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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

夕風吹き過ぎる、草むらのなか

2010年06月08日(Tue) 06:49:25

こげ茶のカーディガンに、薄いねずみ色のひざ丈スカート。
茶色のパンプスに、ストッキングは肌色だった。
ごめんなさい。きょうは春子、身体の調子がよくないの。わたしでガマンしてね。
大きな瞳に、笑みの似合うハッキリとした唇。
春子の魅力は、母譲りなのだと、いまさらながらにそうおもった。
齢を重ねた落ち着いた輪郭に、娘とうり二つの笑みが重なった。

脚から吸うんでしょ?
ベンチに腰かけた春子の母は、茶色いパンプスの脚をすうっと差し伸ばす。
娘に教わったポーズをなぞるようなしぐさだった。
もっとお洒落なストッキング、履いてくればよかったね。
もったいないほどの気遣いに、俺は無言でかぶりを振るばかり。
お父さんには話してきたから、でもお手柔らかにね。
柔らかな声色が、慈光のように、俯けた頭上に降ってきた。

こくり・・・こくり・・・
渇いた喉はあさましいほど性急に、お母さんの血を飲み込んでゆく。
心の奥に、澱のように淀んだやるせなさが。
春先の根雪のように融けてゆく―――

ごめんねぇ。
吹き過ぎる夕風の向こう側。
春子が長い髪の毛を飛ばされまいと抑えながら、こちらに歩みを進めてくる。
卵形の可愛ゆらしい頬に、いつもの生気を輝かせて。
白のブラウスの上、薄緑色のカーディガンを羽織って、
淡いオレンジ色のロングスカートの下は、見なれたグレーのパンプス。
肌色のストッキングは、母親のそれよりも濃い色合いで、存在感を示していた。

母じゃあもの足りなかったでしょう?
そんなことないけど・・・春子がいちばんだよ。
アラ、めずらしくおだてるじゃない。
くすっと笑んだ口許から、白い歯が覗く。
あの唇―――母娘は生き写しだった。

いいよ。首筋噛んでも。
大きな瞳が、決意を秘めて閉ざされる。
柔らかな肌。この一角を侵すことが、ほんとうに許されるのだろうか―――
理性の問いかけとは別に、俺の牙はすべり込むように春子の皮膚を食い破り、
薄緑のカーディガンの肩先に、持ち主の血をしたたらせている。
飢えてる・・・ねぇ。
からかうような声色が、けだるげに途切れそうになっている。

草むらに押し倒されあお向けになった女の瞳が、
せつじつに俺を、見あげてくる。
ちょっとのあいだ口ごもって。
俺は女の声を待っていた。
女は思い切ったように、口を開く。
子供、作ろ。

子供、作ろ。
あたしに似た女の子、生んであげるから。
わたしがよく言い聞かせて、親孝行な娘に育ててあげる。
母が若くなくなっても、その子がいればだいじょうぶでしょう?
娘にも…将来があるよな?
暗くなりかけた俺に。
そう言う貴方だから、ついてきた―――
女はぽつりと、呟いている。
またー、ハデに破いちゃってーっ。
ストッキングの擦り剥け具合にはじめて気づいた春子は、声色をがらりと変えていた。

いいよ。怖くないから―――
抱きすくめられた腕のなか。
春子は初めて血を吸われるときと同じくらい、頬を翳らせていた。
女を犯すのは、はじめてではない。
けれども春子が男を迎え入れるのは、初めてのはず。
彼女の緊張が、俺の動きにまで伝わってきて。
夕風吹き過ぎる、草むらのなか。
まるで初めてどうしのように、ぎこちなく身体を重ねていった。


あとがき
カーディガン姿って、いいですね。
ふだん着みたいに地味な装いでも、はっと女を感じさせる風情が漂います。
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和解。
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婚礼の点景。

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