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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

東京レンタル妻 5

2008年07月06日(Sun) 10:25:20

チョンガー(単身赴任者)がいて。その留守宅があって。
独り寝をする男と女があって。
もしも条件が折り合うのなら。
どうして婚外交際が成り立たずにいるだろうか?

片村が赴任してきたときに。
入れ違いに転出していった、あの男。
齢よりも老けたかんじのする、さえない彼は。
片村にそっと、囁いたのだった。
よく御覧なさい。
これがうちの事務所の職員住所録。
最近は個人情報とやらがやかましいから、
門外不出で職員にも配布されないけれど。
庶務課のあんたなら、いつでも見ることができるはず。
これを見て、なにか気がつきませんか・・・?
そう。
単身赴任者のマンションの近所には、かならず一軒か二軒。
べつの単身者の留守宅があるんですよ。
広い都会の中で、どうしてここまで一致するんですかね?
いや・・・単なる偶然の一致かもしれませんが。

変わったことを言うやつだ。
ひと言でそう、片づけてしまっていた。
たしかに男の指摘はもっともだったが。
だからそれが、なんだというのだろう?
ふつうは通り一遍、そこまでの話で。
赴任先に慣れ、その場の忙しさに取り紛れるうちに。
前任者のことなど、じょじょに忘れていくはずなのだったが。
そこから先が、いつものように通り一遍には片づかなかった。

申し訳ないんですがね。
時おりわたしの留守宅に、届け物をしてほしいのですよ。
週に一度、社内便がありますよね?
ちょうどあなたのマンションとうちとは近所だから・・・
郵便代を節約したくてね。

ひどくみみっちい、要求だった。
迷惑極まりない頼みごとにも、思われた。
たしかに男の住まいは、通勤の通り道にあたる。
―――なに。留守だったらポストに放り込んでおいてくれればいいんですよ。
男がこともなげに言ったにせよ、他人の家と接触を持たなければならないのは、
とくべつ非社交的なわけではない片村といえども、おっくうな話だった。
けれども、そんな思いはさいしょだけのことだった。
男はいよいよ赴任する前日に、
―――むさくるしいところなんですが・・・
と恐縮しながら、片村を自宅の夕食に誘った。
二階建てで庭つきの一軒家。
それは、サラリーマンの夢でもあるのだが。
どうため込んだのか、まだ四十前のその男は、すでにそれを保有していた。
(これじゃあ、単身になるのもわかるよなぁ)
鈍くてさえない男の印象とは、裏腹に。
家は新しく、室内も整理がゆき届いていて。
おまけに男の妻も、夫婦でつり合いがとれないくらい、快活な美人だった。
華絵という名前のとおり、華やかで絵になる女だった。
彼女の魅力は、置物のような美しさではなかった。
しま模様のTシャツの肩に、洗いざらした黒い髪をむぞうさに流しただけの。
お客様を迎えるには地味すぎるほど、ごくありきたりのふだん着だったけれど。
態度や語調、しぐさにまで、性的ともいえる魅力が滲んでいた。
きびきびとした身のこなしは小気味よく、
お膳を整え、お酒のボトルを持ち出し、つぎはグラス・・・と、
びっくりするほどよく立ち働くのだ。
スリムな身体にぴったり合ったタイトなジーンズ姿を、惹かれるように見つめていると。
男はそれと察したように、
―――ね?いいお尻しているでしょう?
家のなかではひどくくつろいで、屈託なげにしていた彼は。
めずらしく露骨な冗談を口にした。
(い・・・いやいや。)
とっさに言葉尻を合わせることができないほど、うろたえてしまったのは。
じじつ、華絵の挙措がそれほどセクシィに、彼の網膜を支配してしまったからだった。

じゃあ、よろしくお願いしますよ。
なにを、お願いされたのだろう?
玄関先まで見送られたとき。
男は妻に気づかれぬよう、意味ありげに片目をつむってみせた。
ああ・・・そうか。毎週のお届け物があるんだったな。
そう気づいたのは、まだ部屋のなかが片づいていないマンションに足を向けてからのことだった。
ほどよくまわったアルコールにほてった胸の奥。
彼のなかで、気づまりな頼まれごとが、日常を彩るささやかな愉しみに、
にわかに変貌を遂げていた。

