つかまえてきたぞ。あとは好きにするがええ。
村人たちは、ひとりの男を引きずってくると。
玄関先に、引き据えて。
ぐるぐる巻きにされて身動きもできない身体を、荒々しくごろりと転がした。
奥さんのかたきだ。埋めちまっても、だれも文句はいわねぇからな。
まぁそのまえに、ゆっくりと。
奥さんやお嬢さんの最後のようすなど、聞いておくがいいだろうよ。
ぞんざいな声色には、彼らなりの共感といたわりがこめられていた。
去ってゆく村人たちの足音が遠のいてゆくなか。
息子の恭司と父親の恭太郎は、お互い探りを入れ合うように。
しばしのあいだ、じいっと顔を見合わつづけていた。
恭太郎の夫人の陽子が襲われたのは、金曜日のことだった。
長女の香苗が、母親とおなじ運命をたどったのは、つぎの日の夜だった。
怯えきった末っ子のまどかが、セーラー服姿を血に染めて、血液を吸い尽くされて発見されたのは、
週明けの明け方のことだった。
都会から移り住んできて、三か月。
ようやくあたりのようすも、人の気風も、わかりかけてきたときだった。
吸血鬼が、出没する。
めったなことでは命までは取らないから。
村人たちは、見て見ぬふりをしている。
そんな呟きを、ここに来て長いおなじ転勤族の同僚から耳にしたのを、真に受けるまでにはなれなかったが。
さいしょから、奥さんに狙いをつけていた。
男は目を伏せたまま、自分から語り始めている。
きれいだったからな。都会育ちで、こぎれいにしていて。
わしは、惚れちまったんですよ。いけないことだって、知りながら。
さいしょの晩。
わしは奥さんを誘い出して、村はずれの納屋の近くまで、連れ出したんだ。
―――いったいどういうふうに、誘いかけたんだね?
恭太郎の声は、わなわなと震えを帯びている。
あんたが夜勤のあいだにけがをして、村長の家で休まされているって、報せに走ったんだよ。
服も目当てだったからな。
村長の家って言や、こぎれいな格好してくれるとおもってな。
道案内して納屋のほうに連れて行ったら。道がちがうって、言い出して。
そこで・・・想いを遂げちまったんだ。
わかってもらえないと、思うけど。
四十代の人妻の生き血って、熟れていて。とても旨いんだよ。
―――それだけじゃ、足りなかったっていうんだね?
あとを促したのは、息子のほうだった。
ああ。喉が渇いて渇いて・・・
おれの身体のなかをめぐっている奥さんの血が、娘さんの血を呼んでいたんだね。あれは。
―――か、勝手なことを・・・
思わず拳を握る父親を、押しとどめて。
恭司はなおも、尋ねていた。
―――姉さんにするか、まどかにするか。どうやって決めたの?
男は息子ほどの年かっこうの恭司の質問には応えずに、かまわず先を続けていた。
つぎの日の夜は、下の娘さんを襲ったんだ。
襲ったのは、部屋ん中だった。
―――それは、まどかのことだろう?そのまえに、香苗姉さんの血を吸ったんだよね?
そうだったっけな。
日に三人は、襲っているから。
なん日かすると、記憶があやふやになっちゃうんだよ。
ああ、そうだ。思い出した。
そうそう。つぎに襲ったのは、上の娘さんだった。
お袋さんの通夜だから、黒のストッキングを履いていたっけ。
黒のスカートから伸びた脚が、とてもきれいで。
庭先に隠れていたら、廊下の向こうから歩いてきて。
なにか、ものを取りにきたようだったな。
―――香苗が姿を消したのは。弔問客が立ち去ったあと、恭太郎がささいなものを取りにやらせたあとだった。
しまった・・・
恭太郎が目を伏せて涙声になるのを。
男も恭司も、うつろな目で見守っている。
手を引いて、庭先におろしてやって。
顔しかめて、いやがっていた。
わしと、もうひとりの相棒と。
ふたりがかりで、抑えつけて。
わしは首筋に。相棒は見境なく、二の腕に食いついていたっけな。
―――発見されたとき。半袖のブラウスを着た香苗の二の腕には、くっきりとした噛み痕が残されていた。
二の腕なんか噛んだって、ほとんど血なんか採れやしない。
そいつはまだ、血を吸うのはほとんど未経験だったから。
ともかく手近なところを噛んで、喉の渇きをなんとかしたかったんだな。
わしはそのあと、首筋につけた傷を、相棒に譲ってやって。
そのかわり、黒のストッキングの脚を噛んでやったのさ。
いちど、都会のお嬢さんの脚から、噛み破ってみたくってね。
抑えつけた脚は、身じろぎひとつできないで、わしに血を吸い取られるままだったけれど。
もう片方の脚は、しばらくじたばたしておったな。
なにしろ、ふたりがかりの吸血だ。
そのうち耐えられなくなって、だんだん静かになっちまったけど。
―――どうしてまどかまで、やってしまったの?
