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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

インモラル・バー

2008年07月23日(Wed) 06:51:10


夜の十時を回ると、この店ではショータイムが始まる。
今夜の出し物は、女四人のボーカルらしい。
やや素人めいた声の重なり合いが、こういう場ではかえって新鮮に響く。
色とりどりのワンピースに、おそろいの黒のストッキング。
メインに謡う真っ赤なワンピースの女は、若妻らしい。
髪型も雰囲気も、どことなくしっとりと落ち着いている。
その隣、袖なしの空色のワンピースの子は、いちばん若い。
もしかしたらまだ、はたち前かもしれない。
隣で謡う若妻の栗色に染めた髪とは好対照に、黒々としたおさげ髪が初々しい。
ふたりの背後は、やや年かさの女性たち。
バックダンサーのように巧みな手ぶりをする女性は、
どことなく若妻ふうの赤ワンピの女とよく似ている。
齢不相応なてかてか光るダークブルーのワンピースが、かえってひどく色っぽい。
その隣、濃い紫の服の女は、いちばん若い子と瓜ふたつ。
どちらかというと正統派な謡いかたで、背すじもしゃんと伸ばしていた。
声も振り付けもややふぞろいなのに、そこがかえって、視線をそそる。
高く透きとおった声色だけは、いずれ劣らないほど、観客を魅了しつづけていた。

ショータイムがひけると、舞台のうえから降りてきた女たちは、めいめいべつべつのボックスに入り込んでいって、
細かいやり取りまでは、店内の薄暗さに埋もれてよくわからないけれど。
お酌をしたり、会話に興じたり。
果てはワンピースのすそに手を伸ばされて、嬌声を上げたりしている。
そう、お店のホステスと、兼任なのだ。
ねぇ。どうするの?
傍らの女が、イタズラっぽい顔と甘えた声で、わき腹を小突いてくる。
肩をむき出しにした袖なしワンピースからは、しなやかに伸びた二の腕が。
開けっぴろげにボトルを取り上げ、ろくに水で割らずに濃い酒をマドラーでかき回す。
女のしぐさと、むっちりとした肉づきに、惹かれるように。
スカートの奥に手を這わせ、首筋に唇をあてがっていく。
あ・・・
女の唇から、かすかな悲鳴が洩れた。
向こう側の肩を、身動きできないほどつよく抱きすくめたまま。
さっきから疼きつづけていた犬歯をむき出して、女の首筋にあてがっていった。
シンガーたちの降りたボックスでも、おなじ行為が広がっている。
ソファのうえで、逆立ちせんばかりになって。
ワンピースのすそから、ばあっと太ももをばたつかせたのは。
案外いちばん年配のシンガーだったかもしれない。


午後11時。
アルバイトが、おわった。
軽い酩酊。かすかな陶酔。
軽い酩酊は、客に飲まされたお酒のせいだろうか。
けれども陶酔のほうは・・・
そう。あきらかに、失血によるもの。
足取りを励まして家路をたどるうち、それらをどこまで、身体の奥に隠すことができるのだろう?

吸血バーなのよ。ここ。
初対面のマダムは、ちょっと耳ざわりで毒々しい声で、わたしを遠ざけようとしたけれど。
わたしがはっきりかぶりを振ると、
地味なスーツを着てきたわたしのいでたちを、すみからすみまで点検するように見回して、
しょうがないね・・・というように、肩をすくめて見せたのだった。

今夜は三回も、指名された。
顔なじみの客が複数できて、首筋に這わされる唇の熱っぽさにも、濃さが加わっていた。
こら、こら。新人さんなのよ、このひと。
あんまり苛めちゃ、ダメよ。
マダムが機転を利かして間に入ってくれなかったら、
三人目のあの濃厚なキスを、耐え抜くことはできなかっただろう。
わたし・・・夫のいる身だというのに。
肩の出る真っ赤なドレスなんか着て、
すその短いドレスから、青いストッキングの脚を、太ももまでさらけ出しちゃって。
いまのわたしを同級生や近所の奥さんがみたら、きっと仰天するだろう。
タバコの匂いの染みついた服は、派手めに引いたアイラインもろとも、
店を出るときに脱ぎ去ってしまって。
光沢をてかてかさせた青のストッキングも、地味な肌色のものに取り替えてしまうのだけど。
真っ赤なチョーカーだけは、首に巻いていこう。

おかえり。
玄関まで无か入れてくれた夫は、眠い眼をこすりながら。
チョーカーの裏に隠した傷は、彼の視線からそれていた。
靴をきちんとそろえ、バッグ片手にリビングに向かう。
ふう。くたびれちゃった。
今夜ははにもしてあげられないわよ。夜のおつとめも・・・
それを言外に滲ませても、淹れたてのコーヒーまで持ってきてくれる、優しい夫。
ある晩いちど、真っ赤なドレスのまま戻ったとき。
息荒く、押し倒されてしまっていた。
下着検査だ。おまえ、浮気してきたな・・・?
あらぬ言葉に、声震わせながら。
わたしの首周りからむしり取ったチョーカーの下を見て。
まだ血潮を滲ませた傷口のうえ、夫は熱い唇を重ねてきた。
帰宅のときのチョーカーは、もう取り去ってしまってもかわまないのかもしれない。

