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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

法事の帰り。

2011年01月18日(Tue) 05:26:48

法事がおわるまでに、雨はあがっていた。
寺の本堂を出ると、ひんやりとした空気が耳もとに心地よい。
いまは、秋―――
春に都会から赴任して、もう半歳がすぎようとしている。
周囲の夫婦ものたちも、三々五々連れだって、家路についてゆく。
日ごろは野良着や作業着に身を包んだ田舎の女たちも、
足許を薄墨色に染めたきょうは、女ぶりをグッとひきたてていた。
むやみと法事の多いこの村で、もうなん回妻に黒の礼服を着せたことだろう。

寺の敷地を出るまえに。
連れだって歩く夫婦もののまえに立ちはだかる男たち。
恒例の、なんといったか―――そう、「妻おどし」と呼ばれる行事だった。
村じゅうが仲良く過ごしていることを、多少おおっぴらに示し合うためといわれたこの行事に。
夏が過ぎるころまでに、妻もわたしもなじんでしまっていた。
男たちは思い思いに相手を択び、顔なじみの夫たちにせがんで、その妻にいたずらをしかける。
夫は苦笑して見守り、妻は多少不埒過ぎる行為でも、受け容れてゆく。
本堂で隣り合わせに座っていた、あのご夫婦も―――
幼馴染に迫られた夫に促され、奥さんは喪服のすそをひいて、黒のストッキングの脚を惜しげもなく差し出して。
かがみ込んできた男は、奥さんの脚に唇を這わせ、
下品なよだれでストッキングを濡らす。
庫裏の陰に隠れていったのは、おなじ事務所で働く地元採用の若い男性。
迫っていったのはほかならぬ、彼の父親だった。
舅の求愛に羞じらいながら応えてゆく若い嫁も、たしか都会の出身のはずだった。

よう。だんなさん。
わたしたちの前を、さえぎって。
いとも親しげに、声かけてきたのは。
妻の父よりも年配の、村はずれに棲むお年寄り。
すまんね。このところ、女ひでりでのう。
まるで農作業のさい中に、このごろ日照りがつづくねぇ・・・と世間話を振るように。
レディのまえで口にすべきでないようなことを、平気で持ちかけてくる。
わたしは村のしきたりにしたがって、にこやかに応えてゆく―――
しょうがないひとだなぁ。・・・ちょっとだけですよ。

わたしに促された妻は、ハンカチを取り出して口に含んで。
おおげさなまでに、羞ずかしそうにいやいやをする。
もう~、いやですわ。あなたったらー。
まだ昼間じゃないですか。だんな様、お酒をお召しなんですの?
だんな様と呼ばれた瞬間、男はくすぐったそうにニッと笑って、
妻の手を我が物顔に握り締めると。
さ、こっちさ来るだ。仲良くすっぞ。
急に引っ張られてよろける妻を、せきたてて。
お寺の門をくぐり抜けると、近くの納屋を目指してゆく。
あわててあとを追いかけるわたしの傍ら、
顔見知りの年配の奥さんが、尻もちをついて、
黒のスカートをべっとりと、ぬかるみに浸していた。

田舎の泥道に、黒のストッキングとエナメルのハイヒールは不似合いだった。
まして、納屋のなかの藁山と、洋装の黒の礼服は、さらに不似合いだった。
ああっ・・・ああっ・・・ああっ・・
なかではとっくに、御開帳に及んでいる。
夫の役割は、ふたりの逢瀬がとどこおりなく遂げられるのを見守ることと、
道行く法事帰りの顔見知りたちに、気まずそうに会釈を交わし合うことと。
法事帰りの男たちが伴なっているその妻たちは。
だれもがいちように、黒のスカートをぬかるみで浸していた。
ご苦労さんです。
いえいえ、そちらこそ。
夫どうしねぎらい合ってはいるものの。
さっき通りすぎた若い男性は、先週の法事で妻を藁小屋に連れ込んでいた。

口許からはしたなく、よだれを垂らす妻。
そのよだれさえぬぐわんばかりにして、くまなくべろで撫でまわす男。
はだけた喪服のすき間から、レエスのついたブラジャーをちらちらさせながら。
白い肌を見せつける妻。
その白い肌を、若さを吸い取ろうとするかのようにしつように、ねぶり抜く男。
荒い息、はずませながら。男の言うなりになって。
黒のストッキングの足許を、不埒な唇の蹂躙にゆだねる妻。
応えあうほどに、獣じみた息遣いを洩らしながら、女の許すまま。
薄墨色の薄衣を、引き剥いでゆく男―――

お世話さん。いつも悪りぃね。
いえいえ、どういたしまして。
羞ずかしいわあ。あなた、また喪服が台無しよ・・・
さっきまでの痴態は、どこへやら。
妻はふたたび大仰に、受けた恥辱を恥じていた。
主人に顔向け、できないじゃないですか・・・
口とがらせて、咎める妻に。
男はぬけぬけと、
ほれ、連絡先。
手渡した紙には、携帯の番号が書かれているのだろう。
妻はぶつぶつ言いながらも、それをハンドバックの奥へと、しまい込んでいった。

今夜は浮気のお伴かな?
まあ、ひどい。
わたしの肩を妻の掌が、軽く打つ。
むらっ・・・と、きてしまった。
不意に妻に向き直ると。
喪服が台無し・・・
言いかけた妻は、だしぬけに唇をふさがれて。
背筋を伸ばして身を硬直させた。
あぜ道のまん中だからって、構うことはない。
あのとき寺で、自分の妻が転がされて、
スカートをぬかるみに浸していくのをまのあたりにした夫たちの、ほとんどは。
たいがいこういう寄り道を、愉しんでいくのだから。

真夜中。
ふとめざめて、ベッドのかたわらを見ると、もぬけのから。
ちょうどドアを細めに開いた妻と、目があった。
遅いお出かけだね。
寝そべったまま、にやりとすると。
ウフフ・・・
イタズラっぽい笑いで、すべてをごまかそうとして。
妻はモデルさんみたいに軽く腰を振って、真夜中のいでたちを見せびらかす。
昼間とは裏腹に、カラフルな幾何学模様のワンピースに装った妻。
送ってくださる・・・?
ああ、納屋の前までね。
ほてって震える掌を隠すように、わたしは運転用の手袋を手ばやく着けた。


あとがき
女ひでりでね―――
時候の挨拶でも交わすように、ただならないおねだりをする年配男たち。
お世話になりました。
頭から藁をかぶった妻ともども会釈を投げて、
貞操を蹂躙される妻を見守ってゆく夫たち。

黒のスカートにぬかるみって、妙に似合うと思いませんか―――?
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