FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

栗拾い

2010年09月23日(Thu) 19:28:47

栗拾いに行く。
それは、許された男女が逢瀬を遂げるときの合言葉。
だれもが口にしながら、知らん顔をし合っていて。
うっかり耳にしてしまったときは、聞こえないふりをしながら聞き耳を立てている。


あの子、あなたと栗拾いに行きたいんだって。
そう告げてきたのは、幼いころから姉のように接してきた女(ひと)。
相手の男の子はほかならぬ、夫の兄の長男だった。
男の子はだれもが、数えで十五になると。
女の身体を覚えてゆく。
そんな村では、近しい同士の恋路など。
ごくありふれた、日常風景だった。
そういう齢に、なったのね。
いつまでも、子供だと思っていたけれど。
妾(わたし)は初めて、二十も若い甥のことを、男として値踏みした。


妻のワンピース姿は、いつになく浮き立っていた。
夫婦連れだっての、散歩道。
暑かった陽射しはいつか穏やかに鎮まりかけていて。
憎らしいほど蒼かった空も、秋の深みを帯び始めていた。
向こうから歩いてきたのは、甥の志郎。
すぐ近所に住まう、兄の長男坊だった。
思いがけない邂逅に戸惑った少年は、ちょっと立ち止まって。おずおずとして。
それでも勇気を奮い起したように、こちらに歩みを進めてきた。
傍らにいるわたしなど、目に入らぬほどの性急さで。


なにを目あてにしてきたのかは、妾(わたし)にもすぐにわかった。
予想を裏切らない言葉を、甥は夫の前で、口にした。
あの・・・叔母さん。栗拾いにいきませんか?
上ずった声を、苦笑を押し隠してやり過ごしながら。
まだ、夏ですよ・・・
いいかけた妾をさえぎったのは、ほかならぬ夫。
約束していたの?
からかうような視線に、内心どぎまぎとしたものの。
秋になったら・・・ね。
少年が半歩退いたのを、夫婦どちらもが感じ取っていた。


わたしの脳裏をちらりとかすめたのは、女の姿をした優しい影。
その幻影を柔らかに振り切りながら。
わたしはいまわたしにできる役回りを演じはじめている。
栗拾いなら、秋とは限らないだろう?
未熟な甥っことおなじくらい、わたしの声がつんのめっているのを。
きっと妻はわかっているにちがいない。
でもせっかくだから、行ってみようかしら?
思わせぶりな流し目に、心臓の鼓動が毒々しいほど胸を衝く。

栗ならうちにも、落ちているだろ?
夫は目を細めている。なにもかも、見とおしたように。
ああ・・・そうでしたね。
妾はこんどこそ、深々と頷いていた。
じゃあ今夜は、栗ご飯ね♪
夫とつないでいた手を、脱ぎ捨てるようにすべりおとして。
甥っこの手を、握っていた。
邪魔するなよ~。書斎で調べものしているからな。
そそのかすような、夫の声。
そちらこそ、お邪魔はダメよ。
わたしは心のなかで、夫を冷やかしかえしている。

裏庭にまわってね。よく採れるところ叔母さんよく知っているの。
書斎の窓辺から、階下の声は筒抜けだった。
母屋と生け垣のあいだの、わずかな空間。
真上はわたしがいまいる窓辺だった。
あら、あら。いけない子・・・
性急な手つきに薄着のワンピースの裂ける音が、ここまで届く。
声を忍んだ息遣いがつづき、妻のものらしい呻きがひと声―――
やがていったん落ち着きを取り戻した息遣いは、さっきよりも密に重なり合ってゆく。

栗拾いに行くの?いいわよ。いつでも誘って頂戴ね。
遠い日に、そう頷いてくれた着物姿。
気負った口調を優しく補うような、いたわりと優しさがそこにはあった。
でもね、坊や。
なにかをいうときは、いわれた人の気持ちをちょっとだけ、考えてあげるのよ。
あのときまだ少年だったわたしを見返したあの女(ひと)は。
ちょうど、いまの妻ほどの齢だった。
わたしのまえで栗拾いの誘いをする少年のまえ。
久しぶりに現われた、あの懐かしい幻影。
深みを増した、青空の彼方。
少年のころにかえったまなざしは、恋しいものをなおも追い求めている。


あとがき
年上の女と初体験をした少年は。
いつか自分の妻がおなじ営みをくり返していくようになるのを、容認しないわけにはいきません。
きっとあのときあの女(ひと)も、おなじことを感じていたはず。
心のなかによみがえったあの女(ひと)は。
かつての少年にふたたび、何かを教えてくれるのでしょう。
前の記事
仲良くなる儀式。
次の記事
墓場の同居人 ~初対面の嫁~

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2201-16a0c889