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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

古屋敷の女あるじ 8

2011年01月03日(Mon) 23:36:46

小さいころは、父親はほとんど家に戻らなかった。
けれどもたまに帰ってくる父はとても優しくて、いつも静香のことを猫っ可愛がりしてくれた。
家の中でくすぶっているときでさえ、いつも毒々しく着飾っている母親は。
時おりなにかいらだたしげに、父の背後にあるものをにらみとおそうとするようだったが。
まだ幼くて幸せだったころの静香には、そんなことはさして気にならなかった。
いまに貴女は、お姫様になるの。
貴女はわたくしの、秘蔵っ娘なのですからね。
暗示をかけるように言い含める母の言葉に、素直に頷くだけの娘だった。

その後母は、父の背後にあるなにかうっとうしいものが、消え失せたという歓びに。
派手やかな装いを、いっそうけばけばしくきわだてていって。
さあ、いよいよ貴女に天使の翅が伸びるときなのよ。
いったいなにが、起きるのだろう?
引っ越した先は、大きくて広いお邸で。
そこには見ず知らずの、兄と呼ぶべきひとがいた。
母がいわゆるお妾さんで、それまでの本妻がいなくなって格上げされて、本宅に移ってきたのだと。
静香はやっと、知るようになった。
大人がだれも、教えてくれないことを。
覗き見するような好奇心が、教えてくれた。

いいところへ、連れてってあげる。
お留守のおうちに、お兄さまとふたりきりになるのは、よくないわ。
そういう母に連れ出されるままに、伴(つ)いていったのは、父の弟というひとの家。
ここも本宅に負けないほど、大きな邸宅だった。
お父さまは、会長で。叔父さまが、社長で。わたくしが、専務。
専務と社長とが切り盛りをして、うちの経営は成り立っているんだわ。
母親はいつも誇らしげに、ときには夫などなきがごとくに言い放つのだが。
叔父とふたりきりになった母は、まな娘を放り出して、なん時間も独り待ちぼうけをさせて。
覗き見するような好奇心が、ふたたび頭をもたげてきて。
視てはならないものを、視てしまっていた。
衣装をはだけて、獣のように入り乱れる、男と女。
お嫁に行くまでは、殿方に隙を見せてはなりませんよ。
そう賢しげに訓えるひとは。
自らその訓えを、裏切っていた。

結婚した後なら、いいというの?
よその男のひとに、おっぱいをまる見えにさせちゃっても。
いやらしい掌で、素肌を撫でまわされちゃっても。
清楚に装うストッキングを、卑猥な指先で引き破かれてしまっても。
けれども母親は、教訓を垂れつづける。
きちんとなさい。礼儀正しくなさい。
一生けんめい勉強をして、一流の婦人をめざしなさい。
お人形として育った静香は、お行儀がよく心を閉じたお人形のまま。育っていった。

あっ、お父さま。行って参ります。
玄関先ではちあわせをした父親に。
静香は母に訓えられたとおり、スカートの下前に、組んだ両手をお行儀よくそえながら。
礼儀正しくお辞儀をした。
首振り人形のように上下する頭の動きを、追いかけて。
長い長いおさげ髪が、ゆさっゆさっと揺れ動く。
お父さまは優しい声色で、そうっと静香の耳もとに口を寄せて。
生き血を差し上げに、伺うのだね?
ひそめた声は、母を意識したものだと、静香はすぐにそれと察した。
エエ、気をつけて行って参りますわ。
出し抜けに近づいてきた母を、視界に目ざとくとらえた娘は。
作りつけたようなお行儀のよさで、お目目をぱちぱちとさせていた。
賢い子だ。気をつけてな。
父親の送って来る意味深な視線を、さりげなく交わして。
静香は制服のスカートの下をさりげなく点検した。
しなやかな黒のタイツが、すらりとした脚を。
しっとりとした陽の光で包んでいた。

老女が自分の息子だと紹介してくれた、その小父さまは。
ひどくもの静かで、紳士的で。
注がれるまなざしの優しさは、自分のためにいくらの時間も割くことのできない父と似ていた。
そのせいか。すぐになじんで、なついていた。
小父さまの正体が吸血鬼で、若い女の子の血を嗜むと知っていたのに。
寒いからね。薄々の靴下じゃなくても良いのだよ。
小父さまのご厚意に甘えて、家を出るときには黒のタイツ。
けれどもそれは、母に怪しまれないためのカムフラージュ。
どうしてこの寒いのに、ストッキングなんかを?
怪訝そうにそういって、なんどもなんどもしつこいくらいに履き替えを勧めてくる母親が。
時にひどく、うっとうしくいとわしく思われた。
淑女を装いながら、娼婦のわざを、ためらいもなく演じる女。
その女が、あたしになにを訓えようというのだろう?

