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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

供血レディ

2009年06月20日(Sat) 10:56:06

へぇーっ!面白そうっ。
部屋の中、知らないうちに取り落していたチラシを、彼女は目ざとくとりあげて。
ねぇねぇ。わたしもしてみたいな。このアルバイト。
素っ気ない無地のくすんだ緑色のチラシに、単刀直入なうたい文句。

「供血レディ 一日一万円 (処女に限る/栄養ドリンク支給)」
俺の出身地は、いかがわしい土地だった。
母も姉も妹も、ひっそりと侵入してくる真夜中の客人に血を吸われる歓びを教え込まれて。
親父はただだまって、苦笑いしているだけ。
明け渡した寝室から抜け出して、よくリビングで濃いアルコール入りのグラスを独り傾けていた。
そんな暮らしに、愛想が尽きて。逃げるように都会にやって来て。
けれども殺風景な彩りは、どこの街にも変わらずのさばるものらしい。
いかにも不景気な古びたたたずまいのアパートのなか。
なにをどう切り詰めてもサイフの中身の合わない日常があるばかりだった。

お金のためじゃないのよ。面白そうだから。
それに、ケンの育った村のこと、もっとよく知りたいから。
あたしまだ処女だしぃ。吸血鬼のおじさん、気に入ってくれるかも♪
菜々美の言い草に、ウソはないのを感じていた。
―――無理に犯されちゃったりしないって、ほんとうだよね?
ひっそりとした気遣わしさが、やけに真に迫っていたから。

なにかの事情を抱えて都会にやってくる同郷の吸血鬼のため。
秘書のように、一日付き添って。
客人が渇きの衝動を覚えたとき、すぐに対応するための女性。
夜も隣室に宿泊して、時おり訪れる吸血衝動のまま、意に従わなければならない。
そんな役目を引き受ける女性。
同郷のもの以外には、ほとんど引き受け手はなかったはず。

応接することになった客人は、すこしひからびたかんじのする、初老の男だった。
親父の遠縁にあたるという彼は、どことなく見覚えがなくはなかったけれど。
郷里の記憶はすべて置き捨ててきたつもりの俺にとっては、彼が顔見知りでも赤の他人でも。
あまり大きな違いはない気がしていた。
それでも―――
彼女と寄り添うようにして連れだって歩く後ろ姿から、それとなく視線を引いたのは。
やっぱりまっとうな嫉妬心が、ゆらりと頭をもたげたせい。

だいじょぶだよ。
初めてでしょう?って。気遣ってくれちゃって。
公園の隅っこで一回、ビルの陰で一回。それしか噛まれなかったんだよ。
けれども彼女のうなじにありありと残された痕は、ほのかな紅いしずくをまだ滲ませていて。
むらむらとした昂りに似た嫉妬を覚えるには、じゅうぶんすぎるほどだった。

だいじょうぶだよ。
だいじょうぶだよ。
夜寝ているときは、こなかったし。
廊下まで出て行ったら、初めて部屋に呼び込まれて。
でも・・・ベッドのうえまでは、行かなかったからね。
だいじょうぶだよ。
だいじょうぶだよ。
信じられない。ホテルのロビーで、吸うんだよ。
ここはカメラなんか、ない場所だからって。
あたしのほうが、恥ずかしくなっちゃったから。
ご休憩用のお部屋をとっちゃった。
でも大丈夫。ベッドはとうとう、使わずじまいだったから。
じゅうたんの上に、あお向けになって。
ブラウスについたシミは、ちゃんとジャケットで隠してきたから。
だいじょうぶだよ。
だいじょうぶだよ。
だいじょうぶだよ・・・

部屋で話をきいてるうちに。
俺はつい、むらむらとなって。
気がついたときには、彼女を畳のうえに押し倒していた。
処女じゃ、なくなっちゃったね・・・
乾いた声で、ちょっぴり残念そうにつぶやくと。
裂けたストッキングを、たいぎそうに脱ぎ捨てていった。

ねぇねぇ。また、彼が来るんだけど。
ご指名・・・なんだけど。
行っても・・・いいかな?
イタズラっぽい上目遣いは、もうだいじょうぶとは言っていない。
けれどもきっと・・・
俺は彼女を、行かしてしまうのだろう。
初老の男が、じつは親父の生まれ変わった姿だと知ってしまっても。
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