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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

新学期

2005年08月31日(Wed) 18:47:17



指折り数えると、まずまずの収穫だった。
夕べ襲った少女も身持ちの確かな娘のようで、
純潔な血潮のしなやかな喉越しがいまだに心地よかった。
さいきんの女の子は行儀が悪いので、処女の生き血にありつくチャンスはけっこう少ない。
ところもおなじ公園のこのベンチで抑えつけた少女。
振り乱された長い髪の匂いさえもが慕わしかった。
その香りの持ち主が、いまちょうど道の彼方から姿を現す。

白のブラウスにチャコールグレーのスカート。
黒い革靴に、発育のよいふくらはぎには白のハイソックス。
身だしなみのキッチリとしたふだん着姿なのに、吸血鬼は早くも昂奮に喉を引きつらせている。
キッチリとした服装を乱してゆく。
そんなけしからぬ嗜好を理解してくれた彼女は、わざとそんな装いに身を整えて、でかけてきてくれたのだ。

促されたベンチにすぐに腰をおろさずに、少女は彼の前に佇んだ。
「そんなに私の血が欲しいのですか?」
不機嫌そうな、咎める口調。
「エエ、さっきからずっとお待ちしていたんですよ。四時のお約束でしたからね」
几帳面な性格らしく、少女は腕時計に目をやって、眉をしかめた。
五分の遅れはためらいから生まれたのだが。
それでもすまなさそうに、
「ごめんなさい」
礼儀正しく、頭を下げる。
まじめな子なのだな。
フッとよぎる好感は、そのまま少女にも届いたらしい。
心を開きかけたまなざしが、いっしんに注がれる。
それでもやはり、血を吸われるのはしんそこイヤなのだろう。
若代は困ったように立ちすくんでいる。

「もう、これっきりにしてくださいね。私の血、飲み物じゃありませんから」
親に無理強いされて言わされているみたいなぎこちない声色には気づかないふりをして、彼はともかく少女をベンチに座らせる。
「もちろんですよ。あなたがお望みにならないかぎり、私はすぐに手を引きます」
「そうお願いしたいわ」
少女の硬い声をかいくぐるように、吸血鬼はハイソックスのふくらはぎに唇を吸いつけようとする。

二つ折りに折り返された部分にラインが三本、少女のひざ下を引き締めるように横切っている。
少女は手を伸ばして折り返しをめくって、ラインの部分でひざ小僧を覆うようにした。
きっちりとしたラインの入った折り返しは、赤黒くつけられたシミをうまくおおい隠してくれるだろうか。



久しぶりの教室は、堰を切るような喧騒に包まれていた。
女の子ばかりといっても、かえってそうであるがゆえのかしましい世界。
もっともふしだらな女の子は自分たちのグループを作って、男遊びに現を抜かした夏休みを語り興じている。
越水若代のグループは、どちらかというと優等生タイプの少女がそろっていた。
もとクラス委員の清野まゆみは新学期よりも格段に長く伸びた髪の毛をおさげにまとめて、胸元まで垂らしていた。
「あのね・・・絶対ナイショだよ?」
はにかみながら、そういうときのクセで彼女は口許を手でおおいながら話し始めた。
「私この夏休みにとうとう、ヤッっちゃった」
「ええー!?だれと?」
彼女が中学に入ってすぐ親類の梅宮と婚約していることはみんなが知っている。
しかし真面目で淑やかな少女が口にしたのは、べつの若者の名前だった。
「ええっ?だって梅宮さんがいるじゃないの」
「ナイショよ?ナイショよ?絶対黙っていてね・・・」
手を合わせてオネガイしているわりには、愉しそうじゃないの・・・
若代はあくまでも冷淡だった。

まじめなグループだった仲間うちでも、彼氏がみつからなかったのは若代を含めて三人だけだった。
しかし彼女は言ってしまった。
「最後の最後にね・・・」
「若代が?」「うそぉ」
日頃の鉄火な態度を知っているだけに、誰もが本気にしなかった。
ほかの二人などは、若代はそういうほうに走らないだろうとあてこんでいたらしく、ショックを受けたようだ。
こういう信頼は喜ぶべきことなのだろうか?
ちらっとそんなことを思いつつも彼女は
「本当だったら。ウソだと思うなら、紹介してあげようか?」
誰もがほとんど好奇心から、若代の彼氏に会いたがった。



はだけたブラウスの襟首をさらにかきのけるようにして、彼は胸の奥にまで手を差し入れてくる。
その手を、少女の手が上から押さえつける。
「だめ。」
ちょっと血の気をなくした口が開いて、機械的な冷たさで彼女は拒んだ。
いつもそうやって、にやけた申し入れを拒否してきたけれど。
彼女の掌の下でブラジャーの上から巧みに加えられるまさぐりまでも拒みとおすことは、今の若代にはできなくなってしまっている。
吸血鬼の唇はさっきからうなじにべっとりと貼りついて、キュウキュウ音を立てて若代の血を吸いつづけていた。
ハイソックスの片方は半ばずり落ちて、ふしだらにたるんで波を打っている。
彼女のささやかな工夫はむなしく、撥ねた血潮はくるぶしや足の甲にまで散らされていた。
そんなことも、いまの彼女には苦にならない。
もう片方のハイソックスはまだ元通りひざ下までを覆っていたが、ふくらはぎの一番肉づきのよいあたりに赤黒いシミがべっとりと滲ませてしまっている。
イタズラしたいとせがまれて、ハイソックス越しに牙を刺し入れることを許してしまっているのだった。

「もう・・・いいかしら?」
恋人に声をかけられて、吸血鬼は初めて我に返ったように唇を離した。
そして、ためすように彼女の顔色を窺う。
一重まぶたで切れ長な目が、彼を振り返っていた。
頬はさすがに青白く、彼の渇きのために彼女が喪った血の量がかなりになることが容易に分かる。
「やっぱり、もう少しだったら、いいわよ」
少女はじぶんから、うなじにかかる髪の毛を振り払った。
彼がふたたび傷口を吸い始めると、若代は脚ともでくしゃくしゃになったハイソックスに気づいたように苦笑いをする。
「あんまりいっぺんに何足も破いちゃったら、ママにばれるわ。今度逢うときは黒のストッキングでもいいかしら?」
もう逢わない。
そういった気位の高い少女は何処に行ったのだろう?
「衣替えまで、逢わないつもり?」
吸血鬼はたたみかける。
少女はゆっくりとかぶりを振った。
「お友だちがね、あなたに逢いたがっているの。私に彼ができたっていっても信じてくれないのよ」
少女は初めて、白い歯をのぞかせてニッと笑った。
「信じさせてあげてくれる?」

~2005年8月31日掲載~
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