こんちはぁ。
澄んだ声色が、古びた洋館の広い玄関に、虚ろに響く。
ふつうの子なら、逃げ出しかねないほどのもの寂びた、
見ようによっては怖ろしいほど静まり返った空間を。
けれども静香は、好んでいた。
とげとげしくがなりたてる母の、嬌声よりも。
素封家の娘と知ってもの欲しげに近づくクラスメイトたちよりも。
なにもかもを拒絶したような虚ろさのほうが。
彼女にとっては数等、好ましく思えたから。
ミシ・・・
玄関の奥から洩れる、床のきしむ音。
少女はわくわくと、瞳を輝かせた。

よく来たね。きょうは来られないかと思っていたよ。
白髪頭の小父さまは、お婆さまとさして変わらない齢かっこうにみえたけれど。
親孝行のため、もらったばかりの花嫁の生き血を母に振る舞ったというその話は、
たぶん、ほんとうなのだろう。
穏やかな猫背の姿勢が、小柄にみえる小父さまを、いっそう小さく見せている。
きょうは、タイツ。なんて言いながら・・・ジャーン!
黒革の鞄から取り出したのは、封の切っていない通学用のストッキング。
母がね、寒いかっこするなってうるさいの。
そのくせお家から出かけるときには、いつも薄々のストッキング穿いているのに~。
ははは。
小父さまの乾いた笑み声は、枯れ木の木擦れのように響いたけれど。
周囲のそらぞらしいお世辞やお愛想に比べれば、ずっと暖かに感じられた。
吹き抜ける冬風にも、人の心の冷たさよりははるかに居心地が良いように。

背丈よりもはるかに高い扉を開いて。
小父さまの書斎に、おずおずと訪いを入れる。
少女は母親から訓えられたように、スカートのひざ小僧のまえで両の掌を重ね合わせて。
別人のようにおずおずと、なかのようすを窺ってくる。
小父さま・・・?どうぞ。
薄墨色に透きとおらせた向こう脛を、アイロンのきいたプリーツスカートの下から控えめに覗かせて。
猫背だった背すじをぴんと伸ばした小父さまは、別人のように快活に笑って、
セーラー服の女学生を軽々と抱き上げると、ふかふかのソファのうえに投げ込んだ。
あっ!
乱れるスカートの裾から覗いた太ももに、熱い唇が這った。
ああっ・・・!
羞ずかしげに目を伏せる少女の目線に、飢えた唇が薄黒のストッキングを唾液で濡らす光景が灼きついた。

いつもすまないね。
いいのよ。もっと・・・
母親譲りの秀でた眉をしかめて、少女は小父さまの求めに応じてゆく。
うなじに這わされた唇は、いやらしく少女の素肌を舐めつづけたけれど。
潔癖そうな眉をひそめながら、無垢な素肌を惜しげもなく、さらしていって。
穢されることを、むしろ悦ぶようにして。
卑猥に踊る舌に、初々しい肌をさらしていくのだった。

自分の身をめぐるうら若い血潮を、ぞんぶんに含んだ唇は。
膨れ上がったヒルのように赤黒く濡れていたけれど。
重ね合わされてくる唇を、少女は厭いもせずに、むしろすすんで受けとめてゆく。
かすかな口臭とともに流れ込んでくる、錆びたような芳香。
自分の血の香りにむせ込んで、母親が見たら卒倒するようなディープ・キッスを愉しげに交わしていった。

これは、いやらしいことじゃない。
ママがしているような、ただれた不倫とはわけがちがう。
小父さまは、人の生き血がないと生きられない。
わざわざ遠くから、静香の血を吸いにいらして。
静香は望みどおり、小父さまの治療のために、我が身をめぐる生命の源泉を分かち与えている。
無償で捧げる好意が、すこしでも小父さまに届くなら。
そして小父さまの苦痛が少しでも和らいで、キモチよくなっていただけるなら。
それは崇高な、介護の行為―――
老女に。小父さまに。時には兄に。
素肌を冒され、生き血を愉しまれながら。
無償で分かち与える行為に悦びを見出した少女は、きょうも兄に訴える。
ママの生き血も、吸わせてあげようよ。このひとたちに・・・
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