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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

一足、525円。

2008年12月26日(Fri) 06:49:07

いつも夜道を通りかかるその娘は。
グレーのスーツに、白のブラウス。
清楚だがありふれたいでたちを、まるで制服でもあるかのように、あきもせずに身にまとう。
いかにも着慣れないスーツ姿に、
存在感のない肌色のストッキングを、いかにも穿き慣れないように穿いていて。
スーツに合わせたねずみ色のパンプスも、どこか垢ぬけしない雰囲気で。
いまどき珍しいほど、ひなびた顔だちで。
お世辞にも、美人という形容からはほど遠かった。

独り歩きの夜道で、呼び止めて。
手短かに、オレの素性を口にすると。
もう、蒼ざめてしまって。縮みあがって。
追い詰められた壁ぎわで、うつむきながらつぶやいている。
どうしてわたしには、こんなひとしか・・・
ご挨拶だな。
お前の友だちの彼氏のだれよりも。
オレは強力なんだぜ?
もちろんそんなこと、なんのフォローにもなっていない。
オレは女の手を引いて。
手近な公園に、引きずり込んだ。
もちろん。公園目あてで、女に声をかけたのだが。

決して、死なせるようなことはしない。
映画に出てくる吸血鬼とちがって。
ほんの少し、貧血にならないていどにいただくだけだ。
人助けだと、思ってくれ。
灰になっちまうんだ。
今夜じゅうに、若い女の血を吸わないと。
ほんとうの弱みを口にすると。
女はそれでもしぶしぶと、言われるままにベンチに腰かけた。
腕をつかまれ、逃げられないのと。
いくらなんでも、立ったまま噛まれるのは辛いと判断したのだろう。

オレは素早く、女の足許にかがみ込んで。
アッ!
女がスカートを抑えて、脚を引こうとするせつな。
ストッキングのうえから、ふくらはぎに食いついていた。
ほどよい肉づきをした彼女の脚は、絶妙なカーヴを描いていて。
絶世の美女なみに、誇らしげに闇に映えていた。
捕まえた足首が、キュッと引きつって。
女が脚の筋肉をこわばらせたとき。
すでに、オレの牙が深々と侵していて、皮膚の奥深く秘めた血管を断っていた。
ああ・・・
気の毒に。
この齢で、女はまだ処女だった。

ううっ・・・
女が顔を覆って、べそをかいたのは。
噛まれた痛みなどよりも。
ストッキングを破られてしまったことに対するものだった。
このままじゃ、帰れない・・・
噛みつくときに。
脚なら目だたないだろう?服も汚さずに済むから・・・って、囁いて。
女もかすかに、頷きはしたけれど。
ストッキングが破れてしまうことまで、計算に入っていなかったらしい。
あたりに人の気配がないのを、気を配って。
オレは女のほうからわざと視線をそらしながら、
女がその場でそそくさと履き替えに脚を通すのにつきあってやっていた。

来たわよ。約束通り。
つぎの日の晩。
真夜中の公園に。
女は独り、足を運んできた。
見慣れない真っ赤なジャケットに、おなじ色のスカート。
いつもアップにしている髪型を、お嬢さんぽく肩に流して、
化粧もいつもより、気持ち濃い目に刷いている。
人助け・・・だからね。
短かめのスカートのすそを、ぶきっちょに精いっぱい引っ張って。
座ったらまる見えになる、黒のストッキングの太ももを、なんとか押し隠そうとした。

ストッキングの脚が、お好きなんでしょ?
特別に、高いやつ穿いてきたのよ。
女の指摘は、図星だったが。
ふくらはぎにあてがった唇を、不覚にも笑みに弛めてしまっていた。
一足525円。
ひと口、吸ってみただけで。
たいがいのブランドは、当ててしまうほどに、唇になじませてしまっている。
高いストッキング。
絹製とか、インポートものだったら、ともかくも。
けれどもオレは、そんな女の不器用さがむしょうにいとおしくなっていて。
むやみに足許を撫でさすって、ストッキングに皺を寄せては、
彼女のひんしゅくを、かっていた。

毎晩は、無理だけど。
そんなに血に飢えているのなら、週2くらいは、協力してあげる。
あくまで献血ですからね。いやらしいことは、しないでね。
女は自分の潔白さを強調するように、かたくなに硬い声色を作りながら。
ふつかにいちどは、公園に現れて。
一足525円くらいの、けれどもいつも真新しいストッキングを脚に通して、現れて。
不埒な唇の前、ゆったりとした脚線美を惜しげもなく見せびらかすようにさらしては、
ねじれひとつなく装った薄手のナイロンに、お行儀悪くよだれをほとばせるオレのことを、
ほろ苦く笑みながら、見おろしていた。
日に日にやせ細った女は、いつか見違えるほどの美しさを、身に帯びるようになっていた。

女はよほど、もてるようになったらしい。
けれどもオレの喉を潤す血潮は、いつまでも汚れひとつみせないでいた。
好きな人がいるの。でも・・・あなたを選んでしまった。
女が口ごもりながら、つぶやいたのは。
とうとうこらえきれなくなって、手近な芝生にまろばせて。
スカートの奥深く、逆だちするほどに昂る一物を、挿入して。
スリップを紅く、濡らしてしまったあとだった。
ばかだな。お前。
オレは女の髪を、いとおしく手で梳いてやりながら。
しくしく泣き臥せる女のことを、いつまでもいとおしみつづけていった。

半年後。
祝福に包まれた教会に、オレはもちろん近づくことができないまま。
白のウエディングドレスに包まれた幸福に満ちた表情を。
まぶしげに遠目に見守っている。
人としての幸せを、取るように。
オレには心配、要らないのだから。
これ以上やせ細らせるわけにはいかない。
女の肌は、人目にはつかないほどに色あせはじめ、すでに危険な兆候を示していた。

人妻の生き血には、関心ないの?
彼がわたしに目を向けなくなったりしたら。
もしかして、また連絡するかも知れないよ。
ふつか前、最後に逢ったその晩に。
女はくすぐったそうに肩をすくめて、くすっと笑んで。
あまりあてにならなさそうな申し出に、オレはほろ苦く笑い返していた。
牙にあやした血潮には。
オレが命令したとおり。
ほかの男と交わったあとの、かすかな澱みを帯びていた。

幸せそうなカップルが、教会の仕立てた馬車に乗り込んで、姿が見えなくなると。
オレは手の指に巻きつけた薄いナイロンの切れ端に、
そっと、唇を当ててやる。
たしかに安物には、ちがいなかったが。
初めての夜、女の脚から脱がしたその装いは。
なよやかで妖しい感触の向こう側。
ひっそりとした熱情を秘めた皮膚の気配を、まだ宿しているかのようだった。


あとがき
スタンダードなストッキングは、一足525円くらいするようです。
その昔、女子中高生向けに売られていた黒のストッキングは、二足で380円でした。
まだ、消費税などなかった時代のお話ですが。(笑)
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そこにあお向けになって。脚を開いて。目をつむって。

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