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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

いっしょに行ってあげてもいいかな?

2010年09月16日(Thu) 04:42:45

他所の土地からきたという。
あのひどく陰気な男が。
じつは吸血鬼なのだとわかったとき。
女は決然と、じぶんが犠牲になるといった。

ひと晩、吸血鬼の相手をして。
夜が明けるのを忘れるほど、夢中にさせて。
朝陽の光で、灼き尽くす。
そんな危険の大きい仕事を、
うら若い新婚妻は、顔いろひとつ変えずに、引き受けていた。
若い夫はそんな妻を、ただ黙々と見守るだけだった。

夫のいない夜の家。
開かれたドアから、忍び込んできた男は。
女の首すじに、からみつく。
伸びてくる猿臂を、女はやんわりと斥けて。
それでもツタのように絡みついてくる男の抱擁に。
いつか知らず知らず、ほだされていった。

吸いつく唇。冷たい唾液。
なにもかもが、夫いがいに許したことのない経験。
けれども女は、冷静に。
自分の血液が、夜明けまでもつように。
過不足なく、与えていった。
じらしたり。許したり。
そんなせめぎ合いを、無意識の裡に愉しみながら。

夜が明けた。
ぼうっとなった意識の果て。
一夜かぎりの情夫が、あわてて起きあがって。
もはや手遅れになったことに、絶望と・・・そして安堵の息をつくのを知った。
おまえ・・・おれと心中する気だったのか?
男は息も絶え絶えに、けれども恨みごとひとつ口にせず、女に問うた。
ええ。そうね。いっしょに行ってあげてもいいって思っていたのかも。
女もかすれ声で、男に本音を開いていた。
正気にかえるほどの想いに、はっとなったのは。
男のさいごのひと言だった―――
お前だけは、生きろ。

いまわのきわになるまで、男は女の肌を放さなかった。
己の快楽のためにだけではなく、女を生き返らせてやるために。
血を取り戻した女は、さいごにちょっとだけ、己の血を愉しませてやった。
みずみずしい素肌の舌触り、もろともに。
ありがとう―――
干からびていく男の頬を、涙がひとすじ伝い落ちていく。

あの夜から、なん年も経っていた。
女が肌身離さず身に着けているロケットのなか、秘められているのは。
あの夜の形見となった、一本の牙。
もしどうしても、というのなら。
これを己の素肌に、突き立てるがよい。
おれはすぐにでも、よみがえって。
おまえの傍らに、立つだろうから―――
夫に浮いた噂が立ったとき。
女はひそかに、ロケットの中身を握り締める。


あとがき
女を裏切ると、あとが怖いです。
女に誠を尽くすと、たまには報われることも、あるみたいです。
お気づきの方もおいでかも ですが。
なん年かまえに封切られた、”ノスフェラトゥ”という映画が、モチーフです。
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