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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

お願いだから。お願いだから。

2010年12月03日(Fri) 15:23:53

やだよ。やだよ・・・やだよっ!
血を吸われるなんて・・・っ

抱きすくめられた猿臂のなか。
コウイチは、激しくかぶりを振りながら。
うわ言のように、訴えつづける。
お願いだから・・・お願いだから・・・もうやめて。
ボクを家に帰らせて。
ずずっ。じゅるっ。
応えの代わりに返って来るのは、薄気味のわるい吸血の音ばかり。
人けのない夕暮れ刻の公園は。
刻一刻と、明るさと見通しを、消してゆく。
血液を喪ってゆく少年の視界を、よりいっそうに、さえぎるように。

お願い・・・お願い。。。
闇に堕ちた公園の片隅で。
少年の哀願は、まだもつづいている。
ごくごくと喉を鳴らして、生き血を嚥(の)んでいた男は、ふと身を起して。
血に濡れた唇で、からかうように笑んでいた。
ボクのお願いを聞いてあげたら・・・わしになにかよいことでもあるのかね?
言葉のつぎ穂を得た少年は、失血で息をはぁはぁさせながら。
なにかを思いつこうと、しんけんな面ざしをして。
けれども応えは、見当たらなかった。

ないよ。たぶん、ない。ボク、なんにもしてあげられないもの。
必死な声に、耳傾けて。
吸血鬼の老人は、う、ふ、ふ、ふ・・・と、笑み声を洩らす。
正直な子だね。いいんだ、いいんだ。無理しなくとも。
でもきみは、おうちへ帰ったら。私のことをママに話すのだろうね。
それはおおいに、困るのだよ。
帰さない。
応えは態度で、示されたのか―――
ふたたび噛みついてくる牙を。
少年はキュッと目をつぶって、受け容れた。

どれだけ・・・吸うの?
そんなに・・・おいしいの?
虚ろな声が、闇に吸い込まれていった。
きみのことが、気に入った。
コンクリの塀に背中をもたせかけた少年が、立て膝をするふくらはぎ。
ブルーのハイソックスのうえから、男は嬉しげな唇を這わせてゆく。
淫らなほどに、せわしげに。
ねぶりつけられてくる唇の下。
くしゃくしゃになってずり落ちてゆくハイソックスに、赤黒いシミが広がってゆく。

血が欲しくなっただろう?
でもきみは、ひとりでだれかを襲えない。
そういうときには、だれでもいい、心当たりのある大人のひとを。
この公園に、連れてくるがいい。
お礼代わりに、たっぷりと。
きみにも分け前を、はずんであげるから。
悪魔の囁きに少年は、しきりに頷きをかえしてゆく。
なにかをうわ言のように、呟きながら―――

ねえねえ、こっちこっち。こっしだってば。お姉ちゃん。
しましまもようのハイソックスの脚が、おなじ年頃の男の子よりもずっと速い走りをみせる。
少年の姉は、長い黒髪を揺さぶりながら。
濃紺のジャンパースカートの制服姿で追いかけてくるけれど。
公園の入口にたどり着くまで、弟の足に追いつくことができなかった。
ちょっとー、待ってぇ。
彼方から駈けよって来る、姉の声に。
周りにうっすらと隈を帯びた少年の目が、ふふ・・・っと嬉しげに輝いた。

ちょっとお、待って~。
言葉はさっきと、おなじでも。
はるかに切迫した響きを、伴なっている。
ブラウスの胸もとを引き締める、ひもリボンを揺らしながら。
首すじめがけて牙をむき出す吸血鬼を、拒みきれなくなってゆく。
じたばたと暴れる、真っ白なハイソックスの両脚を。
横っ面で盗み見る少年は、地面から引き抜いた花を、指でくるくるともてあそんでいた。

もぅ。
押し倒されたとき、ひねったらしい二の腕を。
庇いながら家路をたどりながら。
姉さんは口をとがらせて、うつむいている。
弟は無邪気に姉と、手をつないでいて。
そのつないだ手を、乱暴に振りながら、
ねぇ、こんどはいつにする?って、訊いている。
転んだっていえばいいじゃん。
いかにもあどけなげな、声色が。
巧みな入れ知恵を、ふき込んでいった。
ブラウスに撥ねた血を、どうしようか?
ハイソックスにしみ込んだシミを、どういいわけしようか?
姉貴の懸念を、見越したように。・

夜のとばりがおりた公園で。
ひそやかな声色が、洩れて来る。
くみ子はふしんそうに、眉をひそめた。
たしかに娘と息子の声にきこえたから。
闇の向こうを、見透かすように。
屈み腰になる、スカートの足許を。
だれかが嬉しげに目を着けたとも気づかずに。
姉さんと公園に行きます。
息子の筆跡の書き置きを、くみ子はまだ、握りしめている。

ねぇ、もっと。もっとちょうだいよ。
ダメ、ダメ、だめだったら。
せがんでいるのは、弟。
こばんでいるのは、姉。
一体何を?草むらの向こう、くみ子が見たものは。
娘の首筋に食いついて血を啜る、息子の姿―――

姉を手玉に、とりながら。
少年は謡うように、揶揄するように。
囁きつづけていった。
もうちょっとだけ、血を吸わせてよ。
気分がわるくなっても、あしたになったら治っているから。
ブラウスが汚れるくらい、いいじゃない。
お願いだから。お願いだから。もうちょっと。
ボクのお願い、きいてくれても。
いいことなんか、なにもないけどさ。

自分が血を吸い尽くされたのと、おなじ場所で。
姉に迫って、おねだりをして。
お願い、お願い・・・って、訴えて。
生き血をたっぷりと、吸い取ってゆく。
ボクのお願い、きいてくれても。姉さんいいことないけどね・・・

ボクのお願い、ママもきいてくれるんだよね?
お願いだから。お願いだから。
週にひと晩、小父さんのために黒のストッキング履いてきて。
いいことなんか、なにもないけど・・・
姉さんと交代なら、姉さんも学校休まないで、済むでしょう?
いけない坊やの、言い草に。
唯々諾々と、随う母娘。

さいしょにボクが、お手本見せるからさ。
ひし形もようのハイソックスを、ひきあげて。
カサカサの唇に、吸わせていって。
噛まれた痕に、しみ込んだ血に、薄っすら笑って。
さあ、こんどは姉さんの番だよ。
つぎは、ママがしてもらうんだよ。
女ふたりは、かわるがわるに。
色とりどりのストッキングやハイソックスの脚を。
どこのだれとも知れない男の唇に、吸わせてゆく。

お願いだから。お願いだから。
少年はきょうも、一方的なお願いを。
顔見知りの大人たちに、せがんでゆく。
断りきれないで引き入れられると。
エプロンをした友だちのお母さんも。
勤め帰りの近所のお姉さんも。
断り切れなかった少年が、血を吸い尽くされたときのように、大人しくなっちゃって。
思い思いに喰いついてくる、二人組みの吸血鬼のため、
ブラウスを汚しストッキングを破られてゆく。
そう、なにもいい見返りも、ないはずなのに。
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