っ。
血を吸い取る音に、くすぐったそうな笑い声をたてると。
お前は、いい子なんだな。
男は別人のようにみずみずしく冴えた頬を輝かせて、少年を見つめた。
差し出したねずみ色のハイソックスを履いた足許に、危険なキスを受け入れて。
ねずみ色のハイソックスが赤黒く染まるのを、面白そうに眺めていた。

何度も逢ううちに。
ボクの血だけじゃ、足りないんだよね?
そういって、つぎの夕方には、ママを連れて公園に行ったのだった。
草むらのなか、仰向けに倒されたママは。
肌色のストッキングに裂け目の広げながら、脚をばたつかせて。
そのうち、静かになってしまった。
吸血怪人に、血を吸い尽くされちゃった?
そんな心配をしていると。
ひどく心地よげな、いままで耳にしたこともないような呻き声が。
苦しくないのよ。気持ちいいだけよ。
無言の報せが、少年を安堵させていた。


あれから十なん年たったのだろうか?
あー!それにしても。
よりにもよって、彼女まで襲われちゃうなんて!
ナオキは男ふたりの部屋のなか、ぐるぐる、ぐるぐる、いつまでも歩き回っていた。
ほら、落ち着くぜ。
エイイチが差し出したカクテルグラスには、紅い酒が充たされている。
中身の正体を訊きもせずに、ナオキは一気にあおっていた。
それでいいのさ。
振り返ったエイイチの顔がぼやけ、にじんで、いつの間にかミイラ男のそれとすりかわっていた。
久しぶり。
ナオキの頬に、少年のような微笑が浮かんだ。

高校に入って、彼女ができたころ。
怪人は街を追われて、立ち去っていた。
正体がばれて、棲むことができなくなったのだ。
さいごの晩、ママのところに現れた怪人は、ほほ笑むパパに迎えられて、夫婦の寝室をあけてもらって。
明け方になるまでママとふたりきり、別れをたっぷりと、惜しんでいった。
おなじようにしなくちゃならないね。
彼女・・・まだ処女だと思うから。お手柔らかにね。
ほほ笑みを投げられたミイラ男は、深く深く頷いている。

キャーッ!た・す・け・て・ぇ!!
ビデオ画面のなか、めぐみは満面に怯えをみせて、じりじりと壁ぎわに追い詰められてゆく。
やだぁ。
この場面になると、いまだに羞じらうめぐみは。
いまはもう、二児の母。
子どもの手がかからなくなって、こういうものを夫婦で真昼間から観られるようになるのに、ずいぶんと時間がかかったものだ。
ブラウスの二の腕を、かさかさの掌がつかまえて。
そのまま力づくで、抱きすくめて。
細いうなじに、食いついて。
ちゅーっ!と、処女の生き血を吸い出してゆく。
きゃあっ。
画面のなかの声と、傍らの妻の声が、重なった。
ふふふ・・・
いまのところ、もういちど。
巻き戻そうとするナオキに、
あっ、いやぁん。
肩をぶっつけ合いながら。
それでもめぐみの視線は画面に釘づけだった。
ちゅう~っ。
きゃあっ。きゃあっ。ナオキさん、助けてぇ。
空色のブラウスに血を撥ねかせたまま、くたりと姿勢を崩して、
めぐみはひざを、突いている。
う、ふ、ふ、ふ。
あの晩、花嫁のストッキングの脚を狙った時とおなじ目で。
ミイラ男は、若返った頬に欲情を募らせて。
白いハイソックスを履いためぐみの足許に、かがみ込んでゆく。
あぅぅぅ・・・
こんどうめいたのは、ナオキの番。
初めて会った公園で、自分の血をしみこまされたねずみ色のハイソックス。
そのときの記憶と、彼女を初めて襲われた時の記憶が、おりまぜになってゆく。
はい。きょうはここまでね。
玄関に聞えてきた子どもたちのはじける声に、
奥さんはわれにかえって、テレビ画面を消してゆく。
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