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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

陰の児

2010年04月10日(Sat) 18:35:43

嫁(ゆ)かず後家といわれた叔母は。
いつもひっそりと、離れで暮らしていた。
本家である母屋の家の捨て扶持を、あてがわれて。
訪れる親類知人もないらしく、外界とは隔絶されていて。
ほとんどもの音さえ立てないような、つつましやかな暮らしぶりだった。

あの女はね。妾の子供なんだ。
お父様のお母様から、お祖父さまを盗み取るようにして。
泥棒猫みたいにして、契ったそうだ。
お祖母さががあの女をとうとう縁づけなかったのは。
あの女の母親に対する、復讐なんだ。
いつも天女のように優しいと言われた母は。
腹違いの妹でもある叔母の話になると、それこそ人が変わったように。
淑女のたしなみを、かなぐり捨てて。
そんなふうに口汚く、罵るのだった。

女中あがりなんだ。妾の子なんだから。
あの女にしてみれば、血のつながった親戚というよりは。
うちは主筋に当たるんだよ。
どんなふうに扱ったって、構やしないんだからね。
だからお前が、色気づいて。
女が欲しくなったなら。母さんにお言い。
きっちり言い含めてやるんだから。
ぞんぶんに、慰みものにするがいい。

いつもきちんと整えたはずの髪の毛さえも、振り乱さんばかりにして。
母は狂女の顔になっていた。
いつでも自由にできる女がいる。
わがまま放題に育ったわたしは。
ただそれだけに、満足していた。

膂力に恵まれた父には似ずに、叔母は抜けるような色白で。
鮮やかな黒髪を、いつも頭の後ろに結わえていて。
華奢な身体を控えめな色の和服に包み、ひっそりとお茶を点てていた。
ある日、昼日中から。
さかりがついたようになったわたしは。
だれもいない家のなか、しばらくはあてどもなしに徘徊をくり返していたけれど。
突きあげる衝動に背中を押されるようにして。
叔母のいる離れを、踏み荒らすようにして。
騎虎の勢いで、迫っていった。

あれ・・・
叔母はとっさに、声をあげて。
その声のひそやかさ、艶っぽさに、いっそうそそられていって。
わたしは叔母の襟足を押し拡げ、両肩から背中まで、むき出しにして。
ほどき方の識らない帯に、しばらくは手間取っていたけれど。
いつか帯はするすると解けていって。
畳にだらりと、崩れていった。
長襦袢を脱がせるゆとりもないままに。
満足な抗いもできない叔母の、華奢で柔らかな身体に、
虐げるように、四肢を合わせていって。
そそり勃った一物を、手さぐりするように差し入れて。
あとは本能の赴くまま。
落ち着いたたたずまいの和室を、精液まみれに変えていった。

その晩からは。
まるで、我が物顔をするように。
わたしは離れに、通い詰めた。
父は母から事情をきいて、聞き知っていたに違いないのに。
苦笑の裡に立ったひと言
―――若気の至りというやつだな。
そんなありふれた言葉で、片づけてしまったらしかった。
夕暮れすぐには灯りの絶えていたはずの叔母の離れは、
夜更けの訪(おとな)いを待つように。
二階に見あげるわたしの勉強部屋の灯りが消えるまでは、
こうこうと点っているようになっていた。

出て行けと言われたって、あてなどないのでしょう?
あなたのことは、お情けで置いてあげているんですからね。
珍しく離れを訪れた母は、やんわりとそんな脅し文句を吐いていったのだと。
前後して年ごろになった女中のひとりが、
そんな枕語りを囁いていた。
二年後叔母は、わたしの子供を宿し、ひっそりと出産をして。
男の子とも女の子とも知らされないままに。
その子はどこかへと、引き取られていった。

十数年後。
婚期が遅れ三十路を迎えたわたしはようやく、婚礼を挙げた。
相手は旧家のひとり娘だった。
佳代子という名のその娘は、楚々とした淑やかな女で。
ふとだれかを思い出すような消え入りそうな風情の女だった。
けれどもそのころのわたしは、母がいなくなったのを、よいことに。
離れにひっそり棲みつづける叔母との痴情に明け暮れていて。
佳代子にとってよい夫とは、お世辞にもいえない亭主だった。
ある晩のこと。
村の寄合で帰りの遅くなったわたしは、
夜更けにこうこうと灯りの点る離れを目にしていた。
昼日中から痴情に耽ることのおおいこのごろは。
精力の尽きたわたしにとって、離れを不夜城にすることがなくなっていた。
ふと気をそそられて、訪(おと)ないも入れずにあがりこんだ空間で。
見てはならないものを、見てしまった。

こうこうと点る灯は、蝋燭の灯。
その灯のもとに、白足袋の足を揃えて転がされた若い女は。
きらびやかな和装の上から荒縄を、ぐるぐる巻きに縛りつけられていて。
女の足許に立ちはだかった着物姿は。
髪を振り乱した、狂女のよう。
それが若い日にわたしが蹂躙しつづけた薄倖の女と気づくには、
すこしの時間が要りようだった。

色気づいたら、妾(わたし)にお言い。
母さんがいい女を、世話してやるから。
母屋に住まう、新妻を。
いまになったら、なにをしたって、妾の思うままなのだから。
さぁ、餌食にするんだ。あのときの妾のように。
思いっきり、踏みにじっておやり。
声をかけられたもうひとつの黒い影は。
わたしと瓜二つの目鼻をもった、少年だった。
少年は怜悧な頬を輝かせて、わたしの正妻に迫っていった。
細い腕には見かけとは裏腹の力が込められて。
後ろに回って、襟足に。熱い息を、吹きかけていって。
その襟足のすき間を、覗き込むようにして。
蝋燭の灯を、ひたひたと、したたらせていった。
ひい・・・っ。
絢爛たる絵巻のような着物姿を、よじらせて。
身をしならせる若妻を。
少年はじいっと観察しながら。
そこ、かしこへと。蝋燭をかざしていって。
過不足なく、熱く滾った液体を、柔肌にしみ込むほどに、したたらせてゆく。

う、ふ、ふ、ふ、ふ。
あの女はわたしのことを、嫁にも行かせず、隠し児のように封印して。
妾(わたし)の一生を塗り込めたつもりなのでしょうとも。
けれども妾は、あの女の息子を寝取ってやったのだ。
寝取った息子は、骨抜きになって。
いまは妾なしでは、いられぬ身体。
若い嫁ごなど、なん人いようとも。
いまの妾には、かなおうはずもない。
虐げられたわたしの児に。添わせてやって。
子を孕ませてくれようぞ。
表向きは、後継ぎ息子と、正妻の子でも。
ほんとうは。
叔母甥がなした、不義の子の血を持つ児。
良いお家になるじゃろう・・・

か弱い面ざしに浮き上がる、般若のような面ざしを。
わたしは息を詰め、見守りながら。
目のまえの絵巻を、拒むことも忘れ見守りつづける。
ひっそりと静まり返った母屋。
こうこうと灯の点る、離れ。
裁ち割られたような着物の裾から覗く、白足袋を履いたままの白い脛。
太ももにしたたる、熱い毒液。
すべては、夢か。幻か・・・
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