恭司がおそるおそるのように、訊ねると。
相棒は、もうひとりおってな。
そいつがどうしても、若い子の血を吸いたがっていたのだよ。
そうなったら、もう下のお嬢さんしか、残っていないじゃないか。
仕方がなかったのだよ。
わしひとりでは、なかったからの。
―――まどかはその晩、明日はがんばって学校に行くんだって、言い張っていた。
真夜中過ぎに、たずねていったら。
てっきりもう、ネグリジェ一枚になっちまったと思い込んでいたのに。
セーラー服を、着ていなさって。
都会の女って、肝心のときにはみんな改まったなりをするんだなって、妙に感心しちまった。
わしらが血をねだると、泣きじゃくって嫌がっておったが。
相棒のほうが、うまいこと言いくるめて、なだめてやると。
とうとう目をつぶって、身体の力を抜いちまった。
ふたりして、相談ずくで。
相棒は、首筋を。
わしはお嬢さんの脚からいただいた。
そういえば、奥さんを頂戴した時も、黒のストッキングを履いていなさった。
三人目の脚も、やっぱりおなじようにいただきたくっての。
ふたりがかりで、やっぱりちゅうちゅうと、犯すように噛んじまったのさ。
もうちょっと、齢がいっても、面白かったろうな。
わしの好みにしては、ちょっと細かった。
けど、やっぱり処女の血はこたえられねぇ。いいお味でしたよ。
その夜の相棒は。上のお嬢さんのときとは、別のやつで。
几帳面なやつだったから、すみからすみまで、一滴余さず、お嬢さんの血を吸い尽くしちまったんだ。
お嬢さんの柔らかい身体の、あちこちに噛みつきながらね。
わしはわしで・・・
奥さんと、上のお嬢さんと、下のお嬢さんと。
三人ながら、わしに黒のストッキングの脚を、馳走してくださったが。
だれもがおそろいで、同じやつを履いていらしたようだね。
あの薄黒いパンスト、まだまだひっちゃぶいてみたかったな・・・
―――教えてよ。生き返らすことができるんだろ?どうすればいいんだい?
わしを埋めないのか?奥さんやお嬢さんがたを辱めた、悪いやつなんだぜ?
―――いや・・・それよりも。母さんや姉さんやまどかが帰ってくるほうが大事だよ。
そうか。お坊ちゃんはなかなかお悧巧だね。
―――なにが悧巧なものか。こんなやつと取引きするなぞ・・・
―――父さん、もう世間体にこだわっている場合じゃないじゃないか。みんなが帰ってこれるって瀬戸際なんだから。
息子の声に、父親は口をへの字にして押し黙った。。
―――いいから。ボクにまかせて。ね?どうすれば三人を返してくれるの?