インターホンを鳴らすとき。
いつも気後れしてしまっている。
やはりそこは、会社の同僚の留守宅である。
近所の目も、気になった。
時には、インターホンを鳴らさずに、ポストに放り込んでしまおうかと思うときもあった。
けれども社内便で送り届けられる荷物は、
なにが入っているのか、けっこうな大きさで。
重たくかさばる・・・というほどの量ではないにせよ、
折りたたんだ新聞がどうにか入るくらいのスペースしかないポストには、
どうやっても、はさみ込むことができなかった。

はぁい。
インターホンを通して響いてくるはずんだ声は。
かん高く張り詰めたトーンのなかに、適度な潤いを含んでいて。
ひと声耳にするだけで、日々の雑然とした疲労感がぬぐわれるような気分だった。
タイトなジーンズがお気に入りなのか、
それとも服装にはかまわないほうなのか、
華絵はいつも、Tシャツの肩に長い髪をむぞうさに流しただけのかっこうで。
玄関越し、彼から荷物を受け取るのだった。
―――いつも、すみません。
いえいえ、たいした用じゃありませんから。
―――ご迷惑、かけますねぇ。
そんなありきたりの、あいさつ程度の会話だったが。
たったひと言添えられる会釈だけで、片村はじゅうぶん報われた気分になるのだった。

ある日のことだった。
華絵が心ばかりのご馳走をしたいといってきた。
どきり!とはずんだ胸の裡を、押し隠すようにして。
いえいえ、そんな!お気遣いなく・・・
片村はへどもどと応対したのだが。
夫が気にしているんです。
後任者だというだけの片村さんのことを、私用でお使い立てしてしまっているので。
週末夫が帰ってくるので、よかったら向こうで手に入れた地酒でも・・・と言いつかっているんですが。
そういえば男とは、赴任して以来いちども言葉を交わしていなかった。
異動になってから、もう、2,3ヶ月は、経っていた。
片村への頼みごとを忘れていない証拠に、
毎週金曜日の社内便には必ず、片村あての自分の荷物を入れてきているくらいなのに。
華絵と別れてから、ふと気がついた。
男にその気があるのなら、どうして片村に直接申し出てこないのだろう?

約束の土曜の夜。
片村は真新しいポロシャツに、やはり新調したばかりのスラックスをはいて、華絵の家を訪れた。
さいごに家で会ったとき、男はごくくつろいだ格好をしていた。
妻の華絵も、服装にはかまわない人だった。
オレも、ラフなかっこうでいいのかな?
ちょっと迷いながら、それでもジャケットを羽織っていた。
午後七時半。
陽気のよくなったこのごろでも、そろそろ暗くなってくる時分だった。
夕食には、すこしおそ過ぎる刻限だったが、
―――主人が昼間、出ておりまして。
華絵は申し訳なさそうに、深々とお辞儀をしていた。
ひざの上で軽く重ね合わせた両手が、ひどく奥ゆかしく見えたのを、
片村はなんとなく、思い出した。
ご主人がお出かけじゃ、よくないですね。まさか、ツーショットというわけにもいかないでしょうし。
しょうしょう悪乗りした言い方は、華絵にはうまく通じなかったらしい。
どぎまぎしたのは、片村のほうだけだった。

いつものように、インターホンを鳴らすと。
はぁい・・・
夫の帰宅を迎えたせいか、いつになくはずんだ華絵の声が、大きく聞こえた。
玄関から門までの短い距離を。
束ねた髪を背中に揺らしながら、小走りに駈けてきた華絵は、
珍しく、スカートを着けていた。
いつもより濃い化粧は、夫のためのものだろうか。
鮮やかに刷かれた口紅が漂わせる女の色香が、むせ返るほどだった。
―――今晩は、ようこそいらっしゃいませ。
女はいつものように、礼儀正しく親しみを込めた語調をはずませて。
―――さ、中へ・・・
まえに通されたときとおなじように、片村の先に立ちキビキビと玄関に足を向けた。

室内の灯りがはじめて、華絵の衣装に色を添えた。
眩しいほど鮮やかなオレンジ色のブラウスは、
夏ものらしい生地の薄さに、スリップの肩ひもが透けてみえた。
青い花柄のロングスカートは、ツヤを帯びた生地をしていて、
歩みを進めるごと、腰の揺れに合わせてゆらゆらとそよいだ。
脚は脛から下しか見えなかったが、
張りのあるふくらはぎを黒のストッキングが薄々に染めていて、
片村はなぜかどきりと胸を衝かれる思いがした。

