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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

ふだんどおりに話すひと。 ~そろばんもようのハイソックス~

2010年07月14日(Wed) 07:17:03

待った?
こちらに歩み寄って来る順子は、緑のセーターに紺のスカート。
革靴の脚には、ひし形もようの柄のハイソックスを履いている。
いぃや。行こうか。。。
啓太は、詰襟の学生服。
着かえてくると言っていちど帰宅した順子と待ち合わせていたのだった。
女子の制服は、汚されちゃうからね・・・
首をすくめてフフッ・・・と笑う順子に、啓太は苦笑いをするばかり。

約束の場所には、”彼”はさきに来て待っていた。
喉渇いているのかなぁ。
順子はこっそりと、啓太に囁いた。
ウン・・・
あいまいに頷いた啓太だったが、すでに心臓がどっくんどっくんと、音を鳴り響かせている。
どういうわけか。
彼女が血を吸われるところを目にすると。
心臓の鼓動がひどく昂ってしまうのだった。

やぁ、お帰り。
”彼”は表向き、おだやかな初老の紳士だった。
ふたりは礼儀正しく会釈を返すと、すすめられるままにベンチに腰かけた。
ほほぅ。おしゃれな靴下を履いているんだね?
ひし形もようのハイソックスを、順子は気に入っていて、なん足も持っているようだった。
「そろばんもよう」と啓太が時折ふざけて表現するときには。
おまえ、数学得意だもんな。
つまらない冗談に、順子はいつも啓太を優しくにらみ返していた。

きょうはなん時に、おうちに帰してくれるのかな?
順子は臆面もなく、飢えた吸血鬼のまえハイソックスの脚をぶらぶらさせる。
そろばんもようが真っ赤に塗りつぶされるまで・・・かな?
”彼”はふう・・・っと、吐息を洩らす。
化け猫みたいな、なま温かな息が。
ハイソックスの生地ごし、順子のふくらはぎにふりかかった。

あの・・・お手柔らかにね、くれぐれも。
俺たち自分のほうからこうやって、小父さんに血をあげに来ているんだからさ・・・
同情を求めるように、啓太が言った。
分かっているさ。
老紳士はどこまでも、おだやかである。
じゃあまず、彼女のほうから・・・
さきに足首をつかんでふくらはぎを引き寄せたのは、やはり彼女のほうからだった。

それでね。今日かえされたテストのことなんだけど。
委員会の××がさぁ。○○とけんかしてたんだけど。
あー、あそこのケーキ屋おいしいよねぇ。
順子はどこまでも、くったくがない。
傍から聞いていたら、ただのクラスメイトの会話にしか聞こえなかっただろう。
足許に噛みついた吸血鬼が、ひし形もようのハイソックスを血に染めながら、食らいついているというのに。
隣に座っている啓太でさえ、時折気遣わしそうに彼女の足許を見やるのに。
順子は血を吸われているあいだ、とうとういちども足許に目線を落とさなかった。

さぁ、つぎはあんたの番だ。
”彼”は啓太のスラックスを引き上げる。
約束どおり履いてきた白のハイソックスに、目を細めて。
満足そうに、なぞるようにふくらはぎを撫であげると。
ぞくっ。
啓太は縮みあがって、足許をこわばらせる。
だいじょうぶ、だいじょうぶ。
隣から順子がなだめるように、彼氏の肩を抑えていた。

ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ・・・
血を吸い上げる音さえもが、そそのかしているようだった。
ひと口吸われるたびに、啓太はガクガクと身体を震わせて。
昂奮していることをめいっぱい、吸血鬼と彼女とに視られてしまっている。
ばっかねぇ。
彼女はぷっと噴き出して、啓太の背中を叩いていた。

するり・・・するり・・・
血に濡れた二足のハイソックスを、
さいしょに啓太、それから順子の順番に、足許から抜き取ると。
”彼”は大事そうに、ポケットのなかにしまい込んだ。
家に帰ってから、また悪戯するんでしょ?
順子の冷やかしにさえ、素直に頷いている。
どんなふうに、もてあそばれるんだ?
まるで順子自身が彼の知らない場所でいたぶりをうけるように。
嫉妬に満ちた啓太の目は、ポケットにしまわれていく「そろばんもよう」のハイソックスを見つめている。

帰ろ。
促したのは、順子のほうだった。
ふたりは黙りがちに、吸血鬼の立ち去ったのとは反対側の出口を目ざした。
彼は裸足だったが、彼女はハイソックスの履き替えを用意している。
ねずみ色に赤のラインが二本、入っている。
こんどはこれ、履いてってあげようかな~。
順子は鼻歌交じり。
けれども啓太はいまだ去らぬ昂奮と衝動に、うまい受け応えさえできなかった。

感度、いいんだね。。。
別れぎわ、順子はそっと囁いた。
ウン、どうやらそうらしい。
羞ずかしげに俯く啓太の背中を、順子はどーん!と、男みたいにどやしつけた。
そういうやつって、やらしいんだぞ~!
啓太は照れ笑いをするしかない。

いつか。
あのひとはわたしのことを、求めるとおもう。
たぶん。
あなたよりもさきに、あのひとのことを、わたし経験することになるとおもう。
しょうがないよね。
しきたりなんだし。
ママも、あなたのお母さんも。
そうして女になっていったんだもんね。
約束して。
そのときになったら、エスコートするのはあなたなんだよ。
初めての経験、さいしょからさいごまで、見届けるのって。
男のひとにしたら、しんどいかな?きついかな?
でも・・・あなたにしか、お願いできないから。
パパじゃあ・・・いくらなんでも恥ずかしいからね。
もしもOKだったら。
返事は要らない。
わたしにキスをして。

目をつぶった順子は、上向けた唇に彼の唇がためらいがちに触れてくるのを感じた。
思いのほか熱い唇は、やがてたまりかねたようにおおいかぶさってきて。
お互いせめぎ合うように、吸い合って。
はじめてのくちづけを、お互い熱烈に交わし合ってゆく。

啓太と順子。
いい夫婦になるだろうな。きっと。
失血で足許をふらつかせるふたりの家路を見守る男は。
しみじみとした小声で、呟いている。
ポケットから大事そうに、そっと取り出した二足の靴下は。
ふたりの足許から失敬したときのまま、
若い体温をまだ、宿している。


あとがき
「ひし形もよう」だの「そろばんもよう」だのって、描いていますが。
正しくは、「アーガイル柄」というのだそうです。
前の記事
アーガイル柄のハイソックス。
次の記事
家族の証言。

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