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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

負けないわ。

2010年07月21日(Wed) 05:55:03

ふつうよりちょっとだけ幸せだった女の子が、
ふつうよりもよほど不幸せな境遇になったとき。
運命はふたつに、別れるらしい。
けれどもその子は、強い子だった。

裕福な家の一人娘に生まれ、育って。
しつけの厳しい親は彼女を、大人しいけれどもシンの強い子に育てていた。
あたかもこれから来るであろう困難に用意をさせたかのように、十六の齢まで育て上げて。
かれらはひっそりと、彼女の前から姿を消した。

どこにいても目だたないその少女は、
もとより友だちも、ほとんどいなくて。
親たちにすり寄ってくる追従者も、
遺産目当てに現れた親類と称する男女も、
世知辛い借金取りさえも訪れなくなった、がらんどうの大きな邸で。
たった独りの少女は、ひとりの男を迎えていた。
ほんの行きずりの、一夜の宿に困った男。
しいていうのなら、すこしだけ変わった性癖の持ち主で。
人の生き血を吸って暮らしている、吸血鬼と呼ばれる男だった。

初めて噛まれて、
息を詰めたまま、応じていって。
引き離されて初めて見たその男の顔は、絶望的な蒼さから救われかけていた。
少女は自分の血を散らした頬にも、その血を滴らせた口許にも臆せずに。
気が済んだ?
気遣われていると察した男は、ひどくうろたえていた。

いっしょに、住も。
そのことがなにを意味しているのか、識らない齢ごろではなかったはずなのに。
少女はむしろ、愉快げに。
見ず知らずだった男に、一室をあてがった。
だってあなた、表に出ていったら、かならずだれかの血を吸うのでしょう?
迷惑がられるわ、きっと。
私があなたを、閉じ込めてあげる―――

わしを囲いものにするとは、たいした娘だな。
おまえを支配して奴隷に堕とすくらい、わけのないことなのだぞ。
けれども、一宿一飯の恩義というものを、さすがのわしも心得ておる。
娘、お前を奴隷の境涯には堕とすまい。
対等なつきあいとやらを、してやろう。
吸い取る血も、そんなに多くは必要ない。手加減してやるからな。
なんなら小遣いを、はずんでやってもよいのだぞ。

お小遣いなんて、いらないわ。
わたし、ここでじゅうぶんやっていけますもの。
たとえあなたがわたしに、もっとむたいなことをはたらいても。
わたし淫売娘では、ないですから。
そうね、でもお食事代と、汚したお洋服だけは弁償してもらおうかしら?

見かけによらず存外、つよい娘なのだな。気に入った。
では遠慮なく、血をご馳走になるぞ。
なに、わしだってむやみやたらと、女を手ごめにするわけではない。
淑女には淑女の、生娘には生娘の、あしらいようがあるからな。
では遠慮なく、お前の血を吸って、こぎれいなおべべもたんと汚してつかわそう。

どうぞ、ご遠慮なく。でも試験の前の日だけは、許してね。
幸い着替えをもっているから、明日の試験も出られるわ。
血の撥ねたセーラー服のあちこちを、点検しながら。
噛まれたふくらはぎにべっとりと血のついた、真っ白だったハイソックスを脱ぎ捨てて。
少女は顔色もかえずに、もの欲しげにしている吸血鬼の鼻先に、
脱いだハイソックスを見せびらかすようにして、手渡していった。
小柄な体で、わしをどこまで養えるかの?
からかうようにうそぶいた男に、少女は言った。
負けないわ。

風変わりな日常が、さりげなく過ぎていった。
少女はいままでどおり、学校に通って。
独りきりの日常を、淡々と暮らしていって。
部屋が暗くなるころ、自室からひっそりと抜け出してきた黒い影に。
こざっぱりとした服を着て、相手をしてやって。
毎回のように濡らされるカーディガンやスカート、噛み破られたハイソックスを、
苦笑しながら、脱ぎ捨てて。
もの欲しげにこちらを窺う吸血鬼に、惜しげもなく与えていった。
女の子の服が、好きなのね?
私のでよかったら、好きにして。
気が向いたら、制服を着て。
黒のストッキングを履いてあげるから。
相手の服を血で汚し、怯えさせて愉しむ習慣を、
こんどは男が恥じ入る番だった。
ほんとに汚されたくない服のときは、言うのだぞ。
照れ隠しにうそぶく男に、少女は言った。
だいじょうぶ。