もうしわけございません。
じゅうたんの上、華絵は洋間に不似合いな正座をして。
三つ指突かんばかりにして、黒髪の頭をさげていた。
―――主人、用事がすまなくなりまして。今夜は戻れない・・・というのです。
―――おわびのご連絡を・・・とも思ったのですが。ぜひ寄ってもらえ・・・と主人に言われまして。
―――ですからどうか、今夜はくつろいでお過ごしくださいませ。
え?え?え?
片村はのけぞるほどに、驚いた。
それはないだろ、という戸惑いのすぐあとに。
かえってそのほうが、くつろげる・・・
無意識の安堵が、戸惑いを塗り替えていた。
三ヶ月も口を利いていない、気心の知れないあの男と、
いまさらどんな話題があるというのだろう?
―――わたくしでよろしければ、お酒のお相手をいたしますよ。
小首をかしげるようすも人なつこく、口許に笑くぼを浮かべて女は言った。
(じゃあ、せっかくですから・・・)
片村が促すと、女は嬉しそうに立ち上がり、一礼すると台所に向かった。
いつになくツヤツヤと輝いた黒髪が、ブラウスの肩をサラサラと流れていた。

時間が経つのは、あっという間だった。
快活な華絵の話題は、尽きることがなく、
さいしょは決まり悪げに居住まいを正していた片村も、
しだいしだいに話しにのめり込んでいた。
プライベートの知人ひとりいない、赴任先の夜。
こんなに楽しいと思えたことは、ついぞなかった。
未知の若い女性の、気の利いた会話とうまい料理。そして、酒。
なにもかもが、満ち足りていた。
はじめから、ウマの合う間柄だったのか。
女が合わせるのが、巧みだったのか。
時計をみると、とっくに真夜中を過ぎていた。
―――あら・・・すっかりお引止めしてしまって。
片村の指摘まで、時間のことなど意識になかったらしい。
ほどよい酔い心地に頬を淡く染めた女が、ちょっとあわてたように立ち上がると、
そろそろ潮時・・・と、片村もジャケットを手にソファから腰を上げた。
しっくりときた座り心地が、ほんのすこし名残り惜しい。
―――あの・・・
女の声が、改まっている。
―――よければお泊りに、なっていかれませんか?もう遅いことですし・・・
え・・・?
首をかしげる片村に、女はもう一声、言葉を添えた。
―――わたくしでよろしければ、お相手させていただきます。
意を決したような棒読み口調。
けれども言葉の意味は、さいしょのひと言よりもはるかに通りがよかった。
羞ずかしそうに視線を俯けた女の手を取り、肩に腕を回して。
おとがいに指を添え、ぐいと仰のける。
観念したように目を瞑った女が、軽く突き出した唇は。
潤んだような光をたたえていた。

腕のなか、思ったよりも華奢な身体つきが、頼りなく力を抜いて。
平衡を失ったふたつの影は、その場に折り重なるように崩れ落ちた。
ペルシャ絨毯の複雑な文様のうえ。
放恣に伸ばされた脚が、ヘビのように妖しくくねる。
じょじょにたくし上げられてゆく、青のロングスカートから。
格好のよいふくらはぎが、ぬるりとなまめかしく、さらけ出されていった。
脛の白さを淡く滲ませた黒のストッキングが、脚のくねりに合わせるように。
ぬめるようにツヤツヤとした輝きを、よぎらせた。

おはようございます。
女の声で目がさめると、そこは夫婦の寝室だった。
いつものように、長い黒髪をぞんざいに肩に流した華絵が、
にこやかに、会釈を投げてきた。
夕べの過ちなどみじんも感じさせない、屈託のなさだった。
あでやかに刷かれた化粧は、あとかたもなくて、
すがすがしいほどの素顔をさらして、日常の家事に戻ってゆく。
青のワンピースを軽やかになびかせた後ろ姿を、片村は無意識に追いかけていって。
台所の入り口で、女の肩をつかまえた。
女はビクッと身をこわばらせたが。
強引に唇を奪ってゆく男に、いつか積極的に応じはじめていた。

唇を放して。
そむけたはずの華絵の視線の彼方。
ソファの背もたれに、夕べ脱ぎ捨てられた黒のストッキングが、
帯のように長々と、垂れ下がっている。
女が初めて、羞じらいの色をみせ、
ほんのすこし、体重をのしかけただけで。
あらがいひとつ、みせることなく。堕ちていった。

