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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

栗拾い 2

2010年09月24日(Fri) 08:09:35

あの・・・栗拾いに行って来ますね。
さすがに妻も、ためらいがちだった。
栗拾い。
いまはまだ、そんな季節ではない。
これはこの土地に長く住まうものだけが識る、隠語なのだった。
一定の年齢を迎えると。少年は一人前になるための”儀式”を経験する。
相手はきまって、地元の既婚女性だった。
妻にもその番が回ってきたとき。
わたしはもちろん、否とはいえない立場。
だってだれもが、いちどは通り抜けてきた道だったから。

そろそろ順子さんにも、”お話”入るからね。
こっそり教えてくれた母の囁きは、わざと聞こえなかったかのように受け流していた。
妻の場合、すこし気の毒だったのは。
都会育ちで、なにも識らずに嫁いできたこと。
なれなきゃいけないから・・・トシ兄さんにお願いしようね。
母はそのときも、兄の名前を早口に囁いていった。
ありもしない出張を口にして、家を幾晩か空けたのは。
それからすぐのことだった。
女あしらいが昔から上手だった兄は、十歳近く年下の妻のことを、うまく手なずけてしまったらしい。
そして、うまく手なずけられてしまったらしい妻は、別人のように和やかになって。
それまで折り合いのぎくしゃくしていた姑とも、軽口をたたくほど意気が合うようになっていた。
姑と示し合わせて、夫に対する秘密をもつことは。
いまの妻なら、罪ではないと知っているはず。

”お話”が入っても。あんたには言わないよ。そういうことになっているからね。
でもきっと、順子さん素直だから、態度に出るだろうね。
態度に出ても、気づかないふりをするんだよ。
母の指摘は、いちいち的確だった。
白昼妻のことを、兄は自宅に招くようになって。
そんな兄の要望に随った日の夜は。
よそ行きのスーツを着替えもせずに、わたしの帰宅を待っていて。
夕餉のあいだもひどく、そわそわ落ち着かないようだった。
スカートをめくりあげて。裏側にしみ込んだ体液をからかってみようかと。
幾度思ってみたことか、知れやしなかった。

そんな妻が。
栗拾いに行く。
きょうは初めて、面と向かって。
あからさまなことを、口にするようになっていた。

わたしはさすがに、ちょっとびっくりした顔になって。
思わず表情に出てしまった想いを、けれども隠そうとせずに。
わざとこともなげに、おだやかに。応えていった。
―――ああ、行ってらっしゃい。先さまにはよろしくね。
栗拾いに連れがいる などと。
口にするはずもない妻に、ついよけいなことを口走っていた。
いまはまだ、秋の入り口。栗などどこにも落ちていないけれど。
女はだれしもが、親しいものに食べさせる栗を、身体の奥に抱いている。

せっかくだから、おめかししていくといいよ。
栗拾いにおめかしなんて。
尻ごみしかける妻の背中を、押すようにして、。
このあいだの法事のとき。
志郎くん、お前の喪服姿をじーっと視ていたぜ?
あのときみたいな、薄い黒のストッキング。ちょっと視てみたい気もするね。^^
あら、いやらしい。
妻は初めて、笑いを口許に含ませた。
そう、その表情のほうがいい。相手のひとに、気に入ってもらうには。
わたしはいつか、芸妓を送り出す女将の気分になっている。
じゃあ、ついでにお墓詣りも済ませて来るわ。
甲斐甲斐しい嫁の表情に立ち戻って、妻はいそいそと、自室に向かう。
黒のストッキングを片足ずつ、通してゆくの気配が。
もの音ひとつしない妻の自室から、伝わってきた。

たくさん拾ってくるんだよ。
玄関に降りて、黒のストッキングにくるんだつま先に、ハイヒールをつっかける妻に。
わたしは念を押すように、そういった。
はい。はい。
男のひとって、いやらしい・・・
ハイヒールを履くためにかがみこんだ横顔に、そう描いてある。
けれどもあたしだって、同じことか。
そんな開き直りが、サバサバとした立ち居振る舞いになって。
では。
ドアを閉めるときには、背筋をぴんと伸ばしていた。

コツコツと響く、ハイヒールの足音が。
ドア越しに遠ざかってゆくのを。
わたしはじいっと、聞き耳を立てている。
わたしだけしか識らなかった身体を、兄に教え込まれて。
その兄の子を、こんどは教えるため。
わが身を娼婦に、やつしてゆく。
裏切りではないのだよ。
ひとりの女をいっしょに愛することは、仲良くなることになるのだよ。
初めての刻を、兄嫁と過ごしたあと。
照れくさそうにそう告げた兄を思い出す。
いよいよ妻をモノにしようとする晩。
気遣って出張先まで電話をくれた兄に。
しずえは太ももが弱いんだ。ストッキングを脱がしながら、舐めてやってくれよ。
ははは・・・
受話器越しかえってきた笑いは、ひどくあっけらかんとしていて。
かつて妻を差し出した兄も。これから妻を差し出す弟も。
声を合わせて、笑っていたっけ。

妻はいまごろ、黒のストッキングをもう、脱いでしまっているだろうか―――
それともわざと破らせて、甥の昂奮をそそりたてているのだろうか―――
妻が他家に嫁に行く。
役目をひとつ果たした不思議な安堵感が。
淫靡な想像とごっちゃになって。
秋空のそらぞらしさから、わたしはいつか視界をそらしていくのだった。
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