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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

納屋で目ざめた朝

2010年11月13日(Sat) 08:22:59

目が覚めたら、そこは納屋だった。
夕べの記憶がけだるげに、眠っていた脳裏から頭を擡(もた)げる。
そう。わたしは夕方から男に連れられて、この納屋のなかへと連れ込まれて。
スーツを着たまま、藁の山へと投げ込まれていった・・・

手足や背中。
いや、身体のあちこちが。
擦り痕と疼痛を滲ませていた。
あれからどれだけ、乱れていたのだろう。
薄ぼんやりとした意識の向こうに、いまでも家で眠り呆けているであろう夫の姿を垣間見た。
あわててその姿を意識の外に追いやったわたしは、締めつけられるような体感をいまさらながら自覚する。
黒光りした逞しい筋肉に鎧(よろ)われた、丸太ん棒のような腕が。
わたしのことをぎゅうっと、抱きすくめていた。
腕の主はまだ、ぐうぐういびきをかいて、眠りこけていた。

あぅ・・・
かるいうめきを洩らして、わたしはかすかに身をゆする。
甘えるような、しなだれかかるような、自分の演じるしぐさに内心ぎくりとしてから、
もう何か月になるのだろうか。
わたしの身じろぎが、男に伝わると。
男はいつものように、反射的にビクッと身体を敏感に反応させて。
覚めきらない視線を四方に投げた。
おぅ・・・
低くくぐもった声色が、いまだ昨晩の満ち足りた熱情の名残りをとどめている。

いけない。もう八時よ。
男はぼうぜんと、わたしの声に聞き入っている。
満身で、わたしの言い草を、肯定的に受け止めていた。
ああ、そろそろ出ねぇとな。
五分刈りのごま塩頭をがりがりと引っ掻きながら、男はわたしを促して、自分も起ちあがった。
いちど起つと、男の目ざめは敏捷だった。
そこらじゅうに散らばったわたしの衣装や装身具を、ひとつひとつていねいに拾い上げてゆく。
しわくちゃになったブラウスに、藁のなかに埋もれかかったネックレス。
吊り紐の切れたブラジャーや、スリットの裂けかかったタイトスカートを拾われるのまで、
わたしは羞恥を忘れぼう然と、眺めている。
スカートのすそには、夕べ男が吐き散らかした劣情の残滓が、まだぬらぬらと光っていた。
男の束縛から解き放たれた裸形の上半身に、いまさらながら朝の冷気が沁み入ってきた。

ほつれた髪を、けだるくとりつくろいながら。
つぎつぎに差し出される衣装を手にとって、
ブラウスの袖を通し、スカートを腰に巻きつける。
吊り紐の切れたブラジャーは、もの欲しげな顔の男に、投げるようにしてくれてやった。
いつも、すまねぇな。
男は悪びれず、わたしのブラジャーを受取ると。
わざと意地汚い手つきで拡げていって、舐めたりかぶってみたりしている。
ラブホテルとは違って、シャワーも鏡もない納屋のなか。
化粧直しは、あきらめなければならなかった。
目ざめた時から身につけていたのは、伝線したまま脚にまとわりついていたストッキングだけ。
履き替えようとハンドバックに伸ばした手を、男の掌がさえぎった。
そのまま歩け。そう言いたいらしかった。

納屋を出ると、朝の光が眩しく、ふたりの姿をつつんだ。
きょうは暖かになりそうだな。
口数のすくない男に、わたしは無言の頷きで応じていた。
撫でつけた髪と、襲われる前に脱いだジャケットとが、かろうじてわたしの体面を保っていたけれど。
派手に裂けた肌色のストッキングは、泥の撥ねたふくらはぎにまとわれたまま。
わたしの身に起こったことを、正直すぎるほど暴露している。
さぁ、行(え)ぐぞ。
男は田舎ことばをまる出しにして、わたしの手を引いた。

おはようごぜぇます。遅いお帰りだねぇ。
野良着姿ですれ違った隣家の老女が、気さくな声をかけてくる。
やぁ、都会の奥さん。いつもながら、おきれいですな。
近所のご主人は麦わら帽子に軽く手をやって、いつものように礼儀正しく会釈を投げてくる。
や、や、内緒内緒。お似合いだねぇ。
散歩帰りの爺さまは、でっぷり肥えた腹をジャージのうえからさすりながら。
もの分かりの良すぎるような、いかにも好色そうな、そんなてかてかとした笑いで見送ってくれた。
わたしの情事は、公然の秘密。
裂けたストッキングをわざと替えさせなかったのも。
ほつれた乱れ髪を見せつけるように、朝まで眠りこけていたのも。
都会育ちの人妻をものにしたのだと、男が誇りたいがための指図だった。

