妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

体験入村

2008年06月08日(Sun) 07:03:06

ほう。こうして見るときみも、まんざらじゃないな。
わたしの声に、妻の加寿子は、照れ隠しに。
やーねえって、わざと自堕落に返してきた。
ばっちりとメイクした妻を見るのは、しばらくぶりだった。
いつもよりちょっと濃い目の化粧。
キリリと鮮やかに刷かれた、細い眉。
薄っすらと引いた、蒼のアイラインに、反ったまつ毛。
ちょっとした化粧の変化で、女はこうもひきたつものか。
服装は、一見地味。
けれども精いっぱいめかし込んだ気合いが、そこかしこに漂っている。
黒と白の千鳥格子のジャケットに、タイトスカート。
ぴかぴか光る黒のハイヒールに、肌色のストッキング。
きりりと襟首を引き締めるブラウスのリボンは、豊かな花びらのようにふんわりと胸元を飾っていた。
こんなに装った妻を、さらしてしまうのか・・・
後悔がちょっぴり、胸を疼かせる。
もっともその合い間には、閃くようなときめきが、見え隠れするのだが。

妻はわたしの気分を察してか、
張り切っちゃった。
言うなり片足をあげて、タイトスカートをちらりとたくし上げてみせる。
思いのほか深く入ったスリットからちらりと見えたのは、
レエス柄のついたゴムが、豊かな太ももをキュッと引き締めていた。
もしかして、ガーターストッキング?
目の色をかえた私を、いなすように。
やーねえ。
妻は照れ笑いを交えながら。
まさかそんなもの、もっていないわよ。
太もも丈のやつなの・・・って囁く妻の顔が、イタズラっぽく輝いている。

おはようございます。
向こうから声をかけてきたのは、川原木夫妻。
こちらはうちよりも、ぐっと若い。
夫妻と呼ぶのも、多少語弊があるだろう。
まだふたりは、正式に結婚していなかったから。
22歳になる淑恵さんのいでたちは、なかなか清楚だった。
肩まで垂らした長い髪はツヤツヤと黒く、ふんわりとウェーブがかかっている。
妻ほど濃くはないが、色香を滲ませるにはじゅうぶんな化粧。
服装は黒のジャケットに、ブラウスは妻と申し合わせたように、白。
ピンクのフレアスカートがかるがると触れるひざ小僧は、ねずみ色のストッキングに包まれていた。
薄っすらとピンク色に透きとおったふくらはぎが、ジューシィに輝いている。
わたしのそんな視線に気づいてか、淑恵さんはちょっぴり脚を引いたけれど。
ねずみ色のストッキングに透けて薄い紫に見える足許から視線を離すのに、かなりの努力が要った。

じゃあ、まいりましょうか。
川原木さんは、いまどきの若い人には珍しく、礼儀正しい。
四人はうなずき合って、通りからはずれた入り組んだ路地に脚を踏み入れていった。
先を行く男ふたりは、時おりちらちらと、お互いを振り返る。
首筋につけられた赤黒い痕は、妻たちの目には映らない。
皮膚の奥に秘められた欲情は、わたしたちをひそかに別人に変えている。

川原木さんとは、半年くらい前、とあるサイトで知り合った知人同士。
夫婦で体験入村・・・という企画に、そろって応募したのだった。
さいしょは夫ふたりで村を訪問し、軽いオリエンテーションを受けた。
配偶者にもみえない赤黒い痕は、そのときつけられたものだった。
其処は、吸血鬼が棲む村だった。

相手は、皺くちゃな顔をした、老いさらばえた老婆だった。
いきなりのしかかってきて、信じられないほど強い力にねじ伏せられて。
あ・・・っ、と思ったときには、うなじを食い破られていた。
ジュッ!と飛び散った血がシャツにほとび、生温かくじわじわとしみ込むのを感じながら、
老婆のいうなりに、じゅるじゅると汚い音を立てて、血を啜り取られていったのだ。
シャワーを浴びてもどってきた川原木さんが、すぐにつぎの餌食になった。
わたしのすぐ横で、抑えつけられながら、やはりズルズルと汚い音とともに、血を抜かれていった。
どうせ血を吸われるなら・・・って、さいしょからわかっていれば。
相手に若い美女を思い描いて、あてがはずれたと失望することもできたのだろうけど。
選択肢を許されるには、すべてがあまりにも、唐突だった。
ひと晩で洗脳された私たちは、老婆から薬をさずかった。
媚薬のようなものだといわれた。
これを奥方やいいなずけに飲ませて御覧。
もしも発熱して寝込んだら、この村には不向きな女。
お前たちとの縁も、それまでじゃ。
けれども媚薬を飲んでひと晩たって。ぴんぴんしておったら。
そのときには恐れず、村での出来事を告げるがよい。
そして必ず、村につれて参るのじゃ。
村から戻った晩、妻のワイグラスにひっそりとたらし込んだ液体は、
音もなくしずかに、グラスのなかいっぱいに広がっていった。
夜が明けて・・・妻は恥ずかしいほど、ぴんぴんしていた。
これなら多少よけいに血を吸われても、元気でいられるだろうなというくらいに。
彼女を連れていきますよ―――川原木さんからそんなメールが入ったのは、それからすぐのことだった。