少女を好きだという少年が、あらわれた。
邸に訪ねてきたその少年に、少女はいった。
悪いけれど、あきらめて。
あたしもう、お婿さんどうぜんのひとがいるの。
少年は愕然としたけれど、事情を聴きだすと一歩も退いてはならないとおもったらしい。
暗くなるまで、家にいさせて。
ボクその男と、話をつけるから。
今すぐ出ていってもらうか、仲良くできるのか、ふたりで相談したいから。
少女は言った。
三人よ。

ごめんなさい。フクザツなことはわたし、ダメなのよ。
少女の目線は、まっすぐだった。
以前よりちょっとだけ蒼くなった頬に、透きとおった笑みを浮かべながら。
少女は初めてだった同年代の男の子の求愛を斥けた。
わたしは彼と、別れない。
ボクも彼と、仲良くなれそうなんだ。
口ごもりながらそう告げる少年に。
あたし、あなたのことヘンだとは思わない。
でも―――フクザツなこと、ダメなんだ私。
少年は言った。
けれどもボクも、あきらめないよ。

数年の歳月が過ぎた。
男は邸に棲みついていて。
少年も時折、通ってきて。
少女はそのどちらをも、静かにほほ笑んで迎え入れる。
あまりにも蒼い顔になった少女のため。
身代わりにきみの服を着て、彼の相手をしたい。
含羞を交えて少年が申し出たときも。
ゆっくりとかぶりを、振っていた。
いつもより少しだけ、優しい目になって。

出ていったほうが、いいのかね・・・?
棲みつく男が、時折り遠慮がちに、
ボク、もう来ないほうがいいのかな・・・
通ってくる少年が、時折り自信なげに、
そんなふうに呟くときも。
少女は謡うように、はずんだ声で応えている。
いっしょにいてね。いつまでも・・・


あとがき
少女が大人の女になったとき。
ふたりの男をふたりながら、受け容れることができるようになるのでしょうか。
もしそうなるとしても、少女は淡々と、自分を運命にゆだねるのでしょう。
よそ目には、まがまがしい関係であっても。
無責任な世間の目は、彼女の心に食い入らないだろうから。
前の記事
一夜の差。
次の記事
嫁と姑。

コメント

この少女、強いですね。

行きずりの吸血鬼を閉じ込めたのは、寂しさを紛らわす為なのか…
彼女は気遣って、そういう所は決して明かさないのでしょうね。
吸血鬼の男性、少女に高圧的な態度を取りますが
要所要所の彼の描写からは、非常に他人思いで優しい人物なのではないかと思いました。
おそらく、彼女と出会うまでは碌に血も吸っていなかったのでしょう。
彼女が本当に彼を養えなくなったとき、
彼は何も告げずに彼女の前から消えてしまいそう。
そしていつの日か、再び現れてうそぶくのでしょうね…

多くの人を惹きつける力はないけれど、
優しい人を惹きつける力が彼女にはあるのではないでしょうか?
吸血鬼以上に不思議な存在感のある少女です。

ウチの組織がスカウトしたならば、
とても強いヒーローか怪人になると思われます。
まあ、彼女にはそんな危険な連中とは出会えない運命かもしれませんがw
by アクノス所長
URL
2010-07-21 水 22:15:26
編集
言葉の花束♪
>アクノス所長様
うわ~!こんな詳しいかんそうを、頂戴できるなんて。
柏木は幸せものです。(*^^)v
表向き高圧的な態度をとる男の内面とか、
ひっそりとしたシンの強さをもった少女の性格とか、
みごとに読み込んでくださいました。

>多くの人を惹きつける力はないけれど。
>優しい人を惹きつける力がある
そういう人はきっと、寂しさと幸せと、双方をいっしょに手に入れるのかもしれませんね。

>そんな危険な連中には出会えない運命
ここのくだりに、今回のお話に寄せていただいた想いが凝縮しているように感じました。
(*^^)v
たしかに彼女なら、お誘いを受けたとき。
面白そうね・・・って、組織のことを肯定しながら。
でも私、面倒なことはダメなの。
首をすくめて、ふふっと笑って受け流すような気がします。

またのお越しを心から、お待ち申し上げておりまする。
m(__)m
by 柏木
URL
2010-07-22 木 07:29:54
編集

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