飾り気のない・・・と思い込んでいたはずの女は。
スカートのときには、ストッキングをたしなむようだった。
羞じらいながら、いやいやをするのを無理強いして。
青のワンピースを、腰まではぐりあげてやると。
無地の肌色のストッキングは、毒々しいほどの艶を秘めていた。
つややかな気品をたたえた礼装は。
大胆に這わされる唇と舌に、なよなよと頼りなく、いたぶり尽くされるようにして、
ふしだらなひきつれを、走らせてゆく。
ぴりっ・・・
かすかな音をたてて、薄いナイロンの生地がはじけてしまうと。
男の不手際を、かばうように。女は軽く、かぶりを振って。
破って頂戴。
はっきりとした声色で、男の理性を奪っていた。

剥ぎ取るようにはだけられたワンピースが。
あらわになった肩先が。
ストラップを断たれたブラジャーが。
はち切れそうな量感をもった、おっぱいが。
くしゃくしゃにずり降ろされてゆくストッキングが。
羞じらいを含んだ腰つきの奥、濡れそぼった秘毛が。
つま先まですべり降ろされ、男の手で部屋の隅に投げ捨てられたショーツが。
圧倒されるくらい大胆な、積極的に享楽をむさぼる上下動が。
すべてが、ふたりの日常を塗り替えていった。
夫のいない週末。
片村が女の許を訪ねていくようになったのは、ごくしぜんな成り行きだった。

月曜日の出勤は、憂鬱である。
愉しい土日をはさんだ分、先週のやり残された仕事の記憶が、
白々と味気なく、よみがえってくる。
朝っぱらから忙しいのは、どこの部署もその帳尻あわせに走り始めているせいだろうか。
気が抜けるひまがないほどの忙しさが一段落したのは、もう夕方が間近になったころだった。
「片村さん、お電話です」
受話器を取った女性が告げた名前に、どきりとした。
華絵の夫からのものだった。
(もしもし?)
声が意識的に、身構えている。
けれども男は、なにも報らされていないらしく。
―――やぁ、しばらくでした。いつも頼みごとばかりで、すみません。
ひたすら恐縮しきっているようだった。
(いえ、いえ。おかげでこちらは、愉しい想い・・・)
不埒な言い草を押し隠して、片村はごく事務的に、どうしましたか?と訊いていた。

男がふたたび電話をよこしたのは、夜だった。
ちょっとびっくりしたのは。
片村の家や携帯にではなく。自宅にかけると言い出したことだった。
彼の希望どおり、華絵のいる男の留守宅に顔を出したとき。
ごく手短かに用件を告げられた女は、気がかりそうに片村の顔を覗き込んだ。
眉を寄せた上目遣いの憂い顔が、ひどくいとおしくて。
片村は恋人のように、キスを重ねる。
―――だいじょうぶ。ばれやしないって。
肩を抱き締めた腕が、もうこの女のすみずみまで知っているのだというばかりに。
力のこもり方、密着のし方の濃さまでも、つい先週までとは異なっていた。
リリリリリン・・・
鳴り響く電話機の音に、華絵は肩をすくめ、片村は頬をこわばらせる。

こんばんは。
ふたりとも、おそろいで・・・
華絵のやつ、たまには貴方を家にあげてくれていますか?
いやいや、仲良くやってくれているのが、いちばんなんですよ。
そうじゃないと、届け物もお願いしにくくなりますからね。
なにがどうなっているだなんて、詮索するのは野暮な話ですな。
もっともわたしは、こういう状況を、むしろ愉しんでしまうほうなのですが。
まえに、言ったでしょう?
単身赴任者のマンションと、べつの単身者の留守宅が、近所にある・・・って。
あれはね。
わざと、組み合わせてあるんですよ。
どうなっても、よろしいようにって。
需要と供給・・・というではありませんか。
単身赴任者というのは、淋しいものですな。
おなじように、留守宅に残される奥さんも、淋しかったりするのですな。
おなじ淋しいどうし。波長を合わせることが出来るのなら。
あとは、言わぬが花。見ぬが花・・・
そういうわけには、まいりませんか?
そうそう。
ひとつ、おわびを申し上げなければ・・・
わたしは庶務の部署が長いので、なにかと話が耳に入ってくるのですが。
貴方の留守宅のちかくに、若い独身のサラリーマンが棲みついたようですね。
それも足しげく、貴方の留守宅にお邪魔しているとか。
どこのだれだか、すぐにおわかりになるはずですよ。
今どき、個人情報がやかましいっていったって。
よその事務所の住所録を見る方法なんか、いくらでもあるはずですからね。