今夜、母が堕ちたの。
そう・・・
みなさんおいしいって、召し上がってゆかれたわ。
わたしの家の血・・・みなさんのお口に合うみたい。
スリップ一枚のわたしは、バッグの奥にしまいこんでいた紙包みを、夫に渡す。
小刻みに震える指は、昂ぶりのせい?
ていねいに開かれた紙包みのなかからは、裂け目もあらわな黒のストッキング。
ところどころ染みついている持ち主の血が、灯りの下で不自然な澱みをかすかに浮かび上がらせている。

みゆきちゃんには黒のストッキング、まだ早かったかしら。
彼女は夫の、妹さん。
処女の血を欲しいと、なじみのお客にせがまれて。
早い時間にちょっとだけ、手伝いに来てもらっていた。
制服のプリーツスカートが、お客の目にも新鮮に映ったらしい。
目の色を変えて迫るお客に、みゆきさんはべそをかきながら。
それでもけなげに、足許から目をそむけつづけていた。
昔の女子高生は、みんな黒のストッキング履いていたからね。
さりげなくわたしをかばってくれた夫。
兄妹のあいだ、どうやってなだめきったものか。
みゆきさんは時々、制服姿で夕方の部に顔を出すようになっていた。
ええ、もちろん、未成年ですから。
たまーに、だけど。

お義母さまも、お連れしますわ。
四人そろうと・・・カルテットになるの。
どういうこと?
四人とも、歌上手でしょ?
おなじ合唱団で、歌っているくらいだもの。
それを夜の部で・・・演(や)るのよ。
ひとりだけ仲間はずれなんて、お義母さまに悪いし。
なによりも。
上品なお義母さまを、堕としてみたいのよ。わたし。
ああ・・・そうしてあげてくれ。
みゆきの血が皆さんの口に合うくらいなら。
母もまだ若いうちなら、すこしは愉しんでいただけるだろうから。
夫はなぜか、声を昂ぶらせて。
わたしを抱きすくめる腕に、いっそう力がこもった。


バーの生演奏は、ひどく評判がいいらしい。
このごろ入った女ばかりのカルテットが、とくに人気を集めていた。
歌のうまいホステスが四人ひと組みになって、オールドナンバーをしっとりと聴かせてくれる。
ちょっと不ぞろいな歌調が、かえって素人くささを漂わせていて。
そのあとの宴を、いっそう盛り上げているのだった。
聞くところによると、赤いドレスのよく似合う栗色の髪の女は、若妻だそうだ。
隣で謡ういちばん若い子は、若妻の夫の妹、つまり小姑というやつだ。
背後で謡う二人の女は、その母親たち。

だんなさんが見たら、腰を抜かすでしょうな。
隣の見知らぬ客が、声をかけてきた。
うん。そうですよね・・・
わたしはちょっと言いよどんで、
案外だんなが誘い込んだのかもしれないですよ。
くすっと笑って、グラスをチン・・・と、鳴らしあう。
だとしたら、だんなはたいしたお人だ。
見知らぬ客は、白髪も少なくなった頭をつるりと撫でながら。

昔は私も、愉しんだものですよ。
一人で愉しむのも、なんだから。
家内を連れてきたこともあるんですよ。
そうすると、飲み代が浮くのでね。
ええ。三回顔出したら、もう抜けられません。
そのまま家内も、ここのウェイトレスを勤めるようになりました。
お店の女の人は、首筋を噛まれて、血を吸われるんですな。
家内ももちろん、血を吸われちまいました。
首筋からしたたる血が、見慣れた柄のブラウスにしたたっていって・・・きれいでしたねぇ。
そのあと、脚も噛まれていましたっけ。
地味ーな紺のスカートの下、なんでもないごくふつうの肌色のパンスト履いていたんですが。
目のまえでほかの客が、家内のふくらはぎに噛みついて、パンストまで噛み破ったとき。
なぜだかもう・・・ゾクゾクしちまいました。
恥ずかしい話ですが。
あなたなら、わかっていただけそうですな?いや、きっとおわかりでしょう。

家内のやつ、しばらくここでウェイトレスをしていましたが。
なじみになった客と、とうとう結婚しちまいました。
えっ?独りになっちゃったのかって?
いえいえ。
結婚といっても、この店内かぎり有効・・・ってやつでしてね。
私の苗字のまま、犯し抜かれちまったんです。
新婚初夜には、しっかり朝までつき合わされましたよ。
お店じゅうの客に、祝福を受けるんです。
愉しかったな。あのころは。
家内もわたしも、まだ若かった。
家内のやつ、しっかり淫乱に、しつけられちゃいましてね。
昼間はごくふつうの主婦の顔しながら、ここに来ると、人格が入れ替わっちまうんです。
その落差が、愉しくて。
わたしもときどき、家内のことを指名したんですよ。
でももう、さすがに・・・引退しちまいましたから。
わたしがここに足を向けることも、めっきりなくなりました。

ホステスといわずに、ことさらウェイトレスと言葉を強めて言うのが、どこかほほ笑ましかった。
父子ほども、いやもっとそれ以上に離れた世代。
女の操はいまよりずっと、重く扱われていたことだろう。
帰ろうとする客を、わたしは軽く引き止めて。
今夜・・・秘密の結婚式があるのですよ。
あなたのことも、お招きしましょう。
いえ・・・招待する権利を、私持っているものですから。
閉店後の密室でのカルテット・・・お聴きになってみませんか?
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