週末に、村に行こう。
休みを一週間、とったから。
村に棲む吸血鬼たちに、きみを見せびらかして。
きみを選んだ吸血鬼に襲われて、血を吸われるんだ。
いいね?都会ふうに、きちんと装わないといけないよ。
吸血鬼氏にも、好みがあるんだから。
もちろんきみにも、好みがあるだろうから。
事前にきちんと、お見合いをするんだよ。
ボクが引き合わせた男性が、気に入ったなら。
黙って脚を、差し伸べるがいい。
彼がきみの脚に咬みついて、血を啜ったら。
きみはたちまち、魔法にかけられてしまう・・・
いいね?
それでも、ついてこれるかね?

いよいよお見合い・・・ね。
加寿子はさすがにどきどきしてきたらしく、ちょっと声を震わせている。
自分の生き血を吸うかもしれない男と、これから逢う。
妻のなかでは、どこのテーマパークでもあり得ない、スリル満点の体験らしい。
どーしよーかな。わたしもうおばさんだし、嫌われたらどうしよう?
けれども、ふくらはぎを包んでいる肌色のストッキングは、いつもよりつややかな光沢を濃く滲ませていて。
わたし・・・娼婦になるかも。
そんなつぶやきを、現実のものにしようとしている。

よろしいですね?
白皙の老紳士は、どこまでも鄭重だった。
加寿子はわたしと顔見合わせて。ちいさく頷いた。
どうぞ・・・
低く抑えた声が、震えていた。
そろそろと、足許にかがみ込んでくる、彼。
ではご主人、奥様を支えてあげてください。
言われるままに、ソファに腰かける妻の後ろに回り込んで。
妻の両肩を、抑えつけるようにしてかき抱く。
肌色のストッキングの上、赤黒い唇がぬるりと吸いつけられた。

さいしょの衝撃は、妻の肩に置かれたわたしの掌にまで伝わった。
ウッ・・・
ちいさく声をあげて、のけぞる妻。
ちゅう、ちゅう、ちゅう・・・
わたしのときよりは、ずっと妖しく、いやらしく耳につく、吸血の音。
妻の生き血が、いますこしずつ、吸い取られてゆく。
盗まれるように。しのびやかに。
淑やかに装われた妻のストッキングは、チリチリと裂け目を滲ませて。
薄っすらとした光沢よぎるナイロンの表面に、さらに妖しい彩りを深めていった。

一時間後。
妻はサバサバとした面持ちで。わたしにお疲れ様、と声をかけた。
失血に、すこし色あせた頬。
けれどもいつもながらの思い切りのいい身のこなしは、まだまだ豊かに血の気をよぎらせていて。
わたしは干からびた自分の血管を、人知れずズキズキと疼かせていた。
むぞうさにハイヒールをつっかけた妻の脚は。
ストッキングの伝線をあらわに滲ませている。
破けたストッキングのまま外を歩くのって、とても恥ずかしいわね。
のんびりと、わたしに話しかけるのだった。
夫の前。
脚を吸い、うなじを吸い、胸元までむさぼった吸血鬼は、お礼のウィンクを投げてきて。
それを合図にわたしは、すこしの間だけ、座をはずす。
そう・・・すこしの間だけ。
そのあいだに妻がどういう洗礼を受けたのか。
すべては彼とわたしの信頼関係の範囲内の出来事。
ドアの向こう側、着衣を乱した妻は。
むしろ破けたストッキングでの外歩きのほうを気にしている。

やあ。
向こうから声をかけてきたのは、川原木夫妻。
いや・・・まだ淑恵さんは奥さんではないのだった。
ボクの嫁さんになるまえに、だれかの妻になるのだって。
そんなコトも、ありなのかなあ?
とぼけた声色の彼氏を軽く睨んだ恋人は。
処女って競争率高いんですよね・・・
伝線を滲ませたねずみ色のストッキングの脚を、恥ずかしそうに見おろしている。
婚約者を差し出して処女の血を吸わせる・・・って、ドキドキしますよ。
ひそひそとささやく彼に。私もだよ・・・ってささやいて。
夫婦二組は、何事もなかったように、宿への道を急ぐ。
女たちは、互いのブラウスの胸元に、かすかなバラ色のしたたりを見つけ合って。
どちらからともなく、決まり悪げに、それでも愉しげに笑みあっていた。

今夜はきっと、どちらの寝室にも。
若い女の生き血目当ての吸血鬼が、しのんでくるはず。
夫や恋人は、形ばかりの抵抗をして。
奥さんや恋人の服で、強制的に女装をさせられて。
最愛の女性が羞じらいながら、凌辱に身をゆだねるのを目の当たりにさせられる。

川原木夫妻と知り合ったサイトの、誘い文句。
”女装好きのご主人に朗報!奥様洗脳術”
洗脳されたのは、はたして女ばかりだろうか?
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