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妖艶なる吸血

淫らな吸血鬼と倒錯した男女の織りなす、妖しいお伽噺・・・

妻の周辺  ~エプロン妻、ご隠居の家にお手伝いに行く~

2011年02月15日(Tue) 03:06:48

妻の洋子が、髪を染めるようになった。
以前は白い首すじを潔いほどあらわに、きりりと結いあげていた黒髪を。
栗色に染めて、肩先に柔らかく、ふわあっとなだれかかるように、流すようになった。
それから服装も、女っぽくなった。
以前は家のなかでは、そんなに服にも構わなかったのに。
スリムなジーンズに、控えめなお尻を押し込むようにして。
冬でも洗いざらしの薄紫のTシャツ一枚で、せわしなく部屋から部屋へと家事をしてまわっていたのが。
いまではひざ丈のスカートを、ひらひらさせて。
もともとの温和な気性そのままに、おっとりと優雅に、足を運ぶ。
ゆったりとした脚づかいの、ふくらはぎも。
肌色のストッキングに透きとおっていたりして。
そうじて、フェミニンに。というのだろうか、万事につけておっとりまったりと、するようになった。
まるで、働き蜂が、チョウになったみたいに、ゆったりしているのに。
家事のペースだけは、以前と寸分の狂いもないのだった。
妻の家での服装が、そんなふうに。
箱入り娘のお嬢さんそのままに、
おっとりと女らしい華をみせるようになったのは―――
そう。
村はずれのご隠居のところに、週にいちど「お手伝い」にあがるようになってから。

奇妙な風習だった。
父はわたしの留守中家を訪れて、わたしと入れ違いに、家を出てゆくそのときに。
不埒なことばひとつ投げるはずもない、わたしの妻を、じつは抱いたのだと公言するようになって。
わたしの反応に満足をすると、
還暦を迎えるまで母が自ら課していた、「お手伝い」という風習を。
他所の土地から嫁いできた妻にも、重ねるようにと言いだした。
人手の足りている旧家に出かけての、「お手伝い」は。
その家のご隠居の布団のうえで、演じられる。
その昔。
母が毎週のように、ご隠居のところに抱かれに行くのを。
父は、浮気性の夫をもつ妻が、妾のところに行く夫を見つめるような目をしながら、
こぎれいなワンピースのうえ、ご隠居の好みに合わせて真っ白なエプロンを着けた母を、
忌々しげに送り出していた。
わたしが結婚して数年、村になじみかけた妻に、目を留めたご隠居は。
若い嫁にも「お手伝い」に来るようにと、手を合わせて請うていた。

妻がはじめて、夫が出勤したあとで。
ご隠居に請われるままに、エプロンを着けて、「お手伝い」に出るという、まえの晩―――
わたししか識らない身体に、べつの男の身体を教え込むために。
狒々爺さんに抱かれるまえの身体を、父にゆだねることにしたのだった。
どうしてそんなことを、お願いしたのか。
いまとなっても、わからない。


いいねぇ。
ミチオんところは、わざわざ訪ねていくんだろ?
うちなんか、自営だから。ご隠居のほうから、足を運んで来るんだよ。
仕事しているさい中に、声聞こえてくるんだから。
まったく、仕事んなんないよ。
幼馴染のユウちゃんは、忌々しそうに舌打ちをするけれど。
けっして、いちどたりとも。
ご隠居が来るのを、追い返したことはないらしい。
いっしょにラーメンをすする、カウンターの向こう。
わたしたちよりもちょっと年かさの、ご主人は。
にこにこ目を細めて、若い衆の言い草をきいていて。
うちなんか、あそこ。
指差したところをたどる目線の向こうには、お店の隅っこの形ばかりの小あがりがあった。
落ち着かなそうだねぇ―――
ユウちゃんが顔しかめると。
わざわざ客がいるときにやるんだよ。
でもちょっとは時間、気にしてくれてさ。
お客が帰りかけて、洗いものだけになったころに、来るのさ。
もちろん周りに、見せつけるために、そうしているだけなんだろうけどさ。
そうですか。皆さんそのときは、ふだん着なんですか?
わたしが水を向けると、ふたりは異口同音に。
あー、そう。うちは仕事着だから。
女房のやつだって、いつもの薄汚れたかっぽう着ですよ―――
「いつもの」は、よけいだった。
奥から口尖らせた声が、飛んで来る。
だったらかっぽう着くらい、新しいの買ってちょうだいよ、って。
ふーん、ミチオちゃんとこ、服破られちゃうんだ。
いかにももの珍しそうな、ふたりの口調が。
胸の奥に小気味よいほど、ズキズキと突き刺さる。
その刺さり具合に、妙に浮ついた唇が。しぜんと語りだしていた。

ご隠居のところから、戻ってくると妻は。
いつも三つ指つかんばかりにして、スカートのひざを行儀よく折りたたむように、正座をして。
ただ今戻りました。って。あらたまった挨拶をする。
それからおずおずと、大きなのし袋を、戸惑うように携えて。
ご隠居様から、お小遣いを頂戴しました。
謝礼に受け取ってきた金を。いつも正直に、差し出すのだった。
ぎょうぎょうしいほど飾りのついたのし袋に、墨黒々と、
金一封
大真面目な楷書体が、起きた事実をいやがうえにも見せつける。
ああ、そう。
わたしはことさらに、淡々と。
気遣わしげな妻の目線を避けながら、
いいんじゃない?洋子が取っといて。
そういって初めて、妻は受取ったのし袋を、バッグに仕舞う。
謝礼を受け取るなんて。
はじめてのときに、わたしがそう口を尖らせると。
妻は無邪気に笑いながら、言ったものだった。
だってあのかた、ほんとうに。
わたしの着ていった服、破くんですよ~。
遠慮なく受け取った、「お洋服代」を一円残らず使って、
新調した若作りなワンピースやスーツに袖を通して、
そのうえから、真っ白なエプロンを羽織って、
ストッキングのつま先に、パンプスをつっかけると。
わたしの出勤したあとの敷居に向かって、ひと言、行って参りますってお辞儀をして、出かけていくという。

ふーん。服破るんだ。ご隠居そんな趣味もあるんだな。
奥さんの「お勤め」週二から週一に減免されたというユウちゃんが。
妙に納得したように、頷いていた。
そりゃ、洋子さんいつも、こぎれいなかっこしているんだもん。
都会育ちの、エリートだもんね。
専業主婦の妻が、エリートなわけはない。
けれども、村からちょっぴり浮いたような、都会ふうの装いが、
村の人の好奇心をそそっているのは、たぶん間違いないのだろう。

服を破られ、新しい服へと模様替えをくり返しながら。
まるで脱皮をくり返すように。
髪を染め、化粧を濃くし始めた、わたしの洋子―――
だってこのほうが、きれいでしょ?
きれいになっちゃ、だめ・・・?
小首を傾げ、華のない細目を和らげてほほ笑む妻に、邪気はない。
淡いピンクの口紅を刷いた、薄い唇も。
おっとりと構えた、身のこなしも。
まぎれもなく、わたしのものなのだと言いたげに。
そういえば、ひところ絶えかけていた、夫婦の交わりは。
妻がお手伝いに通うようになってから、いっそう濃さを増していたのだった。
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