FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

墓場の同居人 ~真夜中の帰宅。~

2010年09月24日(Fri) 07:40:31

真夜中の墓場に、透きとおった夜風が吹きぬけた。

きっかり一時間後だ。それ以上早くても遅くてもいけない。いいね?
あくまでお前に頼むのは、後始末だからね。
俺にそう命じた吸血鬼は、同類をふたりも引きつれて。
じゃあ行くぜ。お前の妻と娘をいただきに。
肩をそびやかして、足音を遠ざけてゆく。

同類のうちひとりは、俺よりもちょっとまえに吸い尽くされた男。
顔見知りのその男は、ちょっとだけ同情したように俺を見ると、
早く来ねぇほうが、いいって。
小声でせかせかと囁くと、すぐにあるじの後を追った。
やつのときには、帰宅が早過ぎたらしい、。
まだ食事を終えていなかった悪魔どもが。
妻や娘を相手に飽食するありさまを。
庭先の窓辺から、見せつけられるしかなかったのだから。

きっかり一時間後。
俺は、かつて我が家と呼んでいた玄関に、佇んでいた。
もう真夜中過ぎなのに、なかの灯りがこうこうと点いたままになっているのは。
住人たちがとっくに、意思を喪失していることの証しだった。
不埒な暴漢どもが立ち去った足音さえ、まだ残っているかのような。
落花狼藉の現場が、足許にあった。

妻はエプロンを腰に巻いたまま。
空色のブラウスの襟首を、真っ赤に濡らしてあお向けになっていて。
娘も制服姿のまま。
濃紺のベストにも、白のブラウスにも。紺色のひもリボンにまでも。
噛まれて撥ねかした紅いしずくを、転々と散らしている。

あたりに着いた血を、たんねんに拭き取って。
倒れた椅子。散らばった食器。
ひとつひとつ、片づけていく。
そう、我が家にはなにも起こらなかった。
なんとか取り繕おうとして。
けれども―――
血の撥ねた服だけは、
そして服の持ち主の喪失感だけは、どうすることもできなかった。

白目を剥いた、女ふたりを。
ねじった身体を、直してやって。
顔を見ないで済むように、うつぶせに寝かせてゆく。
乱れたスカートのすそを、整えながら。
ふだんそんなにじっくりと見つめることのなかった妻のふくらはぎに、目が行った。
片方だけ裂けた、肌色のストッキング。
力づくで食いついて、噛み剥がれたのだと。すぐにわかった。
俺の目つきが変わったのは、そのときだった。

まるでわざとのように、無傷で残されているふくらはぎに。
生えかけた牙を、ズブズブと埋めてゆく。
柔らかくて、しなやかな肉づきに、牙の根元まで埋め込んで。
ちゅうっ。
初めて吸いあげた妻の血は、ひどく暖かだった。

そろそろと這い寄った、娘の足許は。
白のハイソックスに覆われていた。
ひざ下まできっちりと、お行儀よく引き伸ばされたハイソックスは。
今夜の宴のためにおろしたばかりの真新しさで、
飢えた獣の目には、あまりにも目映かった。
両足とも無傷なのは、俺のためのおすそ分け―――?
つごうのよい解釈をするゆとりさえないままに。
俺はみさかいなく、かがみ込んでいって、
娘のふくらはぎに、ハイソックスのうえから。飢えた唇を吸いつけていた。
ちゅーっ・・・
ピチピチとした活力が、喉の奥にまで、満ちていった。

朝―――
なんの前触れもなく帰宅した俺のことを。
家族は無表情に、受け容れている。
妻も娘も。
うなじにくっきりと、どす黒い痣を滲ませたまま。
それすらも気がつかないかのように、朝餉の支度をし、制服に着かえてゆく。
朝ご飯ですよ
のどやかに透きとおる、妻の声は。
なにもなかったころと、寸分の変わりもなかった。
食事を採るのは、ふたりだけ。
俺は部屋の隅で新聞に顔を埋めていて。
食事がおわるころ、思い切って、呟くように。
優子は学校、休ませろ。
ハイソックスは真新しいのに替えて・・・
お前も、そうだな・・・ちょっとおめかししてみたら?
ストッキングは黒が好みだって、あの人言っていたぜ?

女ふたりは、ちょっとたじろいだけれど。
母親は、娘の欠席を告げる電話をするため背中を向けて。
娘は履き古したハイソックスをその場で脱いで、
真新しいのをぞんざいにつま先に通してゆく。
お客さん来る前に・・・パパにも一足吸わせてあげるね。
腰かけたソファのすぐ隣に身を寄せてきて。
娘はわざとのように、真新しいハイソックスのふくらはぎを見せびらかした。
かがみ込んだ鼻先を、真新しいナイロンの微かな芳香がくすぐった。
無表情に立ったまま、妻が黒のストッキングに脚を通してゆくのが。
横目にもひどく、いけぞんざいに映っていた。


あとがき
襲われて血を吸い取られて、倒れて気を失ったまま、こんどは父親・夫に吸われてしまう。
ストッキングやハイソックスごしに吸血を経験して。
妻や娘を狙った吸血鬼どもに、新たな共感を覚えた男は。
そのまま家に棲み込んで。
うら若い女たちの血の管理人として、新たな役割を果たしていく。
どうも今朝のお話は、ちょっぴりダークなのが多いですね。 苦笑
前の記事
栗拾い 2
次の記事
寄り目になるとき。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2204-11da8831