そうだね。三人が帰ってきたら・・・さしあたっては、あの晩のリプレイをお願いしようかな。
―――いいとも。喜んで約束するよ。
誓約書にサインすることまで求められて。
そんな恥知らずなものにサインなど・・・と渋る父親を。
紙切れ一枚のことじゃないか・・・と息子が説得して。
ふたりはとりどりに、ペンをとって、名前を書き入れた。
私 (世帯主氏名)は、吸血鬼である貴兄に若い女性の血液を補給するため
妻 陽子と長女 香苗 及び 次女まどか の三名を提供いたします。
一、貴兄は、致死量に達しない限りの血液を両三名から日常的に摂取し、
性的交渉を含めた親密なる交際を永続的に認めることを誓約いたします。
一、(世帯主氏名)及びその長男(氏名)は、この制約に基づく貴兄の言動に一切の異を唱えることなく、
村内におけるいかなる風評をも甘受し、悦びをもってこれを受け入れます。
一、貴兄と当家の女子家族との会見のさいは、正装をもって応接させます。
一、会見に際して生じる衣装への凌辱については、これを甘受し、つねに新調するよう努めます。
一、貴兄への血液提供に対しては連帯して協力し、不足した血液については他の親族を含めた対応を取ることを誓約いたします。
一、未婚女子二名及び将来発生するであろう長男の配偶者に対する初夜権を認めます。
―――ボクのほうが、すこし不利ですね。まだ見ぬ花嫁まで、凌辱されちゃうんだから。
さいごの条項に、ちょっと顔をしかめながら。恭司はそれでもさらさらと、ペンを走らせていた。
きゃあっ。
やめてえええっ。
三日後の夜。
灯りの戻った邸からは、女たちの悲鳴が庭先まで、漏れてくる。
連夜のことだった。
けれどもその悲鳴は、どこか愉しげで。
身もだえする気配や、脚ばたつかせる音さえも、悦びに響いていて。
くすぐったそうなはしゃぎ声と、はじける嬌声。
あなた、見て・・・見てぇ。血を吸われちゃう〜。
日頃のしとやかさとは打って変わって、はしたない声をあげるのは、陽子夫人だろうか。
やだー、お嫁入りまえなんだから。彼氏にばれちゃうっ。
どこか羞じらいをみせるのは、香苗嬢の声だろうか。
もっと・・・もっと吸ってっ。姉さんよりもひと口多くっ。
稚なげな声に露骨な愉悦をみせるのは、まどか嬢だろうか。
男ふたりは、あからさまな照明の下、身をかがめるようにして。
夫婦の褥にまろばされる妻の痴態を、目に灼きつけようとする父親を。
父さん、こっちこっち、もっと気を利かせようよ。
息子はあの晩のときのように、たしなめている。
まどかを襲ったの。父さんだったんだね?
息子の口から洩れる、信じられない言葉に。
父親は短かく、頷いていて。
香苗も、処女だったんだな?
姉の生き血を喫うことで初体験を果たした息子に、すこしだけ父親らしい問いを投げている。
さいしょの晩。
偽りの報せに戸惑う母親を、恭司はせきたてるようにして身支度させて。
さすがに納屋のなかまでは、一歩も入ることができなかった。
相手の男の罪滅ぼしのように。すこしだけ口にした、母親の血は。
ほんとうは空っぽになってしまっている身体のすみずみにまで、活き活きといきわたるバラ色の液体に、目ざめてしまって。
じぶんのほうから、せがんでいた。
―――母さんがこんなふうになっちゃったら、こんどは姉さんが黒のストッキングを履くんだね。
つぎの晩。
恭司はもっと、積極的だった。
蘇った姉娘は、まだくっきりと噛み痕の滲んだ二の腕を見せながら。
しばらく半そで、着れないじゃない。
ちょっぴりだけ姉らしい文句に、口をとがらせていた。
職場の同僚の妻から、生き血を吸い尽くされてしまっていた父親は。
かねて狙っていた妻の血ばかりか。年頃の娘の血まで、吸いそこなって。
妻と長女をモノにした、ほんらい仇敵のはずの男と、ぐるになって。
親類の家に泊まらせた息子の留守のうちに、妹娘を牙にかけて。
几帳面な仕事ぶりどおり、一滴あまさず吸い取ったのだった。
生き返った女たちは。
自分たちを牙にかけた夫や息子、父や兄弟にあてつけるように。
男家族の制約相手に、すすんで手の甲をゆだねていって。
公然と、情交さえも果たしていって。
父と息子の望むまま、我が身を提供する愉しみに、堕ちてゆく。
あとがき
なんだか、長たらしいだけになっちゃいましたね。(^^ゞ
ごめんなさい。m(__)m