家の玄関が、みえてきた。
さすがに男も、遠慮をしたように。
じゃ、ここで失礼するけぇ。
決まり悪げに、口ごもりながら。
だんなさんに、よろしくのぅ。
口辺に浮かんだ嗤いは、好色なものに満ちていた。
決められたしきたりどおり、わたしは丁寧に会釈を返して。
夕べは、ありがとうございました。
男に深々と、頭を垂れた。
この土地で。
夫いがいの男にひと晩愛されることは、名誉なこととされていたから。

お帰りー。
玄関越しに響く、リビングからの声。
いつもののどやかな声で、夫はわたしを迎え入れてくれた。
着崩れをしたスーツ姿に、ちらと目をやると。
胸元のはだけたブラウスや、ほつれた髪、それに裂けたストッキングまで一瞬で見取っていって。
けれどもあとは、わたしの瞳だけを視て。
お疲れさん。ちょっとは愉しめた?
声色はどこまでも、のどやかだった。

夫の生まれ故郷は、都会しか知らなかったわたしには思いもよらない片田舎だった。
辺鄙なところだから・・・と、めったによりつかなかったこの村を。
わたしたちが棲み処と定めるようになったのは。
都会の不景気が、夫にリストラを強いたからだった。
家から仕事先まで、すべてを世話してくれたのは、やもめ暮らしの長い姑だった。
逆らうこともできずに、慣れない田舎暮らしに入ったのが、ちょうど去年のいまごろだった。

はじめて、あの男の訪問を受けたのは。
夫が数日、家を留守にしたさいしょの晩のことだった。
親しい親戚づきあいをしている、という夫の言を、わたしはうたがわなかった。
長いこと、寄りつこうとしなかった郷里のことを、夫が語ることはほとんどなかったのに。
好いかっこして、おもてなしするんだぞ。スーツとかワンピースとか。
それから、ストッキングは必須だね。
夫はからかうように、わたしに指図をすると。
いつものように飄々と、家から出かけていった。
その晩。
横倒しになったちゃぶ台と畳に転がった食器を横目に見ながら。
わたしは手向かいできない男の膂力のまえ、無理強いに身体を開かされていった。
裂け目を広げたストッキングのゆるやかな束縛が、じりじりとほどけてゆくのを覚えながら。
姑はひと晩じゅう、自室から出てこようとしなかった。

夫以外の男を識らない身体に、吐き散らかされた粘液が。
そのまま、わたしの理性を痺れさせ淫らなものに堕としてしまうのに。
三晩とかからなかった。
ふたたび帰宅した夫を迎えたとき。
わたしは別の種類の女になっていた。
帰宅後の夫は素知らぬ顔で、いつものように優しくわたしに接してくれたけれど。
姑はこっそりと、笑みをわたしに忍ばせてくれた。
三晩め。
わくわくする気分を抑えかねていたわたしのまえに。
姑が用意してくれた晩ご飯は、お赤飯だった。
おめでとう。これで晴れて村の女になれたわね。
時折姑が、行き先も告げずおめかしをして出かけるわけを、わたしは初めて察したのだった。
ひと晩部屋ごもりを決め込む姑を見送ると、
わたしはウキウキと髪を整えて、お気に入りのイヤリングをつけていた。
髪をほどかれ、イヤリングを飛ばされるとわかっているのに。

男は、夫よりはるかに年配で。
もう、五十をとうに越えているはず。
さいしょは、夫の姉婿だと称していたけれど。
夫の姉は、べつの家に嫁いでいる。
おそらくは、遠い昔の秘事を、遠まわしに告げたにすぎないのだろう。
齢の差は、体力の差を示すことはなく。
むしろその道の巧みさだけを、わたしに、そして夫にさえ、見せつけていた。
まぐわうふたりの様子を。
ふすまのすき間から注がれる夫の視線が、しつように追いかけて来るのを。
わたしも男も、ありありと感じていた。
そういう忌むべき性癖すらも、いつかわたしは涼しげに受けとめるようになっていた。
今夜も、お出かけになるの?
男の腕が恋しくなったとき。
わたしは誘うような言葉と視線を、夫に投げるようになっていた。

姑が、わたしだけに・・・と、こっそりと打ち明けてくれたのは。
わたしが誘いに応じ、迎える夫のさりげなさが板についてきた頃だった。
あのひとね。あの子のほんとうの父親なのよ。
あの子が家を出て、あの子の弟がこの家を継いだのは、そういうわけだったの。
ひとの家に、自分の子をつくったくせに。あのひとには子供がなくて。
あとが絶えるしかないの。あのひとの家。
だから貴女は、あのひとの子を産んでも構わないのよ。
あのひとにしてみれば、息子の嫁を抱いているだけのことだから。
なにもかも覚ったような笑みを残して、姑は足音も立てずに部屋から消えた。
どうして、察することができたのだろう?
わたしのなか、新たな生命がひっそりと宿ったのを。


あとがき
村の因習を、ひっそりと描いてみました。
めずらしく、描くのに一時間くらいかかりました。
このごろちょっと、ご無沙汰でしたからね~ 苦笑
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おー、やっちょる。やっちょる。^^
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