FC2ブログ

妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

吸血鬼さんとの結婚式

2011年01月24日(Mon) 05:45:59

さして広くない応接間には、じゅうたんの上いちめんに座布団が敷き詰められていて。
そのひとつひとつには、親戚一同が正座をして、
息を詰め、なりゆきを見守っている。
「おめでとうサチコちゃん」
ど派手な色ででかでかと描かれたプラカードを背にした少女は、
よそ行きの服を自慢げに着こなして。
お腹いっぱいになるまでほおばったケーキのクリームを、ママに口許から拭ってもらっている。
それでは―――
親戚一同の頭だった男性が、改まった口調でことばをきると。
少女は初めて困ったように、白のハイソックスの脚を、もじもじさせた。

いかにもお約束な黒衣に身を包んだ、その顔いろの悪い紳士は。
少女の両親に恭しく会釈をし、少女本人の手を取って、あたかも淑女に対するように、手の甲に接吻をする。
慣れないあしらいに、少女は噴き出しそうになるのをこらえるようにして、応じていくと。
ちょっぴり決まり悪そうに、
「よろしくね」
髪の毛を揺らして、お辞儀をした。
それを合図にするように。
では―――
年ごろになりかけた少女のふさふさとした髪を、かいくぐるようにして。
少女のうなじに、触れてゆく。
初々しくほっそりとした少女の首すじは、窓から差し込む微光に、柔らかく照らされていた。

あてがわれる唇に、少女はハッと目を見開いて、表情をこわばらせた。
ちゅうっ・・・
唇から洩れる音。すき間から滴り落ちる、バラ色のしずく―――
親戚一同が、息をひそめて見守るなか。
少女の生き血は、吸い取られてゆく。
あたりをはばからぬほど遠慮会釈なく、ごくごくと喉を鳴らしながら・・・
白のハイソックスの脚を、もじもじとさせて。
メッシュ柄のハイソックスの生地がねじ曲がるほど、脚を強く踏ん張って。
けれどもとうとうこらえ切れずに、むき出しのひざを、じゅうたんの上に突いていた。
ソファからすべり落ちたか細い肩を、めいっぱい上下させながら。
初めて知る失血の衝撃に、少女はあえぎ声を洩らしている。

サチコちゃんよかったね。気絶するまで吸ってもらえて。
親戚のお姉さんは美しくほほ笑んで、少女の頬に乱れかかった髪をかきのけてやった。
美味しく飲んでいただけて、なによりですわ。
母親らしいご婦人が、娘の危難をおっとりとした目つきで、見守っていた。
お似合いのお二人ねぇ。
まるで結婚を祝福するような声色の叔母さんも。
首すじに紅い痕を、滲ませている。
だれもが聞えよがしな祝福を、口にして。
まがまがしいはずの吸血行為を、態度で受け容れてゆく。
当の吸血鬼は、稚ない獲物に夢中になっていて、返事もしなかったけれど。

小父さま、大好物に夢中みたい。二人きりにしてあげようよ。
少女よりもひとつだけ年上で、ごく最近儀式を済ませたばかりらしい女の子は、
こましゃくれたことを言って、周囲を和ませた。
女の子にせきたてられるようにして、親類の男女も、少女の両親も、わらわらと座布団のうえから起ちあがって。
声を抑えたやり取りをさりげなく交わし合いながら、リビングから出ていった。
あとに残るのは、うっとりとして天井を見あげる少女と、露骨な吸血の音―――
あらー、ハイソックスのうえから噛まれちゃってる・・・
言いさした叔母さんの声が、鎖されるドアの音にたち切られていた。
少女の足許ににじり寄った吸血鬼は、ふくらはぎを包んでいるメッシュ柄のハイソックスを。
くすぐったそうに笑みながら噛み破っていって、少女の血潮で染めていった。

親戚の男の子のひとりとして、立ち会ったその儀式―――
あれからなん年経っても、記憶も印象も鮮明なのは。
主役の少女がいまの妻だからに違いない。
あのときは、そうなるなどとは夢にも思っていなかったけれど。
それははからずも、わたしの未来の花嫁を汚す儀式にまぎれもなかったのだった。
前の記事
宴席の小部屋
次の記事
作者のつぶやき。

コメント

コメントの投稿

(N)
(B)
(M)
(U)
(T)
(P)
(C)
管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
http://aoi18.blog37.fc2.com/tb.php/2408-b292021d