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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

夜明け前のオリオン座

2008年08月27日(Wed) 05:06:12

夏でもオリオン座が見えるって、知ってますよね?

ふと目ざめたら、まだ起きる時間にはずっとあって。
ぼくは目覚まし時計を止めて、表に出た。
夏は過ぎた・・・と、感じてはいたけれど。
迎えてくれた夜風は身震いするほど肌寒く、
背の高い木立ちの頭を、ざわざわと大振りに揺らしていた。

半年も経つだろうか。
もう、もっとになるだろうか。
だれもが記憶の彼方に追いやってしまった日々。
今はとっくに終わってしまった話題のドラマを見終わると。
ぼくは両親に黙って家を出て、待ち合わせの四つ角に足を向けていた。
季節外れの半ズボンの下は、ひざ小僧の下まで靴下を引っ張りあげていたけれど。
ストッキングみたいに薄い靴下は、脛を暖める力はなくて、
寒々とした外気に当てられて、ふくらはぎの周りにはりついていた。

出てこれなかったかな?
逡巡する、数分間。
時おり耳に入る人声は、塀ひとつ向こうの家のなか。
それでもしばらくすると、遠くからぱたぱたという駆け足が近づいてきて。
足音の主が彼女だとすぐ聞き分けると、ほんのちょっぴり安堵する。
待った?
おさげ髪を揺らして向こうから現れたみち子さんは、学校帰りの制服姿。
いや。
もう学校帰りには、遅すぎる時刻。
いちどふだん着に着替えて、それからまた制服を着なおしたのだろう。
白のカーディガンから、白い線が入った濃紺の襟首を出していて、
てっきり夏服を着てきたのかと思った。
重たげな濃紺のスカートは、ひだにかっちりとアイロンをかけていて。
ちらちら覗くひざ小僧の下は、薄っすらとした黒のストッキングまで履いている。

薄々のストッキングの脚を、寒そうにつま先立ちさせながら。
赤く凍えた頬っぺを覆っていた手を、手袋のうえからはぁはぁと息を吹きかける。
大げさじゃん。
ぼくが苦笑しながらたしなめると。
だって・・・寒いんだもん。
いつもながらの無邪気な声が、返ってくる。
制服なんだね・・・って、わざと訊くと。
だってー。そんなにいい服、持っていないんだもん。
いつもジーンズの彼女が黒のストッキングを履くときは、女学校に通う制服姿のときだけだった。
色白で、上品で可憐な顔だちなのにもったいない・・・なんて。
とても本人は、気づいていないのだ。

とぼとぼと歩く道すがら。
オリオン座を形作る星たちは、寒そうに瞬きながら。
じいっとしずかに、ぼくたちを見おろしていて。
肩を並べて村はずれへと急ぐぼくたちも、
びっくりするほど広がる星の世界に時おり顔見合わせながら。
またたきに応えるように、仰いでいた。

村はずれの雑木林は、陽気のいい時分でも寒々としているのに。
枯葉を落として骨だけになった木々は、月明かりのなか影絵のようにウッソリと立ちはだかっていて。
それじたいが、化け物みたいに映る。
怖いね・・・
声をひそめるみち子さんは、ぼくに軽く寄り添ってきて。
暖かい呼気がなぜかひどくなまめかしく、ぼくの耳たぶを打った。

がさり・・・
あ・・・
草踏み分ける足音に、振り向いたときには。
黒い影はぼくたちのまえに大きく立ちはだかっていて。
ちょっと威嚇するような気配を、こちらに送ってきた。
縮みあがって身を寄せてくるみち子さんを、いとおしく抱きとめながら。
いつも見慣れた影に、親しげに声を向けていた。
びっくりするじゃん。って。

悪いね・・・
声をひそめた黒影の主は。
ぼくの足許から、顔をあげると。
吸い取ったばかりのぼくの血を、彼女に見せつけるようにして。
ぬるぬると光る赤黒い舌で、口許をぺろりと拭っていた。
半ズボンの下に履いていた、黒の薄い長靴下は。
裂け目をいく筋も滲ませて、脛を外気にさらしてしまっている。
血を抜かれて腑抜けのようになったぼくは、
家を出るときには思いもかけなかったくらい、大胆に。
手本は見せたよ。つぎはきみが楽しむ番だから―――
余裕たっぷり、ゆったりとした笑みさえ浮かべて、彼女の肩を引き寄せていた。