毒をそそぎ込まれたような言葉だった。
妻が・・・。まさか、妻が・・・。
片村はめまいがするほどの衝撃を受けていた。
想像のなか。
子育てに、家事に、パート勤めに。
日常まみれになって、女であることさえ忘れてしまっていたような妻が。
想像のなか、夜の蝶のように、濃く化粧を刷いて。
着古したあの地味なカーディガンを脱ぎ捨てて。
夫の知らない服を着て。別人ように、装って。
あだっぽく笑いながら、未知の男の帰宅を迎え入れている。
子育てに、家事に、パート勤めに。
埋め尽くされた時間のすき間を、よりあわせるように、工面して。
得られた刻を、秘めつづけていた欲情のままに、燃焼させている―――
―――そういうことだったのか。
帰宅の頻度が落ちた夫のことを、とくべつ疑うふうもなく。
交通費も、ばかにならないわよね、って。
ひどくおだやかに受け止めていた妻。
けれども妻を憎む理由は、いまの片村には思いつかない。
妻のもとに通ってくる若い男のことを、どうこう言える立場でもない。
毎週のように妻を犯しているその男は、片村の分身のようなものだった。
親しみや共感を感じこそすれ。
そう・・・
なにがどうなっているかを詮索するなんて、まったく野暮な話だった。
妻の不倫をなげくよりも、いま目のまえの快楽を手にするほうが、先。
だまって添えられた白い手を、彼は堅く握り返している。
受話器のなかの声は、まだよどむことなくつづいていた。

わたしの家の近所には、同僚の留守宅はありません。
都会とちがって、融通が利かないのですよ。
けれどもね。世の中、よくしたもので・・・
一方的に盗み取られてしまっている。
そんな状況を愉しめる種類の夫も、たまさか居合わせるものなのですよ。
さあ、どうぞ、ご遠慮なく。
妻の貞操を、召し上がってください。
もしも、お差支えがなかったら。
受話器はこのまま、放り投げていただいて。
あなたの飽食ぶりを聞きながら、わたしも愉しませていただきたいものですな。
ひょっとして。
もしもあなたに、わたしと同じ嗜好があるならば。
着飾った奥様が、いまごろどこかのだれかに犯されているのを思い浮かべながら・・・でしたら。
興をいっそう、添えることになるかもしれませんね・・・

振り返ると、片村の情婦に堕ちた人妻は。
そわそわと落ち着かなく、視線を泳がせていて。
けれども彼女のみせるためらいとは、裏腹に。
シックなはずの装いは、服ほんらいの意図以上の色香を。
挑発的に、滲ませている。
独身のころ、勤めに出ていたときに着ていたものだろうか。
黒のシンプルなジャケットの下は、モノトーンのボーダー柄のブラウス。
しま模様の太さは、まちまちで。
胸の辺りの高さだけひときわ太いしま模様が走っていて。
突き出たおっぱいの形のよさ、柔らかさを。
いっそう、引き立てているようだった。
ひざ上丈の、真っ白なタイトスカート。
下肢を包んでいるのは、淫靡に輝く、黒のストッキング。
清楚と淫靡が同居した、モノトーンの鮮やかさ。
若向けの衣装から、素肌をちらちらと覗かせながら。
女はためらいがちに、後ずさりを始めていた。
片村は女をぐいと引き寄せると。
力任せに、絨毯のうえにまろばせて。
受話器のころがったまん前で。
黒のストッキングをブチブチッ・・・と引き破って。
はだけたブラウスのすき間からねじ込んだ手は、
艶を帯びた黒のスリップを、引き裂く音も荒々しく、
チャッ・・・チャッ・・・
もだえる身体から、剥ぎ取っていった。


単身赴任の夫たちがいて。
その留守宅に残る、妻たちがいて。
互いが互いの影を、重ね合わせるとき。
人はそれを、”不倫”と見なす。
けれども、なかにはもっと、クールな関係もあるらしい。
せめぎ合う欲求の需要と供給の関係を、ごくスマートに割り切って。
しとやかな人妻は、男と寄り添って。
自らを情婦にかえてゆく。
ときには妻を犯される立場に立たされた夫さえもが。
情欲の坩堝(るつぼ)に、巻かれていって。
重ねられる不貞に、日常を超えた昂ぶりに狂ってゆく。
東京レンタル妻。
其処に登録を受けた妻たちは。
今宵も独り寝の寂しさを、ひっそりと埋め合わせてゆく。


あとがき
単身赴任者の奥さんを、企業ぐるみでここに登録していいる。
あり得ない設定・・・ですよね?^^
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