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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

疑うもの 信じるもの

2006年01月14日(Sat) 07:02:22

人妻に恋した吸血鬼がいた。
吸血鬼になってこのかた、恋など忘れていた。
この世にそういう感情があることじたい、忘れかけていた。
単に食欲を満たすためではなく。
初めてせつじつに想った。
恋するあの女の血を吸いたい、と。
男が恋を忘れたのは、まだ人であったころ。
妻が己に背いてほかの男に走ったためだった。

誘惑に成功して。夫のいない夜に招かれて。
まるでかつて己がされたのとおなじ罪を、
ほかの男に対して犯しているような気分になった。
遠目にしかうかがうことのできなかったその女は、夜目にもとても美しかった。
月の明かりに照らされた肌は白磁のように輝き、妖しい魅惑を放っている。
男は惹き入れられるようにして、女のうなじに牙を埋めていた。
肌をすり合わせながら。その温もりにわが身を浸しながら。
男は恋する女をものにする愉悦を、しんから味わっていた。

夫ならぬ身をわが身に受け入れようとするとき。
女は男をかるく拒んで。
私を永く愛してくれるつもりなら、夫と会ってほしい。
そう望んだ。
唐突な申し入れをいぶかりながら、
お前がそれを望むなら・・・
そういって。
吸血鬼はわが胸にひしと女を掻き抱いた。

女の夫は、吸血鬼を歓待した。
血が足りないのですね。お気の毒に。
意外なことを言われて、吸血鬼は答えに迷った。
いいのよ。
人妻は穏やかに笑んでいた。
妻の生命を奪らないと、約束してくれますか?
真剣な夫の問いに、彼もまた真剣に頷き返していた。

どういうことなのだ?
恋する女を望みどおりにかき抱きながら。
訊かずにはいられなかった。
だいじょうぶ。安心して。
情夫の腕のなか、人妻はくすり、と笑んでいた。
あのひとは、わたしを疑わないのだから。
そういって胸に顔をうずめてくる女を、
すがるように抱擁せずにはいられなかった。
ひと夜、夫が譲り渡してくれた褥のなか。
彼は満ち足りたまぐわいを明け方まで交わしつづけた。

朝日を浴びると死ぬわけではないのだね。ちょっと心配だったのですよ。
寝室から出てきた吸血鬼に、夫はそういった。
女は毎朝そうするように、シャワーを浴びている。
妻を奪われて悔しくはないのか?
そう問いかける吸血鬼に、夫はこたえた。
だってボク、彼女のことを信じているもの。
さりげない口調の裏に、信じきったものの自信があふれていた。
どちらが負けたのか?
吸血鬼はふと、疑った。
勝ち負けなんかじゃありませんよ。
夫は言った。
彼の心のなかを見透かすようだった。
変わっている・・・と言われそうだけれども。
夫ははじめて、はにかむように俯いた。
自分の胸に抱き寄せても。ほかの男に抱き寄せられても。
ボクは彼女のことを愛することができるのですよ。

少年のようにはにかみながら。
少年のように凛としている彼。
きっと彼のなかには、少年のように研ぎ澄まされた、純粋な愛情がみちあふれているのだろう。
いつの間にかその妻が、ふたりの傍らに戻ってきた。
気がつかなかった?
夫は悪戯っぽい目をして吸血鬼を見た。
ボクはきみの奥さんを取った、悪い男なんですよ?
振り返った女はたしかにかつての妻だった。
別人のようにとても美しく、魅惑にあふれた女になっていた。


あとがき
その後ふたりの男は仲直りをし、互いに相手を思いやり、夜の居場所を譲り合ったという。
吸血鬼になるまえに男が妻を疑ったとき。
妻はまだ無実の身だったのかもしれない。
疑いが却って妻の愛を冷えさせて、べつの男に走らせたのだ。
きっとそうした暗い心映えが、彼を吸血鬼に仕立てたのだろう。
新しい夫は、信じる男だった。
たとえ妻がひと時ほかの男と愉しみを分かち合うことがあっても、
彼は妻を信じつづけた。
信じつづける彼は、妻を真に失うことはないのであろう。
・・・ってなんか、不倫賛歌みたいになってしまいましたね・・・^^;
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