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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻を迎えに

2006年04月21日(Fri) 05:23:06

ざく、ざく、ざく、ざく・・・
霜を踏みしめて。白い息を凍らせて。
青白く明けかけた夜空にせかされるように。
訪れたのは村はずれにある、大きな邸。
夕闇が濃くなるころ。
足音を忍ばせて書斎にやって来て
許しを乞うように、目を伏せて
出かけてまいります。
そう告げる妻に。
気をつけて言ってくるのだよ。
言葉少なな応対に、むしろ感謝を滲ませて。
夕暮れを塗りこめた闇に隠れるようにして、
人目をしのんで、出かけていった妻。

携えていた妻の着替えは、
小脇に抱えた腕のなか、ふわりとした軽さと、しっとりと落ち着いたしなやかさを伝えてくる。
妻が出かけるまえに、じぶんで用意していたものだった。
明け方を迎えるころには、衣裳をしどけなく乱されしまっているわが身のために。
夜が明ける前に。
お迎えにいらしてくださいませんか?
人目にたつことだけは、いたしたくありませんから。
控えめに、いいにくそうに。
けれども確かな声色で、そう告げていった。

出迎えた彼はいつになくにこやかで。
立ち居振る舞いさえきびきびとしていた。
握りしめられた掌を伝わってくる、いつにないぬくもりは、
妻の体内から抜き去ったものから獲たものだった。
私から受け取った妻の衣裳と引き換えに。
手にしたものは、それまでの装い。
ところどころ引き裂かれたワンピースと、ストッキング。
しつように唇を当てられた証拠に、
裂け目の広がった黒のストッキングは、蜘蛛の巣のようにちりちりになっている。
あんなことも。
こんなことも。
そんな妄想に彩られてしまった目のまえに、
引きたてられるようにして連れてこられた妻。
改めた装いにすべてを押し隠して。
血の気の失せた白い顔は、夫と目を合わせまいとして、
萎えた百合の花びらのように伏せられている。
どれほどのあしらいを受けたのか。
口にするには残酷すぎる問いであろう。
手渡されたワンピースの奥に描かれた熱情の残滓には、
目がいかないそぶりをつづけている。

あなたがたのご厚意に感謝する。
ご夫婦がきょうも幸いに包まれるように。
邪淫の神父のたれる祝福に、妻も私も神妙にかしこまってしまっている。
さあ、失礼しましょうか。
お互い目交ぜをかわし合って。
しらじらとしてきた東の空をはばかるように辞去を告げる。
人目を忍ぶ道行きを、寒々と重たい冷気が包んでゆく。

毎朝の散歩に出る隣家の老夫婦。
間に合わなかった。ちらりとかすめたものを察するように。
軽く会釈したふたつの白髪頭は
だいじょうぶですよ。
そう言いたげに、穏やかにほほ笑んだ。
お帰りなさい。
存じていますよ。大変でしたね。
早く、お宅にお戻りなさい。
そんな目線に送られて。
素早く閉ざした扉のなか。
抱きしめた妻の唇は訴えるように、切なげな呼気を洩らしつづけている。

村に秘められた、隠微のしきたり。
名指された家のあるじは、若い女をひとり、夜伽にはべらすことを求められる。
そのたびごとに、生娘のような若作りに身なりを変えて。
妻はいそいそと奉仕に向かう。
年老いた隣家の夫も、かつてはそうして妻を送り出していたのだろう。
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