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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

物狂いした男の話

2005年09月21日(Wed) 03:29:11

四十男で吸血鬼に咬まれ理性をなくした男があった。
元来男は律義者で、仕立て屋を営んでおり、もちろん女房子供もあったのだが、以来気が変になって見境なく人を襲い血を吸うようになった。
昼間は何事も変わりはないのであるが、日が暮れると目が据わって来、ふらりと往来にさまよい出ては道行く人に誰彼となく飛びついて、うなじに食いつくのである。
本物の吸血鬼になったわけではないから、血を吸うといってもたいした量ではない。
いままでに一番ひどかったのは仕立てた服を取りにいった旅館のお内儀が店さきで襲われたときのことで、それでも昼まで横になっておったら大分按配もよくなって、夕には宿の門前で打ち水などしている、というふうであった。
男が指折りの旧家の出であるせいか、村のものもあまり深く咎めだてせずにおったのが、あるとき村長の孫娘を襲ったことから、そのままには捨て置かれないことになってしまった。
やはりどうでも退治してしまおうか、という声があったとき、村長の家を訪れるものがあった。
「どうぞいっとき、わたしに免じてご猶予を・・・」
居合わせた誰もが、ふたつ返事で頷いた。

その夜も男は、ふらふらと往来をさまよっていた。
仕事をあげたあとどうにも気分が昂ぶって、いつものようについふらふらと家から抜け出してきたのであった。
こういうときに人を襲うのだと、おのれで薄々わかってはいながらも、むしょうに表に出たくなり、闇夜の徘徊をはじめたのであった。
夜も更けて人通りはすっかり絶えていたのだが、そういうときのほうがかえって昂ぶりが増して、だれかよい相手はいないかと目つきばかりぎょろぎょろとあたりをうかがっておった。
ふと見ると、むこうから30がらみの人妻らしい、それ相応の身なりをした女が、傘をさして歩んでくる。
折からのしのつく雨に、地面はしっとりと潤っていた。
女の運命は、知れたことだった。
男は女に気取られまいと、そろそろと足音をしのばせて傘の向こうから近寄ると、だしぬけに女に飛びかかった。
「・・・っ!!!」
魂切る悲鳴を飲み込んで立ちすくむ女を抱きこむようにして、うなじに深々と食いついてしまっている。
ずずっ。じゅるう・・・っ
しばらくのこと旨そうに血を啜っていた男だったが、やおら
「うおぉぉぉっ・・・!」
獣じみた声をあげたかと思うと、くらくらと眩暈を起こしたようになって頭をかかえる。
そうしてとうとう、もんどりうってその場にひっくり返ってしまった。
ヒクヒクとあえぐ口許にむき出された牙が半分溶けかかっていた。

人気のなかった夜更けの往来に、にわかにばたばたと数人の男が駆け寄った。
昼どきの寄り合いで男を退治しようかと言っていた、村の顔役連中である。
あるものは男を戸板に載せて家へと担ぎこみ、あるものは咬まれた女を気遣った。
女のほうは咬まれた痕をちょっと抑えていたものの、蚊ほどにも思わなかったという顔つきで、
「だいじょうぶですよ。これでもう人様にご迷惑はかけますまい」
女は男の妻であった。


あとがき
妻に噛みついた男の話です。
古い小説本を読んでいたら、こんな噺を思いつきました。
あぁあ。世に恐ろしきはヤマノカミ?
傍からみれば美味しそうな人妻なんですが、ね・・・
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