大きな切り株に彼女を腰かけさせると。
黒のストッキングの足許に、ゆっくりとかがみ込んでいって。
ひそめた声を発した口許を、薄い靴下のうえから圧しつけてゆく。
キリリと結ったおさげ髪を、月の光に当てながら。
彼女はキッとした視線を、足許に注いでいたけれど。
ぼくの掌をギュッと握り締めたまま、
脚を斜めに流した姿勢を変えないでいた。

ぬるりと這った唇が、黒のストッキングを波立てたとき。
握ってくる細い指がかすかに震え、すがりつくように力を込めてくる。
くちゃ・・・くちゃ・・・
唾のはぜる下品な音を立てながら。
黒影はぼくの許婚の礼装を踏みしだくように、べろをあてていって。
ひとしきり、気の済むまで舐めあげると。
チリッとかすかな音とともに、ストッキングを噛み破っていた。
みるかげもなく噛み剥がれてゆく足許を見まいとして。
傍らの少女はけんめいに、夜空を彩る星座を眺めつづけていた。

あれから、半年は経っただろうか。
いや、もっともっと経っているに、ちがいない。
女学校を卒業したみち子さんは。
夏祭りの晩、吸血鬼に処女を捧げた―――。

夜明け前、彼女の部屋に夜這いわたる黒影は。
そのすこしまえに、ぼくのことをしぜんと目ざめさせて。
あの晩彼女と待ち合わせた四つ角で、顔つき合わせると。
ぼくに道案内をさせて、彼女の家の塀を乗り越えて。
向こう側から手を伸ばして、ぼくを引き入れてくれるのだった。
彼女の部屋の窓を閉ざす雨戸が、わざと半開きになっているのをみとめると。
しーっ。
影は大仰に、唇を一本指で封じると。
お前はここで見ているんだぞ。
子どもの探検隊みたいな芝居かがった声に失笑しそうになるぼくに、
しーっ。
もういちど、一本指を立てるのだった。
半開きになった雨戸。
それは未来の花婿を裏切る証しのはずなのに。
ぼくの視線は、吸い寄せられるようにして。
雨戸のはずれた彼方の闇に、いつか釘づけになってゆく。

真夜中に繰り広げられるお祭りは、まがまがしいほど熱気を帯びていて。
セーラー服を脱ぎ捨てた少女は、もっといい服を着るようになって。
昼間みたいにこぎれいなワンピースに装って。
毒々しい光沢入りのストッキングを穿いた脚を、シーツのうえにくねらせる。
たまには黒も履くんだよ・・・って、いいながら。
夜な夜な、息を殺して見守るぼくのまえ。
女学校のときのストッキングを、一足残らず破らせてしまった彼女。
悪い子になっちゃって、ゴメンね。
ちらと囁いたときだけは、ひどくしおらしげだった。

真夏の庭は、決して寒くはなかったけれど。
ぼくは身震いしながら、いちぶしじゅうを覗き見していて。
覗かれていると知っている彼女は、物陰のぼくを挑発するように、これ見よがしに乱れていって。
そんなぼくたちに、ご両親もきっと気づいているはずなのに。
客間をひとつ隔てた寝室からは、ことりとも音を立てずにいるのだった。

秋に祝言を挙げるぼくたちは、どんな冬を迎えるのだろう?
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コメント

相変わらず幻想的ですね。
妖しい世界が目の前に広がります。
楽しませていただきました。
by 舞方雅人
URL
2008-08-27 水 08:20:42
編集
> 舞方さま
月明かりの下。
悔しそうな視線を足許からそむけて、
姿勢ひとつ崩さずに、黒のストッキングの脚を妖しい唇にゆだねてゆく少女・・・
眠れない夜に夜歩きをしているとき、ふと思いついた情景です。
夜明け前のオリオン座。
ちょうどいま時分でしたら、実際に見ることが出来ます。
by 柏木
URL
2008-08-28 木 07:35:10
編集

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